まったく…ジードの奴め、我輩がいろいろと忙しい時に限って呼び出しおって…
しかも仲魔を連れて来いとはな…また一波乱ありそうだ…

「おっ、来た来た…おーい！こっちだ！」
「そんな大声出さんでもわかる、みっともないからやめろ。」
「こんな夫ですまないな…後で躾けておくから許してやってくれ。」
「おいおい、俺はペットじゃないんだぜ？」
「そうだな、お前はペットじゃなくて人…魔物攫いだったな。」
「会長…それって犯罪なんじゃ…」
「ジード、悪い事は言わないから清くお縄についた方が良いぞ？」
「お前ら……」

ジードのことを夫と言った女性の名はケイン、主のいない遺跡に一人でいたところをジードが連れてきて嫁として迎えていたな。
何だかんだ言って仲はとてもいいぞ、たまに性裁を下す必要があるみたいだが…

ジードで遊ぶのはこのくらいにして、さっさと本題に入るか。

「で、連れてきたがどうするのだ？」
「はじめまして、輝様の妻の琴音です。」
「輝ちゃんの正妻は私よ？あ、私はアレクシアよ。」
「…輝、お前マジか？」
「何がだ？」
「そちらのお方…魔王の娘さんですよね？」
「ええそうよ。」
「お前が魔物にモテるってのも驚きだが、魔王の娘ともいい関係だってのにも驚きだぞ……明日辺り世界が滅ぶんじゃねぇのか？」
「…輝ちゃんをなめてもらっては困るわよ。」
「え？」
「他にも共に旅をしてる方が四人いますよ…二日酔いで来れてませんが。」
「…ケイン、帰ったらベッド行くか…世界が滅ぶのは今日だったらしい。」
「いくらなんでも酷いんじゃないかそれは…後、ベッドに行くのは夕食を済ませて風呂に入ってからだ。」
「…それで、用事というのはなんだ？」
「んっ？…あぁそうだ、輝を弄るのが楽しくてすっかり忘れてたぜ。」
「こいつ…後で覚えてろよ…」

こんな所まで変わってないな…無性に殴りたくなってきた…

「こいつの事で相談があるんだよ。」
「グラムの事か？」
「いい年になった事だし、恋人の一人や二人いてもおかしくないと思うだろ？」
「普通恋人は一人なのでは？」
「なのによぉ…こいつが女とデートしてるところを一度もみねぇんだよ！」
「…どう言うことですか？」
「暇さえあればこいつの後をつけてるんだが、それらしき現場に一度も遭遇しねぇんだ。」
「ほう…貴様、仕事をサボってそんな事をしていたのか…」
「やべっ…ケイン、これには訳が…」
「お前には山ほど説教がある、覚悟しておくんだな！」

勝手に自爆したジードはほっとくとして…魔物も住んでいる町にいるのに色恋沙汰がないというのは不自然だな…
少し話を聞いてみたほうが良いか…

「実際の所どうなのだ？気になる娘がいないとかだったりするのか？」
「実はそうなんですよ…」
「何とかしてあげたいですね…」
「そうね、あの人の下で働いた疲れを癒してくれるいい娘がいないとその内倒れちゃいそうだわ。」
「…私のような者でも好いてくれる人はいるのでしょうか？」
「余程歪んでない限り心配はいらんだろう、我輩なんかでもついてきてくれる者がいるのだ。」
「励ましの言葉としてそれはどうなのよ。」

とは言っても、何をどうすればいいのやら…妻募集の張り紙でも張って回るか？
…だめだな、そんな事をしたらグラムの印象が悪くなりそうである…

「んっ？雲行きが怪しくなってきましたね。」
「本当ですね…」

琴音達の言ったとおり、空を灰色の雲が覆い尽くしていた。
帰るまで振らないで欲しいが…この分だと降りそうであるな…

「ちょっと雨具を取ってきますね。」
「いいのか？」
「会長の仕事を押し付けられるのに比べたらこれくらい何ともないですよ。」

…グラム……なんと不憫な…
我輩もジードに説教をしよう、グラムの身が心配であるしな。



「お前はやれば出来ない事は無いだろう、なのに何故ベストを尽くさないのだ。」
「くだらない事に全力を出すくらいならもっと大事な所で…」
「分かった分かった！分かったからもう勘弁してくれ！」

この反応は分かってないときの反応だな、もう一時間追加だ。

…それにしても遅いな、何かあったのだろうか？

「すみませーん遅くなりましたー！」

声のした方を振り向くと、両手一杯に雨具を持ったグラムが走ってきていた。
何事もなかったようだな…これで安心出来る。

ホッと胸を撫で下ろした直後、激しい稲光がグラムを襲った。

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ！！！」
「………なん……」

力無くその場に倒れこむグラム…我輩はその光景を目の当たりにし硬直していたが、ハッと我に返りグラムの元へ駆け寄った。
……よかった、息はあるし意識もあるようだ。

「グラム！しっかりしろ！」
「うぁ…さ、さわら…ない……ひぅっ！」

…なんなのだこれは…
雷に打たれたグラムは顔を赤くさせて悶えており、少し触れただけでも甘い声を上げている。

…雷に打たれて悶える…まさかこれは…

「ちょっと！そいつは私の獲物よ！」

そう言って何かがグラムの横へと降り立つ。

腕の部分は羽になって、足は膝から先が鳥のようなものになっているな…そして胸は平らだ。
衣服やアクセサリ等のいたるところに稲妻を模した意匠があり、尾も稲妻を連想させるような特徴的な形をしている。
そして胸は平らだ…大事なことだから二度言ったぞ。

間違う事無くサンダーバードだろう…何故こんな街中に？

「最近の人間は外に出なさ過ぎる！ただでさえ取り合いになるのに山にたどり着く人間なんて一人もいないのよ！だからこうしてわざわざ来ないといけないのよ！！」
「………苦労してるのだな…」

むしろ、外に出てないのは貴殿ではないかと問い質したいが…まぁ、面倒なことになりそうだしこのままで良いか。
さてどうするか…下手に刺激をすると我輩に飛び火しそうであるし…

等と考えを巡らせていると、ゆっくりとグラムが立ち上がった。

「むっ？もう大丈夫なのか？」
「えっ…！？な…もう動けるの！？」

サンダーバードの放電を喰らった者は相当長い時間体の自由が利かなくなると聞いているが…
ただ完全に治ったわけではないらしく、時折体が震えているな…

「…この痺れるような感覚…抑えきれない気持ち……もしかしてこれは…恋？」

…………何だって？

「あ、あの！お名前を！」
「へっ！？イ、イライザだけど…」
「イライザさん！私とお付き合いをしてください！！」

…あぁ、グラムもとうとうおかしな方向に…
イライザ殿も突然の事に固まっているな…説教中のジード夫妻も驚きのあまり目が点になっている。

「貴方の放つ稲妻に打たれた時の不思議な心地良さ…初めて獲物として見られたことへの喜び…こんな気持ちになったのは初めてですよ。」
「おいジード、お前グラムにどんな教育をしたんだ。」
「いい年になるまでは魔物を近づけさせなかったくらいだ、そんなに問題でもねぇだろ。」
「どう見てもそれが原因だ戯け者。」

つまりだ…普通の恋愛経験すらない状態で人外の快楽を与えられてそれを恋をしたと勘違いしているのか…
しかも、獲物として見られて喜ぶなんて…人の性癖にとやかく言うつもりはないが、告白としては相当レベルが高いと思うぞ…

「………ハッ！？そ、そんな見え透いた嘘に引っかかるわけが…」
「嘘ではありません、これは私の素直な気持ちですよ。」
「私は魔物だぞま・も・の！人間を襲って犯す存在だぞ！」
「貴方になら犯されてもかまいません！」
「ほら！この翼と足を見てみろ！これを見てもまだそんなことが…」
「それが良いのではないですか！このモフモフした翼に抱かれると想像しただけでご飯三杯はいけます！」
「でもでも…ひゃう！！？」

突然彼女の体が跳ね、暫く悶えた後に地面に座り込んでしまった。

「えっ…だ、大丈夫ですか！？」
「あっ……漏電して…立てな…」
「グラム、責任もってお前の部屋で介抱してやりな。」
「分かりました…抱き抱えますがかまいませんか？」
「大丈夫……私をこんなにしたんだから…責任とれよぉ…」
「もちろんです、さぁ行きましょう。」

……い、いい話なのか？

「…帰るか。」
「俺達が何もしてなくても解決しちまったしな…」
「まったく…予定が狂ってしまったではないか…空いた時間をどう使えというのだ。」
「ジードへの説教の続きで良いのではないか？」
「おいばかやめ…」
「それが良さそうだな、それでは失礼させてもらうよ…今後も家の馬鹿をよろしく頼むよ。」
「輝覚えてろよ！痛た！引きずるなって！」

仕返しもしたし我輩達も帰るか…
ふと空を見上げてみると、雲の切れ目から日の光が差し込んでいた…雨が降らなくてよかったな。

「…このまま帰るのもつまらんな、何か食べにでも行くである。」
「珍しい事言うわね…でも、たまにはそういうのも良いと思うわ。」
「輝様と一緒にいられるのなら何でもかまいませんよ。」
「私が言おうと思ったのに先に言われちゃったわ…まぁ、琴音ちゃんの言ったままの気持ちよ。」
「そうか…それじゃあ行くであるか。」

さて…この前のあの店に行くか、あそこの料理は本当に美味いからな。
…んっ？一瞬寒気がしたのだが………多分気のせいだろう。

〜今日の観察記録〜

種族：アヌビス
普段はとても理知的で真面目な魔物なのだが、本質自体はワーウルフや妖狐などとそう変わらないようだ。
想定外の事態が起きたりしてパニック状態になると、押さえ込まれていた本性が現れて非常に好色になるらしい。
そうなったアヌビスは普段の厳格さが嘘のように消え去り、愛する夫の精を注がれる事を求める雌犬になってしまうのだとか…

種族：サンダーバード
ハーピーの一種で、強力な雷の力を扱える魔物である。
彼女の雷に打たれると、非常に強い快楽を感じると共に体が痺れ、暫くの間動くことが出来なくなる。
また、口付けや性行為の際にも体内に雷を流し込むようで、彼女達の体の心地良さも相俟って成すがままに犯されてしまうことだろう…