64ページ:仲魔全員
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「まったく…あの二人は何で毎回面倒事を起こすのか…仕置きするのも大変なのじゃぞ…」
「今度は何をしたのー?」 「琴音が寝ているのをいいことに、琴音が取って置いていた菓子を食べたのじゃ。」 「そんな事があったのですか…桜花さんは琴音さんに頼まれてお仕置きをしたのですか?」 「あやつらわっちの菓子まで…楽しみにしとったしゅーくりーむ…ぐすっ…」 「一昨日ダークエルフ殿が持ってきた奴か…また貰ってくるから泣き止むである…」 やけに騒がしかったのはこういうことだったのか…あの二人も何故懲りないのか… うーん…貰ってくるとは言ったが持ち合わせが足りるかどうか…結構良いお値段してたであるし… 悩むのは後でいいか、彼女等も宴会に誘う予定であるし、酔った勢いを利用すれば割と何とかなるだろう。 「うぅ…すまんが飲み物は無いか?」 「あるぞ、ほら。」 「んっ…すまんの。」 我輩が渡したコップを受け取り、中身を飲み始めた。 そして、勢いよく噴出してせきこんだ。 「げほっ!げほっ!……輝!何じゃこれは!?」 「何って普通の酒だが…」 「師匠…昼間から飲んでるんですか?」 「今日は酔いたい気分であったからな…早めに飲み始めておけば宴会までには酔えるだろうと…」 「人一倍酒を飲む割には全員潰れても素面のままだったでは無いか…」 「………一度でいいから酔い潰れてみたいである…」 「そうなったら膝枕してあげるねー。」 「とりあえず、師匠が昼間からお酒ばかり飲んでいたと琴音さんに伝えてきますね。」 「やめてくれ…我輩はまだ星にはなりたくないぞ…」 「だったら控えめに飲めば良い話じゃろうに…」 むぅ…反論しようにも、桜花の言っている事の方が正しいから反論が出来ん… とは言っても、我輩を酔わすほどの強い酒が見つからないと言うのも事実…悩んだ末の結果がこれなのである。 これが駄目だとしたら、他に手はなさそうであるな…諦めるしかないか。 等と考えていると、何者かが我輩の元へとやってきた。 何気なくそちらに視線を向けたが… 「ふふふ、またお会いしましたね。」 「見たことのある後姿だと思ったが貴様だったか…」 …………なぬ? 一人はこの前の襲撃者の女性…もう一人は以前出会った謎の女性… 何故この二人が一緒に… 「…昨日感じたものの片鱗を彼から感じますね。」 「ふむ…やはり貴様は只者ではないな、上が目をつけるだけはある。」 「いろいろと聞きたいことはあるが…貴殿等は何者なのだ?」 「…そう言えば名乗っていませんでしたね…」 「私もだな…ちょうどいい、ここで名乗ってしまおうか。」 「私の名はアルマ、人々からは勇者と呼ばれていますわ。」 「私はセレンだ…姉者に同じく勇者などと呼ばれている。」 …えっ?この二人姉妹な上に勇者だったの? だからやたらと強かったのか…妹でこれだったら姉はどれほど強いのか… …というか、我輩は教団に勇者を送り込まれるようなことはしてないはずなのだが… 「はじめは驚きましたよ…勇者を蹴り飛ばした挙句武器を奪って行き、最終的には共闘する変わり者がいると聞かされた時は…」 「貴様を生かしていたのは私の気まぐれだ、貴様なら…私の渇きを癒せるような気がしたからな。」 勇者を蹴り飛ばす………ヴァンパイア姉妹の城を爆破した時のあれか。 やはり蹴るのは不味かっただろうか…こっそりと拝借すればよかったな… 「それはいいとして…この辺りで強力な力を持つ魔物を見かけませんでしたか?」 「強力な…あぁ、昨日うちの琴音が九尾になったである。」 「あのときの稲荷か…そいつは今何所にいる?」 「我輩の部屋にいるが…今は行かない方が…」 「危険因子は排除せねばならん…誰かに恨まれようとな…」 そう言って戦斧を担ぎ、階段を上って行ってしまった… …大丈夫だろうかセレン殿…今の琴音は凄く機嫌が悪かった気がするのだが… 「…あの子は…本当は優しい子なんですよ。」 「そうなのか?」 「言葉遣いは少々乱暴ですけど、決して相手の命を奪うようなことはしないんです。」 「…………」 「あの子も私も、魔物が人を殺し喰らう存在ではないと知っていますから…」 彼女の目は、どこか遠くを見つめているようだった… 「…我輩は貴殿等に何があったのかは知らないし、聞く気もない。」 「…そうですか。」 「だがな…」 懐から瓢箪を取り出し、アルマ殿に差し出す。 「酒になら付き合える、気が済むまで相手をしよう。」 「…ふふっ、やはり貴方は面白い人ですね。」 アルマ殿は瓢箪を受け取り、中身を豪快に飲み始めた。 …割と強い酒なのだが大丈夫か? 「ぷはぁ…美味しいですねこのお酒。」 「我輩の故郷の味である…気に入ってもらえたのなら何よりだ。」 返された瓢箪の軽さに少し驚いたである…随分と飲んだのだな… 普通の人間だったらいろいろと不味い事になるのだが…見た感じでは何ともないな。 流石勇者と言うべきか…元々酒に強いと言う可能性もあるか。 「ふふふ、なんだか気分がよくなってきました。」 「それはよかった…って、何故抱きしめる。」 「抱きしめたい気分だったので。」 …いかん、普通に酔っ払ってるである… と言うか振り解けん…力の強さが尋常じゃない… 「ご主人様をとっちゃだめ!」 「師匠も顔を赤くしてないで抜け出してください!」 「無理だ…ドラゴンが可愛く思えるレベルの力だ…」 「…一緒に抱きしめればいいのではないでしょうか?」 「ふむ…そうじゃな、取り合いはよくないしの。」 …なんだって? 「むぅー…負けないよ!ご主人様は私のことを選んでくれるもん!」 「師匠は私と一緒に修練をするんですよ!その後はベッドの上で…ふふふ…」 「たまにはわっちに譲ってくれてもいいじゃろう?わっちだって甘えたいときはあるのじゃ。」 「あらあら…人気者ですね輝さん。」 この状況を作った元凶は微笑みながら我輩の頭を撫でている…畜生、何微笑んでいるんだ揉むぞ… と言うか、朝っぱらから何をやってるんだ我輩達は… 周りの客の視線が凄く痛い… 「ケッ…朝っぱらからイチャイチャしやがって…」 「一人もんの俺達への嫌がらせか?」 「畜生…モテる男なんて全員もげちまえ!」 「店長!酒だ!ありったけの酒をもってこい!」 「俺も同席させてもらう…飲まねぇとやってられん…」 「…あなた、私我慢出来なくなっちゃったから…シよ?」 「待て早まるなせめて部屋に…むぐっ!?」 ………あ、どうしようもないなこれ…空気で分かる。 「それでは…琴音の九尾化を祝って…」 「「「乾杯!」」」 いろいろとあった後、無事に宴会を始めることが出来たである。 えっ?いろいろって何かって? …あんな地獄を思い出したくないである… 「…何故私達を誘った?」 「仮にも貴方達と私達は敵同士…なのに何故…」 「酒は楽しく飲むものだ…敵か味方かなんて些細な事を気にしてたら楽しく飲めんだろう。」 「輝ちゃんの言葉を借りるなら、美味しく酒を飲める奴に悪い奴はいない…ってことね。」 「やはり貴様は変わった奴だ…」 「えぇ、輝様は胸が大好きな変態さんですから。」 「勘弁してくれ…さっきのは不可抗力だったのだ…」 勇者なら兎も角、我輩は何所にでもいる貧弱な一般人だぞ…あの状況で抜け出せと言われても無理だとしか言えん。 その後、自室へと移動したら抱きつかれてるのを琴音に見つかって…後は想像力の逞しい読者諸君なら察してくれるだろう… 「それにしても…九尾の稲荷に魔王の娘のリリムに刑部狸に龍…さらにはダンピールとホルスタウロス…よく体がもちますね…」 「琴音とミィナのおかげで余程の事がない限り足腰が立たなくなることは無いし、桜花とリシェルはある程度加減してくれるからな。」 「ん?他の二人はどうなんだ?」 「どちらも容赦が無いな。」 「だって…輝ちゃんと繋がってると思うと嬉しくなっちゃって…」 「なんだかんだゆうても輝はん分け隔てなく皆愛してくれとるしな…輝はんのそうゆうところうちは大好きやで。」 むぅ…面と向かって言われると恥ずかしいな… あー…今の自分の顔を見たくない…確実に赤くなってるだろうし… 「…何年ぶりだろうな…こんなにも気持ちよく酒を飲めたのは…」 「忘れてしまいましたよ……これが初めてかもしれませんし、そうでないかもしれません…」 「まだ酒が足りないようだな…もっと飲め!」 「んぐぅ!?…んっ…むぅ……」 照れている事を悟られないように強引に酒を飲ませる…しんみりしてたしちょうどいいだろう。 「くっ…貴様!いきなり何をする!」 「酒は楽しく飲むものだ!飲んで騒いで楽しんでこその宴会だろう!」 「…そうですね、でしたら私達も遠慮なく飲ませていただきます。」 「…私にだけ飲ませて貴様は飲まない何てことは無いだろう?」 「もちろんだ、我輩を酔い潰すくらいの勢いで来るがいい。」 「いいだろう、貴様を酔い潰して持ち帰ってやろうじゃないか。」 「お二人とも程々にしてくださいね…あと、輝様は渡しませんよ。」 先程までの暗い雰囲気は無くなり、心の底から楽しんでいるように見える勇者姉妹。 こうして見ていると、どこにでもいる仲の良い普通の姉妹に見えるな… 彼女等の過去にどんな辛い事があったのかは知らない… 我輩達と酒を飲むことで少しでも笑顔になってくれたなら…それ以上に嬉しい事はないな。 〜今日の観察記録〜 特に書く事はない…だが、いつの間にか凄い事になっているであるな。 よく今まで暴走せずに来れたな…これも、皆が協力的なおかげだろう。 まだまだ我輩の旅は続くからな…これからも皆には迷惑を――― 「なに終わらせようとしているんだ?まだ始まったばかりだろう?」 いやぁ…楽しい宴会だったであるな… 宴会を始めて約一時間後…ミィナと桜花と弥生は完全に酔い潰れ、他の者達はかなり出来上がっていた… …特に、勇者姉妹が酷い… 「輝ぁ!私の婿になれ!そうすれば何もかも手に入るぞ!」 「大変魅力的な話だが断る、自分の手で掴み取ったものこそ真の価値があるというものだからな。」 「それでは私の夫になりましょう、世界を旅して強き者と拳を交え、様々な経験を積む…貴方にぴったりですよ?」 「戦う事を目的とした旅ではないからな…それも遠慮させてもらう。」 「ほう…私の求婚を断るか…まだ酒が足りんようだなぁ?」 「それはいけませんね…貴方だけ酔ってないなんて不公平ですよ?」 酒瓶を手に持ちじわじわと詰め寄ってくる勇者姉妹… 後ずさろうとした時に何かにぶつかり、ぶつかったものが我輩を拘束してきた。 「あひらしゃま…よっへらいらんへらめれしゅよ…」 「いけない子ね輝ちゃん…お仕置きが必要かしら?」 「輝さん…一杯鳴いてくださいね?輝さんの可愛い声を沢山聞かせてください…」 不味いなこれは…どうにかして逃げ出さないと… 「すまん!ちょっと用事を思い出したから行くである!」 「あらっ?抜けられちゃったわ…」 上手い事抜け出せた!後はこの部屋を出れば…! …まぁ、現実はそんなに甘くないわけで… 「よしこれで!…うおぁ!?」 ドアを開けた直後、足に何かが絡み付いて思いっきり転んでしまった。 これは…鞭? 「逃がしませんよ輝さん…」 「ほう…やるじゃないか。」 「輝さんに使い方を教わったんですよ…こんな所で役立つとは思っていませんでしたけどね。」 ふむ、我輩の教えた技術が役立ってくれたか。 師としてこれほど嬉しい事はないだろうな…弟子の成長は師の成長でもあるからな。 …なんて言ってる場合じゃぬぇ!このままでは非常に不味い! ……むっ!?ちょうどいいところに人が! 「うわっ!?な、なんだ!?」 「すまん!助けてくれ!このままではいろいろと危険なのだ!」 「…!これを使え!」 旅人風の男が、我輩の方に向かって液体の入った瓶を投げてよこした。 これを使えば何とかなるのだろう…ありがたい! 「何々…………精力剤?」 「……頑張れ!」 「ちっっっがぁぁぁぁう!我輩をここから逃げさせて…あああぁぁぁぁぁ!」 ずるずると引きずりこまれて行き、目の前でドアが閉められる… 恐る恐る振り返るとそこには、極限まで飢えた肉食動物のような目で我輩を見る仲魔と勇者姉妹の姿があった… この後何が起きたかはご想像にお任せする… ただ、勇者姉妹とはヤってないとだけ言っておこう…ヤってしまうといろいろ不味いということらしい… …姉妹に挟まれた時はいろいろな意味で危なかったである… 明日が怖い…出来れば目を覚ましたくない…
13/04/25 20:29 up
DL
ナニが起きたのかを想像できた人は1D10のSANチェックを(ry 体調次第では次週更新できるか怪しいです…バフォ様の肉球をむにむにしてゆっくりとお待ちください。 白い黒猫 |