62ページ:ダークエルフ・ローパー
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「んんー…ふぅ…今日も良い天気であるなぁ。」
DL
調合材料やら日用品やらを入れた袋を手に町を歩く我輩。 弥生から買うと、金の変わりに体で払う事になってしまうので買わない…つい最近絞り尽くされたばかりであるし… 「しかし…腹が減ってきたな…」 面倒だから朝食は取らずに来たが…流石に食べてきた方が良かったであるな… 宿まで我慢出来ないわけではないが、何か美味い物があれば食べて行くか。 等と考えながら歩いていると、何所からか食欲をそそられる良い匂いが漂ってきた。 それと同時に我輩の腹がなったである……き、聞かれてない…よな? ……… 「…やはり我慢はよくないであるな、うむ。」 琴音に怒られそうだが…食欲には勝てないである… 我輩の意志が弱いのではないぞ?こんな良い匂いがしてきたら誰だって我慢出来なくなるはずである! …ここか。 ドアの横に看板があるな……ふむ、飲食店で間違いは無いようだ。 持ち合わせは十分あるし、ちょっと寄ってみるであるかな。 「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」 「一人である。」 「畏まりました、此方のお席へどうぞ。」 店内には人間魔物問わず多くの客がいるな。 我輩を案内してくれている女性も、手にもったトレー以外にも多くのトレーを持っている……触手のようなものでだが… 多分、彼女はローパーと呼ばれる魔物だろうな。 そう言えば、ローパーの触手は受けた刺激を快楽として本体に伝えるというのを聞いた事があるが…流石に触ったら不味いだろうか…? 「ご注文はどうされますか?」 「ふむ……おっ?」 特性ソーセージサンド…どんなものだろうか? まぁ、頼んでみれば分かるだろうな。 「これを頼めるか?」 「はい、少々お待ちくださいね。」 そう言って可愛らしく微笑みながらメモを取り、店の奥へと下がって行った… 待ってる間が暇であるな……本でも読んでおくか。 今日は何を読むか…『世界の武具事典』…これはこの前も読んだか…… …よし、『モフモフ肉球娘〜遭遇から子作りまで〜』これにしよう。 …別に如何わしい目的で読むわけではないぞ?後学の為に読むから問題ないのである…多分。 「店の中で如何わしい本を読むのはやめなさい、私みたいな魔物に食べられちゃうわよ?」 何者かが我輩の本を取り上げて読み始めた…が、興味のある内容でなかったのかテーブルの上にそっと置いた。 褐色の肌に長く尖った耳、露出の多い皮製の衣服、腰につけられた鞭… 尻尾や羽は見当たらないな……多分ダークエルフだろう。 「それとも…食べられたい願望でもあるのかしら?」 「そんなものは無いが、貴殿のたわわに実った胸には興味があるである。」 「そう?堪能させてあげてもいいわよ?」 「高く付きそうだからやめておく、今は食事が楽しみたいであるしな。」 「あら残念…それなら、出来上がるまで少し待ってなさい。」 そう言うと、軽く腰を振りながら奥へと行ってしまった… この店の関係者だったのか…我輩には関係の無いことだが。 「ここをこうするとこの効果が付加されるか…じゃあここはこうか?……むぅ…だめか…」 待っている間の暇潰しにと、剣に魔法をかける為の術式を考えていたが…我輩には難しすぎるである… 浪漫双剣は扱いが難しい分、使いこなせれば大いに役立つ…故に、これだけで多くの事が出来る様に試行錯誤を重ねているが、残念ながら進展は無い。 えっ?先ずは刃を短くしろ?それを削るなんてとんでもない。 っと、そうこうしている内に先程のローパーが触手一杯にトレーを乗せて出て来たな。 その内の一つに、大きなソーセージと色の濃い野菜が挟まれた細長いパンが乗せられたものがあるのが見えた。 …非常に美味しそうなのだが……ソーセージの形がやや卑猥なのは何とかならなかったのだろうか? 「こちらハッピーシュークリームになります……お待たせいたしました、アルラ・ミードです……ご立派サンドです、ごゆっくりお楽しみください。」 ふむ、いろいろなものがあるのだな…滞在中にある程度食べ比べなんかをしてみてもいいかも知れん。 …だが最後のはちょっとまて、形といい名前といい直球過ぎるぞ。 「後は…これだけかな…」 「おい、そこのあんた。」 彼女が我輩の元へ来ようとしている途中、近くの席に座っていた男が強めの口調で彼女に話しかけた。 「料理の中に石が入ってたんだがどう言うことだこれは?」 「えっ!?も、申し訳ありません!直ぐに代わりの物を…」 「石入りのもんなんか食えるか、穏便に済ませたいなら金を払え、な?」 「そ、それは…」 …何やら不穏な空気であるな…周りの客も、食事をやめて事の成り行きを見守っているである… 「もういい、店長呼べ店長。」 「で、ですから…」 「さっさと呼べよ!痛い目に遭わされたいのか!?」 男が強くテーブルを叩き、それに驚いたローパーが持っていたトレーを落としてしまった。 トレーに乗せられていた皿が床に落ちて割れ、乗せられていたパンが床を転がり埃塗れになる… ローパーは今にも泣き出しそうな怯えた表情で、逃げ出すかのように店の奥へと走って(?)行った。 ………さてこの男…どうしてくれようか… よし、昨日アークインプに教えてもらった持ち物をこっそりと頂く方法…窃盗の練習台にしてやるか。 …何?窃盗は犯罪だって? 気付かれなければ問題は無い、命は助けてやるんだからまだ有情な方である。 問題は隙が出来るかどうかであるが…む? 「あの人がその客ね?」 「はい…」 「ほう、あんたが店長か。」 店の奥から先程のダークエルフとその陰に隠れるようにローパーが出て来た。 …ふむ、これは使えそうであるな。 「貴方ね?料理に石が入ってるなんて言い出したのは。」 「疑ってるのか?だったらこれを見てみろよ!」 今が好機だな、さっさとやってしまおう。 さてどんなものを持って…持って…? …こいつ…めぼしいもの何も持ってねぇである… あったのは石の入った袋くらいであるが何でこんな物を……ん?石? まさかこいつ…自分で石を入れたのか? 探ってみたが金も持ってないであるし…確定だろうな。 …窃盗はやめだ、普通に臭い飯を食ってもらおう。 「…入ってるわね、調理して盛りつけた時点では入ってなかったはずなのに…」 「払うもん払うんなら黙っておいてやってもいいぞ?ん?」 「店長……」 袋の底に穴を開けて…針と糸で止めずに塞いで…これでよしと。 後は、タイミングを見計らって糸を引っ張れば中身が盛大にぶちまけられる事になるな。 「…もしかして貴方…わざと石を入れたりしてないでしょうね?」 「あ?そっちに非があるってのに俺を疑うのか?」 「あくまで確認よ?そんなに熱くなってちゃ女の子にもてないわよ。」 「ふざけんじゃねぇよ!大体、俺が入れたって証拠は何所にあるんだよ!?」 ダークエルフの態度に怒った男が拳をテーブルに叩きつける。 それに合わせて糸を引くと塞がっていた穴が開き、袋の中から無数の石が零れ落ちた。 固まる男、黒い笑みを浮かべるダークエルフとローパー、獲物を手にゆっくりと立ち上がる他の客、瓢箪を取り出し中の酒を飲む我輩。 うむ、物凄く酒が美味いな…クックックッ… 「証拠…ありましたね。」 「ふふふ、こんな舐めた事してくれたの貴方が初めてよ。」 あの男はもうだめであろうな、食い物の恨みは恐ろしいであるから。 「フッ、今日の所はこれで勘弁してやろう…さらばだ!」 「あいつを捕まえなさい、捕まえた子には素敵なご褒美をあげるわよ。」 逃げ出した男を捕まえようと客が飛び掛るが、異常なほどの速さで客達を避けていく。 このまま逃がすのもあれであるし、止めるだけ止めるか。 「あう…追いつけないです…」 「はっはっはっ!遅過ぎて止まって見え…」 男の進路上目掛け、双剣の片割れを投げつける。 咄嗟の事に驚いたようだが、刃が首に当たるギリギリの所で踏み止まれたようだな…残念だが、一瞬でも止まった時点で貴様の負けは確定である。 後ずさりしようとした男の直ぐ後ろにもう片方を投げつける。 前にも進めず後にも引けなくなった男は、小さく震えながらゆっくりとこっちを向いた。 それに合わせて刀を抜き、男の頭目掛けて思いっきり投げつけた。 「……………はぁ…最近では振るうより投げる方が上手くなってしまってるであるな…」 「ひっ…ひひっ……ふひっひ…」 刀は男の頭を掠めつつ、壁に深々と突き刺さった。 もちろん、掠った部分は毛が無くなっているぞ、逆モヒカンであるな。 そんな事になった逆モヒカンは、泣いてるのか笑っているのかよく分からない声を発しながらその場に座り込んだ… それと同時に男の又の辺りに染みが出来、大きくなっていくと同時に男の足元が水浸しになっていった。 …股下に向かって投げなくてよかった…投げてたらいろいろと悲惨な事になっていたぞ… っと、汚れる前に回収しておこう…奴の靴は…手遅れか。 「中々やるじゃない。」 「それほどでもない…後、奴の靴を脱がせておいた方がいいぞ。」 「……なるほどね、分かったわ。」 そう言うと、放心状態の逆モヒカンを引きずって店の奥へと行ってしまった。 自業自得なのだろうが…少しだけ可愛そうになってきたである… 「あ、あの…」 「む?どうした?」 落ち込んだ様子のローパーが話しかけてきたが……もしかして、無意識に何かやらかしてしまったのだろうか? 「ご…ごめんなさい…料理を落としてしまって…」 「…ふむ…」 先程のパンはまだ床に転がっているな…… ……意地汚いと思われるかも知れんが、せっかくの料理を捨てるのももったいないだろう。 我輩はパンを拾い上げ、丁寧に埃を払って口に運んだ。 「えっ!?き、汚いですよ!?」 「…問題ないな…むしろ、汚れが気にならないほどに美味い。」 「え?…あ…その……あ、ありがとうございます!」 口の中がじゃりじゃりなって気にはなるが、味は十分過ぎるくらいに美味い。 特にソーセージ、肉汁がたっぷりなのにくどくなく、ほんのりと甘いである。 むぅ…上手く表現できないのがもどかしいである…だが美味い…むむむ… 「代金はここに置いておく、ご馳走様だ。」 テーブルの上に多めに金貨を置く…壁に穴を開けてしまったしな。 腹も膨れたであるし、帰ってから研究でもするかな。 店を出ようとドアに手をかけた瞬間、細長い何かが我輩の首に巻きついてきた。 「言った筈よ?捕まえた子にはご褒美をあげるって。」 「いやー…我輩はこれからやらねばならんことが…」 「そんなの後でいいじゃない…あ、今日はもう店じまいよ。」 「その…ふ、不束者ですが…」 奥へと引きずられる我輩、遠くなっていくドア、ニヤニヤしながら我輩を見つめるほかの客…どうしてこうなった… …研究の続きは明日になりそうであるな…はぁ… 〜今日の観察記録〜 種族:ダークエルフ 以前に遭遇したエルフの一種で、褐色の肌と尖った耳が特徴的な魔物である。 気が強い魔物で、人間の男性を快楽によって屈服させる事を好んでいるようである。 頭の固い森エルフとは仲が悪いらしく、頻繁に争っているようだ… 種族:ローパー 人間の女性に魔物が寄生し、一体化して生まれる魔物らしいな。 上半身は人間の女性のものだが、下半身はスライムの様なぶよぶよしたものになっており、そこから複数の長い触手が生えているである。 未だに正確な情報が出ておらず、詳細な事はわかっていない謎の多い魔物である。 「ただいま…けふっ…」 「随分遅かったの?」 「師匠、ご飯何食べますか?」 「いらない…というか、暫く固形物を口にしたくない…」 「輝様…体調が悪いのなら休まれたほうがよいのでは?」 「そうする…」 「…弥生ちゃん、あんまり輝ちゃんを酷使しちゃだめよ?」 「うちはそんなことせえへんって…ギリギリを見極めてるから。」 ……全メニュー口移し 支払いは体でって言うのは辛すぎる…これじゃあご褒美じゃなくて拷問である… 後で弥生に胃薬を分けてもらおう…うぅ… |