60ページ:リザードマン
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読者諸君、貴殿等は健康に気をつかっているだろうか?
DL
………なるほど、よく分からん。 どんな答えだったとしてもちゃんと健康に気をつかい、体を大切にしてやらないといけないであるぞ。 何でこんなことを話しているか…そろそろ読者諸君等も予想できるようになってきているだろう。 「…かわいそうな輝ちゃん…指一本動かせないくらいに疲れきっちゃって…」 「どうして…どうしてこんな事に…」 「終わって意識を失いかけている所を無理やり起こして搾り取れば誰でもそうなるわ、この戯けが。」 「アレクシアさんもリシェルさんも、ご主人様を大切にしないとメッ!だよ。」 まぁ、ごらんの有様だ。 昨日の夜のことは覚えていない…思い出したくない… ちなみに、今はミィナのミルクを直飲みさせられつつ、桜花にしっかり巻きつかれているという状況である。 「そ、それなら琴音ちゃんや弥生ちゃんにも非はあるわよ!」 「琴音はわっち等よりも輝と過ごした時間が長く、離れていた時間も長い…少しでも輝と一緒にいたいという気持ちがあったのじゃろうから仕方が無いじゃろう。」 「弥生さんは?」 「問答無用でお仕置きじゃ。」 牧場の主殿が言っていた事は本当であるな、直飲みだと普通に飲むよりも格段に美味いである。 その上、飲んでる間はミィナが頭を撫でてくれるというおまけまでついている…素晴しい。 そのまま寝てしまおうかと思っていたとき、突然ドアが力強く開けられた。 「見つけたぞ!今日こそは私と勝…負……」 昨日のリザードマンか…そんなに我輩なんかと戦いたいのか。 しかし…入り口で固まってしまったがどうしたのだろうか… 「えっ…魔王様の娘様にホルスタウロスに見たことの無い魔物が四人に昨日の女…えっ?」 「混乱してるわね。」 「むしろ、今まで出会った者が変に落ち着いてる奴等ばかりだっただけで、普通だったらこういう反応をするであるぞ。」 「ふふっ、不潔だ!貴様そこに直れ!切り取ってやる!」 「あら、そんな事したら輝ちゃんの子供が産めなくなっちゃうじゃないの。」 「争いは嫌いじゃが…輝を守るためなら仕方があるまい…」 「両方とも落ち着くである…あと桜花、かなり苦しいである。」 「むっ…あっ!す、すまぬ!」 もう少しで夢の中へ旅立つ所だった… っとまぁ、そんな事はどうでも良いとしてだ。 「何時までも逃げ続けるわけにもいかんだろうしな…挑戦を受けよう。」 「やっと戦う気になったか…私の剣で矯正してやる!」 「ただしだ…条件がある。」 「…なんだ?」 「仮に我輩が貴殿に勝ったとしても、我輩は貴殿の夫にはならないである。」 「なんだと?」 「…正直これ以上はしんどいので勘弁してください割りと真面目に。」 「………わかったから…土下座はやめてくれ。」 よし、これで心置きなく戦えるな…恥を捨てた甲斐があったというものである。 「一時間後に宿の前の広場に来い。」 「何故街中なのだ?」 「お前が逃げ出さないようにだ。」 「信用が無いみたいであるな…」 「あれだけ逃げておいて何をいまさら…持てる力を全て使ってかかってこい。」 それだけを言い残し、彼女は部屋を後にした。 「ご主人様負けないでね!」 「正攻法で挑まなければ我輩に負けは無い…だが、そこまでして勝つ理由が無いから普通に行かせて貰う。」 「それで、どうやって戦うつもりかしら?」 「道具を使わずに持ってる武器全部を使い分けるである。」 「そんな事も出来るんですか師匠!?」 「気合で何とかするである。」 いつでも取り出せるところに仕舞っておければ、大体は何とかなりそうであるしな。 どうやってあんなでかい物しまってるのかって?鉄一族…というよりも、父上の考案した独自の収納術のおかげである。 それでもって行く武器だが…刀とパーと浪漫双剣と…弓は今回はいいか。 …剣ばかりであるな…暇な時に別の物も作っておくか。 「輝ちゃん、そんな装備で大丈夫なの?」 「大丈夫だ、問題ないである。」 「なんだか不安じゃが…気をつけるのじゃぞ。」 「頑張れご主人様!」 「うむ…いざ参らん!」 いつものマントを羽織り、装備の確認をしつつ部屋を出る。 勝てるかどうかは分からんが…まぁ、全力を出すとしよう。 「……何でこんなに人がいるのだ?」 「町長に決闘するから広場を使いたいと言ったら、観戦してもいいなら使って良いと言われてな。」 「そうか………んっ?」 ふと、観客…じゃなくて野次馬の方に目を向けると… 「はいはーい、どっちが勝つか賭けたい人はうちに言うてなー…ちなみに、払い戻しはリザードマンが1.5倍で輝はんが3.0倍やでなー。」 弥生…なんて事をしているのだ… ……んっ?我輩の方を見て笑った? …………はぁ…後でお仕置きするか。 「賭けられているな。」 「うちのお馬鹿が迷惑をかけてすまない…」 「気にしていない…それよりも、そろそろ始めようじゃないか。」 「そうであるな…簡単には負けんぞ?」 「……むっ…その剣はまさか…」 最初に使う武器はもちろんこれだ。 「その意匠と輝き…まさか伝説の…?」 皆大好きエクスカリパーである。 前は輝いてなかったが、アレクシアに魔力の籠め方を教わって実践してみたら何故か輝いたである。 まぁ、見掛け倒しなことに変わりは無いがな。 「では…行くぞ!」 「くっ…!」 間合いを詰めようと走る我輩に向かって彼女の剣が振るわれる。 当たる寸前に姿勢を低くして避け、彼女の腹部を斬りつける。 「っ!……あれ…痛くない?」 動揺した隙に二度三度と斬りつけて行くが、相手は全く避けようとしない。 流石にばれるだろうな、エクスカリパーだし。 一応演技もしておくか… 「くそっ…伝説の武器のはずなのになんで…」 「もらった!」 「ぐっ!?」 演技に気をとられて間合いを取り忘れ、仕方なく彼女の剣をパーで受け流す。 しかし衝撃を防ぎきれずに弾かれ、野次馬の輪の外へと飛ばされてしまった… 「ふざけるな、真面目にやれ。」 「失敬な、我輩は真面目だ!」 真面目にふざけているのだ、そこの所を間違えられたら困るである。 さて…刀は最後にとっておきたいし、こいつを使うであるか。 「…なっ!?何で懐からそんな物が出てくるんだ!?」 「企業秘密である。」 「そうか…だが!」 一気に間合いを詰められ、我輩に向かって剣が振り下ろされる。 細かい動きが出来ないために避けれず、咄嗟に剣を交差させて受け止めた。 「そんな大きな武器を持っていては派手に動き回れんだろう?」 「むぅ…」 いかん…このままでは押し切られる… 間合いを取りたいが、これだけ密着していると難しいな… …それにしても… 「…肌が綺麗であるな。」 「………はっ?」 むっ、何故だか知らんが隙が出来たな。 受け止めていた剣を横へ受け流し、彼女から離れる。 それでも彼女は目を丸くしたまま佇み、我に返ると同時に顔を真っ赤にして怒り出した。 「き、貴様ぁ!ふざけるのもいい加減にしろ!」 「我輩は思った事を言っただけだ、ふざけているつもりは微塵も無い。」 「っっ!こ、このっ!」 耳まで真っ赤になり、めちゃくちゃに剣を振り回し始めた。 むぅ…避ける一方であるな…動きが読めないから下手に動けん…少し辛くなるが仕方ないか… 我輩は片方の剣を持ち替え、リザードマン目掛けて投げつけた。 投げた剣が彼女の肩に当たって一瞬怯んだ隙を狙って懐へ飛び込んで切り抜ける。 彼女の背中目掛けて追撃を試みたが、彼女の尻尾が我輩の脇腹に叩きつけられ、怯んだ隙にもう片方の剣を蹴り飛ばされてしまった… 「はぁ…はぁ…やってくれるじゃないか…」 「ぐっ…ぅ……」 「まだ倒れないか……降参してくれると助かるのだが…」 「我輩を…誰だと思って……降参なんて言葉は…我輩の辞書には…」 「…なら仕方が無い…少し痛いだろうが、我慢しろよ?」 「そろそろ締め切るでー、乗り換えるなら今の内やでー。」 「さっきのを取り消してリザードマンの方に賭け直させてくれ!」 「こっちも頼む!早くしないと終わっちまう!」 「はいはーい、毎度おおきにー♪」 うんうん、ええ調子ええ調子♪ 輝はんの演技にも気合入っとるし、これなら問題なさそうやね。 そろそろ全員賭け直したかな?それじゃあ締め切る… 「すみません、あの子に賭けさせていただいてもいいですか?」 「えっ?まぁかまわへんけど…本当にええの?」 「賭けはついでですから…一人くらい彼を応援しても罰は当たりませんよ。」 うーん…丸儲けは出来そうにないけどしゃあないか。 何よりも、うちの勘がこの人はええ人やって言うとるし。 自慢やないけど、うちの勘は外れんことで有名やしな! 「それじゃあここに名前書いてなー。」 「はい………これでよろしいでしょうか?」 「ん…問題ないな、それじゃあ受付締め切るでー。」 えぇっと…合計入札金額から払い戻し金額と輝はんの治療費と酒代を引いて…うんうん、十分な黒字やな。 後は輝はんがさっくり決めてくれればええな、負けたら負けたで赤字分しっかり可愛がってやればええし…にゅふふ… …むっ…今酷い悪寒が… うおっと!?…こっちに集中しないと不味いな…ただでさえ防戦一方だというのに。 「ちぃっ!ちょこまかと逃げ回るな!」 「当たったら痛いじゃ済まないだろうから断る!」 相手の振りが武器の大きさに似合わないくらい速いおかげで、回避するのも一苦労である… この調子だと、こっちの方が先にばてそうであるな…上手く出来る保障が無かったからやりたくなかったが…仕方あるまい。 「そこだっ!」 「…見切った!」 「…えっ?」 我輩目掛けて振り下ろされた剣が、頭の直ぐ上で止まった… 「な…なんてやつだ…素手で私の一撃を止めるなんて…」 「…すっごい手が痛い…」 真剣を両側から手で挟み受け止める…所謂白刃取りというやつである。 問題点としては、失敗したらとんでもなくかっこ悪い死に方をするという事位か…まぁ、彼女なら死なないように加減出来るだろうが… …さて、ここからどうもっていこうか… 「くっ…離せ!」 「負けを認めるなら離すぞ。」 「断る!」 「なら無理だ、諦めろ!…である。」 挟んでる剣を思いっきり引っ張ると、彼女の方も負けじと引っ張りだした。 …不味いな、このままでは持っていかれる…彼女の方が力が強いから勝ち目が薄い… おっ?一瞬力が緩んだな…この気を逃すわけにはいかん! 「ふぬおおぉぉぉ!!」 「うわったった!?」 渾身の力を籠めて引っ張ると、リザードマンがバランスを崩して倒れこんだ。 …我輩に覆い被さる様に… 「つぅ………ふぁっ!?ち、近い!顔が近い!」 「痛たた…大丈夫であるか?」 「私は大丈夫だから…じゃなくて!これはバランスを崩して倒れただけであって、お前を押し倒す気なんて…全く無いわけではないけど…って!何を言って…」 「…何を一人で騒いでいるのだ…」 「押し倒すのは好きな奴だけであって、お前の事は少しいいかなと思って…違う違う!えっと…えっと………あうぅぅぅぅぅ…」 一通り叫んだ後、頭から大量の湯気を噴出しながら我輩の胸に顔を埋めて動かなくなってしまった… すると、野次馬の中から白衣を着たおっさんが出てきて彼女を診始めた… 「………気を失ってますね。」 「……えぇー…」 劣勢からの大逆転劇で我輩の素晴しさを世に広めるはずだったのに…何所で選択を誤ったのだろうか… 「んっ…んっ……ぷはぁ!…んふふ〜♪儲けた後の酒がまぁ美味いこと美味いこと♪」 結局得をしたのは弥生だけじゃないか…まんまと利用されたである… 一部始終をこっそり見ていたアレクシアによって、琴音達に今回の事を知られて説教を受けたであるし… 酒!飲まずにはいられない! 「あらあら、あまり飲み過ぎると体を壊してしまいますよ?」 「むっ?貴殿は誰だ?」 酒の入った樽に手をつけようとした我輩の元に、一人の女性がやってきた。 服装は…見たことの無い格好であるな…ジパングの巫女が着る服に似ているように見えるが、そう見えるだけで実際は違うのだろうか? 背は非常に高いな…その辺の普通の男よりも大きいかもしれないである。 何よりも印象的なのは、全身が傷だらけということか…特に、手が凄いことになっている… ……胸も凄いな、桜花と比べられるほど大きいである… と言うよりも、見知らぬ者に止められるほど飲んだだろうか? 「私は…名乗るほどの者ではありませんよ。」 「奇遇だな、我輩も名乗るほどの者ではないである。」 「あら、貴方はそれなりに有名ですよ?鉄輝さん。」 彼女も我輩の名を知ってるか…流石に驚かなくなってきたである… 「何故止めたのかは…儲けさせていただいたからでしょうか。」 「貴殿も賭けてたのか。」 「はい、貴方を応援しようと思いまして…実力の一部しか見れなかったのが残念ですが…」 「すまんな、それは来月からだす予定である。」 「ふふふ、面白い人ですね…妹が言った事は正しかったみたいですね。」 「何?それはどういう…」 「輝ぁぁぁ!!」 突然地の底から聞こえてくるかの様な怒号が轟き、勢いよく振り向かされて激しく揺すられた。 リザードマンか…元気になったようで良かったが、酒を飲んでる者を激しく揺すってはいかんぞ。 「貴様のせいであんな恥を…絶対に許さんぞ!!」 「とりあえず落ち着け、あれは貴殿が勝手に自爆しただけだ…後、酒を飲んでる者を揺するな、戻る。」 「輝はんはもてもてやねぇ…」 「仲がよろしいのですね。」 「そこ二人、ニヤついてないで止めてくれ。」 がくんがくんと激しく揺さぶられ、我輩の持ち物が着物からぽろぽろと零れ落ちる。 落としたら危険な物もあるのだが…何て考えているとある物が懐から落ちた。 これは…いつの間にか持っていた狐の面か… 「あら?無くしたと思っていた面が…」 「貴殿の物か?」 「この意匠は間違いなく私の物です…見つけて持っていてくださったのですね。」 「いつの間にか持っていた物であるがな…貴殿の物だと言うのなら持って行くといいである。」 「ありがとうございます、何かお礼を…」 「気にするな、我輩も何時手に入れたのか分からんし、偶然の事で例を強請る様な真似をするほど落ちぶれてはいないである。」 「…本当に面白い人ですね…ふふっ、楽しみが増えました。」 彼女は何の事を言っているのだろうか? …それはそれとして、そろそろやばい…喉元まで出掛かってる… 「それでは失礼します…またお会いしましょう、鉄輝さん。」 謎の女性は我輩に微笑みかけると、渡した面をつけてこの場を立ち去った… 本当に何者だったのだろうか…また会うとも言っていたが… 「私の話はまだ終わってないぞ!貴様には山ほど説教がある!覚悟しろ!」 「…すまん、説教は聞けそうに無い。」 「何だと!?何故だ!」 「弥生、後始末はまかsおぼろろろろろろ!」 「ぎゃぁっ!?輝はんが吐いた!?」 「ちょぉっ!服についた!」 あぁ…意識が遠のいてゆく… 読者諸君…酔っ払いを見ても揺すったらいかんぞ?我輩との約束で…ある……ぐふっ… 〜今日の観察記録〜 種族:リザードマン 彼女達との試合に負けても命をとられる事は無いが、彼女達に勝ってしまった場合はちょっと面倒な事になる。 自分を打ち負かした強い夫の子を産みたいという本能のまま、その場で相手に求婚をするだろう。 逃げようとしても、こうなってしまった彼女達から逃げ切る事はまず無理だな…地の底だろうと追い回され、一途な彼女達に愛を説かれ続けるだろう。 「うぅ…なんでうちがこんな目に…」 「その…すまない…」 「輝はんが勝つと信じて賭けをした罰が当たったんやろうか…」 「随分と信用されているんだな…一から修行をしなおして再挑戦するか。」 「むっ、輝はんはわたさんで!」 「母上にみっちりと花嫁修業をさせられたからな、負けてやる気は無い。」 「う、うちもそのくらいは出来るで!」 「ほう…それは楽しみだな…」 「うぅ…またライバルが増えてもうた…」 |