「おっ、森を抜けたみたいやな。」
「だそうですよ輝様？」
「……………」
「へんじがない　ただのしかばねのようだ　」
「殺すな殺すな…こうなった原因はわっち等じゃろうが。」
「師匠…その…ごめんなさい…」

…夜は襲われなかった…だが、朝になった途端全員で襲い掛かってくるとかきつすぎるだろう…
我輩は本当にこの先生きのこれるのだろうか…

「あっ、今夜もがんばってちょうだいね？」
「じょ、冗談じゃ…」
「流石にやめた方がええと思うけどな…」
「私は今日はもう良いですよ、その代わり沢山撫でてくださいね輝様？」
「まぁそれくらいなら…」
「安心せい、アレクシアと弥生はわっちが責任を持って拘束しておくからの。」
「何でや！うちは何にも悪い事してへんで！？」
「日頃の行いのせいじゃないですか？」

よかった…今日はゆっくり休めそうだ。
そうと分かれば張り切って行かんとな。

森を抜けた先は広大な草原が広がっていたである。
道はしっかりと踏みしめられた場所があるが、それ以外の場所は様々な高さの草に覆われているな。
この辺りで生活している者もいるようで、遠くの方に大きめなテントのような物が見えるである。

「ケンタウロスの集落かしらね？立ち寄ったことがないから分からないけど。」
「ふむ…我輩もケンタウロスを見た事がないであるし、個人的に気になるから寄ってみたいのだが…」
「せやな…うん、うちも気になるし行って見てもええんちゃう？」
「それじゃあ行きましょうか…あ、あれがケンタウロスですか？」

リシェルが指差した先を見ると、かなり遠くの方に動物を追いかける馬の様なものが見えた。
馬の首にあたる部分から上が人間の上半身と同じようになっているあたり間違いないだろう、あれがケンタウロスか…ぜひとも近くで見てみたいな。
手に何かを持っているようだが…あれは弓だろうか？

「んー…狩りでもしてるのでしょうか？」
「ふむ…その割には狩れてる様には見えんの。」
「…輝ちゃんの凄い所見てみたいなぁ…」
「アレクシア…あれを射抜けと申すか…」
「あら？輝ちゃんなら出来るわよね？」
「無茶を言うな…まぁ、だめ元でやってみるか…」

あんなに遠くの…しかも、動いてるものを弓で打ち抜くなんて無理に決まってるだろうに…
先日のあれは相手が動かなかったのと運がよかったことで当たったが…今回は流石に…あの時よりも距離が遠いと言うのもあるが…

「輝様、成功したら添い寝して差し上げますよ？」
「さて…本気を出すか…」
「今なら私も添い寝してあげるわよ？」
「あっ、急にやる気が…」
「…輝ちゃん酷いわ…お姉さん悲しくなっちゃう…」
「うわっ、気色悪っ！？」
「弥生ちゃん、ちょっとお姉さんと向こうでお話しましょうか。」
「…何でうちっていらんことゆうてまうんやろか…」

距離は……凄く遠いとしか言えん…幸いにも風は無いな。
相手は結構な速さで直進している…少し狙いがそれたら後ろのケンタウロスに当たってしまいそうだ…
目一杯引くとして、角度はこのくらいか…いけっ！

「おぉ…結構飛ぶのじゃな…」
「あ、当たりましたよ！」
「………何だって？」

あ、当たったのか…って、もしかしてケンタウロスに…？

「師匠凄いです！あんな遠くの獲物に命中させるなんて凄いですよ！」
「いや…まさか当たるとは…」
「輝様、今夜は楽しみにしててくださいね。」
「う、うむ…」

ちゃんと動物の方に当たった様だ…ケンタウロスに当たらなくてよかったである…
それはそうと、今夜はゆっくり寝れそうだな…琴音に添い寝してもらうと凄く安心出来るであるし。

「もう終わっちゃったの？奇跡の瞬間見たかったのに…」
「うぅ…輝はん…せめて骨は拾…ぐふっ…」
「なんてこった！弥生が殺されちゃった！」
「この人でなし！」
「えぇ、私は魔物だもの。」
「その前に勝手に殺さんでほしいんやけど…」
「…先に行きましょうか。」
「…そうしよう。」

まぁ、我輩でもない限りちゃんと来れるだろうし、さっさと目的の場所まで行くか…

「…あ、輝様…」
「むっ？どうした琴音。」
「その…手を繋ぎたい…なんて…」
「…ふっ。」
「わ、笑わないでください！」
「すまんすまん、ただ琴音は可愛いなと思ってな。」
「もういいです！知りません！」
「そうか…琴音のために空けた手が寂しくなるな…」
「……やっぱり繋いでもいいですか？」
「…うむ。」

我輩の手にそっと手を重ね、指を絡めてくる。
琴音の手はとても柔らかくて…何と言うか…安心出来るな…
…よし、今夜は手を繋いだ状態で寝よう。



歩く事十数分、我輩と琴音は目的の場所の前へと来ていた…が、何だか騒がしいであるな…
様子を見ようとテントの中を覗き込もうとしたが、琴音がそれを止めてきた。

「輝様いけません。」
「むっ…だめか？」
「もう少し低めの位置から見ないとばれてしまいますよ？」
「それもそうだな…教えてくれてありがとうである。」

こういう細かい所に気がつくあたり琴音は優秀であるな…我輩も見習わねば…
えっ？もっと別の所に突っ込むべき？
…そうだな…こういうことはちゃんと言わねばならんな。

「琴音。」
「何でしょうか？」
「その髪飾り、よく似合っているぞ。」
「ふふふ、ありがとうございます。」

うむ、これでよしと…

「むっ！何奴！？」
「気づかれたな。」
「気づかれましたね。」

まぁ、覗き見しながら暢気にいちゃついていればこうもなるだろう。
中にいたのは馬の下半身を持つ魔物が五体…彼女達がケンタウロスだろう。
彼女達の輪の中心には、頭に矢を受けた動物が横たわっているのが見えるな。

「何者かは知らんが、大人しくしてもらおうか。」
「我輩達は貴殿等と争う気はない、それよりも何があったのだ？」
「お前達には関係のないことだ、娘が狩りの練習をしていたら何所からか矢が飛んできて娘が狙っていた獲物に突き刺さったなんて口が避けても言えん。」
「母上、思いっきり言ってますよ。」
「あっ…貴様等謀ったな！？」
「なんと言いますか…面白いお方ですね。」

確かに面白いな、顔が真っ赤である。

「…母上、この獲物を仕留めた者はまだ近くにいるでしょうか？」
「むっ…いるかも知れんな…見つけてどうするのだ？」
「弓の扱いの指導をお願いしたいのです…相手が殿方なら尚更…」
「……言わない方が良いですよね？」
「……うむ…言ったら面倒な事になりそうで…」
「輝ちゃーん…あ、いたいた。」

あっ、このパターンは…

「むっ、今度は誰………魔王様の娘様！？」
「そんなに畏まらなくても良いわよ…あら、頭に当たってたのね？」
「えっ？ど、どういうことですか？」
「それを射抜いたの輝ちゃんよ？森の前辺りから狙いを定めて…ね。」
「なん…だと…！？」
「こ、こんな小さい子供がか！？」
「……アレクシア、三日間お預けな。」
「………えっ？」

こんな事になるなら置いて行かなければよかったな…これは…面倒なことになった…



「あきらどのぉぉぉ！のんでますかぁぁぁ！！」
「飲んでいる…と言うか、さっきも聞いてきただろう…」
「そうでしたっけぇ？おぼえてないですあはははは。」
「噂には聞いていたが…酷い酔い方だ…」

あの後いろいろあって宴会が始まったが…始まって五分も経たずにこれだ…
ケンタウロスは酒癖が悪いとは聞いていたが……
他のケンタウロス達は夫と思われる男達と盛大にヤってるな…

ちなみに、アレクシアと弥生とリシェルは潰されてるな…桜花は既に寝てるようだ。

「んふふ〜♪」
「こら、抱きつくな、柔らかいのが当たってる。」
「あててるんですよぉ♪」
「そういうのは将来の大切な人の為にとっておきなさい。」
「あきらどのいがいにはこんなことしませんよ…ん〜…」
「まてまてまて！酔った勢いでそんな事をしては…んむぅ！？」

逃げようとしたが、がっちりと抱きしめられて身動きがとれずに唇を奪われてしまった。
少し酒臭いが…酒の味とは違う不思議な甘さを感じる…

「んっ…ふぅ……さぁ、ふくをぬぎましょう。」
「落ち着け、流石にこれ以上は不味い。」
「おうじょうぎわがわるいですよぉ…おとなしくヤられてくださいﾞっ！？」

突然ケンタウロス殿が白目を剥き、その場に倒れ付した。
ケンタウロス殿の後ろには、刀の鞘を持った琴音が立っていた。

「鉄流奥義、菊一文字…少しお痛が過ぎましたね？」
「そんな奥義はないぞ…」
「では奥義に加えてしまえばいいではないですか。」
「…………いやいや、頼まれても加えんぞ。」

…一瞬、採用してみようとか思ってしまったである…
…というか、琴音の持ってる鞘って我輩の…

「さて…そろそろ休みましょう。」
「……そうだな…精神的に疲れたしな…」
「では、貸していただいたテントに向かいましょう。」
「うむ。」

琴音に手を引かれ、無法地帯となったテントを後にする。
うむ、夜風が心地よいであるな…

…もう少し飲みたくなってきたな…

「琴音、もう少し飲まないか？」
「あまり飲みすぎると明日が辛いですよ？」
「我輩が酒に強い事は琴音もよく知っているだろう？」
「ふふふ、そうでしたね…輝様と二人っきりでお酒を飲むなんて初めてですね。」
「そう言えばそうだな……琴音。」
「何でしょう？」
「…その……これからもよろしくである…」
「……はい…何時までも輝様と共に…」
「……うむ。」

……あー…自分で言っておいてなんだが、物凄く恥ずかしいである…
今日ほど酔い潰れたくなった日はないだろうな…忘れてしまいたいくらい恥ずかしい…
しかし、忘れたくないと言う気持ちも…うむぅ…

今日最後に飲んだ酒は、今まで飲んできた酒の中で一番美味しく感じたである…



〜今日の観察記録〜

種族：ケンタウロス
人間の上半身と馬の下半身を持つ魔物である、冷静で理知的な魔物である。
だが、彼女達は本来凶暴で好色な性格である…ふとした事で我を忘れて本性を現してしまう事もあるようだ。
ちなみに彼女達は酒癖が悪く、酔うと自制が全く効かなくなってしまうため、彼女達と酒を飲む際は注意していただきたい。

仲魔：琴音
我輩なんかには勿体無い位のいい娘である…言い過ぎ？そんな事はないさ。
我輩のやるべき事が終わったら……っと、今はまだ書くべき事ではないな。
…添い寝をしてもらったのはいいが、抱きついたり擦り寄ったりされて別の意味で眠れなかったである…

…それと、想像していたかも知れんがまだ完成していないである。
役に立つものだと思うので早めに作りたいが…どうしても拘ってしまうからなかなか完成しないである…
ただ、完成したとしても本編でお披露目しない限りは書けないであるがな。