49ページ:マミー・スフィンクス・アヌビス
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三日目の朝、今日も一波乱ありそうな良い天気である。
DL
「…何をしているんだあいつは…」 「むっ?どうしたのであるか?」 「寝てる奴を起こしに行ってもらったんだが戻りが遅くてな。」 「見に行った方がいいのではないか?」 「…その考えは思いつかなかった。」 「言いたくなかったが貴殿は馬鹿か?」 「言われなれたよ。」 「何故ベストを尽くさないのか…」 そんなことを話しつつ、問題の男が寝ているテントへと入る。 もう一人がやたらと大きな寝袋を揺すったり蹴ったりして起こそうとしているが、ビクンッと震えるだけで起きそうに無い。 「蹴るのは流石にどうかと思うぞ。」 「全然起きないのでつい…」 二人が話している間に我輩が起こすであるか…摩り下ろしたわさびを鼻の下に塗って………んっ?何かがはみ出してるな。 これは……包帯か? 「仕方ないですね…もうちょっと強めに…」 「待った、その前にちょっと中を覗いてみるである。」 そう言いながら寝袋の中を覗き込む。 中には熟睡している男と、中を覗いた我輩を涙目になりながら見つめてくる女性…もとい、魔物がいたである。 先ほど見えた包帯と同じもので全身を覆っているが、一部分は素肌が露出しているな。 特に詳しく解説する必要も無い、マミーという名の魔物であるな。 どうでもいいが、無口で無表情な女性が布団などに包まって見つめてくる姿と言うのはとても可愛らしいものがあるであるな。 「…痛かったであるか?」 「……かなり…」 「それはすまないことをした…お詫びにその男に好きなだけ甘えると良いである。」 「…持ち帰っていいの?」 「流石に、本番はその男が起きてからにしてやって欲しいであるがな。」 「…分かった…」 そう言うともそもそと寝袋から這い出し、男が逃げれないように寝袋を閉じて遺跡の奥へと持ち去っていった… 「…仲間がさらわれたと言うのに、何故だか知らんが嫉妬心が沸いてくるようになってきたのだが…」 「安心するである、貴殿にもいつかは素晴しい出会いがあると思うである。」 「正気を保ってくださいよ…相手は魔物なんですよ?」 「俺も最初はそう思っていた…だが、実物を見てそんなに危険な存在ではないのではないかと思うようになったんだ。」 「まぁ、つかまったら人生の墓場まで一直線であるがな。」 「ダメだこの人達…早く何とかしないと…」 我輩までまとめてダメ扱いされたである…泣きたい… 探索を開始して約十分…ひたすら一本道を進んでいるである。 遺跡の壁には松明が設置されているので視界は良好、誰かの手で整備されているのか床や壁面などに苔や傷は見当たらない。 見当たらないと言えば、本格的に探索を始めてから今まで魔物の姿を見ていないである。 マミーの一人や二人位いてもおかしくないものなのだがな… 「この通路は何処まで続いているんだ?」 「歩いていればその内何か起こるんじゃないかしら?」 「僕としては魔物に会わずにお宝だけ手に入れて帰れるとうれしいんですが。」 「何の苦労もせずに手に入るものなんてゴミと変わらんである、苦労して手に入れるからこそのお宝だろう?」 「お金になればそれで良いんですよ……おっ?」 話している途中で男が何かを見つけたようで、一人で奥の方へと走って行った。 流石に単独行動をさせるのは不味いので我輩達もその後を追う。 「あはは!やりましたよ!お宝ですよ!!」 男に追いついた我輩達は、やや小さめな空間へと出た。 目の前には木製と思われる扉があり、その両脇には犬の様な動物の像が設置されている。 そして、彼が一心不乱に袋に詰め込んでいる財宝はその犬の像の周りに置かれていた様だな。 「見つけたのは僕ですからね?一つたりとも渡しませんよ?」 「……はぁ…我輩は別にかまわん…好きにするといい。」 「俺もいらない…何となくだがそれは拾ってはいけない気がするからな…」 「私もいりませんよ、奥にはもっといいものがあるかもしれませんし。」 「欲がないなぁ…そんなんじゃこの先生きのこれませんよ?」 まぁ、彼がそれでいいのならこれ以上言うことはないだろう…変に係わると何かあったときに面倒だろうし。 とりあえず、彼が財宝を詰めている間に扉の奥の様子を見てみるか… 「……鍵はかかっていないようであるな…罠の様な物もないようだ。」 「ならさっそく…」 「待った、罠は無いが何かの気配がするである…行くなら慎重に…だ。」 「分かった……開けるぞ。」 なるべく音を立てないようにゆっくりと扉を開けていく… 扉の先は小部屋になっているようで、部屋の中心には魔物が横たわって寝ているのが見えるであるな。 それ以外は特に何も無いようで、さらに奥へと続く扉があるだけである。 音を立てないように扉を閉めようとしていた矢先、突然主催者の女性が大きなくしゃみをした。 もちろんそれに気づかないほど熟睡しているわけでもなく、奥の部屋にいた魔物が飛び起き、扉を閉めようとしていた男と目が合った。 「にゃにゃ!?侵入者かにゃ!?」 「いえ違います。」 「にゃんだ…侵入者じゃにゃいのか…お昼寝の邪魔はしないでほしいにゃ。」 「すまない、今後気をつけるとしよう。」 そういってまた眠り始める魔物…それでいいのか貴殿は… この男もよく真顔で嘘を言えるな…見込みがありそうである。 「昼寝の邪魔はされたくないみたいだから静かに行こう。」 「ごめんなさい…私のせいで…」 「くしゃみは仕方が無いである、貴殿も中々やるではないか。」 「ちょっとばかり罪悪感を感じるがな…早く行こう。」 強欲な方も財宝を詰め終わったようで、大きくなった袋を肩に担いでいるであるな。 寝ている魔物を起こさないように忍び足で横切る……が、もう少しで扉に手が届くといった所で、袋の底に開いた穴から金貨が一枚落ちた。 金貨は床に落ちて跳ね、魔物の顔に当たった。 「にゃー!!昼寝の邪魔をするにゃー!!」 「すまない、今のは不可抗力だ。」 「この金貨は入り口の…さっきのは嘘だったの!?」 「言い訳しても侵入者にはかわらないか。」 「侵入者にゃら通すわけにはいかないにゃ!サボると後が怖いし。」 残念ながら素通りは出来なかったが、面白くなりそうだから良しとしよう。 ちなみに、説明しなくても分かるかもしれないが、目の前にいるのはスフィンクスと呼ばれる魔物であるな。 キャット種に部類される魔物で、優れた身体能力と高い魔力、呪いを行使するに耐える知能をもった魔物である。 他にもスフィンクスの特徴はあるが…もうすぐ見れるだろうし説明しなくてもよさそうであるな。 「ここを通りたかったら私と勝負するにゃ!」 「勝負?」 「私の出す問題を解けたら先に進ませてあげるにゃ、解けなくてもあにゃた以外は通ってもいいにゃ。」 「何で俺はダメなんだ…」 「それが知りたかったら私の出す問題を解くにゃ!」 彼女達スフィンクスは、呪いを行使する際に問い掛けを行うである。 それに答えられなければ呪いが降り掛かり、答えることが出来れば逆に彼女達に呪いが降り掛かるというものだ。 共通していることは、どちらも最終的には襲われると言うことであるな、早速素晴しい出会いが訪れたと言うことである。 「問題にゃ、くっつくと取り辛く以外に頑丈な蜘蛛の巣にゃけど、巣を張った蜘蛛が巣に引っかかって動けなくならないのはにゃんででしょうか!」 「蜘蛛の巣には縦糸と横糸があって横糸は粘り気がある液体が付着しているが縦糸には無い…蜘蛛は横糸を避けて縦糸の方を足場にするから引っかからずに移動出来るんだ。」 「ふみゅっ!?正解にゃ…」 ふむ、正確に答えられたか…どっちに転んでもいい観察対象になりそうだから見ていて飽きないである。 ちなみに、今の問題は意地の悪い奴なら不正解に出来る問題であるな…粘液を使用していない巣もあるしな。 「さて、先に進むぞ。」 「ま、まって!私もついていくにゃ!」 「…なんですと?」 「…あにゃたと一緒にいたいにゃ…ダメかにゃぁ?」 「…何があるか分からないからな…離れずについて来いよ?」 「にゃ!分かったにゃ!」 スフィンクスは嬉しそうな笑みを浮かべると、男に思いっきり抱きついた。 「い、いきなり何をするんだ…」 「にゃー…だって離れるにゃって…」 「…まぁいい、行くか。」 「にゃ!」 今朝頃言っていた素敵な出会いがあってよかったである。 これで我輩も観察に集中が出来るである…道中が楽しみであるな。 「ここは…こっちに曲がるのか?」 「正解にゃ、ご褒美になでなでしてあげるにゃ♪」 「勘弁してくれ…顔から火が出そうだ…」 楽しい道中なんてなかったさ畜生め。 探索面だけ見れば、遺跡の構造を知っているスフィンクスがいることで迷う事無く順調に進めている… だが、道を尋ねる度に問い掛けをし、正解する度にあの様子である。 今回ばかりは我輩も言っていいだろう、末永く爆発してしまえ。 「…うらやましいの?」 「そんなわけ無いだろう。」 「いいのよ甘えても、優しく抱きしめてあげるわ。」 「魅力的な話だが遠慮させてもらう…後が怖いからな…」 「…私だってうらやましく思うことくらいあるわよ…」 「ん?何か言ったか?」 「空耳じゃないかしら?」 あぁもう、あの二人を見ていると悶え死にしそうである… 甘い雰囲気は我輩は苦手である…手の出し方が分からんから眺めるだけになってしまうであるし… 「この部屋の先がこの遺跡の主がいる部屋にゃ。」 「そうか…気を引き締めていかないとな。」 「にゃ!………あっ!開けるの待って…」 突然何かを思い出したようで、慌てて男を止めようとするスフィンクス… が、一足遅く、必死の静止も空しく扉が開け放たれる。 扉の先は、スフィンクスがいた部屋とほとんど変わらない、配置されている魔物は違うようだが。 黒い体毛と柔らかそうな肉球が備わった手足、ピンと立った耳、モフモフした黒毛の尻尾… この手には金細工の長棒…天秤といった方がいいか?そんな感じのものを持っている。 思わず抱きついてモフり倒したくなる衝動を押さえ込む…我輩の予想が正しければアヌビスという名の魔物だろう。 「来たか…侵入者達よ。」 「どうも、侵入者である。」 「あ、アヌビス様…これには深いわけが…」 スフィンクスがやや怯えているな…余程このアヌビスが怖いのだろうか? そんな様子のスフィンクスを見て、アヌビスは優しく微笑みかけながら言い放つ。 「大体予想は出来る、種族の特徴として仕方のないことだろう。」 「そ、それじゃあ…!」 「だが、それとこれとは話が別だ、そこに正座して待っていろ。」 「うにゃー…」 安心させる素振りを見せて突き落とす…見事だ。 こういう話術も学びたいであるな…彼女等への説教が終わったらご教授願おうか。 「奥にいっても大丈夫なんですか?」 「主からはお通ししろとの指示が出ている、主の間にある財宝は攻略したものに譲れとのことだ。」 「そうですか、では僕はこれで…」 そう言って一人奥へと進もうとした男の前にアヌビスの持つ天秤が突き出された。 「だが、お前の持っているそれは私の私物だ…窃盗を働くような輩は通すなと言われている。」 「こ、これは僕が持ち込んだものですよ!変な言いがかりは…ひっ!?」 言い訳をしている男に詰め寄り、頬を舐めるアヌビス。 舐められた直後、男の持っていた袋が手から抜け落ち、床に財宝が散らばった。 「これは…嘘をついている味だ。」 「あ…あぁ……」 「素直に己の犯した罪を認め更生すると誓えば説教をする程度で終わらせてやろうと思ったが…反省の余地はなさそうだな。」 「ひっ!?たっ、助け…」 「貴様には山ほどの説教と徹底的な調教が必要だな…覚悟しろ。」 「…す、救いは無いんですか!?」 「無い………と言いたい所だが、更正の証が見えたら少し位は聞いてやらんことも無い。」 「本当ですか!?」 「だが、まずは説教からだ…いいか?人様の物を盗む事が如何に愚かな行為か分かっているのか?そんなくだらない事をする破目になる前にしっかりと計画性を……」 始まったであるな…終わるのはどれくらい後になるだろうか? 「…行かないの?」 「彼女の説教術と矯正術を学びたいからな。」 「帰りに寄ればいいんじゃないかしら?教えて欲しいことを伝えておけば予定を空けてくれると思うわよ?」 「そうであるな…それだけ伝えたら行くか…貴殿はどうする?」 正座をし、説教をされる瞬間を震えながら待っているスフィンクスを慰めている男に尋ねる。 男は少し思案した後、言い辛そうに口を開く。 「俺はここに残るよ…俺みたいなのに懐いてくれる可愛いやつを放っておけないしな。」 「にゃ…あ、ありがとにゃ…」 「じゃあお宝はもらっていくぞ?…まぁ、我輩がいらない物で貴殿等の役に立ちそうな物があったら譲ってやらんでもないがな。」 「すまない……こうして考えてみれば、お前に会えてよかったのかもしれないな。」 「おっとそこまでだ、一生の悔いを残したくないならそこから先は言わない方がいい。」 「ん?何故だ?」 「直ぐに気づくだろうから言わないでおく…ではな。」 アヌビスに話をし、了承を得れたのを確認して奥へ続く扉を開けた。 盾になるものはもう無い…ここから先は慎重に行かねばな… 「…いよいよね…」 「それなりに長い道のりであったな…チームはほぼ壊滅状態だがな。」 「大丈夫よ…貴方なら大丈夫。」 「そう思いたいであるな…」 さぁ…ここの主とやらとのご対面はもう直ぐである。 何が起こってもいいように準備をしつつ進むであるかな。 〜今日の観察記録〜 種族:マミー 砂漠地帯に存在する遺跡等に生息するアンデッド型の魔物で、全身に包帯を巻いているであるな。 彼女達の素肌は刺激にとても弱いようで、触れられた場所によっては動けなくなるほどの快感に襲われるのだとか… 巻いている包帯はそれを防ぐための特殊な物らしく、これを外してしまえば逃げる事も容易になるだろう。 種族:スフィンクス 砂漠地帯に生息する獣人型の魔物で、優れた身体能力と呪いを行使するに耐える高い魔力と知性を持った魔物だ。 彼女達の呪いは問い掛けによって効果が発動し、相手が答えられなかったり間違えた場合はしっかりと相手に掛かる。 が、逆に相手が問い掛けに正確に答えられた場合は、行使者であるスフィンクスに呪いが返ってくるようである。 種族:アヌビス 砂漠地帯に生息する獣人型の魔物で、同種のワーウルフや妖狐とは異なり真面目で頑固な性格である。 彼女達は、夫となった男性の食事のバランスや予定決め、性行為の際の決め事等徹底的に管理をしようとするみたいだ。 それに従わない場合、罰則と称しで呪いを掛け、気絶するまで搾り取られる事になるらしい……割と普通の罰則だな、我輩もよくやられるし。 |