48ページ:刑部狸・ギルタブリル
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…凄く気まずいである…
DL
と言うのも、同行者の一人が我輩を起こしに来たのだが、その時に我輩の寝袋の中に主催者の女性が入り込んで寝ているのを見たらしい… かなり密着していたらしく、大体の人が夕べはお楽しみでしたねと言って勘違いをしてしまう様な状態だった。 故に我輩は少し気が落ちているのである…こんな事でこの先生 きのこれるだろうか… こうなった原因を作った主催者の女性は何故か上機嫌であるし…むーん… 「…大丈夫か?」 「…あんまり良い気分ではないである…」 「何でっすか?綺麗な女性とあれこれしたんっすよね?あ、後俺旅が始まってから初めて喋ったっす。」 「会話には積極的に参加した方がいいと思うぞ…それと、貴殿等がにやにや出来るような事は何もしてない。」 「してないと言うのはそれはそれでどうかと思うでありますが…あ、私も初めて喋ったであります。」 ………うむ、同行者の中には無口な者が多いのだな。 「一つ聞きたいのだが、砂漠にはどんな魔物が出るんだ?」 「我輩が知っている範囲内では、ギルタブリルやグール…スフィンクス等が生息しているようである。」 「その魔物に注意すれば良いんすね?」 「まぁ、魔物の中にも目的があったりなんとなくで旅をしている者もいたりするからその限りではないがな。」 まぁ、好き好んで砂漠を旅しようなんて酔狂な魔物はいないであろうが… …そんな事はどうでもいいのだが… 「…貴殿は何故我輩にくっついているのだ…」 「酷いわ…昨日はあんなに沢山愛し合ったのに…」 「誤解を招くようなことは言わないでくれ…」 「やっぱりお前ら…畜生!爆発してしまえ!」 「…弥生からもらった胃痛に効く薬は何処にしまっただろうか…」 それから三時間後… 「「「………」」」 真上に上った太陽の光がジリジリと肌を焼き、肌からは止め処なく汗が流れ出してくる。 同行者の男共は、我輩を弄るだけの気力も残ってないらしく、一言も発せずに黙々と歩き続けている。 我輩と主催者の女性は特に変わらず、くっつくと暑いだのひんやりして気持ちいいなどと喚きあっているであるな… 「…何でそんなに元気なんだ…」 「我輩はこういうのには慣れているからな…流石に長時間活動したいと思えるような場所ではないが…」 「私は…暑い所に住んでいるので。」 「……そうかよ…」 …これはいかんな…そろそろ倒れる者が出てくるかも知れん… と言うか、約二名ほどの目が不味い事になってるである…死んだ魚の目の様になってしまっているな… そんな状況の中、突然一人の男が大きな声で叫んだ。 「に…人間!人間がこっちに歩いてきてるであります!」 彼の指差した先を見ると、確かに誰かが歩いてきているように見えた。 …正常な我輩が視認出来ているであるから幻ではないと思うであるが… 「お?兄さん等冒険者の人か?」 「うむ、この先にある遺跡に行く途中でな。」 「あそこか…まぁ、ええもんはあると思うで。」 「貴方は行商人…かしら?」 「せやでー、水とか欲しいなら分けるけど?」 「くださいであります!喉が干からびそうであります!」 「はいよー…ささっぐいっといっちゃってなー。」 「助かったであります…んぐっ…んぐっ…ぷはぁ…」 …本当に飲んでしまったのか?(ニヤリ 「それでお代やけど…」 「っと、そうでありました…いくらでありますか?」 「金貨100枚。」 「………」 あ、固まったである。 「…すみません、耳に砂が詰まって聞き取れなかったであります…おいくらで?」 「金貨100枚。」 「どう考えても高すぎであります!何で水一杯で金貨100枚も取られなきゃいけないでありますか!?」 「なら聞くけど、どうして値段も聞かずに飲んだん?」 「それは貴方が促したからで…」 「うちは、水をくださいって言われたから出しただけやで?」 …ここまでを見れば諸君等でも彼女の正体が分かるであろう。 先ほど言った目的があって旅をしている魔物の一種…刑部狸であるな。 「それに考えてみ?たったの金貨100枚で命を買えるんやで?」 「そ…それは…」 「まぁ、払えん分は体で返してもらうからええよ…これでよしっと、ほないこか〜♪」 首輪をはめられ、刑部狸に連れられていく同行者の一人… 何かを訴えかけるような目でこちらを見つめてきたが、同行者の男達は皆目をそらした。 「…商人って怖いな…」 「生きているだけマシだろう、扱っている物の品質は確かであるし。」 「金貨100枚の水でもか?」 「まぁ、だまされたくなかったら正体を明かしている彼女達から買うしかないであるな。」 「……えっ?今の人間じゃないのか?」 「ジパング地方から来た妖怪であるな、我輩もよく知っている妖怪である」 「ジパング…どんな恐ろしい所なのだろうか…」 「誤解を解くためにも説明せんといかんか…」 さらに三時間…相変わらず、二名を除いて死にそうな顔で歩いているである。 最近の若者は体が弱いであるな…そんな事で盾として…じゃなくて、冒険者としてやっていけるのだろうか… 「もう…だめっす……」 そんな事を考えている内に、一人の男が砂の上に倒れこんだ。 「むっ…大丈夫であるか?」 「…何か近づいて来てるわね…気をつけた方がいいわ。」 近づいてくるか…何が来るかは大体予想できるが… っと、今は倒れた男の様子を見ないとな… 「おい、大丈夫であるか?」 「俺はもうだめっす……」 「…むぅ…水を飲ませて日に当たらない場所で休ませた方がいいがそんな場所は…」 「…っ!?危ないっ!」 同行者の叫び声と同時に、我輩の首筋目掛けて何かが振り下ろされた。 白刃取りの要領で受け止めるが、相手の力の方が強く、止めきれずに少し掠ってしまった。 その瞬間、体が石になったかのように固まり、酷い熱さを感じ始めた… ……が、傷が浅かった所存かは知らんが、無理をすれば体は動かせそうである。 「ぐっ…流石に受け止めきれんか…我輩もまだまだだな…」 「だ、大丈夫か!?」 「まだ体は動く…次は避けれんだろうがな…」 「…浅かったみたいね…次こそは…」 「まぁ待つである。」 固まった体に鞭を打ち、無理やり立ち上がって目の前の異形の魔物を確認する。 彼女の下半身は、砂漠等に生息するサソリを連想させるようなものになっている… 先ほど振り下ろされたのは尾の先端の鋭く尖った針だったようだ…直撃していたら大変なことになっていただろう… ギルタブリル…砂漠の暗殺者とも呼ばれる凶暴な魔物である… ……これは使えそうだな… 「何?命乞いなら無駄よ?」 「一つ聞きたいのだが、貴殿の住処は日光を避けれて涼しくて水があるであるか?」 「あるぞ?それがどうしたんだ。」 「丁度いい…この男を休ませてやってくれないか?」 「何でそんなことしなくちゃ…」 「体調が回復したら好きにしてしまってもかまわん。」 「仕方ないわね…いいわ、その条件で引き受けてあげる。」 「こいつ…本人の確認も無しに…」 後ろで何かを言っているが聞こえなかった振りをし、男を抱きかかえて去っていくギルタブリルを見送る。 このままだったらあの男は死んでいただろう…回避するためにはこれしかなかったのだ… …という建前はおいといて、何とか助かったであるな… 「…最善の方法だったって言うのは俺でもわかるが…」 「やりきれない気持ちなのは我輩も同じである…また一人仲間が脱落してしまうとは…」 「…何故に棒読みなんだ?」 「気のせいである。」 さて…危機を脱したのはいいが、体の自由が利かないことに変わりはない。 どうするであるかなぁ… 「仕方ないわね…私がおんぶしてあげるわ。」 「いいのか?」 「ただし、今夜もお邪魔させてもらうわよ?」 「……………分かった。」 「今の間は何?」 「気にするな!…である。」 ……明日ももげろとか言われるのだろうなぁ… 〜今日の観察記録〜 種族:刑部狸 彼女達はジパングだけでなく、世界中で見かけることがあるでなるな。 一部の者達は商人としてジパングの外へと足を運び、行商人をしたり店を構えたりしているようだ。 個人的な感想だが、彼女達の尻尾の触り心地は稲荷や妖狐のものと比べても甲乙つけがたいものだと思うである。 種族:ギルタブリル 砂漠地帯に生息するアラクネ属の魔物で、サソリの様な特徴を持っているであるな。 尾の針に強力な毒を持ち、音も無く忍び寄って襲い掛かってくるため要注意である。 その凶暴性から砂漠の暗殺者とも呼ばれ、人間から恐れられている魔物である。 |