43ページ:ダンピール
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「…そっか…今日の夕方には行っちまうのか…」
DL
「短い間だったが世話になったな…貴殿に学んだ技術、大切につかわさせてもらうである。」 長いようで短かった講習期間を終え、夕方には出発すると言う話をミラル殿にしている。 もう暫くここに留まっても良いかもしれない…しかし、我輩がいるといろいろと迷惑をかけることになってしまうだろう… 我輩を狙っている連中がいると分かった以上、被害を増やさないためにも早めに出た方が良いだろうしな… 「あたしもついていく!………なんて、気軽には言えないからね…」 「またこの街に来る事があれば、必ず会いに来ると約束するである。」 「その時は皆で歓迎しないとね…そしてどさくさに紛れて着床キメれば…フフフ…」 「……今のは聞かなかった事にしておこう。」 次来た時もこんな感じだったら帰ろう…我輩の身が危険だ… 「今日の分の仕事はまだ終わってない、さくっと片付けてしまおう。」 「そうだね…仕事終わったら飲むとしようじゃないか、輝の奢りでね。」 「うむ、盛大にやるであるか…我輩の奢りで。」 …小遣い足りるだろうか… まぁ、我輩の少ない小遣い程度で足りるわけもなく… 「んんー…プッハァァ!いやー今日はほんまにツイてるな、輝はん自らうちの胸ん中に飛び込んで来てくれるなんてな。」 「…こうなる事は予想出来たはずだ…我輩はどこで道を踏み外したのだ…?」 流石に払い切れない額になってきて頭を抱えている所へ弥生が現れ、酒代をポンッと払ってくれた。 …のはいいのだが、次の街に着くまで抱き枕になると言う条件を押し付けられてしまったである… 我輩的には、夜の睡眠は非常に重要なので何としても守りたいが、断って払うだけの金があるはずもなく… 「弥生様…偶にはご一緒させてもらってもよろしいですか?」 「ええでええで、桜花はんやアレクシアはんも遠慮せずに添い寝しに着てええで♪」 「…輝…あんた、男からもげろとかよく言われたりしないかい?」 「……いっそ、もげた方が平穏な生活が送れるかも知れん…」 「もげたらダメです師匠!そんな事したら赤ちゃんが………あっ…」 「ん?赤子がどうかしたのか?」 「な!ななな何でもないです!」 リシェル殿の顔が真っ赤だな…少々飲みすぎではないだろうか? あっ、言い忘れたが我輩がこの街で世話になった者達も呼んでいるであるからな。 それ故に小遣いが足りなくなったわけなのだが…理由はもう一つある。 「まったりとして飲みやすい…もっとじゃ!もっと持ってくるのじゃ!」 …いったい誰がこんな逸材が埋もれていると気づけるだろうか… 我輩が弥生に泣きつく原因になったもう一つの理由…バフォメット殿の存在だ。 あんな小さな体のどこに流し込んでいるのかは知らんが、この店で最も高い酒を樽飲みしているである… アカオニ殿とアオオニ殿が見たら歓喜しそうであるな…絶対に会わせたくないであるが。 「…ねえ輝ちゃん?」 「ん?」 考えるのをやめてちびちび飲んでいると、アレクシアが声をかけて来た。 「リシェルちゃんの事…どうするの?」 「………何もせずにそっとしておくのが良いだろう…」 「…本気で言ってるのそれ?」 「彼女の様な真面目な者には真っ当な道を進んで欲しいだけだ…我輩といる事は彼女にとって悪影響になりかねん。」 「…そう言う心配なら要らないと思うわよ?とっくに手遅れだと思うし。」 「ん?どう言う事で…」 「や、やめてください…」 詳細を聞こうとしたその時、リシェル殿の声が聞こえてきた。 振り返って見ると、リシェル殿が高級そうな服を着た長身の男性に纏わり付かれているのが見えた。 「貴方の様な美しい女性に傍にいて欲しいのです…さぁ、僕の手を取って。」 「わ、私は…その…ごめんなさい…」 「何故です?僕には使い切れないほどの金に国一番の実力…そして何よりも、他の追随を許さぬ美しさがある…こんな完璧な僕に不満があるのですか?」 「うぅ…助けて師匠…」 …なんだか知らんが、今無性に腹が立っているである… 「さて、どうするのかしら?」 「…我輩は彼女を弟子にした覚えはないし、彼女の事を特別気に入っているわけでもない……だが。」 弥生から木刀を借り、ゆっくりと席を立ち上がる。 「個人的にあの男が気に食わない、理由はそれだけで十分だ。」 「ほう…面白そうな事をしているな、私も混ぜろ。」 「むっ?……っ!?お前は…!」 我輩にそう提案してきた奴は……この前の襲撃者だった。 何故奴がここに… 「どう言うつもりであるか…」 「別に貴様をぶち殺しに来たわけじゃぁない、たまたまここで酒を飲んでいたら五月蝿いのがやってきて物凄く機嫌が悪いだけだ。」 そう言う彼女はかなり殺気立っているようで、今近づいたら両断されかねんな… 「貴殿があれをどうしようが我輩には関係はない…だが、一つだけ言わせて貰う。」 「何だ?言ってみろ。」 「殺そうとしたら止めに入って、ついでに胸を揉むから覚悟するであるぞ?」 「貴様如きが私を止めれるとでも?」 「逃げれるだけの時間が稼げれば問題はない。」 彼女から感じられる殺気がどんどんと強くなっていく… …ここで両断される可能性も見えてきたな……下手にかっこつけるんじゃなかった… なんて思ったが、彼女は急に笑い出した。 「はっはっはっ!面白い奴だ気に入ったぞ、最後に殺すのはお前にしてやる。」 「…喜んで良いのかそれは…」 「師匠!助けてください!」 複雑な気持ちのまま突っ立っていると、リシェル殿が我輩に抱きついてきた。 胸が当たtt…じゃなくて、自分よりも背の低いものに縋り付くと言うの何とも言えない光景であるな… 無論、リシェル殿が我輩に抱きついたおかげで矛先はこちらに向くわけで… 「むっ、私達の甘い一時を邪魔するとは…名を名乗りなさい!」 「ジョニーだ。」 「んっ?貴様の名は鉄輝だろう?何故本名を言わん。」 「こういうタイプの男は、ねちっこく嫌がらせをしてくるだろうから真面目に名乗りたくないである。」 「ジョニー鉄輝か…僕を敵に回したこと…後悔する事になりますよ?」 「しかも間違って覚えられてるであるし…」 自室に戻っておくべきだったな…うっとおしくで仕方がない。 僕に逆らった者はこうなるだとか、僕はこんなにも優れているから君では勝ち目がないだとか…もう帰りたい。 だがまぁ… 「…弟子が困っている時は師匠として手を差し伸べてやらんとな。」 「えっ!?師匠は私を弟子にした覚えはないって…」 「今弟子にした。」 「師匠…」 「言葉とはなんと無力なんだ…僕は誰も傷つけたくないと言うのに……仕方がありません。」 奴が指を鳴らすと、入り口の方からガラの悪そうな連中がゾロゾロと入ってきた。 「やってしまいなさい…彼を仕留めた者には報酬を上乗せしてあげますよ。」 武器を手にし、少しずつ距離をつめてくる… その時、我輩と男達の間にこの前の襲撃者が割って入った。 「貴様等の相手はこの私だ…鼠の様に逃げ果せるかこの場で死ぬか…どちらか選べぇい!」 「殺生はいかんぞ。」 「いつもの癖だ…今日も私は淑女的だからな、死なない程度に加減はしてやろう。」 雄叫びを上げ斬りかかって行く男達…が、彼女が戦斧で薙ぎ払っただけで半数近くが弾き飛ばされ、地に倒れ伏した。 その場にいた全員が唖然としている中、彼女が大声で言い放つ。 「来いよ!貴様等全員、微塵切りにしてやるよ!」 残った内の何人かが自棄気味に襲い掛かり、残りの者は倒れた者に道具のような物を使おうとしている。 その瞬間、襲い掛かってくる者には目もくれずに道具を使っていた者達に切りかかった。 「アイテムなんざ!使ってんじゃ!!ねぇぇぇぇぇぇい!!!」 突然の出来事に対応出来るはずもなく、次々と切り伏せられていく。 さらに、先ほど無視した奴等にも、振り向き様に戦斧で切り付ける。 「貴様等に私と戦う資格は無い!!」 その一線によって残りの者も一掃され、あの男の呼んだ男達は何も出来ないまま全滅してしまった… 見る限りでは全員息があるようだが…手加減してこれか… 「弱い…弱すぎる……貴様等では私の渇きを癒せはしないと言うのか…」 「そんな……こんな事って…」 「興醒めした…奴の処遇は貴様に任せる。」 そう言って、元の席へ戻って酒を飲み始める… …我輩が言えた口ではないが、こんなに無茶苦茶な奴がいるなんて信じられん… 「…良いでしょう、正々堂々僕と君の一騎打ちで勝負をしましょう。」 腰に挿していた細身の剣を抜き、切先を我輩に向ける。 仮にも国一番の実力者だ…気を引き締めてかからんといかんな。 「行きますよ!」 我輩に向かって一直線に突っ込んでくる男……これも何かの作戦の内なのだろうか… が、我輩の予想したような変則的な動きなどは一切無く、我輩に向かって細身の剣を突き刺そうとしてくるだけだった。 横へ避けながら木刀を剣の中腹に叩きつけると、あっさりと叩き落せてしまった。 「うわっ!?そ、そんな…」 驚いている様な表情の男の額に、容赦なく木刀を叩きつける。 我輩でも驚くほど綺麗に中り、男は白目を剥いて倒れた… ………… 「国一番の実力とはいったい…」 「山吹色のお菓子を配って回ったのではないでしょうか?」 「…適当に仕置きして寝よう…もう疲れた…」 紙に戯け者と書いて男の背中に貼り付ける…ついでだし、尻に木刀でも刺しておこう。 他の奴等は…縛るだけにして奴と一緒に外に放り出しとくか。 「ミラル殿とその他世話になった人…すまなかったである…」 「輝が謝る事じゃないよ、また今度飲む時に今日の分も楽しめば良いだけさ。」 「そう言ってもらえて気が楽になった…我輩は疲れたから休むである…」 部屋へ戻る前に、一つのテーブルへと歩み寄る。 そして、懐から酒を取り出して彼女の目の前に置いた。 「…何のつもりだ?」 「迷惑をかけたからな、詫びの代わりである。」 「貰ったとしても、貴様には加減なんてしてやらんぞ?」 「そんな事の為に我輩のとっておきを差し出す気はない、何も言わずに受け取るである。」 「…ふん。」 我輩の贈った酒を懐にしまい、酒場から出て行ってしまった… テーブルを見ると、彼女が飲んだ分の代金と思われるお金が置かれていた。 「あ、あの…」 「む?どうした?リシェル殿。」 「その…一人で寝るのが怖くて…」 「…仕方の無い弟子であるな…今日位は添い寝してやるである。」 「…ありがとうございます師匠!」 満面の笑みで我輩に抱きついている姿を見ると、無邪気な子供を見ているような気分になるな…背丈では我輩の方が子供に見えるのだがな。 さぁ、ゆっくり休んで明日に備えるとするであるか。 「ここで空気を読んで、添い寝しようって言わないうちって良い子やと思わへんか?」 「…本当に空気を読んだのかの?」 「…あの状況でうちと添い寝するんやって飛び込むなんて出来んやんかー!ほんまは輝はんとあんまい一夜を過ごしたかったんやー!」 「今日は私と一緒に寝ましょう?私の胸を貸してあげるから好きなだけ泣くといいわ。」 「……私にも胸があれば…」 「泣きたいのか?それならわっちの胸を貸すぞ?」 「傷口が広がりそうなのでやめておきます…」 なんて会話があったのはまた別のお話… 〜今日の観察記録〜 種族:ダンピール ヴァンパイアから生まれることのある彼女達であるが、彼女達に宿る魔力はヴァンパイアに対して絶大な効果をもたらすである。 彼女達の魔力に当てられたヴァンパイアは、日光に晒されているかのごとく力を失い、ニンニクを摂取したかのように理性や思考力を奪われてしまうようだ。 枠が足りないので説明しきれないが、上記の様な特性を持つ彼女達はヴァンパイアハンターとして旅に出る者もいるようだ。 「…こんな物で私の機嫌を取る気か…なめられたものだ……」 「何をしても殺されるというのに…酔狂な奴だ…」 「…思ったよりも美味いのがさらに私をイラつかせる……」 「……ふん…」 |