42ページ:マンドラゴラ・ガーゴイル・サラマンダー
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んんー……はぁ…今日もいい天気であるな。
まぁ、天気の良し悪しに左右されることなく、この店には客が来るであるからな…店番も楽じゃないである。 「おっ、サボらずにちゃんとやってるね。」 「こう言う所でサボったりすると、それが癖になってしまったりするからな…」 「その調子で頼むよ、がんばったらご褒美もあげるからさ。」 「褒美で釣るのはあまり良くないと思うぞ…」 満面の笑みを浮かべながら奥へと向かうミラル殿。 褒美か…いったい何をもらえるのだろうか? …いや、期待はしてないであるぞ?ご褒美はあたしさ!とか言うオチが想像出来るであるし。 なんて事を考えていると、店のドアが静かに開かれた。 「いらっしゃいである、用件はなんであるかな?」 「あ…あの……頼まれた物を……その…」 む…凄く緊張しているようであるな。 見たことのない種族なのが気になるが、先ずは彼女の緊張を解さんとな。 「………客人よ。」 「えっ?」 「落ち着きたまえ^^」 「凄く落ち着いた^^…………あっ…」 「取って食うようなことはしないから、落ち着いてゆっくり用件を言うである。」 「はい……あの…!」 「…ん?」 「…ありがとうございます…」 「礼を言われるようなことはしてないである。」 相変わらず、途中で詰まったり声が小さかったりで聞き取り辛いが、時折笑顔を見せるようになったであるな。 まぁ、何をしに来たかはどうでも良いので恒例の観察タイムといこうか… 先ず目を引くのが彼女の頭。 大きく美しい花が咲いており、我輩でもうっとりしてしまいそうな甘い香りが漂ってくる。 指先の一部が葉の様になっている他、彼女の足は植物の根を思わせる様な形をしているな。 目に優しい薄い緑色の肌の上に白衣を着ているようだが、胸元が少々きつそうであるな… …一言で観想を言うと、見ているだけでも健康になれそうな魔物であるな。 「あの…聞いてました…?」 「ミラル殿を呼んでくればいいのだろう?椅子を出すからそれに座って待っていて欲しいである。」 その辺にあった椅子を彼女の元へ持って行き、座るように促してから奥へ行く。 奥の工房では、ミラル殿と他のドワーフ達が汗水を流して金槌を振り回していた。 「ミラル殿、頭に花の咲いた人が来てるであるぞ。」 「頭に花…あぁ、マンドラゴラさんね、もう少ししたら行くからそれまで相手してあげてね。」 「了解である。」 むぅ…話すと言っても何を話せばいいのやら… 植物に特別詳しいわけでもないし…ぬーん… 「すみません、うちの嫁が来て…ん?」 「む?客であるか?」 「一応客の連れですが…いったい何を?」 「薬剤調合が得意だと聞いたからちょっとご教授してもらっているである。」 「あなたも来たの?一緒に教えましょう。」 あれから数分後、いろいろあって彼女に薬剤調合を習っていると一人の男性が店にやってきた。 細身で長身、眼鏡と白衣の似合う青年であるな… 連れと言う事は…マンドラゴラ殿の夫であるか。 「…頼んでいたものはどうしたんだい?」 「………あっ…」 「心配しなくてもまだ出来てないである、ついでだしゆっくりしていくといい。」 「そうなんですか…ではお言葉に甘えて。」 青年に椅子を出してやると、軽く会釈をしながら椅子に座った。 「後どれくらい掛かりますか?」 「大分掛かるんじゃないか?バフォメット殿の魔法が暴発して全部ダメになったとか嘆いていたであるし…」 「むっ…困ったな、あんまり留守に出来ないしなぁ…」 「あ、私が受け取ってくるので先に帰っていても良いですよ。」 「君の事が心配なんだよ…」 「あ…あなたったら…」 おぉ、熱い熱い。 これだけ熱々ならさぞかし夜の方も……って、我輩は何を考えているんだ… …話題を変えよう、我輩まで熱が出そうだ。 「ふと気になったのだが、二人はどうやって出会ったのであるか?」 「うーん…面白くもない話でよければお話しますよ?妻の容姿のおかげで結構聞かれるので。」 「頼むである。」 我輩が頼むと、ゆっくりと語りだしてくれた… ……のだが、出会ってから今日までの事を隅から隅まで話し出したので省かせて貰うである。 重要な事だけ書くと… 薬草取りの途中で魔物に襲われ、無我夢中で逃げているうちに森の奥へ入ってしまい、そこで彼女を見つけて引っこ抜いてしまったらしい。 彼女が現在の姿なのは、単に森の奥深くに埋まっていたせいで誰にも気づかれなかったかららしい。 まぁ、それはそれとしてだ。 「ところで…ひとつ聞きたいことがあるのだが。」 「昨日もメスと間違えて自分を渡そうとしたり……ん?なんでしょうか?」 「…胸の感触はどうなのであるか?」 「ほんの少し固めですけど、揉み応えがあってとっても私好みです。」 「っ!!?あなた!!」 顔を真っ赤にしてポカポカと可愛らしく夫を叩くマンドラゴラ殿…叩かれている方は鼻血が凄い事になっているであるな… なんて和やかな雰囲気だったが… 「お、お医者様!大変です!」 そう言って、息も絶え絶えに一人の男が飛び込んできた。 なにやらただならぬ雰囲気であるな…何かあったのか? 「先ずは落ち着いて、ゆっくりと事情をお話ください。」 「す、すみません……石化した人間が街道の真ん中に…」 「ふむ…そこまで案内してもらえますか?」 「はい…こちらです。」 医者の男は、入ってきた男に続いて店を出て行ったであるな… その後を追うようにマンドラゴラ殿も行ってしまった… そして一人残された我輩……… …少しくらい席を外しても問題ないだろう、うん問題はない。 「「「…………」」」 「お医者様!早く治してあげて下さい!」 「…あの…これは治す必要がない気がするんですが?」 「私もそう思います…けど…」 「こうも堂々と道を塞がれてはな…」 男…といつまでも呼び続けるのも可愛そうであるな…装備と見た目で剣士と呼ぼう。 んで、彼について行くと普通では見れないような光景を目の当たりにした。 何が起こっているのかは察しのいい読者諸君なら分かったかもしれないが、道のど真ん中に魔物とつながった状態で石化している男性があったである。 「夜になれば勝手に戻りますし…治療具もタダではないので…」 「でも、そのままにしてたら商人さんが困ると思うんですが…」 「三人も男がいるのですから運べない事はないと思いますが?」 「見た目が子供の様な我輩にも手伝えと?手伝うけど。」 「…三人で担げば何とかなるでしょうか。」 石像に近付き、医者と剣士が力を合わせて担ぎ上げる。 ふむ、二人でやっと持ち上げれる程度か…我輩も加われば運ぶのに苦労はしないだろう。 そう思って近付いたとき、我輩は気づいてしまった… 「「………」」 「…届いてませんね…」 剣士の男も医者の男と同じくらいの背丈…そこまではいい。 問題なのは、背伸びをしてやっと僅かな重量感を感じる程度にしか届かない事である。 「…私達二人で運びますから、二人で診療所の方へ行っててください。」 「分かりました。」 「その…すまん。」 「…やっぱり大人しく店番をしておけばよかったである…」 帰ったらミラル殿に叱られるのだろうな…今日はついてないである… 「迷惑をかけちゃったわね…ごめんなさい。」 「だから野外プレイはやめようってあれほど言ったじゃないか…」 日が沈んで約一時間後、我輩達は事後報告を兼ねて酒場へと集まった。 石像男とその妻の魔物…ガーゴイルであるな…その両名は迷惑をかけたお詫びにと我輩達に酒を奢ってくれたである。 我輩はなんにもしてないのだがな。 「何もしてないとは言ってますけど、金の針を提供してくれたではないですか。」 「仲魔の扱ってた商品の一つなのだがな…支払いが怖いである…」 「でも助かりましたよ、この町では入手が難しいので…」 む?どう言う事だろうか? 「そこについてはうちが説明するで。」 「どちら様でしょうか?」 「仲魔の一人…形部狸の弥生である。」 「この町は金属製品は十分過ぎるくらい充実してるけど、それ以外の物は食料品以外は行商だとか他の街からの支援に頼ってるみたいなんよ。」 「ふむ…そうなのか。」 「ついでに言うと、この街の医者はそこの兄さんだけやで。」 「そ、そんなに大それたものではないですよ。」 なるほど、それで治療具の心配をしていたのか。 在庫が限られているからこそ本当に必要な時意外は使えないか…大変そうであるな… 「…弥生。」 「ん?」 「知り合いの行商人で良心的な者に心当たりはないであるか?」 「もちろんあるで?話を通してもええけど…分かるやろ?」 「…せめて精力剤くらいは無償で頼む…」 「いいのですか?」 「うちは構わんよ?ちょっと声かけるだけやし、その後どうするかは当人等が決める事やし。」 「ですが、お礼の一つくらいは言わせてください…ありがとうございます。」 深々と頭を下げる医者殿と、同じように頭を下げるマンドラゴラ殿。 多少のことでも助けになれて良かったである……我輩なんにもしてないけど。 ……それは良いとしてだ。 「剣士殿…」 「ん?どうしましたか?」 「後ろ後ろ。」 「えっ?……貴方はさっきの…」 剣士殿の後ろには、大き目な剣を持った魔物が立っている。 背は高めで肌は褐色、手足はリザードマンを連想させる様な鱗に覆われている。 何よりも特徴的なのは彼女の尻尾…彼女の尻尾は炎を纏っているが、不思議と熱さは感じない。 別固体ではあるが以前に遭遇したことはあるな、サラマンダーである。 「約束だ!私と戦え!」 「いや…確かに言ったけど、あれは遠まわしに断ったのであって本当にやるつもりは…」 「表に出ろ!」 「わ、分かったから!引きずらないでください!」 突然の出来事に、我輩達含め酒場の客が二人の方に注目する。 ある者はグラスを持って店の外へ向かい、またある者は興味無さそうに酒を飲み始めた。 ……面白そうだし見に行くであるか。 「私達は昨日の続きでもしましょうか?」 「…楽しむのは結構だが、迷惑にならんようにな…」 「お、やってるであるな。」 「普通に見てたらよう分からんまま終わってたかも知れへんな…桜花はんに頼んで正解やったわ。」 「争いなぞ見て何が楽しいのか…わっちには理解できぬ。」 我輩達が外に出た頃には、既に決闘が始まっていた。 特に明かりがあるわけでもないが、サラマンダーの尾のおかげでよく見えるである。 ちなみに、我輩達は桜花に乗せてもらって上から見ているである。 何でって?普通に見たら人混みで見えないのと、我輩達の部屋が街道に面していないからである。 「なんや、あの剣士の兄さんなかなかやるな。」 「人は見かけによらないと言う言葉もある、見かけだけで判断すると痛い目にあうぞ?」 「うちがそんな初歩的な間違いをするとでも?」 「思っているわけがないだろう。」 積極的に攻めるサラマンダー…剣士殿は守る一方ではあるが、上手い具合にサラマンダーの猛攻を捌いている。 これは長引きそうだな……つまりは…そう言う事だ。 「ん?どんどん明るくなっておるぞ?」 「尾の炎が激しくなってるのであるな。」 「うちはサラマンダーの告白現場を見たことないからなー、早く見たくて堪らんわ。」 弥生は我慢出来ない子とな……ふむ… …む?やり合ってる二人が何かを喋っているな… 「楽しい!こんなの初めてだ!」 「随分と余裕がありますね…こっちは受けるので精一杯だと言うのに…」 「お前もやれ!」 「攻撃しろ…と言う事ですか?」 「そうだ!」 「…分かりました、貴方がもっと楽しめるように全力で行きますよ!」 おぉ、中々良い一撃であるな…サラマンダーはまだまだ余裕があるようだが。 今のでさらに勢いが増したであるな…これはもう確定だろうか。 「…ほ、本当にあの人間は大丈夫なのかの?」 「実力的にはサラマンダーの方がやや有利だが、剣士殿も中々の実力者の様だからな…避けれなかったとしても、急所を逸らす位は出来るだろう。」 心配そうに眺めている桜花…やはり、彼女にこれを見せるのは酷だっただろうか? まぁ、結末が予想出来る戦いであるし、今結論を述べるのはちょっと早いな… あっ、剣士殿の剣が弾かれた。 「くっ…」 「………」 「私の負けですね…」 「……だ…」 「ん?今何て…」 「好きだ!」 彼女の一言で、その場にいた全員が静まり返る。 弥生は目を輝かせ、桜花は驚いた様に二人の方に注目しているな。 まぁ、我輩もサラマンダーの告白を見るのは初めてだから凝視しているのであるがな。 「私の番になれ!」 「いや…私達は今日出会ったばかりで…」 「関係ない!お前の事が好きだ!」 「そ、それに私はそんなに強くないですし…」 「私と修行すれば良い!」 「ですから…その…」 「…私の事…嫌いなのか?」 「そう言うわけではなくてですね…あぁもう、どう説明すればいいのやら…」 うーん…噂通り、見ているこっちが熱くなりそうな告白であるな… 隣の二人も、固唾を呑んで見守っているな…彼はどう答えるか… 「そう言う事は、友達から始めるもので…」 「友達を前提に私の番になれ!」 「普通は逆でしょう……本当に、私なんかで良いのでしょうか?」 「違う!お前が良いんだ!お前しかいない!!お前以外は考えられない!!!」 「…剣士ですよ、共にいるならちゃんと名前で呼んでください。」 「剣士!早速子作りだ!」 「うえぇっ!?ちょ、ちょっと急すぎませんか!?」 「脱げ!今すぐ!!ハリィハリィィィ!!!」 「それに人目も…んむっ!?」 わぁお…なんとも大胆な… 野次馬の皆さんも、祝福したり前屈みになったりもげろと野次ったり大変そうである。 …なんか、野次を飛ばしてる一部の者がこっちを向きながら言ってる気がするが、多分気のせいだろう。 「えぇなぁ…うちももっと輝はんに情熱的に求められたいわぁ…」 「我輩が我輩である限り、そう言う事はないから諦めるである。」 「…争いにもいろいろあるのじゃな…」 「戦う理由次第で良くも悪くもなるであるからな…あれは良い方の例であるな。」 「認識を改めねばならんの、よく知りもしないで嫌うなぞ美しくない。」 「…そう遠くないうちに悪い例も見れるだろうから、その考えは少しだけ残しておくと良いと思うである。」 さて…我輩達はそろそろ戻るであるか。 このままだと情事を見て二人が発情しかねん… 〜今日の観察記録〜 種族:マンドラゴラ 女性の姿をした根を持つ植物型の魔物で、頭部には美しく甘い香りを放つ花が咲いているである。 人間の男性が彼女達の近くに行ってしまうと、甘い香りにつられ、無性に引き抜きたくなってしまうようである。 人間の男性に引き抜かれると甲高い悲鳴を上げるようで、この悲鳴を聞いたものは理性を封じられてしまい、本能のまま目の前の彼女達に襲い掛かってしまうらしい。 種族:ガーゴイル 悪魔の魂が宿り、魔物となった石像である。 普段は聖なる鎖と台座によって封じられている様で、あまり動くことはない。 だが、台座が傷つくと封印が解かれてしまうらしく、餌となる人間の男性を求めて大きな翼で飛び回るようになってしまうので、間違っても台座に手を出してはいけない。 種族:サラマンダー 彼女達の尾の炎は、彼女達の興奮の度合いに比例して大きく激しいものへと変わっていくである。 本来なら、戦いが終われば彼女達の興奮も収まり、それに合わせて炎の勢いも収まっていくのだが、いつまで経っても勢いが収まらない場合がある。 彼女達にとってその戦いが最高のものであり、相手の男性を最高の好敵手と認めた場合にこうなるようで、その事に彼女達は喜び、この上ない興奮を覚えるらしいのだ。
12/07/19 22:34 up
DL
過去最長記録更新なう。 今回のSSは詰まっていた所にネタを提供してくださったおかげで完成いたしました。 この場を借りてお礼と謝罪を… ネタ提供ありがとうございます、そして希望通りに書けていなかったらごめんなさい。 白い黒猫 |