連載小説
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武術を教えてください!
「ハア……」
門から出る。
「「「「「いってらっしゃいませ!坊ちゃま!!」」」」」
メイドや執事が総出で送る。
「ハア……」
坊ちゃま、か。
僕の名前はセスト・エイヴェント。14歳。この町で、一番の、世界で五本指に入る大商人の息子だ。お父さんは凄い。威厳、めちゃくちゃある。財力、他と比べる必要が無い。名声、とんでもない。権力、ヤバイ。やる気、良く分からないがあるみたい。
そんな一人息子は威厳、なし。財力、あるけど有用に使えない。名声、とんでもない、ただし、あまりにも平凡且つひ弱として。権力、あるけど有用に使えない。やる気、あるけど気力だけじゃできない。
つまり駄目人間ではないが、雑魚人間だ。
そんな僕、子供の頃からしょっちゅう苛められてきた。曰く、ひ弱だから。曰く、苛めても誰にも言わないから。曰く、真面目でムカつくから。曰く、ムカつくから。
……理不尽だ…。
そして僕が苛められる最大の理由…。
「おい、コラ!金あんだろ!金!」
「や、やめてくれ……」
何人かの少年が一人の乞食を取り巻いている。
「うっせえよ!何がやめてくれだ。善良な市民から金巻き上げてる奴がガタガタ言ってんじゃねえよ!」
「グフッ」
「あっ」
乞食のおじさんが蹴り上げられる。
「おら、立てよ!」
グイと無理やり立たせる。
「ほ〜ら、お金はどこでちゅか〜」
ギャハハハ、と一斉に笑う。
(あ〜あ、やってるよ)
僕はいつものように素通りしようと思った。
(なんであんな事するのかな〜)
自分はあんな事したくない。
(おもしろいんだろうか、ああ、やだやだ無視無視。ホラ、皆も無視してるし)
そんなことを考えながら、
「お、おい!お前らあああ!」
(ああ、またやっちゃった)
いつも通り無視できなかった。
「あん?」
取り巻きが気付く。
「……あは!、これはこれはお坊ちゃま〜」
乞食を放し、全員がこっちに向かってくる。
その好きに乞食が逃げる。
(……良かった…、って全然よくない)
「お坊ちゃま〜、今日も俺達に恵んでくれるんですか〜?」
ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
(ああ、またやっちゃった)
そうして僕は後ろを振り向き、ダッと駆け出した。
「待てやあ!こらあああああ!」
いつも通りの鬼ごっこが始まった。
僕が苛められる最大の理由。
おせっかい。

いつものようにどこかの路地に追い込まれ、いつものようにボロボロになった。
「……ウウ」
金目の物、服意外全部取られた。なんだかどんどん手際よくなってるような気がする。取る方も……取られる方も…。
いつも通り学び舎に向かう、これで着いたら今日は終了だ。
なにせ僕には友達がいない……。信頼できる人は……せいぜい屋敷の人ぐらいだ…。情けない…。


「ただいま〜」
「「「「「お帰りなさいませ。お坊ちゃま」」」」」
「うん」
「お坊ちゃま、ささ、お風呂に」
「うん。いつも通り一人で入るね」
「はい」
じゃないと傷がばれちゃうから。
「お召し物と、それからご夕食の準備を」
「「はい」」
屋敷が慌しくなる。
(はあ、今日もなんとか終わった)
だが、今日はいつもと少し違った。
「坊ちゃま、ご主人様がお呼びです」
「え?」
食事がちょうど終わった後だった。
「お父さんが来てるの?」
「はい」
「分かった」
急いでお父さんの部屋に向かう。
会うのは一ヶ月ぶりだ。今回は早いほうだった。
「お父さん、入るよ」
ガチャ
「おお、来たか」
太い腹を揺すり、お父さんが振り向く。
お父さんは太っている。別に食べ過ぎたからじゃない。体質のせいだ。
それでもその威厳はまったく損なわれない。まあ体質だから当たり前か。
「……元気だったか?」
「うん」
「そうか。……その顔の傷はどうした?」
「ああ、学校の帰りに小石につまずいちゃて」
陳腐な嘘のように思えるが、僕の場合子供の頃しょっちゅうこけていた。もうドジっ子とかそんなレベルじゃなくて…。
「……フ〜」
お父さんが呆れたようにため息をつく。
そりゃあそうだろう。僕もため息をつきたい。
「体の調子はどうだ?」
「まあまあかな」
「そうか。気をつけろ、お前は昔から体が弱い」
「うん。分かってるよ」
「……体は鍛えたりしているのか?」
「うん」
実際僕は毎日鍛えている。腕立て伏せや上体起こし、走りこみ。
未だにどれも人並みいかだが……。
何故だろう……。
「……今日は一旦書類上の整理をするために帰ってきた。また明日出る」
「うん」
「……よし、久しぶりに会ってなんだが、行って来る」
「行ってらっしゃい」
「……お休み」
「お休み」
その日はそれでお父さんとの会話は終わった。

「……」
なんでだろう?今日はなかなか寝付けない。理由は分かる。
さっきからずっと自分のことを考えていたからだ。
僕はなんでこんなに弱いんだろう。精神力はあると思う。
問題は体だ。……でも、今日も鍛えて見たけどまったく効果が無い。
本当に何でだろう…。
「クフッ……」
いけない、今日は駄目だ。涙が出てきてしまう。
「クッ……ウウ……フッ」
必死で嗚咽をかみ殺す。
強くなりたいわけじゃない。ただ、人に意見を堂々と言えるような体を、せめて逃げ切れるようになりたい……。
「ウウウ……ウッ…ウウ」
結局その晩は泣きながら眠った。


「「「「「いってらっしゃいませ!坊ちゃま!!」」」」」
今日も一日が始まった。
「行ってきます」
いつもの道を辿る。
そしていつものようにあいつらがいた。
「おい、ガキンチョ、さっき買ったアメだせ」
「ヒック、ヒック」
子供二人組みをいつもの不良が囲んでいる。
すでに子供は半泣きだ。
「おい!出せよ!コラ!」
「なめてんのか!ああ!?はああ!?」
「で、でも……これ僕の」
「うっせえんだよ〜〜ん!!」
ドン!と子供を押す。
「アウッ!」
「よええええ!」
ギャハハハハと笑う。
いつも通り誰もが見ぬ振りをしている。
おそらく今押されたであろう子供の母親がおろおろと今にも泣き崩れそうになっている。それでも助けに入らない。当然だ。あいつらのリーダーの父親は傭兵だ。それもヤバイ。前に止めに入った大人が次の日にその父親に半殺しにされた。腕と足が片方ずつ折れ、頭を重点的にしこたま殴られた。
(ハア、関わりたくない)
それでもやっぱり僕は口を出してしまうんだろう。
「おい!お前ら!やめろよ!」
僕だけの特権、それは、昔から殴られているからこそあいつらも本気にならないということだ。
「ああん!?」
そのうちのリーダーに睨まれた。
「これはこれはお坊ちゃま〜、いつもいつも寄付してくれてサンキュー!」
子供たちから僕に視線が集まる。
(さて…)
僕は逃げ出した。

捕まった。いつも路地まで追い込まれる。
「おいおい、いつもの台詞だけどよお、お前ホント懲りねえよなあ」
いつも最初に話しかける奴がいつも通り話し出す。
「ああ、懲りねえ」
二人目。
「そんじゃあ、今日もいっちょ」
三人目。
「……確かにいつも通りだな」
四人……あれ?いつもと違う。
「いつも通りはもう飽きた」
まずい。リーダーだ。
「今日は実験して見ようぜ」
「実験?」
「ああ」
僕に近づいてくる。
「技の実験だ」
そうして僕のお腹を蹴った。
「ボフウウッ」
目が暗くなる。何だこれ!
溜まらず地面に両手をつく。
「おお!何だそれ!」
「親父に教えてもらったんだ。ちょうど肝臓と肺の間を狙う、すると…」
そこで一旦言葉を切った。
「すると……どうなるんだ」
「……いつかは死ぬらしい」
「……まじか?」
「知らねえ。だから試すんだろ」
「おいおい」
「安心しろ、同じ技はかけねえよ」
「他にもあんのか!?」
「ああ、次は…」
首を持ち上げられる。
「こうだ!」
ドン!と首を膝に落とす。
「……!!」
声が出なかった。
「おいおい!折れたんじゃねえか!?」
「かもな」
「かもって……」
「いいじゃねえか、どうせこいつの事なんて誰も気にしねえよ」
そう言いながらまだ声が出ない僕を壁に押し付けて、
「フン!」
腕を胸に叩き込んだ。
「カハアアアア!」
声が出たが嬉しくは無い。
「ア……アア……アア」
息ができない。
「ピュ〜」
「すげえ」
「まじで殺るかもな」
「ああ、そうかも」
ああ、僕、ここで死ぬんだ……。
息は少しずつできるようになったがもう力も出ない。
そんな僕を地べたに寝かせ、
「次は……」
足を振り上げ、かかとで頭を狙う。
ああ、残念。これ、死んだ。
そうしてかかとが打ち込まれそうになった時、
バシイン!
「ウ!」
リーダーが壁に当たる。
なんだ?
「なんだ?!」
「ああ!?」
「おいおい、お前らまじで殺す気か?」
目の前(倒れてるから相手は立っている)に男の姿があった。僕とそう年は違わないかもしれない。ややボサボサの黒髪、ボロボロの茶色いケープのようなマントのような羽織。腰には変な紋様の入った剣を吊るしている。
「やれやれ、調子にのった野郎共が軽はずみに殺しの技をかけやがって、どうかしてるね。それをする奴も、教える馬鹿も」
「ク……。んだとお!」
リーダーは男を睨みつける。
「ん?怒った?悪い、急いで止めなくちゃと思って走ってたら勢い余ってぶつかっちゃったよ」
「ああ!どこに目ぇつけてんだてめええ!」
取り巻きの一人が男に近づいてすごむ。
「え?目?あるじゃん、ここに」
「ああ!?」
「え?良く見えない?しょうがないなあ、ほらここら辺だ。お前だと……」
スっと男が右手を挙げる。
「……ここら辺」
そのまま相手の目の横をスッと通らせた。
「イッ、ガアアアア!」
突然相手が目を抑えて叫びだした。
「いてえええ、何も見えねええ!」
「馬鹿野郎!目閉じてるからだろ!」
「いや、見えないと思うよ。もう一生」
え?
場の空気が凍りつく。
「……うっそ〜〜ん。まあでも今日一日は見えないな。うん」
「な……な…」
「なんだ?お前らも目の位置が分からないのか?うん?しょうがねえなあ」
男がまた右手を挙げる。
「う……うう」
凄い、こいつら皆気圧されてる。
「…ちっ、おい!誰かそいつ抱えろ!!逃げるぞ!!」
リーダーの一声でサッと動いた。
去り際にリーダーが捨て台詞を残す。
「てめえ!覚えてろよ!!親父が来たらボコボコにしてやる!」
「おっ!感心感心!敵わない奴からはすぐに逃げてかつ逃げ際に威嚇し報復宣言を出してくるとは、君なかなかやるな〜」
思わぬ男の賛辞にリーダーは面食らったようだ。
しかしその後、
「ただし……」
こっちに目を向けていないのに、ゾッとした。
「それは、宣戦布告、と捉えていいんだろうなあ……」
今さっきの明るい声とはまったく違う低く、怖い声を出している。
怖い、本当にそんな表現が似合う。いったい今どんな顔をしているんだろうか。リーダーはすでに声を出された瞬間に逃げている。
「……さて。坊主?」
こっちに近づいてきた。
「大丈夫か?」
「ゲッホッ、ヴァい」
「大丈夫じゃねえな。よっ」
担ぎ上げられる。
痛い、と思ったが……痛くなかった。
「ああ、しゃべんなくていいぜ。お前の家、あのでっかい屋敷だろ?」
そう言って、男は駆け出した。
その時も普通は振動が来て痛いはずだが、不思議とまったく痛くなかった。


「……」
目が覚めた。それにしてもさっきの騒ぎは酷かった。
『坊ちゃま?……坊ちゃまアアアア!』
帰ってきた当初は執事が発狂寸前の声をだした。
『落ち着けええ!馬車に引かれているが傷は浅い!まあ危ないんだけど!!』
『……落ち着けんわアアアアアア!!』
『任せろ!内臓が痛んでるんだ!一旦定位置に戻してやれば問題ない!』
『し、しかし!』
『不安なら医者呼んどけ!足しにはなるだろうしな!それよりお湯持って来い!お湯!』
そこで僕の意識は途切れた。
「起きたか」
横であの男がいた。
「……ありがとうございます」
良かった。普通の声が出る。
「……ウックフウウ…」
涙が出てきた。
「いてえのか?」
「……はい。でも、それで……泣いてるんじゃないんです…」
「……」
「悔しくて……、ちゃんと、鍛えてるのに……!クフッ!」
「……憎いのか?」
「……そういうわけじゃ、ありません!」
「じゃあ鍛えてどうする?やり返すのか?」
「違います…。そんなんじゃ、ないんです。ただ、僕は対等に……渡り合えるようになりたい。……話が出来るようになりたい!せめて止めて、逃げれるようになりたいんです!」
「……」
「カフッ……ウウ……」
ひとしきり泣いた後。
「……僕に武術を教えてくれませんか…」
「……武術ねえ」
「迷惑ですか?」
「……いや」
「では、素質が?」
「正直、武術習うのに素質どうこうなんていらねえよ。弱い奴でも習って使えばそれが武術さ」
「僕は、習っても意味がないんでしょうか?」
「いや、そういうわけじゃない」
「僕が…ひ弱だからでしょうか」
「体がか?」
「はい」
「ふ〜む。お前鍛えてんのか?」
「はい」
「それは普通の、例えば、筋トレとか?」
「はい」
「それじゃあ駄目だな」
「え?」
「筋トレとかってのはあくまで自分の体をギリギリ健全な常態にするためのものだ。つまり、元がひ弱な奴がそれをやっても、ひ弱なままのギリギリの健全常態を保つだけだ」
なんてことだ…。
「それじゃあ、僕は、駄目なんでしょうか?意味がなかったんでしょうか?」
「いいや、意味はある」
僕の目を見つめる。
「意味はある。要するに自分の限界を突破するには自分の最高の状態から徐々に底上げしていかなきゃいけない。つまり、あんたはもういまからでも底上げできるってわけだ」
「じゃあ!」
「ああ、教えてやる。俺でよければな」
「そんな、とんでもない!」
あの時リーダーを一瞬で吹っ飛ばしたのは偶然じゃないはずだ。この人は強い!……たぶん…。
「……しかし、俺が武術を教えるかあ。初めてなんだがな」
「そうなんですか!?」
「ああ、心配か?」
「う、い、いえ」
「ハッハッ。まあ安心しろ。確実に強くしてやるよ。……ついてこれればな」
後ろのほうが先程聞いたあの怖い声だったんだけど……。
「ちなみに、俺が教えてこなかった理由は一つだ。どうにも武術を何かを壊すために習うような奴が多くてな」
「?そうでは、ないのですか?」
「……お前はさっきの奴らを徹底的に壊したいか?死ぬまで?」
「いや!そんな!」
死ぬまでだなんて……それじゃあ殺す事とおなじじゃん!
「だろ?だが、最初から壊す気分で習うといつかはそうなる。だから俺は誰にも教えてこなかったんだ。ま、俺に教えを請うような奴自体あんまいなかったんだけどな。年も若いペイペイに見えるし」
「そうですか……」
「そいじゃあ、一旦今日は休め、修行は明日からだ」
「はい!」
「一応言っておくが……信じろ」
そうして出ていった。
信じろ?何をだろうか?……だんだん不安になってきた。大丈夫だよね?うん、大丈夫。大丈夫。大丈夫…。

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」
大丈夫じゃ無かったアアアアああああアアああ!!
今僕は回されている。師匠の手によって……。
腰に手をあて、足を自分の腰に絡ませ、そのまま回り始めたのだ。溜まらず目を瞑っている。
「ししょおおおおおお!アアアアアアアア!これは一体なんの修行ですかああああああああ!??」
「ちぎれとびそうだろ!!それを耐える修行だ!」
グルグル回りながらも師匠はまったく声が裏返らないし、伸びない。
「耐えるってえええええ痛みですかああああ!?」
「違う!痛くならないように筋肉を鍛えるんだ、主に胴体の筋肉全般、そして腕を!」
「えええええ!?腕ええええええええ!?」
意味が分からない。確かに千切れないように胴体に力を入れているが、まだ腕はフヨフヨと浮かぶ程度の速さだ。いや、それでも十分速いんだが……あれ?ってことは!!
「集中しろよお!これからどんどん速くするからなあ!目を瞑って体を固めろおおおお!」
「アアアアアアアアアアアア!」
さらに回転が速まった。同時に腕が遠心力で外側に引っ張られる。
「あだだだだっだだだだだいいいいい!!腕ええええええ!」
「口を閉じろおお!集中しやがれ!」
「アバババババババババ!!」
            ・
            ・
            ・
「ゼエ……ゼエ…」
死ぬ、もう死ぬ。確かにこれは鍛えられる…。鍛えなられなければ泣いてしまうかも…。
(じいや、間違ってたよ…)
ちなみにお坊ちゃまである僕をこんな人気の無い平原にまで引っ張ってくるまでには様々なゴタゴタがあった。
曰く、遠出をしているお父さんが帰ってくるまで待つように。曰く、助けてはもらったがこんな小汚い男を家にいさせるわけにはいかない。曰く、自分を勇者と言っている輩はまず怪しい、何もかも。
それに対する対抗、その一、お父さんが来るまでに今度こそ僕は体を頑丈にしたい事。その二、『俺は別に泊まらなくてもいいし、飯もいい。外で食べる』その三、こればかりはこの男の実力を見なければ分からない。
じいやはしきりについてきたかったが(もちろん他の人達も)、師匠が秘伝の教え方は見せられない、と。そのために僕が本気で泣きついて今日一日だけ様子見ということになった。当たり前じゃん!だって命がかかってるかもしれないんだもん!!
ということでここまで来たわけだが、
(じいや、間違ってたよ……)チラ、と遠くで何かを作っている師匠を見る。
あれ程激しく回ったのにヘッ!ちゃらな顔をしている。
(この人は勇者だ……もう、絶対。じゃなきゃ、化け物だうん。いや、化け物の方が近いかも……)
そんな事を思っていると、
「ホレ、次はこれ」
鍬を渡してきた。
「?」
持とうとすると、
「おっと、ちゃんと立ってから持て」
「?」
立ってから取ろうとする。
「渡すぞ」
「…はい」
「いいな?渡すからな?」
「……」
「気合入れろよ」
「……」
嫌な気配がしたので手を下げようとすると、
ガシッ
無理矢理握らされ、「うおおおお!」
グン、と腕が下がる。
「重っ!!」
「特別性だからな。お前用だから頑張ればも持てるだろ?」
確かに持てる。頑張れば…。まだ僕とあって間もないのにもう僕の筋力なんかを把握してるなんて……なんて人だ。
そんな感想を持つが、やはり重い。
「これで……どうするんですか?」
「種まきだ」
スッと袋を渡す。うわ、結構多く入ってそうだ。
手を差し出して取ろうとする。
「……気合入れろよ」
今度は反射的に手が下がった。
ズシン 「グアアアア!」
無駄だった。
「重いいいい!」
鍬とプラスされて非常に重い。
「な、んんですかこれええ…!」
「特殊な金属の玉だ。これをまずは鍬で耕して、一つずつ埋めていく。するとどんどん軽くなっていく。どうだ、辛いのは最初だけだ」
鍬だけでも辛いんですけど。
「そいじゃあ開始」
仕方なく始めた。重い。

終わった。軽い。だが重さが軽いんじゃない。もう感覚が無いから軽い。
鍬も持ってるんだが何も感じない。気付けばもう夜が近づいている。
「終わったか」
「は………い…」
「よし、そいじゃあ後片付けだ」
……え?
「え?」
「後片付け。こんな重い玉埋め込んでも意味ねえだろ。全部片付けて、そんでクワで耕したものを…」
スッと石の塊でできた巨大トンボを掲げて、
「これで直す」
倒れた。
……起こされた。


「はっ!」
チュンチュン……
いつの間にか朝だった。
「クオオオ!」
体を起こそうとすると全身が悲鳴を上げる。
なんだこれ?筋肉痛!?
「筋肉痛じゃねえぞ」
横に師匠がいた。
「筋肉が新しい体にするかどうか迷ってんだ」
……ホントですか……。
「さ、今日も修行だ」
マジで!!
「じ、じいや……」
今日は無理だ。今日は無理。絶対。
「坊ちゃま!」
どうやら横で待機していたらしい。
「じいや……ちょっと、今日は…」
「この、アルフ!齢65年!坊ちゃまにお仕して14年!あんな坊ちゃまのお言葉を頂くと感無量です!」
あんな言葉?
「昨夜!私は驚きました!坊ちゃまの全てが吹っ切れたかのようなお顔!ドロドロになったにも関わらず泣き喚く私におかけくださったお言葉!『じいや、僕今日スッキリしたよ!なんだか、力が溢れてくるんだ!この人は本当に勇者様だよ!ほら、見て』、と!一気に窓まで飛び上がったあのお姿!驚き急いで部屋へ向かえばなんともう寝ていらっしゃる!!このじいや!アルフ!感無量ですぞおお!」
……まったく記憶にない…。
「あの…じい「お主!いや!勇者様!!」
ハッシと師匠の両手を掴む。
「どうか!坊ちゃまをお願いしましたぞ!」
「ああ、任せろ!」
そこで僕を見て、フッ、
と笑った。
……あんたかあああああああ!!
おそらく僕の声はこの人の腹話術+声真似、僕が飛んでいったのはこの人が投げたせい!僕が寝ていたのはじいやが屋敷の中に入って僕の部屋に着くまでにこの人が高速で窓から入り、僕の身だしなみを整えたため!そうしてじいやが入ってくるタイミングを見計らって扉の影に隠れ何食わぬ顔で後ろから現れる。証拠はない。だが確信した。今の笑みで!!
「ささ、それでは坊ちゃま急いでください。ご支度はできています」
支度?
「ああ、昨日お前が修行を気に入ったんでな。今日からお前の親父が戻ってくるまでの二週間の間外で修行だ。もちろん侵食も外だ」
……え?
「勇者様!どうか!坊ちゃまにご指南を!」
「ああ、任せろ!ピシリ、と鍛えてきてやるぜ!」
そこで僕を見て、ニヤリ、
と笑った。
あなたの場合、バシリ!、でしょう!。
「それでは坊ちゃま」
「ああ、いいぜ。あんたは何もしなくて」
よっと、といって担ぎ上げた。
痛くない、と思ったが激痛が走り抜ける。
だが声が出ない、痛すぎて……。
「そいじゃあ、このまま行くぜ!服はいい!これも修行だ!」
「そ……それは、むう、しかしこれも坊ちゃまのため!坊ちゃま!お達者でえええええ!」
じいやが泣いている姿が見えたのも一瞬。
気付けば、宙を『跳んでいた』。
(じいや……)
やっとでた言葉はこれだった。
「あくまあああああああああああああああああ!!!」
11/12/18 23:50更新 / nekko
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■作者メッセージ
…分かります。皆さんの言いたい事分かります。
魔物娘いないじゃん!
はい、その通りです。やっぱりながくなってしまって入りきれませんでした。
もうどうしよう、やっぱり魔物娘は主役じゃないように見えて主役なのに…。次は出せると思います。まあ、お色気シーンなんて高尚なものは書けませんが…。
でもいつか書いてみたい!!

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