ピクシーと鏡

…ん?なんだ、視線を感じるぞ…?
森でキノコ狩りをして来た疲れからそんな風に感じるのだろうか?

いや待て…こう…息を止めて、沈黙し…静寂を作り出す…と?
微かに…羽の擦れる細かい音が…聞こえる。

フッと踵を反転させ音の方向に顔を向けてみる。が、何も誰も居ない。

いや、あった。
全身が映る姿見に投影された自分の像の右肩の方、

離れて10cmかそこらに何やら…妖精…が居た。

人の手こぶし大のそれはこちらが気付いた事に気付いたのか
くくっと笑顔を隠すように手の平で口元を隠しながら挨拶代わりにか
耳元に寄ってクスクスせせら笑いを垂らして来た
ん…なんなんだこいつは?

また同じく
フッと首を揺らし鏡に映った妖精の方向に顔を向ける…がしかし何も誰も居ない。
疲れから見えてしまった幻想だろうか?

けれども鏡には映る。
今度は鏡に映った位置に居るであろう場所に鏡を見ながら手を伸ばしてみる…が、
スーッと流れる様に避けられてしまう…ばかりか
チョンチョンとおちょくる様に頬をつついてくる始末だ。

はっはーん、こいつはアレか。ピクシーか。

イタズラ好きの妖精…いや図鑑では魔物だったか。
おおかた森から付いて来たって具合だろう、ここら一帯ではそんな話も無くもない。

ただそんなマゴマゴと思慮を捏ねていると
魅了する事こそが魔物の性(サガ)なのか
ピクシーはクネクネと動きストリップショーを始め出した。

コイツ…調子に乗り始めたな?
油断している…今なら捕まえられそうか…?
と、またも手を伸ばしてみるが手は空を切るばかりで…
当のピクシーは今度は手の指をポールに見立て
クネクネと動き出し完全に舐められてる。

それでも囁きが好きなのかひとしきり楽しんだ後は
またも耳元にやってくる。
衣服の擦れる音が耳音で聴こえるように、
けれども乳首を見せないようにわざとらしく腕で隠しながら
スルスルと器用に片腕で服を脱いで行く姿は
煽情的であったが…いささか不用心過ぎるんじゃないか?

そろりそろりとストリップで脱げて行く一張羅と
もはやこちらは抵抗しないと舐め切ったのか焦らす様に微笑む瞳…
最早かの服が残すは…腰から先の秘所周辺…
騙すようで悪いがここで食い入る様に見る事で…
魅了が効いたと良い気にさせて油断をさせ…
片足を上げて…服に手をかけた…ここで、この瞬間。仕掛ける!

今まで羽織っていた上着の両裾をつまみ、持ち上げ巻き上げる様に包み込む!
その出で立ちはさながら不恰好なクジャクの様であったが勝負に美醜は関係無い。

まさか、と思ったのはピクシーの方であろう。
今まで自分のストリップショーを血眼になって見ていた人間からの奇襲だ。
服を脱ぐのに夢中になってたのはある、油断していたのもあるが
まさか視界外から上着で包み込むとは思わなかったのだろう。
頭上から暗闇が降り注いだ頃には既に時遅し
逃げようにも四方八方が囲まれ逃げ場所が無い、
これにより素早く、けれども傷付けず、確実にピクシーを捕まえる事が出来たのだ。

さて、けれども…このピクシーはどうしようか。

未だにジタバタと服の包みの中で暴れているわけだが…
特にこれといって悪さはしてない、せいぜいちょっかいを出したくらいだ。
それに「キャー!」とは言ってはいるが本気ではない、まるで遊んでいるかのようだ。

しかし魔物娘を家に置いたままだと襲われかねない…
だが…逃がすにしても家の場所がバレてる為、お礼参りに来る可能性が…

この暴れっぷりだ、しかも力が強い。こんなのがまた来たら…
いや待てよ、なんであの小さい体にこんなに力が…
あ…あぁ!なんだこれは…!包んだ服のピクシーが大きく…

いや、逆だ。自分が…小さくなっている…?
手にした服も周りも家の中がだんだん巨大に感じて…ピクシーの魔法か…!?

ともあれピクシーをこの服の包みから出したら
それこそ直接的に身体を弄られてしまう!

急いで包んだ服の端と端を掴み
今にもこじ開けて来るであろうピクシーの到来に備える…が
何故だか抵抗は無い。

いや、知っているのだ自分の勝利を。
どこまで、相手がどこまで小さくなるかを。

あ…と言葉をこぼした時には既に遅い。
家の中に隠れようにも
歩みを進めれば廊下が泥の様に纏わり付きその場所から離さないと沈め込む。

一歩進もうにも半歩しか進めない、
その半歩を進もうにも半々歩しか進めないそんな感覚だ。

それに玄関から外に出ようにも、もはやドアノブにも届かない。

完全に詰みというやつだ。

「ん〜、お兄さんの上着の匂い。良い匂いする〜」

もぞもぞと、まるで寝起きの布団の中で
睡眠中溜めに溜めた残り温を貪る様にぐぐーっとヤツは出て来た。

ストリップのあのまま、つま先から脱げてしまったのか
もはや下には何も着ておらずポタポタと滴る汁が服を汚す。

「ちょ〜〜っと私の魔法の方が速かったね〜
どう?その身体、世界が違って見えるでしょ。ドキドキする?」

あくまで運命をかけた勝負ではないかのように、
遊戯の如くあっけらかんと語りかけてくるピクシー…

ドキドキは…している。過呼吸と共に。

「ほらほら、あなた、こんなに小さいんだよ?」
と、手の平を差し出してくるピクシー。
…乗るか、敵意は元から無い様だし悪いようにはしないだろう。

手の平に乗っかると…ふにっと温い(ぬくい)。
若干汗ばんではいるが…まぁさっきの一戦があったからな。
すると突然僅かながら重力感が…ピクシーが飛びだしたようだ。
うぉ…どんどん床が離れて行く、なかなか好奇心を伴うスリルがあるが…ちょっと怖い。

「こっちみてみて〜」
と、真上から降ってくる可愛らしい声。
そこからピクシーを見上げると…
見上げると…確かにデカイ。ははっ…これが小人の目線か。
巨大物を主としてひたすら慈愛を注ぐかのようなこの目線。
うーん…これはなかなか良いかもしれない。小人目線。
週に2〜3回くらいは付き合って遊んであげても…いいかもしれない。

「じゃなくてこっち、こっち!ほら私と小人さん!」

と、クルッと体の両側を持ち回れ右と
なんだなんだ?反対側に何かあったっけかな?と思っていると…


あった、鏡だ。

鏡だ…。

客観性というものは主観性よりよっぽど残酷だ。

鏡はいわば第三者目線、
鏡により主観は客観になり今まで見えなかったモノが見えて来る。

これは…なんだ?
見慣れた家の…小さなピクシー…その手の平に乗っている点…。

いや手の平の点は小人だ…。
小人は…自分だ。

自分は…この子が居なければ…生きられない。

突然薄ら寒い悪寒が襲ってきた…
寒い…どこまでも続く空間が風も無いのに体を涼めてくる…。
この家、そんなに寒かったか…?と廊下の先の部屋を見てみるが
部屋との間の空虚に包まれ部屋の温度がこの身に降りかかってくる事は無い。

ガチガチと鳴っている音は自分の歯の音だ、寒い…寒過ぎる…!


ふと…温かい感覚がやって来た。下からだ、ピクシーの手だ。

手を当ててみると…血が通う温もりが感じられる。
頭を当てると…だんだん体から力が抜けて来る…
弛緩する様に肩…腕…腰…足…とだらけて行き…
完全にピクシーの手の凹凸をすぼめる様に身体のパーツがはまって行く。
温かい…温かい…。

その時気付いた
自分は…この子が居なければ…生きられない。

「あっはぁ…やっぱり私カワイイ…でも小さいお兄さんの方がもっと可愛い…」

色っぽい声で急に我に返った。
ハッと急速に頭に血が供給され現状を理解せよとただ一つの命令が体に響き渡る。

だが…遅かった!
「お兄さんもとろけちゃってる事だし…いいよね?」

ピクシーから体を摘ままれるとトロリ…と体から重力が抜けて行くような錯覚を感じる。
どうやら飛ぶのをやめ下降したようだが…
床に降ろされるという形ではなく横たわる様に置かれた…?感じだ。

「あぁ…可愛い…小人さん…可愛い…」
突然ブチュッと下半身から生温い音が鳴った。
肉と汁のぶつかる音だ…まさか…!とビクッと音による幻肢痛が体中を駆け回るが…
意を決して後方を見ると下半身が潰れたわけではないらしい。
いや…潰されてはいる。ピクシーの股に。

「ほら、お兄ちゃん。みてみて、鏡」

鏡…。

鏡を見ると…そこにはピクシーに囚われた憐れな犠牲者の姿が映っていた。
ピースピースと無邪気に笑いながら股を床に擦り付け小人を翻弄するピクシー。
そのままぬちゃぬちゃと床と股の間に糸が引き、小人の身体を縛りつける。
小人は咄嗟に逃げようとするが…
愛液の糸に絡まれてはまともに床から体を引きはがす事が出来ない。

ぬちゃぬちゃくちゃくちゃと…後方から淫らな啜り声が聞こえてくる。
必死に…逃げ出そうとはするが…
鏡の中の小人を見てみるとどうやら逃げる事はできなさそうだ。

と、ふと足元が何かを突いた。
きめ細やかな肌の柔らかい股肉ではなく、一つの形として形成された肉。

膣口だ…。
あっと膣口から足を抜こうとするが
パクッと意志を持ったかのように加えこむ膣口。

「あっ…はぁ…大当たり〜…呑んであげるね…」

最早宿命かと咥え込んでからは、くちゅっと音がする度に呑みこんで行く膣口。
鏡の小人も同様に呑まれ…苦痛の感情は無く焦りも無いが…
恍惚感で疲れたような顔をしている。

ぬちゃ…くちゃ…と下半身を通じて響いて来る咀嚼音。
あ…はぁ…温かい…温かいなぁ…鏡の小人には悪いが…
どうやら助ける事は出来ないらしい。

呑まれるたびに安心感が湧いてくるようだ…
鏡を見ると…まるで膣口を通して肉食獣に丸呑みにされているようにも見えるが…
下半身をズルズルと引き込む膣肉、胴に響く脈動音、
ぬるぬるとした手はなんだか自分を守ってくれる粘液にも見えて来る。
だから…だから…安心できる。

「小人のお兄ちゃん…」

最後の一呑み、もはや嚥下されて終いという流れか。
鏡を見れば分かる、次で最後の呑みだ。

ぬちゃ…と前のめり、くちゅ…と後ろに呑まれた。
ピクシーの膣の外、外界の最後に見た鏡の小人は呑まれてしまった。

…。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ふーっと事が終わってピクシーがお腹をさすると小人の姿が浮かばれた。
そのままちょいっちょいっと下から上に付き上げ…ゴポンと小人の姿が消える。

「あぁ…よかったぁ…あー…お兄ちゃんの服、良かったなぁ…
お兄ちゃんの布団はどんな匂いなんだろ…。私も寝よっかなー」

明日出してあげるね、とポンポンとお腹を叩いて信号を送ると
そのままピクシーは我が物顔で家を闊空し家主の布団で眠りだす。

鏡には、上着だけが映っていた。

15/10/06 00:32 赤キギリ

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