連載小説
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事の真相、魔物さんに訊いてみよう
 人間と魔物が良き隣人、良き友人、良きパートナーとして共に暮らしている我が国ですが……

 前々から疑問に思っていたけれど、質問する機会を失ってしまったこと。
 何気ない瞬間にふと思いついたのだけれど、その真偽の確かめ用がないこと。
 どうしてもわからないのだけれど、「今更そんな事を?」と笑われてしまいそうで訊けないこと。

 などなど……魔物さんの趣味や嗜好、価値観や好き嫌いについて訊ねてみたいことはありませんか?

 本誌の人気連載コーナー : 事の真相、魔物さんに訊いてみよう
 無料お試し出張版、始まり始まり……でございます。


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《 ご質問ネーム : にゃんこ、可愛いよにゃんこさん (十九歳/男性)

 世の東西を問わず、猫はネズミを追いかけるものですが、ワーキャットさんもラージマウスさんを見ると、何とも言えない猫としての本能を感じるものなのでしょうか?

 また、普通の猫やネズミの言葉がわかるのならば、ネズミ狩りや猫退治に関する相談を受けたりするのでしょうか?

 とりあえず、うちで飼ってるオス猫は、近所に住んでいるワーキャットの若奥さんのことが大好きみたいなんですけど…… 》


∵ ワーキャットさんのお答え、その一 ∵

 アハハハハ! なるほどねぇ〜。
 とりあえず私の場合は、「そんなことはないですよ」って答えになるのかな。

 だって、気の合うラージマウスの友達もいるしね。
 時々、チーズのおすそ分けを貰ってそれを食べることはあるけど、友達を襲って食べる趣味は無いからねぇ。

 あと、猫の言葉はわかるし、狩りの相談をされることもあるよ。
 最近は、「ジェリーっていうネズミを狩りたいっ!」て必死になってる子から相談されたなぁ。
 だけど、あれは……本当に狩ってしまいたいって感じじゃなかったのよねぇ〜。
 対立し合いながらも、仲良く喧嘩してる感じというか、何と言うか。うん。

 基本的に、猫が本気を出したら、ネズミなんてどうとでもなっちゃうからね。
 口ではブーブー言いながらも、実際は仲良しなんじゃないかな、あの二人は。


∴ ラージマウスさんのお答え、その一 ∴

 本当にワーキャットに狙われるのなら、おちおち散歩も出来ないよ!
 っていうか、可愛い娘たちが心配で、家から一歩も出せなくなっちゃうよ!

 まぁ確かに、尻尾にじゃれつかれたり、必要以上にスリスリとマーキングされたりはするけど……襲われたことは一度もないなぁ。あと、襲われたっていう話を聞いたこともないなぁ。

 もしもそういう血生臭い関係だったら、きっとマウス種一党とキャット種一党は、不倶戴天の敵として睨み合ってたんだろうねぇ。
 ……傍目には、ヒト型の猫とネズミがドタバタしてるだけにしか見えないのかも知れないけど。

 けれどもまぁ、現実としては仲良くやってるからご心配なく〜って感じかな?


∵ ワーキャットさんのお答え、その二 ∵

 そりゃ、猫達が何を言ってるのかは全部わかるわよ。
 実際私も、近所に住む女の子達と魚の干物を囓りながらお喋りしたりするし。
 あ、もちろん干物は私のお手製、猫が食べても大丈夫な減塩タイプよ? 人間用のものは、みんなには味が濃すぎて体に悪いからね。

 で、そういう風に女の子たちとお話し出来るのは楽しいんだけど……問題は、オスの連中なのよ。
 ねぇ、ちょっと想像してみてよ。一晩中、自分の家の外からこんな風に叫び続けられることを。

「ワーキャットおぉぉぉ! 俺だあぁぁぁぁ! 結婚してくれえぇぇぇ!!」
「うおぉぉぉぉ! マイ・スイートハニー! 今こそ交尾の時だぜえぇぇぇ!!」
「ところで、俺のキ○タマを見てくれえぇぇぇ! こいつをどう思ううぅぅ!?」

 人間の耳には発情期でワゥワゥ言ってるだけに聞こえるのかも知れないけど、私の耳にはこういう風に聞こえてんのよ! いや、本当に!
 私は、ワーキャットだっての! 既婚者だっての! ダーリン一筋だってぇぇのっ!!

 あ……ゴホン、ゴホン。ごめんなさいね。
 この前の発情期はいつになく酷くて、寝不足になっちゃったもんだから。当時のイライラを思い出しちゃって、ついつい。

 でも真剣な話、猫は猫で、ワーキャットはワーキャットで、色々大変なのよ。
 だから、質問者さんも飼い猫の教育はしっかりね。お願いよ。


∴ ラージマウスさんのお答え、その二 ∴

 猫はネズミを追いかけて捕食する。
 それは自然の摂理の一部だから、仕方ないとは思う。
 だけど同時に、自分の兄弟姉妹が重大な危機に陥っているような、そんな苦しい気持ちになるのも、また事実でね。

「住処の家主が猫を飼い始めたんだ。どうしよう……」

 という相談を受けることは、しばしばあるんだ。
 だから私も、出来るだけの助言はするんだけど……相談して来た子達が不意にいなくなったりすると、「食べられちゃったのかな?」とか「無事に引っ越せたのかな?」とか、色んなことを考えて憂鬱になっちゃうんだよね。

 私の知り合いにトムっていう、猫を馬鹿にする天才みたいなネズミがいるんだけど、あの子みたいなケースはとっても稀な例だし……。
 派手な喧嘩を繰り広げながら、相手との間にほのかな友情を築くなんて、奇跡以外の何モノでもないからね。

 非難するような気持ちは全く無いけど、この辺の切ない思いは、ワーキャットには分からないんだろうなぁ。
 捕食者と被捕食者の違いと言ってしまえば、まぁそれまでなんだけど……。

 人も魔物も動物も、生きていくってことは、本当に大変だよね。


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《 ご質問ネーム : 山歩き大好きさん (十七歳/女性)

 私は、自然を楽しみながら野山を歩くことが大好きな女の子です。
 四季折々の風景を瞳に焼き付けながら深呼吸をすると、心の底から「生きてて良かった!」と思えます!

 ところで……そんな野山に暮らす魔物の皆さんが、時々一堂に会して会議を開くという話を聞きました。
 それは本当のことなのでしょうか?
 そして、もしも本当ならば、その場では一体どんなお話をされているのでしょうか?

 出来ることなら、私もぜひぜひその輪の中に入ってみたいのですが!! 》


∴ ノームさんのお答え ∴

 はい、本当ですよ。
 私のようなノームやアルラウネさん、ハーピーさんやビー類のみなさん、さらにはオークの皆さんや妖精種の皆さんなどが集まって、色々なお話をするんです。

 参加人数や種族はその時々によって増減しますが、みんなでおいしいお茶を飲みながら色々な話題に花を咲かせる、素敵なひと時なんですよ。
 ですから、『会議』というよりも、『お茶会』と表現した方が適切かもしれませんね。

 私は、日頃暮らしている場所からあまり動きませんので、自由に空を飛べるハーピーさんのお話をいつも楽しみにしています。
 時々、参加者同士で言い争いやケンカが始まってしまうこともありますが……そんな時は、私が興奮した方々をギュッと抱きしめて仲裁しています。

 本当は優しいみなさんですから、すぐに仲直りしてくださるんですよ。


∵ アルラウネさんのお答え ∵

 東方には、『女三人寄れば姦しい』なんて表現があるそうね。
 女はお喋りで、三人集まるとやかましい……とか何とか、そういう意味の言葉だそうだけど、まぁだいたい当たってるかも知れないわ。少なくとも私達においては、ね。

 でもね、ただ集まってピーチクパーチク言ってる訳じゃないのよ?
 時には自然への敬意を忘れた人間の話になることもあるし、反魔物国家の狼藉に憤ったりすることもあるの。
 私たちを嫌う人間は、「魔物とは色欲に支配された不浄の存在である」なんて言うけど、本当に不浄で狭い視野しか持っていないケダモノはどっちなのよ……って話しよね。

 質問者さんは自然を愛する女の子みたいだけど、どうかこれからもその瑞々しい気持を忘れないでほしいわ。
 人も魔物も、広い意味においては『世界と自然が生み出した子供たち』なんだからね。

 ……なぁ〜んて、ちょっと説教臭いかしら。
 ガラにもないことを言っちゃったわね。ちょっと恥ずかしいわ。ウフフ。


∴ オークさんのお答え ∴

 ん? なに? あの集まりに参加したいの? 人間なのに?
 う〜ん……まぁ、どうしてもって言うなら好きにすればいいけど、正直オススメはしないよ?

 いや、ほら、みんな結構スケベだし、人との関わりに飢えてる部分もあるからさぁ。
 例えば、ハニービーに気に入られたらそのまま巣にお持ち帰りされるだろうし、アマゾネスがいたら戦士候補生として拉致されるかも知れないからねぇ。
 質問してるのは女の子みたいだけど、清らかな体でお嫁に行きたいんなら、ヤメといた方が無難かもよ?

 え? オークにしては、人間に対して随分優しいですねって?
 失礼な! あたしはただ良かれと思って言ってるだけだよ!
 あと……この質問をくれた女の子が、魔物に対して抱いているかも知れない素敵な幻想を守ってあげたいんだよ。

 前にさ、何と言うか、その……集まりの話題が、いわゆるエロ方面へ流れたことがあったんだよ。
 で、みんなそれぞれに理想のタイプやら実行してみたいエッチやらを発表し合ったんだけど、その内容が凄いのなんのって。
 あたしもそっち関連は嫌いじゃないけど、そんなあたしが軽く引いたくらいだったからね。
 その内容を詳細に話したら、間違いなくこの雑誌は成人指定されるよ? 本当にさ。

 だから、輪に入るのはヤメといた方が良いと思うんだなぁ。
 この子が色んな意味で人間を辞めたいって言うんなら、いつでも歓迎するけど。う〜ん。


∵ ハニービーさんのお答え ∵

 集まりの場でケンカはご法度なんだけど、やっぱりホーネットの連中とはソリが合わなくて。
 気がついたら言い争いになってたり、お茶のぶっかけ合いになっちゃったりするんだぁ。

 最初の頃はみんなも止めてくれてたんだけど、最近じゃ「ま〜た始まったよ」なんて言いながらノンビリ見てるだけになっちゃって。
 いよいよ興奮してくると向こうは槍を持ち出すし、こっちも体についたら猛烈にかぶれる蜜を取り出すしで、もう一触即発なの。

 すると……いつも議長というか、会長というか、みんなのまとめ役になってるノームさんが突然ガバっと動くんだ。
 で、私達とホーネットの両方をあの大きな手で包みこんで抱き寄せて、耳元でこう言うの。

「ケンカは駄目ですよ。駄目です。自然に暮らす者同士、仲良くしなければいけませんよ」

 ……ってね。
 その言葉だけを聞くと「さすがは精霊さん」って感じなんだけど、実際には抱きしめる手の力がギリギリギリギリ強まって、万力みたいにこっちを締め上げてくるんだから、ちょっと堪らなくて。
 冗談抜きに骨がミシミシ言うくらいの力になるから、私達もホーネットも、

「……ぐぇい。わがりまじだ」

 としか言えなくなっちゃうの。
 するとノームさんは抱擁を解いて、

「わかってくれて、ありがとうございます。みなさんが仲良しで良かったです」

 って、慈愛に満ちた笑顔で言うんだけど……正直、その笑顔が怖いの。
 いや、確かに神々しいばかりの素敵な笑顔なんだよ?
 でもね、その直前までの力の強さを思い出すと、「またケンカしたら、次はタダじゃおかねぇ!」って言われてるみたいな気持ちになって、ガクガクブルブル……。

 だから、何が言いたいのかというと、『みんな仲良く』。
 そして、『精霊さんには、逆らわない方がいいような気がする』。

 この二つは、人間のみんなも忘れないでね。


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《 ご質問ネーム : おーがちゃん大好き!さん (五歳/男性)

 みなさん、こんにちわ。
 ぼくは、まものさんがだいすきな、おとこのこです。

 いちばんすきなまものさんは、おーがのおねえちゃんです。
 りゆうは、ようちえんのえんそくでまいごになって、ないていたぼくをみつけて、だっこして、みんなのところまでつれていってくれたからです。

 ぼくも、おーがのおねえちゃんみたいにつよくなりたいです。
 でもぼくは、ゆうれいがこわいです。よる、ひとりでおといれにいけません。
 あと、にんじんもきらいです。いつも、はなをつまんで、がんばってたべます。

 おーがのおねえちゃんや、まものさんたちは、こわいものがありますか? 》


∴ オーガさんのお答え ∴

 ワッハッハっ! こりゃ、何とも可愛らしい質問じゃねぇか!!
 そうかそうか、坊主はオーガが好きか。うんうん。素晴らしいな。将来が楽しみだ。
 じゃあ、そんな坊主のために、アタシが……オーガのお姉ちゃんが怖いものを教えてやろう!

 お姉ちゃんが怖いものはなぁ……近所の川に住んでる、サハギンだ!

 いや、ケンカをしたら圧倒的にお姉ちゃんの方が強いんだぞ? サハギンなんて、イチコロだ!
 でもなぁ、お姉ちゃんは、そのサハギンの意味不明なところがスゲェ怖いんだよ。

 いつもそいつは、お姉ちゃんが川の近くまでやって来ると、水の中からブクブク泡を立てながらヌ〜っと姿を表すんだ。
 で、あの何とも言えないジト〜っとした目付きでこっちを見つめながら、妙に低い声で変なことを訊いて来るんだよ。
 いくつか例を挙げるとだなぁ……。

『……あなたは、暑い日にホットのお茶を飲むタイプ?』
『……ちょっとあなた、それね……やっぱりいいわ』
『……遅い、遅い、遅い……速い! ……遅い』
『……あなたは、昼休みが長いのであ〜る』

 ……って言って、毎回目を逸らさずにそのまま水の中へ戻って行くんだよ。ブクブク泡を立てながら。
 な? 言葉の意味は良く解らんが、とにかくスゲェ怖いだろ?
 一回取っ捕まえて言葉の意味を問い詰めてみたいんだけど、水の中じゃ向こうの方が圧倒的に速ぇからなぁ。
 
 まぁとにかく、坊主はサハギンみたいに捻くれないで、真っ直ぐに育った強い男になれよ! で、一人前になったらアタシの所へ来い!
 見所があるようだったら、そのまま婿にしてやっからな! それじゃ、好き嫌いすんなよ!!


∵ リザードマンさんのお答え ∵

 う〜む。剣士として、自分の弱みを他人に知られたくはないのだがな。
 とはいえ、自分自身の弱さをコソコソと隠し続けるのも潔いとはいえない、か……。
 よし、今回は特別にお答えしよう。

 私は、犬が怖いんだ。
 種類や大きさに関係なく、とにかく犬が駄目なんだ。

 理由は、犬嫌いの人間と同じ様なもので……幼い頃、野良犬に尻尾を噛まれてな。
 その時の恐怖と痛みが心の傷になってしまって、大人になった今でも苦労しているという訳だ。

 恐らく、現在の自分なら、野犬の群れに囲まれてもきちんと撃退出来るとは思うのだが……正直、そういう状況を想像するだけで背筋が汗びっしょりになってしまう有様でな。
 いやはや、我ながらまだまだ未熟者だよ。

 そして何より困るのが、私の夫が動物を愛する心優しい人であるということでな……。
 心無い者に捨てられたり、虐待されたりしていた犬を拾って来ては面倒をみて、新たな飼い主のもとへと巣立たせているんだ。
 その取り組み自体は、妻として誇らしく感じる素晴らしいものだと思うのだが……やはり、怖いものは怖いんだ。

 無邪気な子犬が尻尾を振りながら近づいて来ると、どう対処していいのかわからなくなって硬直してしまって……。
 ご近所さんには笑われるし、夫は両脇に犬を抱えながら「ほらほら、頑張って苦手を克服しなきゃ!」とか何とか言いながら追いかけて来るしで、もう散々だ。
 ……とりあえず、夫にはその後の稽古でそれなりの制裁を加えてはいるがな。

 剣の道と同様に、犬嫌い克服の道も、果てしなく続く修練の階段となりそうだよ。やれやれ。


∴ アマゾネスさんのお答え ∴

 最強の戦士であるアマゾネスに、怖いものなど何も無いっ!!
 ……と言いたい所だが、私の生涯において一つだけ、とてつもなく苦労させられたものがあったのだ。

 それは、我が最愛の夫が作ってくれる食事だ。

 いや、誤解の無いように言っておくが、私の夫は家事万能、やりくり上手の床上手、素直で可愛い最良の男なのだぞ?
 ただ……料理に各種の香辛料をタップリと混ぜ込んだ、とびきり辛いモノを好む国の生まれであったことが問題でな。

 夫が作るものは、もう見た目からして赤いのだ。
 それはまるで極上の紅玉のような、燃え盛る炎のような、美しく色づいた秋の山のような……とにかく、真っ赤なのだ。

 そもそも、男狩りを行なった際、夫の馬車には多種多様な香辛料や、見たことも無いような種類の唐辛子などが満載になっていてな。
 単にその時は、「香辛料の行商者か何かだろう」としか思っていなかったのだが、後にその全てを一人で普通に食べ切るつもりであったことが判明して……戦慄したよ。

 ん? ならば結婚後は、その辛い料理に七転八倒したのではないか、と?
 フッ……アマゾネスの忍耐力と精神力を馬鹿にしてもらっては困るな。

「初めての人には、キツいと思うよ? 慣れるまでは、唐辛子の量を減らそうか?」
「なぁに、この程度どうということはない。お前の妻は、そんなか弱い女ではないぞ?」

 という会話を交わして、結婚初日から手加減なしの全力投球を受け止めたものさ。
 ……まぁ、スープの三口目あたりから記憶が曖昧になったし、翌日以降は肛門から花が咲いたのではないかと思うほどの激痛に悶えたがな。それはそれだ。

 今ではすっかり慣れて、何でも美味しく完食出来るようになったし、以前に増して持久力や闘争心旺盛になることが出来た。
 少々手こずらされた部分もあったが、今では夫に感謝しているよ。

 楽しい夫婦の食卓は、今日と明日を生きるための活力源なのだからな!


∵ バフォメットさんのお答え ∵

 サバトの長たるこのワシに、怖いものがないかと問うのかえ?
 なるほど、これはなかなか愉快で新鮮な試みじゃのぅ。

 ふむ、それでは……お主は、ジパング人形というものを知っておるか?
 いや、サバトの信者となった人間から献上品として受け取って、自室に飾っていた物なんじゃがな。

 こちらの人形とはまた違った趣がある、おかっぱ頭の童の姿をした人形なのじゃ。
 ゆきおんなのようなキモノを身に纏い、その美しく儚げな顔立ちと朱色に塗られた唇が印象的な逸品なのじゃが……こいつが結構キツくての。

 まず、髪の毛が伸びる。次に、目が潤みだす。
 さらには、今にも喋りださんばかりに唇が艶やかな質感を持ち始める。

 まぁ、ここまでは別に構わんのじゃが、ジワジワと動き始めたあたりからが問題でのぅ。
 いや、手足が動くとか、そういう類の動きではないんじゃ。
 飾ってある場所から、いつの間にかジワジワとこちらに向かって前進して来るんじゃよ。

 魔王軍やサバトの仕事が忙しゅうて、人形に宿った魂やら術式やらの解析を後回しにしておったら、時間の経過と共にどんどん元気になりおってのぅ。
 ついには、部屋の端から端へ、さらにはワシの屋敷の隅から隅へ、自由気ままに散歩を楽しむようになりおった。
 そういえば、ワシの枕元へ音もなく移動して来て、こちらの様子をジ〜っと観察しておったこともあったのぅ。

 とにかく、そんな調子の奴を放置する訳にもいかんので、ワシの研究室にて本格的な解析を行ったのじゃ。
 じゃが、それに少々手こずってのぅ……。
 やはり、ジパングの魂や術式をこちらの方法で解き明かすのは骨であったよ。

 とはいえ、そこはホレホレ。このバフォメット様のすることじゃ。ぬかりはない。
 いくつかの山を乗り越えて術式を解除し、人形に込められていた魂の抽出に成功したのじゃ!

 何せ、あれだけ個性的な動きを見せていたジパングの魂じゃからの。
 その正体が可愛らしい乙女であるならば、受肉させてサバトの一員としてやっても良いかと思っておったのじゃ。

 じゃがのぅ……何とその中身は、脂っこく肥えた中年のオッサンだったのじゃ。

 しかも出て来るなり、「つ、ついに! ついにこの時が! ば、ば、バフォメットたあぁぁぁん!」とか叫びながら飛びついて来ようとしたので、つい反射的に対霊魔法で吹き飛ばしてしもぅた。
 現世に存在できた時間、わずか三秒……哀れな奴よ。

 じゃが、落ち着いて考えてみれば、本当に可哀想なのはワシの方なんじゃよ!?
 ほれ、ワシの言うたことを思い出してみぃ!

 信者から人形を受け取って自室に飾り、自由に部屋と屋敷の中を散歩させ、しまいには枕元に立たれて寝顔と寝起きの顔まで見られてしもうたんじゃぞ!?
 ワシの可憐&無防備極まりない朝の表情を見て良いのは、未来に出会う素敵なお兄様だけじゃというのに!!
 おまけに、その出来事の後で魔女たちに訊いてみたら、奴が動き出した頃から下着の紛失が相次いでおったというではないか!
 もしやと思ってワシも自分の物を確認してみたら、取っておきの黒レースが無くなっておったわ!!

 本当にもう、最悪じゃ! 色んな意味で最悪じゃ!
 何と恐ろしく忌々しい出来事であったことか!!
 ぐぬぬぬ……思い出したら、胸くそ悪ぅなってきたわ。
 とにかく、ワシは金輪際ジパング人形は受け取らんし、飾らんからの!

 あんな恐ろしい代物、もう二度とゴメンじゃっ!!


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 さてさて、これをお読みになっているあなたにも、魔物さんに訊いてみたい謎や疑問がございませんか?
 もしもその答えが「はい」ならば、ぜひ当編集部までお便りを!

 宛先は……本誌内にてご案内いたしておりますので、そちらをご参照くださいませ♪
 皆様からのお便りを、心よりお待ち申し上げております♪
10/11/06 04:51更新 / 蓮華
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