連載小説
[TOP][目次]
復興支援公演
  《 復興支援公演 : セイレーン、ラージマウス、ワーラビットなどの活躍 》

 このレポートの冒頭でも述べた通り、復興には地域住民達の諦めない心が必要不可欠である。
 「もう駄目だ。この街は終わった」と住民達が諦め、うつむいた瞬間、全ての物事は取り返しがつかない形で決着してしまうだろう。
 それだけに、我々行政側の人間には細やかな注意と気配りを忘れず、的確な復興計画を立てていく事が求められるのである。

 そうした『心作り』・『計画作り』と共に重要な問題が、復興のための資金計画である。
 計上された緊急予算、近隣の国々からの無償援助金、さらには国王陛下が王家に伝わる品を売却されて生み出された資金など、計画的には一応の目処をつける事に成功している。
 しかし今後、復興計画が万事順調に推移し続けるという保証はなく、俗物的な表現ではあるが、〔お金は、たくさんあるほど望ましい〕という状況である事に偽りはない。

 そうした台所事情にある我が国に力を貸してくれたのは、素晴らしき『一芸』を持つ彼女達であった。


┣━━━┫ ┣┳╋┳┫ ┣┻╋┻┫ ┣┳╋┳┫ ┣━━━┫


☆とあるセイレーンの証言。

 あはははははっ♪
 いやいや、そんな大した理念や理想があった訳じゃないよ?

 私は、みんなの前で歌う事が好きなだけっていう、賑やかなセイレーンだから。
 難しい事はそっちのけで、ひたすら楽しくノリノリになるのが好みなの。
 ただ、そんな私の歌が、あの地震で苦労してる人間さんの助けになるんなら、それはそれでステキな事かなぁって……ホント、ただそう思っただけなの。

 あの地震が起きた時、私は隣の国にいたんだ。
 で、次から次に入って来る情報やら、ニュースやら、噂話やらに目を白黒させてたの。
 だって、聞けば聞くほど、確かめれば確かめるほど、ものすごく怖い話になってたから。

 だから、考えたの。
 私も、何かお手伝いするために現地へ行こうかなぁ、って。
 でも……すぐに「ダメだよね」って、シュンと落ち込んじゃったんだ。

 だって私は、セイレーンだから。
 力仕事は苦手だし、計算も速くないし、治癒の魔術も使えないし。
 私に出来るのは、歌を歌う事だけ。ただそれだけ。
 だけど被災地で歌っても、うるさくて邪魔な……と思った時に、「あ」と声が出たの。

「あぁ、そっか。こっちで歌を歌って、みんなを楽しくさせて、募金を集めれば良いんだ」

 歌うのも、みんなを楽しくさせるのも、好きだし得意だし!
 私は歌しか歌えないけど、歌なら色々歌えるし!

 よぉ〜し、それなら早速行動開始だっ……という訳で、路上ライブの流れはだいたいこんな感じ。
 まずは、道行くみんなの心を引き寄せる楽しい一曲。
 次に、誰もが知ってる有名な歌を私なりにアレンジして一曲。
 そうして人が集まり始めたなぁ〜という所で、ちょっぴり切ない愛の歌を一曲。
 で、お次は募金集めのための、ちょっとしたお喋り。

「みんな、足を止めてくれてありがとう! 今日は、みんなにお願いがあるんだ……。あのね、隣の国で大きな地震が起こった事は、みんも知ってるでしょ?」

 私の言葉に、みんなは悲しそうな顔でうんうんと頷いてくれたよ。

「だから、私は考えたの。私に出来る事は何かなぁって。私は、セイレーンです。歌しか歌えないけど、歌なら歌えるセイレーンです。だから……ここでこうして一生懸命に歌う代わりに、みんなにちょっとでも良いから募金をして欲しいなぁって。そう思ってます」

 そして私は、雑貨屋さんで買った綺麗な箱を自分とみんなの間に置いたの。

「コイン一枚でも、とっても嬉しいです! みんなの優しさをください!」

 みんなの返事や動きを待つ代わりに、私は四曲目を歌ったの。
 すると……みんなはそっと静かに、箱へお金を入れ始めてくれたんだ!
 私はもう、嬉しくて嬉しくて。
 おしゃべりの中で約束した通り、その後も一生懸命に六曲、全部合わせて十曲を歌い上げたの!

「みんな、ありがとう! このお金は、今から騎士団の事務所へ届けるからね! ……絶対ズルなんてしないから、安心してね♪」

 蓋が閉まらないほどお金でいっぱいになった箱を抱えて、私はウインクをしてみたの。
 すると、みんなドッと笑ってくれてね。嬉しかったし、楽しかったなぁ。
 あ、もちろん、そのお金は約束通りまっすぐに騎士団の事務所へ届けたよ♪

 それからも私は、あっちこっちで路上ライブを開いては、みんなに募金を呼びかけたんだ。
 やっぱりみんなの心の中にも、地震の事はあったんだろうね。
 変な野次を飛ばす人なんて一人もいなくて、どんな場所でも箱いっぱいのお金が集まって……。
 うん。ホント、みんなの優しい気持ちに感謝、だよね。

 そうして色んな街や村を訪れるうちに、私には楽しくて心強い仲間が出来たんだ♪
 まずは、ラージマウス十一人姉妹の軽業集団 : スーパーマウスのみんな!
 そして、仲良し幼馴染ワーラビット四人衆の手品チーム : マジックラビッツのみんな!
 実は、みんなも私と同じ事を考えて、パフォーマンスによる募金活動を始めたんだって。
 だから私達はすぐに意気投合して、「これからは一緒にやって行こうよ!」って事になったんだ♪

 歌と軽業とマジック。これだけ集まったら、もう立派なエンターテイメントだよね。
 私達のパフォーマンスは次第に大きな評判を呼んで、劇場に詰め掛けたたくさんの人達の前で演じるくらいになったんだよ!
 ……あ、もちろん劇場の使用料はタダだよ? 私達の考えに賛同してくれた支配人さんが、無償・無期限で舞台を用意してくれたんだ〜♪

 公演の度に、すごい額の募金が集まってね。
 騎士団の人も、「皆さんの誠意と厚意に応えられるよう、公明正大に全ての情報を開示します」と言って、金額やその後の使い方を一切隠さずに公表し続けてくれたの。
 すると、その正しい流れにまた多くの人達がやって来てくれて……私達のパフォーマンスが、大きな大きな実を結んだねって、楽屋で十六人が輪になって飛び跳ねてたよ。

 そしてついに……その国の一番大きな劇場で、人間の歌い手さん達との合同復興支援公演に臨む事になったんだ!
 何と何とそこには、国で一番偉い女王様も来たんだよ!

 いつもは緊張知らずの私達も、さすがにあの時は「あわわわわ」ってなっちゃって。
 楽屋でフワフワソワソワしてたんだけど……グっとおヘソに力を込めてね。

「ねぇねぇ、みんな! こんな場所で何か出来るなんて、もう二度と無いかも知れないよ! もうこうなったら、失敗しても良いじゃない! 今、私達に出来る事を、ぜぇ〜んぶまとめてやっちゃおうよ! 楽しんじゃおうよ!」

 椅子の上に立って私がそう言うと、スーパーマウスのみんなも、マジックラビッツのみんなも、立ち上がって「うん!」って頷いてね。

「そうだね! 緊張なんて、ウチららしくないよ! 今日も元気に飛び跳ねるよ!」
「手が震えてちゃ、良いマジックなんて出来ないもん! よぉ〜し、一丁やってやりますか!」

 そして私達は、両手を突き上げて、声を一つに叫んだの。

「 「 「 「 「 頑張るぞ、オーっ!! 」 」 」 」 」

 そうして始まった公演は……もうね、これ以上は無いってくらいの大・成・功♪
 お客さんはスーパーマウスの軽業に驚愕して、マジックラビッツの手品に息を飲んで、私の歌に涙して。んもぅ、ホントにすごかったんだから!

 ちなみに私は、人間の歌い手さんとデュエットもしたんだけどね。
 若くて美人な歌い手さんだったんだけど、その人の通り名が【憂いのセイレーン】らしくって。
 悲恋の歌を歌わせたら当代一って聞いてたんだけど……確かに、ものすごい表現力だったなぁ。確かにあれだけすごかったら、人間なのにセイレーンって呼ばれちゃうかも。

「ねぇねぇ、どうしてそんなに悲しい歌が上手なの? 何か秘密があるの?」

 舞台の幕が下りた後、そう訊いた私に彼女は少し微笑んで、

「それは、恋をして、悩んで、自分自身を知ること……かな」

 って、そう答えてくれたの。
 私は、「なるほど!」って納得したんだけど……彼女がその時見せた、何とも言えない悲しみのある表情が、ちょっと心に引っかかったんだなぁ。
 きっと、色々な事があったんだろうね。うんうん。

 おっとと、話がズレちゃった。ゴメンね。

 で、その公演では過去最高の募金が集まったんだ!
 さらにさらに、見に来ていた貴族やすごい商人の人達が、それぞれドカ〜ンとびっくりするような寄付をしてくれてね! もうもう、ゼロがいっぱい並んでて大変なくらいの!

 ホントに、あの時は何から何まで、心が感動でいっぱいになるような、素晴らしい体験だったなぁ。
 でもね……だからこそ、思うんだ。
 そうして偉い人達が出してくれたものすごいお金にも、路上ライブでみんなが差し出してくれた一枚のコインにも、等しく美しい優しさと慈しみの心が宿っているんだなぁって。

 言葉では上手く説明出来ないんだけどね……。
 人間って、すごいんだなぁって。心って、色んなものに宿るんだなぁって。気持ちって、一生懸命になれば通じるんだなぁって。
 あの時も今も、私なりに色んな事を考えてるんですよ。へへへ。
 たぶん、スーパーマウスのみんなも、マジックラビッツのみんなも、同じ事を思ってるんじゃないのかなぁ。

 ……さてと、そろそろ舞台の時間だね。
 今日は、この小さな村の公民館で歌うんだ♪
 いやぁ〜、「我が国の音楽アカデミーへ!」とか、「我が歌劇団へ!」ってお誘いもあったんだけど、やっぱり私は楽しく歌って、みんなと笑い合いたいんだなぁ〜。

 女王様の前で歌う一曲も、孫を連れたお婆ちゃんの前で歌う一曲も、私にはどちらも等しく大切なんだ。
 始めようと思った時が私のスタートで、歌ってみようと思った場所が私のステージなの。
 それじゃあ、いってきまぁ〜す♪


┣━━━┫ ┣┳╋┳┫ ┣┻╋┻┫ ┣┳╋┳┫ ┣━━━┫


 〈 ※レポート制作局補足説明 〉

 我が国と国境を接する西の国において、彼女達が見せた輝きは『伝説の舞台』として語り継がれている。
 証言にもあったように、彼女達には様々な分野・団体からの誘いがあった。
 しかしそれら全てを丁重に断り、彼女達は今日もどこかで自分達のステージを繰り広げている。
 西の国の女王陛下は、その自由で純粋な心に最大級の敬意と賞賛を贈られると共に、十六人の名前を国内の各種芸術施設にそれぞれ冠したという。

 また、彼女達が集めてくれた募金は大変な額の義援金となり、西の国の騎士団を経由して我が国へと届けられた。
 国王陛下ご夫妻は事の経緯を知ると同時に涙され、その全ては徹底した情報開示と共に、復興へと活かされるている。

 最後に、証言に応じてくれたセイレーンである彼女の言葉を記す。

「街が元気を取り戻したら、全員ですぐに駆けつけるからね! 何があっても、絶対に諦めちゃ駄目だよっ!!」
10/07/27 10:39更新 / 蓮華
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33