《 情報と物資の伝達 ： ハーピー、つぼまじん、ミミックなどの活躍 》

　災害時下において、的確な情報の伝達・確認は、とても重要な行為である。

　円滑な意思疎通と明確な命令は、混乱状態にある現場を速やかに落ち着かせていくだろう。
　逆に、流言飛語に惑わされ、自分達の役割を見失えば、事態は最悪の方向へと進んでいくだろう。
　大げさな表現ではなく、情報伝達の成否は、時に被災者の生死すらも分けてしまうのである。

　今回の震災においても、そうした行為における様々な問題点・反省点が明らかとなった。
　【誇りある情報の担い手】を自負する騎士団伝令隊は、当時の状況下において最善の仕事を重ねていた。しかし同時に、彼らに過度の負担が集中し、次第にその動きが鈍って行った事もまた事実である。

　捌いても捌いても終わらぬ仕事に膝をつきかけた時……大きな距離を一瞬にしてゼロに出来る、あの魔物達が現れたのである。


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☆とあるミミックの証言

　あの日ボクは、騎士団伝令隊の休憩所を探して、そこにあった箱からポンと飛び出したんだ。

　ちょっと汗臭くて埃っぽいその場所には……地べたに座り込んでる人、壁にもたれかかってボ〜っとしてる人、床に倒れ込んで寝てる人なんかがいてね。
　もうとにかくみんなヘトヘトに疲れ切ってて、誰もボクの存在に気付いてくれなかったなぁ。

　ボクはそれまでに、街のあちこちの箱から飛び出して、被害の状況を見て回ってたんだ。
　そして、地震が残した大きな爪痕を見ているうちに……「ボクにも何か出来る事があるはず！」って、そう思うようになったんだ。
　どんな事でも良いから、人間のみんなを助けよう、いや助けたいんだってね。

　だから、まずはお仕事を貰いに行こうと思って、騎士団の人達がいる場所へ飛んだんだけど……え？　どうやって騎士団の居場所を把握したんだ、って？
　フフ〜ン、悪いけどそれはちょっと言えないなぁ。
　箱あるところに、ボク達ミミックあり、だよ。そこがどんな場所で、どんな箱で、どんな人達がいるのか。そういうのは大体全部わかっちゃうんだ、ボク達には。
　ちなみに、つぼまじんちゃん達も似たような感じなんだけどね。内気なあの子達に、タネ明かしを求めたりしちゃダメだよ？

　で、休憩所の隅でキョロキョロしてたボクに、女性の隊員さんが気づいてくれてね。
　事の経緯とお手伝いしたいって気持ちを伝えたら、彼女はニッコリ笑ってこう言ってくれたんだ。

「それは是非是非、お願いするわ！　ご覧の通り、みんな肉体的にも精神的にも限界に来ててね……。でも、ミミックであるあなたが手伝ってくれるなら、百人力よ！」
「うん、任せてよ！　じゃあ……まずは、何をすれば良いのかな？」
「そうね、ではこの食料分配予定表を、山手の教会へ届けてくれるかしら。私からの一筆も添えておくから、向こうの騎士団員に渡してね」

　そして彼女は、ボクにその大切な書類を手渡してくれたんだ。
　だからボクはしっかりとそれを受け取って、箱に飛び込んで、教会の空になってた木箱から飛び出して、驚いて硬直してる団員さんに「食料分配予定表で〜す！」って元気に手渡して、また休憩所へ戻って来たんだけど……何か、彼女の雰囲気がおかしくなっててね。

「はい、ただいま〜……って、あ、あれ？」
「……もう行って来たの？」

　さっきまでにこやかだった彼女が、真顔でボクにそう訊いたんだ。

「え？　あ、うん。あの教会はボクもよく知ってるし、ちょうど良い感じの空き箱もあったし……あの、ぼ、ボク、何か間違えちゃったかな？」
「……ズルいわ」
「へ？」

　言葉の意味がわからずにボクが変な声を出すと、彼女はこっちの両肩をガシっと掴んでグワングワン揺さぶりながら叫んだんだ。

「速いわ！　速すぎるわ！　私達伝令隊の苦労が馬鹿らしくなっちゃうくらい速いわよ！　さっきのは一体何！？　箱に飛び込んだと思ったら、もうお仕事完了って、一体何なのっ！？」
「え〜っと、いや、あの、だってボク、ミミックだから……」
「ミミックもヘヘックもないわ！　ちょっと聞きしに勝り過ぎな速さよ！？　ねぇ、お願いだから、今度はこの書類を浜手の公民館に届けて来て！」

　どんどん涙目になっていく彼女に戸惑いながらも、ボクはそれを受け取って、さっきと同じようにお使いを済ませて戻って来ると……。

「……うわぁ！　増えてるっ！！」

　ついさっきまで、ボクの帰りを待っていたのは彼女一人だったはずなのに。
　いつの間にか、他の隊員さん達も箱の周りに集まって来てて……。

「ねっ！？　速いでしょ！？　ズルいでしょ！？」
「うおぉぉぉ、マジで速ぇ！　冗談抜きに一瞬じゃないか！」
「ううぅ……騎士団伝令隊としての限界を感じる……何か俺、泣けてきたぁ」
「おいおい泣くなって。俺達だってちゃんと頑張ってるってば。だから泣くなって」
　
　唾を飛ばしながら興奮してる彼女、目を丸くしてる隊員さん、泣き始めちゃったお髭の隊員さんと、それを慰めてるツルピカ頭の隊員さん……その他にも、何だかたくさん。

「あの〜……ボク、お邪魔かな？　みんなを不愉快にさせちゃった、かな？」
「　「　「　「　「 とんでもないっ！ 」　」　」　」　」

　その場の空気に耐え切れなくなったボクの問い掛けに、みんなは声を揃えてそう言ってくれたんだ。ちなみに、ブンブンと首を横に振る動きも揃ってたよ。

「う〜んと、あの、それじゃあ、さっきみたいな書類運びとか、伝言とか、ちょっとした荷物の移動とか、ミミックなりのお手伝いをさせて貰っても……良いかな？」
「　「　「　「　「 是非ともお願いしますっ！ 」　」　」　」　」

　今度は、声を揃えながら、みんな一斉に深々と礼。

「あと、同じミミックの友達とか、知り合いのつぼまじんちゃん達も呼んだ方が……良いかな？」
「　「　「　「　「 何卒よろしくお願いいたしますっ！ 」　」　」　」　」

　三回目のお揃いは、何故かみんな右手を突き上げて『イェ〜イ！』なポーズ。
　……きっとみんな、疲れと驚きで変なテンションになっちゃったんだね。うん。

　その後はみんなに訊ねた通り、姉妹のつぼまじんちゃんとミミックの友達を四人、そこにボクを加えて合計七人の【チーム瞬間移動】が結成されたんだ。
　……このチーム名を決めたのは、伝令隊のみんななんだけどね。うん。やっぱり変なテンションになってたんだろうね。うん。

　お仕事は目が回るくらい忙しかったけど、伝令隊のみんなとの時間はボクの宝物になったよ！
　一人一人の隊員さんが自分の仕事に誇りを持っていて、国を愛していて、そこに暮らす全ての人達の事を思っていて……。
　隊のみんなはボク達の能力を褒めてくれたけど、本当にすごいのは絶対にみんなの方だよって。あの時も今も、ボクは心の底からそう思ってるよ！

　ボク達は箱や壺が無ければ移動出来ないけど、みんなは「そこにいる人達のために！」って、そんな気持ち一つでどこへだって駆けて行くんだから。
　ちょっぴり悔しいけど、あの情熱とカッコ良さには敵わないなぁ。


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☆とあるハーピーの証言

　夏から秋までは、山登りやハイキングをする人の援助サービス。
　冬は、この街で運送業。
　そして、春は……愛する旦那さんとの子作り期間。

　それが、あたしの一年の過ごし方なんだけどね。どうだい？　なかなかの働き者だろ？
　結婚する時にさ、旦那さんと二人で話し合って決めたんだ。
　「若いうちは二人で一生懸命働いて、そこそこの歳になったら、環境の良い土地でのんびり土いじりでもしていこうよ」ってね。
　だから、あたしたち夫婦は一生懸命働いてるってわけ。いわゆる『人生設計』って奴だね。

　で、あの日は、「冬もそろそろ終りだねぇ。今年こそ子宝に恵まれるように頑張ろうねぇ」なんてお茶を飲みながら話しをしてる所に、あの地震が来ちゃってね。
　突然の事で何が何だかわからなかったんだけど、とにかくあたしは空に上がってみたんだ。
　そしたらもう、あちらこちらも、とにかく街の全部がとんでもない事になってるじゃないか！

「何これ、どうしよう！？　一体何をどうすりゃいいのっ！？」
「落ち着け。こういう時は、慌てちゃ駄目だ」

　地上に降りて右往左往しちゃったあたしに、旦那さんは冷静に言葉をかけてくれてね。

「荷物だ何だ、細々したものは全部俺が面倒をみる。この家も守る。ご近所さんの確認もして来る。お前は、ハーピーの仲間に声をかけて、自警団や騎士団の人達の手伝いをして来い」
「え、でも……」

　ためらうあたしに、旦那さんは自信に満ちた表情でこう言ってくれたんだ。

「お前は、この街の事も山の事も熟知してる。おまけに、荷物を運べて空も飛べるすげぇハーピーなんだ。この有様じゃ、大勢の人が色んな形で困ってるだろう……お前には、それを助ける力があるんだよ。さぁ、行って来い！　みんなには、お前が必要なんだ！」

　そして旦那さんは、ニッコリと笑ったんだ。
　あたしの大好きな、明るい前向きな笑顔を見せてくれたんだよ。
　だから、もうあたしは迷わなかった！

「よ〜し、わかった！　家と荷物とご近所さんは頼んだよ！　ハーピー魂を見せて来るからね！」

　そうして、あたしは飛び立ったんだ。
　心は熱く燃えていたけど、頭は不思議なほど冷静だったね。
　街を見渡して被害の状況を確認しながら、まずは同じハーピーの仲間達が多く住んでる山の方を目指したんだけど……。

「ありゃ？　みんな？」
「おぉ、無事だったかい？　これからみんなで、あんたの家に行く所だったんだよ！」

　街と山の境目辺りで、声をかけようと思っていた仲間達と出くわしてね。
　話を聞いてみたら、街の方の被害に驚いて、みんなであたしを助けに行こうとしてたんだって。
　持つべきものは友達だね。本当にありがたい話さ。
　そこであたしは、旦那さんから託された『困っている人のために、ハーピーとして出来ること』の話をみんなにしたんだ。
　すると……

「ふ〜む、なるほどねぇ。確かに、そりゃ世のため人のためになるってもんだ」
「飛んで来る途中で見たけど、峠や街道も結構やられちゃってたしねぇ」
「山ん中の小さな村なんか、陸の孤島になってんじゃないか？」
「街の方も、被害状況の全部を地上から把握するなんて……難しいだろうしね」

　あたしの話を聞いた後、みんなはそんな風に頭を寄せ合ってあれこれと話し合い始めたんだ。
　そして、一際力強く羽ばたいてから、しっかりとこう答えてくれたんだよ。

「よっしゃ、その話に乗ったよ！　一丁やってやろうじゃないか！」
「うん！　ありがとうね！」

　つくづく本当に……持つべきものは友達だね。みんな最高のハーピー達さ！
　人数は、あたしを入れて六人だったんだけど、まずはそこで街へ向かう三人と、山へ戻る三人の二手に分かれてね。

「それじゃ、私達は山チームだ。小さい村や集落の確認。あと、登山道や谷のあたりで取り残されてる人がいないかを調べるよ！」
「りょ〜かい！　異常が見つかったら、騎士団や自警団の人達に伝えれば良いんだよね？」
「そうだね。あ、がけ崩れが起こりそうな場所とかも調べた方がいいんじゃない？」

「うちら三人は街だね。避難してる人達の誘導とか、火事の発生の連絡とか、物資の運搬とか……そういうのが主な仕事になるのかな？」
「たぶんそんな感じだろうけど、救援の仕事をしてる人から色んな事を頼まれたりもするんだろうね。ところであんた、旦那を残して来て平気なの？」
「もちろん。あたしの愛する旦那さんは、とびきり優しくて頑丈な人だからね！」

　あたしがそう言うと、仲間達は「ヒュ〜」と口笛を吹いて笑ってね。
　そして次の瞬間には全員がキリリと表情を引き締めて、こんな風に声を掛け合ったんだ。

「それじゃあ、行こうか！　ハーピーの誇りを持って！！」

　……その後のあたし達の仕事ぶりは、騎士団や外国の救援隊記録を見てもらった方が早いんじゃないかな。
　山のみんなは逃げ遅れた人を救出したり、孤立した集落に食料を届けたりの大活躍。
　あと、がけ崩れや土砂崩れの予兆をみんなに知らせて、素早い避難につなげたりもしたんだ。
　街のあたし達も、救援本部と郊外の作業部隊を結ぶ連絡役を務めたり、必要な各種の物資を運んだり、救援を求めている人を空から発見したりと、色々やってたよ。

　ちなみに、あたしの旦那さんも、ご近所さんと一緒に人命救助にあたってたんだよ？
　体のあっちこっちに擦り傷や切り傷を作りながらも、「お前に負けてらんないからな」って笑うその姿ったら……もう本当、無精卵を産んじゃいそうなほどカッコ良かったんだから！

　あ……ゴホンゴホン。大変失礼。
　とにかく、あたしも仲間達も、この街が好きだし、自然が好きだし、人間のみんなが好きだし……って事なんだよ。
　『ハーピーは気に入った男をヒョイと連れ去ってしまう恐ろしい種族だ』なんて言う無礼者もいるけどさ、そんな奴だってイザって時には救い出してみせるよ。あたしは。

　良い格好をして言う訳じゃなく、本心から思うよ。
　この苦難を乗り切って、みんながこの街で、この山で、また笑えるようになったら素敵だなぁってね。


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　〈 ※レポート制作局補足説明 〉

　その能力をいかん無く発揮し、騎士団伝令隊を救ったミミックとつぼまじん達には、その後正式に【騎士団伝令隊特別小隊：チーム瞬間移動】として、騎士団の紋章が授与された。
　これは、今回のような非常事態が発生した際には素早く駆けつけ、伝令隊の一員として職務に取り組むという約束の証である。
　もちろんタダ働きを強いる訳ではなく、有事下においては人間の隊員達と同じ給与、名誉、発言権が与えられる。

「ん〜、お給料よりも、素敵な男性を紹介してくれた方が嬉しいんだけどなぁ」
「あ、あの……ミミックさんと同じで、私達つぼまじんも、あの……そっちの方が……」
　……という彼女達からの要望についても、今後前向きに検討して行く予定である。

　一方、大空を自由に駆け抜け、貴重な情報と物資を運び続けてくれたハーピーの彼女達は、その後、街一番の山岳ガイドおよび運送業者となり、今日も忙しく働いている。
　献身的でありながらも、明るく前向きな彼女達の言動は多くの人々の心を動かし、現在ではなかなか予約や依頼が通らない程の人気ぶりであるという。

「旦那と二人でやってた仕事も、おかげ様で大忙しでね。仲間達にも手伝ってもらってるんだ。あ、でも、やっぱり春は恋と子作りの季節だから、お休みをいただくけどね。あしからず」
　……彼女達の仕事ぶりを直に見たいのであれば、夏〜冬にかけてをお薦めする次第である。