チェシャ猫と流浪の旅人
「白いウサギを知らないか？」
私は紫と黒の毛並みをしたワーキャット―チェシャ猫―に尋ねた。
背丈は私よりも少し低いだろうか。露出度の高い格好をしていて、胸元や太ももに思わず目が行ってしまう。
そして、そんな男の下心を察知しているかのように、可愛らしい顔にニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「これのこと？」
チェシャ猫は何処からか白いウサギのぬいぐるみを取り出した。
「いや、生き物のほうなんだ」
「じゃあこれ？」
今度はウサギの丸焼きを掲げた。
「いや、生きている方なんだ」
というか、ワーラビット何だが……。
「君って意外と我儘だね。それよりもさあ……」
チェシャ猫は茂みに飛び込むと、その姿を消した。かと思えば
「ここはどこ？とか、君は誰？とかそういう質問したほうがいいんじゃないの？」
いつの間にか後ろに回られ、私の腕に絡んでいた。手品師か何かか？吐息が耳に当たり、思わず身震いした。
「いや、私は普段からどこだかわからないとこふらついているし、君との関係もこれまでだと思うから、別にいいよ」
と、なんとか平静を装ってみた。しかし、決して嘘を言っているわけではないのだ。
私は旅人だ。一つの場所に留まることが性に合わないらしく、旅に出て、お金を稼いで、またどこかへと言う事を繰り返していた。
しかし、道を急いで駆ける白のワーラビットとぶつかった拍子に旅費のはいった小袋を取られてしまった。
代わりに懐中時計が落ちていたことを鑑みるに、取り間違えてしまったのだろう。せっかちなうさぎである。
それがついさっきの事で、うさぎを探して森を歩いていたらチェシャ猫に遭遇してしまったのが現在、というわけである。
事の経緯をチェシャ猫にかい摘んで説明した。
「なるほどね、その白ウサギのことか。それならそうと言ってくれればいいのに。我儘で冷たい上に言葉足らずだね君」
何だとこの猫、失礼にも程があるぞ。と言いたいところだが、喉の辺りでグッとこらえた。
「ひょっとして知っているのか？」
「勿論。その子は同じ国の生まれだからね。名前から3サイズまでなんでも知ってるよ。何が知りたい？」
「今どこにいるのかだけ教えてくれ。」
別に名前も3サイズも知りたくなかった。ただお金を返して欲しいだけなのだから。
「それはちょっと分からないなぁ……」
チェシャ猫は肩をすくめ、困ったような顔をした。本当に困っているのはこっちである。
「なんでも知ってるんじゃなかったのか？」
「前言撤回。現在地以外ならなんでも知ってるよ」
胸を張って答えた。揺れていた。いや、別に私は胸に興味が有るわけではない。動くものを反射的に目で追っているだけ。そう、そうなのだ。
と、いかんいかん。今は重要なのは胸ではなくウサギである。
「じゃあその白ウサギが普段よく行く場所教えてくれよ」
「それなら分かるよ。ちょっと遠いから、一緒に行こう」
と、チェシャ猫は絡めた腕を引いて歩き出す。私は彼女に導かれるまま、森の奥へと足を運んだ。
「ねえ、旅って楽しい？」
道案内の途中。不意に、チェシャ猫が尋ねてきた。
「うん、まあ……どうなんだろうね。別に嫌ではないんだけど」
消去法でこんな生き方をしているだけで、旅が好きかと聞かれると自分でもわからなかった。
「君は旅したことはないの？」
「ないね」
「旅にでたいと思ったことは？」
「もっとないね」
俊敏な動きで樹木をするりと登っていく。そして、フッ、っと消えた。
「行こうと思えばどこでもいけるからね。僕達チェシャ猫の能力でなら、この国の中なら縦横無尽に移動できちゃうから」
そしてまた突然私の目の前に現れる。なるほど、さっきから行われている瞬間移動は手品ではなく、彼女らの特異な能力だったのだと納得した。
「便利そうだな」
「そうだね、この国に迷い込んだ若い男の子に真っ先に出会えるのはメリットだよねぇ」
妖艶な笑みを浮かべている。その表情はおっかなくもあり、魅力的でもあった。やはり彼女は魔物なんだ、と再認識してしまう。
「そういえば、私のことは襲わないのか？」
「え？うぅ〜んそうだなぁ〜……」
しばし考えた後。
「僕が悪戯するより、誰かに悪戯サれているのを見てるほうが楽しそうかも」
……つまり、私は現在進行形で騙されているということか。
「まあ、悪い人じゃないみたいだから、ウサギに時計を返すまでは何もしないであげるよ。」
ぼくはね？と付け加えて、からからと子供っぽくチェシャ猫は笑った。ただ他愛もないおしゃべりをしている間に彼女は様々な笑顔を見せた。
表情豊かに笑う彼女に、私の警戒心は少しずつ解かれていった。
「何ぼうっとしてるの？なにかいやらしい事でも考えてるの？」
鼻がくっつきそうな距離まで顔を寄せてニヤリと彼女は笑う。
「あ、いや……」
あっけにとられて口ごもってしまう。
「か、可愛かったなぁ〜、白ウサギが、さ……」
顔もよく見てないから覚えてないのだが、思わず口からでまかせが出てしまった。
「……ふ〜ん……そう」
半笑いだった。どんな話でも笑顔を崩さない辺り、チェシャ猫、結構いいやつなんじゃないかと思った。
お菓子で出来た森を抜け、ピンク色の山を登り、ファンシーな魚が泳ぐ川を渡った。険しい道のりだったが、歩くことには慣れているのでそこまで苦ではなかった。
チェシャ猫は消えては現れ、現れては消えを繰り返していたので、僕よりも疲れてはいないようだった。
「着いたよ」
チェシャ猫が指差す方をみると、林の中に小さな一軒家が立っていた。
「白ウサギはよくここにいるよ」
「……というよりも」
ここはウサギの家なのではないだろうか……。
ベルがないので玄関を叩いてみる。しかし、誰も居ないようだった。
「鍵もかかってるし、中には入れないか……」
せっかく来たのに……と落胆していると
「開けられるよ」
と、チェシャ猫。
「合鍵でも持ってるのか？」
彼女の方を見ると姿がない。かと思えばドアの家側の方から何やら音がする。
「いらっしゃいませ〜」
チェシャ猫が接客スマイルで迎え入れてくれた。瞬間移動、よく考えると恐ろしい能力である。
部屋の中はいたってシンプルで、周りの風景と比べると浮いていると感じた。
ただひとつ、テーブルの上に用意された山盛りのお茶菓子と紅茶が目を引いた。
紅茶の上品な香りが鼻をくすぐる。すると、それに刺激されたかのように腹の虫がグウゥ、と鳴いた。
そういえば今朝から何も食べていなかった。忙しかったので忘れていたが、思い出したら急に腹が減った。
「……食べたいの？」
チェシャ猫が意地悪に微笑む。
「うん……でも人のものを勝手に食べるのは、ねえ？」
そうだねえ、とチェシャ猫は考えているようなポーズを取ると
「じゃあ、小袋とこのお茶菓子を交換する、っていうのはどう？」
なるほど、それならいいか。例え良くなかったとしても、もう私の食欲は抑えることが出来ないでいた。
時計を見るとちょうどいい時間だったので私は、お湯を沸かし、ティータイムの準備を始めた。
「いただきます」「いただきます」
なぜかチェシャ猫も一緒に食べることになった。一人で食べるのも味気ないので構わないのだが。
紅茶の芳醇な香りと、サクサクとしたクッキーの食感を味わいながら、私達は語らう事にした。
「そういえばここはどこなんだ？」
「ここは不思議な国だよ。」
「初めて聞く名前だが」
「そう簡単には入ってこれないからねえ。偶然入り込むのは宝くじに当たる位低い確率だよ」
どうせなら宝くじが当たって欲しかった。そんな愚痴を紅茶で流し込む。
私達は気が合うのか、それともお茶のせいなのか。会話は弾んで小一時間程話し込んでいた。
彼女は色々なことを教えてくれた。この国はハートの女王が治めている事。この国を出るのは入るのと同じくらい難しいこと。
このクッキーとお茶菓子は、おそらくこの国のとあるお茶会好きからの貰い物だということ。
そのお茶会で出されるものはどれも媚薬効果の高いものばかりで、一皿分も食べればどんな聖人だろうと理性が吹っ飛ぶと言う事。
後半の話を聞かされたのは、まさにお茶菓子を一皿綺麗に平らげた後だった。
「どうしてそれを先に言ってくれなかった！？」
「そのほうが面白そうだからねぇ」
チェシャ猫は、姦濫な笑みを浮かべた。動悸が加速する。心臓が今にも爆発しそうに、胸を叩き続けている。
ひょっとして、私は騙されていたのか？やはり魔物娘に気を許してはいけなかったのかもしれない。
しかし後悔しても遅かった。またチェシャ猫は消えてしまっていた。席を立ち、あたりを見回す。
「僕はここだよ」
チェシャ猫は目の前にいた。反応するよりも早く、私の体に柔らかい胸が密着する。
「騙そうとしたわけじゃないんだ。たまたま君を見つけて、たまたまウサギの家にお茶菓子があっただけ。だから怒らないで」
彼女はピッタリと体を重ねると、優しく囁いた
「ね……？いいでしょ……？」
その瞬間、私の中でキリキリと音を立てていたものが、プッ……と静かに切れた。
気付いた時には彼女をベッドに押し倒してた。
左手で腕を抑えて、彼女は身動きがとれないでいた。
潤んだ唇に口吻し、下を這わせる。私と彼女の唾液が混ざり合う。
「ンチュ……チュグ……ハァ……」
お菓子を食べていたからか、 甘い味がした。
「あ……クッキー……」
耳元で囁いた。ただの名詞がくらくらするほどの卑猥な言葉に聞こえる。
「食べカスがついてる……」
え、と言う間もなくザラリ。小さな舌が口の周りをを舐めた。まるでそこが性感帯になったかの様に敏感に反応してしまう。
私も、空いている右手で彼女の乳房に触れる。
「アンッ！」
彼女も敏感になっているのか、ピクンと体を反らせた。無理もない。私と同じくらいお菓子を食べたのだから、それはそれは体中の感覚が鋭敏になっているはずである。
硬くなっている乳首を優しくこねる。コリコリとしっかりとした感触を楽しむ。
「んんっ……」
どうやら乳首が弱いようで、必死で声を押し殺しているのが分かった。
左手の拘束を解き、下腹部に手を伸ばす。
「はぁん！」
彼女の陰部はすでに愛液で滴っていた。と、そこで思い至る。
「穿いてなかったの？」
「うん……。スースーして気持ちいいから……」
じゃあ、会った時からずっと……。
………………
興奮した。そして勃起も全開になった。悲しいくらいに私は単純な男なようだ。
私のモノを受け入れる準備は整っているようで、彼女の入り口がパクパクと開いていた。
指を入れてみる。ヌチャヌチャと嫌らしい液体音を立てながら、彼女の秘部は2本の指をすんなり受け入れた。
関節を動かしたり、回転させたりすると、それに合わせるかのように中はグネグネと蠢いた。
「あんん！遊んじゃ……やぁん……！」
「あ、ああ、ごめん」
指を引き抜こうとすると、名残押しそうに膣壁が吸い付いてくる。いつの間にやら、私の手は愛液でまみれていた。
私とチェシャ猫は互いに正面をを向き、正常位の体位となってお互いを見つめていた。彼女の潤んだ瞳が、早く欲しいと訴えているようだった。
「じゃあ、挿れるよ」
それに答えるように、ツプリと、静かに、ゆっくりと私のペニスが彼女の中に飲み込まれていった。
「ふうぅぅ！くっ……んんっ！」
チェシャ猫はすごく気持ち良さそうに反応する。亀頭全体をヒダヒダが包み込み、締め付ける。
「だ、駄目だ！で……るっ！」
強すぎるその刺激に驚き、耐え切れずに彼女の中に放ってしまう。
「あ……出てる……」
しばらくぼうっと眺めていると、チェシャ猫は自分の秘部に手をやり、漏れだした精子を指ですくって、舐めた。
「美味し……」また彼女は淫らに笑った。すごく、魅力的だった。でも駄目だ。そんな顔をしたら……。
彼女の中で、私のペニスはまた大きくなっていた。
「あん……！まだ元気だね」
何も答えず、黙って腰を動かす。出した精子が潤滑油になっているのか、スムーズに動いた。
リズムよく腰を動かすと、彼女の愛液と私の静止が混ざり合い、泡を立てていた。
「あッ、あ、ああ！ん、むう！！」
抽送運動が次第に早くなる。彼女も切なそうな顔をしている。
もう私も忍耐も限界だった。イチモツが腫れたように膨らむのが感じられる
「ああ！い……いッ！い…く！いっちゃう！」
最後の力を振り絞り、子宮に亀頭を叩きつけた。
「イッ……くううううぅッ〜〜〜〜〜！！！」
ペニスが脈を打ちながら子種を流し込む。射精は長く続き、私はチェシャ猫を力いっぱい抱きしめていた。
チェシャ猫は大きく背を反らせ、快楽に身を震わせていた。
やがて全てを出しきり、ヌルリとペニスを引き抜くと、私は糸の切れた人形の様にパタリとベッドに倒れ込んだ。
目が覚めると、隣でチェシャ猫が小さな寝息を立てていた。起こさない様にゆっくりと体を起こし、窓から外の様子を伺う。
木々の合間から日光が漏れ、草花が風に揺れ、鳥達がさえずっている。朝だった。
「やってしまった」
ため息をつくと、チェシャ猫が起きて背伸びをしていた。
嘆いていても始まらないので、私は朝食を作ることにした。
「さて、これからどうするか」
朝食を取り終え、気分が落ち着いたのでゆっくり考えてみる。
時計はここにおいておけば大丈夫だとして、問題は小袋なのだが、実は大してお金も入ってないことを思い出した。
部屋を一泊借りた上、食事が付いて来たと思えば妥当なのかもしれない。私はウサギに合わずに家をでることに決めた。
「ねえ、これからどうするの？」
チェシャ猫が尋ねる。家を出た後どうするのか？と言う意味だろう。
「そのことなんだけど……」
一拍おいて。
「君の能力で私をこの国の外へ移動させることは出来ないか？」
この国中を縦横無尽に移動できるなら、この国の外にだって容易く出られるだろう、と思ったのだ。
「そうきたか……」
「出来るだろ？」
「勿論大丈夫だけど、条件があるよ」
少し驚いた。道案内もロハでしてくれた彼女である。しかし、むしろ今までよく助けてくれたと言うべきだろう。
「いいよ。なんでも言ってくれ」
ここまで一緒に来てくれた上に、一晩ともにしてしまった仲なのだ。その親切に私も答えなければならないと思っていたところだ。
「じゃあさ……」
チェシャ猫はうつむき、顔を赤らめながら。
「僕も一緒に付いて行っていいかな？」
彼女はそう言った。
無事元の世界に帰ってきた私は、目的地への地図と標識を交互に確認すると、また歩を進めた。
こうしてると、やはりこれが自分の場所なんだと思った。おそらく、これからも家も持たずに私は旅を続けるのだろう。
しかし、一人ではなかった。隣にはチェシャ猫が寄り添うように歩いている。
ただ生きるためだけにしていた流浪の旅も、彼女と一緒なら華やぐような気がした。
「なんでニヤニヤしてるの、君？」
チェシャ猫に言われて、えくぼを触ってみる。つい顔に出てしまったようだ。顔に出るほど嬉しかったのだ。
つられた様にチェシャ猫もニヤニヤと笑う。それは、短い間の中で見せたどれよりも穏やかな笑顔をしていた。
私は紫と黒の毛並みをしたワーキャット―チェシャ猫―に尋ねた。
背丈は私よりも少し低いだろうか。露出度の高い格好をしていて、胸元や太ももに思わず目が行ってしまう。
そして、そんな男の下心を察知しているかのように、可愛らしい顔にニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「これのこと？」
チェシャ猫は何処からか白いウサギのぬいぐるみを取り出した。
「いや、生き物のほうなんだ」
「じゃあこれ？」
今度はウサギの丸焼きを掲げた。
「いや、生きている方なんだ」
というか、ワーラビット何だが……。
「君って意外と我儘だね。それよりもさあ……」
チェシャ猫は茂みに飛び込むと、その姿を消した。かと思えば
「ここはどこ？とか、君は誰？とかそういう質問したほうがいいんじゃないの？」
いつの間にか後ろに回られ、私の腕に絡んでいた。手品師か何かか？吐息が耳に当たり、思わず身震いした。
「いや、私は普段からどこだかわからないとこふらついているし、君との関係もこれまでだと思うから、別にいいよ」
と、なんとか平静を装ってみた。しかし、決して嘘を言っているわけではないのだ。
私は旅人だ。一つの場所に留まることが性に合わないらしく、旅に出て、お金を稼いで、またどこかへと言う事を繰り返していた。
しかし、道を急いで駆ける白のワーラビットとぶつかった拍子に旅費のはいった小袋を取られてしまった。
代わりに懐中時計が落ちていたことを鑑みるに、取り間違えてしまったのだろう。せっかちなうさぎである。
それがついさっきの事で、うさぎを探して森を歩いていたらチェシャ猫に遭遇してしまったのが現在、というわけである。
事の経緯をチェシャ猫にかい摘んで説明した。
「なるほどね、その白ウサギのことか。それならそうと言ってくれればいいのに。我儘で冷たい上に言葉足らずだね君」
何だとこの猫、失礼にも程があるぞ。と言いたいところだが、喉の辺りでグッとこらえた。
「ひょっとして知っているのか？」
「勿論。その子は同じ国の生まれだからね。名前から3サイズまでなんでも知ってるよ。何が知りたい？」
「今どこにいるのかだけ教えてくれ。」
別に名前も3サイズも知りたくなかった。ただお金を返して欲しいだけなのだから。
「それはちょっと分からないなぁ……」
チェシャ猫は肩をすくめ、困ったような顔をした。本当に困っているのはこっちである。
「なんでも知ってるんじゃなかったのか？」
「前言撤回。現在地以外ならなんでも知ってるよ」
胸を張って答えた。揺れていた。いや、別に私は胸に興味が有るわけではない。動くものを反射的に目で追っているだけ。そう、そうなのだ。
と、いかんいかん。今は重要なのは胸ではなくウサギである。
「じゃあその白ウサギが普段よく行く場所教えてくれよ」
「それなら分かるよ。ちょっと遠いから、一緒に行こう」
と、チェシャ猫は絡めた腕を引いて歩き出す。私は彼女に導かれるまま、森の奥へと足を運んだ。
「ねえ、旅って楽しい？」
道案内の途中。不意に、チェシャ猫が尋ねてきた。
「うん、まあ……どうなんだろうね。別に嫌ではないんだけど」
消去法でこんな生き方をしているだけで、旅が好きかと聞かれると自分でもわからなかった。
「君は旅したことはないの？」
「ないね」
「旅にでたいと思ったことは？」
「もっとないね」
俊敏な動きで樹木をするりと登っていく。そして、フッ、っと消えた。
「行こうと思えばどこでもいけるからね。僕達チェシャ猫の能力でなら、この国の中なら縦横無尽に移動できちゃうから」
そしてまた突然私の目の前に現れる。なるほど、さっきから行われている瞬間移動は手品ではなく、彼女らの特異な能力だったのだと納得した。
「便利そうだな」
「そうだね、この国に迷い込んだ若い男の子に真っ先に出会えるのはメリットだよねぇ」
妖艶な笑みを浮かべている。その表情はおっかなくもあり、魅力的でもあった。やはり彼女は魔物なんだ、と再認識してしまう。
「そういえば、私のことは襲わないのか？」
「え？うぅ〜んそうだなぁ〜……」
しばし考えた後。
「僕が悪戯するより、誰かに悪戯サれているのを見てるほうが楽しそうかも」
……つまり、私は現在進行形で騙されているということか。
「まあ、悪い人じゃないみたいだから、ウサギに時計を返すまでは何もしないであげるよ。」
ぼくはね？と付け加えて、からからと子供っぽくチェシャ猫は笑った。ただ他愛もないおしゃべりをしている間に彼女は様々な笑顔を見せた。
表情豊かに笑う彼女に、私の警戒心は少しずつ解かれていった。
「何ぼうっとしてるの？なにかいやらしい事でも考えてるの？」
鼻がくっつきそうな距離まで顔を寄せてニヤリと彼女は笑う。
「あ、いや……」
あっけにとられて口ごもってしまう。
「か、可愛かったなぁ〜、白ウサギが、さ……」
顔もよく見てないから覚えてないのだが、思わず口からでまかせが出てしまった。
「……ふ〜ん……そう」
半笑いだった。どんな話でも笑顔を崩さない辺り、チェシャ猫、結構いいやつなんじゃないかと思った。
お菓子で出来た森を抜け、ピンク色の山を登り、ファンシーな魚が泳ぐ川を渡った。険しい道のりだったが、歩くことには慣れているのでそこまで苦ではなかった。
チェシャ猫は消えては現れ、現れては消えを繰り返していたので、僕よりも疲れてはいないようだった。
「着いたよ」
チェシャ猫が指差す方をみると、林の中に小さな一軒家が立っていた。
「白ウサギはよくここにいるよ」
「……というよりも」
ここはウサギの家なのではないだろうか……。
ベルがないので玄関を叩いてみる。しかし、誰も居ないようだった。
「鍵もかかってるし、中には入れないか……」
せっかく来たのに……と落胆していると
「開けられるよ」
と、チェシャ猫。
「合鍵でも持ってるのか？」
彼女の方を見ると姿がない。かと思えばドアの家側の方から何やら音がする。
「いらっしゃいませ〜」
チェシャ猫が接客スマイルで迎え入れてくれた。瞬間移動、よく考えると恐ろしい能力である。
部屋の中はいたってシンプルで、周りの風景と比べると浮いていると感じた。
ただひとつ、テーブルの上に用意された山盛りのお茶菓子と紅茶が目を引いた。
紅茶の上品な香りが鼻をくすぐる。すると、それに刺激されたかのように腹の虫がグウゥ、と鳴いた。
そういえば今朝から何も食べていなかった。忙しかったので忘れていたが、思い出したら急に腹が減った。
「……食べたいの？」
チェシャ猫が意地悪に微笑む。
「うん……でも人のものを勝手に食べるのは、ねえ？」
そうだねえ、とチェシャ猫は考えているようなポーズを取ると
「じゃあ、小袋とこのお茶菓子を交換する、っていうのはどう？」
なるほど、それならいいか。例え良くなかったとしても、もう私の食欲は抑えることが出来ないでいた。
時計を見るとちょうどいい時間だったので私は、お湯を沸かし、ティータイムの準備を始めた。
「いただきます」「いただきます」
なぜかチェシャ猫も一緒に食べることになった。一人で食べるのも味気ないので構わないのだが。
紅茶の芳醇な香りと、サクサクとしたクッキーの食感を味わいながら、私達は語らう事にした。
「そういえばここはどこなんだ？」
「ここは不思議な国だよ。」
「初めて聞く名前だが」
「そう簡単には入ってこれないからねえ。偶然入り込むのは宝くじに当たる位低い確率だよ」
どうせなら宝くじが当たって欲しかった。そんな愚痴を紅茶で流し込む。
私達は気が合うのか、それともお茶のせいなのか。会話は弾んで小一時間程話し込んでいた。
彼女は色々なことを教えてくれた。この国はハートの女王が治めている事。この国を出るのは入るのと同じくらい難しいこと。
このクッキーとお茶菓子は、おそらくこの国のとあるお茶会好きからの貰い物だということ。
そのお茶会で出されるものはどれも媚薬効果の高いものばかりで、一皿分も食べればどんな聖人だろうと理性が吹っ飛ぶと言う事。
後半の話を聞かされたのは、まさにお茶菓子を一皿綺麗に平らげた後だった。
「どうしてそれを先に言ってくれなかった！？」
「そのほうが面白そうだからねぇ」
チェシャ猫は、姦濫な笑みを浮かべた。動悸が加速する。心臓が今にも爆発しそうに、胸を叩き続けている。
ひょっとして、私は騙されていたのか？やはり魔物娘に気を許してはいけなかったのかもしれない。
しかし後悔しても遅かった。またチェシャ猫は消えてしまっていた。席を立ち、あたりを見回す。
「僕はここだよ」
チェシャ猫は目の前にいた。反応するよりも早く、私の体に柔らかい胸が密着する。
「騙そうとしたわけじゃないんだ。たまたま君を見つけて、たまたまウサギの家にお茶菓子があっただけ。だから怒らないで」
彼女はピッタリと体を重ねると、優しく囁いた
「ね……？いいでしょ……？」
その瞬間、私の中でキリキリと音を立てていたものが、プッ……と静かに切れた。
気付いた時には彼女をベッドに押し倒してた。
左手で腕を抑えて、彼女は身動きがとれないでいた。
潤んだ唇に口吻し、下を這わせる。私と彼女の唾液が混ざり合う。
「ンチュ……チュグ……ハァ……」
お菓子を食べていたからか、 甘い味がした。
「あ……クッキー……」
耳元で囁いた。ただの名詞がくらくらするほどの卑猥な言葉に聞こえる。
「食べカスがついてる……」
え、と言う間もなくザラリ。小さな舌が口の周りをを舐めた。まるでそこが性感帯になったかの様に敏感に反応してしまう。
私も、空いている右手で彼女の乳房に触れる。
「アンッ！」
彼女も敏感になっているのか、ピクンと体を反らせた。無理もない。私と同じくらいお菓子を食べたのだから、それはそれは体中の感覚が鋭敏になっているはずである。
硬くなっている乳首を優しくこねる。コリコリとしっかりとした感触を楽しむ。
「んんっ……」
どうやら乳首が弱いようで、必死で声を押し殺しているのが分かった。
左手の拘束を解き、下腹部に手を伸ばす。
「はぁん！」
彼女の陰部はすでに愛液で滴っていた。と、そこで思い至る。
「穿いてなかったの？」
「うん……。スースーして気持ちいいから……」
じゃあ、会った時からずっと……。
………………
興奮した。そして勃起も全開になった。悲しいくらいに私は単純な男なようだ。
私のモノを受け入れる準備は整っているようで、彼女の入り口がパクパクと開いていた。
指を入れてみる。ヌチャヌチャと嫌らしい液体音を立てながら、彼女の秘部は2本の指をすんなり受け入れた。
関節を動かしたり、回転させたりすると、それに合わせるかのように中はグネグネと蠢いた。
「あんん！遊んじゃ……やぁん……！」
「あ、ああ、ごめん」
指を引き抜こうとすると、名残押しそうに膣壁が吸い付いてくる。いつの間にやら、私の手は愛液でまみれていた。
私とチェシャ猫は互いに正面をを向き、正常位の体位となってお互いを見つめていた。彼女の潤んだ瞳が、早く欲しいと訴えているようだった。
「じゃあ、挿れるよ」
それに答えるように、ツプリと、静かに、ゆっくりと私のペニスが彼女の中に飲み込まれていった。
「ふうぅぅ！くっ……んんっ！」
チェシャ猫はすごく気持ち良さそうに反応する。亀頭全体をヒダヒダが包み込み、締め付ける。
「だ、駄目だ！で……るっ！」
強すぎるその刺激に驚き、耐え切れずに彼女の中に放ってしまう。
「あ……出てる……」
しばらくぼうっと眺めていると、チェシャ猫は自分の秘部に手をやり、漏れだした精子を指ですくって、舐めた。
「美味し……」また彼女は淫らに笑った。すごく、魅力的だった。でも駄目だ。そんな顔をしたら……。
彼女の中で、私のペニスはまた大きくなっていた。
「あん……！まだ元気だね」
何も答えず、黙って腰を動かす。出した精子が潤滑油になっているのか、スムーズに動いた。
リズムよく腰を動かすと、彼女の愛液と私の静止が混ざり合い、泡を立てていた。
「あッ、あ、ああ！ん、むう！！」
抽送運動が次第に早くなる。彼女も切なそうな顔をしている。
もう私も忍耐も限界だった。イチモツが腫れたように膨らむのが感じられる
「ああ！い……いッ！い…く！いっちゃう！」
最後の力を振り絞り、子宮に亀頭を叩きつけた。
「イッ……くううううぅッ〜〜〜〜〜！！！」
ペニスが脈を打ちながら子種を流し込む。射精は長く続き、私はチェシャ猫を力いっぱい抱きしめていた。
チェシャ猫は大きく背を反らせ、快楽に身を震わせていた。
やがて全てを出しきり、ヌルリとペニスを引き抜くと、私は糸の切れた人形の様にパタリとベッドに倒れ込んだ。
目が覚めると、隣でチェシャ猫が小さな寝息を立てていた。起こさない様にゆっくりと体を起こし、窓から外の様子を伺う。
木々の合間から日光が漏れ、草花が風に揺れ、鳥達がさえずっている。朝だった。
「やってしまった」
ため息をつくと、チェシャ猫が起きて背伸びをしていた。
嘆いていても始まらないので、私は朝食を作ることにした。
「さて、これからどうするか」
朝食を取り終え、気分が落ち着いたのでゆっくり考えてみる。
時計はここにおいておけば大丈夫だとして、問題は小袋なのだが、実は大してお金も入ってないことを思い出した。
部屋を一泊借りた上、食事が付いて来たと思えば妥当なのかもしれない。私はウサギに合わずに家をでることに決めた。
「ねえ、これからどうするの？」
チェシャ猫が尋ねる。家を出た後どうするのか？と言う意味だろう。
「そのことなんだけど……」
一拍おいて。
「君の能力で私をこの国の外へ移動させることは出来ないか？」
この国中を縦横無尽に移動できるなら、この国の外にだって容易く出られるだろう、と思ったのだ。
「そうきたか……」
「出来るだろ？」
「勿論大丈夫だけど、条件があるよ」
少し驚いた。道案内もロハでしてくれた彼女である。しかし、むしろ今までよく助けてくれたと言うべきだろう。
「いいよ。なんでも言ってくれ」
ここまで一緒に来てくれた上に、一晩ともにしてしまった仲なのだ。その親切に私も答えなければならないと思っていたところだ。
「じゃあさ……」
チェシャ猫はうつむき、顔を赤らめながら。
「僕も一緒に付いて行っていいかな？」
彼女はそう言った。
無事元の世界に帰ってきた私は、目的地への地図と標識を交互に確認すると、また歩を進めた。
こうしてると、やはりこれが自分の場所なんだと思った。おそらく、これからも家も持たずに私は旅を続けるのだろう。
しかし、一人ではなかった。隣にはチェシャ猫が寄り添うように歩いている。
ただ生きるためだけにしていた流浪の旅も、彼女と一緒なら華やぐような気がした。
「なんでニヤニヤしてるの、君？」
チェシャ猫に言われて、えくぼを触ってみる。つい顔に出てしまったようだ。顔に出るほど嬉しかったのだ。
つられた様にチェシャ猫もニヤニヤと笑う。それは、短い間の中で見せたどれよりも穏やかな笑顔をしていた。
14/03/20 17:08更新 / 牛みかん