サマーサニーデイズ
「暑いねー」
「夏だからな」
「セックスする?」
「そうだな……うん?」
八月中旬、真昼。雲一つない青空の下、燦々と照り付ける太陽の光を浴びながら、ラムダは思わず首を傾げた。そして彼は首を回し、背後から自分を抱き締めていたメロウのモニカを肩越しに見つめた。
「なんでそうなるんだよ」
「だって、暑いんだもん。暑いからセックスしたくなるのは当然の流れじゃない」
「ならねえよ。なんでそうなるんだよ、セックスマシーンめ」
けだるそうにラムダが愚痴をこぼす。モニカはその悪口に対して悪感情は抱かず、ただ楽しげに破顔させながら彼を抱く腕に力を込める。
「セックスマシーンでもいいもーん。とにかく私は今とっても暑いから、ラムダとえっちなことがしたいの。おわかりかしら?」
「そんなに暑いんなら家に戻ればいいだろ。暑いからエッチしたいって、どういう理屈だ」
大海原のど真ん中、水深百メートルの地点にある自分達の住処から浮上し、二人して海面を漂いながら日光浴に興じていた時の事である。この時二人は服を着ておらず、全裸であった。しかし日常的に水中で生活していた彼らにとって、衣服はもはや邪魔なものでしかなかったのである。
閑話休題。外に出て日光浴をしようと言い出したのはモニカであった。そして今、二人は立ち泳ぎの姿勢になり、胸から上を海面に露出させていた。
「それに、始めてからまだ十分も経ってないぞ。いくらなんでも早すぎじゃないか?」
「だって、仕方ないじゃない。こうして抱き締めてると、あなたの体温と匂いを間近に感じて、あそこがきゅんきゅんしちゃうんだもん♪」
「……じゃあ、抱き締めなきゃいいんじゃないか? 俺だってもう一人で泳ぐことくらいできるぞ」
モニカと婚約を果たし、海中で生活を始めたラムダは、今ではすっかり泳ぎ方をマスターしていた。インキュバス化したことによって体力も増し、おかげで彼はまさに魚のように、自由自在に海中を行き来することが出来るようになったのである。
「もう昔とは違うんだ。お前のサポート無しでも、十分やれるって」
ラムダに水泳のイロハを教えたのはモニカだった。このメロウは自分を愛してくれた人間に、まさに手取り足取り、懇切丁寧に泳ぎ方をレクチャーしたのである。
しかし、そんな「自慢の生徒」の自信満々な台詞に対し、モニカはまったく不服そうに頬を膨らませた。
「あなたはいいかもしれないけど、私は嫌なの」
「泳げないから?」
「そうじゃないわ。泳ぐ分の魔力は、ちゃんとあなたから補充してるから問題ないの」
メロウの習性――結婚した相手に自身の帽子を贈るという行為によって、モニカはもう単体では泳ぐことも出来ない体になってしまった。帽子には海神の加護が籠められており、それがもたらす魔力によって、メロウ達は海での生活を問題なく送ることが出来ていたのだ。
モニカはそんな帽子を、求婚の際にラムダに贈呈した。そしてそれによって失われた魔力は、ラムダから直接いただくことで補給していたのである。
「そうじゃなくって……あなたと離れたくないの。一人でも問題ないかもしれないけど、それでも私は、あなたと離れたくないの」
モニカは完全にラムダに依存していた。そしてラムダも、そんなモニカに不変の愛を注いでいた。
そしてモニカは、そうして自分を愛してくれるラムダの体を、愛おしげに抱きしめた。
「私は、あなたと一緒に日光浴がしたいの。ぴったり体をくっつけて、一緒にお日様に当たりたいのよ」
「それで発情してちゃ世話無いだろ」
「だからさっき言ったでしょ。暑いのが悪いのよ」
外がこんなに暑いから。
こんなに体が火照ってくるから。
「夏の日差しであなたの体が熱くなって、汗が出てきて、匂いも強くなってきて。それが私をクラクラさせるの。私の理性を崩していくのよ」
「そうやってセックスしたくなるのも、夏のせいってことか」
「そうよ。空が澄んでるのも、日差しが強いのも、私がえっちな気分になるのも、全部夏のせいなの」
全部夏が悪いのよ。肩越しにモニカが囁く。
続けてモニカが顔を動かし、ラムダの肩に浮き上がった汗を舐めとる。
柔らかく、ねっとりとした物体が肌の上を這いまわる。その粘ついた感触を受けて、ラムダが僅かに体を震わせる。
「んふふ、しょっぱい♪」
肩にかかった海水とラムダの汗を同時に味わい、モニカが楽しそうに微笑む。そして微笑んだまま誘惑するように、そっとラムダに耳打ちする。
「ねえ、いいでしょ? 夏の日差しに負けないくらいに、熱いことしましょうよ?」
「……」
対してラムダは一つため息をつき、優しくモニカの腕をほどいて体を動かし、彼女と向き合う。
「俺はそういうの、嫌だな」
そして真顔で、至近距離から言い放つ。唐突に拒絶され、呆気に取られるモニカに、ラムダが続けて口を開く。
「俺は夏のせいとか、暑いからセックスしたいとか、他のやつに理由を求めてするのは好きじゃないんだよ」
「……じゃあ、何なら好きなの?」
咎められたような気分になり、モニカが恐る恐る問いかける。
そのモニカの細い体を、ラムダが何も言わずに抱きしめる。
「俺は、自分の意志でしたい」
背中に回した腕に力を込めてモニカの体を密着させる。そして彼女の横顔に自分の頬を押しつけながら、ラムダが力強く宣言する。
「俺がしたいから、モニカとセックスしたい。モニカとエッチがしたい。俺が今そうしたいから、お前と子作りがしたい」
「……ッ!」
嘘偽りのないラムダの心情が心に響く。それを聞いたモニカの体が一気に堅くなる。
「俺は俺の気持ちを、夏のせいとかにはしたくないんだよ」
体が芯から熱くなり、背筋が伸びきり、握り拳に力が入る。顔が喜びと驚きで真っ赤になる。目を見開き、無言のまま驚愕の表情を作る。
同時に心の中が、ラムダへの愛でいっぱいになる。目の前のオスと盛りたいと、本能が激しく訴えてくる。
「お前はどうなんだ?」
やがてラムダが腕の力を緩め、互いの体を離していく。そして不意打ちを受けてガチガチになっていたモニカを正面から見据えつつ、ラムダが真剣な表情で問いかける。
モニカはすぐには答えなかった。口を堅く閉じ、潤んだ瞳でラムダをじっと見つめる。そしてラムダもまた、彼女の瞳を見つめ返した。
「私は……」
暫しの沈黙。波風の音が二人を優しく包んでいく。
やがてモニカがラムダを見つめたまま、肩の力を抜いた。
「……そうやってストレートに言ってくるの、ずるいよ……」
そして体の緊張をほぐし、小さく呟いた後、素早い動きでラムダの唇を奪った。
「ん……っ!?」
「ンっ、ふう……」
たった数秒の、軽い口づけ。モニカはすぐに顔を離し、真っ赤な顔でラムダと視線を交わした。そして僅かに残るラムダの感触を確かめるように、自分の唇に指を当てた。
「ラムダってば、かっこつけすぎ……私だって、したいに決まってるじゃない」
口元から指を離しつつ、モニカが熱い吐息混じりに告げる。
「私だって、夏とか日光浴とか、そういうの抜きで、あなたとエッチがしたいに決まってるじゃないのよ」
「……そうか」
モニカの本心を聞いたラムダが、どこか安心したように笑みを見せる。実にメロウらしい回答だった。
そしてラムダは続けて、だったらどうしてあんな建前をあれやこれやと持ち出したのかと、純粋な疑念からモニカに問いかけた。
「なんでなんだ? よかったら教えてくれ」
「そ、それはぁ……」
そんなラムダに対して、モニカは指をこね合わせつつ気恥ずかしそうに視線を逸らして答えた。
「あれこれ理由をつけたのは、その、あなたに浅ましい女だって思われたくなかったから……」
「えっ?」
「だから、すんなりセックスに持っていけるように、理由づけがしたかったのよ。日光浴とかも、ただの建前。直球でえっちしましょうって言って、あなたに幻滅とかされたくなかったのよ」
羞恥で顔を真っ赤にしながら、モニカが小声で言い返す。彼女はメロウらしい好色さと、メロウらしからぬ奥手さを兼ね備えた、ある意味では特異な個体であった。それは一つの個性であるとも言えた。
一方でラムダは、そんな個性を持ったメロウを見て「馬鹿だな」と一言呟き、再びモニカの体を抱き締めた。
「そんなんで、お前を嫌いになるわけないだろ? 俺だってお前と、もっとエッチなことしたいっていつも思ってるんだから」
「そ、そうなの?」
「当たり前だろ。こんなことで嘘つくわけないだろ」
「じゃ、じゃあさ……」
若干の恥ずかしさを残した控え目な笑みを浮かべつつ、モニカが彼に提案する。
「今から、私と一緒に……セックスしよ?」
密着したまま、モニカがメロウの一面を見せる。
ラムダは彼女を抱き締めたまま、無言で首を縦に振った。
気持ちの通じ合った二人は、その後互いの体を抱き合いながら沈んでいった。そして陽光が水の中を照らし、青々と輝く海の中で、彼らは愛を育むことにした。
「あん……ンむ、ちゅ……くちゅっ……」
「ぴちゅ、ちゅっ……くちゅ、ちゅううっ、ちゅっ……」
潮の流れにたゆたいながら、体を絡ませ、唇を密着させて舌を貪りあう。この時彼らはモニカの生み出す魔力によって守られており、おかげで海水が口内に侵入することはなく、また塩水が彼らの鼻と目と耳を侵すこともなかった。
これによって二人は海を全身で感じつつ、愛する者との行為に没頭することが出来たのである。
「ちゅ、ちゅるるっ、ずちゅううっ……ぷあっ……あむ、ちゅっ、じゅるるっ……」
しかしその代償として、モニカは恒常的に魔力を消費する羽目になっていた。そしてそれを補うために、彼女は普段以上に淫乱な体質となっていた。現に彼女は今、ラムダの舌に吸い付き、それを肉棒に見立てたバキュームフェラに興じていた。キスだけでは物足りなくなっていたのだ。
眉根は垂れ下がり、細められた目は快楽に蕩けていた。口はひょっとこのようにすぼめられ、鼻の下はだらしなく伸び切っている。とても衆目には晒せない、凄まじく無様で淫らな姿だった。
「ちゅ、くちゅっ、ずぞぞぞっ、じゅるるるるるっ、ぷはっ……どう? ラムダ、気持ちいい?」
「はあ、はあ……ああ、気持ちいいぞ。最高だよ」
「よかった♪ じゃあもっと嫌らしい顔してあげるね♪ はむっ……ちゅ、くちゅ、じゅるるぅ、じゅっ……」
そしてモニカは一旦フェラチオを止め、確認するようにラムダに問いかける。ラムダがそれを肯定すると、モニカは顔を輝かせ、そしてまたラムダの舌に吸い付いて不潔なひょっとこ顔を晒す。一方でそんなモニカの顔を近距離で見ていたラムダは、冷たい海の中で燃える程に体を熱くさせ、下半身に熱と血を溜めこんでいった。
「ちゅぱ、ちゅ、ちゅっ……はあ、ラムダのべろ、おいし……ちゅっ、ちゅううっ……」
見目麗しいメロウが、自分を悦ばせようと恥を捨てて卑猥な顔を見せている。酷く醜悪な様を、自分だけに見せている。
それだけ自分はモニカに信頼されている。それがラムダの心を歓喜で満たし、同時に独占欲も高めていく。愛するモニカを汚したいという黒い欲望がムクムクと顔を覗かせ、それに呼応するように自身の肉棒もまた硬さを増していく。
「じゅっ、ずるるぅっ……あっ♪」
そしてモニカもそれに気づく。舌へのフェラチオを止めて視線を降ろすと、そこにはしなりながら完璧に屹立した肉の塔がそそり立っていた。
「まあ♪」
それを見たモニカが目を輝かせる。そして舌の吸引を止め、首、胸、腹へと舌を這わせながら体の位置を下げていく。やがて顔が肉棒の位置で止まり、暴れないようにその根元に手を添える。
「あ、ちょっと待って」
「ん?」
しかしいざそれを咥えようと亀頭に唇を触れ合わせた刹那、ラムダがそれを止める。そして怪訝な顔で見上げてくるモニカに、ラムダが穏やかな顔で提案をする。
「俺にもやらせてくれよ。お前の事も、ちゃんと気持ちよくさせてあげたいんだ」
「そうなの? 嬉しい♪ じゃあ……」
ラムダの提案を受け、モニカはおもむろに体を動かした。尾ひれを使い、ごぼごぼと音を立てて水を掻き回し、心地よい浮遊感を感じながら、顔を軸にしてその体を百八十度回転させる。そして自分の股がちょうどラムダの顔面に来るように位置を調整し、尾を小刻みに揺らしてその位置を固定させながらモニカが言った。
「私のここも、舐めてくれるかしら?」
「喜んで」
ラムダはその提案を快く受け入れた。そしてモニカの臀部に手を回し、肉付きの良い尻をがっしりと掴む。
「ひゃん!」
いきなり尻を鷲掴みにされたモニカは、反射的に驚声をあげた。しかしすぐに艶めいた表情を浮かべ、色香を漂わせた視線を向けながらラムダに言った。
「もう、レディのお尻はもっと優しく扱ってよね?」
「ご、ごめん。我慢できなくて……」
「発情しちゃった?」
「……ああ。はやくお前のおまんこ、しゃぶりたい」
「そっか。じゃあ……」
そこまで言って、亀頭に小さくキスをする。そして小悪魔のように微笑み、ラムダに向かって言った。
「一緒に、気持ちよくなりましょ?」
「ああ」
ラムダが短く答える。そしてラムダは目の前の割れ目に顔を近づけ、その裂け目の中に向かって舌を伸ばす。モニカも同じく肉棒に向かって口を開け、その堅くそそり立つそれを根元まで飲み込んでいく。
「ん、あむ……ふぅ、じゅぷ、くちゅ……ちゅっ、くちゅるっ、ちゅ……」
「れろ、あん……くちっ、ちゅ、……ちゅるっ……」
モニカが肉棒を優しくしゃぶり、ラムダが膣をしっとりと舐めていく。
互いの体を思いやるような、穏やかな愛撫。決して激しくはない、ぬるま湯のようなシックスナイン。それでも――むしろそれだからこそ、二人は獣にならずに人並みの理性を保ち、互いの愛情を明瞭に感じ取ることが出来た。
「んちゅ、くちゅ……ぷはっ……ねえラムダ、気持ちいい?」
「あむ、ん……ああ、はあ、はあ……気持ちいいよモニカ。お前の方こそどうだ? ちゃんと感じられてるか?」
「うん、とっても気持ちいいよ。あなたの好きだって気持ちが伝わってきて、胸の中がきゅんきゅうしちゃう♪」
「そうか。それじゃあ、もっと感じさせてやるからな……」
「私だって、ラムダのこと、いっぱい感じさせてあげるからね……あむっ、ちゅ、じゅるるっ♪」
その愛は互いに絡まり、熱反応を引き起こし、互いの体に火をつける。もっとこの人を気持ちよくさせたい。もっともっと愛してあげたい。
純粋な愛欲が二人を突き動かし、だんだんとその動きを速めていく。周りの水を蒸発させるほどの勢いで、好意と行為に熱をこめていく。
「じゅっ、じゅるるっ、ずぞぞ、ふう、ふう、ちゅるぅ、ちゅっ……」
「あむ、んむ、じゅっ、ちゅ、くちゅ、ちゅる、ふうっ、ちゅ……」
音が下品になる。自分自身が火の塊と化したように体が熱さを増す。脇目も振らず、ただ目の前の肉を貪っていく。
腹の底から熱いものがこみ上げていき、欲望を吐き出したいと心が悲鳴を上げる。それに応えるように肉棒が震え始め、膣肉がざわざわ蠢いて舌を挟みこむ。
やがて限界が来る。二人はそれを気配で察した。幾度も体を重ねてきた経験が、彼らにそれを敏感に察知させた。
「あむ、じゅちゅっ、くちゅ……あ、あうっ……!」
「じゅむ、じゅ、じゅ、ずるるっ、ふッ……くううっ!」
互いの秘所を味わいながら、二人一緒に苦悶の表情を見せる。トドメとばかりにモニカが顔を持ち上げ、一気に肉棒を飲み込む。
裏筋を舌が這いまわる。喉奥に亀頭がぶつかる。柔らかい衝撃を肉棒全体で感じる。
直後、ラムダの堤防が決壊した。
「あっ、ぐうっ、うあああああっ!」
濡れそぼった膣から顔を離し、蜜塗れの口を大きく開いて雄叫びを上げる。直後、自身の肉棒を激しく震わせ、鈴口から精液をぶちまける。
「ンっ!? むぐっ、ぐ、ふううううっ!」
口の中に粘ついた液体が吐き出される。嗅ぎ慣れた刺激臭が鼻を衝き、汚された舌がビリビリを痺れていく。あっという間に口内が白濁液で満たされ、その白い粘液とどぎつい精臭が人魚の息を詰まらせる。
「んぐ……んっ、じゅっ、じゅる……ごくっ、ごっ、ごきゅっ……」
しかしモニカは、そうして自分の口が穢されていく感覚を、うっとりとした顔で味わっていた。息苦しさすら快感に変わり、モニカは快楽に蕩けた表情を見せた。
その証拠に、彼女は口の中に溜まった精液も何の躊躇も抱かずに、自ら進んで喉の奥に流し込んでいった。鼻をひくつかせて口内に充満する精液の臭いを堪能し、全身でラムダの味を感じていった。そして精液を一口飲み込むたびに膣から愛液を迸らせ、愛するラムダの顔面にマーキングをしていく。
「んっ、じゅ、じゅる……ああ、モニカの蜜、おいしいよ……」
ラムダもまた、それを恍惚とした表情で味わった。彼もまたそれを汚いと思わず、魔力によって海水と分離されたそれを口を開けて受け入れた。
「ちゅっ、じゅるっ……はふぅ……せーえき、おしまい、かしら……?」
「ちゅる、じゅる……ああ。もう、出ないかも……」
「そっかぁ。もっと味わいたかったけど、仕方ないわね」
そうしてお互いの蜜を喜んで味わっていた二人だったが、やがてそれも撃ち止めとなる。そして口の中の精液を飲み干した後、モニカは顔を持ち上げて肉棒を解放し、尾ひれで水を叩いて体を半回転させる。
「ラムダの精液、おいしかったよ♪」
「お前の潮噴きも、すごい美味かったよ」
「そう? えへへ、よかった」
そして互いに顔を向かわせ合い、二人揃って感想を述べる。モニカもラムダも、満たされたように晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「でも、まだ足りないかなあ……」
しかし笑みを浮かべながら、間髪入れずにモニカが言葉を漏らす。そしてラムダの顔にかかっていた自分の愛液を軽く舐め取り、蕩けた表情を見せながら、モニカが体を密着させつつおねだりをする。
「ねえラムダ。そろそろおまんこにも、欲しいな……♪」
ラムダの厚い胸板に、自身の胸をくっつける。ふくよかな双丘が胸板に押し潰され、ぐにゃりと形を変える。そうしておっぱいの感触を味わわせながら、モニカが小悪魔じみた態度で「次」を懇願する。
「ねえねえ、いいでしょ? あなたのおちんちん、下のおくちでも味わいたいの。お願い♪」
「……仕方ない人魚だな」
ラムダはそれを見て、困ったように苦笑をこぼした。しかし嫌な顔は見せず、彼はおねだりしてくるメロウの頭を撫でながら彼女に問いかけた。
「優しいのと、激しいの。どっちがいい?」
「うーんと、えーとねえ……今日はちょっと、ハードめがいいかな」
少し迷った後、モニカが正直にリクエストをする。ラムダもそれを聞いて頷き、彼女の腰を優しく掴む。
「じゃあ、いくぞ」
「うん」
ラムダが告げる。モニカが笑顔で頷く。
それを見たラムダが腰を引いて狙いをつける。そしてとろとろ蜜を流すモニカの膣めがけて、一息に己の剛直を叩き込む。
「はぐ……ッ!」
容赦なく膣肉を抉られたモニカが、衝撃のあまり大口を開けて白目を剥く。舌を突き出し、酸素を求めて必死に喘ぐ。
「はッ、はッ、はッ……きゅううん……」
やがて衝撃が消え去り、代わりに結合部分から快感がじわじわ広がっていく。甘く痺れるような肉悦が脳を焦がし、全身から力が抜けていく。そして縋りつくように、モニカがラムダに力なくしなだれかかる。
「モニカ? 平気か?」
「あっ、はあっ、ふう……大丈夫……平気だよ……?」
もたれかかってきたモニカに、ラムダが不安そうに問いかける。それに対し、ラムダの肩に顎を載せながらモニカが答える。その顔は穏やかであり、同時に体を駆け抜ける快楽の波に表情を蕩かせてもいた。
そんなモニカの体を、ラムダが優しく抱き留める。モニカも腕を持ち上げ、ラムダの体を抱き締め返す。
「ラムダって、あったかいね」
「お前もぽかぽかしてて、暖かいぞ」
「私があなたに火をつけたんだよ? 私が今あったかいのは、あなたのおかげ」
「そうなのか?」
「そうよ」
「夏のせいじゃなくて?」
「ええ。夏じゃなくて、ラムダが私を熱くさせたのよ」
青い海の中、二つの体が一つに重なり合う。互いの体温を直に感じながら、人間と人魚が睦言を交わし合う。
「だからもっと、私を熱くさせてほしいな」
その中で、メロウが甘く催促する。人間はそんなメロウと向き合い、彼女の瞳を見つめながら声をかける。
「今日は焼き魚かな?」
「そんな親父ギャグ。面白くないわよ」
「でも、火傷はしたいんだろ?」
「……うん。あなたの熱で、大火傷したい」
濡れた瞳のままモニカが告げる。ラムダも頷き、抱きついたまま大きく腰を動かし始める。
「ふッ、ふッ、ふうッ……ぐッ、はあッ……!」
「あっ、あっ、やあン! くふうっ、ちゃふううっ♪ きゅううん♪」
情け容赦のない、一方的な打ちつけ。それでもモニカはそこに快楽を見出し、口から涎を垂らして悶絶した。顔は悦びに満ちて蕩け、その胸を押しつけながら何度も何度も嬌声をあげる。
「らっ、らむだっ、ラムダぁっ♪」
「ふんっ、ふんっ! ……モニカ、口、開けろ……ッ!」
「あ、ふえっ? ……んむうっ……ッ!?」
そうして愛欲に喘ぐモニカの口を、ラムダが自分の口で強引に塞ぐ。そして間髪を入れずに舌をねじ込み、その口内を蹂躙する。
いきなりのディープキス。モニカは目を白黒させる。しかしメロウはすぐにそれを受け入れ、愛するラムダの舌に自分の舌を絡ませる。目を閉じて体の力を抜き、キスと膣に神経を集中させて快楽を享受する。
「ちゅ、じゅる、くちゅ、んちゅう、ちゅるっ……」
「じゅるるっ、くちゅ、ちゅうっ、あむちゅ、あん……」
上の口で唾液を交換し、下の口で愛液と先走り汁を混ぜ合わせる。ぐちょぐちょに濡れた舌を絡ませる度に肉棒が堅さを増し、それを包む膣肉がさらに締まりを強くする。そうして襞と肉棒が擦れあうたびに二人の脳に甘い電流が走り、人間と人魚は肉欲のままさらに口づけを深く激しくしていく。
陽光の差し込む青々しい海水の中に、二人の蜜の混ざり合ったカクテルと魔力が垂れ流されていく。桃色の霧が辺りに広がり、清浄な海を淫らに汚していく。
「ちゅ、くち、じゅるるっ……あふっ……もう、無理、イキそう……♪」
やがてメロウが自分から唇を離し、限界を告げる。ラムダも頷き、小さく「イクぞ」と告げる。
「出すぞ、出すッ、お前の中に、精液出すッ!」
「うんッ、うんっ! 出して、ナカに、ざあめんいっぱい、だひてっ♪」
モニカの許可をもらったラムダが、それまで以上に腰の動きを速める。肉棒が襞を擦り、亀頭が子宮を叩く。快感が全身を燃やし、理性を麻痺させていく
肉のぶつかり合う音が激しく響き、互いに絶頂に向かってひた走る。
最初に絶頂を迎えたのはラムダだった。
「イク、イク、イッ――うあああああっ!」
ラムダが吠える。欲望のままに精液が迸る。
白濁液が膣を塗りつぶし、子宮口を盛大にノックする。
それが引き金になる。感情を爆発させてモニカが咆哮する。
「あッ、入ってる、はいっ、ああああああああん!」
目と口を開け、悦びの涙を流す。遥か天を見上げながら、ラムダの愛を受け入れ咽び泣く。
「ああ……はぁん……いっぱい、きもちい……しあわせぇ……♪」
その顔は淫らに蕩け、幸せに満ちた笑みを浮かべていた。
そんなモニカの体を、ラムダは激しくかき抱く。
「はあ、はあ……最高だよ、モニカ……」
「うん、ラムダもぉ……しゃいこう……らったよ……♪」
ラムダの言葉に応えるように、モニカがよろよろと彼を抱き返す。
青い海の中、そうして二人は体を寄せ合い、絶頂の波を噛み締めていった。
真夏の太陽が燦々と輝く中、大海原のど真ん中で二つの影が水面に浮いていた。その人間と人魚は固く手を繋ぎ、仲良く寄り添いながら潮の流れに身を任せていた。
「うふふ、今日もいっぱいもらっちゃった♪」
そうして陽光を体いっぱいに浴びながら、モニカが満足げにお腹をさする。そして全裸のまま隣で浮いていたラムダに顔を向け、朗らかな笑みを浮かべて彼に言った。
「ありがとね」
「どういたしまして。俺もお前の可愛いところが見られたから良かったよ」
「もう、簡単に可愛いっていうの禁止♪」
ラムダの返答にモニカがはにかんだ表情を見せ、甘えるように体を寄せる。ラムダも苦笑交じりにそれを受け入れ、二人は背中越しに腕を回して互いの肩を抱き寄せながら、幸せの余韻に浸った。
「……あついね」
「ああ、あついな」
そうして並んで海を漂う中で、不意にモニカが呟く。そしてモニカと同じように青空を見上げながら、ラムダがそれに対して言い返す。
「夏だからかな?」
「そうね。夏なのがいけないのよ」
「夏のせいか」
「ええ。外に出たのも、セックスしたのも、全部夏のせい」
今度はラムダの言葉にモニカが答える。それから二人は顔を見合わせ、愉快そうにクスクス笑いあう。
穏やかな至福の時間。それを噛み締めるように、二人は笑みをこぼしながら、より強く互いの体をくっつけあう。そうして暫しの間、その和やかな空気を堪能した後、ラムダがしみじみと言葉を漏らす。
「でも本当に暑いよな」
「そうよね。真夏日なのは確かよね」
「……せっかくだし、どこか涼しいところに行きたいな。ここじゃなくて、どこか遠い所にさ」
「遠い所?」
ラムダの提案にモニカが反応する。
「旅行ってことかしら?」
「まあそうなるかな。お前と二人で、こことは違う海に行ってみたいんだ」
「それなら、私いい場所知ってるよ」
そう答えて、モニカが顔を輝かせる。ラムダが「ほう」とモニカに注目し、そしてモニカがそんな彼に向かって口を開く。
「竜宮城っていうの。知ってる?」
「いや、初めて聞くな。どんなところなんだ?」
「近所のマーメイドに聞いたんだけど、なんでもジパングにある海のお城らしくってね。とっても綺麗で、大きな場所らしいの。それにそこに行けば、美味しい海の幸がたくさん食べられたり、綺麗な踊りをたくさん見られたり出来るんだって」
「へえ。そりゃ面白そうだな」
ラムダが話に食いつく。ここぞとばかりにモニカが声をかける。
「ねえ、行ってみましょうよ竜宮城。とっても面白そうじゃない♪」
「そうだな。でもジパングかあ……ちょっと遠すぎやしないか?
「いいじゃない。ちょっとした冒険程度に考えれば、このくらい屁でもないわよ。それに第一、私もう行く気満々になっちゃってるんだから」
「マジかよ」
呆れるラムダに、モニカがニコニコ笑って「もちろん♪」と頷く。ラムダは困惑気味に苦笑しながら、どうしてそこまで乗り気なのかと尋ねた。
「なんでそんなやる気出してるんだよ。何か理由でもあるのか?」
「理由? もちろんあるわよ」
モニカは笑ってそう答え、ラムダから手を離して距離を取る。そして立ち泳ぎの姿勢になったラムダの目の前で自身も立ち泳ぎの体勢になり、肩から下を海水に浸けながら満面の笑みで言ってのけた。
「夏が暑いのが悪いのよ♪」
結局、夏は最後まで悪党のままであった。
「夏だからな」
「セックスする?」
「そうだな……うん?」
八月中旬、真昼。雲一つない青空の下、燦々と照り付ける太陽の光を浴びながら、ラムダは思わず首を傾げた。そして彼は首を回し、背後から自分を抱き締めていたメロウのモニカを肩越しに見つめた。
「なんでそうなるんだよ」
「だって、暑いんだもん。暑いからセックスしたくなるのは当然の流れじゃない」
「ならねえよ。なんでそうなるんだよ、セックスマシーンめ」
けだるそうにラムダが愚痴をこぼす。モニカはその悪口に対して悪感情は抱かず、ただ楽しげに破顔させながら彼を抱く腕に力を込める。
「セックスマシーンでもいいもーん。とにかく私は今とっても暑いから、ラムダとえっちなことがしたいの。おわかりかしら?」
「そんなに暑いんなら家に戻ればいいだろ。暑いからエッチしたいって、どういう理屈だ」
大海原のど真ん中、水深百メートルの地点にある自分達の住処から浮上し、二人して海面を漂いながら日光浴に興じていた時の事である。この時二人は服を着ておらず、全裸であった。しかし日常的に水中で生活していた彼らにとって、衣服はもはや邪魔なものでしかなかったのである。
閑話休題。外に出て日光浴をしようと言い出したのはモニカであった。そして今、二人は立ち泳ぎの姿勢になり、胸から上を海面に露出させていた。
「それに、始めてからまだ十分も経ってないぞ。いくらなんでも早すぎじゃないか?」
「だって、仕方ないじゃない。こうして抱き締めてると、あなたの体温と匂いを間近に感じて、あそこがきゅんきゅんしちゃうんだもん♪」
「……じゃあ、抱き締めなきゃいいんじゃないか? 俺だってもう一人で泳ぐことくらいできるぞ」
モニカと婚約を果たし、海中で生活を始めたラムダは、今ではすっかり泳ぎ方をマスターしていた。インキュバス化したことによって体力も増し、おかげで彼はまさに魚のように、自由自在に海中を行き来することが出来るようになったのである。
「もう昔とは違うんだ。お前のサポート無しでも、十分やれるって」
ラムダに水泳のイロハを教えたのはモニカだった。このメロウは自分を愛してくれた人間に、まさに手取り足取り、懇切丁寧に泳ぎ方をレクチャーしたのである。
しかし、そんな「自慢の生徒」の自信満々な台詞に対し、モニカはまったく不服そうに頬を膨らませた。
「あなたはいいかもしれないけど、私は嫌なの」
「泳げないから?」
「そうじゃないわ。泳ぐ分の魔力は、ちゃんとあなたから補充してるから問題ないの」
メロウの習性――結婚した相手に自身の帽子を贈るという行為によって、モニカはもう単体では泳ぐことも出来ない体になってしまった。帽子には海神の加護が籠められており、それがもたらす魔力によって、メロウ達は海での生活を問題なく送ることが出来ていたのだ。
モニカはそんな帽子を、求婚の際にラムダに贈呈した。そしてそれによって失われた魔力は、ラムダから直接いただくことで補給していたのである。
「そうじゃなくって……あなたと離れたくないの。一人でも問題ないかもしれないけど、それでも私は、あなたと離れたくないの」
モニカは完全にラムダに依存していた。そしてラムダも、そんなモニカに不変の愛を注いでいた。
そしてモニカは、そうして自分を愛してくれるラムダの体を、愛おしげに抱きしめた。
「私は、あなたと一緒に日光浴がしたいの。ぴったり体をくっつけて、一緒にお日様に当たりたいのよ」
「それで発情してちゃ世話無いだろ」
「だからさっき言ったでしょ。暑いのが悪いのよ」
外がこんなに暑いから。
こんなに体が火照ってくるから。
「夏の日差しであなたの体が熱くなって、汗が出てきて、匂いも強くなってきて。それが私をクラクラさせるの。私の理性を崩していくのよ」
「そうやってセックスしたくなるのも、夏のせいってことか」
「そうよ。空が澄んでるのも、日差しが強いのも、私がえっちな気分になるのも、全部夏のせいなの」
全部夏が悪いのよ。肩越しにモニカが囁く。
続けてモニカが顔を動かし、ラムダの肩に浮き上がった汗を舐めとる。
柔らかく、ねっとりとした物体が肌の上を這いまわる。その粘ついた感触を受けて、ラムダが僅かに体を震わせる。
「んふふ、しょっぱい♪」
肩にかかった海水とラムダの汗を同時に味わい、モニカが楽しそうに微笑む。そして微笑んだまま誘惑するように、そっとラムダに耳打ちする。
「ねえ、いいでしょ? 夏の日差しに負けないくらいに、熱いことしましょうよ?」
「……」
対してラムダは一つため息をつき、優しくモニカの腕をほどいて体を動かし、彼女と向き合う。
「俺はそういうの、嫌だな」
そして真顔で、至近距離から言い放つ。唐突に拒絶され、呆気に取られるモニカに、ラムダが続けて口を開く。
「俺は夏のせいとか、暑いからセックスしたいとか、他のやつに理由を求めてするのは好きじゃないんだよ」
「……じゃあ、何なら好きなの?」
咎められたような気分になり、モニカが恐る恐る問いかける。
そのモニカの細い体を、ラムダが何も言わずに抱きしめる。
「俺は、自分の意志でしたい」
背中に回した腕に力を込めてモニカの体を密着させる。そして彼女の横顔に自分の頬を押しつけながら、ラムダが力強く宣言する。
「俺がしたいから、モニカとセックスしたい。モニカとエッチがしたい。俺が今そうしたいから、お前と子作りがしたい」
「……ッ!」
嘘偽りのないラムダの心情が心に響く。それを聞いたモニカの体が一気に堅くなる。
「俺は俺の気持ちを、夏のせいとかにはしたくないんだよ」
体が芯から熱くなり、背筋が伸びきり、握り拳に力が入る。顔が喜びと驚きで真っ赤になる。目を見開き、無言のまま驚愕の表情を作る。
同時に心の中が、ラムダへの愛でいっぱいになる。目の前のオスと盛りたいと、本能が激しく訴えてくる。
「お前はどうなんだ?」
やがてラムダが腕の力を緩め、互いの体を離していく。そして不意打ちを受けてガチガチになっていたモニカを正面から見据えつつ、ラムダが真剣な表情で問いかける。
モニカはすぐには答えなかった。口を堅く閉じ、潤んだ瞳でラムダをじっと見つめる。そしてラムダもまた、彼女の瞳を見つめ返した。
「私は……」
暫しの沈黙。波風の音が二人を優しく包んでいく。
やがてモニカがラムダを見つめたまま、肩の力を抜いた。
「……そうやってストレートに言ってくるの、ずるいよ……」
そして体の緊張をほぐし、小さく呟いた後、素早い動きでラムダの唇を奪った。
「ん……っ!?」
「ンっ、ふう……」
たった数秒の、軽い口づけ。モニカはすぐに顔を離し、真っ赤な顔でラムダと視線を交わした。そして僅かに残るラムダの感触を確かめるように、自分の唇に指を当てた。
「ラムダってば、かっこつけすぎ……私だって、したいに決まってるじゃない」
口元から指を離しつつ、モニカが熱い吐息混じりに告げる。
「私だって、夏とか日光浴とか、そういうの抜きで、あなたとエッチがしたいに決まってるじゃないのよ」
「……そうか」
モニカの本心を聞いたラムダが、どこか安心したように笑みを見せる。実にメロウらしい回答だった。
そしてラムダは続けて、だったらどうしてあんな建前をあれやこれやと持ち出したのかと、純粋な疑念からモニカに問いかけた。
「なんでなんだ? よかったら教えてくれ」
「そ、それはぁ……」
そんなラムダに対して、モニカは指をこね合わせつつ気恥ずかしそうに視線を逸らして答えた。
「あれこれ理由をつけたのは、その、あなたに浅ましい女だって思われたくなかったから……」
「えっ?」
「だから、すんなりセックスに持っていけるように、理由づけがしたかったのよ。日光浴とかも、ただの建前。直球でえっちしましょうって言って、あなたに幻滅とかされたくなかったのよ」
羞恥で顔を真っ赤にしながら、モニカが小声で言い返す。彼女はメロウらしい好色さと、メロウらしからぬ奥手さを兼ね備えた、ある意味では特異な個体であった。それは一つの個性であるとも言えた。
一方でラムダは、そんな個性を持ったメロウを見て「馬鹿だな」と一言呟き、再びモニカの体を抱き締めた。
「そんなんで、お前を嫌いになるわけないだろ? 俺だってお前と、もっとエッチなことしたいっていつも思ってるんだから」
「そ、そうなの?」
「当たり前だろ。こんなことで嘘つくわけないだろ」
「じゃ、じゃあさ……」
若干の恥ずかしさを残した控え目な笑みを浮かべつつ、モニカが彼に提案する。
「今から、私と一緒に……セックスしよ?」
密着したまま、モニカがメロウの一面を見せる。
ラムダは彼女を抱き締めたまま、無言で首を縦に振った。
気持ちの通じ合った二人は、その後互いの体を抱き合いながら沈んでいった。そして陽光が水の中を照らし、青々と輝く海の中で、彼らは愛を育むことにした。
「あん……ンむ、ちゅ……くちゅっ……」
「ぴちゅ、ちゅっ……くちゅ、ちゅううっ、ちゅっ……」
潮の流れにたゆたいながら、体を絡ませ、唇を密着させて舌を貪りあう。この時彼らはモニカの生み出す魔力によって守られており、おかげで海水が口内に侵入することはなく、また塩水が彼らの鼻と目と耳を侵すこともなかった。
これによって二人は海を全身で感じつつ、愛する者との行為に没頭することが出来たのである。
「ちゅ、ちゅるるっ、ずちゅううっ……ぷあっ……あむ、ちゅっ、じゅるるっ……」
しかしその代償として、モニカは恒常的に魔力を消費する羽目になっていた。そしてそれを補うために、彼女は普段以上に淫乱な体質となっていた。現に彼女は今、ラムダの舌に吸い付き、それを肉棒に見立てたバキュームフェラに興じていた。キスだけでは物足りなくなっていたのだ。
眉根は垂れ下がり、細められた目は快楽に蕩けていた。口はひょっとこのようにすぼめられ、鼻の下はだらしなく伸び切っている。とても衆目には晒せない、凄まじく無様で淫らな姿だった。
「ちゅ、くちゅっ、ずぞぞぞっ、じゅるるるるるっ、ぷはっ……どう? ラムダ、気持ちいい?」
「はあ、はあ……ああ、気持ちいいぞ。最高だよ」
「よかった♪ じゃあもっと嫌らしい顔してあげるね♪ はむっ……ちゅ、くちゅ、じゅるるぅ、じゅっ……」
そしてモニカは一旦フェラチオを止め、確認するようにラムダに問いかける。ラムダがそれを肯定すると、モニカは顔を輝かせ、そしてまたラムダの舌に吸い付いて不潔なひょっとこ顔を晒す。一方でそんなモニカの顔を近距離で見ていたラムダは、冷たい海の中で燃える程に体を熱くさせ、下半身に熱と血を溜めこんでいった。
「ちゅぱ、ちゅ、ちゅっ……はあ、ラムダのべろ、おいし……ちゅっ、ちゅううっ……」
見目麗しいメロウが、自分を悦ばせようと恥を捨てて卑猥な顔を見せている。酷く醜悪な様を、自分だけに見せている。
それだけ自分はモニカに信頼されている。それがラムダの心を歓喜で満たし、同時に独占欲も高めていく。愛するモニカを汚したいという黒い欲望がムクムクと顔を覗かせ、それに呼応するように自身の肉棒もまた硬さを増していく。
「じゅっ、ずるるぅっ……あっ♪」
そしてモニカもそれに気づく。舌へのフェラチオを止めて視線を降ろすと、そこにはしなりながら完璧に屹立した肉の塔がそそり立っていた。
「まあ♪」
それを見たモニカが目を輝かせる。そして舌の吸引を止め、首、胸、腹へと舌を這わせながら体の位置を下げていく。やがて顔が肉棒の位置で止まり、暴れないようにその根元に手を添える。
「あ、ちょっと待って」
「ん?」
しかしいざそれを咥えようと亀頭に唇を触れ合わせた刹那、ラムダがそれを止める。そして怪訝な顔で見上げてくるモニカに、ラムダが穏やかな顔で提案をする。
「俺にもやらせてくれよ。お前の事も、ちゃんと気持ちよくさせてあげたいんだ」
「そうなの? 嬉しい♪ じゃあ……」
ラムダの提案を受け、モニカはおもむろに体を動かした。尾ひれを使い、ごぼごぼと音を立てて水を掻き回し、心地よい浮遊感を感じながら、顔を軸にしてその体を百八十度回転させる。そして自分の股がちょうどラムダの顔面に来るように位置を調整し、尾を小刻みに揺らしてその位置を固定させながらモニカが言った。
「私のここも、舐めてくれるかしら?」
「喜んで」
ラムダはその提案を快く受け入れた。そしてモニカの臀部に手を回し、肉付きの良い尻をがっしりと掴む。
「ひゃん!」
いきなり尻を鷲掴みにされたモニカは、反射的に驚声をあげた。しかしすぐに艶めいた表情を浮かべ、色香を漂わせた視線を向けながらラムダに言った。
「もう、レディのお尻はもっと優しく扱ってよね?」
「ご、ごめん。我慢できなくて……」
「発情しちゃった?」
「……ああ。はやくお前のおまんこ、しゃぶりたい」
「そっか。じゃあ……」
そこまで言って、亀頭に小さくキスをする。そして小悪魔のように微笑み、ラムダに向かって言った。
「一緒に、気持ちよくなりましょ?」
「ああ」
ラムダが短く答える。そしてラムダは目の前の割れ目に顔を近づけ、その裂け目の中に向かって舌を伸ばす。モニカも同じく肉棒に向かって口を開け、その堅くそそり立つそれを根元まで飲み込んでいく。
「ん、あむ……ふぅ、じゅぷ、くちゅ……ちゅっ、くちゅるっ、ちゅ……」
「れろ、あん……くちっ、ちゅ、……ちゅるっ……」
モニカが肉棒を優しくしゃぶり、ラムダが膣をしっとりと舐めていく。
互いの体を思いやるような、穏やかな愛撫。決して激しくはない、ぬるま湯のようなシックスナイン。それでも――むしろそれだからこそ、二人は獣にならずに人並みの理性を保ち、互いの愛情を明瞭に感じ取ることが出来た。
「んちゅ、くちゅ……ぷはっ……ねえラムダ、気持ちいい?」
「あむ、ん……ああ、はあ、はあ……気持ちいいよモニカ。お前の方こそどうだ? ちゃんと感じられてるか?」
「うん、とっても気持ちいいよ。あなたの好きだって気持ちが伝わってきて、胸の中がきゅんきゅうしちゃう♪」
「そうか。それじゃあ、もっと感じさせてやるからな……」
「私だって、ラムダのこと、いっぱい感じさせてあげるからね……あむっ、ちゅ、じゅるるっ♪」
その愛は互いに絡まり、熱反応を引き起こし、互いの体に火をつける。もっとこの人を気持ちよくさせたい。もっともっと愛してあげたい。
純粋な愛欲が二人を突き動かし、だんだんとその動きを速めていく。周りの水を蒸発させるほどの勢いで、好意と行為に熱をこめていく。
「じゅっ、じゅるるっ、ずぞぞ、ふう、ふう、ちゅるぅ、ちゅっ……」
「あむ、んむ、じゅっ、ちゅ、くちゅ、ちゅる、ふうっ、ちゅ……」
音が下品になる。自分自身が火の塊と化したように体が熱さを増す。脇目も振らず、ただ目の前の肉を貪っていく。
腹の底から熱いものがこみ上げていき、欲望を吐き出したいと心が悲鳴を上げる。それに応えるように肉棒が震え始め、膣肉がざわざわ蠢いて舌を挟みこむ。
やがて限界が来る。二人はそれを気配で察した。幾度も体を重ねてきた経験が、彼らにそれを敏感に察知させた。
「あむ、じゅちゅっ、くちゅ……あ、あうっ……!」
「じゅむ、じゅ、じゅ、ずるるっ、ふッ……くううっ!」
互いの秘所を味わいながら、二人一緒に苦悶の表情を見せる。トドメとばかりにモニカが顔を持ち上げ、一気に肉棒を飲み込む。
裏筋を舌が這いまわる。喉奥に亀頭がぶつかる。柔らかい衝撃を肉棒全体で感じる。
直後、ラムダの堤防が決壊した。
「あっ、ぐうっ、うあああああっ!」
濡れそぼった膣から顔を離し、蜜塗れの口を大きく開いて雄叫びを上げる。直後、自身の肉棒を激しく震わせ、鈴口から精液をぶちまける。
「ンっ!? むぐっ、ぐ、ふううううっ!」
口の中に粘ついた液体が吐き出される。嗅ぎ慣れた刺激臭が鼻を衝き、汚された舌がビリビリを痺れていく。あっという間に口内が白濁液で満たされ、その白い粘液とどぎつい精臭が人魚の息を詰まらせる。
「んぐ……んっ、じゅっ、じゅる……ごくっ、ごっ、ごきゅっ……」
しかしモニカは、そうして自分の口が穢されていく感覚を、うっとりとした顔で味わっていた。息苦しさすら快感に変わり、モニカは快楽に蕩けた表情を見せた。
その証拠に、彼女は口の中に溜まった精液も何の躊躇も抱かずに、自ら進んで喉の奥に流し込んでいった。鼻をひくつかせて口内に充満する精液の臭いを堪能し、全身でラムダの味を感じていった。そして精液を一口飲み込むたびに膣から愛液を迸らせ、愛するラムダの顔面にマーキングをしていく。
「んっ、じゅ、じゅる……ああ、モニカの蜜、おいしいよ……」
ラムダもまた、それを恍惚とした表情で味わった。彼もまたそれを汚いと思わず、魔力によって海水と分離されたそれを口を開けて受け入れた。
「ちゅっ、じゅるっ……はふぅ……せーえき、おしまい、かしら……?」
「ちゅる、じゅる……ああ。もう、出ないかも……」
「そっかぁ。もっと味わいたかったけど、仕方ないわね」
そうしてお互いの蜜を喜んで味わっていた二人だったが、やがてそれも撃ち止めとなる。そして口の中の精液を飲み干した後、モニカは顔を持ち上げて肉棒を解放し、尾ひれで水を叩いて体を半回転させる。
「ラムダの精液、おいしかったよ♪」
「お前の潮噴きも、すごい美味かったよ」
「そう? えへへ、よかった」
そして互いに顔を向かわせ合い、二人揃って感想を述べる。モニカもラムダも、満たされたように晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
「でも、まだ足りないかなあ……」
しかし笑みを浮かべながら、間髪入れずにモニカが言葉を漏らす。そしてラムダの顔にかかっていた自分の愛液を軽く舐め取り、蕩けた表情を見せながら、モニカが体を密着させつつおねだりをする。
「ねえラムダ。そろそろおまんこにも、欲しいな……♪」
ラムダの厚い胸板に、自身の胸をくっつける。ふくよかな双丘が胸板に押し潰され、ぐにゃりと形を変える。そうしておっぱいの感触を味わわせながら、モニカが小悪魔じみた態度で「次」を懇願する。
「ねえねえ、いいでしょ? あなたのおちんちん、下のおくちでも味わいたいの。お願い♪」
「……仕方ない人魚だな」
ラムダはそれを見て、困ったように苦笑をこぼした。しかし嫌な顔は見せず、彼はおねだりしてくるメロウの頭を撫でながら彼女に問いかけた。
「優しいのと、激しいの。どっちがいい?」
「うーんと、えーとねえ……今日はちょっと、ハードめがいいかな」
少し迷った後、モニカが正直にリクエストをする。ラムダもそれを聞いて頷き、彼女の腰を優しく掴む。
「じゃあ、いくぞ」
「うん」
ラムダが告げる。モニカが笑顔で頷く。
それを見たラムダが腰を引いて狙いをつける。そしてとろとろ蜜を流すモニカの膣めがけて、一息に己の剛直を叩き込む。
「はぐ……ッ!」
容赦なく膣肉を抉られたモニカが、衝撃のあまり大口を開けて白目を剥く。舌を突き出し、酸素を求めて必死に喘ぐ。
「はッ、はッ、はッ……きゅううん……」
やがて衝撃が消え去り、代わりに結合部分から快感がじわじわ広がっていく。甘く痺れるような肉悦が脳を焦がし、全身から力が抜けていく。そして縋りつくように、モニカがラムダに力なくしなだれかかる。
「モニカ? 平気か?」
「あっ、はあっ、ふう……大丈夫……平気だよ……?」
もたれかかってきたモニカに、ラムダが不安そうに問いかける。それに対し、ラムダの肩に顎を載せながらモニカが答える。その顔は穏やかであり、同時に体を駆け抜ける快楽の波に表情を蕩かせてもいた。
そんなモニカの体を、ラムダが優しく抱き留める。モニカも腕を持ち上げ、ラムダの体を抱き締め返す。
「ラムダって、あったかいね」
「お前もぽかぽかしてて、暖かいぞ」
「私があなたに火をつけたんだよ? 私が今あったかいのは、あなたのおかげ」
「そうなのか?」
「そうよ」
「夏のせいじゃなくて?」
「ええ。夏じゃなくて、ラムダが私を熱くさせたのよ」
青い海の中、二つの体が一つに重なり合う。互いの体温を直に感じながら、人間と人魚が睦言を交わし合う。
「だからもっと、私を熱くさせてほしいな」
その中で、メロウが甘く催促する。人間はそんなメロウと向き合い、彼女の瞳を見つめながら声をかける。
「今日は焼き魚かな?」
「そんな親父ギャグ。面白くないわよ」
「でも、火傷はしたいんだろ?」
「……うん。あなたの熱で、大火傷したい」
濡れた瞳のままモニカが告げる。ラムダも頷き、抱きついたまま大きく腰を動かし始める。
「ふッ、ふッ、ふうッ……ぐッ、はあッ……!」
「あっ、あっ、やあン! くふうっ、ちゃふううっ♪ きゅううん♪」
情け容赦のない、一方的な打ちつけ。それでもモニカはそこに快楽を見出し、口から涎を垂らして悶絶した。顔は悦びに満ちて蕩け、その胸を押しつけながら何度も何度も嬌声をあげる。
「らっ、らむだっ、ラムダぁっ♪」
「ふんっ、ふんっ! ……モニカ、口、開けろ……ッ!」
「あ、ふえっ? ……んむうっ……ッ!?」
そうして愛欲に喘ぐモニカの口を、ラムダが自分の口で強引に塞ぐ。そして間髪を入れずに舌をねじ込み、その口内を蹂躙する。
いきなりのディープキス。モニカは目を白黒させる。しかしメロウはすぐにそれを受け入れ、愛するラムダの舌に自分の舌を絡ませる。目を閉じて体の力を抜き、キスと膣に神経を集中させて快楽を享受する。
「ちゅ、じゅる、くちゅ、んちゅう、ちゅるっ……」
「じゅるるっ、くちゅ、ちゅうっ、あむちゅ、あん……」
上の口で唾液を交換し、下の口で愛液と先走り汁を混ぜ合わせる。ぐちょぐちょに濡れた舌を絡ませる度に肉棒が堅さを増し、それを包む膣肉がさらに締まりを強くする。そうして襞と肉棒が擦れあうたびに二人の脳に甘い電流が走り、人間と人魚は肉欲のままさらに口づけを深く激しくしていく。
陽光の差し込む青々しい海水の中に、二人の蜜の混ざり合ったカクテルと魔力が垂れ流されていく。桃色の霧が辺りに広がり、清浄な海を淫らに汚していく。
「ちゅ、くち、じゅるるっ……あふっ……もう、無理、イキそう……♪」
やがてメロウが自分から唇を離し、限界を告げる。ラムダも頷き、小さく「イクぞ」と告げる。
「出すぞ、出すッ、お前の中に、精液出すッ!」
「うんッ、うんっ! 出して、ナカに、ざあめんいっぱい、だひてっ♪」
モニカの許可をもらったラムダが、それまで以上に腰の動きを速める。肉棒が襞を擦り、亀頭が子宮を叩く。快感が全身を燃やし、理性を麻痺させていく
肉のぶつかり合う音が激しく響き、互いに絶頂に向かってひた走る。
最初に絶頂を迎えたのはラムダだった。
「イク、イク、イッ――うあああああっ!」
ラムダが吠える。欲望のままに精液が迸る。
白濁液が膣を塗りつぶし、子宮口を盛大にノックする。
それが引き金になる。感情を爆発させてモニカが咆哮する。
「あッ、入ってる、はいっ、ああああああああん!」
目と口を開け、悦びの涙を流す。遥か天を見上げながら、ラムダの愛を受け入れ咽び泣く。
「ああ……はぁん……いっぱい、きもちい……しあわせぇ……♪」
その顔は淫らに蕩け、幸せに満ちた笑みを浮かべていた。
そんなモニカの体を、ラムダは激しくかき抱く。
「はあ、はあ……最高だよ、モニカ……」
「うん、ラムダもぉ……しゃいこう……らったよ……♪」
ラムダの言葉に応えるように、モニカがよろよろと彼を抱き返す。
青い海の中、そうして二人は体を寄せ合い、絶頂の波を噛み締めていった。
真夏の太陽が燦々と輝く中、大海原のど真ん中で二つの影が水面に浮いていた。その人間と人魚は固く手を繋ぎ、仲良く寄り添いながら潮の流れに身を任せていた。
「うふふ、今日もいっぱいもらっちゃった♪」
そうして陽光を体いっぱいに浴びながら、モニカが満足げにお腹をさする。そして全裸のまま隣で浮いていたラムダに顔を向け、朗らかな笑みを浮かべて彼に言った。
「ありがとね」
「どういたしまして。俺もお前の可愛いところが見られたから良かったよ」
「もう、簡単に可愛いっていうの禁止♪」
ラムダの返答にモニカがはにかんだ表情を見せ、甘えるように体を寄せる。ラムダも苦笑交じりにそれを受け入れ、二人は背中越しに腕を回して互いの肩を抱き寄せながら、幸せの余韻に浸った。
「……あついね」
「ああ、あついな」
そうして並んで海を漂う中で、不意にモニカが呟く。そしてモニカと同じように青空を見上げながら、ラムダがそれに対して言い返す。
「夏だからかな?」
「そうね。夏なのがいけないのよ」
「夏のせいか」
「ええ。外に出たのも、セックスしたのも、全部夏のせい」
今度はラムダの言葉にモニカが答える。それから二人は顔を見合わせ、愉快そうにクスクス笑いあう。
穏やかな至福の時間。それを噛み締めるように、二人は笑みをこぼしながら、より強く互いの体をくっつけあう。そうして暫しの間、その和やかな空気を堪能した後、ラムダがしみじみと言葉を漏らす。
「でも本当に暑いよな」
「そうよね。真夏日なのは確かよね」
「……せっかくだし、どこか涼しいところに行きたいな。ここじゃなくて、どこか遠い所にさ」
「遠い所?」
ラムダの提案にモニカが反応する。
「旅行ってことかしら?」
「まあそうなるかな。お前と二人で、こことは違う海に行ってみたいんだ」
「それなら、私いい場所知ってるよ」
そう答えて、モニカが顔を輝かせる。ラムダが「ほう」とモニカに注目し、そしてモニカがそんな彼に向かって口を開く。
「竜宮城っていうの。知ってる?」
「いや、初めて聞くな。どんなところなんだ?」
「近所のマーメイドに聞いたんだけど、なんでもジパングにある海のお城らしくってね。とっても綺麗で、大きな場所らしいの。それにそこに行けば、美味しい海の幸がたくさん食べられたり、綺麗な踊りをたくさん見られたり出来るんだって」
「へえ。そりゃ面白そうだな」
ラムダが話に食いつく。ここぞとばかりにモニカが声をかける。
「ねえ、行ってみましょうよ竜宮城。とっても面白そうじゃない♪」
「そうだな。でもジパングかあ……ちょっと遠すぎやしないか?
「いいじゃない。ちょっとした冒険程度に考えれば、このくらい屁でもないわよ。それに第一、私もう行く気満々になっちゃってるんだから」
「マジかよ」
呆れるラムダに、モニカがニコニコ笑って「もちろん♪」と頷く。ラムダは困惑気味に苦笑しながら、どうしてそこまで乗り気なのかと尋ねた。
「なんでそんなやる気出してるんだよ。何か理由でもあるのか?」
「理由? もちろんあるわよ」
モニカは笑ってそう答え、ラムダから手を離して距離を取る。そして立ち泳ぎの姿勢になったラムダの目の前で自身も立ち泳ぎの体勢になり、肩から下を海水に浸けながら満面の笑みで言ってのけた。
「夏が暑いのが悪いのよ♪」
結局、夏は最後まで悪党のままであった。
16/09/23 19:28更新 / 黒尻尾