そのご
「月明かり」を出た後、具体的に何をどうしたのか。男は全く覚えていなかった。
せめて記憶していることと言えば、煌びやかで淫靡な雰囲気の漂う横丁の街並みだとか、デオノーラと一緒に入った宿屋のロビーが薄暗くいやらしい気配に包まれていたとか、そういうおぼろげなものばかりである。通りを包む喧騒も、そこを行き交うカップルの姿も、男の思考には入らなかった。そんな余裕は無かった。
とにかく、男とデオノーラは横丁にある宿屋の一つに入り、個室の一つを借りた。当然ながら、室内の装飾やら間取りやらも頭の中には入らない。男の五感がキャッチするのは、座り込んだツインサイズベッドの柔らかさと、奥から聞こえてくるシャワーの音だけだった。
「ま、待たせたな」
やがてシャワーの音が止む。しばらく経って、奥からデオノーラがやってくる。この時彼女は裸体の上からバスタオルを巻いただけの格好をしており、ガイドをしていた時よりも遥かに煽情的な雰囲気を纏わせていた。
それでいて、そこには女王としての威厳と女性としての気恥ずかしさも同居していた。目を伏せ、頬を赤らめ、しかし背筋はピンと伸ばして腰に手を当て仁王立ちする姿は、もはや属性の暴力だった。
「あっ……」
「お、おい。何を呆けている。次は貴様の番だろうがっ」
秒で見惚れてしまった男に、デオノーラが喝を入れる。そういう女王も顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたが、そこは偉大なるドラゴン。己の恥を捨て、勇気を奮わせ男の尻を叩いてみせた。
「夜は長いが、無限ではない。早く済ませるのだ」
「えっ、あ、はいっ」
そこで男が正気に戻る。そして男は飛び跳ねるようにベッドから立ち上がり、大急ぎでシャワーを浴びに向かった。
そしてまた記憶が途切れる。全裸になり、熱い湯の雨を頭から被ったことは覚えている。だが逆に言えば、そこでの記憶はそれしかない。男は気づいた時には体の汚れを落とし終え、腰にタオルを巻いただけの姿でデオノーラと隣合ってベッドに腰かけていたのだった。
「……」
裸体を晒す故に熱が逃げる。体と頭が冷え、ようやく思考が鮮明になる。
最初に感じ取ったのは沈黙だった。男もデオノーラも黙り込み、部屋の中をどこか気まずい空気が漂い始める。
「とうとう来たな」
その中で、デオノーラが口火を切る。またも女王に背中を押された男が、彼女に遅れを取るまいと続けて口を開く。
「き、きちゃいましたね……」
「うむ……」
「今日初めて会ったばかりなのに……」
「……ああ、そうか。そういえば私達、今日出会ったばかりなのだな」
ファーストコンタクトを思い出すかのように、デオノーラがしみじみ呟く。そして過去の光景を脳裏に見て小さく微笑み、すぐにそれを消して男に問う。
「しかし今更だが、よいのか? 初めての相手が今日会ったばかりの私で」
「デオノーラ様こそ、いいんですか? 初めてが俺みたいな普通の人間で」
質問に質問で返す。問い返されたデオノーラは暫し黙り、その後答える。
「私は良いと思っている」
「えっ?」
「貴様はまだ信じられないかもしれないが、こう見えても私、結構貴様に惚れているのだぞ」
堂々と言ってのける。この時デオノーラは耳朶まで真っ赤にしていたが、それに気づくだけの余裕は男には無かった。
気づかぬまま、再び男が尋ねる。
「……具体的に俺のどこが好きになったんです?」
「全てだ」
即答する。デオノーラの言葉に迷いは無い。直球すぎる回答に、男は二の句を告げなかった。
それをいいことに、デオノーラが追撃をする。
「貴様は初めて私と会った時、とても自然な態度で接してくれたな。それに私の正体を知った後も、貴様は変わらず私を信じてついてくれた」
「それは、別に」
「貴様にとっては特別でも何でもないことかもしれない。だが私には、それがとても輝いて見えたのだ」
男の謙遜を遮るように、デオノーラがうっとりした声で言い放つ。同時にデオノーラが手を伸ばし、男の手の上に自分のそれを重ねる。
デオノーラの手の感触を味わった男が、背筋を震わせる。そして驚いた拍子にデオノーラの方を見やり、そこでこちらを見つめるデオノーラと視線を重ね合わせる。
男の眼差しがドラゴンに吸い寄せられる。何かを思い出したように苦笑し、デオノーラが熱く呟く。
「素敵だ」
熱のこもった吐息が男の前髪を揺らす。
デオノーラが顔を近づける。
「私は、素敵な貴様としたい」
男も熱に浮かされるように、自分から顔を近づけていく。
男のこぼす息がデオノーラの唇を濡らす。
「貴様がいい」
「あ――」
「貴様に、私を受け止めてほしい」
お願いだ。
女王の心からの願い。
男が息を呑む。
二人の距離がどんどん詰まる。
「ん」
影が重なる。互いの唇が柔らかい感触を覚える。
「ふぅ……っ」
「んむ……」
ファーストキスはアルコールの味がした。
一度タガが外れてしまえば、後は流れるままである。
最初啄むだけのキスは、やがて唇を押し付け合い、口を開け互いを貪るものへと変わっていく。
「ちゅ、くちゅ、ちゅっ……」
「んむ……ふぅ、じゅるっ」
鼻の頭がぶつかる程に顔を近づけ、溶接したように口を密着させ、舌を伸ばして相手を思うまま味わう。赤くのたうつナメクジが愛する人の唾液にまみれ、もっと欲しいと口の中で身を絡ませ、涎と熱を共有する。
「ふぅっ、ふぅっ、ふーっ……」
「む、んむ、ふうっ、んんうっ」
荒い鼻息が絶えずこだまする。呼吸のために口を離すことなど考えられない。
今はただ、このキスの感覚に溺れていたい。人とドラゴンは同じ想いを抱き、深い口づけを続けた。
「……はあっ」
そうして思う存分キスを堪能した後、男の方から口を離す。デオノーラも続けて身を引き、舌を引っ込め口を閉ざす。別れを惜しむかのように二人の間に唾液の橋がかかり、それが途切れて口元にへばりつく。
拭うこともせず、二人が息を整える。少しして肩の上下動が収まり、呼吸も元のペースに戻る。しかし心臓は高鳴り続け、漏れる吐息は熱く、視線はがっちり相手に吸いつき離れようとしない。
落ち着いた後、次に何をするのか。見つめ合う二人は共に決めていた。それを相談することもしなかった。二人の心は既に繋がっていた。
「来てくれ」
やがてデオノーラが動く。小さく呟き、男に促す。男が頷き、両手をゆっくり伸ばす。
男の手がデオノーラの肢体を隠すタオルに触れる。優しくそれを解き、躊躇なく脱がす。
タオルが剥がれ落ち、デオノーラの裸体が露わになる。くびれた腰、引き締まった腹、突き出た乳房が、堂々と男の眼前に姿を現す。
「すごい」
男が思わず声を上げる。いやらしい気持ちから出たものではない。それは完全な美を目の前にしての、純粋な賛美だった。
こんな美しい人を、これから自分は犯すのか。そう考えると、否が応でも股間が熱くなる。下半身が疼き、股座に血が集まって痛いほど膨れ上がる。
「次は貴様の番だ」
そこにデオノーラの声がかかる。男が反応するのと、デオノーラが男の腰布を引き剥がすのは、ほぼ同時だった。
男も同じく全裸になる。デオノーラの肉体に興奮し、猛々しく勃起した男の愚息が、彼女の前に露わになる。
「おお――」
感心したようにデオノーラが声を上げる。それもまた、目の前に現れた怒張の雄々しさに感動したが故の反応だった。男は恥ずかしくなったが、デオノーラは構わず彼の男性器を食い入るように見つめた。
しかし眺めているだけでは意味がない。少しして、意を決してデオノーラが言う。
「さ、触っても、よいぞ?」
女王からの許可である。男は生唾を飲み込み、デオノーラを見やる。
真紅のドラゴンが首を縦に振る。再度許可を得た男が、勇気を出して手を伸ばす。
指と乳房が触れ合う。何の抵抗も無く、指が豊満な胸の中へ食い込んでいく。
「うわ、わっ」
男が思わず声を上げる。想像以上に柔らかい。そして熱い。心臓の鼓動が掌越しに伝わってくる。
凄い。気持ちいい。指がおっぱいに吸い付いて離れない。女の人の身体はこんなに柔らかいのか。
初めて触る女体、その胸の感触に、男はただただ圧倒された。
「気に入ってくれたようだな」
胸を触ったまま唖然とする男を見て、デオノーラが嬉しそうに声を出す。かくいう彼女も、初めて好きになった男性に乳を揉まれ、その嬉しさに背筋を震わせていたのだが。女王としての意地から、それを表に出す事はしなかった。
「次は私の番だぞ」
代わりにデオノーラは反撃の宣言をする。そして男の了承も待たずに、ガチガチに硬くなった彼の肉棒へ手を伸ばす。
ドラゴンのしなやかな指が、男の欲望の権化を絡め取る。手のひらも添えて包み込むように優しく握りしめ、直後、デオノーラが上ずった声を上げる。
「これは、熱いな……それになんというか、がっしりしている……」
初めて触れる男性器。その硬さと熱さに、デオノーラは素直に驚嘆した。これが男の生殖器か。ドラゴニアの女王は驚くと共に、もっとそれを知りたいと思った。
「も、もうちょっと、触ってもいいか?」
「えっ? え、はいっ」
そして躊躇うことなく男に許可を求める。男も一瞬驚くが、すぐにそれを了承する。
「でしたら、その、俺ももっと触ってていいですか?」
「あ、ああ、いいとも。好きなだけ味わうといい」
それと引き換えと言わんばかりに男も求める。当然デオノーラは快諾する。
そうして互いに許可を得た男女が、無言で互いの性的部位を弄くりあう。初めて味わう異性の肉体に、初心な彼らはあっという間に虜となっていた。
もっと味わいたい。もっと味わってほしい。デオノーラの中にさらなる欲が芽生える。
「こちらも触ってみないか」
欲求のままにデオノーラが言う。そして相手の反応も待たずに、空いていた方の手で男の片手首を優しく掴む。
手首を掴まれた男が動きを止める。デオノーラが掴んだ手を己の望む処へ動かす。
手が胸から離れ、まっすぐ降りて腹部を通り過ぎる。やがて股間の位置で止まり、剥き出しの秘所へそれを近づける。
男の指先と女の割れ目が触れあう。指の先端で熱を感じ、男が背筋を震わせる。
熱いだけではない。水気が凄い。汚れ一つないデオノーラの女性器は、既にぐしょぐしょに濡れていた。
「いいんですか?」
震える声で男が尋ねる。頷き、女王が返す。
「貴様に触ってほしいのだ」
その後顔を赤らめ、視線を逸らす。
「貴様でこうなったのだ……わかれ」
恥じらう乙女が言葉を漏らす。女王の威厳を投げ捨てた一人の女性が愛撫を求める。
それが男の背を押す。
「それじゃあ……」
掴まれた手に力を込める。それを感じ取ったデオノーラが手を離し、そのまま男が自分の意志で指を動かす。
最初に一本、人差し指だけで恐る恐るなぞる。何度か触った後、中指を加えて「中」へ進入する。
「ん……っ♪」
デオノーラの口から艶っぽい声が漏れる。もっと聞きたい。薬指を混ぜ、三本の指でさらに奥へ進める。
「あっ、あん……っ!」
予想通り、さらに雌の声が聞こえてくる。ついでに水音も大きくなり、その透明な体液が指にねっとりと絡みついてくる。
もっと、もっと聞きたい。陰唇を弄る指にさらに力が入る。指先の神経が鋭敏になり、より彼女の悦びを知ろうと貪欲になる。
「も、もっと攻めて、いいですか?」
「もちろんいいぞ……その代わり、私も……っ」
男に許可を出したデオノーラが、さらにそこから反撃に出る。それまで動きを止めていた肉棒を握る手に力を込め直し、再び優しく握って上下に擦り始める。
「はううっ……!」
不意打ちを食らった男が情けない声を出す。しかしすんでの所で踏み留まり、なんとか暴発を防ぐ。
「出しても良かったのだぞ?」
その様を見たデオノーラが楽しげに言う。男の痩せ我慢は筒抜けだった。
それでも、男はそのプライドを捨てなかった。
「か、簡単にいっちゃったら、格好悪いから……」
「男の意地か」
「……駄目ですか?」
「いや、素敵だ」
おずおずと問う男に女王が断言し、歯を見せて笑う。男は一瞬きょとんとし、すぐ後に肩の力を抜く。
そこにデオノーラの言葉が飛ぶ。
「だが手加減はしないぞ」
直後、手の上下動を再開する。宣言通り、そのストロークは速さと勢いがあった。本気で男を絶頂させようという意思があった。
「ひいいっ!」
男が甲高い声で叫ぶ。効果覿面だった。一往復ごとに肉竿から電流が迸り、全身を駆け巡って筋肉を甘く痺れさせる。気を抜けば脳髄さえも甘く蕩け、簡単に吐き出してしまいそうだ。
しかしそれも何とか耐える。好きな人の前で格好悪い所は見せられない。つまらない意地と言えばそれまでだが、それでも彼は負けたくなかった。
「じゃあ、こっちも……!」
男が負けじと、陰唇に突っ込んだままの指に力を入れ直す。そして以前よりも速く、しかし傷はつけないように力を抑え、割れ目の中で指を前後に動かす。
「ひう……っ!」
今度はデオノーラが悲鳴を上げる。咄嗟に歯を食いしばって耐えるが、焼け石に水だった。
「貴様、やってくれるな……?」
「あなたには負けませんから……っ」
「女王に挑むか、よかろうっ……!」
闘争心に火が点く。愛してる気持ちと負けたくない気持ちは共存出来るのだ。
男とドラゴンは共に好意と情愛を併存させ、互いを熱い眼差しで見つめながら性器を弄る手に力を込めた。
「ふっ、ふぅっ、ああ……っ」
「あ、ああ、そこ……上手っ……」
男がか細い声を上げ、デオノーラが恍惚とした声を漏らす。男の肉付きの良い指がデオノーラの陰唇をこねくり回し、ドラゴンの細い指が男の肉棒を扱き上げる。力強く、愛のある動きが、両者を等しく絶頂へ導いていく。
「あっ、あっ、あぁっ……ふふっ」
「ふ、はははっ……ンっ、あんッ……」
お互いの大事な部位を愛撫しながら、二人は自然と笑っていた。好きな人と快感を共有出来るのが、とても嬉しかった。
しかしそれはそれ、これはこれ。二人の胸の内にある「負けたくない気持ち」は少しも鈍っていない。自分より先に相手をいかせようと、手に力を更に籠める。
「このっ……人間のくせに、あン、生意気だぞ……っ」
「負ける気、ふぅっふっ、ありませんから……ッ」
指を絡ませ肉棒を扱く。指を折り曲げ陰唇を抉る。容赦なく快感を与え、優位に立とうとする。負けず嫌い二人はどちらも攻め手を緩めず、肉の悦びに背筋を震わせつつ相手に悦びを与え続けた。
「あッ、ぐっ、もう……デオノーラっ、様ッ……」
「わ、私も……はうっ、もう……!」
やがて終わりが来る。限界を察した二人が声を漏らし、それが逆に二人のタガを緩める。
向こうはもうイキそうだ。もう限界なのだ。
自分ももうイっていいんだ。
「い、いっしょッ、一緒にぃ……ッ!」
「はいっ、はいッ……! 一緒に、イって……!」
デオノーラの呼びかけに男が答える。目的が切り替わる。二人で飛び立とうと、ペースを合わせて仲良く最後の仕上げに掛かる。
二人の初めての共同作業は、すぐに実を結んだ。
「ひっ――」
最初に男が限界を迎える。直後、後に続くようにデオノーラが達する。
「あああああっ……ッ!」
デオノーラが叫ぶ。指を押し当て、男も同じように吼える。その絶頂の咆哮に呼応するように、肉体もまた昇天を迎える。
「かけられてるッ、白いの、ベタベタかかってるッ……!」
「で、デオノーラ様の、みず……あったかい……っ!」
亀頭の先から白濁液が噴き出し、デオノーラの手を汚す。割れ目から透明な液体が吐き出され、男の手首まで濡らす。
どちらの液体も等しく熱く、その熱が相手を絶頂させたことを認識させる。
「ああ、はあ、はあっ……」
「はっ、はッ……ははっ……」
絶頂の波が引いた後、互いの性器から手を離す。そして共に相手の体液に塗れた自身の手を見て、二人揃って笑いだす。
「はははっ、ああ……やっちゃったんですね……」
「そ、そうだな……私達……」
性的接触をした。相手をイカせてやったのだ。
「こんな感覚なのだな……」
男の吐いた精液で汚れた手を見ながら、デオノーラが感慨深げに呟く。悪くない。心が充足感で満たされ、暖かくなるのを実感する。
「うむ。悪くない。これはクセになりそうだ」
そんな満足感に浸りながら、デオノーラがその手を鼻に近づける。白濁液の一つに狙いをつけ、鼻腔を動かしそれの匂いを確かめる。
「変なにおいがする。刺激的だな」
「あの、デオノーラ様、そういうのはちょっと恥ずかしいというか……」
自分の出したものの臭いを確認される様を見て、男が視線を逸らして恥じらう。それに気づいたデオノーラが鼻と手を離し、慌てた調子で弁解する。
「あっ、すまない。初めて見たものだから、つい」
「い、いえ……俺の方こそ、変に意識してすみません……」
「……」
共に申し訳ない気持ちになる。気まずい空気が流れるが、やがてそれが苦笑になる。
「今更だな」
「ですね」
こんなことで恥ずかしがっても詮無い事。これからもっと恥ずかしいことをすると言うのに。
二人の意識は、既にこの後の行為に向けられていた。
「……しますか?」
「しよう」
短いやり取りで最終確認を済ませる。元よりそのためにここに来たのだ。拒否すること自体あり得ない。
「では、貴様が音頭を取ってみせよ」
「えっ」
ただしイニシアチブは取る。デオノーラが先んじてそう言い放ち、困惑する男の横で仰向けにベッドの上に寝転ぶ。純白のシーツの上で両手を広げ、両足を伸ばし、隠すこともせずに己の全てを曝け出す。
「さあ、来るがよい。私に男気を見せるのだ」
不敵な笑みを浮かべてデオノーラが告げる。彼女はこの状況を楽しんでいた。それを聞いた男は最初呆然とし、次いで困り、すぐに体から力を抜いて微笑みを浮かべた。
「俺にやらせるんですか?」
「今はそういう気分なのだ。私は貴様の頑張る姿が見たい」
「どういう理由ですか」
「くどいくどい。私は女王だぞ。反論は許さぬっ」
力まず自然体で接する男に、同じくリラックスした調子でデオノーラが言い返す。この部屋に入った当初にあった緊張感は、今や完全に消え失せていた。
それを証明するように柔和な笑みを浮かべながら、男が優しい声でデオノーラに言う。
「わかりました。女王様」
言いながら、男がデオノーラの上に覆い被さる。肉棒は完全に膨張し、亀頭の先がデオノーラの下腹部の柔肌を優しくなぞっていた。
男は完全にその気になっていた。場に流れる空気が心のタガを外させていた。しかしそのように気持ちを大きくさせる男の姿に、デオノーラはむしろ頼もしさを感じていた。
「ん……っ」
上に被さりながら、男が目当ての位置を探し出す。やがて割れ目の場所を見出し、その入り口に亀頭の先を押し当てる。
陰唇が進入を受け入れる。先端だけ呑み込んだ状態で動きを止め、デオノーラが艶のある声を漏らす。
「……いいですか?」
男が尋ねる。顔を真っ赤にしたデオノーラが、男の顔をじっと見つめる。
「来てくれ」
デオノーラが頷く。男が腹を括り、腰を少し引く。割れ目に亀頭が食い込んだまま、結合部分からくちりと水音が漏れる。
女王が桃色の息を吐く。女王が身じろぎし、濡れた瞳で男を見据える。
「一息に頼む」
「デオノーラ様……」
男がそれを見つめ返す。そして今から自分がしようとしていることを再認識する。
自分はこれから、この人の処女を貰うのだ。
「行きます」
宣言する。腰に力を込める。
一拍置いて、勢いよく腰を前に突き出す。
棒が肉をかき分け膣の中を進む。亀頭が膜のようなものにぶつかり、それを一気に破り去る。
「ク……ッ!」
インパクトの直後、デオノーラが苦悶の表情を浮かべる。それでも膣は肉棒を根元まで咥えこみ、両者の股が当人の痛みを無視して完全に密着する。
合体箇所からじわりと血が漏れ出す。デオノーラはまだ眉間に皺を寄せている。不安げに思った男がデオノーラの顔を覗き込み、声をかける。
「大丈夫ですか?」
「平気だ……ッ」
男からの問いかけに、デオノーラが声を絞り出して答える。表情は苦しげだったが、それでも彼女は力任せに笑みを作り、男に向かって微笑みながら言った。
「気負う必要は無い……貴様は構わず動くがよい……っ」
「でも……」
「いいのだ」
躊躇う男の頬に、デオノーラの手が添えられる。いきなりの行動に男が驚いていると、そこにデオノーラが言葉を投げかける。
「私がそうしてほしいのだ」
「デオノーラ様……」
「痛いのは確かだ。だが嫌ではない。むしろもっと刻みつけてほしい。貴様の存在を、もっと私の中に刻み込んでほしいんだ」
デオノーラが滔々と話しかける。話す内にデオノーラの眉間から皺が消え、真に安らかな表情へと変わる。
「私の心配はいらぬ。魔物娘は頑丈だからな。貴様が遠慮する必要は無い」
「……本当に?」
「本当だ。だから頼む」
私をグシャグシャに犯してくれ。
デオノーラの心からの願い。
それが男の中にあった最後の憂慮を打ち消す。
「わかりました。それじゃあ……」
憂いの消えた顔で男が言う。実際、彼は限界だった。こうして話している今も、彼の肉棒はデオノーラの膣肉によって優しく揉みほぐされていた。その優しさと熱量を前に、男の愚息は今にも爆発しそうだった。
それを引き延ばすには、自分も動いて気を散らすしかない。男はそのための許可を、今デオノーラから受け取った形となった。
あらゆる意味で、彼はもう我慢する必要は無かった。ならばすることは一つだ。
「い、いきますね……ッ」
男が意を決して腰を振り始める。最初はゆっくり、遅く浅く、相手の身体を気遣ったピストン運動を行う。
くちゅり、くちゅり。結合部から小さく水音が聞こえてくる。控えめで大人しい音だ。男は波風を立てぬよう、努めて冷静に「突いて離して」を続けた。
「あっ、あン、あぁ……ふぅ、ふふっ……」
男の突きに応じて、デオノーラが吐息をこぼす。その声は穏やかで余裕があった。彼女はこの期に及んで慎重に動く男の優しさに、言いようのない充足感と多幸感を味わっていた。
「あぁ、ゆっくり、あはっ、気持ちいい……ンっ、もっと……」
突かれる女王が恍惚とした声を出す。自分で喜んでくれていると実感した男が、少しずつペースを上げていく。
もっと喜んでほしい。もっとたくさん快楽を感じてほしい。全ては純粋な奉仕と献身の精神から来る行為だった。
「ふっ、ふんっ、くっ……んうぅっ……!」
「あ、あぁッ……気持ち、ンっ、いいぞ……やるじゃないか、貴様……」
自ら往復を速める男にデオノーラが声をかける。その声色は柔らかく、表情は穏やかだった。
好いた人間に胎内を責められ、その感覚に確かな悦びを感じ、うっとりした顔で女王が言う。
「そうだ、その調子っ、やぁン、くッ……そのまま突き続けてくれッ……」
「デオノーラ、様っ……」
「もっと、もっと欲しい……! もっと私、私の中を、貴様の色で汚してくれ……ッ!」
「デオノーラ様――!」
欲望を吐き出すデオノーラを見て、男の心臓が大きく跳ねる。ドクン、という音が確かに肋骨の奥から響き、男の全身が一気に熱くなる。赤い血が勢いよく駆け巡り、股から生える己の分身もより一段と怒張する。
もっと速く。もっと強く。もっとこの人を感じさせたい。血で滾った男の脳が、肉と愛を貪らんと獣性を剥き出しにする。
「ふっ! ふんっ! ふん、ぐっ! ふん! ふぅっ!」
鼻息荒く腰を動かす。血管の浮き出た肉の槍で、しとどに濡れた肉の壺を蹂躙する。表皮で襞を擦り、亀頭の先で子宮口を突きまくる。
技巧を捨てた、力任せの前後運動。だがデオノーラは、その素人の腰遣いを、たまらなく愛おしく感じた。
「そっ、そんなにっ、貴様そんなに私のことを……はぁんッ!」
必死に自分を愛そうとしてくれている。全力で自分を悦ばせようとしてくれている。この男は、まっすぐに自分に愛を伝えてきてくれている。
厳格な精神の奥に眠る感情、恋に焦がれる乙女の感情が、男の好意を敏感に察知する。その甘く蕩ける味を膣で味わい、デオノーラは今まさに誇り高い竜から一匹のメストカゲへ変じようとしていた。
「いいッ! 素敵だッ! 貴様は最高だッ!」
「デオノーラ様ッ! デオノーラ様ぁぁぁッ!」
ドラゴンと人間が咆哮する。建前を捨てた魂の叫び。そのまま両者は至近距離で向かい合い、互いの性器をぶつけ合いながら顔を近づけ唇を重ねる。
「ふッ、ぐッ、じゅるるっ、くちゅ、ぴちゅ、ずるるッ!」
「んんッ、れろれろれろ、むぐッ、じゅるッ! ぐちゅッ!」
そして品のないディープキスを交わす。唇を密着させ、そこから更に押しつけ、唾液を絡ませ、舌で口内を舐りまわす。鼻で激しく息をし、目を大きく見開き、舌と腰を力任せに動かし、全身で快感と悦びを共有する。
「ぐちゅ、じゅるッ、のんれ……ッ! いっはい、のんれへぇッ……!」
「のむ、のみゅうッ! んん、んぐっ、きはまのよられ、のみゅのみゅっ!」
キスをしながら言葉を交わす。まともに喋れていなかったが、相手が何を言わんとしているかは手に取るように理解できた。
もっと言うと、言葉のやり取りもそれだけだった。それだけでさえ億劫だった。
今はただ、相手を貪りたかった。
「ぶはっ、はあっ……デオノーラ様、もう、もう……!」
暴力的な口づけは、どちらかが限界を迎えるまで続いた。今回音を上げたのは男の方だった。口を離し、口の端から唾液を垂らし、男が泣きそうな顔で懇願する。デオノーラも同じく瞳を潤ませ、男の言葉に頷いて答える。
「ああッ、いいぞッ、いけッ! 出せ……ッ!」
「でお、のーら、様ッ! デオノーラ、さまぁっ!」
「吐き出せ! 貴様の精をッ、はっ、はッ、私の中にッ!」
デオノーラが叫ぶ。男が腰の動きでそれに応える。それまで以上に激しく早いストロークで、徹底的に膣を責め立てる。
互いの目を見る。大きく口を開け、激しく呼吸する。腰を打ち付け、肉のぶつかる音を容赦なく響かせる。醸成された魔力が室内に充満し、二人の獣性をさらに引き出していく。
やがてその時が来る。男が終わりが近いことを視線で訴え、それを見たデオノーラも男の言いたいことを理解する。
デオノーラが無言で頷く。男が表情をほぐし、柔和な顔で頷き返す。
「いき、ます……ッ」
「こいッ、きてくれッ……!」
男が宣言し、デオノーラが答える。
男が最後の一突きをする。デオノーラの膣がそれを受け止める。
子宮が亀頭と口づけを交わす。限界を越えた鈴口から白濁の体液がぶちまけられる。
「あ、あッ、きてる、クル……あはああああああッ!」
デオノーラが吠える。男が全身でデオノーラの裸体にしがみつく。デオノーラが両手を男の背に回し、直接被さって来た男をしっかり受け止める。
二人が溶けて一つになる。密着したまま男が何度も射精し、デオノーラが何度も絶頂する。
「ひい、ひいぃ、いひいいっ、ひいいいいいいンンッ!」
歓喜の叫び。ドラゴンが涙を流し、至福の喜びを享受する。
腹の中が白く汚される。人間に汚される。たまらなく素晴らしい。
「ああ、すごい……しあわせだあ……」
男の矮躯を強く抱きしめ、デオノーラが芽生えた愛に感謝する。そしてドラゴンの身体に包まれながら、男が射精を続ける。竜の温もりを肌で感じ、最後の一滴まで出し尽くす。
「ああ、もう……っ」
最後の一滴を出す。空になってもなお、デオノーラの膣は男の肉棒を咥えて離さない。デオノーラの身体もまた、男を抱いて離そうとしない。
一方の男も、離してくれることを望んでいなかった。デオノーラの体温に安らぎを感じ、目を閉じてそれに神経を向ける。
「素敵です、デオノーラ様……」
「貴様も、格好よかったぞ……」
絶頂の余韻に浸りながら、互いの健闘を讃える。そして結合し、抱き合ったまま、男が甘えるように言い放つ。
「もう一回したいです」
お願いします。男が懇願する。
デオノーラは拒絶しなかった。
「よかろう。貴様の精、枯れるまで搾り取ってやろうぞ」
弾むような声だった。デオノーラもまた、彼との再戦を熱望していた。
「簡単に終わってくれるなよ?」
内心喜びを爆発させながら、しかし表向きは威厳たっぷりにデオノーラが言ってのける。彼女はこの時間を心より楽しんでいた。そしてそれは男も同じで、その女王からの布告に対し自信たっぷりに言い返す。
「もちろん。望むところです」
「そうか。それは楽しみだな」
すっかり回復した二人がピロートーク――と言うにはあまりに短い言葉のキャッチボールを繰り広げる。そして一瞬の応酬の後、男がいざ第二回戦と意気込んだ直後、デオノーラが恥じらいつつ彼に言う。
「あっ、待て。待ってくれ」
請われた男が動きを止める。腰を浮かせた態勢のまま、男がデオノーラを見る。
愛する人間に見つめられながら、恋するドラゴンがか細い声で要求する。
「その、キス……」
「え?」
「始める前に、もう一回、キスをしてほしい……」
そこで言葉を切る。少し目を泳がせ、その後伏し目がちに男を見つめる。
「……駄目か?」
駄目なわけが無い。男はすぐさまデオノーラと顔を近づけ、熱い眼差しを向けながら囁いた。
「仰せのままに、女王様」
二人の影が重なる。水音が響き、くぐもった嬌声が部屋の中で反響する。
ドラゴニアの夜、新たに生まれたカップルの夜は、まだまだ始まったばかりだった。
せめて記憶していることと言えば、煌びやかで淫靡な雰囲気の漂う横丁の街並みだとか、デオノーラと一緒に入った宿屋のロビーが薄暗くいやらしい気配に包まれていたとか、そういうおぼろげなものばかりである。通りを包む喧騒も、そこを行き交うカップルの姿も、男の思考には入らなかった。そんな余裕は無かった。
とにかく、男とデオノーラは横丁にある宿屋の一つに入り、個室の一つを借りた。当然ながら、室内の装飾やら間取りやらも頭の中には入らない。男の五感がキャッチするのは、座り込んだツインサイズベッドの柔らかさと、奥から聞こえてくるシャワーの音だけだった。
「ま、待たせたな」
やがてシャワーの音が止む。しばらく経って、奥からデオノーラがやってくる。この時彼女は裸体の上からバスタオルを巻いただけの格好をしており、ガイドをしていた時よりも遥かに煽情的な雰囲気を纏わせていた。
それでいて、そこには女王としての威厳と女性としての気恥ずかしさも同居していた。目を伏せ、頬を赤らめ、しかし背筋はピンと伸ばして腰に手を当て仁王立ちする姿は、もはや属性の暴力だった。
「あっ……」
「お、おい。何を呆けている。次は貴様の番だろうがっ」
秒で見惚れてしまった男に、デオノーラが喝を入れる。そういう女王も顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたが、そこは偉大なるドラゴン。己の恥を捨て、勇気を奮わせ男の尻を叩いてみせた。
「夜は長いが、無限ではない。早く済ませるのだ」
「えっ、あ、はいっ」
そこで男が正気に戻る。そして男は飛び跳ねるようにベッドから立ち上がり、大急ぎでシャワーを浴びに向かった。
そしてまた記憶が途切れる。全裸になり、熱い湯の雨を頭から被ったことは覚えている。だが逆に言えば、そこでの記憶はそれしかない。男は気づいた時には体の汚れを落とし終え、腰にタオルを巻いただけの姿でデオノーラと隣合ってベッドに腰かけていたのだった。
「……」
裸体を晒す故に熱が逃げる。体と頭が冷え、ようやく思考が鮮明になる。
最初に感じ取ったのは沈黙だった。男もデオノーラも黙り込み、部屋の中をどこか気まずい空気が漂い始める。
「とうとう来たな」
その中で、デオノーラが口火を切る。またも女王に背中を押された男が、彼女に遅れを取るまいと続けて口を開く。
「き、きちゃいましたね……」
「うむ……」
「今日初めて会ったばかりなのに……」
「……ああ、そうか。そういえば私達、今日出会ったばかりなのだな」
ファーストコンタクトを思い出すかのように、デオノーラがしみじみ呟く。そして過去の光景を脳裏に見て小さく微笑み、すぐにそれを消して男に問う。
「しかし今更だが、よいのか? 初めての相手が今日会ったばかりの私で」
「デオノーラ様こそ、いいんですか? 初めてが俺みたいな普通の人間で」
質問に質問で返す。問い返されたデオノーラは暫し黙り、その後答える。
「私は良いと思っている」
「えっ?」
「貴様はまだ信じられないかもしれないが、こう見えても私、結構貴様に惚れているのだぞ」
堂々と言ってのける。この時デオノーラは耳朶まで真っ赤にしていたが、それに気づくだけの余裕は男には無かった。
気づかぬまま、再び男が尋ねる。
「……具体的に俺のどこが好きになったんです?」
「全てだ」
即答する。デオノーラの言葉に迷いは無い。直球すぎる回答に、男は二の句を告げなかった。
それをいいことに、デオノーラが追撃をする。
「貴様は初めて私と会った時、とても自然な態度で接してくれたな。それに私の正体を知った後も、貴様は変わらず私を信じてついてくれた」
「それは、別に」
「貴様にとっては特別でも何でもないことかもしれない。だが私には、それがとても輝いて見えたのだ」
男の謙遜を遮るように、デオノーラがうっとりした声で言い放つ。同時にデオノーラが手を伸ばし、男の手の上に自分のそれを重ねる。
デオノーラの手の感触を味わった男が、背筋を震わせる。そして驚いた拍子にデオノーラの方を見やり、そこでこちらを見つめるデオノーラと視線を重ね合わせる。
男の眼差しがドラゴンに吸い寄せられる。何かを思い出したように苦笑し、デオノーラが熱く呟く。
「素敵だ」
熱のこもった吐息が男の前髪を揺らす。
デオノーラが顔を近づける。
「私は、素敵な貴様としたい」
男も熱に浮かされるように、自分から顔を近づけていく。
男のこぼす息がデオノーラの唇を濡らす。
「貴様がいい」
「あ――」
「貴様に、私を受け止めてほしい」
お願いだ。
女王の心からの願い。
男が息を呑む。
二人の距離がどんどん詰まる。
「ん」
影が重なる。互いの唇が柔らかい感触を覚える。
「ふぅ……っ」
「んむ……」
ファーストキスはアルコールの味がした。
一度タガが外れてしまえば、後は流れるままである。
最初啄むだけのキスは、やがて唇を押し付け合い、口を開け互いを貪るものへと変わっていく。
「ちゅ、くちゅ、ちゅっ……」
「んむ……ふぅ、じゅるっ」
鼻の頭がぶつかる程に顔を近づけ、溶接したように口を密着させ、舌を伸ばして相手を思うまま味わう。赤くのたうつナメクジが愛する人の唾液にまみれ、もっと欲しいと口の中で身を絡ませ、涎と熱を共有する。
「ふぅっ、ふぅっ、ふーっ……」
「む、んむ、ふうっ、んんうっ」
荒い鼻息が絶えずこだまする。呼吸のために口を離すことなど考えられない。
今はただ、このキスの感覚に溺れていたい。人とドラゴンは同じ想いを抱き、深い口づけを続けた。
「……はあっ」
そうして思う存分キスを堪能した後、男の方から口を離す。デオノーラも続けて身を引き、舌を引っ込め口を閉ざす。別れを惜しむかのように二人の間に唾液の橋がかかり、それが途切れて口元にへばりつく。
拭うこともせず、二人が息を整える。少しして肩の上下動が収まり、呼吸も元のペースに戻る。しかし心臓は高鳴り続け、漏れる吐息は熱く、視線はがっちり相手に吸いつき離れようとしない。
落ち着いた後、次に何をするのか。見つめ合う二人は共に決めていた。それを相談することもしなかった。二人の心は既に繋がっていた。
「来てくれ」
やがてデオノーラが動く。小さく呟き、男に促す。男が頷き、両手をゆっくり伸ばす。
男の手がデオノーラの肢体を隠すタオルに触れる。優しくそれを解き、躊躇なく脱がす。
タオルが剥がれ落ち、デオノーラの裸体が露わになる。くびれた腰、引き締まった腹、突き出た乳房が、堂々と男の眼前に姿を現す。
「すごい」
男が思わず声を上げる。いやらしい気持ちから出たものではない。それは完全な美を目の前にしての、純粋な賛美だった。
こんな美しい人を、これから自分は犯すのか。そう考えると、否が応でも股間が熱くなる。下半身が疼き、股座に血が集まって痛いほど膨れ上がる。
「次は貴様の番だ」
そこにデオノーラの声がかかる。男が反応するのと、デオノーラが男の腰布を引き剥がすのは、ほぼ同時だった。
男も同じく全裸になる。デオノーラの肉体に興奮し、猛々しく勃起した男の愚息が、彼女の前に露わになる。
「おお――」
感心したようにデオノーラが声を上げる。それもまた、目の前に現れた怒張の雄々しさに感動したが故の反応だった。男は恥ずかしくなったが、デオノーラは構わず彼の男性器を食い入るように見つめた。
しかし眺めているだけでは意味がない。少しして、意を決してデオノーラが言う。
「さ、触っても、よいぞ?」
女王からの許可である。男は生唾を飲み込み、デオノーラを見やる。
真紅のドラゴンが首を縦に振る。再度許可を得た男が、勇気を出して手を伸ばす。
指と乳房が触れ合う。何の抵抗も無く、指が豊満な胸の中へ食い込んでいく。
「うわ、わっ」
男が思わず声を上げる。想像以上に柔らかい。そして熱い。心臓の鼓動が掌越しに伝わってくる。
凄い。気持ちいい。指がおっぱいに吸い付いて離れない。女の人の身体はこんなに柔らかいのか。
初めて触る女体、その胸の感触に、男はただただ圧倒された。
「気に入ってくれたようだな」
胸を触ったまま唖然とする男を見て、デオノーラが嬉しそうに声を出す。かくいう彼女も、初めて好きになった男性に乳を揉まれ、その嬉しさに背筋を震わせていたのだが。女王としての意地から、それを表に出す事はしなかった。
「次は私の番だぞ」
代わりにデオノーラは反撃の宣言をする。そして男の了承も待たずに、ガチガチに硬くなった彼の肉棒へ手を伸ばす。
ドラゴンのしなやかな指が、男の欲望の権化を絡め取る。手のひらも添えて包み込むように優しく握りしめ、直後、デオノーラが上ずった声を上げる。
「これは、熱いな……それになんというか、がっしりしている……」
初めて触れる男性器。その硬さと熱さに、デオノーラは素直に驚嘆した。これが男の生殖器か。ドラゴニアの女王は驚くと共に、もっとそれを知りたいと思った。
「も、もうちょっと、触ってもいいか?」
「えっ? え、はいっ」
そして躊躇うことなく男に許可を求める。男も一瞬驚くが、すぐにそれを了承する。
「でしたら、その、俺ももっと触ってていいですか?」
「あ、ああ、いいとも。好きなだけ味わうといい」
それと引き換えと言わんばかりに男も求める。当然デオノーラは快諾する。
そうして互いに許可を得た男女が、無言で互いの性的部位を弄くりあう。初めて味わう異性の肉体に、初心な彼らはあっという間に虜となっていた。
もっと味わいたい。もっと味わってほしい。デオノーラの中にさらなる欲が芽生える。
「こちらも触ってみないか」
欲求のままにデオノーラが言う。そして相手の反応も待たずに、空いていた方の手で男の片手首を優しく掴む。
手首を掴まれた男が動きを止める。デオノーラが掴んだ手を己の望む処へ動かす。
手が胸から離れ、まっすぐ降りて腹部を通り過ぎる。やがて股間の位置で止まり、剥き出しの秘所へそれを近づける。
男の指先と女の割れ目が触れあう。指の先端で熱を感じ、男が背筋を震わせる。
熱いだけではない。水気が凄い。汚れ一つないデオノーラの女性器は、既にぐしょぐしょに濡れていた。
「いいんですか?」
震える声で男が尋ねる。頷き、女王が返す。
「貴様に触ってほしいのだ」
その後顔を赤らめ、視線を逸らす。
「貴様でこうなったのだ……わかれ」
恥じらう乙女が言葉を漏らす。女王の威厳を投げ捨てた一人の女性が愛撫を求める。
それが男の背を押す。
「それじゃあ……」
掴まれた手に力を込める。それを感じ取ったデオノーラが手を離し、そのまま男が自分の意志で指を動かす。
最初に一本、人差し指だけで恐る恐るなぞる。何度か触った後、中指を加えて「中」へ進入する。
「ん……っ♪」
デオノーラの口から艶っぽい声が漏れる。もっと聞きたい。薬指を混ぜ、三本の指でさらに奥へ進める。
「あっ、あん……っ!」
予想通り、さらに雌の声が聞こえてくる。ついでに水音も大きくなり、その透明な体液が指にねっとりと絡みついてくる。
もっと、もっと聞きたい。陰唇を弄る指にさらに力が入る。指先の神経が鋭敏になり、より彼女の悦びを知ろうと貪欲になる。
「も、もっと攻めて、いいですか?」
「もちろんいいぞ……その代わり、私も……っ」
男に許可を出したデオノーラが、さらにそこから反撃に出る。それまで動きを止めていた肉棒を握る手に力を込め直し、再び優しく握って上下に擦り始める。
「はううっ……!」
不意打ちを食らった男が情けない声を出す。しかしすんでの所で踏み留まり、なんとか暴発を防ぐ。
「出しても良かったのだぞ?」
その様を見たデオノーラが楽しげに言う。男の痩せ我慢は筒抜けだった。
それでも、男はそのプライドを捨てなかった。
「か、簡単にいっちゃったら、格好悪いから……」
「男の意地か」
「……駄目ですか?」
「いや、素敵だ」
おずおずと問う男に女王が断言し、歯を見せて笑う。男は一瞬きょとんとし、すぐ後に肩の力を抜く。
そこにデオノーラの言葉が飛ぶ。
「だが手加減はしないぞ」
直後、手の上下動を再開する。宣言通り、そのストロークは速さと勢いがあった。本気で男を絶頂させようという意思があった。
「ひいいっ!」
男が甲高い声で叫ぶ。効果覿面だった。一往復ごとに肉竿から電流が迸り、全身を駆け巡って筋肉を甘く痺れさせる。気を抜けば脳髄さえも甘く蕩け、簡単に吐き出してしまいそうだ。
しかしそれも何とか耐える。好きな人の前で格好悪い所は見せられない。つまらない意地と言えばそれまでだが、それでも彼は負けたくなかった。
「じゃあ、こっちも……!」
男が負けじと、陰唇に突っ込んだままの指に力を入れ直す。そして以前よりも速く、しかし傷はつけないように力を抑え、割れ目の中で指を前後に動かす。
「ひう……っ!」
今度はデオノーラが悲鳴を上げる。咄嗟に歯を食いしばって耐えるが、焼け石に水だった。
「貴様、やってくれるな……?」
「あなたには負けませんから……っ」
「女王に挑むか、よかろうっ……!」
闘争心に火が点く。愛してる気持ちと負けたくない気持ちは共存出来るのだ。
男とドラゴンは共に好意と情愛を併存させ、互いを熱い眼差しで見つめながら性器を弄る手に力を込めた。
「ふっ、ふぅっ、ああ……っ」
「あ、ああ、そこ……上手っ……」
男がか細い声を上げ、デオノーラが恍惚とした声を漏らす。男の肉付きの良い指がデオノーラの陰唇をこねくり回し、ドラゴンの細い指が男の肉棒を扱き上げる。力強く、愛のある動きが、両者を等しく絶頂へ導いていく。
「あっ、あっ、あぁっ……ふふっ」
「ふ、はははっ……ンっ、あんッ……」
お互いの大事な部位を愛撫しながら、二人は自然と笑っていた。好きな人と快感を共有出来るのが、とても嬉しかった。
しかしそれはそれ、これはこれ。二人の胸の内にある「負けたくない気持ち」は少しも鈍っていない。自分より先に相手をいかせようと、手に力を更に籠める。
「このっ……人間のくせに、あン、生意気だぞ……っ」
「負ける気、ふぅっふっ、ありませんから……ッ」
指を絡ませ肉棒を扱く。指を折り曲げ陰唇を抉る。容赦なく快感を与え、優位に立とうとする。負けず嫌い二人はどちらも攻め手を緩めず、肉の悦びに背筋を震わせつつ相手に悦びを与え続けた。
「あッ、ぐっ、もう……デオノーラっ、様ッ……」
「わ、私も……はうっ、もう……!」
やがて終わりが来る。限界を察した二人が声を漏らし、それが逆に二人のタガを緩める。
向こうはもうイキそうだ。もう限界なのだ。
自分ももうイっていいんだ。
「い、いっしょッ、一緒にぃ……ッ!」
「はいっ、はいッ……! 一緒に、イって……!」
デオノーラの呼びかけに男が答える。目的が切り替わる。二人で飛び立とうと、ペースを合わせて仲良く最後の仕上げに掛かる。
二人の初めての共同作業は、すぐに実を結んだ。
「ひっ――」
最初に男が限界を迎える。直後、後に続くようにデオノーラが達する。
「あああああっ……ッ!」
デオノーラが叫ぶ。指を押し当て、男も同じように吼える。その絶頂の咆哮に呼応するように、肉体もまた昇天を迎える。
「かけられてるッ、白いの、ベタベタかかってるッ……!」
「で、デオノーラ様の、みず……あったかい……っ!」
亀頭の先から白濁液が噴き出し、デオノーラの手を汚す。割れ目から透明な液体が吐き出され、男の手首まで濡らす。
どちらの液体も等しく熱く、その熱が相手を絶頂させたことを認識させる。
「ああ、はあ、はあっ……」
「はっ、はッ……ははっ……」
絶頂の波が引いた後、互いの性器から手を離す。そして共に相手の体液に塗れた自身の手を見て、二人揃って笑いだす。
「はははっ、ああ……やっちゃったんですね……」
「そ、そうだな……私達……」
性的接触をした。相手をイカせてやったのだ。
「こんな感覚なのだな……」
男の吐いた精液で汚れた手を見ながら、デオノーラが感慨深げに呟く。悪くない。心が充足感で満たされ、暖かくなるのを実感する。
「うむ。悪くない。これはクセになりそうだ」
そんな満足感に浸りながら、デオノーラがその手を鼻に近づける。白濁液の一つに狙いをつけ、鼻腔を動かしそれの匂いを確かめる。
「変なにおいがする。刺激的だな」
「あの、デオノーラ様、そういうのはちょっと恥ずかしいというか……」
自分の出したものの臭いを確認される様を見て、男が視線を逸らして恥じらう。それに気づいたデオノーラが鼻と手を離し、慌てた調子で弁解する。
「あっ、すまない。初めて見たものだから、つい」
「い、いえ……俺の方こそ、変に意識してすみません……」
「……」
共に申し訳ない気持ちになる。気まずい空気が流れるが、やがてそれが苦笑になる。
「今更だな」
「ですね」
こんなことで恥ずかしがっても詮無い事。これからもっと恥ずかしいことをすると言うのに。
二人の意識は、既にこの後の行為に向けられていた。
「……しますか?」
「しよう」
短いやり取りで最終確認を済ませる。元よりそのためにここに来たのだ。拒否すること自体あり得ない。
「では、貴様が音頭を取ってみせよ」
「えっ」
ただしイニシアチブは取る。デオノーラが先んじてそう言い放ち、困惑する男の横で仰向けにベッドの上に寝転ぶ。純白のシーツの上で両手を広げ、両足を伸ばし、隠すこともせずに己の全てを曝け出す。
「さあ、来るがよい。私に男気を見せるのだ」
不敵な笑みを浮かべてデオノーラが告げる。彼女はこの状況を楽しんでいた。それを聞いた男は最初呆然とし、次いで困り、すぐに体から力を抜いて微笑みを浮かべた。
「俺にやらせるんですか?」
「今はそういう気分なのだ。私は貴様の頑張る姿が見たい」
「どういう理由ですか」
「くどいくどい。私は女王だぞ。反論は許さぬっ」
力まず自然体で接する男に、同じくリラックスした調子でデオノーラが言い返す。この部屋に入った当初にあった緊張感は、今や完全に消え失せていた。
それを証明するように柔和な笑みを浮かべながら、男が優しい声でデオノーラに言う。
「わかりました。女王様」
言いながら、男がデオノーラの上に覆い被さる。肉棒は完全に膨張し、亀頭の先がデオノーラの下腹部の柔肌を優しくなぞっていた。
男は完全にその気になっていた。場に流れる空気が心のタガを外させていた。しかしそのように気持ちを大きくさせる男の姿に、デオノーラはむしろ頼もしさを感じていた。
「ん……っ」
上に被さりながら、男が目当ての位置を探し出す。やがて割れ目の場所を見出し、その入り口に亀頭の先を押し当てる。
陰唇が進入を受け入れる。先端だけ呑み込んだ状態で動きを止め、デオノーラが艶のある声を漏らす。
「……いいですか?」
男が尋ねる。顔を真っ赤にしたデオノーラが、男の顔をじっと見つめる。
「来てくれ」
デオノーラが頷く。男が腹を括り、腰を少し引く。割れ目に亀頭が食い込んだまま、結合部分からくちりと水音が漏れる。
女王が桃色の息を吐く。女王が身じろぎし、濡れた瞳で男を見据える。
「一息に頼む」
「デオノーラ様……」
男がそれを見つめ返す。そして今から自分がしようとしていることを再認識する。
自分はこれから、この人の処女を貰うのだ。
「行きます」
宣言する。腰に力を込める。
一拍置いて、勢いよく腰を前に突き出す。
棒が肉をかき分け膣の中を進む。亀頭が膜のようなものにぶつかり、それを一気に破り去る。
「ク……ッ!」
インパクトの直後、デオノーラが苦悶の表情を浮かべる。それでも膣は肉棒を根元まで咥えこみ、両者の股が当人の痛みを無視して完全に密着する。
合体箇所からじわりと血が漏れ出す。デオノーラはまだ眉間に皺を寄せている。不安げに思った男がデオノーラの顔を覗き込み、声をかける。
「大丈夫ですか?」
「平気だ……ッ」
男からの問いかけに、デオノーラが声を絞り出して答える。表情は苦しげだったが、それでも彼女は力任せに笑みを作り、男に向かって微笑みながら言った。
「気負う必要は無い……貴様は構わず動くがよい……っ」
「でも……」
「いいのだ」
躊躇う男の頬に、デオノーラの手が添えられる。いきなりの行動に男が驚いていると、そこにデオノーラが言葉を投げかける。
「私がそうしてほしいのだ」
「デオノーラ様……」
「痛いのは確かだ。だが嫌ではない。むしろもっと刻みつけてほしい。貴様の存在を、もっと私の中に刻み込んでほしいんだ」
デオノーラが滔々と話しかける。話す内にデオノーラの眉間から皺が消え、真に安らかな表情へと変わる。
「私の心配はいらぬ。魔物娘は頑丈だからな。貴様が遠慮する必要は無い」
「……本当に?」
「本当だ。だから頼む」
私をグシャグシャに犯してくれ。
デオノーラの心からの願い。
それが男の中にあった最後の憂慮を打ち消す。
「わかりました。それじゃあ……」
憂いの消えた顔で男が言う。実際、彼は限界だった。こうして話している今も、彼の肉棒はデオノーラの膣肉によって優しく揉みほぐされていた。その優しさと熱量を前に、男の愚息は今にも爆発しそうだった。
それを引き延ばすには、自分も動いて気を散らすしかない。男はそのための許可を、今デオノーラから受け取った形となった。
あらゆる意味で、彼はもう我慢する必要は無かった。ならばすることは一つだ。
「い、いきますね……ッ」
男が意を決して腰を振り始める。最初はゆっくり、遅く浅く、相手の身体を気遣ったピストン運動を行う。
くちゅり、くちゅり。結合部から小さく水音が聞こえてくる。控えめで大人しい音だ。男は波風を立てぬよう、努めて冷静に「突いて離して」を続けた。
「あっ、あン、あぁ……ふぅ、ふふっ……」
男の突きに応じて、デオノーラが吐息をこぼす。その声は穏やかで余裕があった。彼女はこの期に及んで慎重に動く男の優しさに、言いようのない充足感と多幸感を味わっていた。
「あぁ、ゆっくり、あはっ、気持ちいい……ンっ、もっと……」
突かれる女王が恍惚とした声を出す。自分で喜んでくれていると実感した男が、少しずつペースを上げていく。
もっと喜んでほしい。もっとたくさん快楽を感じてほしい。全ては純粋な奉仕と献身の精神から来る行為だった。
「ふっ、ふんっ、くっ……んうぅっ……!」
「あ、あぁッ……気持ち、ンっ、いいぞ……やるじゃないか、貴様……」
自ら往復を速める男にデオノーラが声をかける。その声色は柔らかく、表情は穏やかだった。
好いた人間に胎内を責められ、その感覚に確かな悦びを感じ、うっとりした顔で女王が言う。
「そうだ、その調子っ、やぁン、くッ……そのまま突き続けてくれッ……」
「デオノーラ、様っ……」
「もっと、もっと欲しい……! もっと私、私の中を、貴様の色で汚してくれ……ッ!」
「デオノーラ様――!」
欲望を吐き出すデオノーラを見て、男の心臓が大きく跳ねる。ドクン、という音が確かに肋骨の奥から響き、男の全身が一気に熱くなる。赤い血が勢いよく駆け巡り、股から生える己の分身もより一段と怒張する。
もっと速く。もっと強く。もっとこの人を感じさせたい。血で滾った男の脳が、肉と愛を貪らんと獣性を剥き出しにする。
「ふっ! ふんっ! ふん、ぐっ! ふん! ふぅっ!」
鼻息荒く腰を動かす。血管の浮き出た肉の槍で、しとどに濡れた肉の壺を蹂躙する。表皮で襞を擦り、亀頭の先で子宮口を突きまくる。
技巧を捨てた、力任せの前後運動。だがデオノーラは、その素人の腰遣いを、たまらなく愛おしく感じた。
「そっ、そんなにっ、貴様そんなに私のことを……はぁんッ!」
必死に自分を愛そうとしてくれている。全力で自分を悦ばせようとしてくれている。この男は、まっすぐに自分に愛を伝えてきてくれている。
厳格な精神の奥に眠る感情、恋に焦がれる乙女の感情が、男の好意を敏感に察知する。その甘く蕩ける味を膣で味わい、デオノーラは今まさに誇り高い竜から一匹のメストカゲへ変じようとしていた。
「いいッ! 素敵だッ! 貴様は最高だッ!」
「デオノーラ様ッ! デオノーラ様ぁぁぁッ!」
ドラゴンと人間が咆哮する。建前を捨てた魂の叫び。そのまま両者は至近距離で向かい合い、互いの性器をぶつけ合いながら顔を近づけ唇を重ねる。
「ふッ、ぐッ、じゅるるっ、くちゅ、ぴちゅ、ずるるッ!」
「んんッ、れろれろれろ、むぐッ、じゅるッ! ぐちゅッ!」
そして品のないディープキスを交わす。唇を密着させ、そこから更に押しつけ、唾液を絡ませ、舌で口内を舐りまわす。鼻で激しく息をし、目を大きく見開き、舌と腰を力任せに動かし、全身で快感と悦びを共有する。
「ぐちゅ、じゅるッ、のんれ……ッ! いっはい、のんれへぇッ……!」
「のむ、のみゅうッ! んん、んぐっ、きはまのよられ、のみゅのみゅっ!」
キスをしながら言葉を交わす。まともに喋れていなかったが、相手が何を言わんとしているかは手に取るように理解できた。
もっと言うと、言葉のやり取りもそれだけだった。それだけでさえ億劫だった。
今はただ、相手を貪りたかった。
「ぶはっ、はあっ……デオノーラ様、もう、もう……!」
暴力的な口づけは、どちらかが限界を迎えるまで続いた。今回音を上げたのは男の方だった。口を離し、口の端から唾液を垂らし、男が泣きそうな顔で懇願する。デオノーラも同じく瞳を潤ませ、男の言葉に頷いて答える。
「ああッ、いいぞッ、いけッ! 出せ……ッ!」
「でお、のーら、様ッ! デオノーラ、さまぁっ!」
「吐き出せ! 貴様の精をッ、はっ、はッ、私の中にッ!」
デオノーラが叫ぶ。男が腰の動きでそれに応える。それまで以上に激しく早いストロークで、徹底的に膣を責め立てる。
互いの目を見る。大きく口を開け、激しく呼吸する。腰を打ち付け、肉のぶつかる音を容赦なく響かせる。醸成された魔力が室内に充満し、二人の獣性をさらに引き出していく。
やがてその時が来る。男が終わりが近いことを視線で訴え、それを見たデオノーラも男の言いたいことを理解する。
デオノーラが無言で頷く。男が表情をほぐし、柔和な顔で頷き返す。
「いき、ます……ッ」
「こいッ、きてくれッ……!」
男が宣言し、デオノーラが答える。
男が最後の一突きをする。デオノーラの膣がそれを受け止める。
子宮が亀頭と口づけを交わす。限界を越えた鈴口から白濁の体液がぶちまけられる。
「あ、あッ、きてる、クル……あはああああああッ!」
デオノーラが吠える。男が全身でデオノーラの裸体にしがみつく。デオノーラが両手を男の背に回し、直接被さって来た男をしっかり受け止める。
二人が溶けて一つになる。密着したまま男が何度も射精し、デオノーラが何度も絶頂する。
「ひい、ひいぃ、いひいいっ、ひいいいいいいンンッ!」
歓喜の叫び。ドラゴンが涙を流し、至福の喜びを享受する。
腹の中が白く汚される。人間に汚される。たまらなく素晴らしい。
「ああ、すごい……しあわせだあ……」
男の矮躯を強く抱きしめ、デオノーラが芽生えた愛に感謝する。そしてドラゴンの身体に包まれながら、男が射精を続ける。竜の温もりを肌で感じ、最後の一滴まで出し尽くす。
「ああ、もう……っ」
最後の一滴を出す。空になってもなお、デオノーラの膣は男の肉棒を咥えて離さない。デオノーラの身体もまた、男を抱いて離そうとしない。
一方の男も、離してくれることを望んでいなかった。デオノーラの体温に安らぎを感じ、目を閉じてそれに神経を向ける。
「素敵です、デオノーラ様……」
「貴様も、格好よかったぞ……」
絶頂の余韻に浸りながら、互いの健闘を讃える。そして結合し、抱き合ったまま、男が甘えるように言い放つ。
「もう一回したいです」
お願いします。男が懇願する。
デオノーラは拒絶しなかった。
「よかろう。貴様の精、枯れるまで搾り取ってやろうぞ」
弾むような声だった。デオノーラもまた、彼との再戦を熱望していた。
「簡単に終わってくれるなよ?」
内心喜びを爆発させながら、しかし表向きは威厳たっぷりにデオノーラが言ってのける。彼女はこの時間を心より楽しんでいた。そしてそれは男も同じで、その女王からの布告に対し自信たっぷりに言い返す。
「もちろん。望むところです」
「そうか。それは楽しみだな」
すっかり回復した二人がピロートーク――と言うにはあまりに短い言葉のキャッチボールを繰り広げる。そして一瞬の応酬の後、男がいざ第二回戦と意気込んだ直後、デオノーラが恥じらいつつ彼に言う。
「あっ、待て。待ってくれ」
請われた男が動きを止める。腰を浮かせた態勢のまま、男がデオノーラを見る。
愛する人間に見つめられながら、恋するドラゴンがか細い声で要求する。
「その、キス……」
「え?」
「始める前に、もう一回、キスをしてほしい……」
そこで言葉を切る。少し目を泳がせ、その後伏し目がちに男を見つめる。
「……駄目か?」
駄目なわけが無い。男はすぐさまデオノーラと顔を近づけ、熱い眼差しを向けながら囁いた。
「仰せのままに、女王様」
二人の影が重なる。水音が響き、くぐもった嬌声が部屋の中で反響する。
ドラゴニアの夜、新たに生まれたカップルの夜は、まだまだ始まったばかりだった。
20/05/26 19:52更新 / 黒尻尾
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