即堕ち二日
「人間が来る?」
自宅である城の居間で、翼を畳んでソファに座っていたゼルネリアは、母であるドラゴンからその話を聞いて顔をしかめた。そして一気に機嫌を損ねた娘を見て、彼女とテーブルを挟んでソファに掛けていた彼女の母は、眼鏡の位置を直しつつ言葉を続けた。
「そうよ。明日ここに、人間の少年が来るの。なんでもあの人が、召使として雇ったそうなのよ」
母が「あの人」と呼ぶのは、この世でただ一人だ。ゼルネリアは自分の父であり、自分の母である一匹のドラゴンと結婚した人間でもある一人の男性の姿を脳裏に思い浮かべた。母と同じ眼鏡をかけた、中肉中背の男性だ。ぱっと見は冴えなかったが、この古城の主であった自分の母に力を証明し、堂々と結婚してみせたことから、ゼルネリアにとっては他のどんな男よりも偉大な存在であった。
そんな愛する父の姿を思い出しなら、ゼルネリアが母に問いかけた。
「相変わらずいきなりですね。人間の召使ですか」
「ええ。召使といってもまだ子供らしいから、くれぐれも優しく接してあげてね?」
「人間に優しくしろ、ですか……」
「ええ、そう。ドラゴンのプライドを守るのも大切だけど、他種族を尊重することも学ばないと。もうドラゴンが頂点に君臨する時代は終わったの。これもいい機会だと思って、あなたも他の人間と仲良くしてみなさい」
「……」
母の言葉にゼルネリアは顔をしかめた。人間と結婚して丸くなった母と違って、ゼルネリアはドラゴン属の本能――自らを王者と見なし、人間を見下す高慢な性分――を母から色濃く受け継いでいた。おかげで彼女は今まで人間の友人が出来たことは一度も無く、またゼルネリア自身も、父親以外の人間と慣れ親しむつもりは無いとすら思っていた。
一応彼女は、休日には一人で町に繰り出し、城下にある人魔共学可能な学園にもしっかり通学していた。外の世界と交流を持ってはいた。
ただそこで、人間の友達を作る気が無かっただけである。
「母様。何度も言いますが、私は人間と仲良くする気はありません。そもそも何故、我らドラゴンが人間などと親しくする必要があるのですか? 彼らにそれほどの魅力があるとでも?」
「もちろんそうよ。人間はね、私達ドラゴンには無い魅力を持っているの。それが何かは上手く言えないんだけど、でもそれは、本当に魅力的な物なのよ。自分の価値観が丸ごと変わってしまうくらいにね」
「理解できませんね。する気もありませんが」
母が直々に説明しても、この様である。とにかくゼルネリアは、徹頭徹尾人間と関わろうとしなかった。そして根は善人であるのだが、ただこの一点のみが原因で、ゼルネリアは学園内でも浮いた存在として扱われていた。他の魔物娘からすらも変わった子だとみなされていた。
「ゼルネリア、お願いだからそんなこと言わないで。人間にも良い所がいっぱいあるっていうのは、お父さんを見ればよくわかるじゃない」
「それは……父様が特別素晴らしいだけです。他の人間の男なんて、盛るだけの種馬でしかありません。寝て食べて飲んで騒ぐだけの、野蛮な連中なんです」
「そうやって決めつけないの。そもそも寝たり食べたりするのは私達も同じじゃないの」
「我々はいいのです。王者が飢え死にするなど、あってはならないのですから。ですが人間は違います。奴らは取るに足らぬ卑屈な生物。飢えようが死のうがどうでもいい。死んでも代わりはいくらでもいるのですからね」
「違うわゼルネリア。お父さんの他にも、素晴らしい人はいっぱいいるのよ? それに直に話し合ったりもしないで、どうして人間すべてが野蛮だなんて言えるのかしら?」
「それは簡単です。人間は元々野蛮な生き物だからです。ドラゴンの足元にも及ばない、下等で矮小な存在だからです」
「はあ……」
頑固だった。ゼルネリアの偏見はオリハルコンよりも頑強だった。幼い頃から「強くあれ」と言い聞かせて育てたのがまずかったのだろうか?
そんなゼルネリアを、彼女の両親はいたく心配していた。もしかしたら娘は、世間知らずのまま一生を終えるのではないか。このまま友人も伴侶を見つけられず、一人朽ちてしまうのではないか。
美しく成長し、それと同時にプライドすらも肥大化させていった娘を前にして、父と母は気が気でなからなかったのだ。
「もう、相変わらず強情なんだから……」
「私はドラゴン属として当たり前のことをしているだけです」
「……わかったわ。この件についてはもうとやかく言わない。その代わり、あなたに話しておきたいことがあるの」
「話? それはいったい何でしょうか?」
だから両親は強硬策に出た。娘の人間嫌いを治すための荒療治である。
そして話を聞こうと居住まいを正すゼルネリアを見ながら、母が口を開いて計画の口火を切った。
「明日から私、あの人と一緒に旅行に出かけてくるから。だからその間、この城はあなたに任せるわね」
「はい……は?」
母の言葉を聞いてからしばらくして、聡いゼルネリアはそれが何を意味しているのかを察した。
明日は人間の召使が来る。そして同時に、両親が旅行に出かける。
ということはつまり。
「私が、その人間の世話をするということですか?」
「そういうことになるわね。さすが学年一位。呑み込みが早くて助かるわ」
自らの言わんとすることを当ててみせたゼルネリアに、母が自分の事のように喜んでみせる。
当のゼルネリアは喜ぶどころではなかった。
「母様! 私に人間の面倒を見ろなどと、本気で言っているのですか!」
「もちろん本気よ。あなたならできる。あなたの中にあるヒトを慈しむ心、それを解き放つことが出来れば、あなたもきっと素直に人間と接することが出来るわよ」
「そんなもの、私にあるわけ無いでしょう!」
「いいえ、あるわ。魔物娘は本能的に、人間を愛するように出来ているの。もちろんあなたの中にもね。そしてあなたにそれを自覚してもらうために、明日から人間の子供と一緒に生活してもらうのよ」
「まさか父様と母様は、最初からそれが狙いで……!」
察しの良い娘を見て頼もしそうに笑みをこぼした後、母がゼルネリアに言い放つ。
「物分かりが良くて助かるわ。もちろん彼は召使として正式に雇うことになっているから、そのつもりでね」
「余計なことを……」
ゼルネリアはそう言って前のめりに崩れ、両ひざにそれぞれ肘を置いて顔を両手で覆った。
そんな困り果てる娘に、母親がさりげなく、容赦なく言葉を放つ。
「そういうことだから、明日からよろしくね。大丈夫、あなたなら出来るわよ」
「そんな無責任な……!」
ゼルネリアは絶望を通り越し、怒りすら滲ませた声を出した。
母親はただニコニコ微笑み、期待に胸を膨らませるばかりだった。
「ゼルネリア。他者を受け入れるのも、王者の責務なのよ」
結局、ゼルネリアがその決定を覆すことは出来なかった。両親は当初の予定通りに旅行へ出かけることになり、ゼルネリア一人で新入りの召使を迎える羽目になった。
しかもご丁寧に、その日は休校日であった。ゼルネリアはどこに逃げることも出来ないまま、その召使の人間と正々堂々相対する羽目になったのである。
「まったく、なぜ私が人間如きに気をやらねばならんのだ」
そして次の日、ゼルネリアは城の正門前で仁王立ちしながら、今日来ることになっていた人間の召使を待ち構えていた。その表情は不満に満ちており、眉間に深く刻まれた皺は一向に消える気配がなかった。
「誇り高いドラゴンともあろう私が、人間の歓待をしろだと? しかも子供の? 馬鹿馬鹿しいにも程がある」
ゼルネリアは苛立たしげに愚痴をこぼし、待つのも阿呆らしいと言わんばかりに爪先で地面を何度も叩く。事ここに至って、彼女は本気で人間と関わるのを嫌がっていた。事前に母から「あなたなら出来るわ」と言われていたが、彼女はその言葉を全く信じていなかった。今こうして城前で相手を待っているのも、ただ単にあの後帰って来た父から「相手が誰であろうと、客人には礼を尽くせ」と言われたから、それに従っているまでである。
「私は誰にもなびくつもりは無い。誇り高きドラゴンの血にかけて、絶対に人間には媚びんぞ」
露骨な嫌悪を露わにしながらゼルネリアが決意表明する。その時、彼女の前に一台の馬車が立ち止まった。
馬車の扉が開き、中からバッグを背負った一人の人間が外に降り立った。ゼルネリアの腹ほどの背丈しかない、小柄で華奢な少年だった。癖のない金髪を備え、新品同様な子供用スーツに「着られて」いた。
そして少年を降ろした後、馬車はそそくさとその場を去っていった。後にはゼルネリアと件の少年だけが残された。少年は竦んだようにその場から動かず、ゼルネリアはそれを見て不愉快そうに鼻を鳴らした。
「つまらん」
「……ッ」
少年が身を縮こませる。ゼルネリアはそれを見てさらに機嫌を損ねていく。
こいつが両親の言っていた召使か。ゼルネリアはそう思いつつ、厳めしい顔のまま少年の元へ歩み寄る。少年を威圧するように、わざとらしく大股で歩きながら近づいていく。
案の定少年はゼルネリアの姿に気付き、力なく俯いたまま体を震わせていた。彼はその足音にさえも恐怖していた。背骨は曲がり、表情は前髪に隠れて見えず、その姿は明らかに怯えていた。
ほら見ろ。やはり人間というのは軟弱で愚かな存在だ。
「お前が今日から、我が城で働くという召使か?」
そんな少年の前で胸を反らし、己の存在を誇示するようにゼルネリアが言い放つ。召使の少年は震えたまま小さく頷き、そしてそれを見たゼルネリアはわざとらしく鼻を鳴らした。
軟弱者め。真紅のドラゴンは言外にそう言った。少年もそれに勘付いたのか、びくりとより強く肩を震わせた。
「お前は今日から、ドラゴンの住まう城で働くのだ。そうであるからには、お前もそれ相応の気品を持たねばならぬ。背筋を伸ばして顔を上げよ。怯える召使など必要ないわ」
腰に手を当て、見下ろすようにゼルネリアが告げる。そう言われた召使は体の震えを止め、そして言われた通りに背筋を伸ばす。次に顔を上げ、その表情をゼルネリアに見せる。
「さて、まずはお前の顔を見せてもらおうか」
お前の、その貧弱な顔をな。
ゼルネリアは暗い笑みを湛えながら少年の顎に指を当て、力任せにその顔を自分の方に向けさせた。
少年の顔がゼルネリアの視界に入る。
二人の視線が交錯する。
「……!」
その瞬間、ゼルネリアは胸に激しい痛みを覚えた。痛みのあまり声も出せず、ただ息をのんだまま目をかっと見開いた。
心臓を雷の槍で貫かれたような激痛が全身を駆け抜ける。心臓が早鐘のように激しく拍動し、体が麻痺したかのように動かなくなる。
脳味噌が揺さぶられる。頭の中が真っ白になる。それまで頭に詰まっていた怒りや苛立ちが全て消え去り、代わりにたった今見たばかりの召使の幼げな顔が、その空いた領域を埋め尽くしていく。
綺麗に整えられた金色の髪。くりくりとした大きな瞳。形の整った細い眉。鼻筋の通った低い鼻。僅かに赤みがかった両の頬。小さく艶やかな桜色の唇。
「か……ッ」
その顔を思い浮かべるたびに、胸がじわじわ熱くなる。頑なだった氷の心が溶けていき、全身が炎のように燃え盛っていく。
体を覆う熱が一つの感情となって胸の奥から込み上げていく。それは一つの言葉となって、ゼルネリアは本能のままにそれを口から吐き出した。
「かわいい……!」
「えっ?」
突然投げかけられた言葉に、少年の召使は困惑した。そして戸惑いながら改めて前を見ると、そこにいたドラゴンがじっとこちらを見つめていた。
その表情にそれまでの敵意は無かった。代わりにそのドラゴンは両手を胸の前で組み、両目を輝かせ、恍惚とした表情でこちらを見つめてきていた。その姿はまさに宝物を見つけた子供のように無邪気なものであり、怒りや憎しみとは無縁のものだった。
「これが、これが……愛、というものなのか……」
「あ、え、ええ?」
「胸が熱い。心が洗われていく……母様、あなたは間違っていなかった……!」
ゼルネリアが涙を流し、陶酔した口調で告白する。明らかに様子がおかしかった。それまで竜の怒りに曝されていた召使は、その感情の反転ぶりにただ呆然とするばかりだった。
「あ、あのっ、お前っ」
そんな召使の手をゼルネリアが掴む。そして突然のことに驚く召使に対し、涙を止め期待に満ちた表情を湛えたゼルネリアが、彼に顔を近づけながら尋ねた。
「お前、名はなんと言うのだ?」
「えっ、あの」
「お前の名前だ。仕事を任せる時に、いちいち召使と呼ぶのも味気ないであろう? 頼むから教えてくれ」
それまでとはまるで毛色の違う、母のように穏やかな声。それを聞いた召使はまだ幾分か困惑しつつも、それでも正直にそのドラゴンに答えた。
「く、クライン……です」
「クライン……そうか、クラインか。うむ、いい名前だな」
ゼルネリアは満面の笑みでそう言ってのけた。召使、クラインはまだ状況の変化についていけずにいた。
そうして戸惑うクラインの手を離し、ゼルネリアは自分から一歩引き下がった。そしてその場で仁王立ちの姿勢を取り、おずおずとこちらを見つめるクラインに向かって声高に告げた。
「ではクラインよ。お前、私の物になれ」
「……は?」
クラインが鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せる。要領を得ない態度を見せるクラインを前に、ゼルネリアは顔を真っ赤にし、感情のままに声を放った。
「わ、私とつがいになれと言っているのだ。つがいだ!」
「つがいって……」
「け、結婚っ、してくれということだ! にぶい奴め!」
「……は?」
要するに、一目惚れだった。
一週間後、ゼルネリアの両親は旅行を終え、自宅である城へともどってきた。そして彼らは城に着くと、真っ先にゼルネリアと召使の様子を確認しに向かった。
我が娘が下手を打つとは考えられないが、それでも万が一ということもある。彼らは逸る気持ちを抑えつつ、城内に入って普段リビングとして使っている広間に急いだ。
「クラインよ、人参はこのくらいの大きさで切ればよいのか?」
「はい。ある程度バラバラでも構いませんけど、それくらいの大きさでまとめてくれるとありがたいです」
「わかった。ではその通りにしよう」
そこには予想通り、ゼルネリアと召使であるクラインの姿があった。そして彼らはこの広間の一部を改築して追加されていたキッチンの中で仲良く並び、二人して調理を行っていた。
「ゼルネリアさん、そこのホワイトソースを取ってください」
「わかった――これか?」
「そうです、それです。ありがとうございます」
「気にするな。さあ、調理を続けよう」
「……本当にありがとうございます。本当ならこれは僕の仕事だから、あなたは休んでくださってても構わないのに……」
「お前だけを働かせて自分は何もしないというのは、私の心情に反する行為だ。さ、二人で片づけてしまうぞ」
時刻は午後六時。確かに夕食の準備を進めてもおかしくない時間である。しかしそれを抜きにしても、ゼルネリアの両親は目の前の光景に愕然とした。
「これは……」
「どういうことなのかしら」
あのゼルネリアが、人間と仲良くしている。まさか、初日で打ち解けたというのか?
ほぼ理想通りの結果であったとはいえ、あまりに早すぎる展開である。ハッキリ言って、これは予想外であった。今回の黒幕である両親がそう考えて驚き唖然としていると、その内ゼルネリアが彼らの存在に気付いて声をかけた。
「おお、父様に母様。もうお帰りになられたのですか。今私とクラインで夕食の準備をしておりますので、そこで休んでいてください」
「申し訳ありません。もうすぐ完成しますので、もう少々お待ちください」
それに続いて、クラインも明るい調子で声を放つ。それから二人は顔を見合わせ、互いに真剣な表情を見せあいながら声をかけあう。
「よし。ではクライン、ラストスパートをかけるぞ。遅れるなよ!」
「はい!」
ゼルネリアが発破をかけ、クラインがそれに元気よく反応する。そして二人してまた調理作業に戻り、手慣れた連係プレーでテキパキと料理を作っていく。
その光景はまさに姉弟そのものであった。そして自然にそのような動きを取ってみせる二人を見て、両親はこの両者の間に何があったのかをすぐに察した。
「どうやら、本当に打ち解けられたみたいだな」
「そのようですね」
父の言葉に母が頷く。そして母ドラゴンはゼルネリア達の方を見ながら、意地の悪い笑みを浮かべて彼女達に言った。
「結婚式には、ちゃんと私達も呼んでね?」
「なッ――」
二人が明らかに動揺する。ゼルネリアは突然の注文に息が詰まって激しく咳をし、クラインは言葉の意味を理解するや否や体を石のように硬直させた。
どちらも非常にわかりやすい反応であった。そんな若人の初々しい反応を見た両親は、共にクスクス笑いあった。
「関係は良好のようだな」
「みたいですね。私も安心しました」
「……もうヤっちゃったのかな?」
「どうでしょう? 私はまだ、初夜は迎えてないと思いますが」
「根拠は?」
「ゼルネリアはそこまで積極的な子ではありませんから」
「それもどうかな? 若さに任せて、一気に……なんてことも考えられないか?」
「一理ありますね」
「お二人とも! 猥談がしたいのなら遠くでやってください!」
そして娘の処女喪失に関して議論を始めた両親に、集中を乱されたゼルネリアが顔を真っ赤にして釘を差す。忠告を受けた二人は「ごめんなさい」と愉快そうに笑って口を閉ざし、それを見たゼルネリアは「まったく」と目を閉じて静かに憤慨した。
「娘がしたかしないかで盛り上がるとは、どういうことだ。しかもそれをクラインの前で。さすがにフォローしようがないぞ」
「そんなに気にすることでしょうか? もう僕とゼルネリアさん、結構な回数エッチを」
「言うな! 言わんでいい!」
口を滑らせかけたクラインを、ゼルネリアが大声で制す。しかし彼の言葉は居間で仲良くくつろいでいた両親に筒抜けであり、彼らは互いに顔を見合わせてニヤニヤ笑いながら言葉を交わした。
「あなた聞きました? ゼルネリアってば、もうやっちゃってるみたいですよ?」
「まったく頼もしいことだな。孫は三人くらい欲しいところだな」
「……ゼルネリアさん、頑張りましょう」
「私に振るな! そもそも料理作ってる時に卑猥な話をするんじゃない!」
どいつもこいつも! 顔を真っ赤にして包丁を振るうゼルネリアを見て、彼女の両親とクラインは共に愉快そうに笑い声をあげた。
ドラゴンの苦難は、当分続きそうだった。
自宅である城の居間で、翼を畳んでソファに座っていたゼルネリアは、母であるドラゴンからその話を聞いて顔をしかめた。そして一気に機嫌を損ねた娘を見て、彼女とテーブルを挟んでソファに掛けていた彼女の母は、眼鏡の位置を直しつつ言葉を続けた。
「そうよ。明日ここに、人間の少年が来るの。なんでもあの人が、召使として雇ったそうなのよ」
母が「あの人」と呼ぶのは、この世でただ一人だ。ゼルネリアは自分の父であり、自分の母である一匹のドラゴンと結婚した人間でもある一人の男性の姿を脳裏に思い浮かべた。母と同じ眼鏡をかけた、中肉中背の男性だ。ぱっと見は冴えなかったが、この古城の主であった自分の母に力を証明し、堂々と結婚してみせたことから、ゼルネリアにとっては他のどんな男よりも偉大な存在であった。
そんな愛する父の姿を思い出しなら、ゼルネリアが母に問いかけた。
「相変わらずいきなりですね。人間の召使ですか」
「ええ。召使といってもまだ子供らしいから、くれぐれも優しく接してあげてね?」
「人間に優しくしろ、ですか……」
「ええ、そう。ドラゴンのプライドを守るのも大切だけど、他種族を尊重することも学ばないと。もうドラゴンが頂点に君臨する時代は終わったの。これもいい機会だと思って、あなたも他の人間と仲良くしてみなさい」
「……」
母の言葉にゼルネリアは顔をしかめた。人間と結婚して丸くなった母と違って、ゼルネリアはドラゴン属の本能――自らを王者と見なし、人間を見下す高慢な性分――を母から色濃く受け継いでいた。おかげで彼女は今まで人間の友人が出来たことは一度も無く、またゼルネリア自身も、父親以外の人間と慣れ親しむつもりは無いとすら思っていた。
一応彼女は、休日には一人で町に繰り出し、城下にある人魔共学可能な学園にもしっかり通学していた。外の世界と交流を持ってはいた。
ただそこで、人間の友達を作る気が無かっただけである。
「母様。何度も言いますが、私は人間と仲良くする気はありません。そもそも何故、我らドラゴンが人間などと親しくする必要があるのですか? 彼らにそれほどの魅力があるとでも?」
「もちろんそうよ。人間はね、私達ドラゴンには無い魅力を持っているの。それが何かは上手く言えないんだけど、でもそれは、本当に魅力的な物なのよ。自分の価値観が丸ごと変わってしまうくらいにね」
「理解できませんね。する気もありませんが」
母が直々に説明しても、この様である。とにかくゼルネリアは、徹頭徹尾人間と関わろうとしなかった。そして根は善人であるのだが、ただこの一点のみが原因で、ゼルネリアは学園内でも浮いた存在として扱われていた。他の魔物娘からすらも変わった子だとみなされていた。
「ゼルネリア、お願いだからそんなこと言わないで。人間にも良い所がいっぱいあるっていうのは、お父さんを見ればよくわかるじゃない」
「それは……父様が特別素晴らしいだけです。他の人間の男なんて、盛るだけの種馬でしかありません。寝て食べて飲んで騒ぐだけの、野蛮な連中なんです」
「そうやって決めつけないの。そもそも寝たり食べたりするのは私達も同じじゃないの」
「我々はいいのです。王者が飢え死にするなど、あってはならないのですから。ですが人間は違います。奴らは取るに足らぬ卑屈な生物。飢えようが死のうがどうでもいい。死んでも代わりはいくらでもいるのですからね」
「違うわゼルネリア。お父さんの他にも、素晴らしい人はいっぱいいるのよ? それに直に話し合ったりもしないで、どうして人間すべてが野蛮だなんて言えるのかしら?」
「それは簡単です。人間は元々野蛮な生き物だからです。ドラゴンの足元にも及ばない、下等で矮小な存在だからです」
「はあ……」
頑固だった。ゼルネリアの偏見はオリハルコンよりも頑強だった。幼い頃から「強くあれ」と言い聞かせて育てたのがまずかったのだろうか?
そんなゼルネリアを、彼女の両親はいたく心配していた。もしかしたら娘は、世間知らずのまま一生を終えるのではないか。このまま友人も伴侶を見つけられず、一人朽ちてしまうのではないか。
美しく成長し、それと同時にプライドすらも肥大化させていった娘を前にして、父と母は気が気でなからなかったのだ。
「もう、相変わらず強情なんだから……」
「私はドラゴン属として当たり前のことをしているだけです」
「……わかったわ。この件についてはもうとやかく言わない。その代わり、あなたに話しておきたいことがあるの」
「話? それはいったい何でしょうか?」
だから両親は強硬策に出た。娘の人間嫌いを治すための荒療治である。
そして話を聞こうと居住まいを正すゼルネリアを見ながら、母が口を開いて計画の口火を切った。
「明日から私、あの人と一緒に旅行に出かけてくるから。だからその間、この城はあなたに任せるわね」
「はい……は?」
母の言葉を聞いてからしばらくして、聡いゼルネリアはそれが何を意味しているのかを察した。
明日は人間の召使が来る。そして同時に、両親が旅行に出かける。
ということはつまり。
「私が、その人間の世話をするということですか?」
「そういうことになるわね。さすが学年一位。呑み込みが早くて助かるわ」
自らの言わんとすることを当ててみせたゼルネリアに、母が自分の事のように喜んでみせる。
当のゼルネリアは喜ぶどころではなかった。
「母様! 私に人間の面倒を見ろなどと、本気で言っているのですか!」
「もちろん本気よ。あなたならできる。あなたの中にあるヒトを慈しむ心、それを解き放つことが出来れば、あなたもきっと素直に人間と接することが出来るわよ」
「そんなもの、私にあるわけ無いでしょう!」
「いいえ、あるわ。魔物娘は本能的に、人間を愛するように出来ているの。もちろんあなたの中にもね。そしてあなたにそれを自覚してもらうために、明日から人間の子供と一緒に生活してもらうのよ」
「まさか父様と母様は、最初からそれが狙いで……!」
察しの良い娘を見て頼もしそうに笑みをこぼした後、母がゼルネリアに言い放つ。
「物分かりが良くて助かるわ。もちろん彼は召使として正式に雇うことになっているから、そのつもりでね」
「余計なことを……」
ゼルネリアはそう言って前のめりに崩れ、両ひざにそれぞれ肘を置いて顔を両手で覆った。
そんな困り果てる娘に、母親がさりげなく、容赦なく言葉を放つ。
「そういうことだから、明日からよろしくね。大丈夫、あなたなら出来るわよ」
「そんな無責任な……!」
ゼルネリアは絶望を通り越し、怒りすら滲ませた声を出した。
母親はただニコニコ微笑み、期待に胸を膨らませるばかりだった。
「ゼルネリア。他者を受け入れるのも、王者の責務なのよ」
結局、ゼルネリアがその決定を覆すことは出来なかった。両親は当初の予定通りに旅行へ出かけることになり、ゼルネリア一人で新入りの召使を迎える羽目になった。
しかもご丁寧に、その日は休校日であった。ゼルネリアはどこに逃げることも出来ないまま、その召使の人間と正々堂々相対する羽目になったのである。
「まったく、なぜ私が人間如きに気をやらねばならんのだ」
そして次の日、ゼルネリアは城の正門前で仁王立ちしながら、今日来ることになっていた人間の召使を待ち構えていた。その表情は不満に満ちており、眉間に深く刻まれた皺は一向に消える気配がなかった。
「誇り高いドラゴンともあろう私が、人間の歓待をしろだと? しかも子供の? 馬鹿馬鹿しいにも程がある」
ゼルネリアは苛立たしげに愚痴をこぼし、待つのも阿呆らしいと言わんばかりに爪先で地面を何度も叩く。事ここに至って、彼女は本気で人間と関わるのを嫌がっていた。事前に母から「あなたなら出来るわ」と言われていたが、彼女はその言葉を全く信じていなかった。今こうして城前で相手を待っているのも、ただ単にあの後帰って来た父から「相手が誰であろうと、客人には礼を尽くせ」と言われたから、それに従っているまでである。
「私は誰にもなびくつもりは無い。誇り高きドラゴンの血にかけて、絶対に人間には媚びんぞ」
露骨な嫌悪を露わにしながらゼルネリアが決意表明する。その時、彼女の前に一台の馬車が立ち止まった。
馬車の扉が開き、中からバッグを背負った一人の人間が外に降り立った。ゼルネリアの腹ほどの背丈しかない、小柄で華奢な少年だった。癖のない金髪を備え、新品同様な子供用スーツに「着られて」いた。
そして少年を降ろした後、馬車はそそくさとその場を去っていった。後にはゼルネリアと件の少年だけが残された。少年は竦んだようにその場から動かず、ゼルネリアはそれを見て不愉快そうに鼻を鳴らした。
「つまらん」
「……ッ」
少年が身を縮こませる。ゼルネリアはそれを見てさらに機嫌を損ねていく。
こいつが両親の言っていた召使か。ゼルネリアはそう思いつつ、厳めしい顔のまま少年の元へ歩み寄る。少年を威圧するように、わざとらしく大股で歩きながら近づいていく。
案の定少年はゼルネリアの姿に気付き、力なく俯いたまま体を震わせていた。彼はその足音にさえも恐怖していた。背骨は曲がり、表情は前髪に隠れて見えず、その姿は明らかに怯えていた。
ほら見ろ。やはり人間というのは軟弱で愚かな存在だ。
「お前が今日から、我が城で働くという召使か?」
そんな少年の前で胸を反らし、己の存在を誇示するようにゼルネリアが言い放つ。召使の少年は震えたまま小さく頷き、そしてそれを見たゼルネリアはわざとらしく鼻を鳴らした。
軟弱者め。真紅のドラゴンは言外にそう言った。少年もそれに勘付いたのか、びくりとより強く肩を震わせた。
「お前は今日から、ドラゴンの住まう城で働くのだ。そうであるからには、お前もそれ相応の気品を持たねばならぬ。背筋を伸ばして顔を上げよ。怯える召使など必要ないわ」
腰に手を当て、見下ろすようにゼルネリアが告げる。そう言われた召使は体の震えを止め、そして言われた通りに背筋を伸ばす。次に顔を上げ、その表情をゼルネリアに見せる。
「さて、まずはお前の顔を見せてもらおうか」
お前の、その貧弱な顔をな。
ゼルネリアは暗い笑みを湛えながら少年の顎に指を当て、力任せにその顔を自分の方に向けさせた。
少年の顔がゼルネリアの視界に入る。
二人の視線が交錯する。
「……!」
その瞬間、ゼルネリアは胸に激しい痛みを覚えた。痛みのあまり声も出せず、ただ息をのんだまま目をかっと見開いた。
心臓を雷の槍で貫かれたような激痛が全身を駆け抜ける。心臓が早鐘のように激しく拍動し、体が麻痺したかのように動かなくなる。
脳味噌が揺さぶられる。頭の中が真っ白になる。それまで頭に詰まっていた怒りや苛立ちが全て消え去り、代わりにたった今見たばかりの召使の幼げな顔が、その空いた領域を埋め尽くしていく。
綺麗に整えられた金色の髪。くりくりとした大きな瞳。形の整った細い眉。鼻筋の通った低い鼻。僅かに赤みがかった両の頬。小さく艶やかな桜色の唇。
「か……ッ」
その顔を思い浮かべるたびに、胸がじわじわ熱くなる。頑なだった氷の心が溶けていき、全身が炎のように燃え盛っていく。
体を覆う熱が一つの感情となって胸の奥から込み上げていく。それは一つの言葉となって、ゼルネリアは本能のままにそれを口から吐き出した。
「かわいい……!」
「えっ?」
突然投げかけられた言葉に、少年の召使は困惑した。そして戸惑いながら改めて前を見ると、そこにいたドラゴンがじっとこちらを見つめていた。
その表情にそれまでの敵意は無かった。代わりにそのドラゴンは両手を胸の前で組み、両目を輝かせ、恍惚とした表情でこちらを見つめてきていた。その姿はまさに宝物を見つけた子供のように無邪気なものであり、怒りや憎しみとは無縁のものだった。
「これが、これが……愛、というものなのか……」
「あ、え、ええ?」
「胸が熱い。心が洗われていく……母様、あなたは間違っていなかった……!」
ゼルネリアが涙を流し、陶酔した口調で告白する。明らかに様子がおかしかった。それまで竜の怒りに曝されていた召使は、その感情の反転ぶりにただ呆然とするばかりだった。
「あ、あのっ、お前っ」
そんな召使の手をゼルネリアが掴む。そして突然のことに驚く召使に対し、涙を止め期待に満ちた表情を湛えたゼルネリアが、彼に顔を近づけながら尋ねた。
「お前、名はなんと言うのだ?」
「えっ、あの」
「お前の名前だ。仕事を任せる時に、いちいち召使と呼ぶのも味気ないであろう? 頼むから教えてくれ」
それまでとはまるで毛色の違う、母のように穏やかな声。それを聞いた召使はまだ幾分か困惑しつつも、それでも正直にそのドラゴンに答えた。
「く、クライン……です」
「クライン……そうか、クラインか。うむ、いい名前だな」
ゼルネリアは満面の笑みでそう言ってのけた。召使、クラインはまだ状況の変化についていけずにいた。
そうして戸惑うクラインの手を離し、ゼルネリアは自分から一歩引き下がった。そしてその場で仁王立ちの姿勢を取り、おずおずとこちらを見つめるクラインに向かって声高に告げた。
「ではクラインよ。お前、私の物になれ」
「……は?」
クラインが鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見せる。要領を得ない態度を見せるクラインを前に、ゼルネリアは顔を真っ赤にし、感情のままに声を放った。
「わ、私とつがいになれと言っているのだ。つがいだ!」
「つがいって……」
「け、結婚っ、してくれということだ! にぶい奴め!」
「……は?」
要するに、一目惚れだった。
一週間後、ゼルネリアの両親は旅行を終え、自宅である城へともどってきた。そして彼らは城に着くと、真っ先にゼルネリアと召使の様子を確認しに向かった。
我が娘が下手を打つとは考えられないが、それでも万が一ということもある。彼らは逸る気持ちを抑えつつ、城内に入って普段リビングとして使っている広間に急いだ。
「クラインよ、人参はこのくらいの大きさで切ればよいのか?」
「はい。ある程度バラバラでも構いませんけど、それくらいの大きさでまとめてくれるとありがたいです」
「わかった。ではその通りにしよう」
そこには予想通り、ゼルネリアと召使であるクラインの姿があった。そして彼らはこの広間の一部を改築して追加されていたキッチンの中で仲良く並び、二人して調理を行っていた。
「ゼルネリアさん、そこのホワイトソースを取ってください」
「わかった――これか?」
「そうです、それです。ありがとうございます」
「気にするな。さあ、調理を続けよう」
「……本当にありがとうございます。本当ならこれは僕の仕事だから、あなたは休んでくださってても構わないのに……」
「お前だけを働かせて自分は何もしないというのは、私の心情に反する行為だ。さ、二人で片づけてしまうぞ」
時刻は午後六時。確かに夕食の準備を進めてもおかしくない時間である。しかしそれを抜きにしても、ゼルネリアの両親は目の前の光景に愕然とした。
「これは……」
「どういうことなのかしら」
あのゼルネリアが、人間と仲良くしている。まさか、初日で打ち解けたというのか?
ほぼ理想通りの結果であったとはいえ、あまりに早すぎる展開である。ハッキリ言って、これは予想外であった。今回の黒幕である両親がそう考えて驚き唖然としていると、その内ゼルネリアが彼らの存在に気付いて声をかけた。
「おお、父様に母様。もうお帰りになられたのですか。今私とクラインで夕食の準備をしておりますので、そこで休んでいてください」
「申し訳ありません。もうすぐ完成しますので、もう少々お待ちください」
それに続いて、クラインも明るい調子で声を放つ。それから二人は顔を見合わせ、互いに真剣な表情を見せあいながら声をかけあう。
「よし。ではクライン、ラストスパートをかけるぞ。遅れるなよ!」
「はい!」
ゼルネリアが発破をかけ、クラインがそれに元気よく反応する。そして二人してまた調理作業に戻り、手慣れた連係プレーでテキパキと料理を作っていく。
その光景はまさに姉弟そのものであった。そして自然にそのような動きを取ってみせる二人を見て、両親はこの両者の間に何があったのかをすぐに察した。
「どうやら、本当に打ち解けられたみたいだな」
「そのようですね」
父の言葉に母が頷く。そして母ドラゴンはゼルネリア達の方を見ながら、意地の悪い笑みを浮かべて彼女達に言った。
「結婚式には、ちゃんと私達も呼んでね?」
「なッ――」
二人が明らかに動揺する。ゼルネリアは突然の注文に息が詰まって激しく咳をし、クラインは言葉の意味を理解するや否や体を石のように硬直させた。
どちらも非常にわかりやすい反応であった。そんな若人の初々しい反応を見た両親は、共にクスクス笑いあった。
「関係は良好のようだな」
「みたいですね。私も安心しました」
「……もうヤっちゃったのかな?」
「どうでしょう? 私はまだ、初夜は迎えてないと思いますが」
「根拠は?」
「ゼルネリアはそこまで積極的な子ではありませんから」
「それもどうかな? 若さに任せて、一気に……なんてことも考えられないか?」
「一理ありますね」
「お二人とも! 猥談がしたいのなら遠くでやってください!」
そして娘の処女喪失に関して議論を始めた両親に、集中を乱されたゼルネリアが顔を真っ赤にして釘を差す。忠告を受けた二人は「ごめんなさい」と愉快そうに笑って口を閉ざし、それを見たゼルネリアは「まったく」と目を閉じて静かに憤慨した。
「娘がしたかしないかで盛り上がるとは、どういうことだ。しかもそれをクラインの前で。さすがにフォローしようがないぞ」
「そんなに気にすることでしょうか? もう僕とゼルネリアさん、結構な回数エッチを」
「言うな! 言わんでいい!」
口を滑らせかけたクラインを、ゼルネリアが大声で制す。しかし彼の言葉は居間で仲良くくつろいでいた両親に筒抜けであり、彼らは互いに顔を見合わせてニヤニヤ笑いながら言葉を交わした。
「あなた聞きました? ゼルネリアってば、もうやっちゃってるみたいですよ?」
「まったく頼もしいことだな。孫は三人くらい欲しいところだな」
「……ゼルネリアさん、頑張りましょう」
「私に振るな! そもそも料理作ってる時に卑猥な話をするんじゃない!」
どいつもこいつも! 顔を真っ赤にして包丁を振るうゼルネリアを見て、彼女の両親とクラインは共に愉快そうに笑い声をあげた。
ドラゴンの苦難は、当分続きそうだった。
16/10/08 19:50更新 / 黒尻尾