出会いの章
―25年前―
私の名前はクレア・ファントムと申します…
暗殺組織ファントムの当主の娘として生まれましたが病弱でして…あ、いえ跡取りは兄上様がいますのでよいのですが…
あ、失礼しました ファントムは先ほど申し上げた通り暗殺や諜報を生業としておりまして
いわゆる裏組織ながら表向きは名家として暮らせる程度には裕福な生活を送っております
そしてこの度、ファントム家を自分のお抱えにしたい、とおっしゃる貴族様がいらしております
確か…アルメリア家とお聞きしました…
先ほどは裕福と言いましたが、なにぶん不安定な裏組織ですゆえ、パトロンとなって頂けるのは都合がいい、と父上様も言っておられました
ところで貴方様のお名前は…?
え?ジョージ様…?ジョージ・アルメリア様…?
こ…これは失礼いたしました…っ!
想像していたよりも若く、私と同じほどでしたのでつい、勘違いを…
え?自分は息子の方…?当主は父…ですか…
わっ、笑わないでくださいませ…ッ
確かに知らなかった私の落ち度ですが…
え?知ることもまた力…ですか?
もっと勉強しろ…!?
もうっ、ジョージ様はイジワルですっ!
あ……もうお帰りになるのですね…
はい、お待ちしております…
・・・・・・・・・・・・・・・
〜3ヶ月後〜
ジョージSide
一目惚れをした
名はクレア
父がアルメリア家の家臣とするために向かった裏家業の者の家に彼女は居た
儚そうな、それでいて芯の強そうな、賢そうな、それでいてどこか抜けているような
いや、凡百の言葉では彼女を褒められるとは思わない、俺自身取るに足らない言葉で彼女を褒めたくない
とにかく、俺は彼女を妻とする
身分? 知るか
汚れた仕事? 馬鹿か綺麗な仕事などない
他貴族との政略結婚? 周辺貴族など知略でねじ伏せる準備は出来ている
幸い彼女の父も、俺の父も特に反対はしていない
後は結婚を申し込むだけ…と言いたいが…
まだ駄目だ…クレアとの仲をもっと深めてからでないと…
だから俺は今日も足繁く彼女の元へと向かう
彼女に勉強を教えると言う名目で、今日も少し難しい本を持ち、少しでも長く彼女の顔を見る為に…
・・・・・・・・・・・・
〜20年前〜
クレアSide
今日…私はファントムの名前を失います
ジョージ様と結ばれ、アルメリアの名を頂くのです
不満などありません…ただ恐れているのは…私の病弱な体…ジョージ様との御子を産めるのか…それだけが気がかりなのです…
いえ、もう私は恐れるのをやめます、ジョージ様の為、アルメリア家の為、ファントム家の為
子を産めないのならば、せめて良き妻に、そして強き腹心になってみせます…!
・・・・・・・・・・・・
〜17年前〜
ジョージSide
妻から以前のような儚い美しさが消えた
その代わり清く逞しい美しさを手に入れていた
貴族の妻として、諜報組織の長の家系として、したたかな副官として
実に強くなってくれた…
あれほどまでに絶望視していた子供も気が付けばすんなりと生まれた
名はメナスと名付けた
魔物にかどわかされぬように敢えて悪い意味を
そして他国にとってのソレとなるように「脅威」の名を贈ったのだ
だが…子供が生まれてから、妻がせき込む事が多くなってきた気がする…
悪いことにならなければいいが…
・・・・・・・・・・・・
〜10年前〜
メナスは7歳になった
だが妻は一度もメナスを抱き上げた事がない
あれからすぐに妻は床に臥せた…
昔の病弱が今頃になって再発してしまったのだ…
方々に使いを出して薬や医者を探し求めた
しかし見つかったのは妻には効かない良薬に、どうにもならんですねとしか言わない医者の群れ、魔物の国の怪しい薬草ばかりだった
・・・・・・・・・・・・
〜7年前〜
妻は…クレアはあっけなく死んでしまった
残されたのは泣きじゃくるメナスと、涙を隠しながら慰めの言葉をかけてくれる義兄と、立っているだけの私だった
呆然としている事しかできない
棺に納められたクレアが墓に入る時
「何故私の妻を埋めるんだ…?」と聞いた私を周囲の人間が泣きながら見つめてくるのがやけに苛立った
ただ、実感がわかなかったのだ、家に帰ればいつものベッドにクレアがいるような、おかえりと話してくれるような気がしていた
誰も居ないベッドとクレアが読みかけていた本を見た時、初めて涙がこぼれた
・・・・・・・・・・・・
〜現在〜
…息子はとんでもないバカ息子に育ってしまった…
厳しくも優しく育てたつもりだったが、なぜこうなってしまったのか…
やはり母にろくに接する事も出来ず、幼い時に母を亡くした事でこんなに女好きになったのだろうか…
奇特なことに息子に仕えたいという2人の女性と思わしきマッチョがワシを訪ねてきた
願ってもない事だ、ビシバシと息子を律してほしいと伝え、即刻雇い入れた
衛兵のハルトマンは良く話す内の1人だ
公爵などという立場に恐縮せず衛兵達の生の情報が聞けるのは実に有意義な時間だと思う
そんな時だった
この国が魔物の侵攻に晒されたのは
これが、この国の、そしてジョージ・アルメリアの運命の日となった
私の名前はクレア・ファントムと申します…
暗殺組織ファントムの当主の娘として生まれましたが病弱でして…あ、いえ跡取りは兄上様がいますのでよいのですが…
あ、失礼しました ファントムは先ほど申し上げた通り暗殺や諜報を生業としておりまして
いわゆる裏組織ながら表向きは名家として暮らせる程度には裕福な生活を送っております
そしてこの度、ファントム家を自分のお抱えにしたい、とおっしゃる貴族様がいらしております
確か…アルメリア家とお聞きしました…
先ほどは裕福と言いましたが、なにぶん不安定な裏組織ですゆえ、パトロンとなって頂けるのは都合がいい、と父上様も言っておられました
ところで貴方様のお名前は…?
え?ジョージ様…?ジョージ・アルメリア様…?
こ…これは失礼いたしました…っ!
想像していたよりも若く、私と同じほどでしたのでつい、勘違いを…
え?自分は息子の方…?当主は父…ですか…
わっ、笑わないでくださいませ…ッ
確かに知らなかった私の落ち度ですが…
え?知ることもまた力…ですか?
もっと勉強しろ…!?
もうっ、ジョージ様はイジワルですっ!
あ……もうお帰りになるのですね…
はい、お待ちしております…
・・・・・・・・・・・・・・・
〜3ヶ月後〜
ジョージSide
一目惚れをした
名はクレア
父がアルメリア家の家臣とするために向かった裏家業の者の家に彼女は居た
儚そうな、それでいて芯の強そうな、賢そうな、それでいてどこか抜けているような
いや、凡百の言葉では彼女を褒められるとは思わない、俺自身取るに足らない言葉で彼女を褒めたくない
とにかく、俺は彼女を妻とする
身分? 知るか
汚れた仕事? 馬鹿か綺麗な仕事などない
他貴族との政略結婚? 周辺貴族など知略でねじ伏せる準備は出来ている
幸い彼女の父も、俺の父も特に反対はしていない
後は結婚を申し込むだけ…と言いたいが…
まだ駄目だ…クレアとの仲をもっと深めてからでないと…
だから俺は今日も足繁く彼女の元へと向かう
彼女に勉強を教えると言う名目で、今日も少し難しい本を持ち、少しでも長く彼女の顔を見る為に…
・・・・・・・・・・・・
〜20年前〜
クレアSide
今日…私はファントムの名前を失います
ジョージ様と結ばれ、アルメリアの名を頂くのです
不満などありません…ただ恐れているのは…私の病弱な体…ジョージ様との御子を産めるのか…それだけが気がかりなのです…
いえ、もう私は恐れるのをやめます、ジョージ様の為、アルメリア家の為、ファントム家の為
子を産めないのならば、せめて良き妻に、そして強き腹心になってみせます…!
・・・・・・・・・・・・
〜17年前〜
ジョージSide
妻から以前のような儚い美しさが消えた
その代わり清く逞しい美しさを手に入れていた
貴族の妻として、諜報組織の長の家系として、したたかな副官として
実に強くなってくれた…
あれほどまでに絶望視していた子供も気が付けばすんなりと生まれた
名はメナスと名付けた
魔物にかどわかされぬように敢えて悪い意味を
そして他国にとってのソレとなるように「脅威」の名を贈ったのだ
だが…子供が生まれてから、妻がせき込む事が多くなってきた気がする…
悪いことにならなければいいが…
・・・・・・・・・・・・
〜10年前〜
メナスは7歳になった
だが妻は一度もメナスを抱き上げた事がない
あれからすぐに妻は床に臥せた…
昔の病弱が今頃になって再発してしまったのだ…
方々に使いを出して薬や医者を探し求めた
しかし見つかったのは妻には効かない良薬に、どうにもならんですねとしか言わない医者の群れ、魔物の国の怪しい薬草ばかりだった
・・・・・・・・・・・・
〜7年前〜
妻は…クレアはあっけなく死んでしまった
残されたのは泣きじゃくるメナスと、涙を隠しながら慰めの言葉をかけてくれる義兄と、立っているだけの私だった
呆然としている事しかできない
棺に納められたクレアが墓に入る時
「何故私の妻を埋めるんだ…?」と聞いた私を周囲の人間が泣きながら見つめてくるのがやけに苛立った
ただ、実感がわかなかったのだ、家に帰ればいつものベッドにクレアがいるような、おかえりと話してくれるような気がしていた
誰も居ないベッドとクレアが読みかけていた本を見た時、初めて涙がこぼれた
・・・・・・・・・・・・
〜現在〜
…息子はとんでもないバカ息子に育ってしまった…
厳しくも優しく育てたつもりだったが、なぜこうなってしまったのか…
やはり母にろくに接する事も出来ず、幼い時に母を亡くした事でこんなに女好きになったのだろうか…
奇特なことに息子に仕えたいという2人の女性と思わしきマッチョがワシを訪ねてきた
願ってもない事だ、ビシバシと息子を律してほしいと伝え、即刻雇い入れた
衛兵のハルトマンは良く話す内の1人だ
公爵などという立場に恐縮せず衛兵達の生の情報が聞けるのは実に有意義な時間だと思う
そんな時だった
この国が魔物の侵攻に晒されたのは
これが、この国の、そしてジョージ・アルメリアの運命の日となった
18/07/29 00:33更新 / トアル・ドコカ
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