連載小説
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前編
「おおっ! 勇者さまが降臨なされた! 神が魔物に狙われておる我らの王国を守らんと、使者を遣わせてくださったのだ!」

 聞き覚えのねぇしわがれ声が耳でさざめく。俺は茶をしばいてたはずなんだがな。なんだって昔の西洋貴族みてぇな格好の奴らに囲まれてんだが。

「ちょいと失礼。言葉が通じてれば事情を教えて欲しいんですが」
「おお、失礼いたしました勇者さま。それでは……」

 髭の生えた爺さんの一人が部下らしき男に目配せして、このわけわからん状況の説明をされる。そっちは適当に相槌を打つとして、気になったのは奥の豪華な椅子に座った娘っ子だ。
 明らかに一番のお偉いさんだろうに、髭の爺さんは一瞥もくれねぇ。若いから任せてるとしたってよそもんの目の前でやんのはマズいだろうに。

「事情は分かった。……悪党の切る刀が欲しくて異世界召喚って話か。困ってるのを見過ごすなんて性に合わんし。この河上冬騎、喜んで力を貸しましょうや」

 まあ今んところは大人しくしとくとするか。爺さんたちに都合よく脚色されてんとはいえ、この国が魔物とやらに襲われてんのは嘘じゃねぇだろうしな。

「よくぞ答えましたフユキ。あなたはまさにまことの勇者」
「お……おお……天使さまだ! 天使さまも降臨なされた」
「やったぞ! やはり我々は正しいのだ。主神さまが我々の正しさを認めてくださったのだ!」

 勇者に魔物、お次は天使ときたかい。次から次へと、頭を落ち着かせる時間が欲しいもんだ。

「初めまして勇者。私はあなたを支えるように主神から使わされたヴァルキリーです。……勇者? どうしたのですか?」
「ん、ああ、どうにも考えることが多すぎるってのは言い訳か。ちょいと見とれちまってね」
「むぅ。初対面の相手に凝視など、あまり好ましいといえませんね。しかし、素直なのはよろしいことです」
「そいつはどうも。次からは気をつけねぇとな」

 切り揃えられた金ぴかの長髪にキリリとした目付き。いかにも堅物そうな見た目だが、中身も見た目どおりたぁ恐れ入った。
 しかしまあこの別嬪に見とれんなってのも無理だと思うがねぇ。
 髪の毛は最高級の絹ってくらい細やかで、鎧越しでもはっきりわかる肉付きの良い引き締まった身体。
 なによりも目だ。どこまでも真っすぐで、正しさを信じ切ってる青い目が俺を引き付けちまう。
 ジロジロ見んなって言われたばっかってのにこいつはいけねぇ。ちょいと現実に戻んなきゃな。

「できれば落ちつける場所が欲しいんだが。なんなら馬小屋でも構わねぇ」
「いえいえ! 勇者さまにそのような無作法などできません。今すぐお部屋へご案内いたします」
「悪ぃな」

 天使さまに隠れてコソコソしてる爺さん共に声をかけりゃ、慌てて部屋へのご案内。
 畳はねぇし靴は履いたまま。だいぶ慣れねぇが、これ以上のワガママは贅沢だろ。それよりも気になんのは──

「なんだって天使さんも同じ部屋にいんだ」
「私は勇者を導くために遣わされえました。いつ何時でも傍にいるのは当たり前です」
「俺のいたとこじゃ、男女七つにして席同じゅうせずって言葉があんだが……」
「素晴らしい言葉ですね。男女の関係とは清くなければなりません」

 駄目だこりゃ。自分は女と数えてねぇのか。それとも天使は人間なんぞに欲情しねぇってことかね。だったらこうも目の毒してほしくねぇもんだが。

「ったく、浜の真砂もなんとやら。随分と骨を砕く仕事らしいな、勇者ってやつは」

 まずは臭い所を探すとこからやんなきゃなんねぇな。



──────



 地元じゃまず見れない街並み。石造りの家に妙な食いもん。旅で来れてりゃさぞ心踊ったろうな。生憎いまは仕事なんだが。

「あの……勇者? これは一体?」
「勇者らしくってのを俺なりにやってんだが、どっかおかしいかい?」
「いえ、まさしく勇者に相応しい行為です。ですが……」
「おーい兄ちゃん! そっちの石を運んでくれー!」
「あいよーすぐ行く!」

 四角い石を頼まれた場所に置いて、おっさんが接着剤みてぇなもんを塗る。んでまたその上に石を乗せる。
 単調だがなかなかしんどい作業を、お天道さまが真上に来ちまうまで続けてんだがたいして疲れはない。これが勇者の加護ってやつかね。

「仕事手伝ってくれて助かったよ兄ちゃんたち。そろそろ昼飯だ、あんたらも食っていてくれ」
「おっとそいつはありがてぇ。遠慮なく頂かせてもらうよ」
「ありがとうございます」

 天使さまが深々と頭を下げる。俺のやることに汚いだ低俗だ言われやしないかちょいとばかし冷や冷やもんだったが、不思議がりつつも手伝ってくれた。
 神さまの使いつっても、気位が馬鹿たけぇわけじゃないのはなによりだ。

「ほーこれがこの国のメシか。干し肉の塩っけと野菜のみずみずしさが固いパンにあってて旨いな!」
「ははは、そうかそうか! けどまだまだこんなもんじゃないぞ。俺の嫁が作るサンドイッチはこの国一だからな!」
「あんた商売上手だな。本気のサンドイッチが楽しみで、明日も手伝いに来たくなっちまう」
「あー……悪いな兄ちゃん。ここ最近は金も物も足りなくてな」

 おっとこいつは、早速アタリってやつか。

「魔物を倒すためってな。税やらなんやらがどんどんきつくなってきやがる」
「なるほど、そいつはどうにも……責任重大だな」

 勇者が上手く事態を収められなきゃ苦しい生活が続くってわけだ。

「この国じゃどこも節約生活ってか。そんなのに昼飯ご馳走になっちまって良かったのか?」
「おいおい、俺がそんなケチに見えるか? ただ働きさせるなんて商人のプライドが許さねぇよ。まっ、確かに兄ちゃんの言うとおり最近はどこも財布のひもが固くなっちまってるがな」

 さてと、町で聞きたいことはとりあえず聞けた。時間もちょうどいいとくりゃ、次に行くとしますかね。
 っとその前に、サンドイッチ食い終わって空いた両手を合わせねぇと。

「ご馳走様。この後は訓練の予定があんで、お暇させてもらうわ」
「おう、じゃあな兵士の兄ちゃん。頑張れよー」

 手をひらひらさせておっさんに答える。はじめ思った通り、魔物倒してはいおしまいたぁいかなそうだ。こりゃマジで頑張んねぇといけねぇな、どーにも裏っかわが生臭せぇ。
 天使さんは大丈夫かねぇ、どろどろした策謀なんかは苦手そうだが。

「そーいや天使さん。さっきから静かだがどした……」

 思わず固まっちまった。天使さんときたら、パンに噛みついたまま凍り付いてやがる。
 まさか天使にとって食っちゃいけねぇもんだったのか。んなこと考えてる場合じゃねぇ!

「おい! どうした!? やばいなら吐き出せよ!」
「ハッ!? も、申し訳ありません。このようなもの初めて食べて……美味しい」

 やべぇ、真っすぐ見れねぇ。真珠みてぇな肌にほんのりと朱をさして、ただでさえ別嬪な天使さんが色っぽい。
 初対面で叱られたばかりってのに、こいつはいけねぇ。

「もぎゅもぎゅ。こふっ、ご馳走様でした。待たせましたね、訓練所に急ぎますよ」
「急かしちまって悪かったな。いろいろ片づけたんなら、美食巡りなんてのもしてみっか」
「んんっ! 未来の話は全てが終わってからです!」

 あからさまに慌てた様子、きっとまた見とれちまうような顔なんだろうな。天使さんの前を歩いているのが勿体ねぇ。
 頭の隅っこにんな考えを引きずったまま、城ン中にある兵士の訓練場で俺たちは剣を構える。

「参りますよフユキ!」

 そういって馬鹿でかい金色の剣をぶん回す天使さんから、俺は大きく避ける。
 一応武術をやってたのもあってわりと躱せてんだが、むしろそれが違和感だ。こっちに来るまえの俺と比べて、どうにも目が動きすぎる。
 天使さんの剣は風を巻き起こす力と速さがあるってのに、俺にはそれがはっきりと見えちまう。

「どうにも変な気分だね。いきなり強くなってるってのも!」
「それが勇者の加護ですよフユキ。魔物は卑劣にして狡猾。奴らと戦うためには、高潔な勇気と強靭な肉体が必要なのです!」
「そいつはまた、骨のありそうな相手だなッと」

 下からの突き上げに、俺の剣を合わせて上から抑え込んでそのまま踏み込む。近寄ってく身体の動きに従って、天使さんの剣を上って俺の剣が天使さんの首に突き付けられた。

「フユキ、お見事です。どうしました?」

 借りた剣を振ってる俺が不思議だったのか、そばに寄ってきた天使さんときたら手を重ねてきやがる。
 あんまりにも無防備で、勘弁してくれ。天使さんは構わねぇのかもしんないが、こっちは健全な男子やらせてもらってんだ。誰か助けてくれねぇかな。

「いや、やっぱ目もそうだが剣振ってっと違和感あんだよ。元々いた場所で使ってたのと形が違うもんで、どうも勝手が違うってか」
「ふむ、握りに問題はないようですが?」
「あーだから……ちょっといいかい騎士団長さん。よけりゃ武器庫を見せて欲しいんですが」
「かしこまりました。勇者さまにはできる限り協力するよう……王女さまの名前で仰せつかってますから」

 なんとも含みのある言い方してんな。王女さまってのは俺が呼ばれた時に奥にいたお人かね。王座に座ってのに、女王じゃなくて王女。なるほどね。

「それと、武器庫は手狭なので、あまりくっつき過ぎると危ないですよ」

 つっても悪い人じゃなさそうだ。笑いをかみ殺しながら俺の助けに応じてくれたんだからな。

 俺たちが訓練してたすぐ傍にある武器庫には、そこそこに武器が置いてあった。手入れこそしっかりしてあるんだが、パッと見てもかなり使い古されてやがる。
 言っちゃ悪いが中古品。そんな例えしか思いつかねぇ。

「とても歴史が深そうな武具の数々ですね、ここならばフユキが求める武器もあるでしょう」

 天使さんはなにを根拠にこんな自信満々なんだろうな。もしかしなくても割とボケてねぇかな天使さんは。

「お恥ずかしい。実は軍備になかなか予算が回らず」
「ん? 町じゃ魔物退治に税がどうたらとか聞いたんだけどな」
「我々は軍人ですからその辺りの事情はどうも。……ただ貴族の間で資金のやり取りが妙に多いとは聞いてますね」
「ほほう、そいつはどうも……重要ですなぁ」
「兵站を重視しているのでしょう。私はヴァルキリーとして軍略についても学んでいます。後方の戦いにも理解があるのです」

 自信満々な天使さんにゃ悪いが、んな単純な話とは思えねぇ。確かに食いもんも大事だろうが、兵士の表道具をケチっちゃ本末転倒だろう。
 はじめっから怪しいたぁ思ってたが、たった一ん日で膨らみ過ぎだろが臭いもんが。
 こりゃさっさと白黒暴いた方がいいかもしんねぇ。荒っぽいがやり方は頭ん片隅にあるっちゃぁある。

「それで勇者さま、お探しの武器はございましたか?」
「どーにもなさそうだな。無理言ってすいませんね騎士団長さん。ありものに慣れていくとしましょうか。いまの剣も手入れがよくて命預けるにゃ十分すぎる一品だ」

 腹黒い考えもそこそこに、武器探しを切り上げて団長さんに礼をしとく。
 白黒つける一手。こいつを通すためにも、天使さんを説き伏せるのに頭をひねんなきゃいけねぇかもしんねぇからな。



──────



 湯で火照った身体を夜風で冷ます。頭が冴えていく気がしていい気分だ。今日みたいに頭をこね回す日にはこれに限る。
 おかげで頭ん中じゃ、今日集めたきな臭いあれやこれがかき混ぜられて一つになってく。

「魔物とやらと戦うだなんだつって、贅沢な貴族遊びってか」

 確かにこの国は危ねぇんだろうさ。一番のお上はお飾りで、貴族どもが権力欲しさに屋台骨をむしりあってやがる。まだ推測をでてねぇが、当たってたとしたらまったくもって気に入らねぇ。
 正義ってもんがお月さまみたいにコロコロ変わるもんだってのは知ってるが、民草を守る気のねぇお上ってのがハラワタが煮えくりかえる。

「っと、いけねぇ。ここで頭に血を巡らせちゃ、親父とお袋に殴られちまう。まずは魔物ってのが攻めてくるってのがほんとか裏取らなきゃな」

 税を集めるのは魔物が来るから。そいつが嘘なら俺の推理は大当たり、じゃなくても録でもないもんに決まってらぁ。
知ってそうなのはお姫さまだが、まず見張りがいるだろうし会いに行くのはマズい。とくりゃ残りのもう一方。

「ここにいましたかフユキ」
「ん? ああ、天使さんか……って、うぉい!」

 後ろから声をかけられて振り向いたが、視界に飛び込んできた絶景におもいっきしのけぞる。

「おいなんだよその恰好は!? 冗談にしちゃちょいと度が過ぎてんぜ!」

 なんせ布切れ一枚もない素っ裸。色仕掛けに対する特訓か。だったら俺ぁこの隙にずんばらりと切られてんだろうなぁちくしょう。

「? 冗談とはなんの話ですか? それよりも湯冷めしてしまいますよ。早く部屋に戻りましょう」
「……羞恥心どーなってんだ天使ってのは」

 天を仰いで愚痴るしかねぇ。昼飯のアレは恥ずかしがってたってのに、全裸は平気なのかよ。
 ほんの一瞬だけ見えた、月明かりが役者不足になるくれぇの白い肌。そいつのせいで悪だくみしてた頭が悶々としたもんが溜まっちまってやがる。
 やべぇな、こいつはやばい。ちょいと一ヌキいきたいが、いまの俺は天使さんと同室だ。

「先ほどからブツブツとどうしたのですフユキ? もしや疲れがたまっているのですか。でしたらちょうど良かった」
「まあ溜まってるっちゃ溜まってるんだが……ベッドに座らせてなにする気なんだ」
「先ほど神から啓示があったのです。勇者として人々の助けになるあなたに、安らぎを与えなさいと」
「ははは、なるほどな。添い寝でもしてくれるってのか」
「似たようなものだと思いますよ。よいしょっ……」
「待て待て待て! なんだってズボンを脱がそうとすんだ!? 俺は寝るときは寝巻を使うんだよッ!」

 当然みてぇに脱がすもんで反応が遅れちまった。一体なに考えてやがるんだこの天使さんは!? よりによってさっき裸を見ちまったせいで、すっかり硬くなっちまってるのに!

「ふむ……これを私の胸で包めと。よくわかりませんが、フユキのためになるならば力を惜しみません。至らない時は遠慮なく言ってくださいね」
「そもそもするなよ!」
「それはいけません。神のご意志に背くのはいけないことです」
「融通きかねぇなおい!」

 こりゃ説得よりも逃げたほうが良かったかもしんねぇ。つっても深く座らされたせいで足が床から離れて逃げらんねぇし、天使さんの羽が背中にまわって引くのも無理。
 こりゃ積みだ。据え膳食わぬは男の恥って言葉があるが、俺の方が据え膳にされちまった。無自覚ってのはおっかないねまったく。

「さっ、観念して私で癒されてください」
「言葉遣いおかしくねぇかな……ぅ、っと……」

 股のもんが柔らかい感触に包まれて、ぎりぎり声を抑えられたが腰が浮いちまう。
 綿なのかゼリーなのか、例えが思いつかねえ感触。ともかく柔らかくて気持ちが良い。熱くなってるはずの股間がじんわりと温かくされて、腰がふぬけになっちまった。

「ん……男性器というのはこんなにも熱いのですね。それともフユキのものが特別なんでしょうか。こうして、上下に動かすと、私の胸と擦れて熱が伝わってきます。ふふっ、不思議と心地よいですね。奉仕しているはずですのに、私も心が浮き上がる気持ちですよ」

 なんだって男のツボをこうもくすぐってくるんだか、パイズリで感じてるのを丁寧に教えてくるのも、イタズラっぽい上目遣いもどうしようもなく優越感ってのが沸いてくる。
 俺も男だ、こんな美人に奉仕されて舞い上がらないわけねぇだろ。
 頭も腹もムラムラグツグツ煮え立って、加減なんか知っちゃこったねぇと股間を敏感にする。

「ぐ……うっ……」
「我慢しないでください。この奉仕は今日だけのご褒美ではないのですよ? フユキが望むならいくらでもしてあげますから」
「そうじゃなぇっての、っ! 会ったばかりの相手に……喘ぎまくるなんてみっとも……ねぇだろ」

 頭もまともに働いてくれねぇで、おもわずつまんねぇ意地がもれちまった。

「恥ずかしくなんてありませんよ。人が安らいだ時に力が抜けてしまうのは当たり前なんですから。むしろずっと張りつめているほうがよくありません」
「そりゃそう……うっ、あ……くぅ、急に動きが変わるとクルな……」

 案の定こっちの意地なんざ聞く耳持たずだ。むしろ上下だけだった動きが、前後左右にも捏ねくりまわされ。股間が快感にかき混ぜられてるみてぇだ。

「我慢してはダメです。もっと私に身を預けて……ほら、息を大きく吸って……吐いて……何も考えなくて良いんですよ」
「すぅ、はぁ……あっくぅ……」
「その調子です。もっと頭を空っぽにして……いまはどんな気持ちですか?」
「あぁ……気持ちが良い」

 考えがも止まらなくなって、腰から上ってくるふわふわした感覚に頭まで浮き上がっちまう。

「そうですか。あなたに喜んでいただけたなら、私もとっても嬉しいです♡もっと気持ち良くするためには、どうすればいいですか?」
「う……ああ……カリ……膨らんだ先端の根元をもっと強く。くぅッ!」

 快感欲しさにおねだりまでしちまって、望み通りの刺激にとうとう自分から腰を揺すり。こみ上げてきた限界を少しでも引き延ばそうと、ついさっきまでとは逆の気持ちで我慢しちまう。

「フユキの男性器が……はぅ、あっ♡私の胸で動いてます♡神のおっしゃる通り、こうすれば元気になるのですね♡」

 天使さんの吐息が艶っぽくなってきて、ひょっとしたら俺のチンコで感じてくれてんのかなんて自惚れがますます頭をバカにしやがる。
 ドクドク鳴らす心臓は股間にまで伝わって、腹ん中のムラムラしたもんが満たされ。けれどもすぐにまだまだ足んねぇと俺を焦らす。
 蟻地獄にハマっちまったみてぇに性欲に狂う。股間はもう爆発しちまいそうで、必死こいて我慢しても先端からはもう快感が滲みでちまって。

「あぁ……私の胸の中がつゆで濡れて、くちゅくちゅ……胸を動かすたびに心地よい水音がしますね♡男の方が気持ち良くなるとこんなふうに♡どうしてでしょう……ぼうっとしてしまって……はぁ、はぁ、もっと安らいでください。私の胸に全てをゆだねて♡」
「ぐ、おっ……ちょいと力が……強……っ!」

 天使さんが両手に力を込めて、俺の股間を根元から扱きあげた。俺から精液を搾りだそうとする動きが、限界寸前の股間を追い詰める。

「強いですか? けれどフユキの男性器は喜んでいるようですよ♡ほら♡ほらほらほらぁ♡」

 根元から力強く搾られ。カリ首のあたりに来たら更にきつく締め付ける。俺の弱点をきっちり責めてくる。これで初めての奉仕たぁ、まるで思えない。

「ちぃ……天使さん……顔どけなっ。もう我慢は……キツイッ……!」
「ええ♡出してください。思いっきり、私の顔にフユキの気持ちを思いっきり♡」

 せめて汚さねぇようになんとか声を搾りだすが、むしろ天使さんは顔を近づけ。不意に両腕から力を緩めた。

「くぅっ……うあっ!」

 股間を包んでいた柔らかな圧力と一緒に、耐えっぱなしだった快感もまとめて解放され。何もかもがトンじまう射精に腰を抜かしちまった。

「ち、ったく……今日はなんだってこんなことにってことばっかだ……」

 あんまりにも気持ち良くて、目ん玉の中でお星さまがチカチカ光ってやがる。
 気付け代わりに頭を叩いて深呼吸一つすりゃ、ちょいとは視界がマシに戻り。顔を汚しちまっただろう天使さんはさて何してんのかと。

「ふぁ……♡この液体は……温かい♡これが……男の……んっ♡ちゅぷ……おいしっ♡」
「……おいおい」

 それしかいえねぇ。顔を汚すだけじゃ足んねぇで、胸まで飛び散った俺の精液を指ですくってしゃぶるなんざ。エロいにもほどがあんだろ。
 このままじゃ出すもん出した股間がまた立っちまいそうなんで、疲労感に任せてベッドに寝転がる。これ以上天使さんを見てたら、いつまでたっても収まりがつかねぇ。

「お休みですかフユキ? ふふふっ、どうやら上手に癒せたようですね♡……そういえば先ほどは添い寝を希望してましたね。このまま一緒に眠ってしまいましょう。神もそうすべきだと仰っています」
「せめて身体を洗って服を着てくれ。俺のせい……ためにあれこれして、汁がついちまってるじゃねぇか」

 四つん這いでベッドの上まで追ってきた天使さん。俺の股間を挟んでた胸がギュッと抑えられて強調されてんのがしなをつくってるみてぇでエロいなちくしょう。

「むぅ、私はフユキを感じられるのでこのままでも良いのですが。あなたが望むなら」
「よしてくれ、勘違いしちまいそうだ」
「勘違いではありません。私はフユキを支えるために神より遣わされたのです。あなたの望みならなんでも叶えますよ」

 だよなぁ。天使さんが奉仕してくれんのも、神さまからの仕事だ。自惚れんじゃねぇぞ俺。
 もう自棄だ、ムードをぶっ壊しちまうが知ったことか。明日の予定でも話して仕事の頭にしちまおう。そんで今のエロいパイズリを忘れちまえ。

「……んじゃあ明日は魔物の国に旅行でもしようや」
「ええっ!?」

 驚く天使さんの顔はやっぱり綺麗で、どうしたって見惚れちまう顔を汚しちまった罪悪感だの征服感はどうしたって忘れられそうにねぇ。
 ぐちゃぐちゃになった俺は説明して欲しそうな天使さんを無視して、逃げる気分で目を閉じた。
23/10/15 07:44更新 / オーデコロン
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