連載小説
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凍てつく楔と春招く蝶 中編
 雪が深く積もる森の中を悠貴、ノア、マルク、ハルは薬草を摘みに来ていた。マルクが言うにはここら一帯には希少とされる薬草が多く採取できるとのことで、回復魔法などでは治せない特殊な病気にも効果を発揮するものが多くあるとのことだった。ちなみにフレイは

「なんでこんな寒い中草むしりに行くのだ」

 と頑なに屋外に出ることを渋っていたため、そのまま宿で待機している。一応薬草に関する一連の講義をしたがいまいち関心がないようであった。延々とぐずり続けているため悠貴が宥めていたがまた盛りだしそうだったので悠貴はノアに首根っこをつかまれズルズルと引きずられ連れてこられていた。

「俺もっと自分の意思が強いと思ってたんですけど……」
「気にするな。嫁が相手なら私もああなる」
「え、その、ま、まだ嫁というか彼女にも……ゴニョゴニョ」

 正直いろいろとやっておいて何を今更と思うノアだが口には出さない。いちいち指摘したところで惚気に発展すると今までの人付き合いで学んでいるからだ。

「あ、この辺です。雪に埋もれてしまっている薬草もあるので踏まないように気を付けてください」
「わかった」

 そのままマルクに適宜正しい薬草か判断してもらいながら採取を進める三人。ハルはと言えば相変わらずもしゃもしゃとキャベツのようなものを齧っている。

「でも不思議だよね」
「何がですか?」
「いや、俺のいた世界……というか住んでいた地域だと基本的に寒い時期って虫は冬眠しているからさ」
「ハルちゃんは虫じゃなくて魔物なんですが……」
「あ、その……ゴメン」

 ハルちゃんも気にしてないみたいですし大丈夫ですよと笑いながら採取を続けるマルク。ノアはいつの間にか少し遠くに行っているがまだ視界に入る範囲にいるので万が一何かに襲われても助けてくれるだろう。

(でもそれでいいのかな、俺……道中も何もしてないし、今もほとんどマルクが採取しててあんまり役に立ってないし……料理とか勉強してみようかな……)

 しかしそれと同じくらい悠貴が気になるのがハルの様子だ。確かに個人差があるとはいえあそこまで何も喋らないものなのだろうか。数日間一緒に行動してもマルクにすら言葉を発していない。

「マルク、ハルちゃんって初めて会った時からあんな感じなのか?」
「そうですね……でも初めて会ったときとかは物も食べずにずっと僕のことも睨みつけていたのでその時に比べればまだマシになったのかなって……あ」

 ハルの食べていたキャベツもどきがなくなりそうなのを見てすぐに新しいものをあげるマルク。そのまま再びもしゃもしゃとハルはキャベツもどきに食らいついていく。

「もしかすると春の祈りかもしれないな」
「春の祈り?」

 いつの間にか戻ってきたノアも会話に加わる。

「さっき言っていただろう。寒い時期って虫は冬眠していると」
「ハルちゃんは虫じゃないですよ」
「お前だって虫扱いしただろう」

 ウッと言葉に詰まる悠貴だが気にせずにそのまま会話を続けるノア。

「私もそこまでグリーンワームの生態に詳しいわけじゃないが確かにこの厳しい寒さの中平然としているのはあまり考えられないな」
「それがさっき言っていた春の祈りですか?」
「そうだ」

 春の祈り。身体や心を寒さから守り、春のうららかな日差しの温もりを与え続ける魔法。人間で使えるものはいないとされているこの魔法は多大な魔力を消費するが効果は暖かくなるだけと思われているため基本的に魔物たちにも使われることはないとノアは言う。

「……え、心も温めるのにこんなクール通り越してツンドラな子になっちゃうんです?」
「なんだつんどらって……ま、そこがよく判らないところだが、非常に繊細な魔法だから少しの綻びで変な影響が出ているのかもな」

 いままで知らなかったことをどんどん話し、教えてくれるノアにマルクの目はキラキラと輝き、まさに尊敬のまなざしを向けている。それと同時にもしかするとハルが普通に会話をしてくれるかもしれないという希望もみえたため、マルクの表情は目に見えて明るくなっている。

「村に魔法に詳しいヤツとかいないのか?」
「えっと一応村長さんが昔おうこくでぶいぶい言わせていたって前に言ってました」
「表現がもうジジくさい……」



 そのまま会話をしつつ採取を終え、村に帰る一行。ちなみにマルクは疲れているだろうと悠貴が代わりにハルを運ぼうとしたが尋常じゃないほどの威嚇をされてしまい心にとても深い傷を負わされたのだった。

 荷物をマルクの家に置き、その足で村長の家に行くところだったがノアは用事があるといいそのままどこかへ行ってしまったため悠貴とマルクの二人でハルを連れ、村長の家へとお邪魔した。

「なるほどのぅ……春の祈りか……」
「はい、一度ハルちゃんのことをちゃんと見ていただきたくて」
「うむ……いいじゃろう……」

 そのままぶつぶつと祝詞とも呪詛ともつかない詠唱をはじめる村長。だが―

「うむ!?、こ、これはいかん……!」

 そのまま突然ブルブルと震えだす村長。その震えに連動するようにハルも震え始める。

「さむい……さむい……」
「ハルちゃん!村長さんもどうしたんですか!」
「ば、ばあさん!すぐにありったけの炎の魔石を持ってくるんじゃ!それとマルクよ!」
「は、はい!」

 止まらない震えを押し殺すようにしながらつい先ほどまでよぼよぼの老人だったと思えぬほどの力強いまなざしでマルクを見て―

「おまえは奥に暖炉のある部屋があるからそこまでハルちゃんを運び、ありったけの精をそそぐのじゃ」
「はい!……せい?せいって何ですか?」

 力強くうなづくも未だ性的な知識のないマルクにはいまいち意味が解らないようだった。だが

「俺が説明するから早く!」

 豹変した村長とハルの様子からただならぬ雰囲気を感じ、すぐさま行動に移す悠貴。普段ならこんないたいけな少年少女に……など軽口をたたくかもしれないが有無を言わせぬ迫力にすぐさま行動を開始する。



「ゆ、悠貴さん。ボクどうしたら……」
「大丈夫。フレイさんと大人の階段を上った俺に任せて」

 そのままナニをするかを簡潔に説明するが……。

「そ、そんなこと……は、ハルちゃんにちゃんと確認しなくちゃ……あ、でも今ハルちゃんは意識が……あうう……」
「マルク……」

 やはりまだ幼いマルクには精神的に負担が大きいのだろう。だがあれほどまでの村長の鬼気迫る表情、目の前で震えるハルを見ては強く拒否も出来ないマルク。

「助けよう、マルク」
「でも……」
「やっぱり、不安だよな。俺もマルクの立場だったらきっとすぐには行動できないと思う」
「悠貴さん」

 慎重に言葉を選ぶ悠貴。言葉を誤ればきっと助かったとしても心にしこりが残ってしまうから。

「マルクはハルちゃんとどうなりたい?」
「え……?」
「別に今に限ったことじゃなくてさ、これからのこととか何かこうなりたいとかあるのかなって」
「ボク……」

「ボク……ハルちゃんに家族になってほしいです」
「……うん」
「ボク、ずっと家族がいなくて、寂しくて」
「うん」
「そんなときにハルちゃんと出会って、本当は一緒に元々住んでたお家を探してあげなきゃいけないのに、ボク……自分のわがままにハルちゃんを……」
「……そっか、マルクはいい子だな」
「でもボク……!」

 するとマルクの足下にゆっくりと、ハルが寄り添う。

「まるく……あたためて……」
「ハルちゃん!大丈夫!?」
「さむいよ……」

 わずかな葛藤があり、不安げな表情で悠貴を見つめるマルク。力強く頷くことで悠貴は背を押し、部屋を出ていく。



 暖かな暖炉の光に照らされ、見つめあう二人。やり方は教えてもらった。不安はある。それでも背中を押してくれた人、受け入れてくれたハルのためにマルクはゆっくりと仰向けのハルの上に乗る。

 始めは自分の体温を分け与えるように優しく抱きしめる。全身がぷにぷにと柔らかな感触のハルの体は今までマルクが触ったどんな物より柔らかく、優しいにおいがした。

「あぅ……」
「大丈夫?どこか痛い?」
「だいじょうぶ……」

 そのままぎこちない動作でゆっくりと唇を重ねる二人。お互いの唾液を交換し、混ぜ合わせるように舌を絡めあいお互いの口を貪りあう。

「そ、その、ハルちゃん。ボク……」
「だいじょうぶ……きて……」

 ゆっくりと小さな体を重ねあう二人。柔らかくも激しく咀嚼するかのようなハルの女性器の蠢動に初めて性的な刺激を受けるハルはあっという間にハルの中に精を放つ。

「ふわあ……なに、なにこれ、ハルちゃん……」
「おなかすいた……もっとたべさせて……」
「あ、あれ……僕なんだか力が」

 甘いような匂いがした直後、身体から少しずつ力抜けていくマルク。それは不快な感じではなく、むしろアロマの香りに包まれたかのようにリラックスし、身を委ねるマルク。
 一度離した唇を再び重ね、子供たちが出すとは思えぬ淫靡な音を響かせ再び咀嚼するように女性器をうねらせてマルクに精をねだるハル。

「は、ハルちゃん、ボクまた……!」
「うん、いいよまるく……!」

 二度目とは思えぬ量の精を放つマルク。身体こそ脱力しきっているものの、まだまだ精は衰えず、再びマルクの分身は硬さを取り戻していく。
 お互いが身体を求めるのに夢中な余り気が付いていなかったが、ハルの身体からは愛液とはまた異なる分泌液が周囲に広がっていた。そしてその液体は徐々に硬さを持ち、ついには二人を包む繭のような状態になり、二人を寒い世界から隔絶させた。




「ほ、本当なんですぜボス!確かに見失ったガキを見つけたんです!」
「でもその、尋常じゃないほど強い仲間を連れていて!」

 薄暗い洞窟の中、十人以上の人影が焚火の炎で浮かんでいる。

「ハッくだらねぇ。いつからお前たちはそんな腰抜けになったんだ?」
「そうだぜ、ましてや奇襲もされねえで正面からぶっ飛ばされるなんてどうしようもねえな」
「クッ……!」

 悔しさに顔をゆがめる男達。男たちの体にはノアに殴られ、蹴られ、張り倒された時の痕がまだ鮮明に残っていた。その痛みだけでもイラついているのに散々な言われように行き場のない憤りを感じる男たち。

(だったらお前が戦ってみろよ!バケモンだぞあいつ!)

 一度剣を抜かれたのに剣を振るわず、そのまま殴る蹴るをしてきたあの男。威嚇で剣を抜いたというよりももはやハンデをくれてやると言わんばかりの立ち回りを思い出すだけではらわたが煮えくり返りそうになっている。



 この洞窟はこの地域では悪名高い盗賊どものアジトであった。略奪、強姦、人攫いと様々な悪事を働きながらも周辺に治安維持組織などなく、また比較的貧しい地域であることから討伐の依頼も出されずにいたのだ。

 口々に言い訳をする部下、それを貶す者。その様子を厳しい表情で睨みつける盗賊のボスのバッツ。

(チッ……折角いい稼ぎ場が見つかったってのにヘマしやがって……だが所詮ただの冒険者だろう。気にすることはねぇ、ハズだ)

 しかし攫った子供や手下を叩きのめした冒険者に顔を見られてしまっている。

「……仕方ねえ、アジトの場所を変えるぞ」
「確かに面が割れた以上ここにいるのは危ないですからね」

 そのまますぐに移動を行うために手早く荷物をまとめ、そのまま逃げだそうとする盗賊たちだったが―


「随分身軽な引っ越しだな。大事なモノは別のアジトにでも隠してるのか?」
「……ナニモンだてめぇ」

 剣を肩に担ぎ、道を阻む男。その顔には待ちくたびれたという表情がありありと浮かんでいる。

「ひいいい!!で、でたあああ!」
「こ、コイツですボス!!や、や、やばいですよ!!!」
「ほう……」

 ノアに視線を向けたまま、部下の情けない悲鳴を聞き流すバッツ。いままで何度も修羅場をくぐってきたバッツにも直感で伝わる。目の前の男のただならぬオーラ。

「何しに来た。まさか十人以上いる俺たちに剣一本、身一つで勝てると思ってるのか?」
「ハッキリ言って楽勝だな。何より―」


 一気に凍り付く場。降り積もる雪よりはるかに急速に奪われる体温。この場にいる全ての盗賊が死を覚悟するほどの殺気。

「子供を守るのが俺達大人の仕事だからな。全員、五体満足でいられるなんて思うなよ」

 刹那、紅く残る残光。それが殺気を放ったノアの目の光だと認識することなく全ての人影は地に伏すこととなったのであった。
21/01/10 23:13更新 / noa
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