読切小説
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怪談の悪魔
 えっと、夏だから怪談っぽい話をしようってんで集まったんだよな。・・・この魔物娘が跋扈する世の中で怪談ねえ。まあいい。とりあえず俺から話をしようか。これは俺が実際に体験した話だ。

 みんな、ひとりかくれんぼって知ってるか?そう、夜中人形に米とか詰めて刃物持たせて、みたいなやつだ。正直俺はあんまり詳しくなかったんだが、先週かな、家の机に子供みてぇな字でやり方が書いてある古めかしい紙、羊皮紙っていうのか?が置いてあったんだよ。怪しいだろ?今思えばそんなの無視して警察なりなんなり呼ぶのが普通なんだが、その時はなぜかそんな気にならなくてな。せっかくだから試してみようって思っちまったんだよ。必要な道具もだいたいあったからな。

 まず人形の準備から始めるんだが、それはうちにあったフランス人形を使うことにした。後でネットで調べたら米と自分の爪を入れるとからしいんだが、羊皮紙にはそんなの書いてなかった。ただ「時間まで人形の髪を梳いておめかしをしましょう。」なんて書いてあったな。その通りにしてるとなんだか愛着がわいてきてな。アリスなんて名前まで付けてかわいがって・・・おい笑うなよ。自分だって似合わねえと思ってんだから・・・まあいい。そんでそうこうしてるうちに夜中の3時になってな。まず最初は人形に「最初の鬼は俺だから」って3回言って、風呂に入れるんだが、風呂場が濡れてたせいで滑って人形を落としちまったんだ。その瞬間「痛い!」って女の子の声がしてよ・・・。思わず血の気が引いたね。もちろんうちにほかの人間はいないんだからよ。1分くらい身じろぎもできずに立ちすくんでたんだが、それ以降声は聞こえなかった。だから気のせいだって思うことにして、風呂場を出たんだ。次にテレビをつけてAVを流す。

 ・・・まあ、いいたいことはわかるが、とりあえず最後まで聞いてくれよ。これに赤字で「ロリもの!!!」ってでかく書いてあったんだが、うちにはなかったから熟女ものを代わりに流してた。これがよくなかったんだよな・・・。

 そのあと風呂場に行って「アリス見つけた」って言ってオナホを人形に持たせた後、「次はアリスが鬼」って言って机の下に隠れた。最後に自分の両手を赤いひもで縛って机の脚に括り付けて、「もういいよ」って言えば完了。そう羊皮紙に書いてあったから、俺はその通りにした。そうして隠れてるうちにだんだん冷静になってきてな、ようやく何かおかしいと気づいたんだ。なんでオナホだのAVだのがこんなオカルトめいた儀式に出てきたんだとか、そもそもあの羊皮紙は何なのかとか。そんなこと考えてるうちにもっと重要なことを思い出した。

 そもそも俺はあんな人形なんて持ってないはずなんだ。

 それに気づいて急に怖くなってな、とりあえず逃げ出そうとしたんだが紐のせいで逃げられない。大して太くもないんだから簡単に抜けられると思ってたんだが、なぜかぜんっぜん千切れない。そうしてるうちにパニックになった俺の耳に、鼻歌が聞こえてきたんだ。そう、子供が歌ってるような鼻歌。間違いない、さっき風呂場で聞こえた声だ。その鼻歌がその風呂場から聞こえてくる。見つかったらまずいって思って、息を殺して縮こまってたがすぐに無駄だと気づいた。さっき「もういいよ」なんて大声で言っちまってたんだ、場所はバレてるにきまってる。その証拠に足音はまっすぐこっちに向かってる。廊下を通って扉を開けて、リビングに入って・・・そこで足音は止まった。

 さっきまで聞こえてたご機嫌な鼻歌も聞こえない。何があったのか考えると一つ思いついた。AVだ。羊皮紙にはロリものと重要そうに書いてあったが、俺は熟女ものを流してた。もしかしたらそれで儀式がうまくいかないんじゃねえか。そんな風に淡い期待を抱いた瞬間それは打ち砕かれた。さっきよりも大きい足音を響かせながらそれは近づいてきやがった。明らかに怒ってる、みたいな勢いだったな。その足音は俺の部屋の前まで来るとピタッと止まった。

 ぎぃぃぃぃっといやにゆっくり開く扉。瞬きもできずにそれを見るしかできない俺。汗が頬をつたってぽたぽた垂れていく。手首を縛るひもが軋む。床に汗で水たまりができるぐらいの時間をかけて扉が開く。その奥には・・・何もいなかった。どっと、力が抜けた。安心したよ。なんだ、何にもいねえじゃねえかってな。さっきまで忘れてたらしい呼吸を繰り返すたび、生きてるって実感がわいてくる。息が整って、深―くため息を吐いて、吐いて、吐き切った瞬間。



「 お に い さ ま ? 」



耳元で声が聞こえた。




リビングドールちゃんのコメント
「おびえてるおにいさま、とてもかわいかったです♡でも今後はロリものでしか抜けないようにきっちりおしおきしましたわ。」





 結局先輩とアリスちゃんのなれそめの話じゃないっすか。全然怪談じゃないっすよ、それ。まあ俺の話も似たようなもんですから、次はちゃちゃっと話しちゃいますね。

 俺は結構オカルトとか好きで、さっきのひとりかくれんぼとかもよく知ってます。やったことはないっすけど。なんでって、暗いとこダメなんですよ自分。なんでそうゆうのはネットとか動画とかで楽しむだけで、実際にやっとことはなかったんすよね。でもまあこの前1回だけやってみようってことにしたんっすよ。

 やろうとしたのは、キャンドルさんって儀式です。夜中の12時ちょうどに合わせ鏡の間に置いた蝋燭に火を灯すと、自分の運命の相手のことが知れるってやつっす。でも注意しなくちゃいけないのが、途中で蝋燭以外の明かりをつけちゃいけないってこと。蝋燭以外の明かりがあると、キャンドルさんが怒って質問した人を食べてしまう、って話です。

 なんすか先輩。暗闇嫌いのお前が何でそんなことしたのか?・・・片思いしてたうちのマドンナが同僚と結婚して、それで・・・。いや謝らないでくださいよ先輩、今はもう気にしてないっすから。

 まあそんなんで蝋燭と鏡、あとマッチを準備して夜になったんすけど、やっぱり暗闇が怖くなっちゃいまして。やめようと思って立ち上がろうとしたら急に電気が消えたんです。うちの周りだけ台風で停電だったみたいで、まあ奇跡的にすぐに復旧したんですけど、その瞬間真っ暗闇の中でパニックだったっすよ。嵐の音はうるさいし隣の家の明かりも見えないしで過呼吸になりそうな中で、目の前の蝋燭のこと思い出して。震える手でマッチを擦って火をつけると、蝋燭を置いてあった場所に女性が座ってたっす。

 蝋みたいに真っ白な腕に頭の上で揺らめいている真っ赤な炎。蝋燭を擬人化したみたいな姿で、一目見てすぐキャンドルさんだってわかったっす。オカルト的な経験が初だったことと、頭の上の明かりに安心したのもあって思わず抱き着いちゃったんすけど、キャンドルさんは怒らずに抱きしめてくれて・・・。それから運命の相手のこといろいろ聞いたっす。「心からあなたに尽くすタイプ。胸も結構自信がある。」みたいなこと聞いて、うれしかったっすね。今も将来も安心できた感じだったっす。

 そうこうしてるうちにまた急に電気がつきました。まあ停電から復旧しただけっすけど、やばいと思ったっす。蝋燭以外の明かりがあると、キャンドルさんが怒って質問した人を食べてしまう、そうきいてたっすからね。キャンドルさんの様子もちょっとおかしくなって、なんていうか、何かを恐れてる感じ?

「また私を呼んでくれる?」

 って聞いてきたんです。実際こういうのって1回聞けば十分な内容っすし、何回も関係を持つのはまずいかなってオカルト好きとして思って、もう呼ばないって言ったんすよ。そしたらハイライトの消えたキャンドルさんに言い終わるより早くその場に組み伏せられて・・・。

 まあキャンドルさんが俺の運命の相手でした、ってオチっすね。お粗末様でした。




キャンドルガイストさんのコメント
「もう暗闇を恐れる必要はありません、ご主人様。私がずっと照らして差し上げますからね。ずっと、ずっと、ズット・・・。」





 いやいやお粗末だなんてとんでもない。面白いお話でついつい引き込まれてしまいましたよ。次に話すのは荷が重いなぁ。そんなに大したお話もできないんですがね。

 私がお話しするのも私自身の話です。事の起こりは10日前。そう、あの台風の日のことです。彼が運命の人としっぽりやってる最中に、私は一人トボトボ家路を歩いておりました。風も多少はやんでいたタイミングで、何とか傘はさせていても服はビショビショ。シャツも透けて大変でしたが男の濡れ透けなんて何もうれしくない。どうせならきれいな女性のほうが目の保養になるってものでしょう?そうはいっても夜遅くです。こんな時間に歩いてるのは遅くまで残業しても何も言われない独身のうら寂しい男だけ。私以外は人っ子一人いない夜道。出てくるとしたら落語に出てくる幽霊ぐらいのもんでしょう。柳の木の下に立って、ながーい黒髪をたらして、和服姿でうらめしや〜なんてね。

 まあそんなものいるはずもないとため息をついて、さあもうひと踏ん張りと前を向くと、いるじゃないですか和服の美女が。私も目を疑いましたが、何度眼をこすってもやっぱりいる。長い黒髪に白い和服をびっしょり濡らしたいい女。思わず神様仏様ありがとうございます、なんて拝んじまうところでした。ですがまあ私も外道じゃあないもので。美女の濡れ透けが見たいとは言いましたが、雨に濡れて美女が苦しむのを見たいわけじゃない。持っていた傘を差しだして、

「もし、そこのお嬢さん。そんなに濡れちゃあ体に障ります。気休めですがおつかいなさい。」

 なんて声を掛けました。するとその人は手をのばして傘を受け取って、にこぉ、とほほ笑んで来たんです。まあその笑顔の美しいこと。私は邪な心を恥じながら、そのまま家に走っていきました。

 それからです。家で誰かの視線を感じるようになったのは。家の扉を開けたとき、風呂で体を洗っているとき、疲れた体をベッドに横たえるとき。いつもどこかからじぃ・・・っと見つめられているような、うすらさむぅい感覚がする。最初は気のせいだと思いました。仕事の疲れや雨で冷やした体が感じさせる気の迷いだってね。ですがある日見てしまったんですよ。玄関の扉を開けた瞬間。廊下の奥に見える物置の隙間から、こっちを見つめる人がいたんです。瞬きする間に消えてしまいましたが、そのにこぉっと微笑む顔だけが頭にこびりついてはがれません。一度気づくと何度も何度も。箪笥の中からソファーの裏からカーテンの隙間から洗濯機後ろから。じぃっとこっちを見つめる顔が見える。でもそんなわけないんです。だってそれのどこにも、人の入れるスペースなんてないんですから。

 さすがにこれはまずいと警察にも連絡しましたが梨の礫。まあいたずらだと思われたんでしょう。しょうがないので友人に事情を説明して、うちに来てもらいました。いやあ、持つべきものは友ですねぇ。ちょいと夕飯の肉を餌にすりゃあ簡単に釣られちまって・・・失礼、こちらの話です。

 まあそれで家の中を見てもらったんですがね、ぎっちぎちの物置やせま〜い箪笥、カーテンも洗濯機も見てもらったんですがな〜んにも手掛かりはなし。ベッドの下を覗き込んだ友人が血相を変えて私を無理やり連れだして・・・なんてこともなく、ただただ家の中を歩き回って、夕飯をごちそうしただけになりました。ちょいと損した気持ちになりましたが、まあ、何もないならそれでいい。これで今夜は枕を高くして眠れるぞ、なんて思いながら友人を玄関まで見送ると、帰り際にやつが妙なことを言い残していったんです。

「お前結婚したんなら連絡入れろよ。」

 って。もちろん私は独身の彼女無し。おかしいなあ、と考えながら鍵を閉めて振り返るとそこには・・・。

 ええ、ええ。その通り。外で見た女性はぬれおなごで、家までついてきた彼女が隙間に隠れてた、なんてありがちな話です。すみませんねぇオチも何もなくて。私みたいな平々凡々な男にはこれくらいが精一杯です。

 まあただこれには続きがありまして。彼女嫉妬深くてですね、私が出かけた後も付いてきて、私が合う人を般若みたいな形相で睨むんでちょっと困ってるんですよ。今もほら、そこの窓から・・・ああ、冗談ですよ。退屈だったでしょうから、最後にちょっと怖がらせたくなっちまったんです。ほら、僕。大丈夫大丈夫。怖がらなくていいですよ。




ぬれおなごさんのコメント
「あ。危ない。バレたかと思いました・・・。」





 ううう、ほんとにいないんですよね?大丈夫なんですよね?・・・うう。じゃ、じゃあ最後に僕が話せばいいんですよね。いきなり知らない人に声をかけられて連れてこられたから怖かったけど、皆さん悪い人じゃなさそうだし、大丈夫、です。

 これは僕が今まさに体験してる話です。3日前、かな。なんとなく家に帰りたくなくて、門限を破って外で遊んでたんです。悪いことしてるドキドキが楽しくって、町の外まで探検してて、帰り道がわからないなって気づいて。どうしていいかわからなくってうろうろしてたら、目の前にサーカスのテントが見えてきました。そこから女の人が出てきて、僕の手をつかんでサーカスに引き込んだんです。

「ああ悪い子だ、悪い子だ!親御さんに教わらなかったかい?門限を破って遊んでいると、悪いボギーがさらいに来るぞ!」

 その瞬間に怖くなって、体が固まっちゃって。その後もぬれおなご?のお話をしてたお兄さんみたいに、いろんなことをまくし立ててきて。いつの間にか最前列に座らされてて、サーカスが始まりました。先っぽが丸っこい棒みたいなのを玉乗りしながらお手玉したり、火の輪くぐりをしたときにお姉さんの服が燃えてお、おっぱいが丸見えになったり・・・。それを見てたらなんだかおちんちんがむずむずしてきて・・・。見たらおちんちんが腫れてパンパンになってて、それを見たお姉さんが、

「悪いことしたからおちんちんが腫れちゃった!このままじゃもっとふくれて風船みたいにパ〜ン!だぞ!」

 っていってきて。泣きながらもう悪いことしません!っていったら、じゃあ治してあげようって、僕のおちんちんをにぎってきました。そのままぐにぐにされたら、なんだか気持ちよくって、怖くって・・・。気づいたらおもらししてました。普段のおしっことはちがう、白くてねばねばしたおしっこで・・・。

 疲れて寝ちゃったみたいで、起きたら家の前にいました。お父さんとお母さんには怒られたけど、無事でよかったって抱きしめられて、安心してその日は寝たんですけど、その次の日から夢を見始めて・・・。

 夢の中で僕はまたサーカスにいるんです。お姉さんが

「また来たのかい?悪い子だ!もっともっとおしおきされたいと見える!」

 って言って、またいろんなショーをするんです。今度は僕もステージに立たされて、おちんちん丸出しで空中ブランコに乗せられたり、お姉さんが鞭を振るたびに、ステージにあるピンク色の柔らかい筒みたいなやつにおちんちんを出し入れさせられたり・・・。そのたびに怖くなって、またおもらししちゃうんです。

 何とか夢から覚めようとして、これは夢だって言い聞かせて。何とか起きることができたんですけど、最後にお姉さんが、

「おや逃げるのかい?ムダムダ!明日君が眠りに落ちたらまたここに帰ってくる!そしたら君を食べてしまうよ!」

 って。それが今日の朝のことなんです。このままじゃ食べられちゃう!僕はどうすればいいんでしょうか・・・。どうしましたか、みなさん。隅っこでこそこそと・・・。


「あー、これってあれだよな、魔物娘の仕業ってことでいいんだよなぁ?」
「そっすね。たぶんボギーって魔物娘のことっすよ。もちろん食べるっていうのは比喩的な意味でしょう。ボギーに話し方が似てるお兄さんはどう思うっすか?」
「私の専門は落語や漫談であってサーカスじゃあないんですが・・・。まあ彼が本気で嫌ならそのボギーって娘も無理強いなんざしないでしょう。主催者君はどう思ってらっしゃるんです?」
「え、うーん・・・。こういうのは本人の気持ちが重要じゃないか?ちなみにお母さんは・・・あ、サキュバス。じゃあ理解はあるか。それなら・・・。」


 僕がお姉さんに会いたくないか、ですか?うーん・・・。お姉さんのことは怖いんです。いつも脅かすようなことばっかり言ってくるし。でも、お姉さんが嫌いなわけじゃなくて、むしろす、好きというか、考えるとドキドキするというか・・・。え?「じゃあ恐れる必要はない。怖がらずにお姉さんに会いに行くといい」?「きっと本当に食べちゃうようなことはしない」?・・・そうですか。うん、ありがとうございます!僕、今夜もう一度お姉さんにあって話してみます!




ボギーさんのコメント
「ふふふふふ、君がそう選択するなら喜んで!私はもちろん歓迎するとも!ああ、夜が楽しみだなあ!」




 いやあ、まさか知り合い3人どころか、困ってそうだったから誘った少年まで全員話をしてくれるとは!いやまあ、怪談というより猥談だった気もするけど。これじゃあこの噂の真偽はわからないな。「怪談の悪魔」。怪談話を4つ集めることができると悪魔が現れて、契約が交わされるって話。今日のはどれも怪談じゃなくて魔物娘の話だったし、これじゃあ悪魔もきてくれないよね。

「そんなことないぞ?」

 そうなの?

「ああ、確かに儀式は成された。」

そっかー。・・・うん?誰だお前!?!?

「何を言っている、お前が呼んだのではないか。悪魔を。我らデーモンをな。さあ、契約は交わされた。お前のすべてを対価に、永遠の快楽を与えてやろう。」

 うわ〜〜!急すぎるのに全然あらがえない〜〜〜〜!



デーモンさんのコメント
「噂だけでも流してみるものだな。まさかこんな簡単に伴侶を手に入れられるとは。さあ我が夫よ、ともに堕落にふけろうではないか・・・。」
24/08/24 20:38更新 / ぱうんどけーき

■作者メッセージ
納涼に書き始めましたがゾクリともしないギャグになりました。

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