変な魔物娘
私は現在、魔物娘専門のフリーライターとして活動している。そのせいか魔物娘たちとの生活に関する相談を受けることが多い。喜ばれるプレゼントやおすすめの出会いの場など・・・。しかしこれから語る話は、それらとは少し違っていた。
相談相手は、仮にYさんとしておこう。彼が持ってきた相談というのは、家の間取りについてだった。彼は私の友人である白蛇のHさんと結婚するのを機に、引っ越しを考えているそうだ。いろいろな物件を探す中、Hさんがある物件を見つけてきた。彼女が通う料理教室の先生が夫と住んでいた家がもういらなくなったので、そこを買わないかと勧められたのだという。
はじめはどうしたものかと悩んだが、妻の熱烈なプッシュと不動産屋の刑部狸の巧みな話術、そして実際に内検に行ってみたとても広い庭を気に入り購入に前向きになった。ただもらった間取り図を見たときに、漠然と違和感を覚えたそうだ。
私も間取り図を見てみたが、彼の違和感の原因を見つけることはできなかった。そこで、ある人に協力を求めることにした。その人の名は黒原さん。彼は大手建築事務所に勤める設計士だ。(ちなみにラミアの奥さんと結婚している。)話をしてみると興味があるようだったので、間取り図のデータを送り、電話で話を聞くことになった。
「黒原さん、忙しい中ありがとうございます。例の見取り図なんですが。」
「お久しぶりです、雨白さん。ええ、拝見しましたが、なかなか変な間取りですね。」
「やっぱりそうなんですか。あの、具体的にはどこが変なんでしょうか?」
「その前に一つ聞いておきたいことがあります。」
「なんですか?」
「この家に住んでいたという奥さん、魔物娘ですか?」
「はい、その方も白蛇だそうです。」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます。」
「ええと、それがこの間取り図に何か関係があるんですか?」
「はい。雨白さん、魔物娘の方が結婚を機に新居を作る際、一番重視する部屋ってどこだと思いますか?」
「そうですね・・・、寝室、ですかね。」
「そうです。お子さんがいらっしゃる場合は子供部屋なんかも重視されますが、それでも寝室を手抜いて計画する方はいません。内装から窓、扉の配置まで、特にこだわられるのが寝室です。」
「二人の愛の巣ですもんね。」
「それを踏まえてみてみると、この家の寝室は少しおかしくありませんか?」
「うーん・・・。あ、窓がない。」
「ええ、そうなんです。これ以外の部屋にはほとんど窓があるのに、この部屋にはない。」
「外から見られるのが嫌だったんですかね?旦那さんを自分以外に見られたくないとか。」
「そういう発想もあったかもしれませんが、それならカーテンを閉めればいいだけです。それにもう一点おかしいところがあるんですよ。雨白さん、例えば玄関から寝室まで向かうとすると、どういう経路になるでしょうか?」
「えっと、玄関から入ってすぐ左が寝室なんだから・・・。あれ、扉もない?」
「そうなんですよ。本来明らかにあるべき場所に扉がないんです。スペースならちゃんとあるのに。」
「これだとわざわざ奥の和室を通らないと寝室に行けませんね。」
「わざわざ奥まった場所に作られて、扉二つを抜けなければ入れない、窓のない寝室。そして奥さんは白蛇。こうなると、なんとなくストーリーが見えてきませんか。」
「というと?」
「紆余曲折を経て無事結ばれた二人。結婚生活も順調で、新居の購入も決まりました。しかし奥さんの白蛇にはひとつ不満がありました。それは夫が自分だけを見てくれないということ。浮気があったというわけではないでしょう。しかし外でほかの女性と話すことさえも、彼女には許しがたいことだった。」
「あー、ありそうな話ですね。」
「そこで彼女は一計を案じました。これから作る新居に、彼を監禁する部屋を作ってしまおうと考えたんです。」
「まあ普通そうしますよね。」
「普通かどうかはおいておきますが、彼女がそうしたと仮定します。しかしあからさまにそのような部屋を作ったら警戒されるのは目に見えています。そこでぱっと見ではわからないような、自然な監禁部屋を彼女は作ったのです。」
「それがこの寝室だったと。」
「はい、この時点ではちょっと不便で窓のないだけの部屋ですからね。他の人にあなたを見られたくない、なんていえば何とか押し通せる範囲でしょう。」
「なるほど。でもこれじゃあ監禁なんてできないですよね?普通に外に出られますし。」
「ええ、実際内検にいってもそう感じるでしょう。その段階ではおそらく鍵も付いていなかったはずです。」
「その段階では、ってことはそのあと鍵をつけたんですか?」
「はい。内側から開けられない鍵なんてあからさまに怪しいですから、警戒されないようにそうしたんじゃないかと思います。その根拠になるのが扉の種類です。ここの扉は押戸ですよね。」
「そうですけど、それは普通じゃないですか?」
「まあ最近のスタンダードで言えばそうですが、それは洋室での話です。この家はトイレとこの2枚以外は全部引き戸です。統一感を考えればこの2枚も引き戸やふすまでよかったはず。わざわざ押戸にしたのは、鍵の取り付けやすさが理由じゃないでしょうか。」
「鍵の取り付けやすさ?」
「押戸は金具と南京錠でもつければそれだけで鍵になりますからね。引き戸でもそれ用のものが売ってたりはしますが、やはり押戸のほうが簡単です。」
「なるほど、それをつければ2重扉のロックが完成すると。じゃあYさんの違和感はこれが原因で」
「・・・というのが少し勘のいいひとなら気づく内容です。」
「うん?・・・馬鹿にされた?」
「おそらくですがその夫もこれには気づいたんじゃないでしょうか。奥さんの嫉妬深さを一番よく知っているのは彼でしょうから、彼女の目論見にはすぐに見抜いたはずです。」
「じゃあなんで、間取りを変えるなりほかの家にするなりしなかったんでしょうか?現に二人はそこに住んでいたわけですよね。」
「この監禁部屋なら問題ないと考えたんですよ。」
「問題ない?簡単に抜け出せるってことですか?」
「はい。よく考えてみると、人を監禁するにはこの部屋の構造は欠陥だらけなんです。まず第一に、この扉、部屋から見て内開きですよね。」
「あ、ほんとだ。」
「そうすると構造上、どうしても蝶番も内側につくことになります。なら、ドライバーでもあれば簡単に扉を開けることができるんです。蝶番を外せれば、扉も外れますから。」
「でも逆に工具さえなければ大丈夫ですよね?」
「はい。しかしなぜか、この家唯一の収納が寝室についています。その中に工具箱、無理ならドライバーの一つでも忍ばせておくのは簡単です。」
「確かに・・・。」
「そうやって一つ扉を抜ければ、あとはもっと簡単です。同じように扉を外してもいいですし、それ以前に次の部屋には窓があります。」
「そう考えると、この部屋に人を監禁するのは難しそうですね。だからこそ旦那さんもこの家に住むのに反対しなかったと。」
「意外に抜けてるところもかわいいな、なんて考えていたんじゃないでしょうか。それ自体が罠だとも知らずに。」
「え、罠?」
「雨白さん。この家、部屋が少なくないですか?」
「そうですかね?寝室、キッチン、トイレにお風呂もあって、客間もありますね・・・。必要な部屋は全部そろってる気がしますけど・・・。」
「確かにそろってはいますが、最低限だけです。収納はもう少しあったほうが便利ですし、客間やそれ以外の部屋、将来子供が生まれたときのことを考えれば子供部屋だって必要になるでしょう。」
「うーん、いわれてみればそうかも・・・。でもスペースがなかっただけじゃないですか?」
「いえ、それが理由ではないはずです。2階建てにすればスペースは増やせますし、そもそもYさんは広い庭を気に入った、と言っていましたよね?だったら土地自体は充分にあったはずです。」
「あ、確かに。そう考えると部屋が少ない気がしますね。」
「それに奥さんは料理教室の先生でした。それにしてはキッチンも変です。」
「・・・あ、コンロがIHだ。」
「そうなんです。最近のIHは温度を一定に保って煮込んでくれたり便利になっていますが、料理をよくする方にとってはやはりガスのほうが人気です。それにこのキッチンで料理が出来上がったとして、夫のいる寝室まで運ぶのは大変です。家の端から端まで移動するような構造で、鍵のかかった扉を2つも通らなければいけないですから。」
「料理がさめちゃう・・・。見れば見るほど不便ですね。なんでこんな間取りにしたんでしょう。」
「あー、これから話すことは私の妄想です。なので話半分で聞いてほしいんですが、この家にはもう一つ、本当の監禁部屋があるんじゃないでしょうか。」
「もう一つの監禁部屋?そんな部屋どこにあるんですか?」
「おそらくですが、寝室の収納に地下への隠し扉があるんだと思います。そこはキッチンから何までそろった本当の監禁部屋につながっている。それならこの家自体がいくら使いにくくても問題ないですよね。」
「上の間取りは油断を誘うためのカモフラージュで、実際に生活するのは地下だから・・・。」
「それの根拠になりそうなのが、またキッチンです。雨白さん、キッチンのそこにあるこの半円状の、なんだと思います?」
「えっと、Hさんが不動産屋さんに聞いたときは換気扇だって言われたらしいですけど・・・。」
「換気扇が間取り図で、こんなに大きく描かれることはめったにありません。これ、地下室のキッチンにつながる煙突じゃないかなと思うんです。」
「不動産屋さんが嘘をついたってことですか?」
「一般的にはありえないですが、確か不動産屋は刑部狸だったんですよね。魔物娘の不動産屋によくあることなんですが、二人の性活を応援する!とかで、独占欲が強い魔物娘のためにそういうことをする場合が結構あるんです。夫に気付かれないように監禁部屋を用意する、みたいな。」
「へえ、そんなことまでしてくれるところもあるんだ。」
「まあ最終的には夫のほうも妻さえいればいい、となるので誰も不幸にはならないんですが。」
「なるほど。つまりまとめると、この家は前の奥さんが旦那さんを自分だけのものにするために作った家で、それを知っているHさんと不動産屋さんが共謀して、今度はYさんを監禁しようとしている、ということですか。」
「前の夫婦がこの家をもういらなくなった、といったのは、監禁しなくても夫が妻以外目に入らないくらいに依存してくれたから、という解釈もできますよね。」
「なるほど・・・。普通に魔界とかに引っ越すんですかね。」
「あくまで私の妄想です。実際に確認するなら、Yさん一人で内検に行って、煙突や寝室の収納をよく確認するのがいいんじゃないでしょうか。人間の私やYさんからすれば、最終的にはハッピーだとしても、監禁されるのはやっぱり遠慮したいですから。いやあ、妻がそうじゃなくてよかったです。」
「そうですかねえ。」
「まあ依頼を受けたのは雨白さんですから、どうするかはお任せします。よければどうなったかは教えてくださいね。」
「はい、忙しい中ありがとうございました。」
電話を切った後、私はHさんに電話した。伝えた内容は、プロの建築士さんにも見てもらったが、特に変なところはなかった、と。それを聞いて安心してその家に住むことに決めたらしい。
白蛇の私としては、やっぱり旦那さんを監禁して、自分以外を見ないでほしいというのは当然だと思うし、Hさんもそのほうが幸せだと思う。きっとこの先二人はもっと幸せになるだろう。それの手助けができたことを少し誇らしく思いながら、私は眠りについた。
ちなみにこの話を黒原さんの奥さんにしたらとても食いつきがよかった。次にあの不動産屋さんを使うのは彼女たちになるかもしれない。
相談相手は、仮にYさんとしておこう。彼が持ってきた相談というのは、家の間取りについてだった。彼は私の友人である白蛇のHさんと結婚するのを機に、引っ越しを考えているそうだ。いろいろな物件を探す中、Hさんがある物件を見つけてきた。彼女が通う料理教室の先生が夫と住んでいた家がもういらなくなったので、そこを買わないかと勧められたのだという。
はじめはどうしたものかと悩んだが、妻の熱烈なプッシュと不動産屋の刑部狸の巧みな話術、そして実際に内検に行ってみたとても広い庭を気に入り購入に前向きになった。ただもらった間取り図を見たときに、漠然と違和感を覚えたそうだ。
私も間取り図を見てみたが、彼の違和感の原因を見つけることはできなかった。そこで、ある人に協力を求めることにした。その人の名は黒原さん。彼は大手建築事務所に勤める設計士だ。(ちなみにラミアの奥さんと結婚している。)話をしてみると興味があるようだったので、間取り図のデータを送り、電話で話を聞くことになった。
「黒原さん、忙しい中ありがとうございます。例の見取り図なんですが。」
「お久しぶりです、雨白さん。ええ、拝見しましたが、なかなか変な間取りですね。」
「やっぱりそうなんですか。あの、具体的にはどこが変なんでしょうか?」
「その前に一つ聞いておきたいことがあります。」
「なんですか?」
「この家に住んでいたという奥さん、魔物娘ですか?」
「はい、その方も白蛇だそうです。」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます。」
「ええと、それがこの間取り図に何か関係があるんですか?」
「はい。雨白さん、魔物娘の方が結婚を機に新居を作る際、一番重視する部屋ってどこだと思いますか?」
「そうですね・・・、寝室、ですかね。」
「そうです。お子さんがいらっしゃる場合は子供部屋なんかも重視されますが、それでも寝室を手抜いて計画する方はいません。内装から窓、扉の配置まで、特にこだわられるのが寝室です。」
「二人の愛の巣ですもんね。」
「それを踏まえてみてみると、この家の寝室は少しおかしくありませんか?」
「うーん・・・。あ、窓がない。」
「ええ、そうなんです。これ以外の部屋にはほとんど窓があるのに、この部屋にはない。」
「外から見られるのが嫌だったんですかね?旦那さんを自分以外に見られたくないとか。」
「そういう発想もあったかもしれませんが、それならカーテンを閉めればいいだけです。それにもう一点おかしいところがあるんですよ。雨白さん、例えば玄関から寝室まで向かうとすると、どういう経路になるでしょうか?」
「えっと、玄関から入ってすぐ左が寝室なんだから・・・。あれ、扉もない?」
「そうなんですよ。本来明らかにあるべき場所に扉がないんです。スペースならちゃんとあるのに。」
「これだとわざわざ奥の和室を通らないと寝室に行けませんね。」
「わざわざ奥まった場所に作られて、扉二つを抜けなければ入れない、窓のない寝室。そして奥さんは白蛇。こうなると、なんとなくストーリーが見えてきませんか。」
「というと?」
「紆余曲折を経て無事結ばれた二人。結婚生活も順調で、新居の購入も決まりました。しかし奥さんの白蛇にはひとつ不満がありました。それは夫が自分だけを見てくれないということ。浮気があったというわけではないでしょう。しかし外でほかの女性と話すことさえも、彼女には許しがたいことだった。」
「あー、ありそうな話ですね。」
「そこで彼女は一計を案じました。これから作る新居に、彼を監禁する部屋を作ってしまおうと考えたんです。」
「まあ普通そうしますよね。」
「普通かどうかはおいておきますが、彼女がそうしたと仮定します。しかしあからさまにそのような部屋を作ったら警戒されるのは目に見えています。そこでぱっと見ではわからないような、自然な監禁部屋を彼女は作ったのです。」
「それがこの寝室だったと。」
「はい、この時点ではちょっと不便で窓のないだけの部屋ですからね。他の人にあなたを見られたくない、なんていえば何とか押し通せる範囲でしょう。」
「なるほど。でもこれじゃあ監禁なんてできないですよね?普通に外に出られますし。」
「ええ、実際内検にいってもそう感じるでしょう。その段階ではおそらく鍵も付いていなかったはずです。」
「その段階では、ってことはそのあと鍵をつけたんですか?」
「はい。内側から開けられない鍵なんてあからさまに怪しいですから、警戒されないようにそうしたんじゃないかと思います。その根拠になるのが扉の種類です。ここの扉は押戸ですよね。」
「そうですけど、それは普通じゃないですか?」
「まあ最近のスタンダードで言えばそうですが、それは洋室での話です。この家はトイレとこの2枚以外は全部引き戸です。統一感を考えればこの2枚も引き戸やふすまでよかったはず。わざわざ押戸にしたのは、鍵の取り付けやすさが理由じゃないでしょうか。」
「鍵の取り付けやすさ?」
「押戸は金具と南京錠でもつければそれだけで鍵になりますからね。引き戸でもそれ用のものが売ってたりはしますが、やはり押戸のほうが簡単です。」
「なるほど、それをつければ2重扉のロックが完成すると。じゃあYさんの違和感はこれが原因で」
「・・・というのが少し勘のいいひとなら気づく内容です。」
「うん?・・・馬鹿にされた?」
「おそらくですがその夫もこれには気づいたんじゃないでしょうか。奥さんの嫉妬深さを一番よく知っているのは彼でしょうから、彼女の目論見にはすぐに見抜いたはずです。」
「じゃあなんで、間取りを変えるなりほかの家にするなりしなかったんでしょうか?現に二人はそこに住んでいたわけですよね。」
「この監禁部屋なら問題ないと考えたんですよ。」
「問題ない?簡単に抜け出せるってことですか?」
「はい。よく考えてみると、人を監禁するにはこの部屋の構造は欠陥だらけなんです。まず第一に、この扉、部屋から見て内開きですよね。」
「あ、ほんとだ。」
「そうすると構造上、どうしても蝶番も内側につくことになります。なら、ドライバーでもあれば簡単に扉を開けることができるんです。蝶番を外せれば、扉も外れますから。」
「でも逆に工具さえなければ大丈夫ですよね?」
「はい。しかしなぜか、この家唯一の収納が寝室についています。その中に工具箱、無理ならドライバーの一つでも忍ばせておくのは簡単です。」
「確かに・・・。」
「そうやって一つ扉を抜ければ、あとはもっと簡単です。同じように扉を外してもいいですし、それ以前に次の部屋には窓があります。」
「そう考えると、この部屋に人を監禁するのは難しそうですね。だからこそ旦那さんもこの家に住むのに反対しなかったと。」
「意外に抜けてるところもかわいいな、なんて考えていたんじゃないでしょうか。それ自体が罠だとも知らずに。」
「え、罠?」
「雨白さん。この家、部屋が少なくないですか?」
「そうですかね?寝室、キッチン、トイレにお風呂もあって、客間もありますね・・・。必要な部屋は全部そろってる気がしますけど・・・。」
「確かにそろってはいますが、最低限だけです。収納はもう少しあったほうが便利ですし、客間やそれ以外の部屋、将来子供が生まれたときのことを考えれば子供部屋だって必要になるでしょう。」
「うーん、いわれてみればそうかも・・・。でもスペースがなかっただけじゃないですか?」
「いえ、それが理由ではないはずです。2階建てにすればスペースは増やせますし、そもそもYさんは広い庭を気に入った、と言っていましたよね?だったら土地自体は充分にあったはずです。」
「あ、確かに。そう考えると部屋が少ない気がしますね。」
「それに奥さんは料理教室の先生でした。それにしてはキッチンも変です。」
「・・・あ、コンロがIHだ。」
「そうなんです。最近のIHは温度を一定に保って煮込んでくれたり便利になっていますが、料理をよくする方にとってはやはりガスのほうが人気です。それにこのキッチンで料理が出来上がったとして、夫のいる寝室まで運ぶのは大変です。家の端から端まで移動するような構造で、鍵のかかった扉を2つも通らなければいけないですから。」
「料理がさめちゃう・・・。見れば見るほど不便ですね。なんでこんな間取りにしたんでしょう。」
「あー、これから話すことは私の妄想です。なので話半分で聞いてほしいんですが、この家にはもう一つ、本当の監禁部屋があるんじゃないでしょうか。」
「もう一つの監禁部屋?そんな部屋どこにあるんですか?」
「おそらくですが、寝室の収納に地下への隠し扉があるんだと思います。そこはキッチンから何までそろった本当の監禁部屋につながっている。それならこの家自体がいくら使いにくくても問題ないですよね。」
「上の間取りは油断を誘うためのカモフラージュで、実際に生活するのは地下だから・・・。」
「それの根拠になりそうなのが、またキッチンです。雨白さん、キッチンのそこにあるこの半円状の、なんだと思います?」
「えっと、Hさんが不動産屋さんに聞いたときは換気扇だって言われたらしいですけど・・・。」
「換気扇が間取り図で、こんなに大きく描かれることはめったにありません。これ、地下室のキッチンにつながる煙突じゃないかなと思うんです。」
「不動産屋さんが嘘をついたってことですか?」
「一般的にはありえないですが、確か不動産屋は刑部狸だったんですよね。魔物娘の不動産屋によくあることなんですが、二人の性活を応援する!とかで、独占欲が強い魔物娘のためにそういうことをする場合が結構あるんです。夫に気付かれないように監禁部屋を用意する、みたいな。」
「へえ、そんなことまでしてくれるところもあるんだ。」
「まあ最終的には夫のほうも妻さえいればいい、となるので誰も不幸にはならないんですが。」
「なるほど。つまりまとめると、この家は前の奥さんが旦那さんを自分だけのものにするために作った家で、それを知っているHさんと不動産屋さんが共謀して、今度はYさんを監禁しようとしている、ということですか。」
「前の夫婦がこの家をもういらなくなった、といったのは、監禁しなくても夫が妻以外目に入らないくらいに依存してくれたから、という解釈もできますよね。」
「なるほど・・・。普通に魔界とかに引っ越すんですかね。」
「あくまで私の妄想です。実際に確認するなら、Yさん一人で内検に行って、煙突や寝室の収納をよく確認するのがいいんじゃないでしょうか。人間の私やYさんからすれば、最終的にはハッピーだとしても、監禁されるのはやっぱり遠慮したいですから。いやあ、妻がそうじゃなくてよかったです。」
「そうですかねえ。」
「まあ依頼を受けたのは雨白さんですから、どうするかはお任せします。よければどうなったかは教えてくださいね。」
「はい、忙しい中ありがとうございました。」
電話を切った後、私はHさんに電話した。伝えた内容は、プロの建築士さんにも見てもらったが、特に変なところはなかった、と。それを聞いて安心してその家に住むことに決めたらしい。
白蛇の私としては、やっぱり旦那さんを監禁して、自分以外を見ないでほしいというのは当然だと思うし、Hさんもそのほうが幸せだと思う。きっとこの先二人はもっと幸せになるだろう。それの手助けができたことを少し誇らしく思いながら、私は眠りについた。
ちなみにこの話を黒原さんの奥さんにしたらとても食いつきがよかった。次にあの不動産屋さんを使うのは彼女たちになるかもしれない。
24/05/26 16:52更新 / ぱうんどけーき