ネコマタ
ある日、青年は湖へ釣りに行っていた。
その日暮らしの青年には湖の釣りや山への採取がとても重要であるため、毎日欠かさず行っているのだ。
そんな青年が天候など気にするはずもなく、快晴の午前中に身を任せて釣りに出向いていき、
午後、天候は急にぐずりだして、突風と大雨にみまわれてしまった。
釣り道具と軽装だった青年に嵐の被害を退けることもできず、ずぶぬれになりながら、家路へ着いていた。
そんな時、茂みに、ある動物を見つけた。
大雨に打たれて、突風に吹かれてもピクリともしない一匹の傷ついた猫。
青年は一目みて、そのまま過ぎ去った。
しかし、それは自分のイメージでしかない。
正式には「過ぎ去りたかった」
青年自身の足はその瞬間に立ち止まっており、傷ついた猫を心配そうに眺めていた。
青年がなぜ過ぎ去りたかった。といえば
上記のとおり、青年は「その日暮らし」であり、ペット一匹飼う余裕などないからだ。
その他、変なごだごだに巻き込まれたくないという 表面的な思いは数多く浮上するが。
深遠に潜む 「猫を助けてあげたい」という思いが一方通行を防いでくれていた。
青年は困惑した。
このまま助けてあげることは容易だが、継続するのはとても難しい。
だからといって、このまま置き去りにするのも天罰が喰らってしまうのではないか…。
…。
青年は考えることをやめた。
考えてしまうから困惑するからだ。
傷ついた猫を、雨で体温が打たれぬよう、風で過度な刺激を与えぬよう優しく包み込むように腕に抱いた。
家に帰宅し、ぼろぼろになった毛布で体温が奪われぬように、猫の体を包み込んであげる。
横で、猫の姿を眺めている青年の瞳から、 涙がボロボロと流れてくる。
こんなにひどく傷ついてしまった猫の看病もろくにできないなんて…。
青年は、自分の存在がどれだけ粗末なものか身をもって知った。
材料があれば、食べ物が作れるのに。
ミルクがあれば、温かいミルクを飲ませてあげられるのに。
無力さに嘆くことしかできなかったからだ…。
翌日、傷ついた猫はまだ瞼を開くことはない。
いつか、瞼を開くその時が来たら、お腹いっぱい食べさせてあげたい。
青年はそう決心して、庭で農業を始めた。
安定した食料、安定した収穫量を得るためには、農業が一番だと考えたからだ。
生まれて初めての農業に、慣れない手つきで青年は戦っていた。
傷ついた猫のために…。
それから二日後。
野菜の成長は青年の焦りとは異なりスローペース。
収穫量も時間が経たないと安定してこない。
それを知った青年は、いつ目覚めてもいいように
農業と共に採取、釣りを行うようになった。
その日、疲れて帰ってきた青年を見たものは、ボロボロの布団の中で微かな動き。
すぐに猫の状態を確かめようと近寄り…。
「にゃぁ」
と、かわいらしい声が耳へ届く。
無事に瞼を開けてくれた喜びと、嬉しさを胸に押し込めて。
青年はこの猫が食べられるようモノを貯蔵庫から漁り、食べさせてやった。
その時、青年はあの時感じたモノよりも、大きな幸福感でいっぱいだったことに気付く…。
そしてこの猫との出会いは青年の人生を大きく変えた。
誰かのために 生きるとは こういうことなんだ。
この猫と暮らそう。
この猫と平凡で幸せな毎日を送ろう。
そのためにも、僕が頑張らなくては…。
そう心の中で決心を固めた青年。
それから二年の月日が経っただろうか。
あの時拾った猫の体調は右上がりによくなっていった。
あの日から一週間して猫は歩けるまでに回復し、頭を撫でたり、じゃれたりして遊んでいた。
仕事の合間にそんな姿を見ると。
いつまでもこうしていたいという思いが強くなり。
更に仕事へ取り組めている青年。
そんな幸せな日々。
だが、青年は不思議に思っていたことがあった。
この猫は、じゃれてきたり、頭を撫でたりするのを好きなはずなのに。
たまに好きではないような、離れようとするしぐさを見せるのだ。
過度なのは嫌いってことだろうか。
青年は深く考えようと、しなかった。
――――――――――――――――――――――――――――
そんなある夜。
採取に釣りに農業という作業の連続で、慣れている青年でも、疲れがドッと体を押さえつけた。
今日はもう寝よう。
青年は猫の世話を終えると床へ着いた。
「ご主人さま……ご主人さま…」
青年は、まどろみの中で女性の声を聞いた。
しかし気にもしない。
疲れているから、疲れてもう、一歩も動きたくないからだ。
「もぅ、無理…です、私、我慢できません…」
何か聞こえるのだが、しっかりと聞こうと青年の耳はしなかった。
「ご主人様といると体が火照って疼いて仕方ないです」
ご、主人…?
脳みその血液が流れていないかのように、処理がうまくできない青年。
「ご主人様は私を助けてくださった命の恩人です。そんな恩人にこんなことをして許されるはずないですよね」
ただ流れてくる振動を受け取るだけの青年は目も開けず、夢と現実の狭間がよくわからなくなってきた。
「でも、二年間ずっとずっと我慢してきました…。もぅ、いいですよね?抑えきれないんで…す」
熱っぽい吐息が聞こえ、僕の下半身に微かな体重がかけられた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日、とても心地よい目覚めが青年を迎えると同時に、心臓が飛び出すくらいの驚きが襲った。
青年の横で、耳の生えた症状がすやすやと眠っていたからだ。
青年の腕に、彼女は腕を絡めて幸せそうに眠っていた。
「んぅ…」
力のない呟きと共に、少しずつ瞼が上がっていく。
「ご主人…様…?」
青年はそう呼ばれて、昨夜の微かな記憶がめぐってくると同時に、一つの可能性が浮かんだ。
もしかしたら、この子は、僕が助けた猫ではないか。
青年は思うと同時に、その点について耳のついた少女に問う。
「そう、です。その通りです…!」
「私は猫の妖怪、ネコマタです…。ご主人様にいのちを助けて貰った猫です!」
少女はとても喜びに満ちた表情をしていた。
「ずっとずっと、この姿でご主人様と話してみたいと…思っていました…」
ぎゅっと腕を更に絡めてくる。
「ご主人様が、私のために頑張ってくれている姿、ずっと見ていました」
青年の目の前まで顔を近づけ。
うっとりとした表情を浮かべる少女。
「本当に、本当にありがとうございます…。よろしければ、ネコマタの私を、ご主人様のお傍に置いてくださいませんでしょうか…」
青年は突然の事実に驚きつつも。
正確に判断していく。
この子は僕が助けた猫。
僕はこの子のおかげで今まで生きてこれたのかもしれない。
感謝するのは僕の方なのかもしれない。
青年はそう思い、少女の頭を撫でてあげた。
すると、少女は「うにゃ…」と甘い声を上げて、目を細めた。
「僕からもお願いするよ、猫の姿であろうと、ネコマタの姿であろうと、僕が助けた君であることには変わりないんだ…。一緒にいてほしい…」
ぱぁぁと花が咲いていくように、笑顔に満たされてくる少女。
「君には、僕が持っていないものをいっぱいもらったんだ、いつも僕の傍にいてくれて、本当にありがとう…」
「ご主人様っ…! はいっ!」
「これからもよろしく、ね…?」
「はい、よろしくお願いします、ご主人様…!」
その日暮らしの青年には湖の釣りや山への採取がとても重要であるため、毎日欠かさず行っているのだ。
そんな青年が天候など気にするはずもなく、快晴の午前中に身を任せて釣りに出向いていき、
午後、天候は急にぐずりだして、突風と大雨にみまわれてしまった。
釣り道具と軽装だった青年に嵐の被害を退けることもできず、ずぶぬれになりながら、家路へ着いていた。
そんな時、茂みに、ある動物を見つけた。
大雨に打たれて、突風に吹かれてもピクリともしない一匹の傷ついた猫。
青年は一目みて、そのまま過ぎ去った。
しかし、それは自分のイメージでしかない。
正式には「過ぎ去りたかった」
青年自身の足はその瞬間に立ち止まっており、傷ついた猫を心配そうに眺めていた。
青年がなぜ過ぎ去りたかった。といえば
上記のとおり、青年は「その日暮らし」であり、ペット一匹飼う余裕などないからだ。
その他、変なごだごだに巻き込まれたくないという 表面的な思いは数多く浮上するが。
深遠に潜む 「猫を助けてあげたい」という思いが一方通行を防いでくれていた。
青年は困惑した。
このまま助けてあげることは容易だが、継続するのはとても難しい。
だからといって、このまま置き去りにするのも天罰が喰らってしまうのではないか…。
…。
青年は考えることをやめた。
考えてしまうから困惑するからだ。
傷ついた猫を、雨で体温が打たれぬよう、風で過度な刺激を与えぬよう優しく包み込むように腕に抱いた。
家に帰宅し、ぼろぼろになった毛布で体温が奪われぬように、猫の体を包み込んであげる。
横で、猫の姿を眺めている青年の瞳から、 涙がボロボロと流れてくる。
こんなにひどく傷ついてしまった猫の看病もろくにできないなんて…。
青年は、自分の存在がどれだけ粗末なものか身をもって知った。
材料があれば、食べ物が作れるのに。
ミルクがあれば、温かいミルクを飲ませてあげられるのに。
無力さに嘆くことしかできなかったからだ…。
翌日、傷ついた猫はまだ瞼を開くことはない。
いつか、瞼を開くその時が来たら、お腹いっぱい食べさせてあげたい。
青年はそう決心して、庭で農業を始めた。
安定した食料、安定した収穫量を得るためには、農業が一番だと考えたからだ。
生まれて初めての農業に、慣れない手つきで青年は戦っていた。
傷ついた猫のために…。
それから二日後。
野菜の成長は青年の焦りとは異なりスローペース。
収穫量も時間が経たないと安定してこない。
それを知った青年は、いつ目覚めてもいいように
農業と共に採取、釣りを行うようになった。
その日、疲れて帰ってきた青年を見たものは、ボロボロの布団の中で微かな動き。
すぐに猫の状態を確かめようと近寄り…。
「にゃぁ」
と、かわいらしい声が耳へ届く。
無事に瞼を開けてくれた喜びと、嬉しさを胸に押し込めて。
青年はこの猫が食べられるようモノを貯蔵庫から漁り、食べさせてやった。
その時、青年はあの時感じたモノよりも、大きな幸福感でいっぱいだったことに気付く…。
そしてこの猫との出会いは青年の人生を大きく変えた。
誰かのために 生きるとは こういうことなんだ。
この猫と暮らそう。
この猫と平凡で幸せな毎日を送ろう。
そのためにも、僕が頑張らなくては…。
そう心の中で決心を固めた青年。
それから二年の月日が経っただろうか。
あの時拾った猫の体調は右上がりによくなっていった。
あの日から一週間して猫は歩けるまでに回復し、頭を撫でたり、じゃれたりして遊んでいた。
仕事の合間にそんな姿を見ると。
いつまでもこうしていたいという思いが強くなり。
更に仕事へ取り組めている青年。
そんな幸せな日々。
だが、青年は不思議に思っていたことがあった。
この猫は、じゃれてきたり、頭を撫でたりするのを好きなはずなのに。
たまに好きではないような、離れようとするしぐさを見せるのだ。
過度なのは嫌いってことだろうか。
青年は深く考えようと、しなかった。
――――――――――――――――――――――――――――
そんなある夜。
採取に釣りに農業という作業の連続で、慣れている青年でも、疲れがドッと体を押さえつけた。
今日はもう寝よう。
青年は猫の世話を終えると床へ着いた。
「ご主人さま……ご主人さま…」
青年は、まどろみの中で女性の声を聞いた。
しかし気にもしない。
疲れているから、疲れてもう、一歩も動きたくないからだ。
「もぅ、無理…です、私、我慢できません…」
何か聞こえるのだが、しっかりと聞こうと青年の耳はしなかった。
「ご主人様といると体が火照って疼いて仕方ないです」
ご、主人…?
脳みその血液が流れていないかのように、処理がうまくできない青年。
「ご主人様は私を助けてくださった命の恩人です。そんな恩人にこんなことをして許されるはずないですよね」
ただ流れてくる振動を受け取るだけの青年は目も開けず、夢と現実の狭間がよくわからなくなってきた。
「でも、二年間ずっとずっと我慢してきました…。もぅ、いいですよね?抑えきれないんで…す」
熱っぽい吐息が聞こえ、僕の下半身に微かな体重がかけられた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日、とても心地よい目覚めが青年を迎えると同時に、心臓が飛び出すくらいの驚きが襲った。
青年の横で、耳の生えた症状がすやすやと眠っていたからだ。
青年の腕に、彼女は腕を絡めて幸せそうに眠っていた。
「んぅ…」
力のない呟きと共に、少しずつ瞼が上がっていく。
「ご主人…様…?」
青年はそう呼ばれて、昨夜の微かな記憶がめぐってくると同時に、一つの可能性が浮かんだ。
もしかしたら、この子は、僕が助けた猫ではないか。
青年は思うと同時に、その点について耳のついた少女に問う。
「そう、です。その通りです…!」
「私は猫の妖怪、ネコマタです…。ご主人様にいのちを助けて貰った猫です!」
少女はとても喜びに満ちた表情をしていた。
「ずっとずっと、この姿でご主人様と話してみたいと…思っていました…」
ぎゅっと腕を更に絡めてくる。
「ご主人様が、私のために頑張ってくれている姿、ずっと見ていました」
青年の目の前まで顔を近づけ。
うっとりとした表情を浮かべる少女。
「本当に、本当にありがとうございます…。よろしければ、ネコマタの私を、ご主人様のお傍に置いてくださいませんでしょうか…」
青年は突然の事実に驚きつつも。
正確に判断していく。
この子は僕が助けた猫。
僕はこの子のおかげで今まで生きてこれたのかもしれない。
感謝するのは僕の方なのかもしれない。
青年はそう思い、少女の頭を撫でてあげた。
すると、少女は「うにゃ…」と甘い声を上げて、目を細めた。
「僕からもお願いするよ、猫の姿であろうと、ネコマタの姿であろうと、僕が助けた君であることには変わりないんだ…。一緒にいてほしい…」
ぱぁぁと花が咲いていくように、笑顔に満たされてくる少女。
「君には、僕が持っていないものをいっぱいもらったんだ、いつも僕の傍にいてくれて、本当にありがとう…」
「ご主人様っ…! はいっ!」
「これからもよろしく、ね…?」
「はい、よろしくお願いします、ご主人様…!」
13/02/04 20:24更新 / paundo2