読切小説
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その日の後に―真実の物語―
杏はその噂を確認するため、ある家の玄関を突き破る勢いで開けていた。

今まで、その噂は村へ広く広まっていたにもかかわらず杏は気にも留めていなかった。

それはただの「噂」であり、オビレが付いただけであると考えていたからだ。

あるはずが、ないと…。

「どうして、そんなの…」

しかし、今までそこにあったはずの「営み」は既に消え、家具はそのままだというのに、杏は廃墟のような寂しさを感じ取る。

それは、今まで描いてきた夢を壊された喪失感のようなモノに似ているのかもしれない。

空っぽのその家で、杏は膝から崩れ落ちそうになるのを何とか堪える。

嘘だと信じていたその噂は、現実になってしまっていた。

「あの言葉は、嘘だったの…?」

杏の耳にした噂というのは、魔物に助けられ「呪われた子」というレッテルを貼られてしまった「ヤミ」の両親が
自分達の意思で、この村を去ってしまったという話。

初めはそんな嘘を信じることはなかった。

なぜなら、旅立ちの時にヤミの母親が残した言葉を、今でも鮮明に覚えているからだ。


――――「ヤミ、何か困ったことがあったら帰って来るんだよ?」

母親は「ここがあなたの帰ってくる場所」という意を含めていたはずなのだ。


杏は、この言葉が嘘であるという疑いを持つはずもない。

それだけの判断材料が足りなかった。

「だって、あなた達の最愛の息子は、ヤミなのよ…」


杏の知り得ぬところで、思いは見事に裏切られてしまった。



ヤミが村を去って数ヵ月後の、残酷な出来事であった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

杏の両親と、杏は村長に呼び出されていた。

杏の両親は「ついにこの日が来てしまったか…」と不満そうな表情を浮かべるものの。

杏はこの日が来るのを待っていた。

寒さが一層強くなるこの頃、木枯らしにも負けぬ風が四人の間を通り過ぎていく。

「「呪われた子」の両親は自分達の意思でこの村を出て行った。それはなぜだかわかるか?」

ヤミの両親をわざわざ「呪われた子の両親」と称している部分、やはり、その類の話なのだと予想する杏。

村長は真剣な眼差しで三人を見つめるが、三人は口を固く閉ざしたままである。

「それはな、この一帯に「呪われた子」の噂が広まってしまって、もう住めるに住めなくなってしまったからだよ」



「そんな…」

杏は、ヤミがあっちの町でも幸せに暮らしていると思っていた。

誰も、ヤミの事情を知らないおかげで、ヤミが偏った見方や行為を受けていないと。

それは違っていた。

「忍野家、あなた達にも出て行ってもらいたい。「呪われた子」に関わった不幸な者達よ」

ヤミに関わってしまったから、このような罰を受けてしまうのだ。

そういう風にも取れる村長の言い草。

全ての元凶は「ヤミ」のあるのだと示唆している。

「それぐらいの理由で、私達が引っ越すと思いますか」

杏の母親が酷く冷めた口調で村長へつき返す。

そんな母親に対して、杏は少なからず驚きを抱いていた。

なぜなら、杏の両親は目立ってヤミと関わろうとはしなかったからだ。

ただ単に、この村に愛着が湧いているのかもしれないとも取れるが…。

「私はヤミくんを影ながら見てきました。娘と友人になってくれる男の子がどんな子なのか…」

そんな杏の予想も、母親の一言でヤミへの好意とレールを変えた。

「「呪われた子」と噂されているのは知っていましたし、誰も近づこうとはしないのも知っていました…。だけど、ヤミくんは絶対に「呪われた子」なんかじゃありません」

強い意志を持った瞳が村長を射抜くと、居心地の悪そうなため息がこぼれ出た。


「ヤミは「呪われた子」だ。周りを不愉快にするし、ヤミを助けた魔物が何を企んでいるかわかったもんじゃない…」

吐き捨てるように村長は言うものの、母親の意思は揺るがない。

「私には、そんな理由はわかりません。しかし、これだけは言えます」


「杏は、ヤミくんといるととても楽しそうで…。ヤミくんといると、普段見せない笑顔を見せてくれます。それだけで、私達は十分なのです」

両親には見えないところで、杏は頬を少しだけ赤らめるのである。

「そんな、笑顔をくれるヤミくんを「呪われた子」などと言っているあなたに、屈したりはしません」

きっぱりと村長の言葉を切り捨てる母親。

「理由はそれだけではない、「呪われた子」に関わったあなた達に対して、村人は不満が積もっている。
 ヤミが消え、ヤミの両親が消えたものの、忍野家が残っていては、また不幸を撒き散らすだけだと…。平和に暮らすことなど、できないと…。
村人達の声を聞くのも、村長の役目なのだよ…」

だから、わかってくれ、仕方の無いことなんだよ。と村長は最後に付け加えた。

しかし、すっきりと晴れることのない疑問が溜まっている杏が前へ出る。

「…お母さんとお父さん、後はあたしに任せてほしいの。」

振り向かないで、杏は後ろの二人へ投げかける。

杏はこの日を待ち望んでいた。

それは、村長と一対一で話し合うこと。

「…そうね、ヤミくんと仲のよかったのは私ではなくて、杏だものね。杏じゃなければわからないこともあるよね」

村長を意地でも説得する気でいた母親は一瞬驚いたものの、快く頷き、父親も頷いた。

「俺達にできることがあったら、言うんだぞ?」

「うん」

父親が杏の頭を撫でるが「そんな年じゃないよっ」と控えめに手を押しのけた。


そうして父親と母親は杏を置いていくのを心配に思いながらも帰宅し、その場に残った杏と村長はお互いに目を合わせる。

「あたしはずっと怪しいと思ってた、最初からずっとね…」

空間に、杏の静かで鋭い声が響き渡る。

「ヤミに「呪われた子」という汚名を着せることによって、村人の興味はヤミへ注がれ…それが当然の行いだと思うようになる。でも、本人とあたし達は違う」


「どうしてヤミをそこまで追い詰めるのか、あたしはとても不思議だった」

「ヤミを追い出すためだが?」


「根本的な違い。それを正しいと認識させるマインドコントロールのようなものですか?あたしはそうじゃないと思います」

傍観者である村人達はそれが「正しい行い」だと勘違いしていた。

それは、「呪われた子」が周りに撒き散らす不幸を取り払うための、正義の行動であると…。

「何が言いたい?」

「そうしている本人がしらばっくれても無駄です、今までの行動は根本的な所で間違っているとあたしはずっと考えていました」

冷静な声が村長の言葉を掻き消すように響く。

「ヤミが「呪われた子」というレッテルを貼られたのが、魔物に助けられてしまったからだと言うのなら、村長であるあなたは真っ先にその魔物を退治するべきでしょう

あなたは村人達の声を聞くのも村長の役目だと言っていましたが、村人の安全を守るのもその一つであるはずです。

ましてや、村人達はその魔物が襲ってくるという恐怖に怯えていました。そうするのが得策です。

そして、村人であるヤミに対して付けられた「呪われた子」という汚名を晴らしてあげるのも、あなたの役目でも、あるはずなんです。

どうして、ヤミを追い詰めるなんて回りくどいマネをしなければいけないんですか…?」


今まで、ヤミと過ごしてきた杏だからこその考察を述べる。

無駄な時間を過ごしてきたわけではなかった、ただ単にヤミから笑顔を貰うだけではなく、杏はヤミのために何かしてあげたかった。

その思いがこの考察へと行き着くのである。

ヤミの両親もその点については疑問に思っていたはずだ。しかし、村長がその噂について助長をしていることに気づいていたので強く出ることできなかったはず。

それはヤミも同じで、村人と両親は村長の思惑にハマっていってしまった。

だからこそ、杏は村長と一対一で話がしたかった。

村長の真意を確かめるために…。

「…杏、君は精神力がとても強いようだね」

「あたしは今まで、そうやって育てられて来ましたから」

はぁとため息をつき、村長はそばにあった切り株に腰掛ける。


「ここまで言われてしまったら、話すしかないようだね」

村長はその固く閉ざしたような表情を緩める。

「私の妻は、あの魔物に殺されてしまったんだ」

「えっ…」


杏は目を開いて、驚きの声をあげてしまう。



「私が若い頃の話さ、私はある病気にかかってしまったんだ。その病気を治すために妻は、雪山にある薬草をとりに言った」


それから、村長は過去の出来事をなつかしむように話した。

杏は、村長がときおり見せる遠くを見つめる、寂しそうな瞳を見逃さなかった。

「妻は冷たくなって返って来た…。その手には薬草が握られ、雪山へ続く足跡が残されていた」

「それって、ヤミの時ととても似てる…」


「そう、とても、ね…。私が今生きているのは妻のおかげなんだ。」


ぐっと拳を握った。それは魔物に対しての怒りを抑えるためなのか、それとも涙を堪えるためなのかは定かではないが。

杏には、また、ある意思が強く浮かぶ上がってくるのである。

「それって、本当にあの魔物が殺したんですか?」

「何を言うか!!、妻はとても冷たかった…あの魔物が息根を止めたんだ…!!」

「…それって、紛れも無い嘘ですよね」

村長の話に耳を傾け、悲しみに満ちた心から一変、杏は確信した。

村長は誰にでもわかってしまうような嘘をついていた。相当、動揺しているのだと。

「魔物が殺した人をわざわざ村へ置いていくようなマネするとは思えません、それも、あたしを支配しようとするための言葉ですか?」


「…」

「魔物はヤミを助けました。そしてきっと、魔物は村長の妻を助けようとしたはずです、ですが…間に合わなかったのではないんですか?」


「っ!?」

村長はついに、その動揺を表へ向けた。

「やめてくれ、それ以上、言わないでくれ…」

杏は村長の言葉でわかってしまっていた。

「…村長、あたしはあなたとずっと過ごしてきたわけでもありませんし、友人みたいに親しくもありません…。しかし、客観的であるからこそ見える真実があると思います」


「あなたは、妻の死を誤魔化して生きているのではないですか」


「誤魔化してなんかいない!!私はずっと妻の死を背負って生きてきた」

「それを魔物に押し付けて、自分は何もしていないと…?」

「なにっ…」

「はっきり言います。あなたが、自分の妻を殺したんです…」

殺意の篭った視線が杏へ向けられる。

村長は妻の死を「魔物が殺した」という風に位置づけて、自分は何もしてないと責任逃れをしていた。

「これでようやくハッキリしました…。村長の意図が…」

杏は少ない言葉で語られた村長の、過去の話を聞くとすぐにその推測が浮かび上がってしまっていた。

村長は妻の死を魔物に押し付け、自分の安心を確保しようとしていた。

しかし、内心はわかっていた、自分が妻を殺したのだと…。

表向きでは魔物が殺したのだと思い、しかし自分が殺したという思いと重なり…行動には矛盾が生じてしまっていた。

魔物が妻を殺したと思うのであれば、真っ先に魔物を殺すべきであるのに、内心に残る思いがその行動を阻止し、ヤミを追い詰める行動へ変化する。

「ヤミの身を守るためだったんだ…そのために私はわざとヤミの「呪われた子」という噂話を流して、彼らを追い出そうとした。そう、魔物から遠ざけるために」

そうしなければ、きっと、自分が殺してしまったという事実に行き着いてしまいそうで怖かった。

そして、そういった行動を取らなければ、更に自分に矛盾が生じてしまいそうであった。そう解釈する杏。

「村長、いい加減真実に目を向けてください…」


「うるさいっ、うるさぁぁぁぁぁい!!!お前達がいなければ、こんな苦しい思い、思い出さなくてもすんだのに…!!」

段々と俯いていく村長。

「苦しい…?あなたはヤミの気持ちを考えたことがあるんですか!?」

杏は、村長よりも更に威圧を上げて、叫んでいた。

その瞳には、殺意が交じり合っている。

「あなたが自分を誤魔化すために、ヤミがどれだけ苦しみ、苦労したことか…」

「ヤミは両親から捨てられてしまったんですよ!?あなたがあなた自身を誤魔化すために!?それがどれだけ辛くて、苦しくて、悲しくて、心が折れそうになるか…。
一度は考えたことがあるんですか!?」




「もうヤミの居場所はなくなってしまいました。だったらあたしがヤミの居場所にならなくてはいけないでしょう!?だから、この村から引っ越すことはできません」


俯いていた村長はゆっくりと顔を上げる。

「忍野家、お前達は強制退去を命令する」

「あんたは…!!」

歯と歯のこすれる音が不気味に響く。

「支度をして明日旅立て。それができなければ、忍野家ごと潰すまでだ」

杏はその言葉で気付く。

今、杏の味方は両親のみであり、他の村人達は村長の戦力として動くはずだ。

どうしようも、なくなっていた。

村長は真実から目を背いて生きて行くような選択をした。

ヤミに地獄を見せても、他人を犠牲にしても生きていこうとする道。

「…わかりました。両親にはあたしから話しておきます…。しかし、これだけは覚えておいてください」




「あたし達は絶対にこの村に帰ってきます。ヤミのために」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シロに助けられてから数日が経った、住処である洞窟の中。

シロは数日の間もずっとヤミとくっつき続け、時々ヤミと食料を取りに行っては、抱きしめ続けることに専念していた。


それは、ヤミを暖めてあげると同時に、ヤミとくっついていることがとても大好きだからである。



その中でも、シロはぽつりぽつりと話していくことがある。

今までこの雪山で出会ってきた魔物達のことやヤミと出会った日のこと。


過去に救うことができなかった女性のこと…。

シロは、それが村長の妻であることを知っていた。

村長はそれを誤魔化して、生きていることもよく知っていた。

「シロは俺達なんかよりも、ずっと本当のことを知っているんだね…」

「…うん」

「ねぇ、シロ。村へ下りて、本当のことを言おうよ?」

「…私は…ヤミといれれば…それでいい」

「俺は、シロと一緒に営んでいきたいと思ってるよ。今、シロばかりに頼っているのはいけないと思ってる。俺にも君と一緒に生きて行く手伝いをさせてほしいな?」

「…どうするの?」


「村を下りて、村で一緒に暮らそうよ…?俺のせいでどこかへ飛ばされてしまった杏も、俺の両親も…勘違いしている村人も、誤解を解きたいんだ」

「すべての、誤解を…」


洞窟で、寝そべりながら温めてくれるシロに、ヤミはそう提案をする。

「…ヤミの辛い…顔、見たくない…」

ポツリとシロは零す。

「少しだけ、我慢して」


更に強く、シロはヤミを抱きしめた。それは、「わかった」という言葉の示し。

「じゃ、行こっか」


「…うん」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


村人達はその二人を見ると、唖然としてしまう。

一人の村人は「呪われた子が戻ってきたぞ!」と噂を始めるが、隣にいる美しい女性の存在には疑問を浮かべるのである。

「一体、何があったんだ」

村人達の騒ぎを聞きつけたのか、村長が険しい表情を浮かべて、村人達があけた道を進む。

それほど、村人達は「呪われた子」が帰還したことを遺憾に思っているのであった。

「村長、話があってきました」

村長はヤミを見ると同時に、隣にいる白い毛皮を生やした美しい女性の存在に、ある予想が浮かんでくるのである。

「もう一度、俺をこの村に住まわせてください…!!」

村長の頬には汗が一つ伝う。

「ど、どうしてだ…?」

「俺にはもう居場所がありません、ここに住むことしか方法がないんです。この子と一緒に住みたいんです…」

手を繋いでいたシロとヤミはお互いにきゅっと握り締める。

深々と頭を下げるヤミに対して、村長は言葉を失ってしまいそうになるのを、なんとか堪える。

「だ、だめだ!…お前は呪われた子なんだ、ぞ…」

しかし、動揺でそんなことを口走ってしまう。

「村長、もうそんな誤魔化しはやめてください。俺は呪われてなんかいません。だって、俺はこんなにも幸せです…」

シロと顔を見合わせると、シロは周りの人の視線に怯えつつも、しっかりと愛おしい微笑みを返してくれる。

「この子から聞きました…。村長は今でも迷っているって、本当の道が、信じるべきものは何か、を…」

「…その子は…」

「村長の奥さんを助けようとした…魔物です」

予想が的中してしまった村長は、妻を村まで運んできてくれた魔物であるシロを見て、目を見開く。

「村長はとても難しい決断を迫られたはずです…。妻を殺して自分が生きるか、妻を生きさせて自分を殺すか。村長の奥さんは自分を殺して、あなたを生きさせたんです。

「やめてくれ、もうそれ以上…!」

「村長、あなたは奥さんを殺したんじゃないんです。奥さんが、あなたを生きさせてくれたんです。それにどうして気付かないんですか!?」

「えっ…」

「あなたは奥さんに託されたんです。生きることを。だったら偽らないで生きていかないでどうしますか!?気付いてください…」


「あ、あぁ…」

村長はヤミの言葉を聞いて、目一杯に涙を溜めていた。

杏の時と同じような苦しみが舞い戻ってくることはなかった。

それはヤミの優しさのおかげ、なのかもしれない。

「ヤミ…私はずっと君のことを「呪われた子」と称して、君をここ一帯から追い出そうとしていたんだぞ…。そんな私に…」

「それは確かに、あなたの意思もあったかもしれません…。しかし、魔物を殺さず、俺を魔物から遠ざけようとしてくれた。それは優しさでもあると感じています」

だって、魔物を殺してしまったら、俺とシロは出会うことはなかったはずなのだから、とヤミは心底思う。

「…うぅ…」

今までひどい仕打ちをして、自分を誤魔化すために犠牲にしたヤミという存在。

そんなヤミは、それを優しさだと判断して、村長を許そうとしている。

「村長…さん…あなたの…奥さんを助けて…あげられなくて…ごめん…なさい」

シロはゆっくりと、そう繋いで行く。

「でも…今度は…救いたい…!あなたの迷い…助けて…あげたい」

そんなヤミとシロの心広い優しさ、そして、自分の迷いを取り払ってくれる言葉をかけられた村長は泣き崩れ、嗚咽をもらしていた。

村長は感じる。

杏は全てを切り捨てでも、大切なものを守ろうとするのに対し。


ヤミは、全てをすくい取って大切なものを守ろうとする。

現に今、村長は迷いの呪縛からやっと、やっと解放されるのだった


「い、いつも…みんなには助けられてばかり…だな…」

少しずつ、村長は泣きながらも何とか言葉を発した。

「だったら、次は村長が俺達二人を助けてください。住むところの無い俺を、この子と一緒に住まわせてください…!」

深々と頭を下げるヤミに、村長はすぐに頭を上げてくれと頼んだ。



「ヤミにはここに住んでほしい。それが君の助けとなるのなら、是非っ…!」



「はい…ありがとうございます」

シロとヤミは二人で笑顔を交し合う。

これでやっと…本当の平和が訪れるのだと思うと、ヤミは安堵のため息をついた。






「全く…黙って聞いていれば見せ付けてくれちゃって…」

その時、背後で聞きなれた声が聞こえたヤミ。

もう長い間聞いていないような、そんな気がする。

「あたしは真実を提示して、切捨てでもあなたを守ろうとしたのに…。あなたは、大切なものを全て守っちゃうなんて」




振り向くと、そこには懐かしい、幼馴染の姿があった。

隣には、杏の両親とそして…。

「でもね、あたしも切り捨てるだけじゃないよ?あなたの大切なもの、すくって来たよ」

にっこりと満足げな微笑を浮かべる幼馴染、杏の隣には

杏と同じくらい会っていない、この世界にたった二人しかいない。

両親の姿があった。

「母さん、父さん…!」

久しぶりに見る両親の顔は、数年前と変わらない。

「ヤミ、ごめんなさい…あなたを捨てていくようなマネして」

「父親、失格、だよな…?」

申し訳なさそうに呟く両親に対して、ヤミはもう、そんなことはどうでもいいという思いが流れ込んでくる。


今ここで会えたことだけで、ヤミはよかった。

生きていることがわかっただけで、ヤミは満足だった。

「母さん、父さん…また、ここで一緒に過ごそう?幼い日々みたいにさ」

「ヤミ…許して、くれるのか、俺達のことを…」

「当たり前だよ。だって俺の父親と母親は、目の前にいる二人、なんだよ?」

その優しさが溢れる言葉が耳に入ってくると、瞳が潤み始める母親。

微笑み、頷く父親。


ヤミは両親に対しての思いが最大限に達してたのか、涙を零して両親の元へ飛び込んだ。

「おかえりなさい、そして、ただいま…ヤミ!よく頑張ったわね、辛かったでしょう、苦しかったでしょう…?」

母親はヤミを優しく抱きしめて、頭を優しく撫でる。

父親は「よく、頑張ったね…」と呟いて、ヤミの肩へ力強く手を置いた。


「呪われた子」という恐怖も怯えもない。

ヤミへの愛溢れる本当の家族の姿が、そこにはあった。

「あなたが、ヤミを支えてくれた子?」

コクンと頷くシロは優しい瞳でヤミの再会を見届けていた。

「そぅ、あなたがあの時、ヤミを助けてくれた魔物なのね…」

また頷くシロも、あの日の再会を思い出しているのか、ゆっくりと口元に笑みを浮かべる。

「あなたがいなければきっと今のヤミもない、わ…本当にありがとう…。これからも、ヤミをよろしくお願いします」

「私からも、ヤミを支えてくれてありがとう…。これからもヤミを支えていって欲しい。私たちができなかった分まで」

両親はシロへ、今まで自分達の変わりをしてくれていた御礼と感謝の意味を込めて、頭を下げた。


杏はそんな家族の再会を静かに眺めていた。

「杏、戻ってきてくれたんだね…。どこかに飛ばされたと聞かされた時は…もう会えないって…」

「もう、何泣いているの…。あたしは戻ってきたの、それでいいしょ?」

重そうな荷物を体重を掛けて、微笑を浮かべる杏。

「あぁ…本当にありがとう」

杏は口にはしないものの、シロの存在について少しだけ羨ましく思うのである。

全く…見ないうちに綺麗な子見つけちゃって…。

不意に杏はそんなことをしてみたくなったので、してみた。

ちゅっ。

とヤミの頬に、微かに柔らかいモノが当たる。

「えっ…?」

と同時に、遠くでヤミの両親と会話をしていたシロがすごいスピードでヤミに抱きつく。

「浮気…だめ…」

「へっ…?」

いつにもまして強く抱きしめて、口を尖らせるシロ。

そんな見たことの無い表情を浮かべるシロを見つけることが出来て、嬉しいと思うヤミでもあった。

若干、表情に乏しいシロである。

「ううん、これがあたしのなりのケジメだから…」

小さな声で呟く杏の声を、ヤミは聞き取ることができなくて聞き返すが、さらりと流されてしまう。

「…これで、やっとヤミを救うことができたね」

ヤミはみんなを見つめる。

今まで拒絶してきた人達も、笑顔でヤミを迎えてくれていた。

村長は優しい微笑を浮かべて歓迎してくれている。

両親は目の端に涙を浮かべながら、再会を喜んでいる。

「これでやっと、始めることができるね」

杏はヤミへ笑いかけて、新たなスタートを喜んでくれる。

「…ヤミ…嬉しそう…私も…嬉しっ」

深く腕を組みながら、シロは満足そうに呟く。

それは、シロの中の、過去の償いができたからであろうとヤミは考える。

そう、またここから始まる。

ヤミとシロが出会ってから、繋がってきた物語。


また新たな始まるを見せるのであった。

「ヤミ…末永く…よろしくね」

「あぁ…」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――









「ねぇ、パパー遊ぼうよっ!」

小さな体に白い毛皮を生やした少女が、この村の村長である男性の腕にくっついたままダダをこねていた。

「パパ…遊ぼう…」

こちらも、膝の上に座りながら、村長としての仕事をこなしている男性の姿を眺めながら、もう一人の、白い毛皮を生やした小さな少女は言う。





「あなた…仕事ばかりで…つまらない…」

二人の少女を大きくしたような女性が、村長である男性を膝に座らせて、抱きしめていた力をぎゅっと強くする。

「これじゃあ仕事ができないよ…」

男性を膝に座りながら、抱きしめている女性と。

女性の膝に座りつつ仕事を進める男性と。

男性の膝に座りつつ、仕事を眺める少女と。

男性の腕に捕まりながら、のんびりとした表情を浮かべる少女。


三人は男性が大好きで、いつもこんな感じなのである。


そんな奇跡の物語。

ヤミとシロの、永遠に続く物語。



13/01/11 22:24更新 / paundo2

■作者メッセージ
ということで、感想で頂いた「杏の行方が知りたい!」という声を元にして
その日の後にの全体的な続編を書きました。
すいません、かなり雑っぽいです。ごめんなさい!!
その場の即席で作ったのであっちこっち物語飛んでます。
矛盾、脱字誤字あったらすいませんでした。
それでは、ここまで読んで頂きましてありがとうございました。
pixiv ameba twitter とか色々やっておりますので
是非ご覧になってください。製作状況とか報告してますw
後、イナズマイレブンが面白すぎて全然仕事が手につきません、助けて。

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