連載小説
[TOP][目次]
3.さぁ、邪悪な舞台の開演だよぉ
夕暮れの時刻暗い森の中をカンテラを片手に30人ほどの
教団の兵隊達がガシャガシャと行進していた

「結局3人帰ってこなかったなぁ」
「あぁ、逃げた魔物追っかけてったって話だがな
これだけ広い森だ、道に迷ってるのかもしれない」
「大方とっ捕まえてヨロシクやってんじゃねぇか?」
「バカを言うな、我々は教団の兵だぞ?汚れるだけだ」
「ご立派、教団兵の鏡。」

無駄口を叩きながら歩き続ける兵士たち
ふと先頭を歩く兵士とその後ろを歩く白金の
鎧と純白のマントを羽織った剣士が足を止めた

「あそこです勇者様」
「うむ、だが物静かだな」
「大方隠れてるのでしょう」

勇者と呼ばれた剣士が大きな声で
兵士たちに命令をする

「者ども!木の根草の根を分けて魔物を探しだせ!
村長が見つかり次第私の下に連れてくるのだ!
他の魔物や村人は村の中央に集めるのだ!」
「「「「「「「はっ!!!」」」」」」

兵隊たちは散り散りになり家の中、井戸の中
納屋や備蓄倉庫を片っ端から
探し出したが誰も見つからなかった。

「居ない!」
「こっちもだ!」
「何処行きやがった!!」

「ひひひひ・・・・・・・」
「ん?」

若い兵士が奥の井戸からかすかな笑い声に気が付いた
辺りを警戒しつつ井戸へと近づいて行った

「この辺りだったよな・・・・・?」

だが井戸の周りを見ても中を見ても何も見つからない。
気のせいだったかと思い戻ろうとして振り返ったその時
井戸の中の影に音もなく引きずり込まれた

「ひひひひひ・・・・・先ずは一人」

別の場所では2人の兵士が物置小屋の中に
置いてある樽や桶、干し草を片っ端から
引っ掻き回ていた

「どうだそっちは?」
「ダメだ入口はおろか穴すらない」
「ハズレか・・・・・」

ふと気が付くとドアが閉まっている
風か引っ掛けたかで閉めてしまったかと思い
開けようとしたがドアが開かない

「おい!扉が開かないぞ!」
「くそっ!罠か!」
「ハイ残念・・・・・ひひひひひひひ」

悲鳴の一つもなく影に飲み込まれてしまった。
その後も一人、また一人と静かに少しづつ人数を
減らしていく。7人ほど影に沈めた所で
兵士がにわかに騒ぎ始めた。
兵士の一人が勇者に報告に向かった

「申し上げます!」
「どうした?!」
「兵士約数名の行方が分からなくなりました!」
「何っ!?」
「音もなく、いつの間にか居なくなっているとのことです!」

勇者は罠に掛られたと思った瞬間辺りに声が響いた

「ひひひひひひ・・・・『影よりはい出せ 黒蛇の巣』」

辺りの影から大量の鎖が飛び出し
兵士たちに絡みつき始めた

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なんだこりゃぁぁぁぁぁ!」
「影から鎖??!!」

次々と鎖に絡めとられ影の中に引きずり込まれる兵士たち

「なんだこの鎖は!?」

しかし勇者は匠な剣捌きと身のこなしで鎖を撃ち落とした

「へぇ・・・・捌く奴がいるとはねぇ」

勇者以外全ての兵士が影に引きずり込まれた後
妖しく冷たい声が村全体から響き渡る

「誰だ!何処に居る!!」

木の影の中から黒樹がずるりと現れる

「一網打尽にするつもりだったけど・・・・・
アンタベテランの隊長さんかなんかかい?」

勇者は影から現れた黒樹を見据えて剣を構える

「勇者パレルナ・ゼームだ。貴様こそ何者だ?
私は男の魔物なぞ見た事も聞いたことも無い」
「まだ人間さ。魔導師だよ。」
「魔導師だと?そんな邪悪な魔力を持つ魔導師は初めて見た。」
「やれやれ、これだから神側の糞共は・・・・・」
「なにぃ!?神を愚弄する気か!!」
「光ある所闇あり、闇ある所光ありだ。
光が全てなんて思い込んでんじゃねぇよブァーカ。」
「既に魂まで堕ちたようだな!勇者の一撃で闇に帰るがいい!」

パレルナの持つ剣がメラメラと燃え始めた

「『炎よ悪しき者を切り裂け!フレイム・バーン』!!」

剣を振ると炎が球状に飛び黒樹を襲った
しかし爆炎が一瞬にしてかき消えた

「なっ!?!?」
「いやいや中々美味い術式だ。ご馳走さん(ゲップ)あ、失礼」
「フレイム・バーンを受けて無傷だと!?!?」
「言いそびれたけど、俺に術の類は効かないぜ」
「くっ、防御魔法か。ならば『神の名において命ずる
呪文よ消え去れ!呪文消滅(ディスペル)』!」

掌から球状の光が放出されるが
黒野に当たった瞬間、口に吸い込まれていった

「だから・・・・・無駄だって・・・・・・言ってるだろ?」

モグモグと口を動かしながら放たれた光の球を
吸い込んでいく黒樹。それはどう見ても魔法を
食べている様であった。そんな事が出来る人間は
おろか魔物ですら、見たことなぞ無いパレルナは
驚愕の表情で唖然としていた。
その表情を見た黒樹は、下三日月のような笑いを浮かべた。

「察したみたいだな?その通り!俺は術式の類が喰えるのさ!」

そんな馬鹿な!とパルレナは思った、思うはずである
普通魔法は、打ち消したり躱したりして、対処するのが基本
魔力の強い魔物や、魔法に秀でた物が手で受け止める
事があるとは、聞いた事はあったが、魔法を食べるという事自体
思った事も考えた事も無かった。

「うぉぉぉぉぉ!『悪しき者を灰燼となせ、プロメテウス』!!」

パレルナは魔力を集中させ巨大な炎の塊を作り
黒樹に目掛け放った!

「くぁ〜!こりゃ美味そうだ!」

しかし黒樹は舌なめずりをしながらそう言うと
巨大な炎の塊を食べ始めた。
ずるずる、もぐもぐ、んぐんぐと咀嚼しながら
見る見るうちに巨大な炎の塊は飲み込まれていった

「じ・・・・上級魔法ですら・・・・・」
「ひひひひひ・・・・うめぇ・・・・」

初めてだった。魔法が効かない魔物と戦った事は
それなりにはあった。しかしそれは与えるダメージが
少なかったり、防御魔法や加護が備わっている防具で
相殺されていたからである。しかしこの魔導師は違った
魔法を食べられてしまう、見た事も聞いた事も無い
異質な相手だった。落ち着け!私は勇者だ!
魔法が効かなくても剣で切れば良い!

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

パレルナは自らを奮い立たせる様に叫び
剣を構え黒樹に猛進した。しかし黒樹は
避けようともせずただ立ち尽くしていた
油断?慢心?何かを狙っている?
巧みな足さばきで警戒しつつ
近づいていく、しかし黒樹は何もしてこなかった
何を狙っている!?何を考えている?!
なぜ何もしてこない?!
意を決してパレルナは踏み込んで
剣を振り下ろした!大きく袈裟懸けに
切断されて倒れる黒樹
拍子抜けするほどあっさりと倒してしまった?
いや!切り口から血が一滴も流れてない!

「魔術がダメなら剣ってか、まさしくテンプレだわ」
真っ二つの黒樹が下三日月の様な笑みを浮かべながら
そう言うと鎖の塊へと姿を変えた。
パレルナが切ったのは鎖で出来た人形だったのだ

「『闇より生まれ狂気を宿せし我が鎖
わが身を映せ形を成せ 鎖人形』」

黒樹の詠唱辺りから響き渡ると地面から
鎖が飛び出し何体もの黒樹の姿を形どった

「さ〜ぁ、魔導師の意地悪ク〜イズ。本物はど〜れだ?」

何体にも別れた黒樹がパレルナの周りを取り囲み
滑る様にグルグルと回り始めた

「ひひひひひひ・・・・上手く当てられたらキャンディのご褒美だよぉ」

間違いない、こいつは完全に弄んでいる!自分を甘く見ている!
舐めきっている!これは許しがたい侮辱であった
いいだろう!勇者パレルナ・ゼームの全力を拝ませてやる!
パレルナは剣を水平に構え呪文を唱え始めた

「『神より受け賜いし光の小片
無辜なる民の祈りと願いと共に
聖剣に宿りて闇祓う一筋の閃光となれ!』」

詠唱と共に剣に光が集まっていく

「魔法が喰えるとは驚いたが所詮は魔に属する者!
神の力そのものは喰えまい!全員薙ぎ払ってやる」

剣が朝日のごとく輝きを放ちパレルナは叫んだ

「『ジ ャ ッ ジ メ ン ト !』」

呪文と共に剣を全力で振り抜くと、斬撃の軌道が
光となってパレルナを中心に一瞬で全体に広がっていった

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・・どうだ!恐れ入ったか!
・・・・・これが・・・・・勇者の・・・・全力だ!」

全身から疲労感を滲ませる、奥の手であるのは明白だった
周囲を囲んでいた黒樹の人形達はことごとく塵になった
勝利を確信し剣を収めようとした瞬間足元から鎖が飛び出し
絡みついていった

「うわっ!」

体勢を崩した所を鎖によって絡めとられてしまった。

「ひひひひひ・・・・・ご明察だよ勇者パレルナ・ゼーム
神の力や光を主体にした術式は苦手でねぇ」

土の中から黒樹がずるりと這い出して来る

「何故だ!何故生きている!全て切り倒したはず!」
「ひひひひひひひひ・・・・お答えしましょう
初めまして、勇者殿。俺が本体の魔導師・黒樹博信です」

黒樹初めから土の中に居たのだった。
そこから鎖を伸ばし人形を作って操りながら
影の中を出入りしながら兵士たちを引きずり込み
パレルナと戦った。いや、本人は戦ってすら
いなかったのだった。

「くっそぉ!殺せ!」
「悪いがそれは出来んな。契約があるもんでね」
「どういう事だ!」
「さぁ、知らんよ」

黒樹は村人たち全員が非難の準備をしてる時に
村長の妻であるナーデリアからこう頼まれていた
兵士たちを殺さないで欲しいと

「お前ら運がいいぜ。本来なら敷地内に入った瞬間に
全員食い千切ってたんだからな・・・・ひひひひひひひ」
「お前は・・・・お前は一体なんなんだ!!!!」
「俺は魔導師。狂気を糧とし、闇を纏い、魔と共に歩く魔導師よ
あ、面倒だから気絶しとけや『黒雷』!」
「ギャアァァァァァァァ!!!」
「これにて依頼完遂っと。ひひひひひひ・・・・・」


寒気のする様な笑い声が辺りには響いていた
18/01/03 02:54更新 / ultra食いしん坊
戻る 次へ

■作者メッセージ
はい、そんな訳で第3話です。
主人公、性格悪いんですw
根は悪くないんですが変な所が
捩くれてるんですww

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33