読切小説
[TOP]
電子の楽園 3アカウント目
目を開けると教室程度の広さの部屋に立っていた。
妖精が目の前に浮いて歓迎の挨拶をしてくる。

「えー、このたびは――」
意味の無い前口上は聞き流す。

「―――以上が禁止事項です。マナーを守って他のプレイヤーと仲良くプレイしてくださいねー!」
最後に禁止事項を説明されて終了。
わざわざ説明されなくても常識で考えれば分かることだらけだ。

「あ、そうだ。下僕設定はONにしますかー?」
下僕と何なのか。

「下僕というのはプレイヤー一人一人につくサポートキャラです。
 ヘルプ機能も兼ねているのでぜひONにして冒険することをオススメしますよー?」

目の前に現れるウィンドウ。選択肢はON,OFFの二つだけ。
オススメというならONにしておいた方がいいだろう。

「はい、設定がONになりました! あなたが自分の部屋で目を覚ませばすぐそばに下僕がいるので、細かい説明は彼女に訊いてくださいねー!」
妖精の声とともに、視界はホワイトアウト。
次に視界が戻った時は部屋の中。


「初めまして。……認めたくないけどあなたが私の主人ね」
声のした方を振り向くと金髪の女がこちらを見ていた。
ずいぶん綺麗な女だ。まあ、ブサイクなキャラなんて誰得だから存在しないんだろうけど。

「ジロジロ見ないでもらえる? 気持ち悪いから」
……どうやらかなりきつい性格らしい。こんな下僕といっしょに冒険なんてできるのだろうか。

とりあえず目の前の下僕がどのくらいの強さなのかステータスウィンドウを開いて見る。
えーと、下僕の項目は……うわ、すごっ!

彼女のステータスはあらゆる面で自分の二回り以上の数値だった。
さらにHPの自動回復や、一部の魔法への耐性など、
はっきり言ってLV1でこれは破格なんじゃないかと思える強さだ。

主人が自分のステータスを見て目を見開いていることに気を良くしたのか、向こうから話しかけてくる。
「どう? 私とあなたどちらが強いか分かったでしょう? 主人だからといって調子にのらないことね」
気にくわない言い方だが、事実その通り。
戦闘では大いに役立ってくれるであろう彼女にはそれなりの敬意を……って、んん?

彼女のステータスのページをめくりながら、見ていたら種族名が目に入った。
種族:ヴァンパイア。
そしてその下に並ぶ、種族固有のスキルたち。

「……何なのその目は」
ヴァンパイアの種族固有スキル。それはマイナススキルばかりだった。
昼間はステータス半減。一部魔法への防御力が0。
一定期間主人から吸血しないと経験値ロスト。
イベントは日中進行のものが多いらしいから、思ったほどの戦力にはならなそうだ…。


「あなた何考えてるのっ!? こんな真昼間から外に出るなんて!」
人間は昼行性だからこれが正しいんだよ。人通りも多いから情報収集もしやすいし。

しかしそこら中を女が歩き回っているが、誰も彼も人外女だな。
腕が翼だわ、下半身が蛇だわ、青色半透明だわ。
彼女のような純粋な人型はあまりいない。

「よく見なさい。瞳とか牙とかちがうでしょう」
どうやら人間扱いされるのは嫌らしい。しかしなんでこうも刺々しいんだ、こいつは。
気になってウィンドウを開くが忠誠度とか敵対心とかのパラメータはない。

……エサでもあげれば少しは懐くだろうか?

人のいない路地裏にヴァンパイアを連れ込む。
彼女は変なことするのかと警戒した感じだが、自分にそんなことする度胸はない。

「こんな所に連れてきて何の真似?」
元から低いご機嫌度がマイナスに突入しているのか、イライラ感が目に見える。
そんな彼女に腕を突き出す。ほれ、食え。

「……何してるのあなた?」
なにって食事だよ食事。吸血。経験値ロストが怖くないのか? 
まあ、自分達はまだLV1だけど。

「腕に口付けて吸えっていうの? 蚊じゃないんだから馬鹿にしないで」
そう言われてもな。採血は普通腕からするものだろ。

「仕方ないわね。結局主人の血液無しにはいかないわけだし……」
ヴァンパイアはブツブツ言っていたが、飲んでくれるらしい。
よしよし、餌付け第1段階終了―――あん?

ヴァンパイアが抱きついてきた。
え? この当たってるのなに? 胸? ヤバイ、柔らかい。
首筋に彼女の息が当たる。うお、何かゾクゾクする。
ペロリと濡れた感触。舐められた?
サクッという微かな音と共に、情報ウィンドウが開く。

『パラメータが追加されました』

自分のステータス一覧に蝙蝠マークの謎ゲージが新しくできた。
その目盛りは%表示。
なんか自分の横のコクコクって音と一緒に値が上がってるんですが……。

1分ほどで吸血が終わったのか、ヴァンパイアは身を離した。
「ふう………悪くない血」
そりゃ仮想世界なんだから、現実で貧血だろうが高脂血症だろうが関係無かろうよ。
よほど血が美味かったのか、ヴァンパイアは赤く染まった顔でポーッとしている。
こうして見ると可愛いなあ。…おっと追加された謎ゲージのことを訊いておかないと。

「吸血されたらゲージが増えた? それは……秘密」
おいまて、ヘルプ機能はどうしたんだ。
「そのぐらい自分で調べなさい」
言うなりプイッとそっぽを向いてしまった。
はいはい、分かりましたよ。ウィンドウヘルプを…え? こっちにも説明がない?

その後色々調べてみたが、関係ありそうな情報は出てこなかった。
まあいい。突然戦闘不能になるとかそんなことはないだろう……たぶん。


「これで終わり、と」
モンスター扱いの野犬にトドメをさし、ヴァンパイアが血を払うように振って鞘に納める。
まあ実際に血なんて出ていないけど。その辺はちゃんと表現規制がかかってるから。

「ほら急いで。夜の間に森を抜けるんでしょ?」
自分より前を進むヴァンパイアが振り向いて声をかける。
配達イベントを受けた自分たちはいま夜の森を進んでいる。

配達イベントは低レベルプレイヤーお決まりの依頼で、
時間をかけて回り道の街道を通れば比較的安全にそれなりの金が得られる。

モンスターとエンカウントしやすい森を突っ切れば相当早く終わるが、低レベルではまず無理。
全滅してセーブポイントに戻るのが、無謀で短気な冒険者たちの末路だ。

そして楽に横断できるLVになったころには、身入りの少ない配達イベントなんてやる奴はいない。
そんな感じの障害物としての森なのだ。

しかし。
「ああもう! あなたがノロいからまた絡まれたじゃない!」
木の陰から出てきたスライム2匹とエンカウント。まあ、夜のヴァンパイアなら瞬殺だ。

無謀で短気な冒険者である自分はヴァンパイアが強化される夜の間に急いで森を抜けてしまおうと考えたのだ。
ヴァンパイアが先頭に立って敵をガシガシ倒し、自分はその後を金魚のフンのように付いていく。
昼でないなら彼女のステータスは高いし、HPの自動回復もあるため休まず戦い続けられる。
我ながら良い手を思い付いたと思う。

しかしこれも彼女が自分の頼みを聞いてくれるようになったおかげだ。
吸血のたびにあの謎ゲージが増えていることを自分はすでに知っている。
そしてゲージが増えるにつれ彼女の態度もだんだん軟化していった。
やっぱアレはなつき度とかそういうものを表すゲージなんじゃなかろうか。

「……なに生暖かい目で見てるの? キモイ」
軟化したんだ、これでも。

なんとか夜の間に森を抜けられて無事配達イベントも完了。
でも徹夜で動き続けたから眠い。宿屋で仮眠を取ることにする。
公式運営の宿屋は最低価格。スライム1匹で3日は泊まれる異常なお値段。
受付で個人部屋をとり、部屋に入る。最低価格なので中身は質素。
なお主人と下僕のペアは一人として扱われるため、個人部屋でもベッドは2つある。

疲れたので靴も脱がずベッドにゴロンと寝転がる。あ、見苦しい姿を見せるなとかなんか言われるか。
そう思いヴァンパイアのお小言に身構えたのだが。

「……お疲れさま。ゆっくり休んでちょうだい」

一瞬耳がおかしくなったかと思い聞き返したら、さっさと寝ろと怒られた。
そうだよな。彼女が労いの言葉をかけるとか有り得ないし、気のせい気のせい。
彼女に背を向けて目を閉じたら、すさまじい勢いで睡魔が襲ってきた。
意識が途切れる瞬間に首筋に温かい息を感じたがそれも気のせい。


目が覚めた。えーと、今は……深夜かい。
仮眠のつもりだったのに完璧に熟睡してしまった。
ん? 自分の前に通知ウィンドウが開いている。

『ゲージが100%に達しました』

ステータスを確認すると蝙蝠マークのゲージが100%になっていた。

あいつ寝ている間に吸ったのか。
しかしわざわざ通知してくるということは、何か変化があるのか?
期待と不安に通知ウィンドウのページをめくると、新スキルを習得しましたと書かれていた。

スキル? いったい何を習得したっていうんだ。そう思いながらスキル一覧を見た瞬間固まった。

昼間のステータス半減。一部魔法への防御力が0。
…ヴァンパイアの種族スキル。

おい、おいおい、ちょっと待て!
すぐに自分の種族の欄を見る。そこに書かれているのは種族:人間。
ホッと一息。自分がヴァンパイアになったんじゃないかと焦ったがそんなことはなかった。

しかしそうするとこれは何なんだ? 
そんな感じでウィンドウを前に首を傾げていたら、何者かが声をかけてきた。
「おはよう、旦那さま」
―――誰だ!? 

自分の下僕にそっくりだが聞いたことの無い声。そいつが何かしたのかと振り向く。
そこに立っていたのは下僕のヴァンパイアに瓜二つの誰か。
「そんなに見つめないでよ。恥ずかしい……」
女と付き合ったことなど無い自分でもわかる、恋する乙女の顔。

……ステータスウィンドウから下僕の現在地を検索。
こんな偽者を用意していったいどこをほっつき歩いているんだあいつは。
検索完了。えーと、下僕の現在位置は―――。

「ひどい。私は本物なのに……」
―――自分のすぐ横。

まじまじと目の前の女を見つめる。なに顔を赤くしてるんだ、おい。
「ごめんなさい…。どうしても我慢できなくて」
我慢できなかった? ああ、吸血のことか。別にそんなことはどうでもいい。
それよりこの状況を説明してくれ。

「あなたに追加されたゲージ、100%になっているわね?」
確かに謎ゲージは満タンだが。
「私のようなヴァンパイアに血を吸われ続けるとゲージの数値が増えていって、
 100%でヴァンパイアの種族スキルが身に付くの」
まて、自分の種族は人間のままだぞ。なんでヴァンパイアのスキルが身に付くんだ。
「それは分からないわ。バグなのか仕様なのか、主人の種族は変化しないのよ。
 でも―――」
ヴァンパイアが身を寄せる。
「私には分かるの。あなたはもう私と同じだって。ステータス上の種族なんて関係ない。
 あなたは私の主人に相応しい存在になった」
今まで見せたことのない優しい顔でヴァンパイアは微笑む。

……やばい、かわいい。マイナススキルを習得してしまったこととかどうでもよくなった。
これがツンデレって奴なのか? 
自分を馬鹿にして嫌っていたのに、たった一つのきっかけで態度が反転してしまうとは。

今のヴァンパイアはすっかり従順になってしまった。
自分を旦那さまと呼び、こちらの機嫌をしきりに気にする。
非道な奴なら今までの意趣返しをするんだろうが自分はしない。紳士だからな。

しかしもじもじしながらヴァンパイアが驚くべき発言をする。
「あの、私に罰を与えないの?」
どうやら彼女は以前の態度を咎められると思っているらしい。

……一応、罰は与えておくか。そうすれば向こうも罪悪感が消えて楽になるだろう。
さて、どういう罰を与えるか……やっぱ子供の定番、尻叩きにしておくか。
おい、後ろ向け。尻を出せ。
「は、はい……」
命令通りにヴァンパイアは後ろを向き―――おいィ!?
なにスカートをめくってるんだよ!? それどころか下着まで下ろして生尻が見えてるぞ!
「どうぞ旦那さまの気が済むまで私の尻を叩いてください……」
ここまでの描画はアウトだろ!? ずいぶん綺麗な尻だなー。え、なにこの展開? 
頭の中で思考が混線する。

「あの、どうしたの…?」
尻を眺めていた自分に彼女が声をかける。
おおう、そうだ。自分は罰を与えるんだった。

手を振り上げ――いや、叩く前にちょっと触っておこう。
「ひゃっ……!」
尻をさわさわと撫でられてヴァンパイアが声をあげる。
まあ、叩かれると思って撫でられたら驚くかもしれんな。

しかしすべすべで実に良い手触りだ。青白い月光と合わさって見た目にも美しい。
あー、やばい。なんか勃ってきた。アレ? この世界でも立つモノは立つのか。

やっぱ尻叩きは止めることにする。
その代わりこのゲームではどこまで進むことができるのかの実験台になってもらおう。

下着を足元まで降ろせ。というか全部脱げ。今の貴様に服を着る権利はない。
「は、はい…。わかりました……」
ふっちゃけ今の自分はかなりエロい雰囲気を漂わせていると思う。
でも今の返事は恐れるどころか、何か期待するような感じだった。

全裸になったヴァンパイアが自分に正対する。
真っ赤になった彼女は体を隠したいのか、腕を揺らめかせている。
そして自分の感想しては。

ありえねー! なにこれ!? 乳首とか陰毛とか完全に描画されてるじゃん!?
このゲームいつから18禁になったんだ? 倫理機構にどれだけ裏金積んだんだよ!?

いやだって、ただのゲームなら肉体をここまで描画する必要ないだろ?
誰が何のためにここまで細かく作り込んだんだ?

童貞の自分としては、ここまで作られていることに外見以上の期待をしてしまう。
もしかして、しゃぶってもらうぐらいなら…。

「あの、できれば初めてはベッドでお願いしたいな…」
それには同意。自分も初めてはベッドの上がいい。

ヴァンパイアはベッドの上に横たわると足を広げて自分を誘う。
「ど、どうぞ。来て……」
くぱぁ、と開いた穴から粘液が零れ落ちシーツに染みこむ。

ほ、ホントにできるの? 直前で課金されるなんてことないよな?
まあ、金を請求されても今の自分なら即決で全額払うけど。

ヴァンパイアに近づき足を抑える。二人の体重が集中しベッドがきしむ音を上げた。
じゃ、じゃあ行くぞ…! バーチャルセックスで童貞卒業はどうかと思うがここまできたら我慢できん!
彼女の穴にゆっくり挿入する。
うぇっ! なにこれ!? これが女の中?

彼女の膣内は熱くてドロドロ。
さらにちんぽを締め付けるようで、今までにしたどんなオナニーよりも気持ち良かった。
……だから、入れた途端に射精しても責められるいわれはない、と思う。

「え? 旦那さま……もう!?」
ヴァンパイアは全く盛り上がらないうちに主人が中に出してしまったことに拍子抜けしたようだ。
でもしょうがないだろ。自分は童貞なんだから。

「そ、そうよね! あなたは初めてなんだものね! も…もう一度する?」
彼女は自分を励ますように声をかける。
なんか心が痛いが、このままおしまいとか情けなさすぎるので再チャレンジ。

「えっと、こんなのはどうかしら? これならあなたのペースで動けるけど」
ヴァンパイアは仰向けからうつ伏せになり尻を突き出した。
開いた穴から精液が零れ落ちる姿はすごいエロい。

「あ、ところでこの設定はどうする?」
彼女が言うと一つウィンドウが開いた。身長、体重、3サイズ……?
他にも様々な項目があって左右に動かすバーがついている。
「その辺りは自動設定のままにしておいて。だんだんあなた好みの体になるから。
 それより下の方を……」
ヴァンパイアが指差すのは妊娠確率の設定。今は0%になっている。
……そんなものまで設定できるのか。

「私は、旦那さまの子供欲しいな……」
…ヤバイ、やられた。
自分は別に子供なんて欲しくないが、なんて殺し文句。
現実ならこんな金髪美女が妊娠させてくれなんてオネダリすることはまずないぞ?
それにここは仮想世界だ。現実のようなしがらみなんてありはしない。
ゲームの中だからという無責任感に動かされ確率ゲージを一番右の100%に設定する。

「うふっ、嬉しい……」
ヴァンパイアはそんなに嬉しいのか、女性器から新しい液を垂れ流す。
よし、もう一度だ。さっき出したから今度は長くもつだろう。
「んっ……! あなたが、またっ…!」
ヴァンパイアに挿入する。相変わらず中は熱くてドロドロだ。
……このドロドロにはさっき自分が出した精液も混ざっているんだろうな。

彼女の腰を掴んで根元まで入れきった。
ヤバイ、何もしなくても気持ちいい。でも動くともっと……!

ゆっくりと腰を動かし抜き始める。こ、これはまた!
挿入時とは違う場所が刺激され、新鮮な快感を自分に与える。
そして抜けかけたところで、また深く…っ!

「はぁっ…あなたのちんぽ…良いわっ……!」
彼女もきちんと快感を受けているらしい。これで1ラウンド目の失点は取り返しただろうか。
ああ、でも限界。少しは耐久力が増したがもうダメだ。
自分の射精の予感を感じ取ったのか、ヴァンパイアが再びオネダリをする。

「あなた、もう出すのね…。お願い、中に出してっ…! 旦那さまの遺伝子ちょうだい…っ!」
仮想世界の精子に遺伝子などあるのか分からないが、彼女の望み通りたっぷり出してやる。
「んぐっ…! あっ……精子が子宮泳いでる……」
AIは精子一つ一つの動きまで感じているのだろうか。
「あ、群がってるっ…! おたまじゃくしが壁をつっついて…! 
 あっ、破れる! 旦那さまの精子が私の卵子と混ざるぅっ!」
受精の瞬間まで把握しているのか、子供ができたところでやっとヴァンパイアは力を抜いた。


事が終ったあと。
いろんな液体で汚れたベッドをどうしようかと思ったが、勝手に綺麗な状態に戻った。
まさか最初からこんなことまで想定して作られていたのかこの世界は。

少し気が引けるが、匂いも汚れもないのでそのまま寝ることにする。
そして同じベッドに寝たヴァンパイアはベタベタと自分にすり寄ってくる。

「ふふ……デキちゃったわねパパ」
分かっていてやったことだが、腹を撫でながらパパ呼ばわりは止めてくれ。
だいたい親としての責任なんてものは、最初から考えていないんだよ。
所詮は仮想現実、ゲームの中の子供だ。時々様子を見には来るが付きっきりで育てる気なんて無いぞ。
「もう、ひどいわね」
ヴァンパイアはブーと文句を言うがすぐに笑う。

「でも、あなたは必ず私の元へ戻ってくる。絶対に逃がさないわよ、旦那さま」
そう言う彼女の姿は美しくて、こりゃ確かに逃げられないなと自分は思った。


そして実際逃げられなかった。
しきりに寂しがるヴァンパイアを説得しログアウトしようとしたら。

『ログアウトに失敗しました』
繰り返されるエラーメッセージ。
その後の彼女の説明には、目眩がして怒りも沸いたがそんなしないで収まった。

もとから現実世界にロクな未来なんて無かったし、こんな美女が自分を愛してくれて、
飽きることの無い冒険がずっと続くというのだから受け入れてしまえば楽園だ。
……まあ、子供の分は責任が重くなったけど。



今日も月が昇った。
「あなたぁ、少しぐらいは旅をしましょうよ。隣町までのお使いぐらいなら良いでしょ?」
腹を膨らませたヴァンパイアが冒険しようというが自分はそれを諫める。
ステータス上は何の変化もないといっても、妊婦を戦わせたりするのは気が引けるんだよ。
それに今月中には子供も生まれるだろうし、そうすれば退屈なんてありえない育児の日々の始まりだ。


――旅に出るのはずっと後。子供がある程度育ったら親子三人で短い冒険に出てみよう。
11/10/31 16:58更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
話に出てきたツンデレの定義と合っているのか分かりません。



ここまで読んでくださってありがとうございました。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33