読切小説
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石に溺れる
自分は夏より冬が好きだ。いや正確には夏より冬が好きに“なった”というべきか。
気候自体は冷たく乾燥した冬より暑く蒸した夏の方が好きなのは変わらないが、そんなものは些細なことだとだと思えるほどの出来事があったからだ。

猛暑も過ぎて夜は過ごしやすくなってきた九月の下旬。
学校が終わった自分は特に寄り道することもなくすぐ家へと帰る。
誰一人いない家の扉を開けて『ただいま』と帰宅の挨拶をし、トントントンと階段を上がって二階にある自分の部屋へ。
ガチャリとドアノブを回し足を踏み入れたその中には、朝と変わりない姿で自分の帰りを待っている存在がいた。

骨のような翼と手足に生えた鋭い爪。
先端が尖った長い尾に二つの角を頭部に備えたそれは日本では馴染みが薄い『ガーゴイル像』と呼ばれる石像だ。
だがこの石像は一般のガーゴイルと違い怪物のような姿でなく、世にも美しい女性の形をしている。
その造形の見事さといったら、今にも動き出しそうなほど精巧かつ妖艶で、不特定多数が訪れる美術館にはとても展示できないほど。
自分はカーペット敷きの部屋の隅に設置されているそれに近づくと改めて『ただいま』と告げ、その唇に自分の唇を重ねた。
ただの石の塊にすぎない彼女はその行為に何の反応も返せないが、それは承知の上。
制服を脱いでハンガーにかけた自分は夜が訪れる前に食事や洗濯などの雑事を済ませておこうと、また階下へ降りて行った。

昨日着ていた服を洗濯機に放り込み味気ない夕食を一人で摂った後、部屋に戻った自分は裸になって石像の体を弄っていた。我ながら他人には見せられない姿だと思うが、童貞の青少年なら馬鹿にはしないかもしれない。
この石像はガーゴイル像に分類されるものだが、実質的には美女の裸を象ったものなのだ。
二つの大きな乳房は先端の乳首の穴まで掘られているし、股間の女性器はただのスリットでなく内部が空洞にまでなっている。
これを前にして性欲を抱かないなど、ホモか不能のどちらかだろう。
そしてそのどちらにも当てはまらない自分はこの石像に対して十二分に欲情している。

まずはその美しい顔に深い口づけをし、続いて大きな乳房を掌で無遠慮に触れる。
その硬さも温度も鉱物であり触り心地が良いとは言えないが、その程度で熱が冷めたりはしない。自分は石の味がするガーゴイルの唇を唾液で湿らせた後、頭を下げて胸の先端をペチャペチャと舐める。
石像は犬のお座りのような姿勢で台座の上に乗っているため股間付近は弄りづらいが、もし可能ならば勃起した男性器をなすりつけ挿入を試みさえするだろう。自分は少しだけカーテンを開けた部屋の中、窓からときおり外を眺めつつ一人で石像を愛撫し続ける。
そうやって自慰的行為を続けたまま十分近く。太陽が地平線の彼方に沈んで赤色が空から消え去り、完全に夜が訪れた頃。
ガーゴイルを縛めるように両腕に繋がれていた黄金の鎖が弾けるように消失し、命のないはずの石像がブルリと身を震わせた。
彼女はニタリといやらしい笑みを浮かべると、立ち上がって台座から降り、挨拶代わりに長い尻尾の先端でこちらの腿をペチッと軽く叩く。

「いつものことだけど、おまえって本当にこらえ性がないよなあ? 時間になれば相手してやるって言ってんのに、我慢できずあたしの体を触りまくるとか、躾のなってない犬か?」
馬鹿にした口調で言う石像だが、自分は犬どころか何とかを覚えたサル同然と思っているので腹なんて立たない。
そもそも本気で侮蔑しているわけではないと知っているし、仮に本気だったとしても魅力的な彼女を嫌うことなどできないだろう。

「いや、そこは怒るとこだろおまえ。
『オレサマをバカにしやがって、思い知らせてやるー!』とか言って襲いかかれっての。 そうすりゃ、おまえを返り討ちにして犯してやるってのにさ」
八割冗談、二割本気といった感じで笑いながら喋るガーゴイル。
当然のことながら、たった今台座から離れて動き出した彼女はただの石像ではない。
本物の悪魔が己の魂を石像に込めることで誕生した魔物だ。

彼女と自分が出会ったのは一か月ほど前の夏休みのさなか。
珍しく長期休暇を取れて家に帰宅した両親と共に欧州旅行に行った際、とある古城を見学していた時に出会ったのだ。
その時はまだ真性童貞だった自分は、城の隠し部屋で発見した彼女を相手に自慰を行い精液を放ってしまった。
ガーゴイルに限らずこの世界に潜む全ての魔物は男性を強く望んでいるそうで、石像相手に痴態をさらした自分をいたく気に入った彼女は、地球の裏側から自分を追ってはるばるとやってきたのである。

「さて、おまえはあんなに欲求不満だし夜は短いからなあ。さっさと始めるか」
『一緒にゲームしよう』というような軽さで性的交渉を求めてくるガーゴイル。
彼女が活動できる夜まで待てないほどに欲望が肥大化している自分は喜んでそれを受け入れる。
昼間は台座の上にいるからか、彼女は上に乗るのが好みなので、自分はベッドに向かい仰向けに寝た。彼女もベッドの上に乗るとこちらの腰をまたぐように膝立ちし、自らの手で女性器を開いてその中を見せつける。
にちゃっ…と大量の粘液を垂らしながら開かれた彼女の膣内。蛍光灯の光の下で見るその肉は肌と同じ灰色。だが滴る液体はれっきとした暖かさを持っており、その内部が人間同様に熱を持っていると分かる。

「それじゃ入れてやるけど、暴発とかするなよ? ん……んっ…!」
恥じらいもなく指で開かれていた女性器。彼女はそこに男性器をあてがうと、腰を下ろして飲み込んでいく。
ぬるぬるとした膣肉の感触が締め付けの快感とともに男性器から伝えられ、自分はつい反射的に腰を動かしてしまった。
不意に下から突き上げられた彼女は鋭い顔つきと裏腹に『ひゃっ!』と可愛らしい声を漏らした。

「ちょっ、おまえ、いきなり突っつくなよ! あたしのまんこは敏感なんだぞ!?」
少し怒りを含ませた声を出すガーゴイル。
彼女はかなり勝気な性格だが、不意打ちには結構弱いという面がある。
今のはわざとやったわけではないのだが、彼女は可愛い声で鳴かされたのを屈辱と受け取ったらしく、鋭い爪が生えた両手をこちらの腹にあてて動きやすい体勢になった。

「あーもう、あたしにあんな声出させやがって。…十倍返ししてやるからな!」
自分は『今のはわざとじゃ…』と言い訳しようとしたが、彼女は聞く耳を持たず腰の上下運動を開始する。
家に来て以来、一日も欠かさずまぐわっているというのに、それでも暴発しかねない彼女の膣内。灰色の肉ひだで覆われたそれはヤスリで男性器を削りとるかのように食らい付きうごめく。
そんなことをされてはこちらもろくに喋ることはできず、口からは快楽のうめき声しか出なくなった。

「ははっ、いい顔だな! あたしのまんこはそんなに気持ちいいか!?
 だったらもっとちんぽしごいて鳴かせてやるよ! そら! そらっ!」
頭の中が快感で塗りつぶされ、一方的になぶられている自分を見下ろし楽しげに笑うガーゴイル。もう十倍返しどころでない気がするが、彼女はそんなことお構いなしに腰を動かし続ける。
思考力がサルどころかネズミ以下に落ちてしまった自分は本能に任せて、体の上に乗っている女を相手に子作りの動作を行うだけだ。

「ありゃ、やりすぎて少しパーになっちまったか? ま、いいや。こっからはお互いただ楽しもうぜ」
さっきまでの攻撃的で刺々しい態度が薄くなり、彼女の動きから乱暴さがなくなった。
しかし激しさは弱まるどころかますます強くなり、男性器が第二の心臓であるかのように血液が集まり熱くなっていくのを感じる。

「はぁっ…おまえのちんぽ、どんどん硬くなってるな…! 昼間のあたしより硬いんじゃないのか? んあっ、深い…! えぐれる…っ! あたしのまんこが削れちまうっ…!」
ガーゴイルが石より硬いと評する男性器。
本当にそこまで硬くはないが、夜の彼女ならば肉の柔らかさを持った膣口を押し広げその内部をえぐることができる。
そして日が沈んで柔らかくなったのは女性器だけではない。
大きな胸は彼女が動くたびに揺れて欲望を煽り、長い尻尾はときおりうねって彼女が快感を受けていることを教えてくれる。
強く尻を握れば指がめり込むし、汗をにじませる太ももは一突きするたびに肉同士がぶつかる音を立てる。
何より挨拶しても完全無視の昼間と比べれば、彼女がきちんと反応を返してくれるだけで態度が柔らかいと言えるだろう。

「ああっ、おまえのちんぽ良すぎるっ! これじゃなきゃもう満足できねえよっ!
 おまえもそうだよなっ!? あたしのまんこじゃないと最高に気持ち良くなれないだろっ!?」
腰の動きを速めながら、おねだりする様に同意を求めてくるガーゴイル。
もしここで『隣の席の花子さんの方が気持ちいい』なんて言ったらどうなるか怖いもの見たさはあるが、自分が肉体関係を持っている相手はガーゴイルしかいないので他の女性とは比べようがない。
それにこの先に他の女性と関係を持つこともないだろうから『最高に気持ち良くしてくれる』のはこの石像だけだ。
彼女への好意を含めてそう口にすると喜色満面で彼女は笑う。

「ハハッ、そうだよな! やっぱりおまえにはあたししかいないんだよな!
 いいぜ、おまえの人生で“女”がやることは全部あたしがやってるやるよっ!」
彼女は言外に『一生離れない』と宣言し、膣の締め付けをさらに強める。
ただでさえ近づいていた射精へのタイムリミットがさらに縮まり、こちらの腰も早く強く叩きつけるようになった。
彼女の興奮もたかりに高まり、腰から生えた翼がバサバサと暴れるように羽ばたく。

「あ、出るか!? もう出るのか!? あたしのまんこに射精するってのか!? 出すならしっかり孕ませろよっ! おまえの子供を産む女はあたししかいないんだからなっ!」
隣の花子さんにしたなら大問題になるであろう膣内射精と妊娠。
だが今自分の上に乗っているのは無戸籍どころか存在すら公にされていない魔物だ。
人間ではないとはいえ、これほど美しい女に種付けできるというのは男冥利に尽きるというもの。自分は彼女の尻をしっかり押さえつけ、男性器を根元まで差し込んで放精を始める。

「おほっ、来たぁっ! ちんぽから孕ませ汁出てるっ! まんこの中にビシャビシャかかってるっ! んぁぁ、精液ぶちまけられんの最高ぉっ!
 おまえに種付けされんの気持ち良すぎぃっ! 絶対っ…絶対、孕んでやるからな! あたしの体は石だけど、おまえの種で妊娠してやるからっ! おまえの女が子供産むところ、必ず見せてやるからなぁぁっっ!」
自分にとって唯一の女であるということを強調するようによがり狂うガーゴイル。
そんな宣言をされれば、こちらも彼女にとって唯一の男たらんと種付け行為に力が入る。
渇水状態のダム湖になっても構わないとばかりに精液を体の奥底から搾り出し、彼女の体内へ注ぎ込んだ。

「はっ、はふっ……ふう、気持ち良かったぁ……」
荒い呼吸のまま翼と尻尾をくてっと脱力させるガーゴイル。
達した直後とあって少しは疲れているが、彼女は呼吸を整えればすぐにでも二回戦に突入できる体力の持ち主だ。だが自分は彼女と違って精力が尽きてしまっており、それなりに休憩しないと再戦はできない。
加えて明日は平日なので下手に夜更かしするわけにもいかず、今夜中にできるのはあと一回が限度だろう。そう伝えると彼女は残念がるような呆れるような声を出した。

「はーあ、あれだけあたしに欲情しといて、次で打ち止めとかあり得ねえっての。
 もう学校なんてサボっちまえよ。そうすりゃ朝までずっとできるだろ?」
非常に魅力的な提案をしてくるガーゴイルだが、それに肯くわけにはいかない。
他所は知らないが、自分の学校では無断欠席などしようものならすぐに親元へ連絡の電話が行く。そうなってしまっては放任主義の両親とて息子に一人暮らしさせること考え直すだろう。
彼女との関係を続けるには、今の生活を乱すわけにはいかないのだ。

「ふん、面倒だなあ人間社会ってのも。まあおまえがそう言うなら仕方ないけど」
先進国の教育システムをバカにするように鼻を鳴らした彼女は腰を上げて女性器から男性器を抜く。
すると開いた膣穴から精液がボタボタと垂れ、彼女はそれを右手で受け止めた。
そして口元へ運ぶと灰色の舌を伸ばし、見せつけるように口の中へと滑り落とす。
ゴクッと音を鳴らせ嚥下する喉の動き。それがとても淫靡に感じられ、少しだけ精力が回復した気がした。

「さてと、おまえが元気になるまで、あたしも少し休ませてもらうかね」
彼女はそう言うと添い寝するように自分の隣に横たわり、こちらを抱き枕にするように抱き付いてくる。
全身に密着する柔らかい肉体に欲情の炎が再び高まるのを感じるが、悲しいかな体の方がついてきてくれない。
彼女は可笑しそうにクックッと忍び笑いをしたあと、慈しむようにこちらの顔を胸元に抱き寄せた。

朝目が覚めると、ベッドには裸の自分が一人きり。
部屋の隅に目を向ければ、そこにはいつもと同じ姿勢で台座に座ったガーゴイルの姿。
強い願望があるわけではないが、肉体関係を持った相手とは同じ寝床で共に目覚めを迎えたいものだ。自分はそんなことを思いながらベッドから降り、動かない彼女に『おはよう』と告げて軽くキス。
そして学校へ行く準備を…と考えたところで思い出した。
今日は数学の小テストの日だというのに、まるで勉強をしていない。
『テストの点数が悪かったらそっちのせいだぞ』と文句を口にできない彼女に責任転嫁し、服を着始めた。



ガーゴイルが我が家にやってきて以降、自分の性生活はとても充実したものとなった。
そしてそれに反比例するように学業の成績は下降の一途を辿っていた。

何しろ朝のHRの時点で『早く家に帰りたい』と願ってしまい、授業中でさえふとした拍子に彼女と繋がりたいと考えてしまうのだ。
こんな精神状態で授業内容がまともに頭に入るわけがない。
それでいて帰宅したら復習をするわけでもなく、手早く家事を済ませてその後は眠るまで性欲を満たすだけ。冷静に考えたら将来のことが心配になるが、もはや一日であっても彼女とのセックスを断つことはできない。
休憩のさなかにそんな心中を打ち明けてみると、彼女はあっさりと解決策を提示してきた。

「それなら違う世界に行きゃいいよ。ここと違って魔物が大っぴらに歩いてる世界だから、そっちに引っ越せば問題解決だ」
当たり前のように異世界の存在を口にし、そこに住めばいいとガーゴイルは言う。
なんでもその世界はあらゆる価値観において肉欲が最優先される世界であり、そこならば社会不適合者まっしぐらの自分でも普通に生きていけるらしい。
他にも勇者やら魔法やら、細かい話を聞けば聞くほどその世界へ移住することが魅力的に感じてくる。
だがこの世界を出ていくとなれば、こっち側では完全に行方不明者として扱われることになるだろう。
一時的に里帰りすることはできても、日本社会の一員として生きていくことは不可能になると考えていい。この歳まで育ててくれた両親を切り捨てて、自分一人が幸せになるために迷惑をかけるのは……。

「嫌か? 働かずにあたしと一日中子作りするだけで食ってける生活を送るのは」
一般的な倫理観では堕落と呼ばれるであろうその生活。しかし今の自分にはそれこそ天国のように思える。
両親には悪いと思うが……天国行きのキップを手にするために必要だというならば、二人と別れることもやむを得ない。
『この世界を捨てる』と告げると、彼女は喜ばしいことだと笑った。

「そうこなくっちゃ…って感じだな、あたしとしては。これであたしと別れるなんて言ったら、無理やりにでも連れていくとこだったぞ?
 まあ、実際に行くのはこの子が生まれてからだけど。おまえはそれまで身の回りの整理とか、親への書き置きとかその辺りを準備しとけよ」
そう言ってガーゴイルは少し膨らんだ灰色の腹を撫でる。これは決して彼女が太ったわけではなく、その中に子供がいるためだ。
人間なら産まれるまで一年近くかかるが、石像の魔物である彼女の子は成長が特殊らしく、年末にはもう産まれてしまうらしい。
その日まで多く見積もっても一か月と半分。そのぐらいなら不審な行動がバレることもないだろう。

X−DAYまでの残り少ない日々、自分は不要になった私物を処分したり、異世界で役に立ちそうな道具を買い漁ったりして身辺整理をした。
両親への書き置きもすでに記しており、いつでも旅立てる状態だ。
そしてついにその日が来た。日が沈んで動き出した彼女が顔を歪めて息み始めたのだ。

「はあっ…う、ん……っ! お、おぉっ…!」
犬のような四つん這いの姿勢で身を強張らせ、腹に力をこめるガーゴイル。
人間とは違い羊水のようなものはこぼれておらず、膣液がいつも以上にあふれてカーペットの床に大きな染みを作る。
彼女の腹の膨らみは人間と比べてかなり小さいが、それでも出産となれば相応の負担があるのだろう。
苦痛はないと言っていたが、それ即ち安楽というわけではない。

「あっ…あっ…子供、あたしの子供が出てくるっ…! あたし子供産んでるっ…!」
彼女は石像の体で子を産めるのがよほど嬉しいのか、普段の顔つきを崩し舌を突き出してよだれを垂らしながら喘いでいた。
女性器の入り口は膣奥がのぞけるほどに開いており、子宮を抜けた胎児がじわじわと進んでいるのがこちらも見て取れる。
そう、見て取れるのだが……これは本当に子供なのだろうか?
角も髪もなく丸っこいだけの頭頂。正直、ただの大きい石にしか見えない……。

「く…あぁっ! 通ってる! あたしのまんこを子供が通ってるっ!
 ガバガバになっちまってるのに気持ち良いっ! おぅっ…! めくれてるっ…! まんこ肉がめくれて裏返っちまってるっ! おぉっ…出るっ! 産まれるっ! おまえの子供産んじまうぅっっ!」
電撃に打たれたかのようにピンと伸びる翼と尻尾。
その瞬間、灰色の肉ビラをめくり返らせながら、膣液まみれの石がドスンと重い音を立てて床に落ちた。
手足どころか、へその緒さえも付いていない濡れた石。
赤子というより、卵を象った石と表現したほうが正確なのではないかと思う。
そして出産というか産卵というか、とにかく大仕事をこなしたガーゴイルは疲れ果てて床にへばっていた。

「はひっ…子供…産んじまった……。へへ…これであたしも、お母さん…」
焦点の合ってない瞳でこの上なく幸せそうに呟くガーゴイル。
流石にその余韻を台無しにしようとは思わず、床に転がる石の処遇は彼女が回復するまで待つことにした。

「ん……よっ、と。ふひー、産まれたなあ」
出産の疲労をものの数分で回復した彼女は身を起こすと、四つん這いのまま子供に近づき己の体液にまみれた石を愛おしそうに撫でた。
しかし自分にはこの石が子供だとは思えず、どうするのかと訪ねる。
すると彼女はガーゴイル像についての説明を始めた。

「えーとだな、簡単に言うとあたしみたいなのが動くには魂と魔力の二つが必要なんだ。
 そんでこの子にはあたしたちの魔力とあたしの魂の一部が入ってるんだけど、それだけじゃあたしの子供じゃなくてコピーになっちまう。
 だから不完全な状態で産んで、今からおまえの魂の一部をこの石に込める。それで二つの魂が完全に混ざり合い、本当にあたしたちの子供になるんだ」
……何とも人外の魔物らしい繁殖方法だ。普通に腹が膨らんでいたから、そんなものだとは想像もしなかった。
自分は秘境生物の驚異的生態を知ったような気持ちになったが、それはそれとして魂とやらをこの石に込めなくては。
えーと、どうすればいいんだ?

「おまえは石に触れるだけでいいよ。あとはあたしがやってやるからさ」
お言葉に甘えて自分は生ぬるく濡れた石にぺたりと掌を当てる。
ガーゴイルがその上に掌を重ねたかと思うと、肺の空気が一気に押し出されたような感覚がして、一瞬めまいがした。

「ほい、これで魂込めもおしまい。見てなよ、可愛い子供になるからさ」
『どういう意味だ?』と疑問に思った自分の目の前で石の表面にピシリとヒビが入り、表面が割れて落ちた。
そのヒビは石のあちこちで発生し、透明な彫刻家が超高速でノミを振っているように人型を象っていく。そうして見る見るうちに卵型の石は母親の美しさを受け継いだミニガーゴイルとなってしまった。
彼女は彫刻が終わったとみるや、石の粉をパッパッとはたいて娘を胸に抱き上げる。
そしてこちらに顔を向けると目を細めて笑った。

「子供は産まれたし、引っ越す準備はとっくにできてる。早速だけど……行くか?」
何か心残りはないかとガーゴイルは意思を確認してくる。だが自分に心残りなどはなく、この時を待ち望んでさえいた。
自分は彼女の問いかけに『早く行こう』と答えを返す。
すると彼女はそれに肯いて台座を軽く蹴った。
何語で書かれているのかもわからない台座のプレートが光り出し、やがて眼を開けていられないほどに強くなる。
この光が消えて目を開いたときはもう違う世界だ。
これから始まるであろう彼女との堕落した日々。
それに大いに期待を抱いて自分は日本を旅立った。
19/04/21 18:40更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
リメイクされたガーゴイルさんは非常にエロいと思います。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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