読切小説
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アーカン・アサイラム
一口に悪人と言ってもその種類は様々で、厄介さを簡単に比べることはできない。
だがその中で最も厄介で迷惑で面倒なのは愉快犯だと自分は思う。
金が欲しいから盗む、恨みがあるから殺すというのは理解できる。
しかしただ面白いから、楽しいからなんて理由で犯行に及ぶのは全く理解できない。
そういう危険人物は二度と塀の中から出てもらいたくないのだが、自分が関わりを持っている連中はホイホイ脱出してくるのでストレスがやや溜まり気味だ。

四月も終わり、明日からはゴールデンウィークに入るという嬉しい日。
学校を終えて帰宅した自分は、ナナシノと表札の掲げられた玄関をくぐるなり居候の天使に詰め寄られた。

「やっと帰ってきたっ! もう、遅いですよムメイさんっ!」
去年の年末に拾った異世界の天使を名乗る女の子。
アンジェという名の彼女がここまで慌てふためくのは一つの事態をおいて他にない。
自分はため息一つ吐いて、彼女に訊ねる。また逃げ出したのか、と。

「ああっ、そう! そうです!
 アーカン病院から連絡があって、ダイヤの10がいなくなったって!」
アーカン病院というのは地元にある精神病院で、隔離が必要な重症患者を鉄格子つきの部屋に収容している。アーカンというのは『開かん』のもじりで、閉じた鉄格子が二度と開かないという意味で創設者が付けたらしい。
病院は病気を治す施設じゃないのか? と思わなくもないが、今はどうでもいい。
問題は逃げ出した奴だ。ダイヤの10というと……。

「そうです! トランパート四人組の中でも最悪なあのダイヤですよ!」
帽子屋と並び最も厄介な奴が脱走したと知り、うわー…と天井を見上げる自分。
去年の十二月以来、さまざまな魔物たちと追いかけっこして捕獲してきたが、
トランパートのダイヤは特に派手好きな面があり、最も面倒な魔物の一体なのだ。
病院スタッフには患者の管理をキチッとしてもらいたいが、魔法や特殊能力を用いる彼女らを何も知らない彼らが留めておくのは難しい。
そのため脱走されては捕獲して…のいたちごっこがずっと繰り返されている。

「ムメイさん! もう情けなんてかける必要ありません!
 今度こそ完全に息の根を止めましょう!」
殺害して二度と逃げ出さないようにしろと主張するアンジェだが、それに頷くことはできない。
自分は平和な日本で生まれ育ったただの高校生。
敵は人間じゃないと言われても、言葉が通じる相手を殺すのは怖いのだ。
せっかくの連休が潰れて、少し鬱が入るとしても。

「じゃあムメイさんはこの世界が魔物に侵略されてもいいんですか!?
 あなたの母親やクラスメイトが人間でなくなるんですよ!」
それとこれは話が別だ。
こっちの世界で『侵略者は容赦なく殺していい』が許されたのは昔だけなのだから。

今回逃げ出したトランパートのダイヤを含む、魔物と呼ばれる者たち。
アンジェの説明によると彼女らは異世界の邪悪な存在であり、特に自分と顔見知りの連中は『不思議の国』という場所から来たらしい。
その真の目的は不明だが、魔物の仲間を増やし悪事を働くのは確実。
アンジェはそれを防ぐために天界の命令で魔物たちを追ってきたのだそうだ。
現地協力者として勇者一人を作れる力を渡されて。

ところが、不運な事故でその力は漏出、さらにアンジェ本人も衰弱してしまい、
魔物と戦うどころか自身が生き延びるのも厳しい状況に追い込まれた。
最終的に雪が降る夜、家の前で行き倒れていたのを自分が発見し、
家事全般その他をやってくれるという条件で居候させることになったのである。

「いいですか、ムメイさん。そもそも奴らは―――」
ひたすら魔物抹殺を主張するアンジェに対し『殺しをする気は一切ない』と改めて告げる。今のところ犯行は収拾できているんだから、それで勘弁してくれ。
『この話はもうお終い』との意思を込めて自分はそう言い切る。
アンジェの方も打ち切られたその場で議論を再開する気はないのか反論はしなかった。
自分はようやく靴を脱ぐと、廊下を歩きながら脱走の話を細かく聞く。
それで、ダイヤが逃げ出したのは何時ごろなんだ?

「毎回のことですが正確な時間は分かりません。モブさんが三時ごろに病室を通りがかった時はいたそうですから、逃げ出したのはそれ以降の時間です」
彼女が口にしたモブさんというのはこちらの事情を知っている希少な協力者だ。
眠りネズミが起こした事件の最中に出会い、危うく魔物にされる所を自分が救った。
奇遇にも彼女はアーカン病院のスタッフであり、魔物たちに何かがあった際はすぐに連絡をくれることになっている。
それにしても三時以降とは……だとすると動き出すのは明日からの可能性が高い。
連休で人の移動が多くなるし、事を起こすならそれに紛れてやると思う。

「ええ、わたしもそう思います。でも何かする前に捕まえるのが一番です!」
犯行は未然に防ぐべきだと気炎を上げるアンジェ。
それには自分も同意だが、どうやって潜伏している魔物を探すのか。
そう返すとアンジェは自分の鬱が伝播したかのような顔になった。

「そうですよね……。今のわたしじゃ身を隠した魔物を探知するなんて…」
前述したように今のアンジェは弱体化している。
それは戦闘能力のみならず、探索方面についても同じだ。
ひっそり身を隠している魔物相手だと、相当の近距離にいない限りセンサーに引っかからないのである。
でもまあ、二人で鬱々していてもしかたない。明日から頑張って探そう。

「そっ、そうですよね! たとえギリギリでも凶行を阻止できれば…!」
アンジェは自分がかけた慰めの言葉で俯いていた顔を上げ、胸元でグッと両拳を握る。
幼さの強い姿も相まって、その様はとても可愛らしい。可愛すぎて欲望がこみ上げてくるほどだ。
では明日に備えて学校の疲れを癒そう。

「え? あっ…はい。頑張ってムメイさんの疲れを癒しますね…」
アンジェは少し頬を赤く染め、視線を逸らして恥ずかしげに自らの体を抱く。
自分は彼女の髪をそっと一撫ですると連れだって風呂場へと向かった。

『疲れを癒す』とは自分とアンジェの間でだけ通じる符丁だ。
ぶっちゃけてしまうと『セックスしたい』という意味であり、彼女がそれを拒否したことはない。
アンジェは家事の一切を引き受けてくれているが、それでも居候の身だ。
また『どうせ失うぐらいなら…』と半ば強引に自分を勇者にしてしまい、勝手に魔物との戦いに巻き込んでしまった負い目もある。
償おうにも金銭的価値のある物品など持っておらず、差し出せるものといえば己の肉体ぐらいしかない。
多大な迷惑をかけることへの謝罪と戦いの報酬として、アンジェは好きでもない男に身を委ねることにしたわけだ。

自分だって彼女の境遇に同情しないでもないし、拾った責任も多少あると思う。
しかしこれほどの厄介事に巻き込まれると知っていたら助けたかどうか。
勝手に勇者にされて『気にするな』と言えるほど自分は人間ができてはいない。
初めての時など被害者意識や彼女への怒り、初体験の興奮からかなり乱暴にしてしまった。彼女は文句こそ口にしなかったが、行為後に静かに泣いていたのは強く印象に残っている。
流石に女の子を泣かせてまで性欲を満たしたくはないので、それ以降はちゃんと彼女のことも気遣いながらやるようにしている。

夏至はまだ先で日中の時間が伸びつつあるこの時期。
蛍光灯を点けずとも、曇りガラスから入る夕日で十分明るい浴室の中。
湯船に浸かって汗のベタつきを落したアンジェはその未成熟な肉体をさらす。
何度セックスして羞恥の念は消え去らず、堂々とした態度ではないが、最初の頃のように恥ずかしさのあまり手で体を覆い隠すようなことはしない。

しっとりと濡れて落ち着いた感じの金髪。発達途上でまだまだ薄い乳房。
股間の毛はうっすらとしか生えておらず、肉の割れ目は丸見えだ。
ご近所さまに万一見られたら…と普段隠している翼もこの時は解放される。
一糸まとわぬ姿で天使の正体を現したアンジェはそっと身を寄せて抱きついてきた。
『キスは恋人同士がするもの』との理念を持つ彼女は唇の代わりに肌を触れ合わせるのだ。

「じゃあ…ムメイさん、今日はどういう風にしたいですか?」
恥ずかしがりながらも微笑んで訊ねるアンジェ。
緊張の顔で『あなたの好きにしてください』と言っていた頃に比べて、彼女はずいぶん積極的になった。
自分が『後ろを向いてほしい』と口にすれば、躊躇わずにそうしてくれるのだから。

「はい、わかりました。後ろからしたいんですね」
アンジェはこちらの背に回していた腕を解くと、180度回って壁側を向く。
さらに左手を壁につけて体重を支え、尻をこちらに突き出す。
そして開いている右手を股間へ寄せると、ぐぱぁ…と女性器を開いて見せた。

「ど、どうぞ…。おちんちん、入れていいですよ……」
何度交わっても綺麗な色をしている彼女の穴。
そこは水や汗と異なる粘度の高い液体を滴らせていた。
自分は彼女の腰を掴み、広げられたピンク色の肉に勃起した男性器の先端を当てる。
白い羽毛に覆われた翼がピクンと反応したのを確認すると、腰を前に進めて押し込んだ。

「ん…! あ、あ…! 来て…ますっ! ムメイさんの、硬いのっ…!」
幼めで小柄な外見どおり、アンジェの膣内は狭くてとてもきつい。
肌より高い熱とぬめりをもって男性器をギュウギュウ締めつけてくる。
だがその狭さのおかげで性器同士が強く触れ合い、快感を増してくれるのだ。

「ああっ…おちんちん、大きいですっ! わたしのおまんこ、拡がっちゃってっ…!」
以前は挿入されるたびに痛がったり苦しがったりしていたアンジェ。
しかし今では膣を男性器で押し広げられることに快感まみれの声を発するようになった。
彼女は股間にあてていた右手を壁につき、男性器をより深く飲み込もうと自ら尻を押し付けてくる。
ギチギチという擬音がしそうなほどの圧迫。それを伴って男性器は根元まで彼女の体内に埋まった。

「はぁっ……。ムメイさんと繋がるの、気持ちいいです…。
 あなたも遠慮しないで、気持ちよくなってくださいね?」
こちらの全てを受け入れたアンジェは陶然とした息を吐き、蕩けた声で喋る。
その言葉に甘え、自分は腰を後ろに下げて性器同士を擦らせる。
しかしギチギチに締めつける彼女の膣肉は男性器を逃がすまいとからんできた。

「ひゃぁん! おっ、おまんこっ、めくれるっ!
 おちんちんで引っ張りだされちゃいますっ!」
男性器を咥えこんで離そうとしないアンジェの女性器。
そこは引き抜こうとすると吸いついた肉ビラがめくれ、綺麗なピンク色を見せる。
自分はやや強引に腰を下げて彼女の体内から男性器を引き出す。
肉の穴からズルズルッと姿を現す男性器はは膣が分泌する液体でベットリだ。
そして半ばまで抜けたところで今度は勢いよく腰を前へと振る。
パチンという肉同士の衝突音が浴室に広がり、ピチャッと液体の弾ける音が反響する。
衝撃でアンジェの小さな体が揺れ、膣奥を勢いよく突かれた彼女は背をのけぞらせて嬌声を放つ。

「んぃぃっ! また、おまんこ、ギュウギュウっ…!
 こっ、これじゃ…ムメイさんのおちんちんの形になっちゃいますよぉっ!」
膣が拡張され男性器の型になってしまうと言うアンジェ。
言葉だけを捉えれば嫌がっているように聞こえるが、恍惚とした声色を考えればそれは真逆で、そうなることを望んでいると分かる。
実際のところ本当にそうなるのか知らないが、別になったとしても構わない。
そう思う自分は腰を前後させてさらなる快楽を得ようとする。

「いっ、いいですっ! おちんちんでズボズボされるのいいっ! わたしのお腹の中、もっと引っかき回してくださいっ…! やっぱり、あなたとセックスするの最高ですっ!」
もはや廊下にいたときの恥じらいを完全に投げ捨ててアンジェは乱れ狂う。
卑猥な言葉を矢継ぎ早に繰り出し、淫らに腰をくねらせる彼女は痴女にしか見えない。
もちろん最初からこんな淫乱天使だったわけではなく、彼女なりに勉強した結果だ。
普通は悲しがる女の子より、嬉しがる女の子とセックスしたいものだろう。
そんな話をされた彼女は自分のエロ本コレクションに目を通して、男性が悦ぶような言動を学習し、いつしか変態的なまでに淫乱な振る舞いをするようになったのである。
自分としては『少しくらいは悦ぶようになってほしいな…』程度のものだったんだけど。

「あっ、あっ、ごめんなさい、ムメイさんっ!
 おちんちんがよすぎて…っ、わたしっ、イっちゃいそうですっ…!」
自分を差し置いて先に達しそうだと謝るアンジェ。だがこっちだってギリギリだ。
せっかくだから一緒に絶頂を迎えたいと思い、自分は動きを早める。
そしてその意図を察した彼女は喜色ばんだ声をあげた。

「あっ、ムメイさんも、一緒にイってくれるんですねっ…!? ああん、本当に大好きですムメイさん! どうぞ、わたしのおまんこに、たっぷり射精してくださいっ!」
特別な儀式でも行わない限り、天使と人間の間に子供はできないらしい。
だからアンジェは膣内射精を全く忌避しない。
それどころか、妊娠しないおかげで存分に悦べると考えている節さえある。

「さあ、来てくださいっ!
 ムメイさんの精液、おまんこに全部注ぎ込んでっ……んぃぃっ!」
ついに達したのか、アンジェは体を強張らせ最大限の力で膣内を絞る。
ただでさえきつい彼女の女性器が子種を搾り取ろうと蠢くのだ。
当然その刺激に耐えられるわけもなく、ずっぽりと彼女に埋まった男性器の先端から、白く粘ついた液体が噴き出すこととなった。

「あぁっ、来ましたムメイさんの精液っ! 熱いのがビュルビュル出てますっ!
 わたしのおまんこ、精液漬けになってますよぉっ!」
目眩を覚え、彼女の声が遠くに感じるほどの快感。
それは『セックスなんてすぐ飽きる』と言う奴は童貞に違いないと断言できるほど。
自分は半ば本能に突き動かされながら精を放ち続ける。

「すっ、すごいですムメイさんの射精! まだ出てきますよっ! もう多すぎて、子宮に溜まってますっ! 妊娠してないのにお腹重くなっちゃってますよぉっ!」
童貞だった頃から比べ自分の射精時間は何倍にも伸びた。
その分の時間、増量した精液を出し続ければ、子宮に重みを感じさせるほどにもなる。
自分でも少し心配になるほどの量だが、今のところ体には何の異常もない。
劣化しているとはいえこれも勇者の力のおかげなのか、それとも交わりに慣れて精力が鍛えられただけなのか。どちらにせよ快感のピークが伸びた事は悪くはない。
自分は腰に当てていた手を滑らせるように動かし、アンジェの下腹部に触れる。
興奮で赤みが増した肌に包まれたそこは、はっきり分かるほどにポッコリ膨らんでいた。

精力が上がった自分は一度射精したぐらいで萎えたりはしない。
このまま二度三度とぶっ続けでヤることも可能だ。
だが精液が溜まったままの穴で連戦するのはあまり気分が良くない。
自分は一度男性器を抜いて、残念がる彼女に精液を出してもらう。

「わたしはお腹が暖かくて気持ち良いんですけど……。
 いえ、出しますよ。ムメイさんのお望みですからね。んっ……」
子宮内に溜まった精液は抜いただけでは出てこない。
彼女に出してもらう必要があるのだ。
アンジェは息を止めてポッコリ膨れた腹に力を込める。
すると開きかけの女性器からボタボタと白濁液が零れ落ち、浴室のタイルの上に広がった。

「ずいぶん増えましたね、ムメイさんの精液……。
 これほどの量があれば、天使のわたしでも妊娠するかもしれませんよ?」
こちらに首を向けるアンジェはそう言ってイタズラっぽく笑う。
もちろん絶対子供ができないという安心感があってこその軽口だ。
だからこそ『デキたら産んでくれ』と自分も冗談で返せる。

「ええ、いいですよ。赤ちゃんデキたらちゃんと産んであげます。
 だから、ムメイさんも頑張ってわたしに種付けしてくださいね?」
平らに戻った腹を右手で撫でながら言うアンジェ。
幼めの彼女が行うその動作はとても淫靡で、小康状態になりかけた欲望の炎が大きく燃え上がる。自分は綺麗になった女性器に再び挿入し、二回戦を始めた。



ついに始まったゴールデンウィークの初日。
自分とアンジェは店が開店しだす時間から二人連れだって市街地を歩いていた。
もちろん意味もなくブラブラしているわけではない。

「うーん、なかなか見つかりません……」
困った面持ちでアンジェは呟く。
何に困っているかというと、逃げ出したダイヤの手がかりが掴めないことだ。
元からであるが、町全体をスキャンするような広域魔法は使えないので、大雑把な潜伏地域も分からない。
加えてパッシブセンサーの感度も落ちている以上、手当たり次第に出歩いて、町中に残された魔力の残滓を発見するしかないのである。

まあ、今日必ず事を起こすと決まっているわけではない。
立案に時間をかけて、実行は明日以降かもしれないし……あー。
アンジェが気落ちしないようフォローの言葉をかけようとしたが、実行が遅いほど探索で時間が潰れることを意識してしまい、自分も嫌な気分になる。
それを見たアンジェは慌てたように作り笑顔を浮かべ、少し先の道端を指さす。

「ムメイさんムメイさん、五月なのにもう露店が出てます。
 今日は日差しが強いみたいですし、せっかくだから食べましょうよ」
彼女が指さした先にあるのは店外販売をしている喫茶店。
天気次第ではまだ寒くもなるのにソフトクリームを販売していた。
……そうだな、たまには食べてみるか。行ってみよう。
居候の自覚があるせいか、金銭のかかる物を彼女がねだることは少ない。
今回珍しくもねだったのは、自分の落ちこんだ意識を余所へ向けるためだろう。まさかフォローするつもりが逆にされるとは。

「油断するのはダメですけど、先行きも分かりませんからね。
 気を張り詰めすぎて疲れたら元も子もありません。息抜きは重要ですよ」
彼女の言う通りだ。
休みが潰れてしまう…とマイナス思考しながら探しても余計に疲れるだけ。
ならば『デートしながら魔物探しをしているんだ』と考え直したほうがずっと楽だろう。
少し肩が軽くなった気がした自分はポケットの財布に手を伸ばしながら露店へと向かった。

ソフトクリームの基本はバニラ。
他に味があったとしてもチョコやバニラと混ぜたミックスだ。
ところが露店にはバラやミントなど変わった味が揃えられていた。
いったい何なのかと店員に聞いてみると……。

「ほら、ちょうど今植物関係のイベントやってるじゃないですか。
 だからそれに合わせて花とか果物の味を並べているんですよ」
店員に教えられて『あー、そっか』と思い出す。
四月の終わりには旧緑の日があって、その日からドームでイベントをやっているのだ。
自分は興味がなかったから完全に忘れてた。

ソフトクリームのラインナップに納得し、自分はストロベリーを購入。
そしてアンジェの方はなんとバラ味。
バラのソフトクリームってどんな味がするんだ?

「んー…味はバニラとそう変わらないですね。ただバラの香りが結構強いです」
ふーむ、バラの香りか…ちょっと気になる。
自分は興味を引かれ『少し分けて』とアンジェに言う。
彼女は快くそれを受けて…くれなかった。

「えっ? そ、それはちょっと……」
バラのソフトクリームを両手で握るアンジェは、視線を逸らして恥ずかしげに言う。
彼女が意地汚いとは思わないが、その反応は予想外だ。
こっちのソフトクリームも食べていいと申し出てみるが、それでも彼女は頷かない。

「いえ、そういうことじゃなくてですね……。
 その…わたしたちそれぞれのソフトクリームに口を付けたじゃないですか。
 それを交換して食べるということは、間接キスに……」
なんとも乙女な返答。直接唇が触れるわけじゃないんだし、そのくらい気にしないと思っていた。
まあ、無理を通してまで食べたくはない。ならいいよ…と言おうとしたところで、突然アンジェは顔を引き締める。

「見つけました…! ムメイさん、ダイヤの痕跡です…!」
その言葉を聞いて自分の意識はピンと張る。
デート気分は終わりにして戦いに備えなくてはならない。
『いったいどっちの方だ?』と訊くと、彼女は道路を挟んで向かい側のショッピングモールを指さした。

「その建物の中です。この距離で何かされるとは思いませんが、警戒は怠らない様にしましょう」
臭いと同じで魔力は発生源から遠くなるほど、時間がたつほど薄くなる。
残滓が濃くなる方へ向かえば魔物本人や何らかの仕掛けにぶち当たるいうわけだ。
自分たちは急いでソフトクリームを食べ切ると本来の目的である捜索を始めた。

「ここです。この中から濃い魔力が流れてきています」
連休とあって人でにぎわうショッピングモールの中。
自分を先導するアンジェはエスカレーターを登り、二階のおもちゃ屋の前で足を止める。
シリーズ物のゲームソフトから、子供向けの変身ベルトまで幅広く扱っている広い店舗。
自分たちはそれこそRPGのダンジョンに突入するような心持ちでその中に足を踏み入れた。

「こっちの方で…うーん、あっちの方が少し濃いですかね…」
これだけ広い店内にもかかわらず、圧縮陳列されたおもちゃたち。
無数の棚に挟まれた通路をアンジェは歩いていく。
進んでいくうちに並んでいる商品の種類が変わっていき、カードゲームのコーナーになったころ、探していたけど聞きたくなかった声が聞こえてきた。

「君の持ってる『青の魔術師』は能力値が大したことないじゃないか。
 それに比べて私の持ってる『緑のワーム』はずっと能力値が高いよね?
 だったら交換した方が、得だと思うんだけどなあ」
この店はユーザーフレンドリーなことに、カードゲーム用のスペースがあったらしい。
通路を抜けてそこに出ると、鼻の下伸ばしたオタっぽいゲーマーと話しているダイヤがいた。椅子に腰かけた彼女は有名なカードゲームの札を指に挟み、カード交換を持ちかけている。

「ぼ、僕を舐めないでほしいなぁ。そっ、そのカードはレアリティ最低の紙屑じゃないか。最高レアの魔術師とこ、交換なんて、出来るわけないじゃないか」
女性への免疫がないのか、どもりながら話すゲーマーさん。
言っては悪いが見ようによっては不審者だ。

「うーん…やっぱダメ? お願いしても?」
「そ、そりゃあ……あ、で、でも一緒にちょっと来てくれるなら、交換してあげても…」
かける相手によっては完璧にアウトなセリフをゲーマーさんは吐く。
ダイヤは一発アウトな外見年齢ではないが、顔は赤いわ鼻息は荒いわで、これだとやはり不審者扱いは免れないと思う。

「あ、ゴメンやっぱいいや。待ち人が来たみたいだし」
「え、ええっ!?」
肩透かしを食らって、残念げに声を上げるゲーマーさん
それをほったらかしにしてダイヤは椅子から立ち、こちらに正対する。
そしてアンジェは彼女をビシッと指さし、怒りを多分に含んだ声を出した。

「ダイヤ! いますぐお縄になって大人しく病院へ戻りなさい!
 そうすれば命だけは勘弁してあげます!」
直接ぶつけられたら自分でもビビるだろうアンジェの怒声。
しかしダイヤは『おお怖い』と言うかのように肩をすくめて受け流した。
そして挑発的な笑みを浮かべてアンジェに言葉を返す。

「アンジェちゃんはそう言われて、
 『はい分かりました』って神妙になる悪役を見たことがあるのかなー?
 私が病院へ戻るとしたらただ一つ、飽きるまで遊んだ時だけだよっ!」
ダイヤはそう言い切り、バッ! と胸の前で両腕を交差させる。
その手には先ほどのカードゲームの札が大量に握られており、彼女は忍者が無数の手裏剣を投げ放つように一気にばら撒いた。
ヒュッと遠くまで飛ぶもの、ヒラヒラと近くに落ちるもの。
様々な軌道をとったそれらのカードは、ボウッ…と光に包まれると、絵に描かれたキャラクターを吐き出した。

「あ? なんなん……うわぁぁっ!」
「誰よカードなんてばら撒い……きゃぁぁっ!」
「わーい! これ欲しかったんだー! って、あれー?」
「ヒャッハー! 野生の激レアカードだぁ! 全部ゲットしてやるぜー!」
店内はカードから出たキャラによって大混乱。
さらに実体化したカードたちはおもちゃ屋に留まらず、モールの通路へ飛び出していき、悲鳴がどんどん広がっていく。
そして張本人のダイヤは心底楽しそうにケタケタ笑うと、棚の向こう側へと逃げ出した。

「さあ、モール内の人たちが手遅れになる前に私を捕まえてごらん!
 できたら称賛を送って、私はおとなしく病院に戻ろう!できなかったら魔物が大量発生して、アンジェちゃんも酷い目を見ることになるよっ!」
姿を見せずに『ゲームの始まりだ』と告げるダイヤ。
魔物たちは誰も彼も事件を起こすが、白昼堂々かつ無差別にやる奴は少ない。
こんな事態を引き起こして愉快に笑うだなんて、頭がどうかしているんじゃないだろうか。だがいくら頭のネジが外れていても、彼女らが口にした約束を破らないことは経験から分かっている。
カードも買い物客もあまりに数が多く、襲われている相手を一人一人救出なんてしていられない。首謀者が敗北を認めれば事態が沈静化するというのなら、そうした方がよっぽど効率的だ。

「行ってくださいムメイさん! 今のわたしでも身を護ることぐらいできます!
 早くダイヤをとっちめて、皆の魔物化を防がないと!」
ダイヤを優先しろと言いながら、近寄るゾンビを魔法で撃つアンジェ。
撃たれたゾンビは煙のように消滅して、ただのカードが床に落ちる。
一撃で倒せるなら、彼女を一人にしても大丈夫か。
もちろん長時間戦っていれば、量に押し潰されて彼女がやられる危険性はあるだろう。
結局、早くカタをつけるにこしたことはない。



子供が遊びで行う鬼ごっこならともかく、これは真剣勝負の追跡だ。
お互い容赦なく商品を落としたり蹴ったりして迷路のような通路を駆ける。
力任せに追う自分に対し、跳ねたり翻ったりと遊んでいるように逃げるダイヤ。
彼女はダンスのステップを刻むようにあまり速度を落とさず角を曲がるため、こちらが走力で勝っていてもなかなか距離を詰められない。
その上、対戦型レースゲームのように妨害アイテムまで使ってくるのだ。

『俺は化学プラントの子、蝗マスクVX! 貴様に地球は渡さん!』
ダイヤが特撮ヒーローの人形をポイ捨てすれば、等身大に巨大化して追跡の妨害に入ってくる。正義の味方なら魔物を何とかしてくれよ…と思いながら、パンチ一発で頭を吹っ飛ばす自分。
子供が見たらトラウマ物な一瞬の後に、蝗マスクVXは頭の無い人形に戻った。

「うっわ、酷いなーナナシノ君! 今のは子供が見たら泣くよ!?」
そう思うなら、ヒーローの人形なんて使うなってんだ。
正直自分だって小さい頃憧れてたヒーローをぶん殴って、少しもやっとしたんだから。

「そりゃゴメンねー! じゃあ、こっちはどうだいっ!」
前方のダイヤは棚に手を入れて、いくつも品物を落としながら走る。
ゴトゴトゴトと落ちた品物はパッケージを破りながら巨大化し、またもや邪魔に入ってきた。その数は7体でレッドのキャラが3つ被っている。
別にそんなのはどうでもいいが、一撃で倒せるとしても7体相手はかなりのタイムロスだ。あまりやりたくはなかったが、こうなったらしかたない。

ダイヤがいるであろう方向。そちらへ向かって商品棚に思いっきり蹴りを入れる。
勇者の脚力でキックを食らった棚は当然のごとく倒れ込み、商品をまき散らしながらドミノのようにバタバタ倒れていった。
『うわぁっ!』とダイヤの驚く声が聞こえ、彼女は棚の下敷きになる。
これで商品棚の迷路は消えたが、彼女がこの程度で行動不能になるとは思わない。
予想通りに、倒れた棚の下からヒラッと宙に飛び出す一枚のトランプ。
それは店外へ出ると人間サイズに巨大化し、菱形が10個並んだ面から無傷のダイヤが降り立った。

「危っぶないなー! もう少しで怪我するとこだったよ私!」
けっこう本気っぽい口調でダイヤは怒るが、こっちは遊びでも何でもないのだ。
怪我するのが嫌ならとっとと降伏しろ。

「うーん、ここで投降はちょっとねえ。というわけで、私はまた逃げるっ!」
そう言ってダーッとモールの廊下を走っていくダイヤ。
倒れた棚を踏み越えて自分も廊下に出ると、全力で彼女の後を追った。

「ほい、ほい、ほい! カードはまだまだあるよー!」
ダイヤは服の袖口から次から次へとカードを取り出してはバラまいていく。
そして実体化したキャラたちは半分ぐらいが自分の足止めにきて、もう半分が買い物客へと襲いかかる。

「いやぁぁっ! こっち来るな! どっか行けっ!」
手提げバッグを振り回して触手っぽいキャラを追いやろうとする女性。

「だ、ダメです! 僕には婚約者が…!」
女性キャラに押し倒されて迫られる青年。

「きゃー! サインちょうだい、サイン!」
魔法少女っぽいキャラにサインをねだる女児。

「ヒャッハー! もっとゲットして高値で売ってやるぜー!」
高額カードを収集しようとドラゴンに素手で挑んでいくモヒカン。

モール内はもう阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
アンジェはまだ無事かと心配になるが、安否を確かめる方法はない。
これはマジで急がないと…と思っていたら、前方のダイヤがチラリと見返してクスリと笑った。そして『関係者以外立ち入り禁止』の扉を開けて、その中へ入っていく。
もう終わらせるつもりだと自分は理解し、白と赤の衣服を追って通路へ飛び込んだ。
扉の向こうは十メートルほどの直線通路で、その真ん中であたりで自分は彼女の左腕を掴み、ついに捕えることに成功。さっさとこの騒ぎを終わらせろと強く言う。

「お見事! 確かに私を捕まえたねえ、うん。
 このゲームは私の負け、カードたちはすぐ戻すよ」
敗北したというのに悔しがるそぶりを一片も見せないダイヤ。
それも当然で、彼女は最初から負けるつもりでこのゲームを始めたからだ。
というか彼女に限らず、魔物たちはどいつもこいつも勝つつもりがない。
ダイヤは右手の指をパチッと鳴らす。
それが合図なのか、扉の向こうから響いてくる悲鳴が少しだけ和らいだ。
とりあえずこれ以上悪化はしないと分かってホッと一安心。

「はい、これでカードは元に戻って人を襲うのを止めたよ。
 騒ぎが収まるまでそれなりに時間はかかるだろうけど、そこはご勘弁で」
ダイヤはそう言って微笑むと、掴まれている腕を振りほどいて正面から抱き付いてきた。
密着距離にまで近づいた瞳に浮かぶのは、どろっとした欲情の光。

「さーて、見事勝利したナナシノ君には、私の体を自由にする権利をプレゼントしようじゃないの。心地良い一時を楽しんでねー?」
勝ったご褒美にヤらせてあげると言うダイヤ。
だがこれは彼女が特別というわけではない。
自分の知っている魔物は皆が皆性的欲望が強く、何かにつけセックスしたがるのだ。
ぶっちゃけ彼女らには隠された目的なんてなくて、ただエロいことしたいようにしか思えない。加えて魔物たちはしょっちゅう病院を脱走するが、決してそのまま失踪しない。
県境をまたいでしまえば自分たちが追跡するのはまず不可能。
だというのにこの地元にこだわって事件を起こし、直接対決すれば簡単に負けを認める。
全くもって不合理な行動だが、彼女らが『とても迷惑な構ってちゃん』だとすれば納得できる。
そして我が家の天使にはとても言えないことだが、構ってちゃんなアーカン病院の魔物全員と自分は肉体関係を持っていたりする。なんせ性欲をある程度満たしてやらないと、捕えたその日にでも脱走するんだからコイツら。
……あとは、まあ、こんな苦労させられるんだから、少しぐらいは魔物たちにも補償してほしいなー、っていう下心もあったりなかったり。

「んむっ…ん、ちゅっ…ぷぁ…っ。君って本当にキスが好きなんだね…」
ダイヤと唇を合わせて離す。すると彼女はこちらの性癖を指摘してきた。
だが自分は特別にキスが好きというわけではない。
単にアンジェはさせてくれないから、魔物相手にしたくなるというだけのことだ。

「アンジェちゃんも変なところで潔癖だよねー。
 下の口はもうズブズブなのに、上の口は乙女だなんて」
アンジェをそう評したダイヤはボソッ…と聞き慣れない音を呟く。
それは人払いの呪文らしく、彼女は『しばらくは誰も来ないよ』と言った。
そして抱擁を止めて少し離れると、二色の衣服を溶けた蝋のようにドロリと液状化させ、足元の巨大トランプの中へ落とし込んだ。

「ほら、君も邪魔なものを脱ぎなよ。そんな布切れがあったら肌が触れ合えないよ?」
そう言ってダイヤは子供でも大人でもない『少女』という表現がピッタリな肉体を見せつける。
アンジェよりも大きい二つの乳房や、髪と同じ二色の陰毛に覆われた女性器。
決して我が家の天使に飽きたというわけではないが、彼女とまるで個性が違う肉体には興奮をそそられる。
勃起した男性器をチラ見した彼女は、ペタリと床に座り込み、ゴロリと後ろに倒れた。
寝そべった彼女は膝を曲げて足を立て、下品なほどに股を開く。
そして口端を上げて笑うと、こちらに両腕を差し伸べた。

「さ、おいでよ。短い時間だけど私と一つになろう?」
準備は万端だと口にするダイヤ。それを受けた自分は彼女に覆い被さるように伏せると、
膝の間に割って入り、二色の茂みをかき分けて男性器を挿入した。

「あはっ! 来た来た! 君のガチガチちんぽがまんこに潜り込んでるよ! もっと奥まで入りなよっ! アンジェちゃんと違って、私の体は余裕があるんだからっ!」
バカにしているわけではないのだろうが、ダイヤはアンジェを対比にして己の体を自慢する。
たしかに外見年齢が高い彼女の膣内はアンジェのような窮屈さはない。
それでいて緩いということもなく、膨張した男性器を絶妙に締めつけてくれる。
だが一生懸命に相手を務めてくれる我が家の居候が笑われるのは結構不愉快だ。

「おや、カンに障ったかなあ? 君の可愛い天使ちゃんを悪く言ってゴメンね!
 それじゃお詫びにもっと良くしてあげるよっ!」
本当に悪いだなんて全く思ってないだろう声で喋るダイヤ。
彼女は口先だけで謝ると、さらに膣に力を込めた。
アンジェと遜色ないほどに圧力が上がり、うめき声を漏らしそうになったが、それをこらえる。そしてその代わりに彼女の体内を男性器でえぐる動きを始めた。

「あはっ! 良いねえ! 私に腹が立ってヒイヒイ言わせたくなったのかな!?
 だったら頑張ってかき回しなよっ! 君のちんぽで私を泣かせてごらん!」 
『性的に懲らしめてみろ』というダイヤだが、どう転んでも彼女が気持ちよくなるだけだ。むしろそんな対決をしたら、自分が泣かされる可能性の方が高い。
戦闘能力ではこちらが勝っていても、性的能力ではそれが逆転するのだから。
だが、そうも言われて引っ込むのもしゃくだ。

「おっ、おっ、やる気になったね? じゃあ私も本気出しちゃおっ!」
男性器をくわえ込んでいるダイヤの膣。その肉壁がグニュグニュとうねり出す。
ただでさえ心地よい締め付けをしてくるというのに、刺激を追加されては呻きを抑えることなどできない。
アンジェとの日々で鍛えらえていなかったら、もう射精していただろう。

「あはっ! 今のを耐えるだなんて、君も成長してるんだねえ!
 可愛いアンジェちゃんのおかげかなっ! でもまだまだ!」
ダイヤはペロリと唇を舐め、膣内の動きをより激しく複雑にしていく。
彼女は仰向けで床に寝ており、腰を動かす主導権はこちらにあるはずだ。
しかし女性器の筋肉に力を入れるだけで、彼女の側が腰を振っているような快感が襲ってくる。かなり悔しいが今の自分では彼女に勝てないと認めよう。
そういうわけで、この我慢をもう解き放ってもいいだろうか。

「あ、降参するの? だったら私がイかせてあげるね!
 んっ、んっ、ほらっ、出して、いいよ……あっ!」
この上なく居心地の良い彼女の膣内。
その誘惑を振り切って、射精直前に自分は男性器を抜く。
ダイヤの体内から解放された男性器は水鉄砲のように精液を飛ばし、
二色に分かれた髪から乳房、腹のへそに股間の茂みまで、全身を白く汚した。
可能性は低くとも、魔物と人間の間に子供ができるというのなら、膣内射精はしてはいけない。タイミングが遅れたり、妨害されたりして中に出してしまうことも多いが、今回はちゃんと外に出せた。

「……精液浴びるのは嫌じゃないけどさ、やっぱり一番はまんこに欲しいよね」
体の前面をべっとり汚されたダイヤ。
彼女は指で拭った精液を口に運びながら不満そうに言う。
こちらへ向けるジト目は、体内に注がれたときの蕩けた目とは真逆だ。
だが、以前も伝えたように性欲を満たす気はあるが、彼女らと子供を作る気は全くない。
我ながらかなり酷いと思うけど、まあ相手は魔物だし。

「魔物と子供を作る気はない、ねえ。……アンジェちゃんはいいの?」
アンジェは魔物でなく天使だろうが。
そもそも天使は儀式をしなければ妊娠することはないと本人が言っていたぞ。

「ふーん……ま、いいけどね」
ダイヤは喋りながら身を綺麗にし、トランプから服を出して着る。
そして大人しく自分に連れられて、関係者用の通路から出た。



騒ぎはあったものの、何とかダイヤを捕縛した自分とアンジェは、彼女をアーカン病院へ連行する。事あるたびに脱走患者を保護して連れてくる自分たちは受付の看護師にすっかり顔を覚えられており、また頭を下げて謝られた。

「本当に、何度も何度もすみません。今度こそちゃんと患者を管理しますから……」
部外者の手を煩わせている病院スタッフは、心底申し訳なさそうに言う。
だが彼女らは常識外の存在であり、スタッフの手に負える存在ではないと知っているので、自分は責めたりしない。
むしろ何も知らず魔物に振り回される彼らに同情さえしている。

「こら、ダイヤちゃん! 病院から出たらダメって何度も言ったでしょ!」
「そう言われもなー婦長さん。私は魔物だから、人間を襲わないといけないんだよー」
「もう、ゲームじゃないんだし、魔物なんているわけないでしょ。
 あなたには一人部屋で三日間反省してもらいますからね!」
魔物を自称する頭がちょっとアレな女の子。
そう思っている婦長さんに連れられて、ダイヤは入院患者の棟へ連れられて行った。

「ふう…何とか解決しましたね、ムメイさん」
これで一件落着とあって、アンジェは気を抜くように息を吐いた。
自分も彼女に同意し『終わったー!』と体を伸ばす。
どうせまた近いうちに何か事件が起きるのだろうけど、連休初日で解決できたのは幸運だ。これで残りの日々はダラダラと過ごすことができる。

「む、休日が長いからといって、あまりだらしない生活はダメですよ。
 ちゃんと規則正しく寝起きしてもらいますからね」
流石は天使、昨日海外から電話をかけてきた母親のようにくぎを刺してきた。
こういう時こそ、普段溜まっている疲れを回復するべきだと思うのだが。
まあいい、勇者のお勤めは果たしたわけだし、今日もアンジェに疲れを癒してもらおう。
自分は『今日はどうしようかな…』なんて考えながら、彼女と共に帰宅した。



魔物は捕えられたところで、何度も何度も脱走する。
それをアンジェと共に捕縛する日々を繰り返し、結構時間が経った。
そんなある日、事を終えた後。
ベッドで共に眠りにつこうというとき、アンジェが言いづらそうに訊いてきた。

「あの、ムメイさん。その、恥ずかしい事なんですけど…わたしって、太りました?」
そう言いながらアンジェはつるりとした腹部を右手で撫でた。
今まで気にしていなかったが、そう言われてみると腹が少し出たようにも思える。

「う…やっぱりですか。最近食べ過ぎてた気がしますし、ダイエットしたほうがいいですよね」
彼女が言う通り、最近のアンジェは食欲旺盛だ。
家計に大した影響はないが、食費が増えていることを謝られもした。
元から細い体つきなので少しぐらい太ってもいいと思うが、本人が気にするのならダイエットしてもいいだろう。
ただし、健康に影響のない範囲で。

「はい、それはもちろんですよ。体を壊してまで痩せたくなんかないですし」
世の中には強迫観念的に痩せようとする人もいるが、彼女なら大丈夫だろう。
自分はそう考えると、眠るために瞼を閉じた。



最近、アンジェの様子がおかしい。
精神不安定になって、上司だという主神への礼拝時間がやたら長くなったり、
『居候の身分だから』と一線を引いていた自分に対して、妙にベタベタしてきたりするようになった。
彼女が甘えてくれるのは可愛さもあって悪くないが、主神へ祈るときは何かに追い詰められているようで怖い。
セックスだって、こうなる前は恥ずかしがりつつも、ためらわず受け入れてくれた。
しかし今はそんなお気楽な状態で相手をしてはくれない。

「どっ、どうぞ。いいですよ、ムメイさん。わ、わたしの体のことは、気にしないで……」
自宅でのさかり場所NO.1の浴室。
裸でシャワーを浴びたアンジェは、強ばった笑顔と震える声で自分に両腕を差し伸べる。
その体は腕も足も細さが変わっていないのに、腹部だけが明らかに膨れていた。
肥満とは違う形の太り具合。まさかとは思っていたが、子供が……。

「そ、そんなことないです! 儀式を行わなければ人間相手では妊娠しないんです!
 これはきっと…き、きっと、わたしの体質で変な風に太っちゃったんですよっ!
 ムメイさんとの間に子供ができるなんて…絶対、絶対にありえないんですからっ!」
ヒステリックな声で妊娠を否定するアンジェ。
そうも強く言い切るということは、本人には全く心当たりがないんだろう。
だがそれでも、こんなに膨れているということは、中に胎児がいる可能性が非常に高い。
体のことを考えれば、まぐわいなどするべきではないだろう。
『今日は止めよう』と言って自分は風呂場を出ようとしたが、すごい勢いでアンジェに抱き付かれた。

「何でですか! セックスしましょうよムメイさん! わたしがデブになったのが嫌なんですか!? だったら必ず痩せますから、今してください! あなたの望むことなら何でもします! アナルセックスしたいならお尻開きますよ! おしっこ飲めっていうなら、わたしの口をお便所にしてもいいです! だからしてください! ムメイさんのおちんちんが欲しいんです! あなたとセックスさせてください!」
まるで狂ったようにセックスしたいとアンジェは喚く。
自分がやろうとも思わなかったアブノーマルなことまで許容するというのだから、今の彼女は精神の平衡を失っているに違いない。
無理に振りほどいても悪化しそうだし、彼女の欲求を満たしてやるほうがまだいいか。

「あ! そういえばムメイさんって、キスしたがってましたよね!
 キスしましょうキス! 相思相愛なんだから、キスしたっていいですよね!」
アンジェは一方的にまくし立て、ブチュッと唇を押し付けてくる。
自分が望んでいた彼女との初めての口づけは、何とも虚しいままに終わった。



自分とアンジェの関係はずいぶんとおかしくなってしまった。
以前はこちらが彼女の肉体を求めていたのに、今は彼女の方から頻繁に求めてくる。
肉体的にはさして疲れるわけでもないが、精神が傾いている彼女の相手をするのは精神的につらい。
ストレスが溜まったところで事情を知らない両親に話せるわけもなく、今日捕えたダイヤ相手にとうとう愚痴をこぼしてしまった。

「……なるほどねえ。君たちはそんなことになってたんだ。
 アンジェちゃんがどうしてそうなったか、理由はだいたい分かるよ」
あっさりと『理由が分かる』と言うダイヤ。
正直困っていた自分は手を合わせて、教えてくださいと頼む。

「んー…まあいいか。まずだけど、アンジェちゃんが妊娠してるってのは事実ね」
『お前は父親になったぞ』と他人から改めて言われ、ズシッと精神が重くなる。
だがこれはもう覚悟していたことだ。ショックは程々に質問しよう。
アンジェは子供はできないと言っていたのに、何故できてしまったのか。

「そこは逆だよ。逆に考えるんだ。なぜ天使の彼女に子供ができたのか?
 答えは簡単、今のアンジェちゃんは天使じゃなくて魔物だからさ」
天地が逆さになるような衝撃。どうして彼女が魔物なんだ。
見た目は何も変わっていないのに。

「君は勘違いしてたのかもしれないけど、人間以外だって魔物にはなるよ?
 姿はそのままだから外見では分からないけど、行動様式は魔物と同じになる」
その言葉にアンジェの行動を振り返る。
確かに思い返してみれば、彼女の行いは自分が捕まえてきた魔物たちと同じだ。
となると今の彼女は天使の姿をした魔物なのか。

「妊娠した彼女は、己が忌まわしい魔物になってしまったことに気付いた。
 しかしそれを認めるのは、主神への裏切りであり大罪だ。
 元と違う世界に派遣されるぐらいには忠誠心の高かった彼女は、ジレンマを抱えるあまり精神を病んでしまった…というところだろうね」
ダイヤの説明は充分に納得のいくものだった。だがそれでもまだ不可解な部分がある。
一体どうしてアンジェは魔物になってしまったんだ?
自分の知る限り、彼女が魔物の餌食にされるような事態は無かったはず。

「それは君のせいだよ、ナナシノ君」
犯人を示すように人差し指でこちらをピッと指さすダイヤ。
その顔はニヤニヤ笑いになっていた。

「君は私たち魔物と散々にセックスしたよね。魔物の魔力は勇者の体だって汚染できるほどに強いんだ。
 その体でアンジェちゃんとまぐわえば、君を通じて彼女の体も汚染される。
 ありがとう、ナナシノ君。君のおかげで仲間が一人増えたよ」
サーッと顔から血の気が引くのを感じた。
アンジェがああなったのは自分のせいだって?

「そうだよ、全部君のせい。アンジェちゃんが妊娠したのも、魔物になったのも、精神を病んだのも、もう天界に帰れないのも、主神の手先に命を狙われるのも、ぜーんぶ君のせいだね」
『お前が悪いんだ』と言われ、頭痛と吐き気が急速にこみ上げる。
凄まじい罪悪感に目の前が暗くなった。
しでかした事のあまりの大きさに、ガタガタという震えが止まらない。

「後悔してる? 彼女から故郷も仲間も奪ってしまったことを」
頭を抱えて震えながらダイヤの言葉にうなずく。
自分はアンジェの人生を台無しにし、その全てを奪ってしまったのだ。
彼女の奴隷になろうと償えないし、命を差し出したところで元に戻せはしない。
みっともなく涙まで出てきて、自分が無責任で考えなしのガキだったということを思い知らされる。

「……アンジェちゃんの居場所はもう天界にはない。でも、新しく作ることはできるよ」
今まで自分を責めていたダイヤの言葉に、少し温かさが点った。
自分は涙で濡れた顔を持ち上げ、慈しむ表情の彼女を見る。

「私たちは魔物。だから天使でなくなったアンジェちゃんやその子供を受け入れる。
 ナナシノ君だって汚染されているんだから、その対象だよ。
 私たちの仲間になれば、新しい居場所や友達を作ることができる」
自分が魔物側に下ってしまえば、彼女らの犯行を止める者はいなくなる。
人間は次々と魔物へ変えられることとなり、それは人類への裏切りだ。
だが、魔物になってしまったアンジェに天界はもう味方してくれない。
天界と魔物、両方敵に回すぐらいなら、どちらか一方についた方がマシだ。
自分は涙をぬぐうと腹の底で覚悟を決め、その意思を伝える。

「うん、いい顔になったね。何ていうか男の顔! って感じだよ。もう一回君と子作りしたくなっちゃう!」
そう言ってダイヤはまた服を脱ごうとするが、それは止める。
そんなことやってる場合でも気分でもない。

「あはは、やっぱそうか。それじゃあ、私たちはいつでも受け入れてあげるから、なるべく早めに話し合いをしよう。そのときはちゃんと、アンジェちゃんも同伴でお願いねー」
軽い口調のダイヤと別れ、身重で戦わずに避難しているアンジェと合流しに行く。
もう今までと同じようにはやっていけない。色々なことを考えないと。



ダイヤを病院に戻しても、まだ昼を少し過ぎたところ。
このままアンジェと買い出しをしてもいいのだが、彼女はすぐに家に帰ろうと言い出した。その理由は言うまでもない。

「お疲れさまでした、ムメイさん。こんな体でほとんど手伝えなくて申し訳ないです。
 せめて、わたしの体でいっぱい癒されてくださいね」
太陽がまだ傾いてもいない時間から、自分とアンジェはシャワーを浴びる。
完全に魔物と化した彼女は、肌をさらすことにもう一片の羞恥も見せない。
大きく膨れた腹に母乳をにじませる乳房、そして少し濃くなった茂みを惜しむことなく自分にさらす。そして胎児が眠る腹を撫でながら微笑んで話した。

「もういつ産まれてもおかしくないですよね。早く見たいです、わたしたちの赤ちゃん」
今のアンジェは中途半端に腹が膨れていたころよりは、精神が安定している。
話を聞くに『魔物になったから妊娠した』という事実を『愛により奇跡的に子供ができた』と脳内で変換したようだ。
そうなってからは、妊婦であることをちゃんと認め、体のことを気にするようにもなった。もっとも、魔物らしさはきちんとあり、臨月であっても性欲はまるで衰えないのであるが。

「じゃあムメイさん、昨日は抱き合ってしたから、今日は後ろからしましょう」
こちらの返答も聞かず、アンジェは壁に手をついて尻を突き出す。
そして何度男性器を出し入れしたか覚えていない穴の入り口を右手でぐぱぁ…と開いた。
アンジェがこんな痴女になってしまったのは自分のせいだ。
そのことに罪悪感を感じるが、それとは別でこの眺めに強い欲望を覚えてしまう。
これからの自分はあらゆる意味で彼女への責任を取らねばならないだろう。

「さ、おちんちん入れてください。いつも通り、赤ちゃんの部屋までですよ?」
母親失格なセリフに自分は頷いて返し、膣液を垂れ流す穴に男性器をあてる。
そして彼女の腰を掴み、一気に腰を前に進めた。

「あっ、入ってますっ! あなたの太くて硬いおちんちん、まんこに入ってきてるっ!
 もっと押し込んでくださいっ! 全部、突っ込んでぇっ!」
妊娠したアンジェの膣はさらに締りが良くなったが、奥行きは狭くなってしまった。
このままでは成長し肥大化した自分の男性器は収まりきらない。
だが彼女はそれを強引に押し込めと言い、女性の体にはその通りにできる場所がある。

「あはっ、来たっ! ムメイさんのおちんちん、子宮に入りましたっ! 
 あなたを全部受け入れられて、とても嬉しいですっ!
 この子もパパと顔を会わせられて喜んでますよっ!」
羊水に満たされ子供が眠る神聖な場所。
男性器は子宮口を貫いてその中にまで食い込んだ。
先端が熱い羊水に浸され、まだ母親と繋がっている胎児に触れるのを感じる。

「さあどうぞ動いてください! わたしの体は気にしなくていいですからね! 赤ちゃんもあなたが気持ちよくなってくれるなら、窮屈なのを我慢してくれますよっ!」
笑いながら胎児のいる子宮を突けというアンジェ。
ちょっと子供が可愛そうに思えるが、天使だから大丈夫だと彼女は言う。
そして実際に胎児が危ない目にあったことはないので、自分はその通りにする。

「ああ、良いですっ! おちんちんで赤ちゃんの出口ほじられるの凄くいいっ!
 太すぎて子宮口がバカになっちゃいそうです!
 お腹のお口にもっとおちんちん食べさせてください!」
膣壁よりも硬い子宮口をゴリゴリこすりながら出入りする感触。
それは彼女の腹が平らだった頃には味わえなかった快感だ。
出産してしまえばこの気持ち良さを失ってしまうと思うと、つい動きに熱が入ってしまう。

「きっ、気持ちいいですかムメイさん!? わたしばっかり良くなってません!?
 あなたが一番良くなれるように、犯してくれていいんですからねっ!?」
今のアンジェは『愛しているから何をされても嬉しい』と言うまでになってしまった。
仮に自分がレイプ同然に犯したとしても、すぐに発情してよがり声をあげるだろう。
そのことに嬉しさと悲しさの両方を感じながら、彼女を後ろから突き回す。

「んあぁっ! もっと、もっと犯してください! 
 あなたのおちんちんで、おまんこも子宮もぐちゃぐちゃにしてぇっ!
 もっ、もうイっちゃいそうなんです! ムメイさんも出してください!
 真っ白な精液、赤ちゃんに飲ませてあげてぇっ!」
膣と同じようにギュッと締まる子宮口。
腹の中で男性器の先端を吸われ、それを切っ掛けに登りつめていた精液が放たれる。

「あっ、あっ、精液出てますっ! 赤ちゃんにかかってますっ!
 羊水にどんどん混ざって…お腹、張っちゃってるっ!
 はぅっ、気持ち良いっ…! 気持ち良いけど…っ、パンパンで……あ、あぁぁっっ!」
ブチュリッと妙な音をたてて、アンジェの女性器から粘性の低い液体がこぼれる。
それとともに子宮口や膣が男性器を外へ追い出すような動きを始めた。
これはもしかしなくても……。

「ご、ごめんなさいっ! もう産まれるみたいですっ!
 ムメイさんは外へ出ていてください! きっと見苦しいことになっちゃいますから!」
出産で苦しむ姿を見せたくないというアンジェ。
確かに自分だって彼女が痛みに喘ぐところなんて目にしたくはない。
しかし、だからといって女に全てを任せ、男はただ待つだけというのもどうかと思う。
せめて近くに寄り添って、励ましてやらないと。

「う…わ、分かりました。じゃあ、ムメイさんは一緒にいてください。
 たぶん無様な姿を見せると思いますけど、嫌いにならないでくださいね…」
彼女が落ち着くように『そんなことあるものか』と優しく声をかける。
それで少しは安心してくれたのか、アンジェは微笑んでくれた。

「あ、ありがとうございます…。その言葉、とても嬉しいです…。
 ……っ! あ、もう、赤ちゃん、が………あ、れ?」
浴室の壁に手をついて息もうとしたアンジェは不思議そうな声を漏らした。
そして精神不安定だった時と同じように、声を震わせて話す。

「な、何で痛くないんでしょう…? 苦しくもなくって…。
 普通は出産って、とても辛くて、大変なものですよね…?」
ブルブルと肩を震わせるアンジェ。
その股間からビチャッ、ビチャッと白い濁りの混ざった羊水が床へと落ちる。
きっと胎児が子宮の奥から押されるときに、出てしまったのだろう。

「ち、違います! そんなはずないです! 出産が気持ち良いだなんて!
 そんなのまるで…! あぐっ…! 子宮口っ…赤ちゃんがぁ…っ!」
何と言ったらいいのか分からない自分をよそに、腹の膨らみがもぞりと下へずれる。
膝がガクッと落ちそうになったアンジェだが、彼女は壁を叩くようにしてそれをこらえた。

「おかしいっ! わたし変ですよムメイさん! 全然痛くないんです!
 子宮口がミチミチって広がってるのに苦しくない!
 それどころか、赤ちゃんの頭が通って気持ち良いんです!」
苦しくないのならそれはよかった…などと思えるわけがない。
現実から目を逸らすことで精神を保っていたアンジェ。
彼女は出産というこの重大局面で、認められない真実と向き合わせられたのだから。

「ひぃっ…! ひぃっ…! 痛いですっ、苦しいですよぉ…!
 赤ちゃんがこんなにまんこ伸ばしちゃって、とても良い…わけないっ!
 なんで!? なんで痛くないのっ!? わたしは天使なのにぃっ!」
出産前に見苦しいところを見せると言っていたアンジェだが、確かに今の彼女を見るのはつらい。快感に喘ぎながらも、絶望して涙をポロポロこぼすその姿。
そんな彼女をこれ以上見たくない自分は嘘をつくことにした。
奇跡でできた子供だから、産むのも辛くないんだよ、と。

「あ…そっ、そうですねっ!
 この子は普通の子じゃないから、産むのも辛くないんですね!
 わたし変な勘違いしちゃいました! ごめんなさいね、わたしの赤ちゃん。
 ママを気持ち良くしてくれてたのに、変なこと言っちゃって!」
目の前に現れた逃げ道に即座に飛び込むアンジェ。
根拠薄弱の嘘だが、それでも精神は落ち着いたようだ。
取り乱しぶりはすっかり収まり、出産行為へ集中する。

「はっ、はっ、ううんっ…! 頭、出ちゃいそうです…! んんっ!」
むりっ…と膣口の肉を裏返しながら、頭頂部が姿を見せる。
出産時はこれほど広がるのかと思うほどに伸びているアンジェの穴。
しかし進んだり引っ込んだりを繰り返して、すんなりとは出てこない。
それでも徐々に前へ進み、やっと一番太い部分が通過する。

「おっ…おおっ! 出ちゃう! 出ちゃう! 出ちゃいますっ!
 ムメイさんの赤ちゃん、産まれちゃいますぅぅっ!」
背を反らしてグッと力むアンジェ。
引っかかりを通り過ぎた子供はズルズルッと一気に抜け、ボテッとタイルの床に落ちた。
力が抜けたアンジェは、今度こそ床に膝を落として壁にもたれる。
彼女の股下に転がっている、産まれたばかりの小さな天使。
肉の管が伸びている穴から、膣液と羊水と精液の混ざった汁がボタボタとこぼれ、まるでシャワーのように子供へと降りそそいだ。

「はぁっ…はぁっ…産まれ、ました……」
壁にもたれているアンジェは何とか呼吸を整え、言葉を発する。
そして膝立ちの、のろのろとした動きでこちらに向き直り、赤ん坊を両手で持ち上げた。

「ほら、わたしたちの子供ですよムメイさん。こんなかわい…い?」
アンジェが持ち上げた自分たちの子供。
女性だったその子は五体満足で、天使の翼もきちんと備えている。
しかし髪の色は銀色で、肌は青白く、その翼は漆黒。
自分だって一目でわかる、堕天使のカラーリングだ。

「あっ…あれ? わたしの目がおかしいんでしょうか?
 この子の髪とか肌の色って…………あはっ、あははは……」
崩れた笑顔を浮かべ、壊れたような笑い声をあげるアンジェ。
全身がガタガタガタと震え、手にした娘を今にもとり落としそうだ。
これは非常にマズイ。早く何とかしなくては。

「見てください、この子っていったい誰に似たんでしょう?
 わたしはこんな色してないですし、あなたも違いますよね?
 もしかしてこの子の親は、わたしたちでは無いのではないでしょうか?
 あれ、でもそうすると、なんでこんなのが繋がってるんでしょう? 不思議ですね」
焦点があってない瞳でへその緒を見たアンジェは、管を掴んで無造作に引っ張り始める。
これが抜ければ、全ての関係が断たれるとでもいうかのように。
直感だが、このまま胎盤まで剥がさせてしまえば、致命的な事態になりそうだと思った。
なのでその手を掴んで止め、自分たちの子供だとハッキリ言葉に出して言う。

「え? なに言ってるんですかムメイさん? だって色が」
彼女の言葉を遮り、自分は強引な主張を口から広げる。
髪や肌の色が薄いのは、きっとアルビノ体質だから。
翼が黒いのは、自分の髪の色が遺伝したのだろう。
とても苦しい言い訳だが、今のアンジェなら乗ってくれるはず。

「……あ、言われてみればそうですね。初めての子がアルビノで動転しちゃいました。よく見ると顔立ちとかあなたにそっくりですし、この子は間違いなくわたしたちの娘ですね」
何とか落ち着いたアンジェはへその緒から手を放し、娘を優しく両腕に抱える。
赤子でも美しいと分かる顔立ちは、自分よりも彼女に似ているのではないかと思うが、アンジェが血の繋がった娘だと認めてくれて助かった。
自分はシャワーを手に取ると、あらゆる体液にまみれている娘にそっとかけ、その身を清めた。

アンジェが出産したのは土曜日であり、次の日も休みだった。
家でくつろいでいる間も、天界の増援がこの世界に向かってきているかもしれない。
そう思った自分は早く魔物たちに話を通そうと、アンジェと娘を連れてアーカン病院へ向かう。
顔見知りの受付さんに挨拶をし、面会の話をしていると、モブさんが通りがかった。

「あら、こんにちはナナシノ君、アンジェちゃん。その子はあなたたちの娘さんかしら?」
「こんにちはモブさん。この子は昨日産まれたばかりの私たちの子です。名前はまだ付けていないんですけどね」
アンジェはそう言うと、柔らかい布に包まれた娘を優しく揺らした。
それに微笑ましいものを見る目を向けたモブさんは『よしよーし』と軽く手を振ると、自分の方を向いて話す。

「ダイヤちゃんから話は聞いているわよ。
 呼べば皆すぐ集まると思うから、入院棟の談話室で待っていて」
ダイヤから話を通されたというモブさんは、ずいぶんすんなりと自分たちを案内してくれる。今までは多少なりとも、魔物に対して警戒する様子を見せていたはずなのだが……。

「ムメイさん、それでどうして今日は病院に来たんですか?」
理由も説明されずに連れてこられたアンジェは当然の疑問を口にする。
『魔物の仲間に入れてもらうため』なんて彼女に言えるわけもないので『娘を自慢するためだ』とか答えておく。
以前の彼女なら『そのために赤ん坊を連れ出すな』と言ってきただろうが、今の彼女は嬉しそうにする。

「いいですねそれ! わたしたちの愛の結晶を見て羨ましがる魔物たち!
 考えただけで胸がスッとします!」
前を進むモブさんは振り向き『困ったニャア』とでも言いたそうな苦笑いを見せる。
その笑みに嫌なものを感じたが、自分は何も訊かずに談話室に到着。
モブさんは『皆を呼んでくる』とまた出て行った。

「んっふっふー、この子を見た魔物たちはどんな顔をするでしょうね?」
『その顔が楽しみだ』と笑いながら娘をあやすアンジェ。
だが自分はそうも笑ってはいられない。

いくら受け入れてくれるといっても、今までの対立がチャラになるということはないだろう。敵対していた自分には、それなりの制裁が科されるはずだ。
またアンジェについても、このままずっと現実逃避させておくわけにはいかない。
自分一人で正気に戻すのはまず無理なので、彼女らの手も借りたいと思う。

土下座ですむなら喜んでするし、裸踊りしろというなら迷わずやってやろう。
もし焼いた鉄板の上で土下座しろと言われても…まあアンジェが治してくれるだろうから、耐えてみせる。
自分はもう一児の父であり、その母親の人生を破壊した責任もあるのだ。
もうお気楽な少年ではいられない。自分の肩には二人の命がかかっている。
この場にアンジェの同僚が現れて二人を殺そうとしたなら、逆に殺し返すぐらいの気概を持たねばなるまい。

「こんにちわー! 昨日の今日で来るなんて、早いねー!」
談話室の扉を開いて最初に入ってきたのはダイヤ。
その後ろには見知った魔物たちが並んでいる。

……さて、この対話はどう転がるか。
例えどのような結果になろうとも、アンジェと娘は必ず守ってみせる。
そう決意を固めて、自分は彼女らを部屋に迎え入れた。
18/02/28 09:42更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
魔物を捕えるだけの話がいつの間にか天使ちゃんをイジメる話になりました。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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