読切小説
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正義の味方ごっこ
世の中には特撮マニアというものがいる。
普通ならば小さい男の子が視聴する番組にいい歳して熱中し、DVDや関連グッズを買いあさったりする者たちだ。
一般的には笑いものにされることもある彼らだが、自分はそういった人たちをバカにするつもりはない。
グッズをコレクションしても他人に迷惑をかけるわけではないし、自分だって小さいころは特撮ヒーローに憧れたりしたのだから。

もちろん彼らを否定しないからといって、自分が特撮マニアだというわけではない。
今現在どんな特撮が放映されていて、どんな内容なのかなんて、それこそ興味もないし、昔持っていたヒーローグッズの類も、今はもう二酸化炭素に還って地球の一部と化している。

だがそれでも、特撮の中のヒーローが懐かしくなることはある。
勉強だ、テストだ、進路だと面倒なことだらけの高校生活。
そんな毎日を過ごしていると、悪いやつらをなぎ倒し、人々に感謝され、最後は世界に平和をもたらすという、シンプルにして王道な勧善懲悪の道を進むヒーローが羨ましくもなるのだ。
だからまあ、誰にも知られずにヒーローごっこができるとなって、それにハマってしまったのも仕方ない…と思う。



夜ベッドにもぐりこみ、瞼を閉じればそこはもう夢の中。
メガネをかけた小学生なみの速度で睡眠状態に移行する自分だが、意識はしっかりとしている。
夢の中というのは夕暮れ時のように薄暗く、足元さえおぼろげな空間だ。
歩いても全く音がしないその空間を少し進むと、そこには椅子に腰かけ本を読んでいる女性がいる。

血の気が全くない白い肌に、紫色の髪と黄金の瞳を持った、明らかに非人間な存在。
各所にドクロの意匠が施されたスーツを着用し、ステッキを椅子に立てかけている彼女は一種の幽霊なのだという。
その目的は男性特有の精と呼ばれるエネルギーを吸い取ることであり、今は自分に憑りついてそれを食べさせてもらっているのだそうだ。
最初の頃こそ自分は驚き恐怖に陥ったが、健康には何ら影響がないこと、お礼として好きなように夢を操ってくれるとのことで、すぐ仲良くするようになってしまった。

自分が近づいていくと幽霊は『特撮怪人図鑑Vol.114514』と表紙に書いてあるカラー本を閉じ、スッと立ち上がった。
夢の中ゆえか、瞬き一つの間に椅子も本も消え去り、残ったのは杖を手にした彼女だけ。
その彼女は劇場の支配人がVIPの来客に対してするように深く腰を折り一礼。頭をあげると微笑みを浮かべて口を開いた。

「本日はようこそ当劇場にいらっしゃいました。
 ほんの一夜という短い間ですが、僅かでも楽しんでいただければ幸いでございます」
堅苦しい挨拶言葉。いまさらそんなことしなくてもいいと思うのだが、彼女は最初に顔を会わせると、必ずこの定型の流れを行う。
そしてこれを済ませて、ようやく砕けた口調で喋るようになるのだ。

「改めてこんばんは。今日の演目は何がお望みかな。
 人気トップの『蝗マスク即興劇』にするかい?」
蝗マスク即興劇というのは、幼いころ見ていた『特撮 蝗マスク』のヒーロー役を自分が演じ、彼女が各種演出や敵役を担当するという、台本が用意されていない演劇であり……要はごっこ遊びである。
『帰ってくれ究極星人』や『人海戦隊トゥルーカラー』なども演目にはあるが、一番自分が好きで多く演じるのは蝗マスクだ。
寝る前に見たTVのCMに最新の蝗マスクが少し映っていたことを思い出し、自分は彼女に肯定の意を返す。

「はい、確かに承りました。君が望むならどんな演目でも演じようじゃないか。
 では、早速開演といこう。場所は緑豊かな山間に建てられたダム、怪人はそこに下流を全滅させられるほどの猛毒を流し込もうとしている。今回はそんな感じでいいかな」
彼女がシチュエーションを説明するなり、おぼろげだった夢の世界が瞬く間に変化していく。

薄暗さは照り付ける真昼の太陽に変わり、足元はしっかりとしたコンクリートの地面へ。
草木の香りが満ち満ちた自然のそよ風が吹き、ドドド…とダムが水を放出する轟音が鼓膜を叩く。
自分の服装も寝間着からよく着る私服へと衣装チェンジし、上着の下には『これ何十万したの!?』とマニアが驚きそうなほどに、精巧で質感あふれる変身ベルトが巻かれている。
実際に変身できることを考えれば値段は何十万円では済まないだろうが、夢の中なので経費はゼロ円だ。

「『ふははは! この計画が成功すれば首領の野望に一歩近づく!
  さあレスカーティ! おまえたち! ダムに毒を放り込むのだ!』」
十メートルほど離れた所から響く女の哄笑。
そちらを見れば衣装はそのままの幽霊とレスカーティなる鎧姿の怪人、そして全身黒タイツの戦闘員たちが、いくつもドラム缶を掲げ、眼下のダムに投げ込もうとしているところだった。こんな悪事を正義の味方たる蝗マスクが見逃すわけにはいかない。
自分は『待てえいっ!』と声をあげ、幽霊と怪人はそろってこちらを見る。

「『むっ! また来たか蝗マスク! いつもいつも邪魔をしてくれおって!
 だが今日こそ終わりだ! この幹部ファントムさまと怪人レスカーティによって、貴様は天国へ行くことになるのだ!』」
天国に行かせてくれるあたりずいぶん優しい気がするが、それはそれとして怪人は倒さねばならない。
小さいころ、完璧にマスターするまで繰り返した変身ポーズ。
今になっても思い出せるその動作をすれば、変身ベルトが音と光を放ち、自分は一瞬にして昔懐かしの正義の味方へと変貌した。

「『おまえたち、かかれっ!』」
幹部怪人ファントムの号令によってタイツ姿の戦闘員が『E! E!』と奇声を発しながら向かってくる。その数は五人でリアルなら袋叩きにされておしまいだが、蝗マスクにとってはただの雑魚だ。

最接近してきた戦闘員にむかって、必殺技でないただのパンチ。
戦闘員はその一撃を食らうと、スポンジで出来た人形のように吹っ飛んで地べたに倒れる。
続く二人目の戦闘員には左わき腹に回し蹴り。
中身が発泡スチロールであるかのようにベコリとわき腹がへこみ、ゴロゴロ転がっていった。
残り三人の戦闘員は同僚二人が瞬殺されて怖気づいたのか、ためらうように足を止める。

「『ええい、なにを怖気づいているのか! もういい! 貴様らのような臆病者は組織には不要だ! レスカーティ、そいつらを処分してしまえ!』」
非情の幹部らしく反抗的な部下に抹殺命令を出すファントム。
こういう粛清もお約束だが、いくらなんでも見切るのが早すぎるんじゃなかろうか。

「ふむ、これは少し短気にすぎたか。ではこうしよう。
 『蝗マスクよ、随分とお優しいことだな! そんなクズどもの命を惜しむとは!』」
なるほど、敵にさえ情けをかける蝗マスクという展開に持って行ったか。ならば戦闘員たちは救わねばなるまい。
自分は上司に切り捨てられ、うろたえている戦闘員たちを背後にかばい『早く逃げろ!』と声をかける。彼らは『E!』と一言発して敬礼すると、タタタッとこの場から去っていった。
さて、残るは敵はファントムとレスカーティの二人だけ。
そちらも逃げるなら今のうちだぞ?

「『ふん! 戦闘員などおらずとも貴様を倒すのは容易いわ!
 行け、レスカーティ!』」
ファントムの命令を受けてついに怪人レスカーティが動き出す。
怪人は戦闘員と違ってそれなりの強さだ。あまり舐めるのはやめておこう。

彼女のオリジナル怪人らしきレスカーティ。
彼は西洋騎士のような全身鎧でありながら、剣一つ持たず格闘戦を挑んでくる。
レスカーティは怪人だけあって、こちらの攻撃を受けても簡単に吹っ飛んだりしない。
パンチした感触は厚いマットを殴ったよう感じで、よろけたり退いたりするぐらい。
さらに硬質スポンジで弱く叩かれる程度の威力だが、きちんと反撃をして蝗マスクにダメージを与えてくる。
このまま戦っても延々と殴り合い続けるだけなので、そろそろ決めようか。

自分は隙を見て距離を取ると、必殺技の構えをしてベルトからエネルギーチャージ。
色付きの光を片足に纏いながら怪人にダッシュし、飛び蹴りを放つ。
これぞ蝗マスクの必殺技、バッタ蹴り。これをくらって倒れなかった怪人はいない。
吹っ飛び爆発四散する怪人の姿を自分は思い浮かべ……防がれたぁ!?

いつもの怪人なら素直にくらってくれる必殺技。
それをどこからか取り出した盾でレスカーティは防いでしまった。
飛び蹴りを跳ね返された自分は上手く着地できず、無様にも地べたに倒れる。
地面はベッドのように柔らかいので怪我一つないが、この展開は予想せずファントムの方を見てしまう。そしてその彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「ヒーローもたまにはピンチに陥るだろう? こういった想定外の流れも即興劇の醍醐味さ。さあ、劇を続けようじゃないか。
 『ふはは、驚いたか蝗マスク! 貴様の必殺技もレスカーティには通じないぞ!
 さあ、とどめを刺すのだレスカーティよ!』」
盾と対になる剣をどこからともなく取り出したレスカーティ。
ズン…ズン…と重い足音をたてながら歩み寄るその姿は、遊びだと知っていても少し怖い。
えーと、こういう時ヒーローはどうやって逆転したんだったか……。

過去の映像資料を脳内検索して、逆転手段を模索する自分。
しかし今のシチュに合った逆転シーンは思い出せなかった。
しょうがないので『ごめん、どうにもできない』とギブアップ。
すると彼女は残念そうに眉を寄せた。

「そこはアドリブで解決してほしかったのだけど……仕方ない、伏線を使おう」
幽霊がそう言うと、逃げ出した戦闘員三人が突如現れた。
そして怪人の右腕、左腕、背後にそれぞれしがみ付き、動きを封じる。
おお、助けた戦闘員が恩返しに来てくれたのか。

「『ぬっ! 貴様らは逃げ出した臆病者どもではないか! この期におよんで組織の宿敵を助けようというのか!?』
 『イー! 我々は組織に見捨てられた! これはお前たちへの復讐だ! さあ蝗マスク、我々にかまわずレスカーティを倒すんだ!』」
戦闘員は『E!』しか喋れないので、この会話は幽霊の一人二役だ。
しかし声色を変えるのが上手い彼女は、見事に別人を演じてみせる。
「『ふん! ふん! ええい、なんと邪魔な雑魚どもだ! さっさと離れんかっ!』」
訂正、一人三役だった。

レスカーティは三人を振りほどこうとするが、上手くいかず動きが鈍っている。
『おまえたちを犠牲にはできない!』『いいからやるんだ!』と定型のやり取りをして、もう一度必殺技だ。
助走をつけて再び放ったバッタ蹴りはレスカーティの胸部に見事クリーンヒット。
怪人と戦闘員三人はリニアモーターと正面衝突したかのように吹っ飛んでいき、ダム湖の真上で爆発四散。
少しのあいだ決めポーズをし、一人残っているファントムに向き直る。

「『くっ、まさかレスカーティがやられるとは…! ええい、覚えておけ蝗マスク!
 次に会ったときこそ貴様を葬ってくれる!』」
ファントムは捨て台詞を残すと、バサッと上着をひるがえし、その場から消え去った。
そして周囲の景色がまた薄暗い空間に戻り、すぐ近くに現れた彼女が口を開く。

「こうして怪人ファントムの計画は破られ、人々の命は守られました……ヒーロー側のシーンは、こんなもので閉めていいだろう。
 次は悪の組織のシーンだね。またもや計画に失敗し、逃げ帰ってきた幹部ファントム。
 彼女はどんな罰を下されるのか? さあ、悪の首領の出番だよ」
彼女はそう言ってトン…とこちらの肩を叩いた。するとスーツの色が反転して首領の姿になる。TVでは蝗マスクと首領は双子の兄弟なので姿も能力も同一。体色だけが違うという設定だった。

「同じ姿と力を持ちながらも正反対の道を歩んだ二人、悪の主人公は何をする?」
(手袋をしてるのに)幽霊がパチンと指を鳴らすと、再び周囲に色が戻ってくる。
今度は自然あふれたダムと違い、玉座が設えられた悪の組織のアジトだ。
自分は悪の首領として一段高い玉座に腰かけ、眼前で跪くファントムを見下ろす。

「『申し訳ありません首領。蝗マスクの妨害により、計画は失敗しました。ですが次こそは必ず……』」
ファントムは必死の言い訳をするが、彼女が失敗したのは一度や二度ではない。
一般怪人なら処刑、幹部でもきっちり罰を与えねばなるまい。

自分は玉座から立ち上がると、あえてゆっくりファントムに近づいていく。
ファントムは罰を予感し身を震わせるが、何もすることはできない。
そして彼女のすぐ前に立った自分は『戦闘員を用意して』と頼んだ。

「戦闘員? ああ、今日の君は羞恥プレイがお望みなのか」
彼女が言うなり、二人だけだった玉座の間に大勢の戦闘員が出現する。
そのさまは全校集会で集められ、起立している生徒たちのようだ。
自分はその次にファントムを立たせると、紳士服の胸元を掴み強引に引っ張った。

「『ああっ、首領! お許しください!』」
現実では服を破るなんてとてもできないが、夢の中では贈答品の包み紙のように簡単に引き裂くことができる。
さらに演出なのか、触れてもいないズボンやショーツまでビリビリの破片になり、パラパラと床に落ちてしまった。
今のファントムは蒼白の肌を全てさらした完全な裸だ。

「『見るなっ! 見るんじゃないおまえたち!
 幹部の命令だぞ! 目を閉じろ! 後ろを向け!』」
女性であるファントムにとって裸体をさらされるのは大きな屈辱だろう。
しかし首領が罰として衣服を奪ったのだから、下っ端戦闘員が目を反らしていいわけがない。加えてこの程度の罰で許されるほど、彼女の罪が軽いわけもない。
自分はベルトの側面についている変身解除ボタンを押す。
すると蝗マスクのスーツだけでなく、その下に着ていた服、さらにベルト自体も消え去り、自分も裸の姿になった。
人外の存在とはいえ、幽霊はとても美しい女性だ。
そんな彼女が全裸をさらしているのだから、男子高校生としては色々と催してくる。

「『しゅ、首領! そのお姿は…! お、お止めください!
 他のいかような罰でも受けます! どうかそれだけはお許しください!』」
本人が嫌がることだからこそ罰になる。
ファントムへの罰は、戦闘員たちへの痴態公開だ。
そういうわけで、透明な壁を用意してもらえないだろうか。こう、体を押し付けるために。

「構わないとも。それで、私はこんな姿勢になればいいのかな」
巨大なガラス窓のような透明な壁。それを作り出した幽霊はこちらに背を向けて壁に両手をつける。
うん、実にいい姿だ。大勢に見せるとなれば、背中より胸だよね。

「同意するよ。罰としてさらし者にするなら、大事なところが隠れてない方がいい」
そう言う幽霊の穴はすでに潤い膣液を漏らしていて、男性器を受け入れる準備ができているのが分かる。
彼女も欲情してくれていることを確認した自分は、柔らかい尻を両手で掴むと女性器に一気に突っ込んだ。

「『首領…どうか、どうか、お許しっ…んおぉぉっ!』」
許しを懇願するファントムは、挿入されるなり淫らな叫びをあげた。
幹部の威厳を大きく損ねるような声を耳にした戦闘員たち。
男性なら無反応とはいかないだろうが、彼らは人形のように微動だにせず、罰を受けるファントムを見続ける。

「『みっ、見せないでくださいませ! こんな…こんな恥さらしの姿っ!
 せ、せめて背にっ! 繋がっている場所が皆に丸見えですっ!』」
拒否の言葉を口にするファントムだが、ガラスに反射する彼女の顔は笑顔を浮かべている。ずいぶん器用なものだ。自分ならセリフに引っ張られて表情も変わってしまう。
まあ、それはともかくお仕置きを続けよう。
『反抗するな』とファントムの尻を軽く叩き、自分は腰を前後に動かす。
生きていないのに幽霊の膣はとても熱く、その肉ビラは男性器に絡みついて快感を煽ってくれる。彼女の方もちゃんと感じてくれているようで、死んでいるのにしている呼吸のテンポが上がっていく。

「『あっ…はっ…お止め、くださいっ…!
 首領のちんぽ、出し入れされるとっ…スケベな声が、出てしまいますっ…!
 女とはいえ、私は幹部っ…! このような…性奴隷同然の扱いは…!』」
失態を犯したとはいえファントムは幹部、罰を与えるにもそれなりの扱いをしてほしいと彼女は言う。確かに痴態公開なんて罰は愛人や性奴隷にくだす方がふさわしい。
……よし、決めた。ファントムから幹部の地位を剥奪しよう。
それなら戦闘員たちの前で堂々と彼女を犯しても問題ないはずだ。

「え? ファントムはここで退場かい? それは想定外だな…」
ファントムは幹部でなくなり物語からフェードアウト。その展開は想定してないと彼女は言う。しかしアドリブでなんとかしろと言ったのはそっちが先だ。上手く物語を繋ぐことを期待する。

「なら…そうだね、次回からは逆襲のファントムという展開でいこうか。
 失敗を重ねついに首領の性奴隷に落とされてしまった元幹部ファントム。
 しかし彼女は諦めず、再びその地位に返り咲き復讐に来る…という感じでいこう」
それは悪くない展開だ。首領側のシーンから始めれば、開演してすぐに彼女の肉体を味わえるし。
ではその下準備として、ファントムを性奴隷に貶めてやろう。

「『そっ、そんな! 私は、これまでっ…ずっと、あんっ…首領に、誠心誠意っ…仕えてきたのですっ…! 一般怪人よりっ…下の、性奴隷だなんてぇっ…!』」
悪の首領たる自分に対して誠心誠意とは笑わせる。自分が望むのは何よりも能力。
それを理解していなかったファントムに幹部の資格はなかったようだ。
ここは最底辺の性奴隷に…いや、元幹部としてせめてもの慈悲をかけ、この首領専用の性奴隷にしてくれよう。

「『しゅっ、首領専用の…性奴隷っ!? あっ…いえ、喜んでなど、おりませんっ…!
 一般怪人になっても…くっ、構いませんっ…! どうか…私に、機会を…おぉっ…!』」
喘ぎながら名誉挽回のチャンスをくれとファントムは懇願する。
しかし首領専用の性奴隷と聞いて、微かにでも喜びの色を見せたことを見逃しはしない。
それにファントムの美貌は道行く男どもが振り返るほどの美しさであり、
素晴らしいプロポーションをした肉体は、女性器の中まで最上である。
やはりこの女には性奴隷の地位が分相応だ。

「『ああっ、お願いでございます…! んっ…お願いで、ございます…っ!
 私に……私にっ、機会をっ…! 蝗マスクを倒せとの、ご命令をっ…!』」
何とも愚かでくどい女だ。たった今性奴隷に落とされたというのに、まだ宿敵の抹殺という大命を下されると思っているとは。
……いや、打倒蝗マスクではないが、それに匹敵する重要な任務なら与えてやろう。

「『ほっ、本当でございますかっ! な…何でもっ、ご命令…くださいませっ!
 このファントムっ…必ずや、果たして、ごらんに入れましょうっ…! あぁっ!』」
快楽の声をあげながら、汚名返上のチャンスに期待するファントム。
それを達成すれば、少なくとも一般怪人の地位には留まれると思っているのだろう。
だが悪の首領がそんな優しいわけがない。

自分は低速で動かしていた腰の速度を速め、ファントムの膣内をグチュグチュと音をたててかき混ぜる。上の口は散々に嫌がっているくせに、下の口は必死になって男性器をしゃぶり、この男を逃がすまいと吸い付く。彼女以外と性交したことはないが、これほどの快楽はきっと同級生の誰一人として味わったことがないだろう。
正直気持ち良すぎて、悪の首領になり切るのが辛いが、劇は進めないと。
とりあえずの任務として、ファントムには子供を産んでもらうとしよう。

「『あっ! あっ! 首領っ! 子供とはっ、どういう、ことですかっ!?
 私にっ、重要な、任務をおぉっ…! くうっ、与えて、くださるのではっ!?』」
激しく喘ぎながらファントムは任務の真意を訊ねてくる。
だがこの任務に説明せねばならないことなどあるのだろうか。
いずれ世界を支配する首領の跡継ぎを産み落とすというのは、単純だが重要で栄誉ある任務だろう。

「『それは、んっ! そうですがっ! 私は部下としてっ…お役に立ちたいのですっ!
子を産むなどっ…ただの性奴隷でも、ああっ、いい…っ! できるではっ…ありませんか!』」
ファントムはいったい何を勘違いしているのだろうか。性奴隷であっても命令してほしいと言うから、大事な任務を与えてやったのにそれを嫌がるとは。
これでは一般怪人にさえ戻せないな。一生性奴隷としてこの首領に犯され続けるがいい。
では、記念すべき第一子受胎の瞬間を皆に見てもらおうではないか。

「『う、うあぁぁ! 見るな! 見るなあぁっ! 貴様ら雑兵が私が孕むところを見ていいと思っているのかっ! お、お願いです首領! 人払いをっ!
後で私の体をいかようにしていただいても構いませんっ!
お望み通りの痴態をさらします! 精を注がれるときだけは、どうか二人きりでっ!』」
犯されている姿をもう散々に見られたのに、最後だけは二人っきりがいいとか、ファントムには妙なところで恥じらいが残っているようだ。
しかし悪の首領としては、そんな恥じらいグリグリと踏みにじってやるのが正解だろう。
腹の奥底から沸き上がり、たった今男性器の中を進んでいる精液。
本当に妊娠してしまっても構うものかと思いながら、自分はファントムの穴に射精を行う。

「『んあぁぁっ! 首領の精液出てるっ! ちんぽからすごい勢いで出ていますっ!気持ち良すぎてっ…死んでしまいますぅっ!
 もっ、もう性奴隷でかまいません! 私を存分に犯して孕ませてくださいませっ!
 性奴隷ファントムとしてお役立ててくださいませぇぇっ!』」
普通の女性が相手だったなら、怖くてとてもできない生性交からの膣内射精。
しかし彼女は子供ができても構わないと最初から口にしており、何の気を遣う必要もなく種付けできる。避妊せず直に生殖器を結合させて行う射精は、食事やゲームなどとは比較にならない快感だ。
嬉しいことに彼女も同等の快感を得てくれているようで、
もはや演じているのか素なのか分からない迫真さで、彼女は快楽の叫びをあげた。

「んっ…はぁ…っ。毎回そうだけど、君の射精は本当に気持ちがいいよ……」
死者らしくまるで色が変わらない肌を上気させて、快楽にたゆたう声を発する幽霊。
彼女は透明な壁に手を付けたまま、顔だけを振り向かせて微笑む。
それを見て欲情とはまた違うものが胸の中に生まれ、自分は彼女の唇を奪った。

「んんっ…む…っ、るぇ…ろっ。ぷっ…ふ…ぅ。
 『ああ…っ、首領……。お慕いしております……』」
どうやらファントムはただ忠誠心があっただけでなく、この首領に対して恋慕の念も持っていたようだ。
自分が部下に求めるのは有能さのみ。だが役に立たないとはいえ、尻尾を振ってすり寄ってくる犬を、わざわざ蹴って遠ざける理由もない。
性奴隷としてせいぜい可愛がってやろう。



裸のまま劇を続けるのは流石に恥ずかしいので、自分も幽霊もほてりが冷めた後はちゃんと服を着る。
ここは夢の中なので、どれほど体が汚れようと一瞬で清潔な服装に戻れて便利だ。
ついでに言うと現実の体は汗一つかいていないので、目が覚めた時に寝間着がびしょ濡れとか、パンツの中がヌルヌルだとかそういうこともない。
これのおかげで寝間着はともかく、パンツの方は本当に助かっている。

「ファントムは罰を受けて性奴隷に落とされた。次は挽回を誓うシーンといこう。
一人抜けて空いた幹部の席。そこに就任する怪人バーリシオンが首領にお目通りだ。
君は玉座についてくれ。私はそのすぐ横に座るとしよう」
言葉に従って自分は段を上がり玉座に腰かけた。夢の中だがこの椅子は座り心地がいい。
幽霊はペタンと床に女の子座りをすると、首輪を取り出してそれを巻き付ける。
さらに犬の散歩に使うようなリードをつなげ、こちらに持ち手を差し出してきた。

「ファントムへの首領の罰はまだまだ終わらないよ。
 落ちぶれた元幹部として、組織の皆にさらし者にするんだ」
それは冷酷というよりただの陰湿ではないかと思うが、本人がいいならそうしよう。
自分は差し出された持ち手を受け取ると、肘掛けに腕をやって指を組む。
これで威厳ある首領のポーズは完成だ。さあ拝謁を許そうバーリシオンよ。

準備完了と見た幽霊は軽く頷くと、人差し指をスッ…と振った。
すると直立不動の姿勢だった戦闘員たちが一斉に跪き、彼らの前に一体の怪人が現れる。
レスカーティの外装を少し改造して使い回したような姿のバーリシオン。
彼は深く頭を下げて一礼すると、戦闘員と同じく跪いて喋り始める。
いやもちろん、声は彼女の物なのだけど。

「『新しく幹部に就任いたしましたバーリシオンと申します、首領。
ワタシが作戦を完遂した暁には、蝗マスクなど一ひねり。速やかに全世界を首領のものにしてみせましょう。
前任者が無能だったために世界征服が進んでおらずご立腹でしょうが、
これよりはどうぞご安心なさって、我らの活動を御覧くださいませ』」
無能と呼ばれファントムはギリッと歯を噛むが、何も言い返したりしない。
首領専用とはいえ、性奴隷にすぎない彼女にはこの場での発言権などないのだ。

「では次回への伏線とファントムのモノローグを済ませて、終わりにしようか。
『現在進行中のワタシの作戦は、怪人都市グンマー計画! 一都市全ての人間を怪人へと変え――』
『(ふん、バーリシオンとやらめ、一度も蝗マスクと戦ったことがないのに、もう倒した気でいるとは。これではこいつの命も長くはないな、いい気味だ。しかし首領の世界征服が遅れるのは面白くない…。
 そうだ! バーリシオンが倒されたら、私が計画を引き継いで成功させよう! そうすればきっとこの境遇を脱出できる! いや、幹部兼愛人として、今まで以上に首領のお役に立てるやも!
 ふふ、待っていろ蝗マスクめ。私が受けた数々の屈辱、百倍…いや、一万倍にして返してくれるわっ!)』
……と、こんな感じで今回は幕だ」 
『はい、おしまい』と幽霊が告げると、玉座はどこにでもあるような普通の椅子に変わり、周囲は薄暗い空間に戻る。
彼女は相向かいに同じ椅子を用意すると、そこに腰かけテーブルを出現させた。
その上には淹れたばかりの紅茶二セットが湯気をたてており、彼女はそれを一口すすって『ふぅ…』と一息。自分もカップに手を伸ばし、同じように息を吐く。

これはごっこ遊びを終えた子供のおやつタイムのようなものだ。
少し休息を入れた後は、また遊びに興じられるが、それでも時間には限りがある。
夜が明けてこの夢から覚めたら、自分は現実に戻らねばならない。
……そういえば明日は期末テストの返却だったか。
どうせロクな点数じゃないだろうし、今から鬱だ。あーあ。

「どうしたんだい、そんなため息をついて」
明日のことを考えて嫌な気分になっていると、幽霊が心配して訊いてきた。
ちょっと愚痴をこぼしたくなり、それらのことを彼女に話す。
この夢の中でずっと過ごせたら、テストや学校のことなんて気にする必要もないのだろうが、流石に現実を捨てて一生の昏睡状態に陥りたくはない。

「そうだね、私も夢の世界で生きるのはお勧めしないよ。
 でもいずれは『現実が夢のように』楽しくなる。君が頑張ればね」
『何かいいこと言った』っぽい幽霊だが、いったい何をどう頑張れというのやら。
そんな感じで投げやりに言葉を返すと、彼女は意味ありげにクスリと笑った。

「それは色々…さ。とりあえず今は演劇を頑張ろうじゃないか。
 さあ、次はどのような演目をお望みで?」
幽霊はティーカップをテーブルに置くと、少し首を傾げて微笑みを向けてきた。
毎晩顔を会わせ、何度も体を重ねたにもかかわらず、つい見惚れてしまうその美しさ。
ふと特撮即興劇でなく、恋愛即興劇をしてみてもいいかな…と思ったが、
なんか恥ずかしいので、やっぱり『帰ってくれ究極星人』ごっこをすることにした。



くらえー、必殺プルトニウム光線ー!
「『バカめー! 怪獣ポーロベはプルトニウム光線を吸収して強くなるのだー!
 さー、ウラニウム火炎で反撃しろー!』」

今日の彼女は服装と違って紳士的でないらしく、またもやピンチに陥れられた。
18/02/07 19:54更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
劇作家のファントムさんはごっこ遊びを笑うでしょうか、それともノってくれるでしょうか。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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