だいたい二等くらいの確率
学校から帰ると机の上に一冊の本が置かれていた。
見た目はハードカバーの百科事典で表紙は真っ黒。タイトルさえ書かれていない。
たいして使っていない勉強机ではあるが、こんな物を置いた記憶は微塵もない。
普通の家なら家族の誰かが置いたと考えるんだろうけど、
海外赴任の父に母が付いていった我が家に住んでいるのは自分一人だけ。
まさか空き巣でも入ったのか?
そう思って戸締まりやタンスの貴重品を確認してみるも、手を付けられた跡は一切無し。
何の被害もないのに『帰宅したら変な本が置いてあったんです』なんて警察に通報するのも気が引ける。
いや、本当はするべきなのかもしれないけど、調書なんかの手間を考えるとね。
一通り家の中を調べた自分は二階の自室へ戻った。
そしてキャスター付きのイスに腰掛けると、机の上にある本を手に取る。
誰が何のために置いたのか分からないのは気味が悪いが、どんな内容なのかは気になる。
右手で背表紙を支えて、適当にページを――――おや、何か落ちた。
パラッと本の中心辺りを開いた途端、はらっと落ちる長方形の薄い物体。
床に落ちたそれを拾ってみると黒い封筒。
中に便箋らしきものが入っているので、取り出して読んでみる。
えーと、なになに……。
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/  ̄ ̄ ̄ ̄ /_____
/ あなたは /ヽ__//
/ 選ばれました / / /
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/ ____ / / /
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『あなたは選ばれました』とだけ書かれた便箋。
意味の分からない文面に自分は首をひねる。
『お前を殺す』とか『秘密を知っているぞ』とか悪意丸出しの手紙なら面倒なんて言わずに即通報だ。
しかしプレゼントの当選通知のようなこの文からはそういった物が感じられない。
手紙を片手に少し考えてみるも、差出人の意図は全く読めない。
……手紙の考察は後回しにして本を読んでみるか。
内容を見れば意図が分かるかもしれないし。
そう結論を出して本の一ページ目を開くと、そこには絵が載っていた。
白いページの真ん中に黒インクで大きく描かれた目。
ずいぶんリアルでキモイな…と思うと同時にギョロッとその目玉が動いた。
うっ、うわぁぁっ!
突然の怪奇現象に自分は本気でビビり、本を投げ捨てて悲鳴をあげた。
どういう仕組みなのかハードカバーの本は一ページ目を開いたまま床に落ち、
周囲を確認するようにギョロギョロ見回す。
そして部屋の中を一通り見るとペラッと自動でページがめくれ、今度は口元の絵が現れた。
例によってその絵も動き、声を発し始める。
『あー、もしもーし。聞こえますかー。
この本を開いた人は返事をしてくださーい』
友人相手に電話をかけたような軽い口調で流れる女の声。
そのラフさについ返事をしそうになったが、口を手で押さえて言葉を飲み込む。
『もしもーし? もしもーし? あれぇ、いないのー?』
声の主は返事が無い事に戸惑ったような声を出す。
怪奇現象が治まるまでこのまま息を殺していよう…と自分は思ったが、そうは問屋が許さなかった。
見開きページの右半分。白紙だったそこにまた一つ絵が浮かぶ。
モノクロな最初の目玉と違い、写真のように精巧なカラーの人物画。
それは青肌で黒い翼と尻尾もった少女の姿だった。
見た目は自分よりやや年下だが、顔形はとても整っていて可愛い。
得体の知れなさを脇に置いて、一瞬見惚れてしまうほどだ。
完全に浮かび上がったその絵はやはり動いて喋る。
『なんだ、居るんじゃない。ちゃんと返事してよ、もー』
あの絵はテレビ電話のようなものなのか、自分をはっきり認識されてしまった。
こうなったらもう居ないフリはできない。
自分は腹をくくって対話を試みる。
……何なんだオマエ。
『わたし? わたしは悪魔だよ。“悪魔”って概念はそっちにもあるよね?』
よりにもよって悪魔とは。まあ、理解しやすくて助かったけど。
ああ、辞書に載ってるくらいのことは知ってるよ。
それで、その悪魔が一体何の用なんだ?
そんなものに目を付けられるほど大それたことはしてないと思うんだけど?
自分は大勢の人から讃えられるような善行をしたことはないし、
万人から後ろ指を指されるほどの悪行をした憶えもない。
本当にどこにでもいるような高校生なのだ。
悪魔に目を付けられる心当たりなんて全くない。
『ん? 別にあなたを狙ったわけじゃないよ?
“幸運なことに選ばれました”って手紙が一緒に入ってなかった?』
悪魔の言葉に黒い封筒が脳裏をよぎる。
文面は違っていたが意味的には“そういうこと”なんだろうな。
えーと、つまりアレ?
自分はたまたま『ハズレ』のくじを引いたってこと?
『せめて“アタリ”って言ってよ。あなたは本当に幸運なんだよ?
そっちじゃ大量にいる男の中から選ばれたんだからさ』
ハズレ呼ばわりされて腹が立ったのか、悪魔の顔がムッとする。
でも悪魔に目を付けられることのどこが幸運なんだか。
……まあ、幸運か不運かはこの際置いとこう。
で、その悪魔さんは何が目的なんだ?
『目的? それは単純だよ。わたしと契約してマスターになって欲しいの』
契約? それって一般に言う“悪魔の契約”か?
生憎だけど、魂と引き換えにしてまで叶えたい望みなんてないぞ?
我が家には不治の病人や莫大な借金なんてない。
悪魔の力を借りねばならない問題がないのだから、契約する必要性は皆無だ。
『違う違う、魂とかそういう話じゃないよ。わたしがしたいのは使い魔の契約。
あなたにマスター…主人になってもらって、わたしが仕えるの』
使い魔だのマスターだのファンタジーな用語が混ざっているが、
それを除いてみれば言っている事は単純だった。
要は『雇ってくれ』っていう売り込みか。
でも悪魔の使い魔なんて何の役に立つんだよ。
ファンタジー世界の悪い魔法使いなら、悪魔を重用するかもしれない。
しかし自分は21世紀の日本に住んでいる一般人なのだ。
そんな奴が悪魔と契約して何になるのか。
『どう役立たせるかは契約者次第だよ。
まずわたしの姿は見ての通りだから、最低でも人間と同じ事はできる。
他にもテストで良い点取ったり、欲しい物をちょっと盗んじゃったり、
気にいらない奴にイタズラしたり……まあ、いろいろ便利だと思うよー』
ぬひひ…とあくどい笑みを浮かべながら悪魔はアピールする。
しかし今の自分には盗んでまで欲しい物はないし、
悪魔を使ってどうこうするほど嫌いな奴もいない。
テストにしたって、ただ数字を増やしても意味はない。
契約のメリットなんて全然『ああ、もちろんわたしの体を自由にしてもいいからね』
なんですと!?
思い出したように最後に付け足された言葉。
契約する気ゼロだった自分だが、その発言は捨て置けなかった。
いやだって、ヤリたい盛りの男子なんだからしょうがないじゃん?
すまん、最後になんて言ったかもう一度聞かせてもらえないか?
『最後? “わたしの体を自由にしていい”って言ったんだよ』
それはつまり……エロいことしても良いってことなのか?
言い方がちょっとストレートだったかな…と思ったが、
悪魔は気を悪くするどころか、喜びを含んだ声で返してきた。
『もちろん! あなたがマスターになってくれれば、
いつでもどこでも、好きなだけセックスさせてあげるよ!』
ここが押しどころと見たのか、悪魔は勢い込んで話す。
確証を取れた自分はあごに手を当てて契約を真剣に考える。
今現在この家に住んでいるのは自分一人だ。
家族が同居してるわけじゃないから、コイツが居候しても咎める者はいない。
この辺の町内会は繋がりが弱いし、ウチは近所付き合いだって薄い。
周囲の目を気にする必要もあまりないだろう。
生活費にしたって少し節約すれば一人ぐらい増えてもやっていける。
経済的、環境的な問題はクリアだ。そうすると最後にして最大の問題は……。
一応訊くけど、使い魔の契約はタダじゃないよな?
何かの代償を支払う必要があるんだよな?
『そりゃ当たり前だよ。わたしは使い魔として奉仕するんだから、
主人からはそれに見合ったものを貰わないと』
“働くなら報酬はあって当然”という態度の悪魔。
ゲームの召喚獣のように、呼び出しただけで無報酬に働いてくれるわけではないらしい。
だがそれでも話を持ちかけてきたのは向こう側。
『この条件なら契約してやる』という風に値切る努力はしてみよう。
契約の代償は何になるんだ?
魂はいらないとか言ってたけど、寿命半分とかでも契約はできないぞ?
昔から悪魔が欲しがる物といえば、魂、命、寿命、不幸。
開かれた本に描かれている悪魔はとても可愛らしいが、
そんな代償を払ってまでエロいことをしたくはない。
『ああ、それは無いよ。命とか寿命とか、そんなの本当にいらないから。
わたしが欲しいのは人間の精液。より正確にいうと、そこに含まれる魔力なんだよ』
あまりに意外すぎる代償に『はぁ?』と抜けた声を自分は出してしまう。
精液に含まれる魔力って…自分は魔法使いでも何でもないぞ?
『そんなの関係ないよ。魔法の才能が無くたって精液には魔力が詰まってるから。
あなたは毎日わたしとセックスして精液をご馳走してくれればいいの。
どう? そんな高い代償じゃないでしょ?』
いや、確かに法外ってほどじゃないけど……本当にそんなんでいいの?
こっちは元から彼女の肉体が目当てなのに、対価はセックスだと悪魔は言う。
これでは代償が代償になっていない。
レストランで食事をしたのに逆に金を支払われたようなものだ。
『“そんなの”なんて言うけど、わたし達にとってはすっごく大事な物なんだよ。
ねえ、だからいいでしょ? 契約しようよー。
毎日気持ちいい事するだけで、便利な使い魔が手に入るんだからさぁ……』
なかなか頷かないせいで焦れてきたのか、悪魔はおねだりするように甘い声を出す。
実際のところ、もう契約する気は固まっているのだが、そこで簡単に結ぶのはもったいない。
少しでもこちらが有利になるよう譲歩してもらわないと。
うーん、そうだな……悪くないと思うけど、ちょっと条件を付けて欲しいな。
『条件? ものにもよるけど何?』
まず“毎日”の条件を撤廃してほしい。
こっちだって体調の悪い時や忙しい日はあるんだし。
『いいよー、わたしだってそこまで無理させる気はないから。
あっ、でも気が乗らないとかそんな理由じゃダメだからね。
問題なく払えそうな時は極力代償を貰うよ』
“無理強いはしない”と悪魔はあっさり譲歩する。
まあ、文字通り一年365日欠かさずやるのは難しいのだろう。
自分が言わずとも向こうから提案したかもしれない。
それと自分以外の人間と接触しないこと。
ウチは今一人暮らしってことになってるし、
そんな姿を人前にさらしたら驚かれる程度じゃすまないからな。
『外出禁止かぁ……。それは魔法を使ってもダメ?』
今度の条件には渋い顔をする悪魔。
どうやら家に閉じこもりっぱなしは嫌らしい。
魔法か……もしかして魔法で誤魔化せたりするの?
『うん、誤魔化せるよ。人間そっくりに化けるとか、
周りの認識をちょっと弄ってあなたの家族に思わせたりとかは朝飯前』
周りの目なんて簡単に誤魔化せると悪魔は口にする。
いやはや、なんとも便利な魔法があったものだ。
だがそれなら外出禁止令を出す必要はない。
分かった、外出禁止は撤回する。
でも近所の人とはあまり親しくしないでくれよ?
どこからボロが出るか分からないからさ。
『それはオッケーだよ。別に友達を作りにいくわけじゃないしね。
わたしはあなたがいてくれれば十分!』
“あなたがいればいい”と笑顔で言い切る悪魔。
リップサービスかもしれないけど、女の子がそう言ってくれるのは嬉しい。
他には……もう思いつかないな。自分が出す条件はこんなところ。
そっちはこの条件でいい?
『わたしは全然構わないよ。それじゃあ契約してくれる?』
ああ、契約するよ。それで契約ってのはどうやったらいいんだ?
なるべく痛くない方法でやりたいんだけど。
指を切って血判を捺すくらいなら我慢するが、それでも痛いのは嫌だ。
一時間の呪文詠唱と出血を伴う一秒、どちらでも良いなら自分は前者を選ぶ。
しかし悪魔はブンブンと手を横に振り、心配不要と言った。
『だいじょぶだいじょぶ、痛くも痒くもないから安心して。
まず召喚書を手に取ってもらえる? もちろんページは開いたままだよ』
召喚書なんて初めて聞く単語だが、床の黒い本がそれだろうとは理解できる。
自分は腰かけていたイスから立ち上がると、投げ捨てた本まで近寄って胸のあたりまで持ち上げた。
はい、召喚書を手に取ったよ。次はどうすれば?
『あとはわたしの絵に口づけしてくれればいいよ。
それで契約は完了して、そっちの世界に召喚されるから』
そう言って悪魔はそっと瞼を閉じる。
そして自分は悪魔の言葉通り、絵に唇を寄せ触れさせた。
その途端、硬い表紙から煙幕のように灰色の煙が広がり、手の中から本が消失した。
灰色の煙はまるで透明な仕切りがあるように部屋の半分ほどを満たして停止。
そのまま10秒かそこら待っていると、急速に煙が薄くなっていく。
すっかり煙が晴れた後に立っていたのは、絵に描かれたままの青肌悪魔。
悪魔は黒いブーツを履いた足で色あせた畳の上を歩み寄ると、ペコリと頭を下げた。
「契約してくれてありがとうございます、マスター。
これより命尽きるまでお仕えしますので、どうかよろしくお願い致します」
定型文なのか、さっきと違った堅苦しい言葉使いで悪魔は挨拶をする。
自分も丁寧に返すべきか? と少し考えたが、こっちは主人だからその必要はないだろう。
あー、うん。よろしく頼む。
「はーい。よろしくしますよぉ、マスター」
口調を戻した悪魔はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「んー? すぐスルんじゃないのマスター」
悪魔を召喚した自分はまず彼女を連れて一階の居間に降りた。
呼ばれてすぐに代償を貰えると思っていたのか、悪魔は疑問の声をあげる。
自分は窓にカーテンかけながらそれに答える。
もう陽が沈んできてるだろ。スルのは夕食を食べてからにしよう。
帰宅した後、家の中を調べたり考え込んだりしたので少し時間が過ぎてしまった。
間食をしていない自分は今現在かなりの空腹。
初めてセックスする時ぐらい体調は万全にしておきたいのだ。
「そっかー、それならしょうがないね。あ、晩ご飯はわたしが作ろっか?」
いや、いい。そのくらいは自分で用意できる。
っていうか、コンロの使い方とか知ってるのかおまえ?
魔法文明で育ちました的雰囲気を纏う悪魔に現代日本の科学道具が使えるのだろうか?
「ちょっと、バカにしないでよ。その辺はちゃんと勉強してるんだからね」
物知らずだと思われたのが気に障ったのか、不満気に言う悪魔。
考えてみれば日本語を喋ってるわけだし、この世界の知識は皆無ではないのだろう。
初日から険悪になるのも嫌だから、見くびった事は謝ろう。
ごめんな、見くびって悪かった。
お詫びといったらなんだけど、味噌としょうゆ好きな方を選んでくれ。
やかんを火にかけた自分はカップ麺を二つ手に取って居間に戻り、
畳の上であぐらをかいている悪魔の前に並べる。
悪魔はこたつの上に乗っかったそれらを見ると高い声をあげた。
「はぁ!? なんで晩ご飯がカップラーメンなの!?」
なんでって言われても“家にあるから”だよ。面倒な時はこれでササッと済ませるの。
「……訊くけど“面倒な時”ってどのくらいの頻度?」
だいたい週に2、3回。毎日じゃないんだから問題ないだろ。
「カップ麺じゃないときは何食べてる?」
スーパーで惣菜買って食べてる。言っとくけど米はちゃんと自炊だからな。
「朝ご飯は?」
冷凍食品をレンジでチンしてるけど。
「昼ご飯……」
専らコンビニ。良いのが無い時は購買で買ってる。
急に食生活を聞き出してきた悪魔。
彼女は一度天井を仰ぐとバン! とこたつに両手を叩きつけた。
その衝撃に二つのカップ麺は跳ね、自分はビクッと驚く。
ど、どうしたんだよ!? なにデカイ音たててんだ!?
「マスター! あなたの食生活ダメ過ぎだよ!
そんなんじゃ絶対体悪くするって! これからはわたしがご飯作るからね!」
怒り80%の声で悪魔は料理宣言をかます。
別に自分が体悪くしたってこいつには関係……あ、そうか。
契約の代償として悪魔が受け取るのは精液。
粗悪な食事で量が減ったり質が落ちたりするのは望む所じゃないんだろう。
分かった、これからの食事はおまえに任せるよ。
毎日金渡すから、その範囲内でやりくりしてくれ。
『料理しろ』なんて命令するつもりはなかったが、本人が自発的にやるなら頼もう。
ただし今日の夕食はカップ麺で決定だが。
「うー……。どうせ冷蔵庫に材料なんて無いだろうし…仕方ないね。
今日はカップ麺を許してあげるよ。でも明日の夜からはわたしが作るよ!」
もうどっちが命令してるのか分からない悪魔の発言。
それに頷くと、コンロのやかんがピーと音を鳴らした。
あまり朗らかでない夕食を摂り、一息ついた後。
ニュースを見ている悪魔に『一緒に風呂に入ろう』と声をかける。
自分から言い出すのは気恥ずかしく、少し声がうわずってしまったが、
悪魔はからかったりはしなかった。
「一緒に? 別にいいけど、初めてはベッド…じゃなくて布団じゃないの?」
自分の部屋にベッドが無かったからか悪魔は言い直す。
確かに初めては寝床というのが一般的な認識だが、
事が済んだ後、そこで寝ることを考えると布団を汚したくないのだ。
「あー、確かにそういう考えの人もいるねぇ。
いいよー、じゃあお風呂場でしよっか」
悪魔はそう言うとリモコンでテレビを消して立ち上がった。
そしてこちらの手を取って風呂場へ……ってなんか逆じゃないか?
サーッ…と浴室に響くシャワーの音。
水の噴き出し口を高所に付けて自分は頭から温水を浴びる。
流している間ガス代と水道代がかかるので効率的ではないが、
自分一人のために浴槽に湯を張るよりはこの方が安い。
ある程度体が温まると自分は脱衣所にいる悪魔に声をかける。
いいよ、入ってくれ。
そう声をかけるとすりガラスの向こう側にある人影が動き、
扉を開いて足を踏み入れてきた。
「はーい。マスターお待ちかねの女の子の裸だよー」
呼ばれて入ってきた悪魔はタオル一つ持たない全裸。
小さく膨らんでいる胸やツルツルの股間を丸出しでペタペタとタイルの上を歩く。
蛍光灯に照らされた肌は人外の青白さだが、喜色悪さなんて微塵も感じない。
目にした直後から股間に血が集まり、勃起してしまうほどだ。
悪魔は目を細めてそれを見るとペロリと舌を舐めた。
「んー、マスターってば童貞のわりになかなか立派なの持ってるねえ。
一人身が寂しくって毎日シコシコしてたらそうなっちゃったのかな?」
男性器を一目見るなり言ってくれる悪魔。
確かにその通りなのだが、ストレートに言われるとムカッとくる。
うるせえな、童貞がそんな悪いかよ。
「ん? わたしは悪いなんて思ってないよ。誰だって最初はそうなんだしね。
っていうかむしろマスターが童貞で嬉しいかな。
別に経験済みでも気にしないけど、やっぱお互い初めての方がロマンチックじゃん」
え? おまえも初めてなのか?
「そーだよ、わたしのまんこは誰も入ったことのない新品のまんこ。
だから、マスターのちんぽに合わせて、すーぐ馴染んじゃうよ」
悪魔はエロマンガのように卑猥な単語をポンポン口に出す。
それは自分を欲情させてくれるが、処女が言うセリフではないだろう。
処女ならもう少しそれらしくしろよ。おまえの言動はどっちかって言うと痴女だぞ?
「そんなこと言われても、初めてだからって緊張なんてしてないしー。
それにマスターだってスケベな女の子の方が好きなんじゃないの?
例えばこんなことしたりさあ……」
話していた悪魔は腰を落としてタイルの上に直座りした。
左腕は後ろに回して背を支え、右手を己の股間へと寄せる。
そしてひし形に股を開くと、毛に覆われていない女性器へ指を刺し入れ、くぱぁ…と横に拡げた。
「はい、御開帳ー。これが女の子のまんこだよ。マスターが見るのは初めてだよね?
中の肉がヒクヒクして、粘ついた汁がどんどん出てくるでしょ?
これ、あなたのちんぽを欲しがってこうなってるんだよ」
指で広げられた女性器の入口。そこから見える肉も肌同様に青かったが、
粘液を湧きださせるそこはとても柔らかそうだ。
心臓がドキンと強く打ち、ゴクリとつばを飲み込んでしまう。
「あ、今ドキッとしたね。わたしがまんこ広げてるの見て興奮したんでしょ。
恥じらう処女だったら、こんなことしてくんないよ?」
確かに清楚系の女の子が初夜の床でこんなことしたら絶対引くだろう。
「でしょー? わたしがスケベな女の子で良かったねマスター」
なんか誘導されてる気がしないでもないが、それに頷いてしまう自分。
まあ、考えてみれば元から肉体目当てなわけだし、変に貞操観念が強いより良いのかも。
そうだな、おまえがスケベなのは別に悪い事じゃないな。
「うんうん、分かってくれて嬉しいよ。
じゃあさ、スケベなわたしにそろそろちんぽ入れてくれないかな?」
悪魔はそう言うと上体を倒して床の上に寝転がった。
ひし形だった膝を立てて、股の間に割り込みやすいよう空間を作る。
自分もタイルの上に膝をつき、悪魔の穴に男性器をそっと近づけた。
そしてあと数センチまで接近したところで深く息を吸い、悪魔の中へ押し込んだ。
「んっ! あ、あ、入って…きたっ! マスターの、ちんぽっ!」
初めて入った悪魔の膣内。
そこは彼女の体格通りに狭く、色に反して高い熱を持っていた。
体液でぬめった穴はぬぷ…ぬぷ…と容易く男性器を飲み込み締めつけてくる。
その快感は人並みには硬い自分の手とは比べ物にならない。
うぉ…これが、お前の中かよっ……!
「そうだよっ! これがわたしの中っ! 遠慮しないでもっと押し込みなよ!
処女膜なんて、乱暴にぶち破っていいからさっ!」
純潔の象徴である処女膜。悪魔は羽虫を潰すかのようにそれを破れと言う。
こっちは痛がると思って気を配ってやったってのに……。
わかった、破るぞ。痛いからって泣くなよ?
「あははっ! そんなんでわたしが泣くわけないじゃん!
っていうか、喋る暇あるならさっさと破りなよマスター!
早くわたしのまんこをあなた専用に――――んぃっ!」
自分は悪魔が話している途中で腰を一気に押し込んだ。
処女膜が途中で引っかかったが、強引にブチブチと押し破る。
「あひゃっ! 破れたっ…! お…おっ、ちんぽが…奥までっ!」
処女膜を破った男性器は勢いのままに悪魔の最奥まで貫いた。
自分の男性器は全て悪魔の体内に潜り込み、膣肉がそれにまとわりつく。
あまりの快感に自分は呻きを漏らしてしまった。
「ねえねえ、わたしの初めて奪った気分はどう?
処女まんこにズッポリちんぽ潜り込ませるの気持ちいい?」
結合部から赤い液体が滲んでいるにもかかわらず、ニタニタした笑みを浮かべる悪魔。
どうやらこいつは本当に痛みを感じていないようだ。
『当たり前だろ』と押し殺した声で返すと悪魔はニタニタ笑いをさらに深めた。
「うんうん、マスターが気持ち良くなってくれて私も嬉しいよ。
でもぉ、女の子の体ってのはこの程度じゃないんだよ?
あなたも知ってるよね? ちんぽでズボズボするともーっと気持ち良いってのはさ」
要は腰を動かせということか。どこまで耐えられるか分からないが、
さらなる快感はこちらも望む所なのでそうしてやる。
自分は悪魔の腰を両手で押さえ、何度も男性器を出し入れする。
最初の数回は男性器が赤い血に塗れていて少し引いたが、
それもすぐに気にならなくなり、強く腰を叩きつけるようになった。
余裕をかましていた悪魔も快楽に呑まれつつあるのか、可愛い声を出してくれる。
「ふひゃっ! 良いよっ…マスターっ! もっと…してっ!
わたしのまんこにあなたのちんぽを憶えさせてっ!」
赤黒の目を潤ませ、ハッハッと喘ぐ悪魔。
完璧に人外なのにその姿が愛しくてたまらなくなる。
自分は口づけをしようと上体を倒して、悪魔に顔を近づける。
それを察した彼女は両腕をこちらの首に回してぶちゅっと唇をぶつけてきた。
「んむっ! んっ…んっ…!」
歯の隙間からにゅるっと侵入してくる悪魔の舌。
こちらの口内を舐め回し蠢く肉はとても熱くて、唾液はどこか甘い。
自分たちはピチャッピチャッと舌と唾液を絡めあってから顔を離す。
汗に加え唾液で顔を濡らした悪魔。彼女は快楽にとろけた笑みで好意を言葉にした。
「ああんっ、マスター好きっ! 大好きだよっ! マスターの子供産ませてっ!」
なんと自分の子供が欲しいと言いだした悪魔。
頭の中は快感で酷いノイズがかかっていたが、その頼みにはすんなりと頷けない。
ちょっと待て! 子供できんのか!?
「うんっ! 悪魔と人間の間で子供はできるよっ!」
悪魔は力強く肯定する。それが喜ばしい事のように。
だが自分からすればとんでもない落とし穴だ。
じょ、冗談じゃ……! 子育てなんてできないぞ!?
「大丈夫、迷惑はかけないよっ! 面倒は全部わたしが見るからさっ!
マスターは種付けしてくれるだけでいいのっ!」
子供の面倒は全て見ると言う悪魔。しかし子供はそんな気軽に作っていい物では……。
「もうっ! あなたは誰とセックスしてるのっ!? わたしは悪魔なんだよ!
マスターの心配してる事なんて、ぜーんぶ解決できちゃうんだからっ!」
あ、そうだった。こいつは魔法とかそういうものが使えるんだ。
真っ先に金とか法律を気にしたけど、そんな物から最も縁遠い奴なんだこいつは。
悪魔の言葉で一番の心配事があっさりクリアされる。
後に残るのは純粋に孕ませたいかそうでないかだ。
そうなれば男として……いや、生物として答えは決まり切っている。
よーし、じゃあ面倒事は全部任せるからな! もちろん子育てもだぞっ!
何とも甲斐性無しな宣言だが、悪魔は笑ってそれに応じた。
「まかせてっ! あなたの使い魔ちゃんがみーんなやってあげるっ!
だからちゃんと孕ませてねっ! わたしのお腹が膨れるまで射精してよっ!」
悪魔はそう言うと青くて細い両足をこちらの腰に絡ませた。
そこからは『絶対に抜かせない』と言う意思が感じられる。
自分を好きだと言って妊娠を望む女の子。
そのシチュエーションは自分をいたく興奮させ腰の動きを速めさせた。
やがて男性器の中を白色の液体が昇ってくる。
「あっ、もうすぐ出すんだねマスター! 出す時はなるべく奥でお願いねっ!
そっち方が受精しやすい気がするしっ!」
異世界から来た人外のくせに科学的な言葉を使う悪魔。
まあレンジの使い方も知ってるようだから、それなりの知識はあるのだろう。
「あ、あ、来て、出してっ! わたしを妊娠させてっ!
マスターの精子でわたしの卵子を犯してぇっ!」
絶頂に達したのか、悪魔の膣壁が一気に蠕動し男性器を搾る。
自分はそれに導かれるように青肌の異種の胎内へ精液を放出した。
「んあぁっっ! マスターのちんぽが暴れてるっ!
精液がどぷどぷ出てるよぉっ! スゴイ量っ!」
ビクン! と一度身を跳ねさせ精液を受け止める悪魔。
彼女は精液をさらに奥へと押し込むように、絡めた両足でグッと腰を押し付ける。
「ああっ、泳いでるよっ! マスターの精子が子宮の中泳いでるっ!
ひぃ…っ! 卵子に、群がっちゃって……! お…ぁぁ、受精、しちゃうっ!
遺伝子までマスターの物になっちゃうぅっっ!」
妊娠という形で遺伝子にまで刻まれる使い魔の証。
この悪魔を完全に自分の物にしてやったという達成感が胸に満ちた。
射精が終わり快感の波が引いた後。
腰をホールドしたままの悪魔の足を解いて自分は身を離す。
ここが布団の中なら抱き合ったまま寝てもいいけど、風呂場でそうするわけにはいかない。
自分は硬さを失った男性器を悪魔の中から抜く。
するとフタが無くなった穴から、赤と白の入り混じった液体がドロッ…と漏れてきた。
「あ、もったいない……!」
寝ていた悪魔はいきなり上半身を起こすと、股間に手をやって液体を受ける。
一体どうするのか…と思ったら、なんと口元に運んでゴクリと飲み込んだ。
やや潔癖な自分としてはちょっと不快。
……そんな汚い物飲むなよ。
「別に汚くないよぉ。男の精液って無菌で清潔なんだからね?」
そう言われても、小便してるとこから出るから汚い感じがするんだよ。
「えー、だって可哀想じゃん。受精した以外の精子はみんな死んじゃうんだよ?
だったら消化してわたしの一部にしてあげた方がまだ報われるってば」
自我も何も無い精子なのに『可哀想だ』と言う悪魔。
こいつが飲んだところで死ぬことに変わりはないんだが。
「うーん、そこは見方を変えられない? ちょっと想像してみてよ。
わたしの口に入った精子の行き先をさ」
あまり想像したくはないが、頼まれたので少し脳内に思い浮かべてみる。
「マスターの精子はまずわたしの喉を通るよね。
粘ついた精液は食道をズルッって滑って、ポチャンって胃の中に落ちる。
そしたらジワジワって胃液が出てきて、何億もの精子たちはみんなお陀仏。
でも死んだ精液はわたしの内臓の中をどんどん進んで行って、
小腸の辺りでバラバラに分解されて、わたしの体に混ざっちゃう。
あなたの精液がわたしの材料になっちゃうんだよ。
そして飲めば飲むほど、わたしの肉はあなたの精液に置き換わっていく。
どうかな? あなたの精液でわたしの体を作り変えちゃわない?」
悪魔は自論を語ると、目を細めて妖しい笑みを浮かべる。
自分も彼女の語りに『ちょっと良いかな…』なんて思ってしまった。
だがそれでも毎回のように飲まれるのは嫌だ。
……時々なら許す。でも毎度毎度精液を口にするのはダメだ。
キスするたびに思い起こすなんてこっちも嫌なんだからな。
「んー、残念だけどマスターがそんな嫌がるならしょうがないね。
精液飲むのはたまのご馳走にするよ」
幸いなことに悪魔は食い下がらず自分の命令を素直に聞いてくれた。
色々な汚れをシャワーで洗い流し、風呂をあがった後。
BGM代わりのTVがついた居間で自分は悪魔に質問をする。
そういやおまえはどこで寝るんだ?
いくらなんでもタヌキ型ロボットのように押し入れで寝させる気はない。
順当なのは主不在の両親の部屋だけど、別の場所が良いなら居間でも客間でも許可するつもりだ。
「寝るところ? そんなのマスターと一緒の布団に決まってるじゃん」
材料のテロップが浮かぶ料理番組から目を離さず、当たり前のように答える悪魔。
そう言うと思った。が、流石にそれは許可できない。
それはダメだ。おまえが隣にいたら大人しく寝てられん。
明日も学校なんだから、おまえにかまけて一晩中風呂に籠るわけにはいかないんだよ。
「あーそっか、マスターは学校があるんだよね。
あなたが居眠りして先生に叱られるのも嫌だし……分かった。
今日はマスターの部屋の押し入れで寝ることにするよ」
ホントこっちの気遣いを無視してくれるなコイツは。なんで自ら入りに行くんだ。
結局押し入れ行きは却下して、居間で寝させることにした。
「はーい、マスター朝だよー。もう起きる時間だよー」
とても可愛らしい音を出す目覚まし。
目覚まし時計を変えたっけ? と思いながら自分は目を開く。
すると見慣れている天井を背景に、青肌の人外が覗き込んでいる光景が目に入った。
「おはよー。もうそろそろ起きて朝ごはん食べないとだよ」
ん…おはよう………起こしてくれたのか。
自分はゴシゴシ目をこすりながら枕元の時計を見る。
時刻はアラームをセットした時間の五分前だった。
あと五分くらいこのままでも……。
「ダメだよ、そういう人が寝過ごしちゃうんだから。
それにうるさい音でむりやり起こされるのは体に良くないんだよ」
それは分かる気がする。
良い夢見てるところで突然ジリリリ…って鳴るとストレス溜まるし。
……わかった、起きるよ。
このまま起きる起きないでグダグダ話してたら、五分なんてすぐ過ぎる。
二度寝は諦めて起床するのが賢明だろう。
自分は掛け布団を剥いで体を起こす。
そして枕元の目覚ましに手を伸ばし、アラームをOFFにした。
今朝の自分は悪魔に起こされたわけだが、朝食は別に変わりない。
冷蔵庫に材料なんて無いからいつも通りの冷凍食品だ。
パッケージを破って、皿にのせて、レンジに放り込んで、ピッピッ、スタート。
普段なら温めてる間に米をよそるのだが、それは悪魔がやってくれた。
「はい、ご飯。あとお茶も淹れとくよ」
悪魔はそう言ってあまり使ってない急須からマグカップに緑茶を注ぐ。
食事時に茶を飲む習慣はないのでなんか変な感じだ。
茶を淹れるのはありがたいんだけど、ハンバーグに緑茶って合わなくね?
洋物なんだから、淹れるのはコーヒーとかが相応しいんじゃなかろうか。
自分がそう口に出すと悪魔はハァ…と息を吐いた。
「冷凍食品なんて体に悪い物ばっか食べてるんだから、せめてお茶ぐらい飲みなよ。
それとコーヒー淹れたら、どうせ砂糖とかミルクをたくさん入れるでしょ」
一体どこの健康マニアだよ…と思う発言だが、これが悪魔なりの気遣いなんだろう。
自分はそれ以上の反論はせずにマグカップを受け取った。
食べて話して着替えたらもう登校時間。
自分を見送ろうと玄関に立つ悪魔に最後の注意をする。
じゃあ、自分がいない間の留守は頼んだぞ。
洗濯物干すとか、外に出る時はなるべく見られない様に気をつけてくれよな。
「もー、大丈夫だってばー。ご近所さんに見られたって平気なようにしておくからさぁ」
同じ注意を何度も繰り返しているせいで悪魔はウンザリ顔だ。
流石にそんな顔で見送られるのは嫌なので頭をちょっと撫でてやる。
「あっ……」
サラサラとした手触りの良い髪の毛。
それに触れると悪魔は心地良さそうに目尻を緩ませた。
そして頬を少し紫に染めて『いってらっしゃい…』と新妻のように言ってくれた。
四時限目終了のチャイムが響けば昼休み。黒板との睨めっこも一時中断だ。
友人がいる奴は連れだって教室を出ていくが、自分はそこまで親しい相手はいない。
便所飯というわけではないが、人気が無くて静かな屋上階段付近へ自分は向かう。
中庭と違ってベンチやテーブルがあるわけではないが、階段は十分イス代わりになる。
朝にコンビニで買った弁当を広げ、割り箸をパチッと分割。
味の染みた米を挟んで口に「マスターちょっとごめーん」
背後の踊り場からいきなり聞こえた声。
首を振り向かせると、露出度の高い例の服を纏った使い魔がそこにいた。
おまえ、どうやってここに来たんだ。っていうか何の用だ。
ちょうど食べようとしたところだったのに。
「食事中にごめんねー。用事はすぐに終わらせるよ。
それと、わたしはマスターのいる場所ならどっからでも出てくるからね」
悪魔は軽く謝ると、犬にお手を求めるように右手を差し出した。
「言うの忘れちゃったんだけど、お金もらえない?
夕食の買い出しに行きたいんだけど、わたしは無一文だからさ」
あー、そういや『夕食はわたしが作る!』とか昨日言ってたな。ちょっと待て。
自分は尻ポケットに手を入れてサイフを取り出す。
そして小銭入れの部分を開きコインを一枚。
ほらよ、今晩の食事はそれで何とかしてくれ。
「え!? たったの五百円!? これじゃ大したもの買えないよ!」
大したものじゃなくていいんだよ。質素に行こう、質素に。
栄養バランスを考えた高価な食事なんて自分は望んでいないのだ。
「せめて千円はちょうだいよ!
冷蔵庫すっからかんだから、調味料も買わないとなんだよ!?」
千円もかけてまで手作り料理食べたくないっての。
いいから、その予算内でどうにかしてくれ。
交渉には応じないとキッパリ示す自分。
悪魔はしばらく食い下がったが、やがて諦めて姿を消した。
学校が終わった。
今日は特に寄り道する用事もないので一直線に家へ向かう。
玄関のカギを外して中へ入ると、エプロン姿の悪魔がパタパタとスリッパを鳴らして廊下の向こうから寄ってきた。
母がいた頃は何とも思わなかったが、出迎えてくれる人がいることにどこか嬉しさを感じる。
自分が高校に入学し、父母が揃って家を出てから一ヶ月半。
どうも知らない間に人恋しさが募っていたっぽい。
「お帰りなさーい、マスター。
帰ったら『ただいま』って言わないとダメだよー?」
悪魔の方も独りは寂しかったのか、微笑みながら注意する。
『はいはい、分かりました』と返して自分は靴を脱いだ。
そして顔を洗おうと洗面所へ向かう途中、台所から美味しそうな香りが漂ってきた。
ちょっと気になって、のれんを押して覗いてみると――――。
……なあ。
「ん? なに?」
これ、どうやったんだ?
覗き込んだ台所の光景。
そこは調理台の上のみならず、テーブルにまで作りかけの料理が置かれていた。
一つ辺りの量はそれほどでもないが、種類はどこのパーティかと思うほどだ。
激安の外国産を使っても、これだけの物は作れないと思うのだが……。
「いやほら、今晩はわたしとマスターのお祝いってことでさ。
ちょっと腕によりをかけて、色々作ろうと思ってたんだよ。
でもお金が足りないから――――」
悪魔は悪びれる様子を全く見せず。
「――――盗んできちゃった」
窃盗したことを告白した。
いや、分かるよ。一番悪いのは盗んだこいつだ。
でも十分なだけの金を渡さなかった自分にも責任がある……ような気がする。
額を押さえて昼休みの件を後悔する自分。
その様子を別の心配と受け取ったのか、悪魔はバッチリな笑顔で言った。
「心配はいらないよマスター! 盗る時にいくつも魔法を使ったからね!
この家の人が盗んだなんて絶対バレないよっ!」
現代知識があるこの悪魔なら監視カメラなど防犯装置の存在も知っているだろう。
その上で魔法を使ったなら、まず発覚はしないはずだ。
社会的に自分たちが責められることはない。
しかし良心やモラルといったものが、チクチクと自分を責め立ててくれる。
自分は甘く見ていた。こいつは悪魔、それも異世界からやってきた悪魔なんだ。
コイツに現代日本人並みの良識があるなんて考えるべきではなかった。
……やったことは仕方ないな。
次からはもっと金を渡すから、こういうことはやめてくれよ……。
今の自分には力なく悪魔に言うのが精一杯。
本日の夕食は豪勢だったが、後ろめたさのせいであまり楽しめなかった。
ミーンミンミンとセミが鳴く真夏。
悪魔と契約してしばらく経ち、学校はお待ちかねの夏休みに突入した。
一日中ゴロゴロして過ごせるのはやはりいい。大量に出される宿題は面倒だけど。
冷房の効いた居間。
自分はこたつの上に広げられた数学の問題集と睨めっこをする。
ええと、Xが4だとYは……23だな。
使い捨てのメモ用紙で計算しつつ空欄を埋める自分。
ときおり教科書に目を通しながらながら問題を解いていると、悪魔が横から声をかけてきた。
「あれー? マスターまだ終わんないのー?」
家の掃除を終えたのか、氷の浮いた麦茶を盆に載せて持ってきた悪魔。
それを手にとって一口飲んだ後、面倒臭さを言葉に乗せて自分も返す。
……終わんないんだよ。難しくはないけど、やたら量が多いんだ。
多少の応用はあるが、大半は公式さえ憶えれば簡単に解ける問題ばかりだ。
『公式を暗記させる』という点では理に適っているだろうが、
完全に憶えている自分にとっては時間の浪費でしかない。
「計算をいちいち紙に書くから時間がかかるんだよ。
暗算しちゃえば、ササッと答えだけ書いて終わるのに」
んなことできるか。自分が暗算できるのは単純な割り算までだ。
だいたい、そういうおまえはできるのかよ。
自分は『暗算しろ』などと簡単にぬかす悪魔をジロリと睨む。
すると悪魔は開いている筆箱から予備のシャープペンを取り上げた。
そして一番厄介な最下段の応用問題の回答欄にサラサラッと数字を書き込む。
まさかと思いながらその問題を解いてみると……正解。
信じられない…という目で見ると、悪魔はフフンと鼻で笑ってみせた。
「こー見えても、こっちの世界のことは一から勉強して憶えたんだからね?
高校生程度の数学なんて、寝ぼけてても解けるよ?」
言われてみれば納得だ。
この悪魔は異世界出身でありながら現代日本に適応している。
ならば、こいつの学習能力は自分の比ではないだろう。
どうやら自分はまだこの悪魔の事を侮っていたようだ……。
……悪いけど、宿題の答え教えてもらっていいかな?
「別にいいけど、ちょっとご褒美が欲しいかなー」
こっちの足元を見て要求を突きつける悪魔。代償はきちっと払ってるだろうがおい。
「そうだけどー、たまにはボーナスとかあってもいいと思わない?
二人一緒に出かけるとかさぁ」
一緒に出かける? それってデートってことか?
「そうそう。せっかくの夏休みなんだからプールとか行こうよ」
プールか……。いいけど水着持ってるのかおまえ?
「持ってないけど大丈夫だよ。服ぐらいなら魔力で作れるから」
便利なものだな魔力って。
いいよ。今日でこの問題集を終わらせて明日行こう。
「オッケー! んじゃ、そっちのメモに答え書いてくから写してねー」
悪魔はそう言って喜ぶと自分の隣に座り、カリカリカリカリ…と凄まじい速度で答えを記していった。
いまさら言うまでもないが、この悪魔はとても可愛い外見だ。
それはもう異色の肌が気にならないくらいに。
そんな悪魔が人間色の肌になれば、嫌でも人目を引くほどの美しさになる。
幸いなことに外見年齢がアレなので、チャラついた男でもナンパはしてこない。
そういう奴らからすれば、いくら可愛くても年齢が対象外なんだろう。
しかし、常識が変な風にねじ曲がった奴にとってはそうでないらしい。
「やあ、こんにちは」
昼近くになり、水から上がって休んでいた自分と悪魔。
そんな自分たちに髪の毛も薄くなった中年が声をかけてきた。
見覚えの無い顔だがとりあえず『こんにちは』と返しておく。
「そっちの子はずいぶんと可愛い子だねえ。君の妹さんなのかな?」
見ず知らずの相手に慣れ慣れしく話しかけるおっさん。
自分は心の中で少し警戒しつつそれに答える。
ええ、自分の妹ですよ。何か用ですか?
自分たちの関係は主人と使い魔なわけだが、正直に答えるわけにはいかない。
かといって恋人と答えるのは悪魔の外見年齢からしてちょっとヤバイ。
なので、誰かに訊かれたら『兄妹』と答えることにしてある。全然似てない兄妹だけど。
「うん、用と言えば用なんだけど……ご両親は一緒じゃないのかな?」
いません。今日は自分たちだけで遊びに来たので。
「あー、そうなんだ。なら丁度良いや。ちょっと君に話があるんだけどいいかな?」
おっさんはそう言うと人気の少ない方を手で示す。
だが、得体の知れない相手に誘われてホイホイついていくほど子供ではない。
すいませんけど、この場で口にできない話に付き合う気はありません。
用がないならどっか行ってください。
正直、同行を断られて怒り出すかな? と少し心配したが……。
「そっか、残念だなあ。うん、ゴメン。邪魔して悪かったね」
おっさんはそう言うと、特に激高もせずあっさり目の前から去っていった。
「何だったんだろねマス…お兄ちゃん」
さあな。どっか行ったんだし別にいいだろ。
んなことより、そろそろ昼を食べよう。
「昼食かあ。こーゆう施設の食べ物って高いくせに質が悪いんだよね……」
このプールは食べ物の持ち込み禁止なので、売店で買わざるを得ない。
倹約しつつそれなりの料理を作るこいつにとっては、ボッタクリもいいところなんだろう。
まあ、空腹で戦はできぬので結局は買って食べたけど。
食後にすぐ泳ぐのはかなりの危険。
自分たちは昼食を摂った後、プラスチックのイスに腰かけてしばらく休む。
やがて尿意を催してきたので、イスを立ってトイレへ向かった。
白い陶器でできた小用の便器。
水着を下げて用を足していると、なんとあのおっさんが入ってきた。
おっさんは自分の横までくると、便器に向かわずこっちに話しかけてくる。
「やあ、また会ったねえ。ここは人も居ないことだし、ちょっとお話しいいかな?」
なんて悪いタイミングだ。用足しの最中じゃ無視して逃げられない。
……いや、もしかするとこっそり監視していたのか?
それで自分が一人になった隙に声をかけてきたとか。
何にせよ、この状況では相手せざるを得ない。
なんの話ですか。妹が待ってるんで早く戻りたいんですけど。
「うん、その妹さんのことで話がしたいんだ。単刀直入に言っちゃうけど、五万でどう?
君に紹介料一万、あの子に四万って感じでさ」
右手の指を開いて五の数字を示すおっさん。
その意味が分からないほど察しが悪いわけじゃないけど、鈍いフリをして自分ははぐらかす。
……すいませんけど、言ってる意味が分かりません。
そこ退いてもらっていいですか? 手を洗いたいんで。
もう用は足した。こんな色ボケのおっさんの相手なんてできるか。
そう思って丁寧に『退いてくれ』と言うが、おっさんは通路を通せんぼ。
そして少し不機嫌な面持ちになって話を続ける。
「君ねえ、もっとマシな言い訳をしなよ。
その歳で『意味が分かりません』なんて通じるわけないだろう?
私は君の妹さんを買いたいんだよ。あんな可愛いんだから相当稼いでいるんだろう?」
可愛い女の子=売春で荒稼ぎ。こいつの頭の中はどうなってるんだマジで。
おっさんの薄い髪を見ていたら腹の底から苛立ちがこみ上げてきた。
使い魔の契約をしているとはいえ、あれだけ自分に尽くしてくれる悪魔。
それを頭空っぽの援交少女と同列に語るだなんて何様のつもりだこのハゲ。
生憎だけど、ウチの妹は金目当てに誰とでも寝るビッチじゃないんだよ。
その五万は有料公衆便所にでも突っ込めってんだ、ハゲジジイが。
湧き上がってきた怒りそのままに口から出る乱暴な言葉。
おっさんは一瞬ピキッときたようだが、若者相手に喧嘩する度胸はないのか握った拳を緩める。
こうも強く言ったんだからこの話は終わりだろう。
自分はそう思っておっさんを退けようとするが、ハゲは退こうとしなかった。
それどころかさらなる交渉を持ちかけてきた。
「分かった、君の妹は安売りはしないということなんだね。
じゃあ奮発して十…いや十五万出そう。
もちろん十万は君の物だ。こっそり懐に入れれば妹さんにも分からない。
口利きするだけで十万。良い話だろう、なあ?」
追い詰められたような笑みを浮かべて、必死に話すおっさん。
十万どころか十億積まれたって抱かせはしないが、その熱意のあげようは気になる。
……あんた、そこまでしてあいつとエロいことしたいのか?
純粋な疑問で口にした言葉。
しかしおっさんは心が揺れていると受け取ったらしい。
目を見開き、つばを飛ばしつつ語ってくれる。
「もちろんだとも! 私はいままでいろんな子たちを見てきたけど、
あれほどに可愛い女の子は初めて目にしたよ!
まったく君が本当に羨ましい! あんな子と毎日過ごせるんだからねえ!」
ガッツポーズのように両拳を握っておっさんは力説した。
そして『さあ、早く紹介してくれ』と自分を促す。
だが、自分は紹介するだなんて一言も言っていない。
“お断りだ”って言っただろ。
あんたにも、それ以外の男にも、エロいことはさせる気はないんだよ。
それ以上しつこいと警察に通報するぞ?
顔と声に嫌悪を込めて吐き捨てる自分。
イケると思い込んでいたおっさんは希望を打ち砕かれたように顔を歪めた。
そして何を考えたのかこっちの肩を掴んで、ドン! とトイレの壁に押し付けてきやがった。
「舐めるなよ! 私をそこらの貧乏人と同じだと思ってるのか!?
いいさ、だったらおまえの言い値で買ってやる!
百万でも一千万でも吹っかけてみろ! すぐに用意してやるからな!」
怒りの形相で『妹の体を売れ』と迫る中年。
それはまるで人間の醜悪な部分を凝り固めたようにさえ見える。
不快さが何よりも先に立ってしまい、怒りさえ覚えない。
「ほら言え! 言ってみろ! いくら欲しいんだ!?」
おっさんは至近距離で金額を提示しろと喚く。飛び散るつばが顔にかかって気持ち悪い。
それから逃れようと顔を背けると、業を煮やしたハゲは平手打ちを一発放ってきた。
バチンとトイレに響く音。次いで頬にやってくるのはジンジンとした感覚。
勢いが無いので大して痛くはなかったが、叩かれたという事実に防衛本能が働き出す。
自分の右手がグーの形になり、脂肪を纏った腹にめり込ませようと腕が「なにやってるの?」
男子トイレで聞こえるはずの無い声。
自分がそちらに目を向けると、おっさんも振り返って見た。
そこにはいつの間に現れたのか、自分の使い魔が立っていた。
「ねえ、おじさん。わたしのお兄ちゃんにいま何したのかなあ」
初めて耳にした悪魔の冷たい声。
ハッと気付いたようにおっさんは自分から離れた。
そして誤魔化し笑いを浮かべ、悪魔に話かける。
「ああ、ごめんね。お兄さんの物分かりが悪くて少し熱くなっちゃったんだ。
でも君が来てくれたなら話は早い。おじさんの頼みを聞いてくれるかな?」
『ボクちゃん悪くないんだもんね』とでも言いたげなセリフ。
その態度で悪魔の目つきがさらに鋭くなったが、おっさんは気付かずに交渉しようとする。
「十万…いや十五万払うよ。おじさんに気持ちイイことしてくれないかな?
もちろん交通費・宿泊代はちゃんとこっちが出すよ。どうだい、悪くない話だろう?」
このおっさんが今まで買ってきた連中はきっと喜んで首を縦に振ったんだろう。
声に確信的な期待が含まれているから。
しかし悪魔はにっこりと笑って言った。
「お断り、だよおじさん。お兄ちゃんを叩くような奴とは手だって握ってあげない」
笑顔を浮かべて『やった!』と思わせ、拒絶の言葉で叩き落とす。
まさに悪魔って感じだ。
悪魔は硬直したおっさんの横をすり抜けて、自分の傍らまでやってくる。
さらに心配そうな目で見上げ、叩かれた側の頬をナデナデした。
「何があったかは見当つくよ。ごめんなさい、わたしのせいで……」
『美しさは罪』なんていうけど、今回の件はまさにこいつの外見のせいで起きた。
どうやらそのせいで責任を感じてるっぽい。
あっけらかんとされても困るけど、もう少し気楽に考えたっていいだろうに。
別に大したことないから気にするな。
それより早くここを出ろ。男子トイレなんだぞ?
この場に客が入ってきたら確実に変な目で見られるだろう。
「はーい。じゃあお兄ちゃんも一緒に……何してんのアンタ」
悪魔はこちらの手を取って出口へ向かおうとする。
しかし振り返った途端、足を止めてしまった。
何故ならおっさんが亀のように背を丸めて土下座していたから。
掃除はされているんだろうけど、心理的に汚いと感じるトイレの床。
おっさんはそこに額を押し当て、渾身を込めた声で悪魔に頼む。
「私が悪かった。君を安く見ていたことは謝るよ。
金額は君が望む額を提示してくれていい。借金してでも払う。だから頼む、私と……!」
……まだ諦めきれないのかこのおっさん。
さっき迫られた時は不快さを感じたけど、今度は哀れだと思う。
土下座し借金してまでこいつと寝たいとは。
もちろん、同情して抱かせてやろうなんて気は毛ほどもない。
しかしこうまでするとは、それなりの過去があったんじゃないかな…なんて思うのだ。
悪魔は繋いでいた手を離すと、土下座しているおっさんの前にしゃがみ込んだ。
そして優しい声で『顔を上げて』と言う。
言われて上げた顔は『誠意が通じたのか…』なんて考えてそうな顔。
悪魔はその顔に向かって慈悲深い聖女様のように語った。
「あのねおじさん、わたしの体はぜーんぶマスターの物なんだよ。
キスするのも、体に触れるのも、セックスだってマスターにだけ許されたことなの。
だから―――アンタがわたしを抱くなんて世界がひっくり返ってもないんだよオッサン」
さっきと同じ。望みが叶うと思った瞬間に反転して落とされる。
おっさんは一瞬にして泣きそうな顔になり、立ちあがろうとした。
しかし悪魔の影から黒い触手のような物が突然伸び出し、
張り付けられたガリバーのようにおっさんを強制土下座させ―――って何のマネだ!
突然魔法らしきものを使った悪魔。
その右肩を掴んで自分の方を振り向かせる。
おまえ何してるんだよ! いくら何でも「ムカついたの」
首で振り向き、こちらを見る悪魔の目。
今は人間と同じ色をしているそこには隠しようのない怒りが宿っていた。
「コイツはマスターに謝らなかった。
わたしのことばっかりで『叩いて悪かった』っていう一言さえ無い。
そこが気にいらないの。だから思い知らせてやるんだよ」
悪魔は主人である自分のために怒っていた。
それ自体は嬉しいが、だからって人間を痛めつけるのを許すわけにはいかない。
その気持ちはありがたいけど、動けない相手に暴力は……。
「そこは大丈夫だよ。わたしも物理的にいたぶるのは好きじゃないし」
じゃあどうするのか。
自分がそう思うと悪魔は黒いビキニのトップを外した。
そして何か言う間もなく、ボトムをスルッと落とす。
あっという間に裸になった悪魔はそのまま自分に抱きつき話す。
「セックスしよう、マスター。コイツの目の前でわたしの体をたっぷり貪って。
『絶対に手に入らない』って思いっきり見せつけてやろう?」
抱きついてきた悪魔はつぅっ…とこちらのヘソをなぞりながら左手を下げた。
そのまま水着の中に手を入れて、臨戦態勢に入り始めた男性器をさわっ…と撫でる。
たったそれだけのことでブルッと身震いが走り、抑え難い性欲が湧きあがってきた。
しかしここは公共の場。誰かがやってきたら……。
「言っとくけど、人払いの魔法はもうかけてあるから。
ここ以外のトイレが全部使用不能にでもならないと人はやってこないよ」
用意周到な奴だ。そういった事態は対策済みとは。
まあいい。無関係の第三者に見られないならやってやろう。
自分は抱きついている悪魔を体から離す。
そして水着を押さえてある紐の結びを解き、足元へ下した。
で、見せつけるって言ったけど、どうするんだ?
「そうだね……じゃあマスターは床に座っちゃって。
あぐらでも足伸ばしてもいいから。わたしがその上に乗っかるよ」
どうやら座位とかそういう体勢でやるつもりらしい。
特に不服はない自分は言われた通りに床に尻を付ける。
真夏でもコンクリート造りの床はひんやりして冷たい。
座った自分を確認すると、悪魔はクルリと背を向けておっさんの方を見た。
触手が天井に張り付き唯一上げさせられている顔。
喋らせたくないのか、口元を真っ黒に封じられたハゲは、
全裸姿の悪魔に目を広げて鼻息を荒くする。
そんな中年に悪魔はしなを作ってみせ、己の魅力をアピールして言う。
「大サービスだよおじさん。
例え死んでも見られないわたしの裸を鑑賞させてあげるんだからね。
じゃ、わたしとマスターが愛し合うところをたっぷり見なよ」
悪魔はそう言い放つと、背を向けたまましゃがみ込む。
カエル座りのように膝を曲げた悪魔は股を大きく広げ、おっさんの目に女性器を見せつける。
そして自分の男性器の上に位置を合わせると、腰を下げだした。
「あは…! マスターのちんぽが入ってくるよ…!
あ、あ、良い…っ! 硬くて…太くてっ…!」
ズブズブと男性器を飲み込んでいく悪魔の穴。
繋がっていく所を見せるように、悪魔はゆっくりと腰を降ろす。
正直、腰を掴んで一気に挿入したいが今回は我慢だ。
「ほら、見てよおじさん!
わたしのまんこ、こーんな深くちんぽを咥えちゃってるよ!
ホントは自分がこうしたかったんだよねぇ!?
でも残念! セックスしてるのはずっと若くて良い男でしたー! アハハッ!」
悪魔の煽る言葉を受けて、おっさんの目が少し潤む。
だがおっさんは何も言い返せない。逃げることも許されない。
目を閉じること…はできそうだが、悪魔の裸は見たいのかそうはしない。
今にも涙が零れそうな瞳で自分たちの行為を見ている。
「んっ、んっ…! ああん、マスターのちんぽ素敵すぎぃ!
まんこが食い付いちゃって放せないよっ!」
二つにくくった黒い髪を揺らしながら、人肌色の体を跳ねさせる悪魔。
普段と違う色がとても新鮮で、まるで別人とセックスしているようだ。
しかし男性器の形をすっかり憶えた悪魔の膣は、いつもと変わらぬ快感を与えてくれる。
「ねえ、おじさん! 目を付けた女に相手にされないどころか、
別の男と愛し合うのを見せられるのってどんな気持ち? ねえ、どんな気持ちなの?」
よほど強い感情を抱いているのかブルブルと震えるおっさん。
あまり良くないことと思うけど、自分はその姿に優越感を感じてしまう。
どれほど金を積まれようとなびかない美少女。
自分はそれに愛され、肉体を存分に味わっているんだぞ、と。
「あっそうそう、これ見てよこれ。何だか分かるー?」
悪魔はふと思いついたように高い声で言うと、ポッコリした腹に左手を当てる。
口を塞がれているおっさんが回答できるわけもなく、悪魔はすぐに正解を口にした。
「これ太ってるんじゃないよー。この中にはねえ…マスターの赤ちゃんがいるんだよっ!」
全財産を投げ打ってでも抱きたい女の子。それが別の男に既に妊娠させられていた。
その事実がトドメだったのか、おっさんの目からついに涙が零れた。
そして悪魔はさらに追い打ちをかける。
「ホンッと残念だねぇ! わたしはとっくに遺伝子までマスターの物でしたー!
ねえ、悔しい? 悲しい? ムカつく? だったらもっとそう思いなよ!
マスターを叩かれたわたしの想いはそんなもんじゃないんだからねっ!」
声を荒げて怒りを吐き出す悪魔。
完全に心が折れたおっさんは叱られた幼児のように涙と鼻水を垂れ流す。
そのさまを見て溜飲が下がったのか、悪魔は雰囲気を和らげてこちらを振り向く。
「ふぅ……少しだけすっきりしたよ。今度はマスターをスッキリさせてあげるね」
おっさんへの関心が薄れた悪魔は腰の上下移動を加速する。
カエル座りは腹筋に力がこもるのか、男性器全体をギュッと強く締め付ける。
自分も下から突き上げたいのだが、あぐらで座っているとほとんど腰を動かせない。
なので背後から両手を回して胸を弄ることにした。
「あっ、おっぱい触るの? いいよっ、弄ってもっ!」
こいつの胸は相当に薄い。
しかし感度は良いのか、こっちが攻めたい時には結構便利なのだ。
撫でるように揉んでやると簡単に余裕を失う。
「あ…んっ! マスターの手つきっ…すごく、イヤラシイっ…!
もっと触ってっ…! 崩れたりなんて、しないから……っ!」
確かに形が崩れはしないだろうな。崩れるほどに膨らんでないから。
自分はふにゃふにゃ揉むのを止め、乳首を摘まんでグイッと引っ張る。
すると悪魔は淫らな奇声を発した。
「おほぉっ! 乳首…引っ張っちゃ……くひゃぁっ!」
悪魔は丸めていた背筋をピンと伸ばしてよがる。
それが面白くて何度も何度も弄っているうちに射精感がこみ上がってきた。
「んぃっ! もうっ、出すのっ、マスター!?
たっぷり、ちょう…だいっ! わたしもっ、もう……!」
ドスン! と落とすように腰をぶつける悪魔。
その衝撃で堰が切れ、自分は悪魔の膣内に射精をした。
「あひっ! 出てるぅっ! マスターの精液美味しいよぉっ!
あっ、赤ちゃんも喜んでるっ…! あなたってば素敵すぎだよぉっ!
もう…大好きっ! 愛してるよマスターっ!」
膣内射精しただけでこの喜びよう。
“愛される”ってのはなんて素晴らしいんだろう。
小柄な悪魔の体を抱きしめながらそんな事を自分は思った。
事が終わると悪魔は立ちあがって、拘束されたおっさんの前に立った。
精液で汚れた股間を拭いもせず見下ろし、酷薄な声で言う。
「ムカつきはまだ収まらないけど、解放してあげるよ。
アンタに構いすぎて遊ぶ時間が減るのも嫌だからね」
死にかけの目をしていたおっさんは話しかけられたことで微かに光を取り戻す。
あれだけ邪険にされた今となっては、声をかけてくれるだけでも嬉しいのかもしれない。
だがこの悪魔は微かな救いさえ踏みにじり、粉々に砕く。
「なに喜んでんのオッサン。まさかただで解放されるとでも思ってる?
んなわけないでしょ。ここであったことは全部記憶から消させてもらうよ」
『記憶を消す』の一言におっさんは再びもがき始めた。
今さら抜けられるような拘束じゃないってのに。
「アンタはわたしのことを何一つ憶えていられない。
声も、姿も、存在したことさえ頭の中には残らない。
さらに、二度とわたしを認識することができなくなる。
例え隣に座っていても気付けなくなるんだよ」
おっさんの中から存在を完全に抹消すると悪魔は言った。
そして絶望の涙を流す中年男の額に人差し指を触れさせて最後の一言。
「じゃあね。永遠にサヨナラ、バイバーイ」
指先が青白く光ったかと思うと、おっさんは気絶したように脱力した。
黒い触手は霧散して消え、後に残るのはトイレの床に横たわる男。
自分は水着を履き直しながら悪魔に訊く。
終わったのは良いけど……これ、ほったらかしにしてくのか?
トイレに入る人が倒れてるおっさん見たら騒ぎになるぞ?
自分たちに害はないが、プールの従業員には大きな迷惑だろう。
「その辺は人払いが切れる前に目覚めるようにしてあるよ。
だからマスターが気にすることなんて何もない」
悪魔はそう言うと床に放り投げた黒いビキニを拾って手早く身に付けた。
そしてリセットボタンを押したかのように、纏う雰囲気をガラリと変える。
「さっ! お腹もいっぱいになったし、また泳ごうよお兄ちゃん!」
何事もなかったように笑い、こちらの手首を掴む悪魔。
そのまま手を引かれて自分はトイレを後にした。
自宅で悪魔とセックスする場合、その場所は常に風呂場だ。
一度畳の上でしたこともあったが、床がずいぶんと染みになった。
こんなことを毎日繰り返していたら消せない跡として残る。
なのでそれ以降『する時は必ず風呂場で』と決めた。
ただ問題があって、夏場は良いのだが冬は寒くてしょうがない。
シャワーを浴びた程度で絡んでたら風邪をひくだろう。
もっと体の芯から温まらなくてはならない。
そこで自分は一計を案じることにした。
別に難しい事ではなく、半身浴のように浸かってセックスするというだけだが。
夏よりも濃く見える風呂の湯気。
霞んで見える天井の蛍光灯の下、自分たちは風呂場の壁に音を響かせる。
「んっ…あっ! マスターのちんぽっ、深いっ……!」
壁に手をつき、背を向けて立っている悪魔。
自分は大きくなった腹に比べ、アンバランスに細い腰を押さえて後ろから突く。
こいつは臨月にまで腹を膨らませておきながら、非常に性欲旺盛だ。
胎児の重みで下がっている子宮口。
男性器の先端がそこを突くたびに、黒い尻尾をウナギのようにくねらせて嬌声を漏らす。
「もっとっ…! もっとしてっ! わたしのまんこほじくり返してっ!
もう産まれても大丈夫だからっ! 子宮口を破ってっ…!」
少し大きくなった乳房から母乳を滴らせながら言う悪魔。
そういえばこいつは『二、三日中に産まれる』といってたな。
だったら今すぐ産まれても胎児の心配はないのか。
自分は悪魔の尻を叩くように腰を打ちつける。
パシンパシンと肉を打つ音が湿った空気の中を反響し、
腿の半ばまである湯がパチャパチャとかき回される。
何度も叩いているうちに子宮口の筋肉は緩くなり、やがてズボリと先端がめり込んだ。
「んぎゅっ! は、入っ……たっ…!
マスターのちんぽっ、子宮で…咥えちゃってるっ…!」
まだ胎児が眠っている子宮。
そこにまで侵入された悪魔は尻尾をビクビク震わせた。
そして顔を振り向かせると、これまた震える声で言う。
「ねっ…ねぇマスター、このまま産ませちゃってよ。
子宮グチャグチャしてれば、赤ちゃん出てくるだろうからさ…。
ね、お願い、あなたのちんぽで産ませてほしいの……」
自然に産まれるのを待つのではなく、自分に産ませてほしいと頼む悪魔。
ずいぶん倒錯した頼みだと思うが、そんなのは今更だ。
自分は『構わないよ』と返し、刺激を与えるべく子宮内に何度も挿入する。
少し硬い子宮口とその向こう側にある羊水の海。
ゴリゴリと男性器を削るような感触は今までにない快感を味あわせてくれる。
それは悪魔も同じようで頭を項垂らせ、伸ばした舌からよだれを垂らし喘いでいる。
「はひっ…子宮犯されるの、いいっ……! もっと……入れてっ!
あなたのちんぽで、赤ちゃん可愛がってあげてっ…!」
男性器が胎児に衝突するのを“可愛がる”という悪魔。
だったら射精するのは“ご馳走”なんだろうか。
そんな事を考えているうちに限界が近づき“可愛がり”が早くなっていく。
「あっ、あっ、出すんだねっ、マスター! 良いよっ、そのまま…ちょうだい!
赤ちゃんにっ、飲ませてあげてっ…!」
まるで噛みつくように締めつける子宮口。
その唇にエラをなぞられ、自分は羊水の中に精液を解き放つ。
「んんっ…! あ、出てる…っ!
マスターの精液、羊水に混ざってるっ…!」
胎児が浮かぶ羊水の海に放たれた精液。
ドロドロした白濁液はその中を漂い、姉である胎児に付着するだろう。
近親相姦スレスレな娘への“ぶっかけ”に心地良い背徳感を感じる。
だが、あまりその快感に浸ってはいられなかった。
というのも、子宮が異物を排除しようと動き始めたから。
「うぐっ…! まっ、マスター! 赤ちゃん…出たがってるっ! ちょっと抜いてっ!」
悪魔は自分以上に浸っている余裕がないのか、声が緊迫している。
その指示に従って男性器を抜くと、薄く黄色がかった体液が穴から溢れ出した。
それは洋式トイレで小便するようなジョボジョボという音を立てて、湯船の水と混ざる。
悪魔は首を振り向かせると、強張った顔で言った。
「じゃあ、産むねマスター。あなたの子供をっ……!」
悪魔は出産の開始を告げると、浴室のタイル壁に爪を立てて息みだした。
「んっ…! ぐ……ぐっ! 思ったより、赤ちゃん……大きいねっ!
なかなか……子宮を出ないよっ…! うぅっ……ぎっ!」
悪魔は食いしばって力む。すると腹の膨らみが少し移動した。
「ひぎっ! 子宮口…食い込んで……っ! あ、あ、大きすぎっ!
こ、壊れるっ! 子宮口がバカになっちゃうよぉっ!」
『壊れる』と言いながらも、その声には快感が多大に含まれている。
出産でさえ快楽に変換するとか流石人外だ。
「あがっ! まんこっ…ミチミチいってる! 赤ちゃん、進んでるっ!
マスターのより…凄いっ!」
男性器と胎児を比べればそりゃ大きさは段違いだ。
しかし今の発言はなんか気に入らない。
自分に向けられている青白い尻をペチンと叩いてやる。
「あぅっ! なんで叩くのっ…!?」
赤黒の目に涙を浮かべて振り向く悪魔。
一瞬叩かれて泣いたのかと思ったが、それは違うだろう。
この涙は快楽による涙だ。
『主人より凄い』とか言うなっての。
相手が子供でも嫌な気分になるんだよ。
「う…ごめんなさい。でも、ホントのことで……いぎっ!」
悪魔は喋っている途中で息を詰める。
尻の方へ眼を向けると女性器は割れ目をさらに広げ、
奥からひり出されようとする胎児が目視できるようなっていた。
「あ…が…が…! あたまっ…頭が、出るっ…!」
段々と出口へ近づいてくる胎児。
それは膣口のビラビラを少し引きずり出しながら、光の下へ顔を出した。
「はひっ…抜けたっ! もう……産まれちゃうっ…!
マスター見てぇっ! あなたの使い魔が……子供っ…産んじゃうのぉっ!」
悪魔が爪を立てているタイル。ピシッという音がしてそこにヒビが入った。
それと同時に胎児の胴体がズルッと抜け、重力に引かれて落ちる。
言われていた通り見ていた自分だが、産まれたての子供を水没させるわけにはいかない。
自分は素早く手を出し、着水前に子供を捕まえた。
「あ…ありがと…マスター……」
疲れ果てて息も絶え絶えな悪魔は冷たい壁にもたれかかって休んでいる。
このままじゃ腰を下げることもできないだろうから、胎盤を引っこ抜いてやろう。
青い肉で出来ている悪魔と子供を繋ぐ管。
自分は片手でそれを握り、ズルッ…ズルッ…と引っ張る。
何か言われるかとも思ったが、悪魔は無言で休憩中。
なのでそのまま最後まで引っ張り、これまた青い肉の袋を引きずり出してやった。
ほれ、胎盤抜いてやったぞ。もう腰下げても大丈夫だ。
「んぁ……ありがと。助かるよ…」
自分が言うと悪魔は膝から力が抜けたようにザプッと浴槽に身を沈めた。
そして両手を差し出して『赤ちゃん見せて』と言う。
子供を渡してやると悪魔は顔をほころばせて、額にチュッと口づけ。
そして腕に抱えてよしよしとあやす。
「んー、可愛い。さすがわたしとマスターの子供だよぉ。
こりゃ成長したらあなたも骨抜きになっちゃうだろうなぁ」
いきなり親バカな発言をかます悪魔。
確かににこいつの娘ならそれなりに可愛く育つだろうが、半分は自分の血だ。
実娘相手に骨抜きにされるなんて有り得ないっての。
「へぇー、本当にそう思う? これでもぉ?」
悪魔は挑戦的な笑みを浮かべると、赤子を左腕だけで支えた。
そして右手を赤子の股間に寄せると、小さな小さな割れ目を広げて見せた。
ミニチュアサイズの悪魔のような女性器。
それを目にした途端、反射的に男性器が持ち上がる。
「ほらー、娘のまんこで勃起してるんじゃん」
ニヤニヤと勝ち誇ったように笑う悪魔。自分はそれに反論をする。
いや待て、今のはおまえのを連想して硬くなっただけだ。
別にこんな赤ん坊のを見て欲情したわけじゃない。
「だろうねぇ。けど、この子の体を見て欲情したのは確かだよね?
この子と一緒にいれば、裸を見る機会なんていくらでもある。
今はともかく、育っちゃえば『連想しただけ』なんて言ってられなくなるよ。
何歳ぐらいまで“我慢”してられるかなぁ、お父さん?」
『お父さん』を強調して言う悪魔。
こいつの中では将来自分が娘に手を出すのは確定事項っぽい。
まあ、考えてみればこいつは悪魔で娘も同じだ。
近親相姦のタブーとかあまり気にする必要ないのかも。
だが、このまま言わせっぱなしは気にいらない。
そのニヤニヤ笑いを消してやる。
……そうだな。娘だからって遠慮する必要はないよな。
そいつが大きくなったらすぐに手を出すことにするよ。
んで、おまえは契約解除。お払い箱な。
「えぇっ!? なんでっ!」
自分の発言がよほど衝撃だったのか、悪魔はニヤニヤを消して驚く。
そしてこちら側がニヤニヤ笑いを浮かべることになった。
古いのより新しい方が良いってのは当たり前だろ?
新鮮ピチピチの使い魔が手に入るなら、おまえとはお別れさ。
もちろんこれは冗談。本気で契約解除する気はない。
しかし悪魔には効果覿面だったようだ。
顔色をさらに青くして謝り出すほどだから。
「ごっ、ごめんなさいっ! わたしが言いすぎましたっ!
契約解除だけは勘弁して! もうあなた無しじゃ生きてけないのっ!」
必死になって詫びる悪魔。
今にも泣きそうなその顔を見たら胸がすっとした。
自分はハハッと笑い声をあげると、悪魔の濡れている髪をくしゃっと撫でてやる。
冗談だよ冗談。今さらおまえを捨てるわけないだろ。
おまえもそいつもまとめて使ってやるよ。
『冗談だ』と聞いてホッとした顔になる悪魔。
今の慌てっぷりで力関係を再認した自分は額に軽く口づけしてやる。
すると、悪魔は安心したように微笑んだ。
見た目はハードカバーの百科事典で表紙は真っ黒。タイトルさえ書かれていない。
たいして使っていない勉強机ではあるが、こんな物を置いた記憶は微塵もない。
普通の家なら家族の誰かが置いたと考えるんだろうけど、
海外赴任の父に母が付いていった我が家に住んでいるのは自分一人だけ。
まさか空き巣でも入ったのか?
そう思って戸締まりやタンスの貴重品を確認してみるも、手を付けられた跡は一切無し。
何の被害もないのに『帰宅したら変な本が置いてあったんです』なんて警察に通報するのも気が引ける。
いや、本当はするべきなのかもしれないけど、調書なんかの手間を考えるとね。
一通り家の中を調べた自分は二階の自室へ戻った。
そしてキャスター付きのイスに腰掛けると、机の上にある本を手に取る。
誰が何のために置いたのか分からないのは気味が悪いが、どんな内容なのかは気になる。
右手で背表紙を支えて、適当にページを――――おや、何か落ちた。
パラッと本の中心辺りを開いた途端、はらっと落ちる長方形の薄い物体。
床に落ちたそれを拾ってみると黒い封筒。
中に便箋らしきものが入っているので、取り出して読んでみる。
えーと、なになに……。
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
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/  ̄ ̄ ̄ ̄ /_____
/ あなたは /ヽ__//
/ 選ばれました / / /
/ / / /
/ ____ / / /
/ / / /
/ / / /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/ / /
『あなたは選ばれました』とだけ書かれた便箋。
意味の分からない文面に自分は首をひねる。
『お前を殺す』とか『秘密を知っているぞ』とか悪意丸出しの手紙なら面倒なんて言わずに即通報だ。
しかしプレゼントの当選通知のようなこの文からはそういった物が感じられない。
手紙を片手に少し考えてみるも、差出人の意図は全く読めない。
……手紙の考察は後回しにして本を読んでみるか。
内容を見れば意図が分かるかもしれないし。
そう結論を出して本の一ページ目を開くと、そこには絵が載っていた。
白いページの真ん中に黒インクで大きく描かれた目。
ずいぶんリアルでキモイな…と思うと同時にギョロッとその目玉が動いた。
うっ、うわぁぁっ!
突然の怪奇現象に自分は本気でビビり、本を投げ捨てて悲鳴をあげた。
どういう仕組みなのかハードカバーの本は一ページ目を開いたまま床に落ち、
周囲を確認するようにギョロギョロ見回す。
そして部屋の中を一通り見るとペラッと自動でページがめくれ、今度は口元の絵が現れた。
例によってその絵も動き、声を発し始める。
『あー、もしもーし。聞こえますかー。
この本を開いた人は返事をしてくださーい』
友人相手に電話をかけたような軽い口調で流れる女の声。
そのラフさについ返事をしそうになったが、口を手で押さえて言葉を飲み込む。
『もしもーし? もしもーし? あれぇ、いないのー?』
声の主は返事が無い事に戸惑ったような声を出す。
怪奇現象が治まるまでこのまま息を殺していよう…と自分は思ったが、そうは問屋が許さなかった。
見開きページの右半分。白紙だったそこにまた一つ絵が浮かぶ。
モノクロな最初の目玉と違い、写真のように精巧なカラーの人物画。
それは青肌で黒い翼と尻尾もった少女の姿だった。
見た目は自分よりやや年下だが、顔形はとても整っていて可愛い。
得体の知れなさを脇に置いて、一瞬見惚れてしまうほどだ。
完全に浮かび上がったその絵はやはり動いて喋る。
『なんだ、居るんじゃない。ちゃんと返事してよ、もー』
あの絵はテレビ電話のようなものなのか、自分をはっきり認識されてしまった。
こうなったらもう居ないフリはできない。
自分は腹をくくって対話を試みる。
……何なんだオマエ。
『わたし? わたしは悪魔だよ。“悪魔”って概念はそっちにもあるよね?』
よりにもよって悪魔とは。まあ、理解しやすくて助かったけど。
ああ、辞書に載ってるくらいのことは知ってるよ。
それで、その悪魔が一体何の用なんだ?
そんなものに目を付けられるほど大それたことはしてないと思うんだけど?
自分は大勢の人から讃えられるような善行をしたことはないし、
万人から後ろ指を指されるほどの悪行をした憶えもない。
本当にどこにでもいるような高校生なのだ。
悪魔に目を付けられる心当たりなんて全くない。
『ん? 別にあなたを狙ったわけじゃないよ?
“幸運なことに選ばれました”って手紙が一緒に入ってなかった?』
悪魔の言葉に黒い封筒が脳裏をよぎる。
文面は違っていたが意味的には“そういうこと”なんだろうな。
えーと、つまりアレ?
自分はたまたま『ハズレ』のくじを引いたってこと?
『せめて“アタリ”って言ってよ。あなたは本当に幸運なんだよ?
そっちじゃ大量にいる男の中から選ばれたんだからさ』
ハズレ呼ばわりされて腹が立ったのか、悪魔の顔がムッとする。
でも悪魔に目を付けられることのどこが幸運なんだか。
……まあ、幸運か不運かはこの際置いとこう。
で、その悪魔さんは何が目的なんだ?
『目的? それは単純だよ。わたしと契約してマスターになって欲しいの』
契約? それって一般に言う“悪魔の契約”か?
生憎だけど、魂と引き換えにしてまで叶えたい望みなんてないぞ?
我が家には不治の病人や莫大な借金なんてない。
悪魔の力を借りねばならない問題がないのだから、契約する必要性は皆無だ。
『違う違う、魂とかそういう話じゃないよ。わたしがしたいのは使い魔の契約。
あなたにマスター…主人になってもらって、わたしが仕えるの』
使い魔だのマスターだのファンタジーな用語が混ざっているが、
それを除いてみれば言っている事は単純だった。
要は『雇ってくれ』っていう売り込みか。
でも悪魔の使い魔なんて何の役に立つんだよ。
ファンタジー世界の悪い魔法使いなら、悪魔を重用するかもしれない。
しかし自分は21世紀の日本に住んでいる一般人なのだ。
そんな奴が悪魔と契約して何になるのか。
『どう役立たせるかは契約者次第だよ。
まずわたしの姿は見ての通りだから、最低でも人間と同じ事はできる。
他にもテストで良い点取ったり、欲しい物をちょっと盗んじゃったり、
気にいらない奴にイタズラしたり……まあ、いろいろ便利だと思うよー』
ぬひひ…とあくどい笑みを浮かべながら悪魔はアピールする。
しかし今の自分には盗んでまで欲しい物はないし、
悪魔を使ってどうこうするほど嫌いな奴もいない。
テストにしたって、ただ数字を増やしても意味はない。
契約のメリットなんて全然『ああ、もちろんわたしの体を自由にしてもいいからね』
なんですと!?
思い出したように最後に付け足された言葉。
契約する気ゼロだった自分だが、その発言は捨て置けなかった。
いやだって、ヤリたい盛りの男子なんだからしょうがないじゃん?
すまん、最後になんて言ったかもう一度聞かせてもらえないか?
『最後? “わたしの体を自由にしていい”って言ったんだよ』
それはつまり……エロいことしても良いってことなのか?
言い方がちょっとストレートだったかな…と思ったが、
悪魔は気を悪くするどころか、喜びを含んだ声で返してきた。
『もちろん! あなたがマスターになってくれれば、
いつでもどこでも、好きなだけセックスさせてあげるよ!』
ここが押しどころと見たのか、悪魔は勢い込んで話す。
確証を取れた自分はあごに手を当てて契約を真剣に考える。
今現在この家に住んでいるのは自分一人だ。
家族が同居してるわけじゃないから、コイツが居候しても咎める者はいない。
この辺の町内会は繋がりが弱いし、ウチは近所付き合いだって薄い。
周囲の目を気にする必要もあまりないだろう。
生活費にしたって少し節約すれば一人ぐらい増えてもやっていける。
経済的、環境的な問題はクリアだ。そうすると最後にして最大の問題は……。
一応訊くけど、使い魔の契約はタダじゃないよな?
何かの代償を支払う必要があるんだよな?
『そりゃ当たり前だよ。わたしは使い魔として奉仕するんだから、
主人からはそれに見合ったものを貰わないと』
“働くなら報酬はあって当然”という態度の悪魔。
ゲームの召喚獣のように、呼び出しただけで無報酬に働いてくれるわけではないらしい。
だがそれでも話を持ちかけてきたのは向こう側。
『この条件なら契約してやる』という風に値切る努力はしてみよう。
契約の代償は何になるんだ?
魂はいらないとか言ってたけど、寿命半分とかでも契約はできないぞ?
昔から悪魔が欲しがる物といえば、魂、命、寿命、不幸。
開かれた本に描かれている悪魔はとても可愛らしいが、
そんな代償を払ってまでエロいことをしたくはない。
『ああ、それは無いよ。命とか寿命とか、そんなの本当にいらないから。
わたしが欲しいのは人間の精液。より正確にいうと、そこに含まれる魔力なんだよ』
あまりに意外すぎる代償に『はぁ?』と抜けた声を自分は出してしまう。
精液に含まれる魔力って…自分は魔法使いでも何でもないぞ?
『そんなの関係ないよ。魔法の才能が無くたって精液には魔力が詰まってるから。
あなたは毎日わたしとセックスして精液をご馳走してくれればいいの。
どう? そんな高い代償じゃないでしょ?』
いや、確かに法外ってほどじゃないけど……本当にそんなんでいいの?
こっちは元から彼女の肉体が目当てなのに、対価はセックスだと悪魔は言う。
これでは代償が代償になっていない。
レストランで食事をしたのに逆に金を支払われたようなものだ。
『“そんなの”なんて言うけど、わたし達にとってはすっごく大事な物なんだよ。
ねえ、だからいいでしょ? 契約しようよー。
毎日気持ちいい事するだけで、便利な使い魔が手に入るんだからさぁ……』
なかなか頷かないせいで焦れてきたのか、悪魔はおねだりするように甘い声を出す。
実際のところ、もう契約する気は固まっているのだが、そこで簡単に結ぶのはもったいない。
少しでもこちらが有利になるよう譲歩してもらわないと。
うーん、そうだな……悪くないと思うけど、ちょっと条件を付けて欲しいな。
『条件? ものにもよるけど何?』
まず“毎日”の条件を撤廃してほしい。
こっちだって体調の悪い時や忙しい日はあるんだし。
『いいよー、わたしだってそこまで無理させる気はないから。
あっ、でも気が乗らないとかそんな理由じゃダメだからね。
問題なく払えそうな時は極力代償を貰うよ』
“無理強いはしない”と悪魔はあっさり譲歩する。
まあ、文字通り一年365日欠かさずやるのは難しいのだろう。
自分が言わずとも向こうから提案したかもしれない。
それと自分以外の人間と接触しないこと。
ウチは今一人暮らしってことになってるし、
そんな姿を人前にさらしたら驚かれる程度じゃすまないからな。
『外出禁止かぁ……。それは魔法を使ってもダメ?』
今度の条件には渋い顔をする悪魔。
どうやら家に閉じこもりっぱなしは嫌らしい。
魔法か……もしかして魔法で誤魔化せたりするの?
『うん、誤魔化せるよ。人間そっくりに化けるとか、
周りの認識をちょっと弄ってあなたの家族に思わせたりとかは朝飯前』
周りの目なんて簡単に誤魔化せると悪魔は口にする。
いやはや、なんとも便利な魔法があったものだ。
だがそれなら外出禁止令を出す必要はない。
分かった、外出禁止は撤回する。
でも近所の人とはあまり親しくしないでくれよ?
どこからボロが出るか分からないからさ。
『それはオッケーだよ。別に友達を作りにいくわけじゃないしね。
わたしはあなたがいてくれれば十分!』
“あなたがいればいい”と笑顔で言い切る悪魔。
リップサービスかもしれないけど、女の子がそう言ってくれるのは嬉しい。
他には……もう思いつかないな。自分が出す条件はこんなところ。
そっちはこの条件でいい?
『わたしは全然構わないよ。それじゃあ契約してくれる?』
ああ、契約するよ。それで契約ってのはどうやったらいいんだ?
なるべく痛くない方法でやりたいんだけど。
指を切って血判を捺すくらいなら我慢するが、それでも痛いのは嫌だ。
一時間の呪文詠唱と出血を伴う一秒、どちらでも良いなら自分は前者を選ぶ。
しかし悪魔はブンブンと手を横に振り、心配不要と言った。
『だいじょぶだいじょぶ、痛くも痒くもないから安心して。
まず召喚書を手に取ってもらえる? もちろんページは開いたままだよ』
召喚書なんて初めて聞く単語だが、床の黒い本がそれだろうとは理解できる。
自分は腰かけていたイスから立ち上がると、投げ捨てた本まで近寄って胸のあたりまで持ち上げた。
はい、召喚書を手に取ったよ。次はどうすれば?
『あとはわたしの絵に口づけしてくれればいいよ。
それで契約は完了して、そっちの世界に召喚されるから』
そう言って悪魔はそっと瞼を閉じる。
そして自分は悪魔の言葉通り、絵に唇を寄せ触れさせた。
その途端、硬い表紙から煙幕のように灰色の煙が広がり、手の中から本が消失した。
灰色の煙はまるで透明な仕切りがあるように部屋の半分ほどを満たして停止。
そのまま10秒かそこら待っていると、急速に煙が薄くなっていく。
すっかり煙が晴れた後に立っていたのは、絵に描かれたままの青肌悪魔。
悪魔は黒いブーツを履いた足で色あせた畳の上を歩み寄ると、ペコリと頭を下げた。
「契約してくれてありがとうございます、マスター。
これより命尽きるまでお仕えしますので、どうかよろしくお願い致します」
定型文なのか、さっきと違った堅苦しい言葉使いで悪魔は挨拶をする。
自分も丁寧に返すべきか? と少し考えたが、こっちは主人だからその必要はないだろう。
あー、うん。よろしく頼む。
「はーい。よろしくしますよぉ、マスター」
口調を戻した悪魔はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「んー? すぐスルんじゃないのマスター」
悪魔を召喚した自分はまず彼女を連れて一階の居間に降りた。
呼ばれてすぐに代償を貰えると思っていたのか、悪魔は疑問の声をあげる。
自分は窓にカーテンかけながらそれに答える。
もう陽が沈んできてるだろ。スルのは夕食を食べてからにしよう。
帰宅した後、家の中を調べたり考え込んだりしたので少し時間が過ぎてしまった。
間食をしていない自分は今現在かなりの空腹。
初めてセックスする時ぐらい体調は万全にしておきたいのだ。
「そっかー、それならしょうがないね。あ、晩ご飯はわたしが作ろっか?」
いや、いい。そのくらいは自分で用意できる。
っていうか、コンロの使い方とか知ってるのかおまえ?
魔法文明で育ちました的雰囲気を纏う悪魔に現代日本の科学道具が使えるのだろうか?
「ちょっと、バカにしないでよ。その辺はちゃんと勉強してるんだからね」
物知らずだと思われたのが気に障ったのか、不満気に言う悪魔。
考えてみれば日本語を喋ってるわけだし、この世界の知識は皆無ではないのだろう。
初日から険悪になるのも嫌だから、見くびった事は謝ろう。
ごめんな、見くびって悪かった。
お詫びといったらなんだけど、味噌としょうゆ好きな方を選んでくれ。
やかんを火にかけた自分はカップ麺を二つ手に取って居間に戻り、
畳の上であぐらをかいている悪魔の前に並べる。
悪魔はこたつの上に乗っかったそれらを見ると高い声をあげた。
「はぁ!? なんで晩ご飯がカップラーメンなの!?」
なんでって言われても“家にあるから”だよ。面倒な時はこれでササッと済ませるの。
「……訊くけど“面倒な時”ってどのくらいの頻度?」
だいたい週に2、3回。毎日じゃないんだから問題ないだろ。
「カップ麺じゃないときは何食べてる?」
スーパーで惣菜買って食べてる。言っとくけど米はちゃんと自炊だからな。
「朝ご飯は?」
冷凍食品をレンジでチンしてるけど。
「昼ご飯……」
専らコンビニ。良いのが無い時は購買で買ってる。
急に食生活を聞き出してきた悪魔。
彼女は一度天井を仰ぐとバン! とこたつに両手を叩きつけた。
その衝撃に二つのカップ麺は跳ね、自分はビクッと驚く。
ど、どうしたんだよ!? なにデカイ音たててんだ!?
「マスター! あなたの食生活ダメ過ぎだよ!
そんなんじゃ絶対体悪くするって! これからはわたしがご飯作るからね!」
怒り80%の声で悪魔は料理宣言をかます。
別に自分が体悪くしたってこいつには関係……あ、そうか。
契約の代償として悪魔が受け取るのは精液。
粗悪な食事で量が減ったり質が落ちたりするのは望む所じゃないんだろう。
分かった、これからの食事はおまえに任せるよ。
毎日金渡すから、その範囲内でやりくりしてくれ。
『料理しろ』なんて命令するつもりはなかったが、本人が自発的にやるなら頼もう。
ただし今日の夕食はカップ麺で決定だが。
「うー……。どうせ冷蔵庫に材料なんて無いだろうし…仕方ないね。
今日はカップ麺を許してあげるよ。でも明日の夜からはわたしが作るよ!」
もうどっちが命令してるのか分からない悪魔の発言。
それに頷くと、コンロのやかんがピーと音を鳴らした。
あまり朗らかでない夕食を摂り、一息ついた後。
ニュースを見ている悪魔に『一緒に風呂に入ろう』と声をかける。
自分から言い出すのは気恥ずかしく、少し声がうわずってしまったが、
悪魔はからかったりはしなかった。
「一緒に? 別にいいけど、初めてはベッド…じゃなくて布団じゃないの?」
自分の部屋にベッドが無かったからか悪魔は言い直す。
確かに初めては寝床というのが一般的な認識だが、
事が済んだ後、そこで寝ることを考えると布団を汚したくないのだ。
「あー、確かにそういう考えの人もいるねぇ。
いいよー、じゃあお風呂場でしよっか」
悪魔はそう言うとリモコンでテレビを消して立ち上がった。
そしてこちらの手を取って風呂場へ……ってなんか逆じゃないか?
サーッ…と浴室に響くシャワーの音。
水の噴き出し口を高所に付けて自分は頭から温水を浴びる。
流している間ガス代と水道代がかかるので効率的ではないが、
自分一人のために浴槽に湯を張るよりはこの方が安い。
ある程度体が温まると自分は脱衣所にいる悪魔に声をかける。
いいよ、入ってくれ。
そう声をかけるとすりガラスの向こう側にある人影が動き、
扉を開いて足を踏み入れてきた。
「はーい。マスターお待ちかねの女の子の裸だよー」
呼ばれて入ってきた悪魔はタオル一つ持たない全裸。
小さく膨らんでいる胸やツルツルの股間を丸出しでペタペタとタイルの上を歩く。
蛍光灯に照らされた肌は人外の青白さだが、喜色悪さなんて微塵も感じない。
目にした直後から股間に血が集まり、勃起してしまうほどだ。
悪魔は目を細めてそれを見るとペロリと舌を舐めた。
「んー、マスターってば童貞のわりになかなか立派なの持ってるねえ。
一人身が寂しくって毎日シコシコしてたらそうなっちゃったのかな?」
男性器を一目見るなり言ってくれる悪魔。
確かにその通りなのだが、ストレートに言われるとムカッとくる。
うるせえな、童貞がそんな悪いかよ。
「ん? わたしは悪いなんて思ってないよ。誰だって最初はそうなんだしね。
っていうかむしろマスターが童貞で嬉しいかな。
別に経験済みでも気にしないけど、やっぱお互い初めての方がロマンチックじゃん」
え? おまえも初めてなのか?
「そーだよ、わたしのまんこは誰も入ったことのない新品のまんこ。
だから、マスターのちんぽに合わせて、すーぐ馴染んじゃうよ」
悪魔はエロマンガのように卑猥な単語をポンポン口に出す。
それは自分を欲情させてくれるが、処女が言うセリフではないだろう。
処女ならもう少しそれらしくしろよ。おまえの言動はどっちかって言うと痴女だぞ?
「そんなこと言われても、初めてだからって緊張なんてしてないしー。
それにマスターだってスケベな女の子の方が好きなんじゃないの?
例えばこんなことしたりさあ……」
話していた悪魔は腰を落としてタイルの上に直座りした。
左腕は後ろに回して背を支え、右手を己の股間へと寄せる。
そしてひし形に股を開くと、毛に覆われていない女性器へ指を刺し入れ、くぱぁ…と横に拡げた。
「はい、御開帳ー。これが女の子のまんこだよ。マスターが見るのは初めてだよね?
中の肉がヒクヒクして、粘ついた汁がどんどん出てくるでしょ?
これ、あなたのちんぽを欲しがってこうなってるんだよ」
指で広げられた女性器の入口。そこから見える肉も肌同様に青かったが、
粘液を湧きださせるそこはとても柔らかそうだ。
心臓がドキンと強く打ち、ゴクリとつばを飲み込んでしまう。
「あ、今ドキッとしたね。わたしがまんこ広げてるの見て興奮したんでしょ。
恥じらう処女だったら、こんなことしてくんないよ?」
確かに清楚系の女の子が初夜の床でこんなことしたら絶対引くだろう。
「でしょー? わたしがスケベな女の子で良かったねマスター」
なんか誘導されてる気がしないでもないが、それに頷いてしまう自分。
まあ、考えてみれば元から肉体目当てなわけだし、変に貞操観念が強いより良いのかも。
そうだな、おまえがスケベなのは別に悪い事じゃないな。
「うんうん、分かってくれて嬉しいよ。
じゃあさ、スケベなわたしにそろそろちんぽ入れてくれないかな?」
悪魔はそう言うと上体を倒して床の上に寝転がった。
ひし形だった膝を立てて、股の間に割り込みやすいよう空間を作る。
自分もタイルの上に膝をつき、悪魔の穴に男性器をそっと近づけた。
そしてあと数センチまで接近したところで深く息を吸い、悪魔の中へ押し込んだ。
「んっ! あ、あ、入って…きたっ! マスターの、ちんぽっ!」
初めて入った悪魔の膣内。
そこは彼女の体格通りに狭く、色に反して高い熱を持っていた。
体液でぬめった穴はぬぷ…ぬぷ…と容易く男性器を飲み込み締めつけてくる。
その快感は人並みには硬い自分の手とは比べ物にならない。
うぉ…これが、お前の中かよっ……!
「そうだよっ! これがわたしの中っ! 遠慮しないでもっと押し込みなよ!
処女膜なんて、乱暴にぶち破っていいからさっ!」
純潔の象徴である処女膜。悪魔は羽虫を潰すかのようにそれを破れと言う。
こっちは痛がると思って気を配ってやったってのに……。
わかった、破るぞ。痛いからって泣くなよ?
「あははっ! そんなんでわたしが泣くわけないじゃん!
っていうか、喋る暇あるならさっさと破りなよマスター!
早くわたしのまんこをあなた専用に――――んぃっ!」
自分は悪魔が話している途中で腰を一気に押し込んだ。
処女膜が途中で引っかかったが、強引にブチブチと押し破る。
「あひゃっ! 破れたっ…! お…おっ、ちんぽが…奥までっ!」
処女膜を破った男性器は勢いのままに悪魔の最奥まで貫いた。
自分の男性器は全て悪魔の体内に潜り込み、膣肉がそれにまとわりつく。
あまりの快感に自分は呻きを漏らしてしまった。
「ねえねえ、わたしの初めて奪った気分はどう?
処女まんこにズッポリちんぽ潜り込ませるの気持ちいい?」
結合部から赤い液体が滲んでいるにもかかわらず、ニタニタした笑みを浮かべる悪魔。
どうやらこいつは本当に痛みを感じていないようだ。
『当たり前だろ』と押し殺した声で返すと悪魔はニタニタ笑いをさらに深めた。
「うんうん、マスターが気持ち良くなってくれて私も嬉しいよ。
でもぉ、女の子の体ってのはこの程度じゃないんだよ?
あなたも知ってるよね? ちんぽでズボズボするともーっと気持ち良いってのはさ」
要は腰を動かせということか。どこまで耐えられるか分からないが、
さらなる快感はこちらも望む所なのでそうしてやる。
自分は悪魔の腰を両手で押さえ、何度も男性器を出し入れする。
最初の数回は男性器が赤い血に塗れていて少し引いたが、
それもすぐに気にならなくなり、強く腰を叩きつけるようになった。
余裕をかましていた悪魔も快楽に呑まれつつあるのか、可愛い声を出してくれる。
「ふひゃっ! 良いよっ…マスターっ! もっと…してっ!
わたしのまんこにあなたのちんぽを憶えさせてっ!」
赤黒の目を潤ませ、ハッハッと喘ぐ悪魔。
完璧に人外なのにその姿が愛しくてたまらなくなる。
自分は口づけをしようと上体を倒して、悪魔に顔を近づける。
それを察した彼女は両腕をこちらの首に回してぶちゅっと唇をぶつけてきた。
「んむっ! んっ…んっ…!」
歯の隙間からにゅるっと侵入してくる悪魔の舌。
こちらの口内を舐め回し蠢く肉はとても熱くて、唾液はどこか甘い。
自分たちはピチャッピチャッと舌と唾液を絡めあってから顔を離す。
汗に加え唾液で顔を濡らした悪魔。彼女は快楽にとろけた笑みで好意を言葉にした。
「ああんっ、マスター好きっ! 大好きだよっ! マスターの子供産ませてっ!」
なんと自分の子供が欲しいと言いだした悪魔。
頭の中は快感で酷いノイズがかかっていたが、その頼みにはすんなりと頷けない。
ちょっと待て! 子供できんのか!?
「うんっ! 悪魔と人間の間で子供はできるよっ!」
悪魔は力強く肯定する。それが喜ばしい事のように。
だが自分からすればとんでもない落とし穴だ。
じょ、冗談じゃ……! 子育てなんてできないぞ!?
「大丈夫、迷惑はかけないよっ! 面倒は全部わたしが見るからさっ!
マスターは種付けしてくれるだけでいいのっ!」
子供の面倒は全て見ると言う悪魔。しかし子供はそんな気軽に作っていい物では……。
「もうっ! あなたは誰とセックスしてるのっ!? わたしは悪魔なんだよ!
マスターの心配してる事なんて、ぜーんぶ解決できちゃうんだからっ!」
あ、そうだった。こいつは魔法とかそういうものが使えるんだ。
真っ先に金とか法律を気にしたけど、そんな物から最も縁遠い奴なんだこいつは。
悪魔の言葉で一番の心配事があっさりクリアされる。
後に残るのは純粋に孕ませたいかそうでないかだ。
そうなれば男として……いや、生物として答えは決まり切っている。
よーし、じゃあ面倒事は全部任せるからな! もちろん子育てもだぞっ!
何とも甲斐性無しな宣言だが、悪魔は笑ってそれに応じた。
「まかせてっ! あなたの使い魔ちゃんがみーんなやってあげるっ!
だからちゃんと孕ませてねっ! わたしのお腹が膨れるまで射精してよっ!」
悪魔はそう言うと青くて細い両足をこちらの腰に絡ませた。
そこからは『絶対に抜かせない』と言う意思が感じられる。
自分を好きだと言って妊娠を望む女の子。
そのシチュエーションは自分をいたく興奮させ腰の動きを速めさせた。
やがて男性器の中を白色の液体が昇ってくる。
「あっ、もうすぐ出すんだねマスター! 出す時はなるべく奥でお願いねっ!
そっち方が受精しやすい気がするしっ!」
異世界から来た人外のくせに科学的な言葉を使う悪魔。
まあレンジの使い方も知ってるようだから、それなりの知識はあるのだろう。
「あ、あ、来て、出してっ! わたしを妊娠させてっ!
マスターの精子でわたしの卵子を犯してぇっ!」
絶頂に達したのか、悪魔の膣壁が一気に蠕動し男性器を搾る。
自分はそれに導かれるように青肌の異種の胎内へ精液を放出した。
「んあぁっっ! マスターのちんぽが暴れてるっ!
精液がどぷどぷ出てるよぉっ! スゴイ量っ!」
ビクン! と一度身を跳ねさせ精液を受け止める悪魔。
彼女は精液をさらに奥へと押し込むように、絡めた両足でグッと腰を押し付ける。
「ああっ、泳いでるよっ! マスターの精子が子宮の中泳いでるっ!
ひぃ…っ! 卵子に、群がっちゃって……! お…ぁぁ、受精、しちゃうっ!
遺伝子までマスターの物になっちゃうぅっっ!」
妊娠という形で遺伝子にまで刻まれる使い魔の証。
この悪魔を完全に自分の物にしてやったという達成感が胸に満ちた。
射精が終わり快感の波が引いた後。
腰をホールドしたままの悪魔の足を解いて自分は身を離す。
ここが布団の中なら抱き合ったまま寝てもいいけど、風呂場でそうするわけにはいかない。
自分は硬さを失った男性器を悪魔の中から抜く。
するとフタが無くなった穴から、赤と白の入り混じった液体がドロッ…と漏れてきた。
「あ、もったいない……!」
寝ていた悪魔はいきなり上半身を起こすと、股間に手をやって液体を受ける。
一体どうするのか…と思ったら、なんと口元に運んでゴクリと飲み込んだ。
やや潔癖な自分としてはちょっと不快。
……そんな汚い物飲むなよ。
「別に汚くないよぉ。男の精液って無菌で清潔なんだからね?」
そう言われても、小便してるとこから出るから汚い感じがするんだよ。
「えー、だって可哀想じゃん。受精した以外の精子はみんな死んじゃうんだよ?
だったら消化してわたしの一部にしてあげた方がまだ報われるってば」
自我も何も無い精子なのに『可哀想だ』と言う悪魔。
こいつが飲んだところで死ぬことに変わりはないんだが。
「うーん、そこは見方を変えられない? ちょっと想像してみてよ。
わたしの口に入った精子の行き先をさ」
あまり想像したくはないが、頼まれたので少し脳内に思い浮かべてみる。
「マスターの精子はまずわたしの喉を通るよね。
粘ついた精液は食道をズルッって滑って、ポチャンって胃の中に落ちる。
そしたらジワジワって胃液が出てきて、何億もの精子たちはみんなお陀仏。
でも死んだ精液はわたしの内臓の中をどんどん進んで行って、
小腸の辺りでバラバラに分解されて、わたしの体に混ざっちゃう。
あなたの精液がわたしの材料になっちゃうんだよ。
そして飲めば飲むほど、わたしの肉はあなたの精液に置き換わっていく。
どうかな? あなたの精液でわたしの体を作り変えちゃわない?」
悪魔は自論を語ると、目を細めて妖しい笑みを浮かべる。
自分も彼女の語りに『ちょっと良いかな…』なんて思ってしまった。
だがそれでも毎回のように飲まれるのは嫌だ。
……時々なら許す。でも毎度毎度精液を口にするのはダメだ。
キスするたびに思い起こすなんてこっちも嫌なんだからな。
「んー、残念だけどマスターがそんな嫌がるならしょうがないね。
精液飲むのはたまのご馳走にするよ」
幸いなことに悪魔は食い下がらず自分の命令を素直に聞いてくれた。
色々な汚れをシャワーで洗い流し、風呂をあがった後。
BGM代わりのTVがついた居間で自分は悪魔に質問をする。
そういやおまえはどこで寝るんだ?
いくらなんでもタヌキ型ロボットのように押し入れで寝させる気はない。
順当なのは主不在の両親の部屋だけど、別の場所が良いなら居間でも客間でも許可するつもりだ。
「寝るところ? そんなのマスターと一緒の布団に決まってるじゃん」
材料のテロップが浮かぶ料理番組から目を離さず、当たり前のように答える悪魔。
そう言うと思った。が、流石にそれは許可できない。
それはダメだ。おまえが隣にいたら大人しく寝てられん。
明日も学校なんだから、おまえにかまけて一晩中風呂に籠るわけにはいかないんだよ。
「あーそっか、マスターは学校があるんだよね。
あなたが居眠りして先生に叱られるのも嫌だし……分かった。
今日はマスターの部屋の押し入れで寝ることにするよ」
ホントこっちの気遣いを無視してくれるなコイツは。なんで自ら入りに行くんだ。
結局押し入れ行きは却下して、居間で寝させることにした。
「はーい、マスター朝だよー。もう起きる時間だよー」
とても可愛らしい音を出す目覚まし。
目覚まし時計を変えたっけ? と思いながら自分は目を開く。
すると見慣れている天井を背景に、青肌の人外が覗き込んでいる光景が目に入った。
「おはよー。もうそろそろ起きて朝ごはん食べないとだよ」
ん…おはよう………起こしてくれたのか。
自分はゴシゴシ目をこすりながら枕元の時計を見る。
時刻はアラームをセットした時間の五分前だった。
あと五分くらいこのままでも……。
「ダメだよ、そういう人が寝過ごしちゃうんだから。
それにうるさい音でむりやり起こされるのは体に良くないんだよ」
それは分かる気がする。
良い夢見てるところで突然ジリリリ…って鳴るとストレス溜まるし。
……わかった、起きるよ。
このまま起きる起きないでグダグダ話してたら、五分なんてすぐ過ぎる。
二度寝は諦めて起床するのが賢明だろう。
自分は掛け布団を剥いで体を起こす。
そして枕元の目覚ましに手を伸ばし、アラームをOFFにした。
今朝の自分は悪魔に起こされたわけだが、朝食は別に変わりない。
冷蔵庫に材料なんて無いからいつも通りの冷凍食品だ。
パッケージを破って、皿にのせて、レンジに放り込んで、ピッピッ、スタート。
普段なら温めてる間に米をよそるのだが、それは悪魔がやってくれた。
「はい、ご飯。あとお茶も淹れとくよ」
悪魔はそう言ってあまり使ってない急須からマグカップに緑茶を注ぐ。
食事時に茶を飲む習慣はないのでなんか変な感じだ。
茶を淹れるのはありがたいんだけど、ハンバーグに緑茶って合わなくね?
洋物なんだから、淹れるのはコーヒーとかが相応しいんじゃなかろうか。
自分がそう口に出すと悪魔はハァ…と息を吐いた。
「冷凍食品なんて体に悪い物ばっか食べてるんだから、せめてお茶ぐらい飲みなよ。
それとコーヒー淹れたら、どうせ砂糖とかミルクをたくさん入れるでしょ」
一体どこの健康マニアだよ…と思う発言だが、これが悪魔なりの気遣いなんだろう。
自分はそれ以上の反論はせずにマグカップを受け取った。
食べて話して着替えたらもう登校時間。
自分を見送ろうと玄関に立つ悪魔に最後の注意をする。
じゃあ、自分がいない間の留守は頼んだぞ。
洗濯物干すとか、外に出る時はなるべく見られない様に気をつけてくれよな。
「もー、大丈夫だってばー。ご近所さんに見られたって平気なようにしておくからさぁ」
同じ注意を何度も繰り返しているせいで悪魔はウンザリ顔だ。
流石にそんな顔で見送られるのは嫌なので頭をちょっと撫でてやる。
「あっ……」
サラサラとした手触りの良い髪の毛。
それに触れると悪魔は心地良さそうに目尻を緩ませた。
そして頬を少し紫に染めて『いってらっしゃい…』と新妻のように言ってくれた。
四時限目終了のチャイムが響けば昼休み。黒板との睨めっこも一時中断だ。
友人がいる奴は連れだって教室を出ていくが、自分はそこまで親しい相手はいない。
便所飯というわけではないが、人気が無くて静かな屋上階段付近へ自分は向かう。
中庭と違ってベンチやテーブルがあるわけではないが、階段は十分イス代わりになる。
朝にコンビニで買った弁当を広げ、割り箸をパチッと分割。
味の染みた米を挟んで口に「マスターちょっとごめーん」
背後の踊り場からいきなり聞こえた声。
首を振り向かせると、露出度の高い例の服を纏った使い魔がそこにいた。
おまえ、どうやってここに来たんだ。っていうか何の用だ。
ちょうど食べようとしたところだったのに。
「食事中にごめんねー。用事はすぐに終わらせるよ。
それと、わたしはマスターのいる場所ならどっからでも出てくるからね」
悪魔は軽く謝ると、犬にお手を求めるように右手を差し出した。
「言うの忘れちゃったんだけど、お金もらえない?
夕食の買い出しに行きたいんだけど、わたしは無一文だからさ」
あー、そういや『夕食はわたしが作る!』とか昨日言ってたな。ちょっと待て。
自分は尻ポケットに手を入れてサイフを取り出す。
そして小銭入れの部分を開きコインを一枚。
ほらよ、今晩の食事はそれで何とかしてくれ。
「え!? たったの五百円!? これじゃ大したもの買えないよ!」
大したものじゃなくていいんだよ。質素に行こう、質素に。
栄養バランスを考えた高価な食事なんて自分は望んでいないのだ。
「せめて千円はちょうだいよ!
冷蔵庫すっからかんだから、調味料も買わないとなんだよ!?」
千円もかけてまで手作り料理食べたくないっての。
いいから、その予算内でどうにかしてくれ。
交渉には応じないとキッパリ示す自分。
悪魔はしばらく食い下がったが、やがて諦めて姿を消した。
学校が終わった。
今日は特に寄り道する用事もないので一直線に家へ向かう。
玄関のカギを外して中へ入ると、エプロン姿の悪魔がパタパタとスリッパを鳴らして廊下の向こうから寄ってきた。
母がいた頃は何とも思わなかったが、出迎えてくれる人がいることにどこか嬉しさを感じる。
自分が高校に入学し、父母が揃って家を出てから一ヶ月半。
どうも知らない間に人恋しさが募っていたっぽい。
「お帰りなさーい、マスター。
帰ったら『ただいま』って言わないとダメだよー?」
悪魔の方も独りは寂しかったのか、微笑みながら注意する。
『はいはい、分かりました』と返して自分は靴を脱いだ。
そして顔を洗おうと洗面所へ向かう途中、台所から美味しそうな香りが漂ってきた。
ちょっと気になって、のれんを押して覗いてみると――――。
……なあ。
「ん? なに?」
これ、どうやったんだ?
覗き込んだ台所の光景。
そこは調理台の上のみならず、テーブルにまで作りかけの料理が置かれていた。
一つ辺りの量はそれほどでもないが、種類はどこのパーティかと思うほどだ。
激安の外国産を使っても、これだけの物は作れないと思うのだが……。
「いやほら、今晩はわたしとマスターのお祝いってことでさ。
ちょっと腕によりをかけて、色々作ろうと思ってたんだよ。
でもお金が足りないから――――」
悪魔は悪びれる様子を全く見せず。
「――――盗んできちゃった」
窃盗したことを告白した。
いや、分かるよ。一番悪いのは盗んだこいつだ。
でも十分なだけの金を渡さなかった自分にも責任がある……ような気がする。
額を押さえて昼休みの件を後悔する自分。
その様子を別の心配と受け取ったのか、悪魔はバッチリな笑顔で言った。
「心配はいらないよマスター! 盗る時にいくつも魔法を使ったからね!
この家の人が盗んだなんて絶対バレないよっ!」
現代知識があるこの悪魔なら監視カメラなど防犯装置の存在も知っているだろう。
その上で魔法を使ったなら、まず発覚はしないはずだ。
社会的に自分たちが責められることはない。
しかし良心やモラルといったものが、チクチクと自分を責め立ててくれる。
自分は甘く見ていた。こいつは悪魔、それも異世界からやってきた悪魔なんだ。
コイツに現代日本人並みの良識があるなんて考えるべきではなかった。
……やったことは仕方ないな。
次からはもっと金を渡すから、こういうことはやめてくれよ……。
今の自分には力なく悪魔に言うのが精一杯。
本日の夕食は豪勢だったが、後ろめたさのせいであまり楽しめなかった。
ミーンミンミンとセミが鳴く真夏。
悪魔と契約してしばらく経ち、学校はお待ちかねの夏休みに突入した。
一日中ゴロゴロして過ごせるのはやはりいい。大量に出される宿題は面倒だけど。
冷房の効いた居間。
自分はこたつの上に広げられた数学の問題集と睨めっこをする。
ええと、Xが4だとYは……23だな。
使い捨てのメモ用紙で計算しつつ空欄を埋める自分。
ときおり教科書に目を通しながらながら問題を解いていると、悪魔が横から声をかけてきた。
「あれー? マスターまだ終わんないのー?」
家の掃除を終えたのか、氷の浮いた麦茶を盆に載せて持ってきた悪魔。
それを手にとって一口飲んだ後、面倒臭さを言葉に乗せて自分も返す。
……終わんないんだよ。難しくはないけど、やたら量が多いんだ。
多少の応用はあるが、大半は公式さえ憶えれば簡単に解ける問題ばかりだ。
『公式を暗記させる』という点では理に適っているだろうが、
完全に憶えている自分にとっては時間の浪費でしかない。
「計算をいちいち紙に書くから時間がかかるんだよ。
暗算しちゃえば、ササッと答えだけ書いて終わるのに」
んなことできるか。自分が暗算できるのは単純な割り算までだ。
だいたい、そういうおまえはできるのかよ。
自分は『暗算しろ』などと簡単にぬかす悪魔をジロリと睨む。
すると悪魔は開いている筆箱から予備のシャープペンを取り上げた。
そして一番厄介な最下段の応用問題の回答欄にサラサラッと数字を書き込む。
まさかと思いながらその問題を解いてみると……正解。
信じられない…という目で見ると、悪魔はフフンと鼻で笑ってみせた。
「こー見えても、こっちの世界のことは一から勉強して憶えたんだからね?
高校生程度の数学なんて、寝ぼけてても解けるよ?」
言われてみれば納得だ。
この悪魔は異世界出身でありながら現代日本に適応している。
ならば、こいつの学習能力は自分の比ではないだろう。
どうやら自分はまだこの悪魔の事を侮っていたようだ……。
……悪いけど、宿題の答え教えてもらっていいかな?
「別にいいけど、ちょっとご褒美が欲しいかなー」
こっちの足元を見て要求を突きつける悪魔。代償はきちっと払ってるだろうがおい。
「そうだけどー、たまにはボーナスとかあってもいいと思わない?
二人一緒に出かけるとかさぁ」
一緒に出かける? それってデートってことか?
「そうそう。せっかくの夏休みなんだからプールとか行こうよ」
プールか……。いいけど水着持ってるのかおまえ?
「持ってないけど大丈夫だよ。服ぐらいなら魔力で作れるから」
便利なものだな魔力って。
いいよ。今日でこの問題集を終わらせて明日行こう。
「オッケー! んじゃ、そっちのメモに答え書いてくから写してねー」
悪魔はそう言って喜ぶと自分の隣に座り、カリカリカリカリ…と凄まじい速度で答えを記していった。
いまさら言うまでもないが、この悪魔はとても可愛い外見だ。
それはもう異色の肌が気にならないくらいに。
そんな悪魔が人間色の肌になれば、嫌でも人目を引くほどの美しさになる。
幸いなことに外見年齢がアレなので、チャラついた男でもナンパはしてこない。
そういう奴らからすれば、いくら可愛くても年齢が対象外なんだろう。
しかし、常識が変な風にねじ曲がった奴にとってはそうでないらしい。
「やあ、こんにちは」
昼近くになり、水から上がって休んでいた自分と悪魔。
そんな自分たちに髪の毛も薄くなった中年が声をかけてきた。
見覚えの無い顔だがとりあえず『こんにちは』と返しておく。
「そっちの子はずいぶんと可愛い子だねえ。君の妹さんなのかな?」
見ず知らずの相手に慣れ慣れしく話しかけるおっさん。
自分は心の中で少し警戒しつつそれに答える。
ええ、自分の妹ですよ。何か用ですか?
自分たちの関係は主人と使い魔なわけだが、正直に答えるわけにはいかない。
かといって恋人と答えるのは悪魔の外見年齢からしてちょっとヤバイ。
なので、誰かに訊かれたら『兄妹』と答えることにしてある。全然似てない兄妹だけど。
「うん、用と言えば用なんだけど……ご両親は一緒じゃないのかな?」
いません。今日は自分たちだけで遊びに来たので。
「あー、そうなんだ。なら丁度良いや。ちょっと君に話があるんだけどいいかな?」
おっさんはそう言うと人気の少ない方を手で示す。
だが、得体の知れない相手に誘われてホイホイついていくほど子供ではない。
すいませんけど、この場で口にできない話に付き合う気はありません。
用がないならどっか行ってください。
正直、同行を断られて怒り出すかな? と少し心配したが……。
「そっか、残念だなあ。うん、ゴメン。邪魔して悪かったね」
おっさんはそう言うと、特に激高もせずあっさり目の前から去っていった。
「何だったんだろねマス…お兄ちゃん」
さあな。どっか行ったんだし別にいいだろ。
んなことより、そろそろ昼を食べよう。
「昼食かあ。こーゆう施設の食べ物って高いくせに質が悪いんだよね……」
このプールは食べ物の持ち込み禁止なので、売店で買わざるを得ない。
倹約しつつそれなりの料理を作るこいつにとっては、ボッタクリもいいところなんだろう。
まあ、空腹で戦はできぬので結局は買って食べたけど。
食後にすぐ泳ぐのはかなりの危険。
自分たちは昼食を摂った後、プラスチックのイスに腰かけてしばらく休む。
やがて尿意を催してきたので、イスを立ってトイレへ向かった。
白い陶器でできた小用の便器。
水着を下げて用を足していると、なんとあのおっさんが入ってきた。
おっさんは自分の横までくると、便器に向かわずこっちに話しかけてくる。
「やあ、また会ったねえ。ここは人も居ないことだし、ちょっとお話しいいかな?」
なんて悪いタイミングだ。用足しの最中じゃ無視して逃げられない。
……いや、もしかするとこっそり監視していたのか?
それで自分が一人になった隙に声をかけてきたとか。
何にせよ、この状況では相手せざるを得ない。
なんの話ですか。妹が待ってるんで早く戻りたいんですけど。
「うん、その妹さんのことで話がしたいんだ。単刀直入に言っちゃうけど、五万でどう?
君に紹介料一万、あの子に四万って感じでさ」
右手の指を開いて五の数字を示すおっさん。
その意味が分からないほど察しが悪いわけじゃないけど、鈍いフリをして自分ははぐらかす。
……すいませんけど、言ってる意味が分かりません。
そこ退いてもらっていいですか? 手を洗いたいんで。
もう用は足した。こんな色ボケのおっさんの相手なんてできるか。
そう思って丁寧に『退いてくれ』と言うが、おっさんは通路を通せんぼ。
そして少し不機嫌な面持ちになって話を続ける。
「君ねえ、もっとマシな言い訳をしなよ。
その歳で『意味が分かりません』なんて通じるわけないだろう?
私は君の妹さんを買いたいんだよ。あんな可愛いんだから相当稼いでいるんだろう?」
可愛い女の子=売春で荒稼ぎ。こいつの頭の中はどうなってるんだマジで。
おっさんの薄い髪を見ていたら腹の底から苛立ちがこみ上げてきた。
使い魔の契約をしているとはいえ、あれだけ自分に尽くしてくれる悪魔。
それを頭空っぽの援交少女と同列に語るだなんて何様のつもりだこのハゲ。
生憎だけど、ウチの妹は金目当てに誰とでも寝るビッチじゃないんだよ。
その五万は有料公衆便所にでも突っ込めってんだ、ハゲジジイが。
湧き上がってきた怒りそのままに口から出る乱暴な言葉。
おっさんは一瞬ピキッときたようだが、若者相手に喧嘩する度胸はないのか握った拳を緩める。
こうも強く言ったんだからこの話は終わりだろう。
自分はそう思っておっさんを退けようとするが、ハゲは退こうとしなかった。
それどころかさらなる交渉を持ちかけてきた。
「分かった、君の妹は安売りはしないということなんだね。
じゃあ奮発して十…いや十五万出そう。
もちろん十万は君の物だ。こっそり懐に入れれば妹さんにも分からない。
口利きするだけで十万。良い話だろう、なあ?」
追い詰められたような笑みを浮かべて、必死に話すおっさん。
十万どころか十億積まれたって抱かせはしないが、その熱意のあげようは気になる。
……あんた、そこまでしてあいつとエロいことしたいのか?
純粋な疑問で口にした言葉。
しかしおっさんは心が揺れていると受け取ったらしい。
目を見開き、つばを飛ばしつつ語ってくれる。
「もちろんだとも! 私はいままでいろんな子たちを見てきたけど、
あれほどに可愛い女の子は初めて目にしたよ!
まったく君が本当に羨ましい! あんな子と毎日過ごせるんだからねえ!」
ガッツポーズのように両拳を握っておっさんは力説した。
そして『さあ、早く紹介してくれ』と自分を促す。
だが、自分は紹介するだなんて一言も言っていない。
“お断りだ”って言っただろ。
あんたにも、それ以外の男にも、エロいことはさせる気はないんだよ。
それ以上しつこいと警察に通報するぞ?
顔と声に嫌悪を込めて吐き捨てる自分。
イケると思い込んでいたおっさんは希望を打ち砕かれたように顔を歪めた。
そして何を考えたのかこっちの肩を掴んで、ドン! とトイレの壁に押し付けてきやがった。
「舐めるなよ! 私をそこらの貧乏人と同じだと思ってるのか!?
いいさ、だったらおまえの言い値で買ってやる!
百万でも一千万でも吹っかけてみろ! すぐに用意してやるからな!」
怒りの形相で『妹の体を売れ』と迫る中年。
それはまるで人間の醜悪な部分を凝り固めたようにさえ見える。
不快さが何よりも先に立ってしまい、怒りさえ覚えない。
「ほら言え! 言ってみろ! いくら欲しいんだ!?」
おっさんは至近距離で金額を提示しろと喚く。飛び散るつばが顔にかかって気持ち悪い。
それから逃れようと顔を背けると、業を煮やしたハゲは平手打ちを一発放ってきた。
バチンとトイレに響く音。次いで頬にやってくるのはジンジンとした感覚。
勢いが無いので大して痛くはなかったが、叩かれたという事実に防衛本能が働き出す。
自分の右手がグーの形になり、脂肪を纏った腹にめり込ませようと腕が「なにやってるの?」
男子トイレで聞こえるはずの無い声。
自分がそちらに目を向けると、おっさんも振り返って見た。
そこにはいつの間に現れたのか、自分の使い魔が立っていた。
「ねえ、おじさん。わたしのお兄ちゃんにいま何したのかなあ」
初めて耳にした悪魔の冷たい声。
ハッと気付いたようにおっさんは自分から離れた。
そして誤魔化し笑いを浮かべ、悪魔に話かける。
「ああ、ごめんね。お兄さんの物分かりが悪くて少し熱くなっちゃったんだ。
でも君が来てくれたなら話は早い。おじさんの頼みを聞いてくれるかな?」
『ボクちゃん悪くないんだもんね』とでも言いたげなセリフ。
その態度で悪魔の目つきがさらに鋭くなったが、おっさんは気付かずに交渉しようとする。
「十万…いや十五万払うよ。おじさんに気持ちイイことしてくれないかな?
もちろん交通費・宿泊代はちゃんとこっちが出すよ。どうだい、悪くない話だろう?」
このおっさんが今まで買ってきた連中はきっと喜んで首を縦に振ったんだろう。
声に確信的な期待が含まれているから。
しかし悪魔はにっこりと笑って言った。
「お断り、だよおじさん。お兄ちゃんを叩くような奴とは手だって握ってあげない」
笑顔を浮かべて『やった!』と思わせ、拒絶の言葉で叩き落とす。
まさに悪魔って感じだ。
悪魔は硬直したおっさんの横をすり抜けて、自分の傍らまでやってくる。
さらに心配そうな目で見上げ、叩かれた側の頬をナデナデした。
「何があったかは見当つくよ。ごめんなさい、わたしのせいで……」
『美しさは罪』なんていうけど、今回の件はまさにこいつの外見のせいで起きた。
どうやらそのせいで責任を感じてるっぽい。
あっけらかんとされても困るけど、もう少し気楽に考えたっていいだろうに。
別に大したことないから気にするな。
それより早くここを出ろ。男子トイレなんだぞ?
この場に客が入ってきたら確実に変な目で見られるだろう。
「はーい。じゃあお兄ちゃんも一緒に……何してんのアンタ」
悪魔はこちらの手を取って出口へ向かおうとする。
しかし振り返った途端、足を止めてしまった。
何故ならおっさんが亀のように背を丸めて土下座していたから。
掃除はされているんだろうけど、心理的に汚いと感じるトイレの床。
おっさんはそこに額を押し当て、渾身を込めた声で悪魔に頼む。
「私が悪かった。君を安く見ていたことは謝るよ。
金額は君が望む額を提示してくれていい。借金してでも払う。だから頼む、私と……!」
……まだ諦めきれないのかこのおっさん。
さっき迫られた時は不快さを感じたけど、今度は哀れだと思う。
土下座し借金してまでこいつと寝たいとは。
もちろん、同情して抱かせてやろうなんて気は毛ほどもない。
しかしこうまでするとは、それなりの過去があったんじゃないかな…なんて思うのだ。
悪魔は繋いでいた手を離すと、土下座しているおっさんの前にしゃがみ込んだ。
そして優しい声で『顔を上げて』と言う。
言われて上げた顔は『誠意が通じたのか…』なんて考えてそうな顔。
悪魔はその顔に向かって慈悲深い聖女様のように語った。
「あのねおじさん、わたしの体はぜーんぶマスターの物なんだよ。
キスするのも、体に触れるのも、セックスだってマスターにだけ許されたことなの。
だから―――アンタがわたしを抱くなんて世界がひっくり返ってもないんだよオッサン」
さっきと同じ。望みが叶うと思った瞬間に反転して落とされる。
おっさんは一瞬にして泣きそうな顔になり、立ちあがろうとした。
しかし悪魔の影から黒い触手のような物が突然伸び出し、
張り付けられたガリバーのようにおっさんを強制土下座させ―――って何のマネだ!
突然魔法らしきものを使った悪魔。
その右肩を掴んで自分の方を振り向かせる。
おまえ何してるんだよ! いくら何でも「ムカついたの」
首で振り向き、こちらを見る悪魔の目。
今は人間と同じ色をしているそこには隠しようのない怒りが宿っていた。
「コイツはマスターに謝らなかった。
わたしのことばっかりで『叩いて悪かった』っていう一言さえ無い。
そこが気にいらないの。だから思い知らせてやるんだよ」
悪魔は主人である自分のために怒っていた。
それ自体は嬉しいが、だからって人間を痛めつけるのを許すわけにはいかない。
その気持ちはありがたいけど、動けない相手に暴力は……。
「そこは大丈夫だよ。わたしも物理的にいたぶるのは好きじゃないし」
じゃあどうするのか。
自分がそう思うと悪魔は黒いビキニのトップを外した。
そして何か言う間もなく、ボトムをスルッと落とす。
あっという間に裸になった悪魔はそのまま自分に抱きつき話す。
「セックスしよう、マスター。コイツの目の前でわたしの体をたっぷり貪って。
『絶対に手に入らない』って思いっきり見せつけてやろう?」
抱きついてきた悪魔はつぅっ…とこちらのヘソをなぞりながら左手を下げた。
そのまま水着の中に手を入れて、臨戦態勢に入り始めた男性器をさわっ…と撫でる。
たったそれだけのことでブルッと身震いが走り、抑え難い性欲が湧きあがってきた。
しかしここは公共の場。誰かがやってきたら……。
「言っとくけど、人払いの魔法はもうかけてあるから。
ここ以外のトイレが全部使用不能にでもならないと人はやってこないよ」
用意周到な奴だ。そういった事態は対策済みとは。
まあいい。無関係の第三者に見られないならやってやろう。
自分は抱きついている悪魔を体から離す。
そして水着を押さえてある紐の結びを解き、足元へ下した。
で、見せつけるって言ったけど、どうするんだ?
「そうだね……じゃあマスターは床に座っちゃって。
あぐらでも足伸ばしてもいいから。わたしがその上に乗っかるよ」
どうやら座位とかそういう体勢でやるつもりらしい。
特に不服はない自分は言われた通りに床に尻を付ける。
真夏でもコンクリート造りの床はひんやりして冷たい。
座った自分を確認すると、悪魔はクルリと背を向けておっさんの方を見た。
触手が天井に張り付き唯一上げさせられている顔。
喋らせたくないのか、口元を真っ黒に封じられたハゲは、
全裸姿の悪魔に目を広げて鼻息を荒くする。
そんな中年に悪魔はしなを作ってみせ、己の魅力をアピールして言う。
「大サービスだよおじさん。
例え死んでも見られないわたしの裸を鑑賞させてあげるんだからね。
じゃ、わたしとマスターが愛し合うところをたっぷり見なよ」
悪魔はそう言い放つと、背を向けたまましゃがみ込む。
カエル座りのように膝を曲げた悪魔は股を大きく広げ、おっさんの目に女性器を見せつける。
そして自分の男性器の上に位置を合わせると、腰を下げだした。
「あは…! マスターのちんぽが入ってくるよ…!
あ、あ、良い…っ! 硬くて…太くてっ…!」
ズブズブと男性器を飲み込んでいく悪魔の穴。
繋がっていく所を見せるように、悪魔はゆっくりと腰を降ろす。
正直、腰を掴んで一気に挿入したいが今回は我慢だ。
「ほら、見てよおじさん!
わたしのまんこ、こーんな深くちんぽを咥えちゃってるよ!
ホントは自分がこうしたかったんだよねぇ!?
でも残念! セックスしてるのはずっと若くて良い男でしたー! アハハッ!」
悪魔の煽る言葉を受けて、おっさんの目が少し潤む。
だがおっさんは何も言い返せない。逃げることも許されない。
目を閉じること…はできそうだが、悪魔の裸は見たいのかそうはしない。
今にも涙が零れそうな瞳で自分たちの行為を見ている。
「んっ、んっ…! ああん、マスターのちんぽ素敵すぎぃ!
まんこが食い付いちゃって放せないよっ!」
二つにくくった黒い髪を揺らしながら、人肌色の体を跳ねさせる悪魔。
普段と違う色がとても新鮮で、まるで別人とセックスしているようだ。
しかし男性器の形をすっかり憶えた悪魔の膣は、いつもと変わらぬ快感を与えてくれる。
「ねえ、おじさん! 目を付けた女に相手にされないどころか、
別の男と愛し合うのを見せられるのってどんな気持ち? ねえ、どんな気持ちなの?」
よほど強い感情を抱いているのかブルブルと震えるおっさん。
あまり良くないことと思うけど、自分はその姿に優越感を感じてしまう。
どれほど金を積まれようとなびかない美少女。
自分はそれに愛され、肉体を存分に味わっているんだぞ、と。
「あっそうそう、これ見てよこれ。何だか分かるー?」
悪魔はふと思いついたように高い声で言うと、ポッコリした腹に左手を当てる。
口を塞がれているおっさんが回答できるわけもなく、悪魔はすぐに正解を口にした。
「これ太ってるんじゃないよー。この中にはねえ…マスターの赤ちゃんがいるんだよっ!」
全財産を投げ打ってでも抱きたい女の子。それが別の男に既に妊娠させられていた。
その事実がトドメだったのか、おっさんの目からついに涙が零れた。
そして悪魔はさらに追い打ちをかける。
「ホンッと残念だねぇ! わたしはとっくに遺伝子までマスターの物でしたー!
ねえ、悔しい? 悲しい? ムカつく? だったらもっとそう思いなよ!
マスターを叩かれたわたしの想いはそんなもんじゃないんだからねっ!」
声を荒げて怒りを吐き出す悪魔。
完全に心が折れたおっさんは叱られた幼児のように涙と鼻水を垂れ流す。
そのさまを見て溜飲が下がったのか、悪魔は雰囲気を和らげてこちらを振り向く。
「ふぅ……少しだけすっきりしたよ。今度はマスターをスッキリさせてあげるね」
おっさんへの関心が薄れた悪魔は腰の上下移動を加速する。
カエル座りは腹筋に力がこもるのか、男性器全体をギュッと強く締め付ける。
自分も下から突き上げたいのだが、あぐらで座っているとほとんど腰を動かせない。
なので背後から両手を回して胸を弄ることにした。
「あっ、おっぱい触るの? いいよっ、弄ってもっ!」
こいつの胸は相当に薄い。
しかし感度は良いのか、こっちが攻めたい時には結構便利なのだ。
撫でるように揉んでやると簡単に余裕を失う。
「あ…んっ! マスターの手つきっ…すごく、イヤラシイっ…!
もっと触ってっ…! 崩れたりなんて、しないから……っ!」
確かに形が崩れはしないだろうな。崩れるほどに膨らんでないから。
自分はふにゃふにゃ揉むのを止め、乳首を摘まんでグイッと引っ張る。
すると悪魔は淫らな奇声を発した。
「おほぉっ! 乳首…引っ張っちゃ……くひゃぁっ!」
悪魔は丸めていた背筋をピンと伸ばしてよがる。
それが面白くて何度も何度も弄っているうちに射精感がこみ上がってきた。
「んぃっ! もうっ、出すのっ、マスター!?
たっぷり、ちょう…だいっ! わたしもっ、もう……!」
ドスン! と落とすように腰をぶつける悪魔。
その衝撃で堰が切れ、自分は悪魔の膣内に射精をした。
「あひっ! 出てるぅっ! マスターの精液美味しいよぉっ!
あっ、赤ちゃんも喜んでるっ…! あなたってば素敵すぎだよぉっ!
もう…大好きっ! 愛してるよマスターっ!」
膣内射精しただけでこの喜びよう。
“愛される”ってのはなんて素晴らしいんだろう。
小柄な悪魔の体を抱きしめながらそんな事を自分は思った。
事が終わると悪魔は立ちあがって、拘束されたおっさんの前に立った。
精液で汚れた股間を拭いもせず見下ろし、酷薄な声で言う。
「ムカつきはまだ収まらないけど、解放してあげるよ。
アンタに構いすぎて遊ぶ時間が減るのも嫌だからね」
死にかけの目をしていたおっさんは話しかけられたことで微かに光を取り戻す。
あれだけ邪険にされた今となっては、声をかけてくれるだけでも嬉しいのかもしれない。
だがこの悪魔は微かな救いさえ踏みにじり、粉々に砕く。
「なに喜んでんのオッサン。まさかただで解放されるとでも思ってる?
んなわけないでしょ。ここであったことは全部記憶から消させてもらうよ」
『記憶を消す』の一言におっさんは再びもがき始めた。
今さら抜けられるような拘束じゃないってのに。
「アンタはわたしのことを何一つ憶えていられない。
声も、姿も、存在したことさえ頭の中には残らない。
さらに、二度とわたしを認識することができなくなる。
例え隣に座っていても気付けなくなるんだよ」
おっさんの中から存在を完全に抹消すると悪魔は言った。
そして絶望の涙を流す中年男の額に人差し指を触れさせて最後の一言。
「じゃあね。永遠にサヨナラ、バイバーイ」
指先が青白く光ったかと思うと、おっさんは気絶したように脱力した。
黒い触手は霧散して消え、後に残るのはトイレの床に横たわる男。
自分は水着を履き直しながら悪魔に訊く。
終わったのは良いけど……これ、ほったらかしにしてくのか?
トイレに入る人が倒れてるおっさん見たら騒ぎになるぞ?
自分たちに害はないが、プールの従業員には大きな迷惑だろう。
「その辺は人払いが切れる前に目覚めるようにしてあるよ。
だからマスターが気にすることなんて何もない」
悪魔はそう言うと床に放り投げた黒いビキニを拾って手早く身に付けた。
そしてリセットボタンを押したかのように、纏う雰囲気をガラリと変える。
「さっ! お腹もいっぱいになったし、また泳ごうよお兄ちゃん!」
何事もなかったように笑い、こちらの手首を掴む悪魔。
そのまま手を引かれて自分はトイレを後にした。
自宅で悪魔とセックスする場合、その場所は常に風呂場だ。
一度畳の上でしたこともあったが、床がずいぶんと染みになった。
こんなことを毎日繰り返していたら消せない跡として残る。
なのでそれ以降『する時は必ず風呂場で』と決めた。
ただ問題があって、夏場は良いのだが冬は寒くてしょうがない。
シャワーを浴びた程度で絡んでたら風邪をひくだろう。
もっと体の芯から温まらなくてはならない。
そこで自分は一計を案じることにした。
別に難しい事ではなく、半身浴のように浸かってセックスするというだけだが。
夏よりも濃く見える風呂の湯気。
霞んで見える天井の蛍光灯の下、自分たちは風呂場の壁に音を響かせる。
「んっ…あっ! マスターのちんぽっ、深いっ……!」
壁に手をつき、背を向けて立っている悪魔。
自分は大きくなった腹に比べ、アンバランスに細い腰を押さえて後ろから突く。
こいつは臨月にまで腹を膨らませておきながら、非常に性欲旺盛だ。
胎児の重みで下がっている子宮口。
男性器の先端がそこを突くたびに、黒い尻尾をウナギのようにくねらせて嬌声を漏らす。
「もっとっ…! もっとしてっ! わたしのまんこほじくり返してっ!
もう産まれても大丈夫だからっ! 子宮口を破ってっ…!」
少し大きくなった乳房から母乳を滴らせながら言う悪魔。
そういえばこいつは『二、三日中に産まれる』といってたな。
だったら今すぐ産まれても胎児の心配はないのか。
自分は悪魔の尻を叩くように腰を打ちつける。
パシンパシンと肉を打つ音が湿った空気の中を反響し、
腿の半ばまである湯がパチャパチャとかき回される。
何度も叩いているうちに子宮口の筋肉は緩くなり、やがてズボリと先端がめり込んだ。
「んぎゅっ! は、入っ……たっ…!
マスターのちんぽっ、子宮で…咥えちゃってるっ…!」
まだ胎児が眠っている子宮。
そこにまで侵入された悪魔は尻尾をビクビク震わせた。
そして顔を振り向かせると、これまた震える声で言う。
「ねっ…ねぇマスター、このまま産ませちゃってよ。
子宮グチャグチャしてれば、赤ちゃん出てくるだろうからさ…。
ね、お願い、あなたのちんぽで産ませてほしいの……」
自然に産まれるのを待つのではなく、自分に産ませてほしいと頼む悪魔。
ずいぶん倒錯した頼みだと思うが、そんなのは今更だ。
自分は『構わないよ』と返し、刺激を与えるべく子宮内に何度も挿入する。
少し硬い子宮口とその向こう側にある羊水の海。
ゴリゴリと男性器を削るような感触は今までにない快感を味あわせてくれる。
それは悪魔も同じようで頭を項垂らせ、伸ばした舌からよだれを垂らし喘いでいる。
「はひっ…子宮犯されるの、いいっ……! もっと……入れてっ!
あなたのちんぽで、赤ちゃん可愛がってあげてっ…!」
男性器が胎児に衝突するのを“可愛がる”という悪魔。
だったら射精するのは“ご馳走”なんだろうか。
そんな事を考えているうちに限界が近づき“可愛がり”が早くなっていく。
「あっ、あっ、出すんだねっ、マスター! 良いよっ、そのまま…ちょうだい!
赤ちゃんにっ、飲ませてあげてっ…!」
まるで噛みつくように締めつける子宮口。
その唇にエラをなぞられ、自分は羊水の中に精液を解き放つ。
「んんっ…! あ、出てる…っ!
マスターの精液、羊水に混ざってるっ…!」
胎児が浮かぶ羊水の海に放たれた精液。
ドロドロした白濁液はその中を漂い、姉である胎児に付着するだろう。
近親相姦スレスレな娘への“ぶっかけ”に心地良い背徳感を感じる。
だが、あまりその快感に浸ってはいられなかった。
というのも、子宮が異物を排除しようと動き始めたから。
「うぐっ…! まっ、マスター! 赤ちゃん…出たがってるっ! ちょっと抜いてっ!」
悪魔は自分以上に浸っている余裕がないのか、声が緊迫している。
その指示に従って男性器を抜くと、薄く黄色がかった体液が穴から溢れ出した。
それは洋式トイレで小便するようなジョボジョボという音を立てて、湯船の水と混ざる。
悪魔は首を振り向かせると、強張った顔で言った。
「じゃあ、産むねマスター。あなたの子供をっ……!」
悪魔は出産の開始を告げると、浴室のタイル壁に爪を立てて息みだした。
「んっ…! ぐ……ぐっ! 思ったより、赤ちゃん……大きいねっ!
なかなか……子宮を出ないよっ…! うぅっ……ぎっ!」
悪魔は食いしばって力む。すると腹の膨らみが少し移動した。
「ひぎっ! 子宮口…食い込んで……っ! あ、あ、大きすぎっ!
こ、壊れるっ! 子宮口がバカになっちゃうよぉっ!」
『壊れる』と言いながらも、その声には快感が多大に含まれている。
出産でさえ快楽に変換するとか流石人外だ。
「あがっ! まんこっ…ミチミチいってる! 赤ちゃん、進んでるっ!
マスターのより…凄いっ!」
男性器と胎児を比べればそりゃ大きさは段違いだ。
しかし今の発言はなんか気に入らない。
自分に向けられている青白い尻をペチンと叩いてやる。
「あぅっ! なんで叩くのっ…!?」
赤黒の目に涙を浮かべて振り向く悪魔。
一瞬叩かれて泣いたのかと思ったが、それは違うだろう。
この涙は快楽による涙だ。
『主人より凄い』とか言うなっての。
相手が子供でも嫌な気分になるんだよ。
「う…ごめんなさい。でも、ホントのことで……いぎっ!」
悪魔は喋っている途中で息を詰める。
尻の方へ眼を向けると女性器は割れ目をさらに広げ、
奥からひり出されようとする胎児が目視できるようなっていた。
「あ…が…が…! あたまっ…頭が、出るっ…!」
段々と出口へ近づいてくる胎児。
それは膣口のビラビラを少し引きずり出しながら、光の下へ顔を出した。
「はひっ…抜けたっ! もう……産まれちゃうっ…!
マスター見てぇっ! あなたの使い魔が……子供っ…産んじゃうのぉっ!」
悪魔が爪を立てているタイル。ピシッという音がしてそこにヒビが入った。
それと同時に胎児の胴体がズルッと抜け、重力に引かれて落ちる。
言われていた通り見ていた自分だが、産まれたての子供を水没させるわけにはいかない。
自分は素早く手を出し、着水前に子供を捕まえた。
「あ…ありがと…マスター……」
疲れ果てて息も絶え絶えな悪魔は冷たい壁にもたれかかって休んでいる。
このままじゃ腰を下げることもできないだろうから、胎盤を引っこ抜いてやろう。
青い肉で出来ている悪魔と子供を繋ぐ管。
自分は片手でそれを握り、ズルッ…ズルッ…と引っ張る。
何か言われるかとも思ったが、悪魔は無言で休憩中。
なのでそのまま最後まで引っ張り、これまた青い肉の袋を引きずり出してやった。
ほれ、胎盤抜いてやったぞ。もう腰下げても大丈夫だ。
「んぁ……ありがと。助かるよ…」
自分が言うと悪魔は膝から力が抜けたようにザプッと浴槽に身を沈めた。
そして両手を差し出して『赤ちゃん見せて』と言う。
子供を渡してやると悪魔は顔をほころばせて、額にチュッと口づけ。
そして腕に抱えてよしよしとあやす。
「んー、可愛い。さすがわたしとマスターの子供だよぉ。
こりゃ成長したらあなたも骨抜きになっちゃうだろうなぁ」
いきなり親バカな発言をかます悪魔。
確かににこいつの娘ならそれなりに可愛く育つだろうが、半分は自分の血だ。
実娘相手に骨抜きにされるなんて有り得ないっての。
「へぇー、本当にそう思う? これでもぉ?」
悪魔は挑戦的な笑みを浮かべると、赤子を左腕だけで支えた。
そして右手を赤子の股間に寄せると、小さな小さな割れ目を広げて見せた。
ミニチュアサイズの悪魔のような女性器。
それを目にした途端、反射的に男性器が持ち上がる。
「ほらー、娘のまんこで勃起してるんじゃん」
ニヤニヤと勝ち誇ったように笑う悪魔。自分はそれに反論をする。
いや待て、今のはおまえのを連想して硬くなっただけだ。
別にこんな赤ん坊のを見て欲情したわけじゃない。
「だろうねぇ。けど、この子の体を見て欲情したのは確かだよね?
この子と一緒にいれば、裸を見る機会なんていくらでもある。
今はともかく、育っちゃえば『連想しただけ』なんて言ってられなくなるよ。
何歳ぐらいまで“我慢”してられるかなぁ、お父さん?」
『お父さん』を強調して言う悪魔。
こいつの中では将来自分が娘に手を出すのは確定事項っぽい。
まあ、考えてみればこいつは悪魔で娘も同じだ。
近親相姦のタブーとかあまり気にする必要ないのかも。
だが、このまま言わせっぱなしは気にいらない。
そのニヤニヤ笑いを消してやる。
……そうだな。娘だからって遠慮する必要はないよな。
そいつが大きくなったらすぐに手を出すことにするよ。
んで、おまえは契約解除。お払い箱な。
「えぇっ!? なんでっ!」
自分の発言がよほど衝撃だったのか、悪魔はニヤニヤを消して驚く。
そしてこちら側がニヤニヤ笑いを浮かべることになった。
古いのより新しい方が良いってのは当たり前だろ?
新鮮ピチピチの使い魔が手に入るなら、おまえとはお別れさ。
もちろんこれは冗談。本気で契約解除する気はない。
しかし悪魔には効果覿面だったようだ。
顔色をさらに青くして謝り出すほどだから。
「ごっ、ごめんなさいっ! わたしが言いすぎましたっ!
契約解除だけは勘弁して! もうあなた無しじゃ生きてけないのっ!」
必死になって詫びる悪魔。
今にも泣きそうなその顔を見たら胸がすっとした。
自分はハハッと笑い声をあげると、悪魔の濡れている髪をくしゃっと撫でてやる。
冗談だよ冗談。今さらおまえを捨てるわけないだろ。
おまえもそいつもまとめて使ってやるよ。
『冗談だ』と聞いてホッとした顔になる悪魔。
今の慌てっぷりで力関係を再認した自分は額に軽く口づけしてやる。
すると、悪魔は安心したように微笑んだ。
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