こっち見んな
何のとりえもない平凡な男子高校生が突然異世界へ。
マンガやアニメでは手垢が付くほど使い古されたパターンだ。
そして世界を転移した主人公は特別な力を得て大活躍、
あるいは得なくても現代知識を活用して一目置かれるというのがお決まりの展開。
自分も中学生二年生くらいまでは、他作品から持ってきた超パワーを得て戦う妄想をよくした。
だが、現実はそこまで甘くなかった。
夏休みの半ば、近場の海へ夜釣りに行こうと自転車をシャコシャコしていた時の事だ。
気分よく下り坂をシャーッと飛ばしていたら、進路上に次元の割れ目的な物が突然出現。
自分はそれに驚き避けようとしたが、地球の慣性は回避を許さない。
強引に曲がろうとした車体は横転し、グルンと宙を回転しながら割れ目にホールインワン。
グネグネした言いようのない感覚を一分か一時間味わったあと、
どことも知れない山の中へ、つばを吐くようにペッと放り出された。
周囲は真っ暗な山林。美少女の召喚士なんて影も形も見えやしない。
何か特殊な力でも手に入れたかと、跳ねたり気合を入れてみたりするが何も起きず。
都合よく超能力なんて発現しなかった自分は転がっていた自転車から荷物とバッテリー式のライトを外し、人間を求めて夜の山を下り始める。
素人が夜の山をうろつくなど危険極まりないが、助けが来る見込みなどないのだ。
強い不安感に大人しく夜明けを待つことなどできない。
自分は得体のしれない獣の遠吠えに怯えながら、一晩の間山中をさまよった。
そして朝になり山の陰から太陽が顔を出した頃、ようやく小さな山村を発見した。
どういうわけか山村の住人とは言葉が通じた。
どこから見ても日本人ではない外見に、聞いたこともない発音。
アルファベットに似ているけど英語ではない文字列。
全く未知の言語なのに、自分にはそれらの意味が理解できたのだ。
初めて村人と出会った時、その人は驚き警戒した。
まあ、日本人の顔つきに釣り用の衣服な自分は警戒されても仕方ないだろう。
だが“害意はない”と彼らに通じる言葉で話せたおかげで、攻撃されるような事はなかった。
いやまったく、言語能力というのはヘタな攻撃能力よりよほど重要だ。
もし自分が岩を砕ける程の力を得ていたとしても、言葉が通じないのでは野垂れ死には確実。
会話ができたおかげで自分は村長と面会することができたのだ。
迷い人という扱いで村長と会った自分は全ての事情を話した。
違う世界で暮らしていた事や事故のようにこの世界へやってきた事まで全て。
そして説明が終わると、無言で聞いていた白髪頭の村長は口を開いた。
「……事情は分かりました。大変な目に遭われたようですな」
え、信じてくれるんですか?
もちろん信じてくれないと困るのだが、あっさり頷いてくれるとは思わなかった。
良くて半信半疑、悪ければ妄言扱いされると予想していたのに。
“意外だ”という内心が顔に出ていたのか、村長は苦笑いを浮かべて語る。
「まあ、普通なら信じないでしょうな。
ですが、この付近では数十年に一度ぐらいそういう事があるのですよ。
なので“異世界から来た”という言葉は無下にできんのです」
なるほど。この地域は世界の壁が薄いとかそういう系の場所なのか。
だから異世界からの来訪者を名乗っても、簡単には変人扱いされないと。
この辺りの事は分かりました。
それでここからが本題なんですけど、異世界から来た人たちはどうなりました?
いくつもの前例があるなら、帰る方法が分かるかもしれない。
そう期待して村長に訊ねる自分だが、彼は難しい顔で答えた。
「来訪者たちのその後はまちまちです。
村を出て行く者から、この村に腰を下ろして骨を埋めた者まで。
言い辛いのですが……元の世界に帰る姿を見たという記録は一つもありません」
少なくともこの村から帰る手段はないと告げる村長。自分は天を仰ぎ嘆息する。
その姿がヤバそうだったのか、村長は慌ててフォローした。
「いや、帰る手段がないと決まったわけではありませんぞ?
もしかすると村を出て行った中には帰れた人がいるかもしれません。
それにあなたにその気があるなら、我々は村人として迎えます。
ですから、決して早まった事はしないでください」
楽な自殺の方法を考えていた自分の耳に入る村長の言葉。
それでこの人は良い人だと感じた。
だって突然やってきた余所者の命なんかを心配してくれるんだから。
……そうですね。まだ諦めるには早いですね。
すみません、この村のお世話になっていいですか?
「ええ、もちろんですよ。しばらくは我が家に泊まってください。
この村には空き家や野ざらしの畑がありますから、
一人で住むのはそこを片付けてからということで……」
しばらくの間面倒を見てくれるという村長。
はたして自分が住んでいた国にこれほど優しい人がいるだろうか?
まるで聖人のような村長の厚意に何度も頭を下げて感謝した。
こうして山村の一員となった自分。
慣れない野良作業や一人暮らしにずいぶん失敗を重ねたが、
牧歌的で温厚な村人たちは何かと世話を焼いて助けてくれた。
村人からの恩を受けまくりながら夏が終わり、失敗ばかりして面倒をかけながら秋が過ぎ、
なんとか一人でやれるようになって冬が訪れた。
そして春になり、そろそろ袖の短い服を準備をしようか…という季節。
危険な魔物がこの付近にいるかもしれないという情報が村にもたらされた。
魔物と言われても現実感がない自分には分からないのだが、
そのお触れ以降、村の中はどこか緊張した雰囲気が漂い始めた。
誰も彼も村の外れにはあまり近寄らなくなり、
山へ入る時もなるべく村の近くを散策するようになった。
さびの浮いている剣を倉庫から引っ張り出してきて整備する者までいる。
絵に描いたように平和だったこの村。
それが変わっていくことに不安を感じ、自分は村長の家に入り浸って話をするようになった。
そういや魔物魔物って皆が言ってますけど、色々種類がありますよね?
どんな魔物が潜んでいるとか、そういった情報はないんですか?
安息日という名の休日。
昼過ぎのティータイムを村長の家で過ごしながら、自分はそう訊ねる。
もし弱点とかがあるなら、襲われた時に助かる可能性が上がるのではなかろうか。
そう思ったのだが、村長は首を横に振った。
「あなたは魔物を甘く考えすぎです。
私たちのような一般人では少々の弱点があった所で、太刀打ちなどできません。
出くわさないように警戒することだけが唯一の対策なのです」
弱点なんて意味がない。むしろ知ることで油断が生まれてしまうと村長は言う。
この人がそう言うのならそうかもしれない。
だが、どんな魔物か知っておくことは決してマイナスにはならないはずだ。
「そのような考えが危ないのですが……まあ、いいでしょう。
この付近に潜んでいると目される魔物は、ゲイザーという魔物だそうです」
ゲイザー? 初めて聞きますね。
ヴァンパイアやドラゴンといったメジャー級の魔物は地球でも耳にした。
だが、ゲイザーなんて魔物は全く聞いたことがない。
「ゲイザーは魔物の中でも上位に位置する危険な魔物だそうです。
目玉のついた無数の触手を持っていて、その視線で人間を洗脳してしまうのだとか」
目玉の生えた無数の触手? いまいちビジュアルが想像できない。
「確かに言葉では分かり辛いでしょうね。ちょっと待っててください。
かなり古い版ですが魔物図鑑があったはずなので探してきます」
親切にも村長は図を見せてくれるという。
それはいいのだが、魔物図鑑なんて物が出版されてたのかこの世界……。
席を外して五分ほどだろうか。
村長は古ぼけたハードカバーの厚い本を片手に戻ってきた。
ドンと重い音を立ててテーブルに乗せ、まず後ろの索引を開く村長。
名前からして前の方にあったのか、すぐにお目当てのページを開いて見せてくれた。
「これがゲイザーです。ずいぶん醜悪な姿でしょう?」
図鑑に描かれていたゲイザー。
それは先端に目玉が付いた無数の触手が巨大な眼球から生えている姿だった。
確かにこれはひどい。まるで狂った人間の精神から出てきたような怪物だ。
こんなものが山の中にいるかもしれないんですか……。
「そうです。こんな魔物に殺されるだなんて想像するのもおぞましい。
あなたもしっかり警戒して、何かあったらすぐ他の人に知らせてください」
魔物相手だからか、嫌悪感を隠さずに吐き捨てる村長。
自分はその声を聞きながら図鑑の解説に目を通す。
ふむ、ゲイザーはその視線で魔法をかけ人間を洗脳する…か。
だったら目を合わせなければ大丈夫なのか?
まあ、達人でもなければ視線をそらしながら戦うなんて無理なんだろうけど。
あと普通に考えれば目玉って急所だよな? それがこんなにあるってことは……。
自分は魔物退治なんて無謀な事をする気はさらさら無い。
だが、万が一の遭遇を考えゲイザー対策を脳内で検討した。
魔物が潜んでいるからといって、山に入らないわけにはいかない。
動物性たんぱく質を得るには狩りや釣りをする必要があるからだ。
もっとも、今の状況で獲物を追って駆け回るのは危険。
なので最近の散策は罠に獲物が入っているかのチェックが主になっている。
ところが魔物を恐れる村人は、村付近の罠ばかり見回っていて獲物がなかなか獲れない。
卵より魚、魚よりも肉な自分にとって今の食卓は寂しすぎる。
なので多少の危険は承知の上で、少し遠い罠まで足を伸ばしてみた。
しばらくの間巡回せず、ほったらかしにされていた罠。
その中には結構獲物が捕獲されていた。ただし死体で。
大型動物ならともかく、ウサギ程度を捕えるのに殺す必要はない。
普通は生きたまま捕獲し後で捌く。
だが、罠に捕えられたまま放置された彼らは自分が来る前に衰弱死していた。
ギスギスにやせ細ったのはまだ良い方で、中には腐敗臭を漂わせる物まで。
結局、衛生面から全て破棄せざるを得なかった。
危険を冒して獲物を獲りにきたのに収穫はゼロか……。
そう落ち込んで、来た道を辿って帰ろうとしたとき。
木々の合間に小さな掘立小屋があるのを発見した。
何だあれ? 以前来た時はあんな物なかったよな?
今の立ち位置から二十メートルほど坂を登った所にある小屋。
その外見は新しめかつ歪んでいて、雑に作ったのだと推測できる。
魔物が潜んでいるのに、誰がこんなところに住みついたんだ?
自分は疑問に思いその小屋へ近づく。そして木の板を立てただけの扉をコンコン。
「あーい?」と中から女の声が聞こえると、ガタガタと音を立て扉が外れ住人が顔を出した。
―――その次の瞬間。
うわぁぁぁっ!
「うひゃぁぁっ!」
自分と住人の叫び声が同時に山の中に響いた。
より正確にいうと、出てきた顔で自分がまず叫び、それに驚いた住人がまた叫んだ。
初対面の相手を見て叫ぶだなんて失礼だが、これはしかたないだろう。
だって、出てきた顔にはデカイ一つ目が付いていたんだから。
出た! 出た! 魔物だ! ゲイザーだ!
こんな至近距離で鉢合わせするとは思わなかった自分は半ばパニック。
幸いなことに後ろへ倒れたので、坂を転がり距離を取ることができた。
ゴロゴロと回った自分は背嚢をひっくり返し、地面に中身をばらまく。
そして用意しておいたゲイザー対策の道具を慌てて装備した。
「……って、人間か。いきなり叫んで何なんだ。驚いたじゃないか」
“装備”により少し暗くなった視界。
立ち上がり顔をあげた自分の目に映ったのは人間ではなかった。
だが、村を不安に陥れている魔物だとも思えなかった。
巨大な眼球や目玉付き触手はゲイザーの特徴そのままだ。
だが巨大な単眼は人間そっくりの頭部にしっかり収まっていて、
その下には人間女性と同じ肉体があった。
触手が生えているのも背中側で、図鑑のように目玉から直接生えてはいない。
ゲイザーっぽい何か。今の段階ではそうとしか判断できない。
とりあえず言葉は通じるようなので“武器”を右手に収めながら対話を試みる。
おまえ、何なんだ? ゲイザーっていう魔物じゃないのか?
「なに言ってんだオマエ? この姿、どっからどう見てもゲイザーじゃないか」
“自分はゲイザーだ”と少女は主張する。
だが、図鑑とはあまりに違いすぎるその姿。鵜呑みにはできない。
嘘をつけ。本に載ってたゲイザーはもっと丸っこい姿だったぞ。
「そりゃ、昔の話だっての。今の魔物はこういう姿になったんだよ」
そんなのも知らないのか…とバカにしたように少女は鼻を鳴らす。
嘘を言っているような態度ではないが、ただでさえ無知な自分にその真偽は判断できない。
もしかすると人化の魔法とかで化けているだけかもしれないし。
まあ真の姿がどうであれ、彼女がゲイザーであることに間違いはないようだ。
そうだったのか。物知らずで悪かったな。
……ところで、一つ頼みがあるんだが。
「頼み? 人間がワタシに頼みだなんて、珍しいじゃないか。
言うだけ言ってみな。聞き流してやるから」
人間と比べギザギザな歯をむき出しにして魔物は笑う。
やはり魔物と友好的にいくのは難しいようだ。それでもダメ元で頼んでみるが。
自分はこの近くの村に住んでるんだけど、おまえのおかげで村中が怯えてるんだよ。
だから、ここを離れて別の場所へ行ってもらえないか?
“無理だろうなー”と思いつつ話す自分。
魔物は予想通りにハッ! と笑い飛ばし、要求を拒否する。
「イヤだね。オマエの頼みを聞いてやる義理なんて何一つない。
せっかく作ってもらった小屋を捨てて引っ越せだなんて、何様のつもりだい」
どうやら彼女の背後にある小屋は他人が作ったものらしい。
人間が請け負うはずもないから、やはり魔物が建てたのだろうか。
「オマエの頼みはそれだけか? ワタシの答えは一切お断りだ。
じゃあ次、コッチの頼みも聞いてもらおうか」
ああ、好きなだけ頼んでくれ。全部聞き流すけど。
先ほどの言葉をそのまま返してやる自分。
すると魔物はムッとしたように巨大な目を細めた。
「……なんだその態度。オマエは立場が分かってるのか?
オマエは人間でワタシは魔物。どっちが上だと思ってるんだ」
強者の傲慢を感じさせるセリフ。
たしかに一睨みで人間を洗脳できるなら、それも当然の態度だろう。
だが、世の中強い方が勝つとは限らない。
どっちが上かなんて状況次第だろ。
人間だって大勢魔物を退治してきてるんだぞ。
この世界には教団という組織やそこに所属する勇者がいて、
遥か昔から魔物と戦い人々を護ってきた……らしい。
現場を見たことはないが、人間は魔物にやられる一方ではないのだ。
それを無視して人間全体を魔物の下に置くような言い方にムカッときた。
「腹の立つ奴だなオマエ。じゃあワタシを退治できるのか?」
ムカッ腹は向こうも同じらしく“やってみろ”と挑発してきた。
「人間なんてワタシが睨んだだけで尻尾振るような生き物なんだよ。
ちょうど良い、今から奴隷にしてたっぷり教えてや……何だソレ!?」
洗脳魔法を使おうとしたのか、魔物は一斉に触手を向けてジロリと睨んだ。
だが、対ゲイザー装備をしている自分には効果を現わさない。
最強必殺の武器が通じなかった魔物は驚き戸惑う。
「鏡の目隠しってなんだよ! オマエただの村人だろ!? 何でそんな物持ってるんだ!」
魔物が口にした鏡の目隠し。それは釣り用のミラーシェードだ。
地球の伝承でもそうだが、邪視というものは互いの視線が合わないと効果を発揮しない。
自分が装着しているミラーシェード。
それは真っ昼間の今、周囲の景色を映しその下にある目を完全に隠している。
直視すれば一発で無力化されてしまうゲイザーの洗脳魔法を防ぎつつ、
その姿をしっかり捉える事が自分にはできるのだ。
「フン…! 視線を防いだ程度で図に乗るんじゃないよ。
すぐ引っぺがして、至近距離から叩きこんでやる!」
もし目から破壊光線でも出せたら、彼女はきっと撃ち抜いていただろう。
だがゲイザーの魔法は視線を媒介にしているため、物理的に攻撃するにも目を合わす必要がある。
自分がミラーシェイドを装備している限り、遠距離攻撃は完全にシャットアウトされるのだ。
魔物は怒りの表情を浮かべ、のしのしと近づいてくる。
自分は右手の武器を優しく握り、距離とタイミングを計った。
そしてちょうど良い位置で――――投げつける!
自分の手から放たれた物体。
魔物はただの石だと思ったのか、左の触手で弾こうとする。
が、勢いよく触手をぶつけられた物体は粉々に割れて中身を辺りにぶちまけた。
「いっ……痛い! 痛いっ! 何だよこれぇ!?」
自分が投げたのはトウガラシなど刺激の強い香辛料を入れたタマゴ爆弾。
それを破壊した魔物は左半身の目玉と顔の単眼に粉末を浴びた。
目を潰された彼女は足を止め苦痛を訴える。だが視力を失ったわけではない。
まだ右半身の目玉は残っているからだ。
今こそ好機と見た自分は地面の武器を拾い、右手と左手それぞれに持つ。
そして素早く駆け寄ると、触手の一本に向けてトリガーを引く。
シュッと軽い音を立てて噴霧された液体。
それが目玉に付着すると、触手は瞼のようなものを閉じて痛みにグネグネとのたうった。
「イタッ! ちょっ…ヤメテ! その液体止めてよっ!」
今自分が両手にそれぞれ持っているのはボトルタイプの噴霧器。
元は自然素材の消臭剤とかそういう物だ。
もちろん中身は抜いて高濃度食塩水に摩り下ろしたワサビを添加した化学兵器を入れてある。
魔物は残った視界を奪われまいと触手を移動させるが無駄無駄。
『ヒャッハー! 汚物は消毒だー!』
火炎放射器を二丁拳銃にしたサングラス付きのモヒカン。
何故かそれが脳内に現れ、自分は彼と共にヒャッハー! と叫びながら、
両手の噴霧器で魔物の目玉を潰していった。
「くっ、寄るな! ワタシの傍に近寄るなっ!」
ナニカに憑り付かれたようだった自分の銃さばき。
それで全ての目玉が使用不能になったのか、魔物は手当たりしだいに触手を振り回すようになった。
だが距離を取った自分にはかすりもしない。
それどころか、触手を木にぶつけて勝手に痛がっていたりする。
もしかして肉体的にはそう強くないのだろうか?
そういう視点で観察すると、触手はウネウネしてキモいが硬そうには見えない。
振り回すスピードにしたって、手で追って噴霧器で攻撃できる程度の早さだ。
これは……いけるか?
自分はロープを拾い上げると、そっと魔物の背後に回って待機。
流石に疲労したのか、ウネウネブンブカ振り回されていた触手の動きが鈍くなった。
そこで背後から飛びかかり、魔物を地面に押し倒す。
魔物は地面と自分に挟まれ“ギャッ!”と悲鳴をあげた。
「おい、後ろからとか卑怯だろっ! どけよ! 重いんだよっ!」
自分の下から脱出しようと手足をジタバタさせ触手で殴ってくる魔物。
だが手足の方は見た目通りの力しかないようで男性相手には非力。
触手の方も思った以上に柔らかく、ペシペシ叩かれても痛くない。
まだスピードがあれば鞭のように使えたかもしれないが、絶対的に勢いが足りないのだ。
自分は魔物の両手をバンザイの形に持っていき、手首のところでグルグル巻きに縛る。
触手はこちらを叩くのを止め縄を解こうとするが、指さえない目玉では不可能。
完全に敗北したと悟ったのか、魔物は抵抗を止め、グタッと触手を地にうなだらせた。
そして自分はゆっくり立ち上がり、勝利の味を噛み締める。
やった……やったぞっ!
村人を不安に陥れていた魔物。
反則的な現代装備を駆使したとはいえ、自分はそれを無力化し捕えたのだ。
これで村人たちはまた安心して暮らすことができる。
今まで味わったことが無い程の達成感に、ヒャッハー! と山々に響く鬨の声をあげた。
一通り勝利の余韻を味わった後は魔物の処遇。
捕えた魔物をどうするか決めなければならない……のだがそこで困った。
まず、この場で殺すという選択肢は無い。
いくら魔物でも知的生物の命は奪えない。少なくとも自分は。
しかるべき所に引き渡そうにも、そのためには村へ連れていく必要がある。
他の人間と顔を合わさせてしまったら、洗脳して自分を襲わせるなり、
縄を解かせて逃げ出すなりするだろう。
それに殺されると分かっていて大人しく村まで来てくれるわけがない。
かといって、ただ放してやってもこの山を去ってくれるか分からない。
自分は困り果てて頭をバリバリとかく。
その様子で扱いに困っていると見たのか、魔物は身を起して口を開いた。
「……オマエ、ワタシをどうする気なんだ?」
刺激物で真っ赤に充血した単眼を向ける魔物。
声は可愛らしいが、一つ目の顔はやはり不気味だ。
噴霧器を向けて“こっち見んな”と脅すと、ヒッと息を飲んで顔を背ける。
何故かその反応に悪党っぽいニヤニヤ笑いが浮かび、心の底からどす黒いモノが湧き出てきた。
戦闘中はそんな事に気を回す余裕はなかったが、
改めて観察するとこの魔物、ずいぶんな露出度だ。
ゼリー状の黒い何かが手足を覆っているが、肝心の胸や腰回りは申し訳程度に隠れているだけ。
灰色の肌と一つ目でなければ、ミラーシェイドをかけていても直視できなかったかもしれない。
自分は手を伸ばして、腕のゼリーを引っかいてみる。
すると簡単にポロリと剥げて、灰色の肌が現れた。
きっと胸や腰も同じように剥げるだろう。
そう思った時、股間にあるモノがピクンと反応した。
思えば自分はこの世界に来てから自慰をほとんどしていない。
エロ本も何も無いし、そもそも生活に追われっぱなしだったから。
一年近く満たされることがなかった性欲。
それが捕えられた魔物を前にして溢れ出す。
……おい、立って一緒に来い。おまえの家にお邪魔するぞ。
反論すると一吹きされると思ったのか、魔物は無言で頷き立ち上がる。
そして背後から襲われないよう魔物を先に立たせて掘っ立て小屋の中へ。
小屋の中は外観通り狭く、家具もほとんど無かった。
ただ、寝床なのか大きめのクッションは転がっている。
自分はそこを指差し、仰向けに寝ろと命令。
魔物は渋々と従いコロンと寝転がる。
そして自分はカチャカチャと音を立ててズボンを脱ぎ始めた。
「えぇっ!? 何する気だオマエ!? まさかワタシを犯…ぶっ!」
叫んで上半身を起き上がらせた魔物。
その顔面を掴んで後頭部をクッションに押し付けてやる。
おまえの考えてる通りだよ。こっちは色々溜まってるんだ。
体は人間っぽいんだから性欲解消させてもらうぞ。
日本にいた頃からはとても考えられないような鬼畜なセリフ。
相手が人間でないからか、すらすらとそれが流れ出た。
「分かってんのか!? ワタシは一つ目だぞ!? そんな奴を犯す気なのかよ!」
“魅力ないんだから止めろ”と思い止まらせようとする魔物。
だがこちらとしては首から下がまともなら構わない。
自分は全裸になると、綺麗にくぼんだヘソ周りを指でなぞって言う。
そうだな、確かに一つ目はキモい。でも肌はスベスベで良い触り心地だ。
顔を見なきゃどうとでもなる。ほれ、腕を上げろ。
胸のゼリーを取っぱらうんだからな。
縛られた腕で胸元を庇っていた魔物。
それにバンザイをさせ、邪魔な腕を頭の上に退かさせる。
薄い胸にデコレーションのようにかかっている黒いゼリー。
それを指ではらい、乳首を完全に露出させる。
「うー、ジロジロ見んなよ……」
恥ずかしいのか、少し潤んだ単眼で魔物は睨む。
その反抗的な態度を矯正してやるべく、その目玉を指先でチョンと突いてやった。
「ギャーッ! なんで目玉突くんだよ! ワタシ逆らってないだろ!?」
その目が気にくわん。敗北者として大人しく犯されろ。
「そのくらい良いじゃん! なんで負けたからって―――分かった止める!
だからソレ置いて! こっち向けないで!」
もうトラウマになっているのか、噴霧器を手にしたらあっさり折れた。
魔物は完全な涙目になり口をつぐむ。
自分はその表情に滾るものを感じながら下の方に手を伸ばす。
股間を覆っているゼリー状物質。
それをこそぎ落とすと魔物は完全な裸になった。
初めて見る女性器にこちらの男性器はしっかり硬くなり、先端から液を漏らす。
そして魔物の女性器も大量の粘液を溢れさせていた。
女性は性交の予感を感じると、望まずとも濡れてしまうのだろうか?
自分はそんな事を考えながら魔物の股を開き、足を持ち上げる。
魔物は抵抗こそしなかったが、単眼の視線をこちらに合わせて口を開いた。
「ほ……本当にするの? ワタシ魔物だよ? 一つ目だよ? 人間じゃないんだよ?」
すっかり勢いの衰えた声で慈悲を求めるように懇願する魔物。
この期に及んでなんとも往生際の悪い奴だ。
男がここまで来て中止すると本気で思っているのか?
バカかおまえ。人間じゃないからするんだよ。
魔物相手だったら犯したって罪にならないだろうが。
すんなりと出る凌辱系エロ漫画のようなセリフ。
今になって自覚したが、どうやら自分にはサドの素質があったようだ。
まあ、それとしても初体験が強姦だなんて相当酷い部類だろうけど。
「……分かったよ。もう好きにすれば?」
魔物は投げやりに言い放ち、プイッと顔を背けた。
言質を頂いた自分は男性器を穴の入口に合わせ、少し体重をかけて挿入する。
「ん、あぁぁっ…!」
ズブズブッと魔物の体内にめり込む自分のモノ。
魔物はそれを入った傍から滑る膣肉で締め付けてきた。
自慰というのは本当に“独身の自分を慰める”だけなんだなと実感させてくれる快感。
女で身持ちを崩す男の気分が今なら理解できそうだ。
くっ…すごいな、おまえの中! ギュウギュウにきつくて気持ち良いぞ!
「別に、好きで締めてるわけじゃ…ひぅっ!」
ふて腐れたように目を閉じ顔を背けていた魔物。
しかし、彼女は挿入された途端、頭を戻して目を見開いた。
巨大な単眼にはサイズに見合った涙が盛り上がり、目の端からつうっと零れ落ちる。
相変わらずキモい顔だが、いい加減自分も慣れてきた。
屈辱の涙はこちらの嗜虐心を心地良く満たしてくれる。
なんだぁ、泣いてんのかぁ?
人間に犯されんのがそんなに悔しいのかぁ?
“ヒャハハ!”と瞬殺確定なザコのように笑って腰を動かす自分。
魔物は“ぐぅっ…”と唸って言い返す。
「んなわけ……無いだろっ! これはっ…毒液が、まだ沁みてるからだっ!
っ…犯されたぐらいで、泣く、わけっ…! んいっ…!」
言葉を詰まらせながら減らず口をたたく魔物。
その吐息には艶があり、触れている肌はじっとりと熱い汗をかいている。
自分は“まさかな…”と考えながら魔物の左足を解放。
動かせるようになった左手で薄っぺらい右乳房をいじる。
肌よりも一際濃い灰色をした魔物の乳首。それは硬くなってピンと立っていた。
……おいおい、乳首が立ってるぞ? まさかおまえ強姦されて感じてるのか?
「バッ…そんなわけあるか! オマエのちんぽ突っ込まれて気持ち良いわけないだろ!」
こちらの推測を必死になって魔物は否定する。
十中八九快感を受けていると思うのだが……まあいいか。
言葉で嬲ってやるにはこっちの時間も少ないし。
自分は再び魔物の左足を持ち上げ腰の動きを速める。
どれだけ言葉で否定しようが体は正直だ。
魔物の膣内はギュッギュッと緩急をつけて男性器を締めつけ、
際限なく溢れ出る粘液は膣壁との摩擦で飛びそうな快感を生む。
魔物の方も目がとろーんとしてきて、
腰を打ちつけるたびに軽く喘ぎ声を漏らすようになった。
「あっ…あっ…や、だっ…! いや…なのっ…!」
ダルそうに首を横に振る魔物。その声は死ぬほど甘ったるい。
これではまるで強姦プレイをしている恋人同士のようだ。
まあ、一つ目の魔物と恋人なんて絶対嫌だから現実に戻ろうか。
おい、そろそろ出すぞ。中と外どっちが良いよ?
射精が近づいていると聞いた魔物はハッと正気を取り戻し、思い出したように拒絶の言葉を吐き出す。
「え……? あっ! そ、そりゃ外に決まってるだろ!
オマエの精液でまんこ汚されて喜ぶ奴がどこにいるんだよ!?」
よし分かった、中に出してやろう。
「ハァ!? 外だって言っただろ!
ワタシのまんこが良すぎて頭がどうかしたのか!?」
勢いを取り戻し、元気よく罵倒してくる魔物。
立場を思い出させるために乳房をつねってから自分は答える。
調子に乗んじゃねーぞ負け犬が。
強姦者が希望を聞いて“少しでもマシな方”にしてくれると思ったのか?
“中か外か”はただ口にしただけ。自分は最初から膣内で射精すると決めていたのだ。
「なっ…! バカにしてっ! 子供ができたらどうする気なんだよっ!?」
…………えっ? 子供できるの?
寝耳に水な魔物のセリフ。つい素に戻って訊き返してしまった。
「できるに決まってるだろ! そんなのも知らないのかよ!?」
自分は魔物について人類の敵で危険な存在ということしか知らない。
具体的な生態など全く知識がなかった。
まさか人間との間に子供ができるだなんて――――最高じゃないか。
どす黒い笑みが自分の顔に浮かぶ。
サドを通り越してただの外道な思考が脳内を駆け巡った。
自分は一刻も早く射精したくなり、より強くより深く腰をぶつける。
知らないこと教えてくれてありがとうな!
まさかオマエみたいな一つ目と子供が作れるだなんて思わなかったよ!
お礼にたっぷり注いでやるから、元気な子を産んでくれよ!
強姦し孕ませておいてそのままトンズラ。
女は大きくなった腹を抱えて途方に暮れる。
まさに『吐き気を催すような邪悪』である行為だが、魔物相手なら問題なし。
「やっ…ヤダヤダッ! 犯されて孕むなんて嫌ぁっ!」
口では散々に嫌がる魔物だが、足をばたつかせて抗ったりはしない。
おかげで楽に腰が動かせること。
声だけは本当に可愛い魔物の喘ぎ混じりの悲鳴。
自分はそれをBGMにして絶頂に達する。
もう……出すぞ! しっかり妊娠してくれよっ!
「あ、あ、ダメッ…! 出しちゃ…ダメェッ!
んぁぁ…でも、イっちゃうっ! 嫌なのにイっ……あぁっ!」
一年近く溜めこんできた精液。
それは精通の時以来の濃度と量でもって魔物の膣内を汚していく。
「ひっ、出てるっ! ネバネバした精液がまんこに入って来るよぉっ!
妊娠…したくないのにっ! ちんぽ、気持ちいいっ!」
快感を隠そうともしなくなった魔物。
彼女は持ち上げられていた足を初めて動かし、離すまいとこちらの体を挟む。
「オマエの…ちんぽ、すごいよっ! 精液、まだ止まらないっ!
こっ、こんなに出されちゃ、絶対孕むじゃないかっ!
ああっ…孕むっ! 孕んじゃうっ! 犯されて妊娠しちゃうぅっっ!」
知らない者が見たら強姦されているとは思わないだろうとろけた顔。
魔物は喜悦の叫びをあげながら、自分の精液を受け止めた。
射精後の虚脱状態は快感に比例する。
人生初めてのセックスをした自分は魔物から離れることもせずその上に倒れ込む。
あまり密着してミラーシェードを奪われたら大惨事なのだが、
魔物の方も余韻を味わっているらしく、触手さえ動かそうとしない。
最初に感じた嗜虐心は精液と共に放出されてしまったようで、今の自分は特に魔物を虐めたいとは思わない。
いやまあ、だからといって優しくしたいとも思わないけど。
ただ、記念すべき初体験の相手なのでキス……はハードル高いのでそれっぽい事をしてみる。
自分はダルさの残る頭を持ち上げ、魔物の正面に顔を合わせる。
そして口を開け“んべっ”と舌を突き出した。
粘性の高い透明な唾液。それは糸を引きながら魔物の上唇にぽたりと落ちる。
すると魔物の方もギザ歯の付いた口を開き、舌を突き出した。
自分は少し位置を調整し、唾液が彼女の口の中に落ちるようにする。
魔物は糸を引く唾液を舌で受け取ると、ペチャッ…と己の唾液と混ぜ合わせ味わった。
魔物に唾液を飲ませてから数分後。
ある程度活力が戻ってきた自分は身を起こして服を着た。
魔物の方はまだ回復していないらしく、こちらに単眼を向けボーッと見上げている。
これなら問題なかろうと判断し、自分は腕を拘束するロープを解いてやった。
そして戦いの勝利者として告げる。
いいか、ここを離れてどっか別の場所へ行くんだ。
そうしないと今度はもっと酷い目にあわせるぞ。
結局、自分が選んだのは脅しつけての解放だった。
魔物がこちらの言葉に従うという保証はないが、現代兵器の恐ろしさは身に沁みて知っただろう。
よほどの事情がない限り、この地を離れるだろうと自分は読む。
「……子供は? オマエの子供はどうするんだ?」
魔物は腹に触れ、朴訥な口調でそう言う。
だが、自分は魔物の子供なんかに責任を持つ気はない。
……本当にできたかなんて分からないだろ。
もしできてたとしても、魔物の子供なんてこっちは欲しくない。
産もうが殺そうがそっちの好きにしてくれ。
人間の女相手なら最低なセリフだが、魔物相手には遠慮しない。
やはり自分の本質はサドだったと認識する。
「そう……じゃあ、好きにする」
魔物はそう言うとゴロリと寝返りを打ち、背を向けた。
これで話は終わったと判断し、自分も背を向けて掘っ立て小屋を後にした。
一応自分は魔物を倒したが、そのことは誰にも話さなかった。
“魔物は退治しました”なんて豪語しておいて彼女が残っていた場合、
無警戒になった村人が犠牲になる可能性がある。
それを教えるのは、掘っ立て小屋から生活の気配が消えてから。
魔物が完全に去ったと確信してからだ。
とりあえずは一週間。それだけ経ったら小屋の様子を見にいこう。
そう考えて日常に戻った自分だが、たった二日後に訪ねることになってしまった。
「そうだよ! 俺は見たんだ! やっぱり魔物はすぐ近くに潜んでいるんだよ!」
顔の見知った中年男性の村人。
彼は道の端で他の村人に向かって“魔物を目撃した”と力説している。
それを聞いている人たちは皆深刻な面持ち。
“いるかもしれない”が“確実にいる”に変化したならそれも当然だろう。
自分は男性に近づいて詳しく話を聞こうとする。
すみません、本当に魔物がいたんですか?
「ああ、俺が獲物を回収しに行ったら、魔物が罠の近くをうろうろしてたんだ!」
男性は普段は落ち着いた人間だが、魔物を見たショックでヒステリックに話す。
村人の務めである罠の巡回。
当番でそれに行ったら、比較的村に近い罠の周辺を魔物がうろついていた。
幸い距離が離れていたので向こうは気付かず、そのままどこかへ行ってしまった。
無事に帰ってこれたけど、もう生きた心地じゃなかった…と男性は語った。
……そうですか。あなたが無事で本当に良かったです。
ところで、その魔物はどんな姿をしていました?
「遠くだったからよく見えなかったけど、触手が大量に生えてたよ。
色は黒で、灰色っぽい物も見えた。あと人間みたいに手足があった」
その証言に心の中で“チッ”と舌打ちをする。
あの魔物まだ出て行ってないのか。
いや、準備に時間がかかっているとかは別にいいのだが、
今まで出なかった村周辺に現れる理由はないはず。
何を考えているのか知らないが、速やかに立ち退くよう催促しなくては。
自分は家に戻ると対ゲイザー装備を用意し、すぐさま掘っ立て小屋に向かった。
そして扉代わりの木の板をガン! と蹴っ飛ばして大きな音を立てる。
物音に驚き、何か起きたかと小屋から出てくる魔物。
自分はそれに噴霧器を突きつけ“動くな!”と鋭く声を飛ばす。
言葉に従い魔物は足を止めたが、その代わりに口を開いた。
「なんだ、オマエか。あんな大きな音出して何のつもりだよ。
扉が壊れたらどうしてくれるんだ」
住処を乱暴に扱われて魔物は不機嫌そうに睨む。
だが機嫌が悪いのはこっちも同じだ。
おまえこそ何のつもりだよ。一昨日にここを出て行けって言ったよな?
なのに去るどころか村に近づくってのはどういう了見なんだ、あぁん!?
最後の“あぁん!?”はチンピラっぽい発音。
一度は勝利したこともあり、この魔物には開幕から鬼畜外道サドモードが発動。
威嚇としてシュッと化学兵器を一吹きしてやる。
すると目潰しの痛みを思い出したのか魔物は怯んだ。
「うっ……そっ、そう言われても、出て行けるわけないだろ!?
ワタシをこの山から追い出したいなら、オマエも一緒に来い!」
やけっぱちに叫ぶ魔物。自分はその意味が理解できず説明を求める。
ワケが分からん。何でおまえと一緒に出て行かないといけないんだ。
「オマエ、ゲイザーがなに食べて生きてるか知ってるか?」
魔物は唐突に無関係な話題に移る。
意味不明だが、本当に無関係とは思わないので相手をしてやる。
……知らないけど、人間と同じ物食ってるんじゃないのか?
少なくともこの姿で主食が草という事はないだろう。
「そうだな、ゲイザーは人間と同じ物を食べて生きられる。
でも、それは嗜好品や代用品なんだよ。本当は全然違う物が食糧なんだ」
代用品? じゃあ、本当の主食は何なんだ。
「ワタシたちの主食は人間の男の精。
精って言うのは魔力の一種で、言葉通り男の精液に大量に含まれているんだ」
それは信じ難い……けど、その姿を見ると、なあ……。
あまりに意外な主食に自分は戸惑いの声を発してしまう。
目玉お化けな魔物図鑑と全く違う人間女性に似た外見。
何故そうなったかは知らないが、男の精液を食べるというなら、まあ納得はできる。
だが、それと立ち退きの関連性が見えない。
食糧については分かった。でも、それと立ち退きは無関係じゃないのか?
出て行った先で男でもなんでも捕まえれば良いだろ?
話を聞く限り、自分が魔物と一緒に去る理由は見当たらない。
「話は最後まで聞けっての。ゲイザーは男の精を食べる。
だけど、誰でも良いってわけじゃないんだよ。
その……これって決めた相手の精じゃないと体が受け付けないんだ」
言い辛そうに視線を下げる魔物。その頬は心なしか少し色が変わっている。
おいおいおい、まさか……。
「ワ、ワタシだって嫌だよ! でもオマエが犯したせいでもう他の男は受け付けないんだ!
追い出したいなら責任取って一緒に来い! でないとずっとここに居座るぞ!」
ウガーッ! とギザギザの歯を剥き出しにして魔物は叫ぶ。
その勢いには気圧されたが、彼女の言葉を思い返して反論する。
待てよ! 人間と同じ食事でも生きられるんだろ!?
だったらそうしろよ! ストーカーみたいに粘着すんな!
「んなことできるかっ! オマエはそれで生きられるからって、一生小麦粉食ってけんのか!?
普通の食糧と精はそのぐらい違うんだよっ!」
魔物は実に分かりやすい例えを持ち出す。
もし死ぬまで小麦粉しか食べられなくなるとしたら、必死にもなるだろう。
危険な目に遭うとしても、美味しい食糧からは離れられないのだ。
いや、マジで困った。
マトモな食糧が自分の精液だけとあっては出て行かないだろう。
どうしても排除したいなら、それこそ命を奪う必要がある。
しかし魚程度ならともかく、こんな奴を殺す度胸はない。
自分があの村で生活する限り、村人は魔物に怯えて暮らさねばならないのだ。
このままでは、自分を助けてくれた人々に大きな迷惑をかけ続けてしまう。
目の前の魔物そっちのけで自分はしばし考え……村を出るべきという結論に達した。
確かにあの村は居心地が良い。
だが、あのまま留まっていても元の世界に帰れる可能性はゼロなのだ。
この世界に骨を埋めるつもりなんてない自分はいずれ旅立つ運命。
これは良い機会。その時が早まっただけなんだと考えよう。
……自分が村を出て行けば、おまえもここからいなくなるんだな?
「当たり前だ。オマエがいないなら、ここに残る理由なんて無い」
自分は確認を取り、魔物は肯く。それで旅立ちの決意は固まった。
が、自分はこんな奴と仲良く旅するつもりはない。
魔物なんて引き連れてたら、こっちも仲間と見なされてお縄だろう。
脅しつけても無駄なら、どうにかして撒かなくては。
「言っとくけど、逃げようとしても無駄だからな。
オマエの精の匂いは憶えたから、どこまでも追ってくぞ」
考えを見透かしたように釘を刺してくる魔物。
ムカついたので聞こえるように舌打ちしてやる。
そして何か良い手はないか…と思った時、英国紳士が脳内に現れた。
『なに? 精が目当ての魔物が粘着してくる? 逆に考えるんだ。
「絶対に逃げ出さない性奴隷を手に入れた」と考えるんだ』
口調は穏やかだが、内容は鬼畜な紳士の助言。
確かにこの魔物とのセックスは自慰とは比較にならないほどの快楽だった。
あれを毎日のように味わえるなら……まあ、少しくらいは連れ歩いても良いかもしれない。
村を出ることを決めた自分はまず“魔物を退治した”と村人に伝えた。
そして村長他数人の村人に魔物の掘っ立て小屋を公開。
魔物には前もって必要な物を持ち出させてあるので、
“ここに住んでいた魔物は出て行った”という言葉を村人は素直に信じてくれた。
魔物の脅威が消えた村人たちは大喜びをし、自分を褒め称える。
村長も最初は“勝手に危ない事をして…”と苦言を呈したが、
その後は自分が無事であったことを喜び、両手を握って感謝してくれた。
自分はもう村の中では英雄扱いだ。
そしてその熱が冷めないうちに“帰る方法を探す”と旅立つことを告げる。
村人は寂しがったが“これ持ってけ、あれ持ってけ”と惜しみなく協力してくれ、
その結果、結構な支援を受けて旅に出る準備を整えられた。
村を出発するときも「これが最後の別れになるかもしれない」と村人総出で見送り。
自分も世話になった人たちとお別れかと思うと、目がうるっときた。
村人の姿が見えなくなると目をこすって気を取り直し。
まずは麓の町へ向けて山を下る……わけではない。
もちろん町を目指しはするが、通常のルートは使わないし、
目的地も村人に告げた場所とは全く別。
自分は遠回りするようにして、あの掘っ立て小屋へ向かう。
傾いた小屋の前にはずいぶんと小さなザックを背負った魔物が待っていた。
「もー、来るの遅いって!」
たかが三日間待たされた程度で魔物は文句を言ってくる。
自分は躾のために噴霧器で一吹き…はしない。
これから自分は当ての無い旅にでるわけだが、
この世界の旅は列車やバスに乗っての娯楽旅行とは全く違う。
野宿することも多いし、運が悪ければ賊に襲われる可能性さえある。
もちろんそれを承知の上で旅に出ると決めたのだが、
『異世界人:LV1』の自分が一人旅をするのはやはり不安だ。
しかしこの魔物は様々な地域を放浪してこの山に住み着いた。
彼女は旅についての知識・経験を一通り持っている。
賊にしたって魔物と一緒にいる奴を襲うのは躊躇するだろうし、
もしそうなったとしても、こいつなら視線の一撃で壊滅だ。
案内人兼護衛兼性奴隷として少しぐらいは尊重してやろうかと今の自分は考える。
はいはい、悪かった。そんじゃ、しっかり道案内しろよ?
間違って反魔物の町に連れてったら、他人のふりして見殺しにするからな。
この魔物が話すところによると、山を3つほど越えた先には魔物に友好的な町があるのだという。
そこでは人間と魔物が混在して暮らし、堂々と町中を歩けるのだとか。
どうせ手がかりのない探索行、親魔物の国から調べてもいいだろう。
「そんなマヌケなことしないっての! ほら、行くぞ!」
魔物はそう言うと、拗ねたように背を向け歩き出した。
しかし尻尾のように生えた触手の目玉はこちらをジーッ…と見ている。
やっぱキモいよなあ…なんて思いながら、自分はその後に続いた。
自分はゲイザーを封殺可能な現代装備を所持している。
武力から立場を考えればこっちが上で魔物が下だ。
だが旅を始めて一ヶ月にも満たないうちにその上下関係は崩れてきた。
第一に旅に関する知識は彼女が圧倒的に多いという事。
どこにどんな町があって、そこへ行くにはどういう道を通ればいいかという地理。
野営で体を冷やさない寝方や野生動物に近寄らせない方法といったサバイバル技術。
本来試行錯誤しながら身に付けねばならないものを、魔物は既に習得している。
自分が間違ったルートを進もうとすればすぐに制止するし、
慣れない手つきで何かしようとしても、横から割り込んで手際良く片付けてしまうのだ。
もちろんある程度の手助けはさせるつもりだったが、魔物は自ら進んでそれらをする。
そして自分も素人がやるよりいいか…とつい任せてしまい、それが増長を招くことになった。
第二は収入の問題。
当然ながら旅をしていくには金が必要だ。
旅立ちの前に村人たちは足しにしてくれと金を渡してくれた。
そのおかげで路銀は当初の予定よりも潤沢になっている。
しかしいつ終わるとも知れないこの旅路、初期資金に頼るわけにはいかない。
行く先々で日雇いの仕事でも何でもして金を稼がねばならないのだ。
当然、働く時には自分だけでなく魔物も働かせるつもりだった。
だが長々と働くことを嫌う魔物は“魔法で猟をする”と言い出した。
そして結構な価値があるらしいファンタジー野獣を睨み殺して死体を換金。
チマチマとした日雇い仕事がバカらしくなる程の金額を稼ぎ出したのである。
「ワタシがいなきゃ道も迷うし、たいした金も稼げないんだよなー」
単眼で見つめながらニヤニヤ笑いを浮かべる魔物。
最近図に乗っているので“生意気言うな”とその目玉に人差し指で突きを入れる。
「痛ったー! いい加減目玉突くの止めろよ! 失明したらどうしてくれるんだ!」
たかがメインカメラがやられたぐらい平気だろ? 触手にも目があるんだし。
「メインカメラって何!? ワタシにそんな物ないよ!?」
だな。むしろ付いていたら驚きだ。
まあそんな戯言はともかく、以上二つの理由で魔物はずいぶんと付け上がってきた。
身の回りの世話と収入確保。普通だったらそれで立場は逆転だ。
だが自分は武力以外にも精という代えの効かない食糧を握っている。
魔物は自分無しではロクな食事を取れないし、
自分は魔物無しだと非常にキツイ旅路を強いられることになる。
今は互いが互いを必要としている状況。
それなので立場はこちらが上でも、そう厳しく当たれないのだ。
「あ゛〜、いいお湯〜」
円形の湯船に浸かり、気の抜けた声を出す魔物。
自分もそれに同意して肯くと、湯船に背をあずけて目を閉じた。
今自分たちがいるのは二人用の小さな露天風呂。
湯船の水はただのお湯ではなく、地熱で暖められた天然水…いわゆる温泉。
自分たちの移動は基本的に徒歩なので長期間の旅は体に負担がかかる。
毎日ちゃんと寝ていても、通常の休息では拭い去れない疲労が少しずつ蓄積していくのだ。
なので魔物の提案により次の目的地から少しずれた進路を取り、
しばしの息抜きとして、温泉がある観光地に寄り道することになった。
「そういや、ここで働いてる人ってずいぶん変わった服だよね。
ジパングの人たちって全員あんな服着てるのかな?」
魔物は初めて目にしたジパング伝統の衣装のことを口にする。
自分は“どうだろうな”と適当に答えて、温泉街の風景を思い返す。
この世界は地球とは違う西洋風ファンタジー世界だ。
しかしこの温泉街は日本風の意匠を持っていた。
従業員が着ている“ジパング伝統の衣装”なんて和服そのもの。
だいたいジパングという名前自体、外国人からした日本の呼び名だ。
自分の故郷は日本。ジパングに行ったら何か手がかりが得られるかもしれない。
次の次の行き先はジパングにしよう。そう心の中で決めると唇に柔らかい物が当てられた。
目を開いてみると、巨大な単眼のどアップ。
……夜にはまだ早いぞ。
「目の前に食事並べといて、おあずけとかないだろ。
それにワタシは子供の分も食わなきゃいけないんだ。
早めに夕食摂ったっていいだろ」
そう言って体を押し付けてくる魔物の腹は見事な膨らみよう。
セックスが実質の食事である魔物と旅をしていればそりゃ子供だってできる。
時期的に考えると妊娠したのは旅を始めてごく初期。
もしかすると最初に犯したときにできていたのかもしれない。
まあ、どうだっていいけど。
自分は湯船を上がると魔物を壁側に向けて立たせた。
背中側の触手が邪魔だが、あまり顔を見たくない自分はバックが好きなのだ。
魔物は大人しく従い、竹で出来ている囲いに手を当て尻を突き出す。
臨月妊婦だというのにパックリ割れた女性器は快感に期待して粘液ダラダラ。
肌と比べ少し薄い灰色をした膣に男性器を当てて押し込む。
「ん…っ! ちんぽ、入って…くるっ! あぁっ…太いっ…!」
ぬぷ…ぬぷ…と容易く男性器を飲み込んでいく魔物の穴。
すっかり使い込んだというのに、その締まりは全く悪くならない。
毎日毎日味わっているのに飽きがこない快感。
口にこそしないが、実は自分も病みつきになっている。
「もっと、入れて…! 子宮の…奥までっ! こじ開けて…んぁっ!」
胎児の重みで下がった子宮。
その入り口を貫かれた魔物は、奇声をあげブルッと身を震わせる。
人間相手なら流産を招きかねない危険な行為だが、
この魔物は全く気にしないどころか、自らそれを求めるのだ。
自分も初めの頃はちょっぴり胎児に配慮していたが、今はもう無遠慮で動くようになった。
「はひっ…! やっぱ、コレ最高っ! もっとズボズボしてっ!
ワタシの子宮でちんぽシゴいてぇっ!」
男性器の先端が胎児にぶつかるぐらいに深くて乱暴な動き。
魔物はそれを受けて嬌声をあげる。
そして自分の方も高まっていく快感に呼吸を激しくする。
ここは天井が解放されている露天風呂。
自分たちの交わる音は紅く染まり始めた空へ響き抜ける。
少しひんやりとした風はちょうどいい塩梅に頭を冷やし、快感をよりはっきり感じさせてくれる。
そんな風にやや叙情的な気分になりながら動いていると、魔物が突然ビクンと跳ねた。
「あ、マズっ! ちょっと、ちんぽ抜いてっ!」
今まで良い気分で動いていた自分。
そこで突然止めろと言われても従う気など起きない。
「いや、頼むからっ! もうすぐ―――うぐっ!」
魔物の詰まった声。
それと同時に膣内が妙にうねるようになり、穴から滴る液体が増えた。
どうしたんだ? もしかして産気づいた?
「その通りだよ…! もう産まれるから、一回抜いて…んぃっ!」
魔物の言葉が終わる前に自分はひときわ強く突く。
魔物はまたもやビクンと跳ねると、自分に文句を言った。
「おい、聞いてんのかよ!? 抜けって言ってるだろ!?」
嫌だね。子宮の中まで突っ込めって言ったのはおまえだろ。
最後まで責任持って満足させろ。
自分はそう言うと。魔物を壁に押し付けて強引にセックスを続ける。
魔物は頭を振り向かせ睨みつけてきたが、魔法を使いはしなかった。
一応どちらが上の立場かは理解しているようだ。
「ぐぅっ…分かったよ! さっさと射精しろっ!」
言われなくてもそうするって。今のおまえの中、スゴイことになってるんだからな…!
産気づき破水した魔物の膣内。それは今までと全く違っていた。
男性器を飲み込もうと中へうねっていた膣肉が胎児を吐き出そうと外へ動く。
それに逆らって奥へ押し込むと、肉の抵抗で凄まじい快感になるのだ。
「が…っ! ひっ…! はっ、早く出してっ…!
赤ちゃんが、出られないっ……!」
魔物はそう言って息み、腹に力を込めた。
元からの押し出そうとする動きに加え、膣がギュッと締めつける。
まるで肉を掘り進むような強い抵抗に耐えられず、自分は精液を解き放つ。
「うひっ、ビチビチいってるぅっ…! すごい勢い…!
赤ちゃん、精液まみれだよ…っ! ああっ、もう…ダメ! 抜いてぇっ!」
射精はしたが快感の余韻に浸るほどの余裕はない。
自分は精液の勢いが収まると、素早く腰を引いて男性器を抜いてやった。
するとビチャビチャッ! とバケツの底に穴を開けたように魔物の穴から体液が零れ落ちた。
そのほとんどは羊水だが、出したての精液も混ざって白いポイントになっている。
そして零れる液体が少なくなると、膣口を押し広げて胎児が頭を見せ始めた。
「ひっ、ひっ…! 赤ちゃん…! ワタシの赤ちゃんが、出てきてるぅっ!」
ムリムリッ…という擬音が似合いそうな魔物の出産。
息使いは苦しそうだが、それは過剰な快感によるものだ。
人間のように苦痛を感じているわけではないので、命の心配をする必要はない。
どちらかというと自分が心配すべきは魔物の肉体の方。
おーい、胎児ですごい広がってるけど大丈夫か?
ガバガバになったおまえとなんてセックスしたくないぞ?
度合いにもよるが、あまり緩くなるようだと交わりへの熱意は確実に下がるだろう。
「バカに…すんなよっ! 一人、産んだぐらいで、緩くなるかっ…!
また孕むぐらい…搾り取って……お、お、抜けるっ!
落ち…落ちっ! 落ちるぅっ! 赤ちゃん……まんこから落ちるぅっ!」
頭が抜けた胎児は母親の言葉を遮るようにズルッと産まれ落ちた。
露天風呂の床は硬く冷たい石造り。
人外だから平気だと思うが、一応床にぶつかる前に両手で受け止めてやる。
「んぁ…ありがと……」
胎児が落ちる際の快感で腰が抜けてしまった魔物。
彼女は竹の壁にもたれ、ボソッとした声で感謝を述べる。
そして自分は受け止めてやった子供を一瞥して一言。
一つ目かー、やっぱキモいわー。
手の上で仰向けになっている娘の顔には巨大な目玉が一つ。
さらに手の平に触れている背中からはウネウネとした柔らかい触手の感覚が。
魔物の子は魔物と聞かされていたが、現に見るとやっぱり引く。
そんな自分の態度に魔物はグルンと振り向いて、怒りを含んだ声を放った。
「なんだよっ! オマエの子供だろっ!?」
そう言われてもな。別に愛し合ってできたわけじゃないし。
食事の副産物か、それとも強姦の証か。どちらにせよロクな出生ではない。
こんなんじゃ可愛がるのは不可能だろう。
「なに言ってんだ! 可愛いだろ!? 可愛がれよっ!」
だから、できないっての。そんなに可愛いならおまえが存分に可愛がってやれよ。
自分はそう言って子供の腹から伸びているへその緒を引っ張り、胎盤を抜き取った。
そして湯船の水を手桶にすくい、体液で汚れた体をバシャバシャと洗ってやる。
この姿を可愛いとは思わないが、まだ赤ん坊だし汚れていたら可哀想ぐらいには思うのだ。
ほれ、綺麗にしてやったから後の面倒はおまえが見ろ。
自分はそう言って子供を差し出してやる。
魔物はジトーッとした目でこちらを見た後、はぁ…と深い溜息を吐いて受け取った。
マンガやアニメでは手垢が付くほど使い古されたパターンだ。
そして世界を転移した主人公は特別な力を得て大活躍、
あるいは得なくても現代知識を活用して一目置かれるというのがお決まりの展開。
自分も中学生二年生くらいまでは、他作品から持ってきた超パワーを得て戦う妄想をよくした。
だが、現実はそこまで甘くなかった。
夏休みの半ば、近場の海へ夜釣りに行こうと自転車をシャコシャコしていた時の事だ。
気分よく下り坂をシャーッと飛ばしていたら、進路上に次元の割れ目的な物が突然出現。
自分はそれに驚き避けようとしたが、地球の慣性は回避を許さない。
強引に曲がろうとした車体は横転し、グルンと宙を回転しながら割れ目にホールインワン。
グネグネした言いようのない感覚を一分か一時間味わったあと、
どことも知れない山の中へ、つばを吐くようにペッと放り出された。
周囲は真っ暗な山林。美少女の召喚士なんて影も形も見えやしない。
何か特殊な力でも手に入れたかと、跳ねたり気合を入れてみたりするが何も起きず。
都合よく超能力なんて発現しなかった自分は転がっていた自転車から荷物とバッテリー式のライトを外し、人間を求めて夜の山を下り始める。
素人が夜の山をうろつくなど危険極まりないが、助けが来る見込みなどないのだ。
強い不安感に大人しく夜明けを待つことなどできない。
自分は得体のしれない獣の遠吠えに怯えながら、一晩の間山中をさまよった。
そして朝になり山の陰から太陽が顔を出した頃、ようやく小さな山村を発見した。
どういうわけか山村の住人とは言葉が通じた。
どこから見ても日本人ではない外見に、聞いたこともない発音。
アルファベットに似ているけど英語ではない文字列。
全く未知の言語なのに、自分にはそれらの意味が理解できたのだ。
初めて村人と出会った時、その人は驚き警戒した。
まあ、日本人の顔つきに釣り用の衣服な自分は警戒されても仕方ないだろう。
だが“害意はない”と彼らに通じる言葉で話せたおかげで、攻撃されるような事はなかった。
いやまったく、言語能力というのはヘタな攻撃能力よりよほど重要だ。
もし自分が岩を砕ける程の力を得ていたとしても、言葉が通じないのでは野垂れ死には確実。
会話ができたおかげで自分は村長と面会することができたのだ。
迷い人という扱いで村長と会った自分は全ての事情を話した。
違う世界で暮らしていた事や事故のようにこの世界へやってきた事まで全て。
そして説明が終わると、無言で聞いていた白髪頭の村長は口を開いた。
「……事情は分かりました。大変な目に遭われたようですな」
え、信じてくれるんですか?
もちろん信じてくれないと困るのだが、あっさり頷いてくれるとは思わなかった。
良くて半信半疑、悪ければ妄言扱いされると予想していたのに。
“意外だ”という内心が顔に出ていたのか、村長は苦笑いを浮かべて語る。
「まあ、普通なら信じないでしょうな。
ですが、この付近では数十年に一度ぐらいそういう事があるのですよ。
なので“異世界から来た”という言葉は無下にできんのです」
なるほど。この地域は世界の壁が薄いとかそういう系の場所なのか。
だから異世界からの来訪者を名乗っても、簡単には変人扱いされないと。
この辺りの事は分かりました。
それでここからが本題なんですけど、異世界から来た人たちはどうなりました?
いくつもの前例があるなら、帰る方法が分かるかもしれない。
そう期待して村長に訊ねる自分だが、彼は難しい顔で答えた。
「来訪者たちのその後はまちまちです。
村を出て行く者から、この村に腰を下ろして骨を埋めた者まで。
言い辛いのですが……元の世界に帰る姿を見たという記録は一つもありません」
少なくともこの村から帰る手段はないと告げる村長。自分は天を仰ぎ嘆息する。
その姿がヤバそうだったのか、村長は慌ててフォローした。
「いや、帰る手段がないと決まったわけではありませんぞ?
もしかすると村を出て行った中には帰れた人がいるかもしれません。
それにあなたにその気があるなら、我々は村人として迎えます。
ですから、決して早まった事はしないでください」
楽な自殺の方法を考えていた自分の耳に入る村長の言葉。
それでこの人は良い人だと感じた。
だって突然やってきた余所者の命なんかを心配してくれるんだから。
……そうですね。まだ諦めるには早いですね。
すみません、この村のお世話になっていいですか?
「ええ、もちろんですよ。しばらくは我が家に泊まってください。
この村には空き家や野ざらしの畑がありますから、
一人で住むのはそこを片付けてからということで……」
しばらくの間面倒を見てくれるという村長。
はたして自分が住んでいた国にこれほど優しい人がいるだろうか?
まるで聖人のような村長の厚意に何度も頭を下げて感謝した。
こうして山村の一員となった自分。
慣れない野良作業や一人暮らしにずいぶん失敗を重ねたが、
牧歌的で温厚な村人たちは何かと世話を焼いて助けてくれた。
村人からの恩を受けまくりながら夏が終わり、失敗ばかりして面倒をかけながら秋が過ぎ、
なんとか一人でやれるようになって冬が訪れた。
そして春になり、そろそろ袖の短い服を準備をしようか…という季節。
危険な魔物がこの付近にいるかもしれないという情報が村にもたらされた。
魔物と言われても現実感がない自分には分からないのだが、
そのお触れ以降、村の中はどこか緊張した雰囲気が漂い始めた。
誰も彼も村の外れにはあまり近寄らなくなり、
山へ入る時もなるべく村の近くを散策するようになった。
さびの浮いている剣を倉庫から引っ張り出してきて整備する者までいる。
絵に描いたように平和だったこの村。
それが変わっていくことに不安を感じ、自分は村長の家に入り浸って話をするようになった。
そういや魔物魔物って皆が言ってますけど、色々種類がありますよね?
どんな魔物が潜んでいるとか、そういった情報はないんですか?
安息日という名の休日。
昼過ぎのティータイムを村長の家で過ごしながら、自分はそう訊ねる。
もし弱点とかがあるなら、襲われた時に助かる可能性が上がるのではなかろうか。
そう思ったのだが、村長は首を横に振った。
「あなたは魔物を甘く考えすぎです。
私たちのような一般人では少々の弱点があった所で、太刀打ちなどできません。
出くわさないように警戒することだけが唯一の対策なのです」
弱点なんて意味がない。むしろ知ることで油断が生まれてしまうと村長は言う。
この人がそう言うのならそうかもしれない。
だが、どんな魔物か知っておくことは決してマイナスにはならないはずだ。
「そのような考えが危ないのですが……まあ、いいでしょう。
この付近に潜んでいると目される魔物は、ゲイザーという魔物だそうです」
ゲイザー? 初めて聞きますね。
ヴァンパイアやドラゴンといったメジャー級の魔物は地球でも耳にした。
だが、ゲイザーなんて魔物は全く聞いたことがない。
「ゲイザーは魔物の中でも上位に位置する危険な魔物だそうです。
目玉のついた無数の触手を持っていて、その視線で人間を洗脳してしまうのだとか」
目玉の生えた無数の触手? いまいちビジュアルが想像できない。
「確かに言葉では分かり辛いでしょうね。ちょっと待っててください。
かなり古い版ですが魔物図鑑があったはずなので探してきます」
親切にも村長は図を見せてくれるという。
それはいいのだが、魔物図鑑なんて物が出版されてたのかこの世界……。
席を外して五分ほどだろうか。
村長は古ぼけたハードカバーの厚い本を片手に戻ってきた。
ドンと重い音を立ててテーブルに乗せ、まず後ろの索引を開く村長。
名前からして前の方にあったのか、すぐにお目当てのページを開いて見せてくれた。
「これがゲイザーです。ずいぶん醜悪な姿でしょう?」
図鑑に描かれていたゲイザー。
それは先端に目玉が付いた無数の触手が巨大な眼球から生えている姿だった。
確かにこれはひどい。まるで狂った人間の精神から出てきたような怪物だ。
こんなものが山の中にいるかもしれないんですか……。
「そうです。こんな魔物に殺されるだなんて想像するのもおぞましい。
あなたもしっかり警戒して、何かあったらすぐ他の人に知らせてください」
魔物相手だからか、嫌悪感を隠さずに吐き捨てる村長。
自分はその声を聞きながら図鑑の解説に目を通す。
ふむ、ゲイザーはその視線で魔法をかけ人間を洗脳する…か。
だったら目を合わせなければ大丈夫なのか?
まあ、達人でもなければ視線をそらしながら戦うなんて無理なんだろうけど。
あと普通に考えれば目玉って急所だよな? それがこんなにあるってことは……。
自分は魔物退治なんて無謀な事をする気はさらさら無い。
だが、万が一の遭遇を考えゲイザー対策を脳内で検討した。
魔物が潜んでいるからといって、山に入らないわけにはいかない。
動物性たんぱく質を得るには狩りや釣りをする必要があるからだ。
もっとも、今の状況で獲物を追って駆け回るのは危険。
なので最近の散策は罠に獲物が入っているかのチェックが主になっている。
ところが魔物を恐れる村人は、村付近の罠ばかり見回っていて獲物がなかなか獲れない。
卵より魚、魚よりも肉な自分にとって今の食卓は寂しすぎる。
なので多少の危険は承知の上で、少し遠い罠まで足を伸ばしてみた。
しばらくの間巡回せず、ほったらかしにされていた罠。
その中には結構獲物が捕獲されていた。ただし死体で。
大型動物ならともかく、ウサギ程度を捕えるのに殺す必要はない。
普通は生きたまま捕獲し後で捌く。
だが、罠に捕えられたまま放置された彼らは自分が来る前に衰弱死していた。
ギスギスにやせ細ったのはまだ良い方で、中には腐敗臭を漂わせる物まで。
結局、衛生面から全て破棄せざるを得なかった。
危険を冒して獲物を獲りにきたのに収穫はゼロか……。
そう落ち込んで、来た道を辿って帰ろうとしたとき。
木々の合間に小さな掘立小屋があるのを発見した。
何だあれ? 以前来た時はあんな物なかったよな?
今の立ち位置から二十メートルほど坂を登った所にある小屋。
その外見は新しめかつ歪んでいて、雑に作ったのだと推測できる。
魔物が潜んでいるのに、誰がこんなところに住みついたんだ?
自分は疑問に思いその小屋へ近づく。そして木の板を立てただけの扉をコンコン。
「あーい?」と中から女の声が聞こえると、ガタガタと音を立て扉が外れ住人が顔を出した。
―――その次の瞬間。
うわぁぁぁっ!
「うひゃぁぁっ!」
自分と住人の叫び声が同時に山の中に響いた。
より正確にいうと、出てきた顔で自分がまず叫び、それに驚いた住人がまた叫んだ。
初対面の相手を見て叫ぶだなんて失礼だが、これはしかたないだろう。
だって、出てきた顔にはデカイ一つ目が付いていたんだから。
出た! 出た! 魔物だ! ゲイザーだ!
こんな至近距離で鉢合わせするとは思わなかった自分は半ばパニック。
幸いなことに後ろへ倒れたので、坂を転がり距離を取ることができた。
ゴロゴロと回った自分は背嚢をひっくり返し、地面に中身をばらまく。
そして用意しておいたゲイザー対策の道具を慌てて装備した。
「……って、人間か。いきなり叫んで何なんだ。驚いたじゃないか」
“装備”により少し暗くなった視界。
立ち上がり顔をあげた自分の目に映ったのは人間ではなかった。
だが、村を不安に陥れている魔物だとも思えなかった。
巨大な眼球や目玉付き触手はゲイザーの特徴そのままだ。
だが巨大な単眼は人間そっくりの頭部にしっかり収まっていて、
その下には人間女性と同じ肉体があった。
触手が生えているのも背中側で、図鑑のように目玉から直接生えてはいない。
ゲイザーっぽい何か。今の段階ではそうとしか判断できない。
とりあえず言葉は通じるようなので“武器”を右手に収めながら対話を試みる。
おまえ、何なんだ? ゲイザーっていう魔物じゃないのか?
「なに言ってんだオマエ? この姿、どっからどう見てもゲイザーじゃないか」
“自分はゲイザーだ”と少女は主張する。
だが、図鑑とはあまりに違いすぎるその姿。鵜呑みにはできない。
嘘をつけ。本に載ってたゲイザーはもっと丸っこい姿だったぞ。
「そりゃ、昔の話だっての。今の魔物はこういう姿になったんだよ」
そんなのも知らないのか…とバカにしたように少女は鼻を鳴らす。
嘘を言っているような態度ではないが、ただでさえ無知な自分にその真偽は判断できない。
もしかすると人化の魔法とかで化けているだけかもしれないし。
まあ真の姿がどうであれ、彼女がゲイザーであることに間違いはないようだ。
そうだったのか。物知らずで悪かったな。
……ところで、一つ頼みがあるんだが。
「頼み? 人間がワタシに頼みだなんて、珍しいじゃないか。
言うだけ言ってみな。聞き流してやるから」
人間と比べギザギザな歯をむき出しにして魔物は笑う。
やはり魔物と友好的にいくのは難しいようだ。それでもダメ元で頼んでみるが。
自分はこの近くの村に住んでるんだけど、おまえのおかげで村中が怯えてるんだよ。
だから、ここを離れて別の場所へ行ってもらえないか?
“無理だろうなー”と思いつつ話す自分。
魔物は予想通りにハッ! と笑い飛ばし、要求を拒否する。
「イヤだね。オマエの頼みを聞いてやる義理なんて何一つない。
せっかく作ってもらった小屋を捨てて引っ越せだなんて、何様のつもりだい」
どうやら彼女の背後にある小屋は他人が作ったものらしい。
人間が請け負うはずもないから、やはり魔物が建てたのだろうか。
「オマエの頼みはそれだけか? ワタシの答えは一切お断りだ。
じゃあ次、コッチの頼みも聞いてもらおうか」
ああ、好きなだけ頼んでくれ。全部聞き流すけど。
先ほどの言葉をそのまま返してやる自分。
すると魔物はムッとしたように巨大な目を細めた。
「……なんだその態度。オマエは立場が分かってるのか?
オマエは人間でワタシは魔物。どっちが上だと思ってるんだ」
強者の傲慢を感じさせるセリフ。
たしかに一睨みで人間を洗脳できるなら、それも当然の態度だろう。
だが、世の中強い方が勝つとは限らない。
どっちが上かなんて状況次第だろ。
人間だって大勢魔物を退治してきてるんだぞ。
この世界には教団という組織やそこに所属する勇者がいて、
遥か昔から魔物と戦い人々を護ってきた……らしい。
現場を見たことはないが、人間は魔物にやられる一方ではないのだ。
それを無視して人間全体を魔物の下に置くような言い方にムカッときた。
「腹の立つ奴だなオマエ。じゃあワタシを退治できるのか?」
ムカッ腹は向こうも同じらしく“やってみろ”と挑発してきた。
「人間なんてワタシが睨んだだけで尻尾振るような生き物なんだよ。
ちょうど良い、今から奴隷にしてたっぷり教えてや……何だソレ!?」
洗脳魔法を使おうとしたのか、魔物は一斉に触手を向けてジロリと睨んだ。
だが、対ゲイザー装備をしている自分には効果を現わさない。
最強必殺の武器が通じなかった魔物は驚き戸惑う。
「鏡の目隠しってなんだよ! オマエただの村人だろ!? 何でそんな物持ってるんだ!」
魔物が口にした鏡の目隠し。それは釣り用のミラーシェードだ。
地球の伝承でもそうだが、邪視というものは互いの視線が合わないと効果を発揮しない。
自分が装着しているミラーシェード。
それは真っ昼間の今、周囲の景色を映しその下にある目を完全に隠している。
直視すれば一発で無力化されてしまうゲイザーの洗脳魔法を防ぎつつ、
その姿をしっかり捉える事が自分にはできるのだ。
「フン…! 視線を防いだ程度で図に乗るんじゃないよ。
すぐ引っぺがして、至近距離から叩きこんでやる!」
もし目から破壊光線でも出せたら、彼女はきっと撃ち抜いていただろう。
だがゲイザーの魔法は視線を媒介にしているため、物理的に攻撃するにも目を合わす必要がある。
自分がミラーシェイドを装備している限り、遠距離攻撃は完全にシャットアウトされるのだ。
魔物は怒りの表情を浮かべ、のしのしと近づいてくる。
自分は右手の武器を優しく握り、距離とタイミングを計った。
そしてちょうど良い位置で――――投げつける!
自分の手から放たれた物体。
魔物はただの石だと思ったのか、左の触手で弾こうとする。
が、勢いよく触手をぶつけられた物体は粉々に割れて中身を辺りにぶちまけた。
「いっ……痛い! 痛いっ! 何だよこれぇ!?」
自分が投げたのはトウガラシなど刺激の強い香辛料を入れたタマゴ爆弾。
それを破壊した魔物は左半身の目玉と顔の単眼に粉末を浴びた。
目を潰された彼女は足を止め苦痛を訴える。だが視力を失ったわけではない。
まだ右半身の目玉は残っているからだ。
今こそ好機と見た自分は地面の武器を拾い、右手と左手それぞれに持つ。
そして素早く駆け寄ると、触手の一本に向けてトリガーを引く。
シュッと軽い音を立てて噴霧された液体。
それが目玉に付着すると、触手は瞼のようなものを閉じて痛みにグネグネとのたうった。
「イタッ! ちょっ…ヤメテ! その液体止めてよっ!」
今自分が両手にそれぞれ持っているのはボトルタイプの噴霧器。
元は自然素材の消臭剤とかそういう物だ。
もちろん中身は抜いて高濃度食塩水に摩り下ろしたワサビを添加した化学兵器を入れてある。
魔物は残った視界を奪われまいと触手を移動させるが無駄無駄。
『ヒャッハー! 汚物は消毒だー!』
火炎放射器を二丁拳銃にしたサングラス付きのモヒカン。
何故かそれが脳内に現れ、自分は彼と共にヒャッハー! と叫びながら、
両手の噴霧器で魔物の目玉を潰していった。
「くっ、寄るな! ワタシの傍に近寄るなっ!」
ナニカに憑り付かれたようだった自分の銃さばき。
それで全ての目玉が使用不能になったのか、魔物は手当たりしだいに触手を振り回すようになった。
だが距離を取った自分にはかすりもしない。
それどころか、触手を木にぶつけて勝手に痛がっていたりする。
もしかして肉体的にはそう強くないのだろうか?
そういう視点で観察すると、触手はウネウネしてキモいが硬そうには見えない。
振り回すスピードにしたって、手で追って噴霧器で攻撃できる程度の早さだ。
これは……いけるか?
自分はロープを拾い上げると、そっと魔物の背後に回って待機。
流石に疲労したのか、ウネウネブンブカ振り回されていた触手の動きが鈍くなった。
そこで背後から飛びかかり、魔物を地面に押し倒す。
魔物は地面と自分に挟まれ“ギャッ!”と悲鳴をあげた。
「おい、後ろからとか卑怯だろっ! どけよ! 重いんだよっ!」
自分の下から脱出しようと手足をジタバタさせ触手で殴ってくる魔物。
だが手足の方は見た目通りの力しかないようで男性相手には非力。
触手の方も思った以上に柔らかく、ペシペシ叩かれても痛くない。
まだスピードがあれば鞭のように使えたかもしれないが、絶対的に勢いが足りないのだ。
自分は魔物の両手をバンザイの形に持っていき、手首のところでグルグル巻きに縛る。
触手はこちらを叩くのを止め縄を解こうとするが、指さえない目玉では不可能。
完全に敗北したと悟ったのか、魔物は抵抗を止め、グタッと触手を地にうなだらせた。
そして自分はゆっくり立ち上がり、勝利の味を噛み締める。
やった……やったぞっ!
村人を不安に陥れていた魔物。
反則的な現代装備を駆使したとはいえ、自分はそれを無力化し捕えたのだ。
これで村人たちはまた安心して暮らすことができる。
今まで味わったことが無い程の達成感に、ヒャッハー! と山々に響く鬨の声をあげた。
一通り勝利の余韻を味わった後は魔物の処遇。
捕えた魔物をどうするか決めなければならない……のだがそこで困った。
まず、この場で殺すという選択肢は無い。
いくら魔物でも知的生物の命は奪えない。少なくとも自分は。
しかるべき所に引き渡そうにも、そのためには村へ連れていく必要がある。
他の人間と顔を合わさせてしまったら、洗脳して自分を襲わせるなり、
縄を解かせて逃げ出すなりするだろう。
それに殺されると分かっていて大人しく村まで来てくれるわけがない。
かといって、ただ放してやってもこの山を去ってくれるか分からない。
自分は困り果てて頭をバリバリとかく。
その様子で扱いに困っていると見たのか、魔物は身を起して口を開いた。
「……オマエ、ワタシをどうする気なんだ?」
刺激物で真っ赤に充血した単眼を向ける魔物。
声は可愛らしいが、一つ目の顔はやはり不気味だ。
噴霧器を向けて“こっち見んな”と脅すと、ヒッと息を飲んで顔を背ける。
何故かその反応に悪党っぽいニヤニヤ笑いが浮かび、心の底からどす黒いモノが湧き出てきた。
戦闘中はそんな事に気を回す余裕はなかったが、
改めて観察するとこの魔物、ずいぶんな露出度だ。
ゼリー状の黒い何かが手足を覆っているが、肝心の胸や腰回りは申し訳程度に隠れているだけ。
灰色の肌と一つ目でなければ、ミラーシェイドをかけていても直視できなかったかもしれない。
自分は手を伸ばして、腕のゼリーを引っかいてみる。
すると簡単にポロリと剥げて、灰色の肌が現れた。
きっと胸や腰も同じように剥げるだろう。
そう思った時、股間にあるモノがピクンと反応した。
思えば自分はこの世界に来てから自慰をほとんどしていない。
エロ本も何も無いし、そもそも生活に追われっぱなしだったから。
一年近く満たされることがなかった性欲。
それが捕えられた魔物を前にして溢れ出す。
……おい、立って一緒に来い。おまえの家にお邪魔するぞ。
反論すると一吹きされると思ったのか、魔物は無言で頷き立ち上がる。
そして背後から襲われないよう魔物を先に立たせて掘っ立て小屋の中へ。
小屋の中は外観通り狭く、家具もほとんど無かった。
ただ、寝床なのか大きめのクッションは転がっている。
自分はそこを指差し、仰向けに寝ろと命令。
魔物は渋々と従いコロンと寝転がる。
そして自分はカチャカチャと音を立ててズボンを脱ぎ始めた。
「えぇっ!? 何する気だオマエ!? まさかワタシを犯…ぶっ!」
叫んで上半身を起き上がらせた魔物。
その顔面を掴んで後頭部をクッションに押し付けてやる。
おまえの考えてる通りだよ。こっちは色々溜まってるんだ。
体は人間っぽいんだから性欲解消させてもらうぞ。
日本にいた頃からはとても考えられないような鬼畜なセリフ。
相手が人間でないからか、すらすらとそれが流れ出た。
「分かってんのか!? ワタシは一つ目だぞ!? そんな奴を犯す気なのかよ!」
“魅力ないんだから止めろ”と思い止まらせようとする魔物。
だがこちらとしては首から下がまともなら構わない。
自分は全裸になると、綺麗にくぼんだヘソ周りを指でなぞって言う。
そうだな、確かに一つ目はキモい。でも肌はスベスベで良い触り心地だ。
顔を見なきゃどうとでもなる。ほれ、腕を上げろ。
胸のゼリーを取っぱらうんだからな。
縛られた腕で胸元を庇っていた魔物。
それにバンザイをさせ、邪魔な腕を頭の上に退かさせる。
薄い胸にデコレーションのようにかかっている黒いゼリー。
それを指ではらい、乳首を完全に露出させる。
「うー、ジロジロ見んなよ……」
恥ずかしいのか、少し潤んだ単眼で魔物は睨む。
その反抗的な態度を矯正してやるべく、その目玉を指先でチョンと突いてやった。
「ギャーッ! なんで目玉突くんだよ! ワタシ逆らってないだろ!?」
その目が気にくわん。敗北者として大人しく犯されろ。
「そのくらい良いじゃん! なんで負けたからって―――分かった止める!
だからソレ置いて! こっち向けないで!」
もうトラウマになっているのか、噴霧器を手にしたらあっさり折れた。
魔物は完全な涙目になり口をつぐむ。
自分はその表情に滾るものを感じながら下の方に手を伸ばす。
股間を覆っているゼリー状物質。
それをこそぎ落とすと魔物は完全な裸になった。
初めて見る女性器にこちらの男性器はしっかり硬くなり、先端から液を漏らす。
そして魔物の女性器も大量の粘液を溢れさせていた。
女性は性交の予感を感じると、望まずとも濡れてしまうのだろうか?
自分はそんな事を考えながら魔物の股を開き、足を持ち上げる。
魔物は抵抗こそしなかったが、単眼の視線をこちらに合わせて口を開いた。
「ほ……本当にするの? ワタシ魔物だよ? 一つ目だよ? 人間じゃないんだよ?」
すっかり勢いの衰えた声で慈悲を求めるように懇願する魔物。
この期に及んでなんとも往生際の悪い奴だ。
男がここまで来て中止すると本気で思っているのか?
バカかおまえ。人間じゃないからするんだよ。
魔物相手だったら犯したって罪にならないだろうが。
すんなりと出る凌辱系エロ漫画のようなセリフ。
今になって自覚したが、どうやら自分にはサドの素質があったようだ。
まあ、それとしても初体験が強姦だなんて相当酷い部類だろうけど。
「……分かったよ。もう好きにすれば?」
魔物は投げやりに言い放ち、プイッと顔を背けた。
言質を頂いた自分は男性器を穴の入口に合わせ、少し体重をかけて挿入する。
「ん、あぁぁっ…!」
ズブズブッと魔物の体内にめり込む自分のモノ。
魔物はそれを入った傍から滑る膣肉で締め付けてきた。
自慰というのは本当に“独身の自分を慰める”だけなんだなと実感させてくれる快感。
女で身持ちを崩す男の気分が今なら理解できそうだ。
くっ…すごいな、おまえの中! ギュウギュウにきつくて気持ち良いぞ!
「別に、好きで締めてるわけじゃ…ひぅっ!」
ふて腐れたように目を閉じ顔を背けていた魔物。
しかし、彼女は挿入された途端、頭を戻して目を見開いた。
巨大な単眼にはサイズに見合った涙が盛り上がり、目の端からつうっと零れ落ちる。
相変わらずキモい顔だが、いい加減自分も慣れてきた。
屈辱の涙はこちらの嗜虐心を心地良く満たしてくれる。
なんだぁ、泣いてんのかぁ?
人間に犯されんのがそんなに悔しいのかぁ?
“ヒャハハ!”と瞬殺確定なザコのように笑って腰を動かす自分。
魔物は“ぐぅっ…”と唸って言い返す。
「んなわけ……無いだろっ! これはっ…毒液が、まだ沁みてるからだっ!
っ…犯されたぐらいで、泣く、わけっ…! んいっ…!」
言葉を詰まらせながら減らず口をたたく魔物。
その吐息には艶があり、触れている肌はじっとりと熱い汗をかいている。
自分は“まさかな…”と考えながら魔物の左足を解放。
動かせるようになった左手で薄っぺらい右乳房をいじる。
肌よりも一際濃い灰色をした魔物の乳首。それは硬くなってピンと立っていた。
……おいおい、乳首が立ってるぞ? まさかおまえ強姦されて感じてるのか?
「バッ…そんなわけあるか! オマエのちんぽ突っ込まれて気持ち良いわけないだろ!」
こちらの推測を必死になって魔物は否定する。
十中八九快感を受けていると思うのだが……まあいいか。
言葉で嬲ってやるにはこっちの時間も少ないし。
自分は再び魔物の左足を持ち上げ腰の動きを速める。
どれだけ言葉で否定しようが体は正直だ。
魔物の膣内はギュッギュッと緩急をつけて男性器を締めつけ、
際限なく溢れ出る粘液は膣壁との摩擦で飛びそうな快感を生む。
魔物の方も目がとろーんとしてきて、
腰を打ちつけるたびに軽く喘ぎ声を漏らすようになった。
「あっ…あっ…や、だっ…! いや…なのっ…!」
ダルそうに首を横に振る魔物。その声は死ぬほど甘ったるい。
これではまるで強姦プレイをしている恋人同士のようだ。
まあ、一つ目の魔物と恋人なんて絶対嫌だから現実に戻ろうか。
おい、そろそろ出すぞ。中と外どっちが良いよ?
射精が近づいていると聞いた魔物はハッと正気を取り戻し、思い出したように拒絶の言葉を吐き出す。
「え……? あっ! そ、そりゃ外に決まってるだろ!
オマエの精液でまんこ汚されて喜ぶ奴がどこにいるんだよ!?」
よし分かった、中に出してやろう。
「ハァ!? 外だって言っただろ!
ワタシのまんこが良すぎて頭がどうかしたのか!?」
勢いを取り戻し、元気よく罵倒してくる魔物。
立場を思い出させるために乳房をつねってから自分は答える。
調子に乗んじゃねーぞ負け犬が。
強姦者が希望を聞いて“少しでもマシな方”にしてくれると思ったのか?
“中か外か”はただ口にしただけ。自分は最初から膣内で射精すると決めていたのだ。
「なっ…! バカにしてっ! 子供ができたらどうする気なんだよっ!?」
…………えっ? 子供できるの?
寝耳に水な魔物のセリフ。つい素に戻って訊き返してしまった。
「できるに決まってるだろ! そんなのも知らないのかよ!?」
自分は魔物について人類の敵で危険な存在ということしか知らない。
具体的な生態など全く知識がなかった。
まさか人間との間に子供ができるだなんて――――最高じゃないか。
どす黒い笑みが自分の顔に浮かぶ。
サドを通り越してただの外道な思考が脳内を駆け巡った。
自分は一刻も早く射精したくなり、より強くより深く腰をぶつける。
知らないこと教えてくれてありがとうな!
まさかオマエみたいな一つ目と子供が作れるだなんて思わなかったよ!
お礼にたっぷり注いでやるから、元気な子を産んでくれよ!
強姦し孕ませておいてそのままトンズラ。
女は大きくなった腹を抱えて途方に暮れる。
まさに『吐き気を催すような邪悪』である行為だが、魔物相手なら問題なし。
「やっ…ヤダヤダッ! 犯されて孕むなんて嫌ぁっ!」
口では散々に嫌がる魔物だが、足をばたつかせて抗ったりはしない。
おかげで楽に腰が動かせること。
声だけは本当に可愛い魔物の喘ぎ混じりの悲鳴。
自分はそれをBGMにして絶頂に達する。
もう……出すぞ! しっかり妊娠してくれよっ!
「あ、あ、ダメッ…! 出しちゃ…ダメェッ!
んぁぁ…でも、イっちゃうっ! 嫌なのにイっ……あぁっ!」
一年近く溜めこんできた精液。
それは精通の時以来の濃度と量でもって魔物の膣内を汚していく。
「ひっ、出てるっ! ネバネバした精液がまんこに入って来るよぉっ!
妊娠…したくないのにっ! ちんぽ、気持ちいいっ!」
快感を隠そうともしなくなった魔物。
彼女は持ち上げられていた足を初めて動かし、離すまいとこちらの体を挟む。
「オマエの…ちんぽ、すごいよっ! 精液、まだ止まらないっ!
こっ、こんなに出されちゃ、絶対孕むじゃないかっ!
ああっ…孕むっ! 孕んじゃうっ! 犯されて妊娠しちゃうぅっっ!」
知らない者が見たら強姦されているとは思わないだろうとろけた顔。
魔物は喜悦の叫びをあげながら、自分の精液を受け止めた。
射精後の虚脱状態は快感に比例する。
人生初めてのセックスをした自分は魔物から離れることもせずその上に倒れ込む。
あまり密着してミラーシェードを奪われたら大惨事なのだが、
魔物の方も余韻を味わっているらしく、触手さえ動かそうとしない。
最初に感じた嗜虐心は精液と共に放出されてしまったようで、今の自分は特に魔物を虐めたいとは思わない。
いやまあ、だからといって優しくしたいとも思わないけど。
ただ、記念すべき初体験の相手なのでキス……はハードル高いのでそれっぽい事をしてみる。
自分はダルさの残る頭を持ち上げ、魔物の正面に顔を合わせる。
そして口を開け“んべっ”と舌を突き出した。
粘性の高い透明な唾液。それは糸を引きながら魔物の上唇にぽたりと落ちる。
すると魔物の方もギザ歯の付いた口を開き、舌を突き出した。
自分は少し位置を調整し、唾液が彼女の口の中に落ちるようにする。
魔物は糸を引く唾液を舌で受け取ると、ペチャッ…と己の唾液と混ぜ合わせ味わった。
魔物に唾液を飲ませてから数分後。
ある程度活力が戻ってきた自分は身を起こして服を着た。
魔物の方はまだ回復していないらしく、こちらに単眼を向けボーッと見上げている。
これなら問題なかろうと判断し、自分は腕を拘束するロープを解いてやった。
そして戦いの勝利者として告げる。
いいか、ここを離れてどっか別の場所へ行くんだ。
そうしないと今度はもっと酷い目にあわせるぞ。
結局、自分が選んだのは脅しつけての解放だった。
魔物がこちらの言葉に従うという保証はないが、現代兵器の恐ろしさは身に沁みて知っただろう。
よほどの事情がない限り、この地を離れるだろうと自分は読む。
「……子供は? オマエの子供はどうするんだ?」
魔物は腹に触れ、朴訥な口調でそう言う。
だが、自分は魔物の子供なんかに責任を持つ気はない。
……本当にできたかなんて分からないだろ。
もしできてたとしても、魔物の子供なんてこっちは欲しくない。
産もうが殺そうがそっちの好きにしてくれ。
人間の女相手なら最低なセリフだが、魔物相手には遠慮しない。
やはり自分の本質はサドだったと認識する。
「そう……じゃあ、好きにする」
魔物はそう言うとゴロリと寝返りを打ち、背を向けた。
これで話は終わったと判断し、自分も背を向けて掘っ立て小屋を後にした。
一応自分は魔物を倒したが、そのことは誰にも話さなかった。
“魔物は退治しました”なんて豪語しておいて彼女が残っていた場合、
無警戒になった村人が犠牲になる可能性がある。
それを教えるのは、掘っ立て小屋から生活の気配が消えてから。
魔物が完全に去ったと確信してからだ。
とりあえずは一週間。それだけ経ったら小屋の様子を見にいこう。
そう考えて日常に戻った自分だが、たった二日後に訪ねることになってしまった。
「そうだよ! 俺は見たんだ! やっぱり魔物はすぐ近くに潜んでいるんだよ!」
顔の見知った中年男性の村人。
彼は道の端で他の村人に向かって“魔物を目撃した”と力説している。
それを聞いている人たちは皆深刻な面持ち。
“いるかもしれない”が“確実にいる”に変化したならそれも当然だろう。
自分は男性に近づいて詳しく話を聞こうとする。
すみません、本当に魔物がいたんですか?
「ああ、俺が獲物を回収しに行ったら、魔物が罠の近くをうろうろしてたんだ!」
男性は普段は落ち着いた人間だが、魔物を見たショックでヒステリックに話す。
村人の務めである罠の巡回。
当番でそれに行ったら、比較的村に近い罠の周辺を魔物がうろついていた。
幸い距離が離れていたので向こうは気付かず、そのままどこかへ行ってしまった。
無事に帰ってこれたけど、もう生きた心地じゃなかった…と男性は語った。
……そうですか。あなたが無事で本当に良かったです。
ところで、その魔物はどんな姿をしていました?
「遠くだったからよく見えなかったけど、触手が大量に生えてたよ。
色は黒で、灰色っぽい物も見えた。あと人間みたいに手足があった」
その証言に心の中で“チッ”と舌打ちをする。
あの魔物まだ出て行ってないのか。
いや、準備に時間がかかっているとかは別にいいのだが、
今まで出なかった村周辺に現れる理由はないはず。
何を考えているのか知らないが、速やかに立ち退くよう催促しなくては。
自分は家に戻ると対ゲイザー装備を用意し、すぐさま掘っ立て小屋に向かった。
そして扉代わりの木の板をガン! と蹴っ飛ばして大きな音を立てる。
物音に驚き、何か起きたかと小屋から出てくる魔物。
自分はそれに噴霧器を突きつけ“動くな!”と鋭く声を飛ばす。
言葉に従い魔物は足を止めたが、その代わりに口を開いた。
「なんだ、オマエか。あんな大きな音出して何のつもりだよ。
扉が壊れたらどうしてくれるんだ」
住処を乱暴に扱われて魔物は不機嫌そうに睨む。
だが機嫌が悪いのはこっちも同じだ。
おまえこそ何のつもりだよ。一昨日にここを出て行けって言ったよな?
なのに去るどころか村に近づくってのはどういう了見なんだ、あぁん!?
最後の“あぁん!?”はチンピラっぽい発音。
一度は勝利したこともあり、この魔物には開幕から鬼畜外道サドモードが発動。
威嚇としてシュッと化学兵器を一吹きしてやる。
すると目潰しの痛みを思い出したのか魔物は怯んだ。
「うっ……そっ、そう言われても、出て行けるわけないだろ!?
ワタシをこの山から追い出したいなら、オマエも一緒に来い!」
やけっぱちに叫ぶ魔物。自分はその意味が理解できず説明を求める。
ワケが分からん。何でおまえと一緒に出て行かないといけないんだ。
「オマエ、ゲイザーがなに食べて生きてるか知ってるか?」
魔物は唐突に無関係な話題に移る。
意味不明だが、本当に無関係とは思わないので相手をしてやる。
……知らないけど、人間と同じ物食ってるんじゃないのか?
少なくともこの姿で主食が草という事はないだろう。
「そうだな、ゲイザーは人間と同じ物を食べて生きられる。
でも、それは嗜好品や代用品なんだよ。本当は全然違う物が食糧なんだ」
代用品? じゃあ、本当の主食は何なんだ。
「ワタシたちの主食は人間の男の精。
精って言うのは魔力の一種で、言葉通り男の精液に大量に含まれているんだ」
それは信じ難い……けど、その姿を見ると、なあ……。
あまりに意外な主食に自分は戸惑いの声を発してしまう。
目玉お化けな魔物図鑑と全く違う人間女性に似た外見。
何故そうなったかは知らないが、男の精液を食べるというなら、まあ納得はできる。
だが、それと立ち退きの関連性が見えない。
食糧については分かった。でも、それと立ち退きは無関係じゃないのか?
出て行った先で男でもなんでも捕まえれば良いだろ?
話を聞く限り、自分が魔物と一緒に去る理由は見当たらない。
「話は最後まで聞けっての。ゲイザーは男の精を食べる。
だけど、誰でも良いってわけじゃないんだよ。
その……これって決めた相手の精じゃないと体が受け付けないんだ」
言い辛そうに視線を下げる魔物。その頬は心なしか少し色が変わっている。
おいおいおい、まさか……。
「ワ、ワタシだって嫌だよ! でもオマエが犯したせいでもう他の男は受け付けないんだ!
追い出したいなら責任取って一緒に来い! でないとずっとここに居座るぞ!」
ウガーッ! とギザギザの歯を剥き出しにして魔物は叫ぶ。
その勢いには気圧されたが、彼女の言葉を思い返して反論する。
待てよ! 人間と同じ食事でも生きられるんだろ!?
だったらそうしろよ! ストーカーみたいに粘着すんな!
「んなことできるかっ! オマエはそれで生きられるからって、一生小麦粉食ってけんのか!?
普通の食糧と精はそのぐらい違うんだよっ!」
魔物は実に分かりやすい例えを持ち出す。
もし死ぬまで小麦粉しか食べられなくなるとしたら、必死にもなるだろう。
危険な目に遭うとしても、美味しい食糧からは離れられないのだ。
いや、マジで困った。
マトモな食糧が自分の精液だけとあっては出て行かないだろう。
どうしても排除したいなら、それこそ命を奪う必要がある。
しかし魚程度ならともかく、こんな奴を殺す度胸はない。
自分があの村で生活する限り、村人は魔物に怯えて暮らさねばならないのだ。
このままでは、自分を助けてくれた人々に大きな迷惑をかけ続けてしまう。
目の前の魔物そっちのけで自分はしばし考え……村を出るべきという結論に達した。
確かにあの村は居心地が良い。
だが、あのまま留まっていても元の世界に帰れる可能性はゼロなのだ。
この世界に骨を埋めるつもりなんてない自分はいずれ旅立つ運命。
これは良い機会。その時が早まっただけなんだと考えよう。
……自分が村を出て行けば、おまえもここからいなくなるんだな?
「当たり前だ。オマエがいないなら、ここに残る理由なんて無い」
自分は確認を取り、魔物は肯く。それで旅立ちの決意は固まった。
が、自分はこんな奴と仲良く旅するつもりはない。
魔物なんて引き連れてたら、こっちも仲間と見なされてお縄だろう。
脅しつけても無駄なら、どうにかして撒かなくては。
「言っとくけど、逃げようとしても無駄だからな。
オマエの精の匂いは憶えたから、どこまでも追ってくぞ」
考えを見透かしたように釘を刺してくる魔物。
ムカついたので聞こえるように舌打ちしてやる。
そして何か良い手はないか…と思った時、英国紳士が脳内に現れた。
『なに? 精が目当ての魔物が粘着してくる? 逆に考えるんだ。
「絶対に逃げ出さない性奴隷を手に入れた」と考えるんだ』
口調は穏やかだが、内容は鬼畜な紳士の助言。
確かにこの魔物とのセックスは自慰とは比較にならないほどの快楽だった。
あれを毎日のように味わえるなら……まあ、少しくらいは連れ歩いても良いかもしれない。
村を出ることを決めた自分はまず“魔物を退治した”と村人に伝えた。
そして村長他数人の村人に魔物の掘っ立て小屋を公開。
魔物には前もって必要な物を持ち出させてあるので、
“ここに住んでいた魔物は出て行った”という言葉を村人は素直に信じてくれた。
魔物の脅威が消えた村人たちは大喜びをし、自分を褒め称える。
村長も最初は“勝手に危ない事をして…”と苦言を呈したが、
その後は自分が無事であったことを喜び、両手を握って感謝してくれた。
自分はもう村の中では英雄扱いだ。
そしてその熱が冷めないうちに“帰る方法を探す”と旅立つことを告げる。
村人は寂しがったが“これ持ってけ、あれ持ってけ”と惜しみなく協力してくれ、
その結果、結構な支援を受けて旅に出る準備を整えられた。
村を出発するときも「これが最後の別れになるかもしれない」と村人総出で見送り。
自分も世話になった人たちとお別れかと思うと、目がうるっときた。
村人の姿が見えなくなると目をこすって気を取り直し。
まずは麓の町へ向けて山を下る……わけではない。
もちろん町を目指しはするが、通常のルートは使わないし、
目的地も村人に告げた場所とは全く別。
自分は遠回りするようにして、あの掘っ立て小屋へ向かう。
傾いた小屋の前にはずいぶんと小さなザックを背負った魔物が待っていた。
「もー、来るの遅いって!」
たかが三日間待たされた程度で魔物は文句を言ってくる。
自分は躾のために噴霧器で一吹き…はしない。
これから自分は当ての無い旅にでるわけだが、
この世界の旅は列車やバスに乗っての娯楽旅行とは全く違う。
野宿することも多いし、運が悪ければ賊に襲われる可能性さえある。
もちろんそれを承知の上で旅に出ると決めたのだが、
『異世界人:LV1』の自分が一人旅をするのはやはり不安だ。
しかしこの魔物は様々な地域を放浪してこの山に住み着いた。
彼女は旅についての知識・経験を一通り持っている。
賊にしたって魔物と一緒にいる奴を襲うのは躊躇するだろうし、
もしそうなったとしても、こいつなら視線の一撃で壊滅だ。
案内人兼護衛兼性奴隷として少しぐらいは尊重してやろうかと今の自分は考える。
はいはい、悪かった。そんじゃ、しっかり道案内しろよ?
間違って反魔物の町に連れてったら、他人のふりして見殺しにするからな。
この魔物が話すところによると、山を3つほど越えた先には魔物に友好的な町があるのだという。
そこでは人間と魔物が混在して暮らし、堂々と町中を歩けるのだとか。
どうせ手がかりのない探索行、親魔物の国から調べてもいいだろう。
「そんなマヌケなことしないっての! ほら、行くぞ!」
魔物はそう言うと、拗ねたように背を向け歩き出した。
しかし尻尾のように生えた触手の目玉はこちらをジーッ…と見ている。
やっぱキモいよなあ…なんて思いながら、自分はその後に続いた。
自分はゲイザーを封殺可能な現代装備を所持している。
武力から立場を考えればこっちが上で魔物が下だ。
だが旅を始めて一ヶ月にも満たないうちにその上下関係は崩れてきた。
第一に旅に関する知識は彼女が圧倒的に多いという事。
どこにどんな町があって、そこへ行くにはどういう道を通ればいいかという地理。
野営で体を冷やさない寝方や野生動物に近寄らせない方法といったサバイバル技術。
本来試行錯誤しながら身に付けねばならないものを、魔物は既に習得している。
自分が間違ったルートを進もうとすればすぐに制止するし、
慣れない手つきで何かしようとしても、横から割り込んで手際良く片付けてしまうのだ。
もちろんある程度の手助けはさせるつもりだったが、魔物は自ら進んでそれらをする。
そして自分も素人がやるよりいいか…とつい任せてしまい、それが増長を招くことになった。
第二は収入の問題。
当然ながら旅をしていくには金が必要だ。
旅立ちの前に村人たちは足しにしてくれと金を渡してくれた。
そのおかげで路銀は当初の予定よりも潤沢になっている。
しかしいつ終わるとも知れないこの旅路、初期資金に頼るわけにはいかない。
行く先々で日雇いの仕事でも何でもして金を稼がねばならないのだ。
当然、働く時には自分だけでなく魔物も働かせるつもりだった。
だが長々と働くことを嫌う魔物は“魔法で猟をする”と言い出した。
そして結構な価値があるらしいファンタジー野獣を睨み殺して死体を換金。
チマチマとした日雇い仕事がバカらしくなる程の金額を稼ぎ出したのである。
「ワタシがいなきゃ道も迷うし、たいした金も稼げないんだよなー」
単眼で見つめながらニヤニヤ笑いを浮かべる魔物。
最近図に乗っているので“生意気言うな”とその目玉に人差し指で突きを入れる。
「痛ったー! いい加減目玉突くの止めろよ! 失明したらどうしてくれるんだ!」
たかがメインカメラがやられたぐらい平気だろ? 触手にも目があるんだし。
「メインカメラって何!? ワタシにそんな物ないよ!?」
だな。むしろ付いていたら驚きだ。
まあそんな戯言はともかく、以上二つの理由で魔物はずいぶんと付け上がってきた。
身の回りの世話と収入確保。普通だったらそれで立場は逆転だ。
だが自分は武力以外にも精という代えの効かない食糧を握っている。
魔物は自分無しではロクな食事を取れないし、
自分は魔物無しだと非常にキツイ旅路を強いられることになる。
今は互いが互いを必要としている状況。
それなので立場はこちらが上でも、そう厳しく当たれないのだ。
「あ゛〜、いいお湯〜」
円形の湯船に浸かり、気の抜けた声を出す魔物。
自分もそれに同意して肯くと、湯船に背をあずけて目を閉じた。
今自分たちがいるのは二人用の小さな露天風呂。
湯船の水はただのお湯ではなく、地熱で暖められた天然水…いわゆる温泉。
自分たちの移動は基本的に徒歩なので長期間の旅は体に負担がかかる。
毎日ちゃんと寝ていても、通常の休息では拭い去れない疲労が少しずつ蓄積していくのだ。
なので魔物の提案により次の目的地から少しずれた進路を取り、
しばしの息抜きとして、温泉がある観光地に寄り道することになった。
「そういや、ここで働いてる人ってずいぶん変わった服だよね。
ジパングの人たちって全員あんな服着てるのかな?」
魔物は初めて目にしたジパング伝統の衣装のことを口にする。
自分は“どうだろうな”と適当に答えて、温泉街の風景を思い返す。
この世界は地球とは違う西洋風ファンタジー世界だ。
しかしこの温泉街は日本風の意匠を持っていた。
従業員が着ている“ジパング伝統の衣装”なんて和服そのもの。
だいたいジパングという名前自体、外国人からした日本の呼び名だ。
自分の故郷は日本。ジパングに行ったら何か手がかりが得られるかもしれない。
次の次の行き先はジパングにしよう。そう心の中で決めると唇に柔らかい物が当てられた。
目を開いてみると、巨大な単眼のどアップ。
……夜にはまだ早いぞ。
「目の前に食事並べといて、おあずけとかないだろ。
それにワタシは子供の分も食わなきゃいけないんだ。
早めに夕食摂ったっていいだろ」
そう言って体を押し付けてくる魔物の腹は見事な膨らみよう。
セックスが実質の食事である魔物と旅をしていればそりゃ子供だってできる。
時期的に考えると妊娠したのは旅を始めてごく初期。
もしかすると最初に犯したときにできていたのかもしれない。
まあ、どうだっていいけど。
自分は湯船を上がると魔物を壁側に向けて立たせた。
背中側の触手が邪魔だが、あまり顔を見たくない自分はバックが好きなのだ。
魔物は大人しく従い、竹で出来ている囲いに手を当て尻を突き出す。
臨月妊婦だというのにパックリ割れた女性器は快感に期待して粘液ダラダラ。
肌と比べ少し薄い灰色をした膣に男性器を当てて押し込む。
「ん…っ! ちんぽ、入って…くるっ! あぁっ…太いっ…!」
ぬぷ…ぬぷ…と容易く男性器を飲み込んでいく魔物の穴。
すっかり使い込んだというのに、その締まりは全く悪くならない。
毎日毎日味わっているのに飽きがこない快感。
口にこそしないが、実は自分も病みつきになっている。
「もっと、入れて…! 子宮の…奥までっ! こじ開けて…んぁっ!」
胎児の重みで下がった子宮。
その入り口を貫かれた魔物は、奇声をあげブルッと身を震わせる。
人間相手なら流産を招きかねない危険な行為だが、
この魔物は全く気にしないどころか、自らそれを求めるのだ。
自分も初めの頃はちょっぴり胎児に配慮していたが、今はもう無遠慮で動くようになった。
「はひっ…! やっぱ、コレ最高っ! もっとズボズボしてっ!
ワタシの子宮でちんぽシゴいてぇっ!」
男性器の先端が胎児にぶつかるぐらいに深くて乱暴な動き。
魔物はそれを受けて嬌声をあげる。
そして自分の方も高まっていく快感に呼吸を激しくする。
ここは天井が解放されている露天風呂。
自分たちの交わる音は紅く染まり始めた空へ響き抜ける。
少しひんやりとした風はちょうどいい塩梅に頭を冷やし、快感をよりはっきり感じさせてくれる。
そんな風にやや叙情的な気分になりながら動いていると、魔物が突然ビクンと跳ねた。
「あ、マズっ! ちょっと、ちんぽ抜いてっ!」
今まで良い気分で動いていた自分。
そこで突然止めろと言われても従う気など起きない。
「いや、頼むからっ! もうすぐ―――うぐっ!」
魔物の詰まった声。
それと同時に膣内が妙にうねるようになり、穴から滴る液体が増えた。
どうしたんだ? もしかして産気づいた?
「その通りだよ…! もう産まれるから、一回抜いて…んぃっ!」
魔物の言葉が終わる前に自分はひときわ強く突く。
魔物はまたもやビクンと跳ねると、自分に文句を言った。
「おい、聞いてんのかよ!? 抜けって言ってるだろ!?」
嫌だね。子宮の中まで突っ込めって言ったのはおまえだろ。
最後まで責任持って満足させろ。
自分はそう言うと。魔物を壁に押し付けて強引にセックスを続ける。
魔物は頭を振り向かせ睨みつけてきたが、魔法を使いはしなかった。
一応どちらが上の立場かは理解しているようだ。
「ぐぅっ…分かったよ! さっさと射精しろっ!」
言われなくてもそうするって。今のおまえの中、スゴイことになってるんだからな…!
産気づき破水した魔物の膣内。それは今までと全く違っていた。
男性器を飲み込もうと中へうねっていた膣肉が胎児を吐き出そうと外へ動く。
それに逆らって奥へ押し込むと、肉の抵抗で凄まじい快感になるのだ。
「が…っ! ひっ…! はっ、早く出してっ…!
赤ちゃんが、出られないっ……!」
魔物はそう言って息み、腹に力を込めた。
元からの押し出そうとする動きに加え、膣がギュッと締めつける。
まるで肉を掘り進むような強い抵抗に耐えられず、自分は精液を解き放つ。
「うひっ、ビチビチいってるぅっ…! すごい勢い…!
赤ちゃん、精液まみれだよ…っ! ああっ、もう…ダメ! 抜いてぇっ!」
射精はしたが快感の余韻に浸るほどの余裕はない。
自分は精液の勢いが収まると、素早く腰を引いて男性器を抜いてやった。
するとビチャビチャッ! とバケツの底に穴を開けたように魔物の穴から体液が零れ落ちた。
そのほとんどは羊水だが、出したての精液も混ざって白いポイントになっている。
そして零れる液体が少なくなると、膣口を押し広げて胎児が頭を見せ始めた。
「ひっ、ひっ…! 赤ちゃん…! ワタシの赤ちゃんが、出てきてるぅっ!」
ムリムリッ…という擬音が似合いそうな魔物の出産。
息使いは苦しそうだが、それは過剰な快感によるものだ。
人間のように苦痛を感じているわけではないので、命の心配をする必要はない。
どちらかというと自分が心配すべきは魔物の肉体の方。
おーい、胎児ですごい広がってるけど大丈夫か?
ガバガバになったおまえとなんてセックスしたくないぞ?
度合いにもよるが、あまり緩くなるようだと交わりへの熱意は確実に下がるだろう。
「バカに…すんなよっ! 一人、産んだぐらいで、緩くなるかっ…!
また孕むぐらい…搾り取って……お、お、抜けるっ!
落ち…落ちっ! 落ちるぅっ! 赤ちゃん……まんこから落ちるぅっ!」
頭が抜けた胎児は母親の言葉を遮るようにズルッと産まれ落ちた。
露天風呂の床は硬く冷たい石造り。
人外だから平気だと思うが、一応床にぶつかる前に両手で受け止めてやる。
「んぁ…ありがと……」
胎児が落ちる際の快感で腰が抜けてしまった魔物。
彼女は竹の壁にもたれ、ボソッとした声で感謝を述べる。
そして自分は受け止めてやった子供を一瞥して一言。
一つ目かー、やっぱキモいわー。
手の上で仰向けになっている娘の顔には巨大な目玉が一つ。
さらに手の平に触れている背中からはウネウネとした柔らかい触手の感覚が。
魔物の子は魔物と聞かされていたが、現に見るとやっぱり引く。
そんな自分の態度に魔物はグルンと振り向いて、怒りを含んだ声を放った。
「なんだよっ! オマエの子供だろっ!?」
そう言われてもな。別に愛し合ってできたわけじゃないし。
食事の副産物か、それとも強姦の証か。どちらにせよロクな出生ではない。
こんなんじゃ可愛がるのは不可能だろう。
「なに言ってんだ! 可愛いだろ!? 可愛がれよっ!」
だから、できないっての。そんなに可愛いならおまえが存分に可愛がってやれよ。
自分はそう言って子供の腹から伸びているへその緒を引っ張り、胎盤を抜き取った。
そして湯船の水を手桶にすくい、体液で汚れた体をバシャバシャと洗ってやる。
この姿を可愛いとは思わないが、まだ赤ん坊だし汚れていたら可哀想ぐらいには思うのだ。
ほれ、綺麗にしてやったから後の面倒はおまえが見ろ。
自分はそう言って子供を差し出してやる。
魔物はジトーッとした目でこちらを見た後、はぁ…と深い溜息を吐いて受け取った。
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