処女懐胎(物理)
衣服は何のためにあるのか。
普通の人間なら外傷を負わないためとか、体温を逃がさないためとか答えるだろう。
ならば痛覚が鈍く、傷を負っても容易く治癒し、
体温が低下しようが不調にならない肉体を持っているなら、服は不要なのではないだろうか。
もちろんそういった機能的な面を抜きにしても、裸で人前に姿を現わすのは非常識だと知ってはいる。
しかしそれも人里離れたところで一人暮らしをしていれば全く問題にならない。
私は人間を辞めて僻地に住むようになって以来、服を着ることを止めてしまった。
魔法使いの嗜みとして魔力製のローブは纏っているが、肌を隠すにはあまり役立たない。
といっても別に私は露出趣味があるわけではないが。
家の中で静かに過ごしても服は汚れ、洗濯の必要が出てくる。
何度もイスに座れば尻の部分が薄くなり、歩いていれば靴底だってすり減ってしまう。
一人で暮らしている私にとって、着衣することは無駄な浪費としか感じられないのだ。
雨が降ってきそうな曇り空の下、私は素足で小さな庭を歩く。
防草の魔法がかかったペンペン草一本生えていない土。
その上に薄い足跡を刻みながら、庭の中央に設置した石板へ向かう。
幾多の図形が重なり、複雑な文様が多数刻まれた、硬いベッドのように大きい石板。
これは召喚用の魔法陣。私はこの石板を使い研究に必要な物を呼び出す。
自身がアンデッドである事から分かるように、私の研究は生死に関するものが主だ。
実験には新鮮な死体がどうしても必要になる。
しかし薬品の類はともかく、新鮮な死体など金を積んでも買えるものではないだろう。
生きている人間を殺せば無料で手に入るが、流石にそこまではやりたくない。
なので私はこの石板を使い“世界のどこか”から出来たての死体を召喚する。
遺族の方は突然死体が消えて驚くかもしれないが、その程度の迷惑は気にしない。
自分で言うのもなんだが、私はマッドネクロマンサーなのだ。
石板と対になる魔道書をかざし呪文を一言。
刻まれた魔法陣が紫色の光を放ち、起動したことを知らせる。
いつものように召喚の呪文を唱えると、周囲に紫色の光が満ちた。
石板を直視出来ないほどの光。
たった今世界のどこかから死んだ直後の女性が引き寄せられている。
そして紫の光が収まった後には、石板に横たわる女性の死体が――――うっ。
今回召喚された死体。私はそれを目にした途端顔をしかめてしまった。
何故ならその死体が酷く痛めつけられていたからだ。
体のそこら中に見受けられるアザと傷。それは明らかに鈍器や刃物でついたもの。
両手足は変な方向へ曲がっていて、右足など皮膚を突き破って骨が露出している。
極めつけは首。ねじ切られたような醜い傷跡になっていて、頭部はどこにもない。
何があったのかは分からないが、この女性は明らかに玩ばれ嬲り殺されていた。
様々な死体を見てきた私だが、これほど惨い死に方をしたのは初めて見る。
(ずいぶん大変な目にあったのね……。いいわ、安らかに眠らせてあげる)
こんな悲惨な死に方をした女性を実験材料につかうのは私でも気が引ける。
……ついでに言うと頭が無いと使い物にならないし。
光が消えてただの板に戻った石板。
そこに転がっている無残な死体に私は手を触れる。灰一つ残らないよう焼却するためだ。
しかしまだぬくもりの残っている体に触れた時、私は生者の魔力を感じた。
(え? この人生きて……るはずないわよね)
胴と頭が別れて生きている人間などいるはずがない。
だが、ネクロマンサーである私が生者の魔力と死者の魔力を間違うはずもない。
私は呪文を唱えて魔力を分析する。すると生者の魔力を発している部位が分かった。
(腹だけ生きている? そんなわけ―――って、まさか!)
一つの可能性に思い当たり、死体の腹部を細かく解析する。
すると予想通り、生者の魔力は女性の子宮内部から発されていた。
(外見じゃ気付かなかったけど、この人妊娠してたんだ……。
まずいわね、このままだと……)
死体は刻一刻と冷えていくし、そもそも胎児に血液を送れない。
早く手を打たないと、胎児も母体と運命を共にしてしまうだろう。
(厄介ね……。せめて頭が残っていれば良かったのに)
彼女の頭部が付いていれば、すぐさまゾンビにして胎児を救うことができる。
肺に穴が空いてようが、内臓が破裂していようが、アンデッドになれば関係ないのだから。
しかし困ったことにこの死体には頭が無い。
ゾンビになれば肉体の損傷がある程度修復されるとはいえ、流石に頭は生えてこない。
ゴーストになれば完全に綺麗な体になるが、頭が無いと魂が定まらないのでそれも不可能。
胎児をアンデッド化するという手も、肉片サイズではまだ使えない。
(何かないの? 死ぬのを指くわえて見ているだけなんて―――)
私は普段止まっている心臓を鼓動させ、魔法の知識が収まった脳に血を巡らせる。
十数年ぶりに打つ脈拍。ドックンドックンという心臓の音に脳が活性化していく。
そして血管内を流れる液体で刺激を受けた脳は、一つの解決法を導き出した。
(今できるのはこれしかない……。この人には悪いけど、子供が生きられるなら良いわよね)
短距離の召喚魔法を使い、研究室から愛用のナイフを呼び出す。
すると一瞬でパッと右手にナイフが現れた。
私はそれを逆手に握り下腹部―――自分の子宮周辺にサクッと突き刺した。
この体は死体だが、心臓が動いている今は派手に出血する。
蒼白な肌を赤い血がサァッ…と染めていく。
生者なら痛みで呻くだろうが、私の痛覚は鈍いし鎮痛の魔法もかけてあるので何も感じない。
サク…サク…サク…と円を描くように刃を進め、そのままグルッと一周。
最後に刃を少し持ち上げて隙間を作ると、
左手の指を突っ込んで切れてない肉ごとベリッと引き剥がす。
すると赤い血に塗れた私の子宮が露出した。一度も男性を受け入れたことのない肉の袋。
私はそこにも大きい切れ込みを入れ、子宮の中が外気に触れるようにする。
これで私の方は準備完了だ。
次に私は転がっている死体の方にも同じことをして“フタ”を取った。
“フタ”を取られて真っ赤に染まっている彼女の子宮。
そこに刃物を近づけ中身を傷付けないよう慎重に切り開く。
サクサク、クパッ。そうやって開いた子宮の中には指先程度の胎児。
私はそれを取り上げて、そっと自分の子宮に移す。
そして切れ込みを指で押さえ、ボソッと呟き傷を塞いだ。
フゥ……これで一安心。私の中にいれば、私の魔力で生命が維持される。
最後の仕上げとして外しておいた“フタ”を拾い、腹にペタッとくっ付けた。
後は子宮と同じように塞げば、傷跡一つ無い綺麗な体に元通りだ。
血で汚れているから水浴びする必要はあるけど。
「この子はちゃんと責任を持って私が産んであげるわ。
だから心配しないで休みなさい」
私は物言わぬ死体にそう告げて、今度こそ完全に焼却した。
『借り腹とはいえ、私は胎児を身籠った。
よって本日より出産までの経過を記すことにする。
まず、胎児救出後の水浴びで問題点を発見。
川の水はかなり温度が低く、胎児に悪影響を与えかねない。
解決策として、今まで不使用だった浴室を開くこととした』
『身籠ってより三日が経過。特に身体に異常は感じられず。
どうやら胎児は私の子宮に馴染めたらしい。また、空腹になる速度が明らかに上がった。
胎児のために魔力を余分に消費しているからだろうか。
精補給薬の飲用回数を一日三回から五回に増やすことにした』
『目に見えて腹が膨らみだした。胎児は順調に成長している模様。
なお、子宮の中を改めて調べたところ、人間の魔力が感じられた。
現時点で魔物化していない以上、胎児は男性と考えられる。
……出産の時が非常に楽しみになった』
『最近朝晩の気温が下がり始めた。
今は問題ないが冬季のことも考え、温熱の石板を屋内に設置した。
衣服を着用する案は、突発的に起こる自慰の衝動に不便なので却下する』
『自慰の最中、乳房を握りしめたら母乳が噴き出た。
私の体はもう完全に母親になっているようだ。
自分で舐めてみた母乳はかなり甘く、子供が好みそうな味だった』
『朝目覚めてより腹が疼く。どうやら出産の時が間近に迫っているらしい。
出産時の体液流出を考慮し、浴室にて記録を「あっ…! あ、あ…破れ、たっ…!」
魔力製のローブも外し、全裸で筆を執っていた私。
その股間から突如薄く黄色がかった液体が零れ落ちた。
私は記録している場合ではないと判断し、筆と紙を放り投げ、石の床に四つん這いになる。
(破水したっ…! もうすぐ産まれるんだわ! 私の赤ちゃんがっ!)
床に接触しそうなほどに膨らんでいる腹。私はそこに力を込めて息む。
動かそうと意識していないのに、勝手に心臓も脈打ち始め血液を巡らせた。
子宮の壁が収縮し、胎児を押し出そうと部屋を狭める。
しかし部屋の出口でつっかえてなかなか出てこない。
(くっ…! 子宮口、硬くて出られないのっ? もっと、息まないとっ…!)
私は歯を食いしばって、さらに力を込める。
するとメリッ…という感触がして子宮口が開き、それと共に想像を絶する快感が襲ってきた。
「がっ……! 子宮口…通っ、ひぎっ!」
メチメチと膣内を押し広げて胎児の頭部が進んでいく。
その窮屈さは産道が裂けてしまうのではないかと思えるほどだ。
しかし私の体は死体であり魔物でもある。巨大な物が膣を通っても快感しか感じない。
(通ってる…! 私の赤ちゃんがまんこ広げて通ってるっ!)
私は駄犬のように舌を突き出して、ハッハッと快感に喘ぐ。
それは肉体の快感によるものだけではない。
この出産は精神的な快感も肉体に劣らないぐらい強い。
「早く…出てっ! 私の、赤ちゃん…! 私のっ、旦那さまぁっ!」
今私が産んでいるのは男の子。
それもただの人間ではなく、一年近く私の魔力を浴びてインキュバス化しているのだ。
自らの夫とするのにこれほど好条件の相手がいるだろうか?
息子であり夫でもある男を産み落とす。こんな経験をできる魔物などそうはいない。
肉体と精神の両方を快楽責めにされ、涙がポタポタと零れ落ちる。
(あぁっ…! 膜が破れるっ! 処女、奪われちゃうっ!)
普通なら最初の性交時に失われる処女膜。
しかし私は借り腹で妊娠したので、処女のままだったのだ。
出産で処女喪失というのは不思議な感覚だが、夫に奪ってもらえると考えればそれも喜ばしい。
「ん…ぐっ! あ、あ、出て…きたっ!」
胎児が出るのに邪魔になっていた処女膜。
それが失われると胎児はググッと進み、ついに頭が外へ出た。
(頭が、抜け…てっ! あ、出る…っ! 赤ちゃん、出ちゃうっ!)
ブチュッという液体のはじける音。それは胎児が羊水と共に排出された音だった。
ズルッと落ちた胴体の快感に腰が抜けそうになったが、私はそれをこらえる。
そして次の瞬間、家の外まで響くような泣き声が耳を襲った。
(産まれた……のね。出てきたばっかなのに、なんて泣き声……)
私は四つ足のまま後ろを向き、羊水で濡れている子供を胸に抱える。
赤子の泣き止ませ方など知らないが、とりあえず優しく揺さぶってみる。
「ほらほら、お母さんですよ……」
語りかけながら、赤子を揺さぶる。
それで正解だったのか、泣き声の勢いは弱まっていき、やがて静かに眠り始めた。
落ち着いてくれて一安心した私は胸から少し離して全身を見る。
うっすらと生えた頭髪。丸っこくてプニプニしている手足。
へそではないが、へそのような窪みのある腹。
そして何より大事な股間の男性器。
……うん、何もおかしい所はない。
この子は私の魔力で生きていたので、へその緒は付いていない。
まるで私たちに血の繋がりが無いことを示しているように。
だが十月十日腹の中で育てたのは私で、この世に産み落したのも私だ。
子供に対する愛と夫に対する愛。
それらの混ざり合った、言葉で形容できない愛情が胸の底から湧いてくる。
“んー……”という赤子の声に、私は微笑みを浮かべた。
『子育ては大変だ』『生半可な気持ちで子供なんて持つものじゃない』
そう話には聞いていたが、実際やってみると想像以上に大変だった。
赤子の生活サイクルは普通の人間とは全く違う。
空腹になれば即座に泣き喚き、粗相をすればこれまた泣き喚く。
朝も昼も夜も関係無い。何かあればとにかく騒ぐのだ。
もっとも私は魔物なので、人間の母親ほどには負担はかかっていない。
寝不足やら何やらで体調を崩すこともなく、精神が不安定になることもない。
大変は大変だが、この子に対する愛情が全てをカバーする。
残念なのは研究に割く時間が無くなってしまったことだが、
それも十年かそこらで再開する余裕が生まれるだろう。
この先、百年千年生きることを考えれば“たったの十年”。その程度は我慢。
朝の十時頃という朝食にも昼食にも微妙な時間。
泣き出した子供に、いつものように母乳を与える。
歯の無い口で乳首にしゃぶりつき、チューチュー吸い取る赤子。
この子にそんな意図は無いのだろうが、私は性的な快感を覚え毎回股間に手を伸ばしてしまう。
左腕に赤子を抱え母乳を与える私の上半身は母親。
右手で股間の女性器を弄り回す私の下半身は妻。
授乳と自慰を同時進行しながら私は考える。
(……この子になんて呼ばせようかしら)
母親を前面に出しお母さんと呼ばせるか、妻を前面に出し名前で呼ばせるか。
共にいることは変わらないが、呼称は私たちの関係にかなりの影響を与えるだろう。
ただ、母親を強調しすぎて性の対象と認識されなくなるのは困るし、
妻を強調しすぎて“自分は母無しなんだ”と心に重いものを背負わせたくもない。
(上手くバランスを取らないと……。まあ、まだ時間はあるけど)
私はひとまず問題を棚上げし、強まってきた快楽に意識を移した。
私の子供は本当にいい子だった。
変にワガママだったり、怒りっぽかったりすることはなく、
思想が偏っていたり、私に反抗したりすることもなかった。
それでも魔物から人間は生まれない事を知った時には少し塞ぎこみもし、
“自分を生んだのは誰?”と訊いてきたりもした。
幼い子に“実母は惨たらしく殺された”なんて言いたくはなかったので、
私はその質問に対し『あなたは私が産んだのよ』と答えてはぐらかした。
本の知識と真っ向から反する返答にあの子は不審がったけど、
『大きくなったら教えてあげる』と付け加えたら、それ以上質問はしなくなった。
人間は性に興味を持つ歳と性行為が可能になる歳にある程度の開きがある。
あの子が私の裸に興味を示し始めると、私は魔力のローブを少し伸ばし前面も覆えるようにした。
これはあの子が私の裸に慣れ、欲情できなくなってしまう事を防ぐためだ。
ローブの下は今も全裸だが、普通に歩く分には裾から足先が覗く程度。
もちろん物を取ろうと手を伸ばせば、前がはだけて素肌は見える。
最近のあの子は意識していないフリをして、私の体をチラ見している。
もうそろそろ……お母さんを辞めてもいいかな?
あの子の十四歳の誕生日。初めて出会った時と同じ、雨の降りそうな曇り空。
『本当のお母さんの事を教えてあげる』と私は告げて小さい庭に連れだした。
十数年前から変わらず不毛の地である庭。
その中心にある石板を背にして私は子供と向かい合う。
他人に“歳の近い弟です”と紹介できそうなぐらい育った子は神妙な顔。
その顔を見つめながら私は口を開く。
「最初に言っておくけど……落ち着いて聞きなさい。
あなたの“本当のお母さん”はこの世にいない。
ずっと昔に死んだの。あなたを遺してね」
はっきり“死んだ”と告げられて私の子は視線を落とすが、取り乱しはしなかった。
この子だって実験の手伝いで召喚の石板を使ったことはあるのだ。
ここに連れてこられた時点である程度は予想していたのだろう。
「あなたも知ってるように、この石板は世界中から新鮮な死体を集めてくる。
十年前、私は実験に使うために一つの死体を召喚した。
でも、その死体はご……損傷が酷すぎて実験にはとても使えない物だった。
それで処分しようとしたのだけど、私はその直前に気付いたの。
とても小さい胎児がまだ腹の中で生きているって」
不思議なことだ。ずいぶん昔のことなのに、口に出して語ると鮮明に思い出せる。
「もちろん私はその胎児を助けようとしたわ。
でも母体をアンデッドにしようにも、損傷の度合いが酷くてそれはできなかった。
だから私は最終手段を取ったの。“胎児を取り出して自分の子宮で育てる”っていうね」
私はバサッとローブの前をはだけて素肌を晒し、死体の白さをした腹に手を触れた。
「あなたは“ここ”で育ったの。確かに私とあなたは血が繋がっていない。
でも一年近くこの中にいて、私の股から外の世界へ出てきたのよ」
ただのはぐらかしと考えていたであろう『私が産んだ』という言葉。
それが事実だったと知った私の子は複雑な顔になる。
育ての親だと思っていたら、実際に産みの親でもあって、しかし血の繋がった親ではない。
考えてみれば、何ともややこしい親子関係だ。
私の子はしばしの間考え込んでいたが、やがて吹っ切った顔になると私に感謝した。
“救ってくれて、産んでくれてありがとう“と。
そして何故今になって明かしたのかと訊いてきた。
「あなたももういい歳だから、本当の事を教えようと思ったの。
それと―――あなたのお母さんを辞めたくなってね」
母親を辞める。私の子はその言葉に“えっ!?”と驚き、泣きそうな顔になった。
もしかして捨てられると思ったのかもしれない。
だが私にそんな気は毛頭ない。ここまで育てておいて放り出すなんてありえない。
私は子供が安心するよう微笑みを浮かべ“違うわよ”と手を横に振った。
そして魔力製のローブを完全に消し去る。
浴室ぐらいでしかならない全裸の姿。その姿で私は言葉を紡いだ。
「あなたを孕んで3ヶ月くらいしたころかしらね。
胎児が順調に育っているかどうか、一度詳しく調べてみたのよ。
そしてその結果を知った私はとても嬉しくなって、出産の時を待ち望むようになった。
どうしてか分かる? それはね――――お腹の子が男だって分かったからよ」
そう言ってクスッと私は笑う。
「一年近く子宮の中で過ごせば私の魔力がたっぷり染みつく。
そうなれば男の子は産まれた時からインキュバスよ。
夫にするとしたら、これほど適した相手はいないと思わない?」
魔物の基本的な生態はこの子だって知っている。
どうやら私の目的を察したようで、幼さの残る顔を赤くした。
「私はあなたが男だから助けたわけじゃない。
最初から女だと知っていてもそうしたわ。でも……あえて言わせてもらうわね」
一度言葉を切って、私は口にする。
「私はあなたを夫にするために産んだの。母親なんてそのオマケ。
本音を言うと親なんて辞めたいのよ。これからは夫婦として過ごしましょう?」
私たちの関係を変えるための決定的なセリフ。
それを口にして一歩、二歩と私は前に進み子供に近づく。
そして両頬を手で挟み、息の届く至近距離で顔を合わせた。
「分かっているわ。“お母さんとセックスするのはいけない事”なんて考えてるのよね?
でも私はちゃんと知っているのよ。前から気にしないフリして、私の体を見ていたのを」
本人は気付かれていないと思っていたのか、恥ずかしげに視線を這わせる。
私はその様を微笑ましく感じ、目を細めて言葉を続けた。
「それは恥ずかしいことじゃないし、悪いことでもないわ。
あなたは私の魔力を浴びたインキュバスなんだもの。
私の裸が気になって、セックスしたくなるのは当たり前のことよ」
“母親と息子なのだからダメ”という一般的な倫理観。
それを“魔物とインキュバスなのだから当然”という認識で上書きする。
「ねえ、良いでしょう? 私の旦那さまになってよインキュバスさん。
そうしたら遠慮なく私の体を見させてあげる。
おっぱいも、おしりも、まんこの中だって好きなだけ見ていいのよ?」
私は右手を頬から外し、この子の股間にそっと触れさせる。
そこは私の思った通り硬く膨れ上がって、交わりを望んでいることを確かに知らせてくれた。
「私とセックスしたいんでしょう? 我慢なんてしないで。
夫婦になるのに難しい事なんてない。ただ頷いてくれればいいのよ。
ねえ、私の旦那さまになって気持ち良いことしましょう?」
普通に人間社会で育ってきたなら、これでもダメだったかもしれない。
だがこの子の知識は専ら本から得たもので、実生活は私と二人きりだった。
薄っぺらい紙から教えられただけの“母子姦の禁忌”。
そんなもの、私たちの愛と魔力の繋がりに比べれば濁流を目前にした砂山だ。
私の子はコックリと頷いて了承すると、背中に手を回して抱きついてきた。
私は股間にやっていた手を頭の方へ戻し、よしよし…と髪を優しくなでる。
「うん、ありがとう……嬉しいわ旦那さま。じゃあ早速だけど、セックスしましょう?」
私は夫が回した手を解くとトットッと後ろへ下がり、尻餅をつくようにペタッと石板の上に座る。
「さ、服を脱いで。私たちの出会いの場所で結ばれましょう?」
初めて出会った場所で初めての交わり。なんてロマンチックだろう。
しかし私の旦那さまは“ここで!?”と言い、脱ぐのを渋る。
別に私は覗かれても気にしないが夫には厳しいのだろうか。
「別に問題なんてないでしょ? この辺りには私たちの他には誰も住んでないんだから。
どんなことをしたって、見られたり聞かれたりしないわ」
やるやらないで無駄な議論などしたくない。
私は尻餅をついた姿勢のまま膝を広げ夫に女性器を見せつける。
「ほら、私のまんこグチャグチャに濡れてるでしょ?
今からベッドに行くなんて、とても我慢できないの。
だから……ね。ここでセックスしましょう、旦那さま」
私は左手の指を使い、膣内まで見えるように開く。
すると夫の視線が中の肉に突き刺さるのを感じた。
膣内を目で犯されたことにゾクリとした快感を感じ、私は開いた穴から余計に粘液を滴らせる。
しかし愛しの旦那様は勃起こそしているものの、見るばかりでいっこうにアクションを起こさない。
「見ていても気持ち良くはなれないわよ。いい加減あなたも裸になりなさい。
それとも……あなたはお母さんの言うことが聞けないの?」
少し声を低くして威圧的に私は言った。すると“ごめんなさい”と謝って夫は服を脱ぎ出す。
幼い頃から変わらないその反応に、私は苦笑いを浮かべてしまった。
夫はめったに反抗しない良い子だったが、それでも稀に対立することはあった。
たいていの場合正しいのは私の方なので、そういう時は親の立場で強引に納得させた。
そして夫婦になったというのに私は“お母さんの力”で言うことを聞かせている。
(……いきなり切り替えるのがまずかったのかしら。
時間をかけて母親から妻にシフトしていった方がやりやすい?)
誕生日という記念的な日。
私はその日を境として全てを明かし、関係をカチッと切り替えるつもりだったのだが、
その目論見は上手くいかなかったようだ。
まあいい。それならばゆっくりと関係を変えていこう。
私の旦那さまは成長期なので体はまだまだ発展途上だ。
しかしインキュバスだけあって、男性器だけは二十年以上先取りしたかのように立派。
しっかり皮もむけて、赤黒い先端から汁をこぼしている。
私は石板の上に身を横たえ、その先端が女性器へ近づくのをじっと見る。
(十年…短いようで長かったわ。ああ、やっとこの子とセックスできるのね。
これだけ待ったんだから、しっかり種付けしてもらわないと……)
息子にして夫である男性との結合。
待ち望んだその時を前にして、私の心臓がまたもや動き始めた。
だが愛しの旦那さまはそんなこと知る故もない。
私に覆いかぶさるように体を傾け男性器を挿入してきた。
(あぁっ、入ってるっ! 旦那さまのちんぽ入ってるぅっ!)
ズブリと一気に膣内に差し込まれた男性器。
その太さと硬さに私は目を剥き、ビクン! と背を反らせてしまった。
今の動作で私が“感じてしまった”ことはこの子にも伝わっただろう。
だから私は素直に口に出す。
「おっきいわ…! あなたのちんぽ…おっきくて、良いっ…!
私はどう? 十年ぶりに入ったお母さんのまんこは…!」
十年ぶりといっても前回は性交したわけではない。出産の過程で入って出ただけだ。
しかしこう言った方が燃える気がするので私はそう言った。
すると旦那さまは蚊の鳴くような声で“気持ち良いです…“と答えてくれた。
「良かったわ、お母さんのまんこ気持ち良いのね。じゃあ動いてもっと気持ち良くなりましょう?
お母さんはあなたのちんぽをギュッて締めてあげるから、
あなたも負けないように射精して私を孕ませるのよ。良いわね?」
仰向けに寝転がっている私は腰が動かせない。この子に頑張ってもらうしかないのだ。
だからその分キツク締めて気持ち良くしてあげよう。
私は意識して膣に力を込め、体内の陰茎に圧力を加える。
私の夫は苦しそうに息を漏らしたが、グッと歯を噛んで腰を動かし始めた。
私の肉体は十代中盤の外見をしている。
その年頃の人間はまだ成長途上で、胸の大きさは個人差が非常に大きい。
人間時代から“並みより上”程度にあった私の乳房は、妊娠を経てさらに膨らんだ。
産んだ後も萎みはせず、巨乳というほどではないが、腰の動きに合わせて揺れるぐらいには大きい。
自分の体の下でフルフルと歪み揺れる二つの膨らみ。
それに惹かれたのか、夫は石板に当てていた両手を動かして私の胸をわしづかみにした。
そして柔らかい粘土を弄る様にフニフニと握り揉みしだく。
「あはっ! そんな、搾っちゃってっ、おっぱい飲みたいのかしらっ…!?」
そういえばこの子はなかなか乳離れできなかった。
間近で私の乳房を見たことで、乳児時代の感覚が甦ったのかもしれない。
「残念だけどっ…! もう、私も出せないわよっ!
飲みたいなら、私を妊娠させてごらんなさい!
そうしたら、出る限り、飲ませてあげるっ…!」
昔のように母乳を飲みたいなら孕ませろ。
その言葉に発奮されたのか、マザコン(確定)である私の旦那さまは一気に腰を加速した。
(ぐっ……早いっ! まさか、そんなにおっぱい飲みたかったなんて…!
これじゃあ、母親を辞めるには相当かかりそうねっ!)
私の子は夫になることを了承し、今現在交わっているが、
心の中ではまだまだ“お母さん”なのだろう。
お母さんのおっぱいを飲みたいから、必死に私を孕ませようとしているのだ。
そしてコツコツと何度も子宮口にぶつかる男性器の先端。
それは私を孕ませたいと言っているのと同時に、
私の子宮に帰りたいと言っているようにも感じられた。
(まったく、甘えんぼの旦那さまねっ!
おっぱいだけじゃなくて、子宮にまで戻りたいなんて!)
もし私が見上げるような大巨人だったら全身を入れさせてあげただろうが、
この体ではどうやっても不可能だ。体の一部を受け入れるのが精々。
でもこの子が喜ぶならそうしてあげよう。
「もうすぐ、射精するわよね…!
お母さんが…子宮口、開けてあげるから、その中で出していいわよ…!
ちんぽと精液で、ただいま…しましょうね……っ!」
そう言って出産の時と同じように私は息む。
すると行く手をふさいでいた壁がグパッ…と開き、剛直が子宮内まで侵入した。
直接男性器に突かれた子宮と、膣以上の強さで噛みついた子宮口。
その快感に私と夫はそろって絶頂に達した。
(くうっ、出てるっ! この量…まるで噴水だわっ!
妊娠……するっ! 今度こそ、お母さんと繋がりましょうねっ!)
子宮にドプドプと溜まっていく精液。
心の中でそれに“お帰りなさい”と告げた瞬間、
私と夫が混ざった新たな命(アンデッドだけど)が腹に宿ったことを確かに感じた。
私もこの子も交わるのは初めて。達した後はしばらく抱き合って余韻に浸った。
そして旦那さまがのそっ…と体を起こそうとした時、ポツンと顔に冷たい物が落ちた。
そのポツンは鳴る間隔が短くなっていき、やがてポツポツという音へ変わっていく。
「……雨が降ってきたわね。家に入りましょう?
今度はベッドの上で相手してあげるから」
雲の様子と降り具合からして、この雨は強く長く降るだろう。
交わりで汚れた石板も全て洗い流してくれるはずだ。
夫の下から抜け出した私は『よいしょ』と立ち上がり、再びフードを纏う。
その長さは一人暮らししていた時と同じ、常に前面を露出した物だ。
下着だけを身につけ、服を抱えた旦那さまは“何で短くするの?”と訊いてきた。
私は胎内から零れてくる精液を手に受けながらそれに答える。
「私の体、これならいつでも見られるでしょう?」
もう結ばれた以上、裸を隠す必要はない。
これからはこの子がいつでも欲情できるよう、肌を見せながら過ごすのだ。
私はそう考えながら、手に受けた精液をすすった。
番のいるインキュバスはそうでないインキュバスよりも性欲旺盛だ。
そして10代中盤の男子は、人間の中で最も性欲旺盛な時期。
さらに私は露出の多いローブだけで一つ屋根の下生活している。
これらの条件が合わさった結果、私の夫はいつでもどこでも私の体を求めるようになった。
一度の回数はそうでもないが、とにかく頻度が多い。
なにしろ寝る時を除き、2〜3時間に一度は私と交わるのだから。
もちろんそれが私にとって負担であるわけもなく、その全てにおいて喜んで相手を務めた。
研究に割ける時間はまたもや減ってしまったが、夫との交わり以上に優先すべきことなどない。
私の腹が膨れ、母乳が噴き出すようになるとその頻度はさらに上がり、
研究室の机にうっすらとホコリが積もるほどになってしまった。
ザアザアと雨が地上を打つ音。
それをBGMに聞きながら寝室の中、私は夫の上で腰を動かす。
大きくなった腹は微かに揺れるが、胸はそうならない。
何故かというと右乳房は口で吸われ、左乳房は右手に握られているから。
(この子ったら…ホント、おっぱい飲むのが上手くなったわねっ……!
それに、母乳出すだけで気持ち良くさせるなんてっ!)
一年前から比べて結構背丈が伸びたのに、この子の甘えぶりは全く変わっていない。
母乳が出るようになると、それこそ赤子のようにむしゃぶりつくようになった。
最初の頃は乳首への刺激で快感を感じていた私だが、
今となってはただ母乳を溢れさせるだけでも快感となる体になってしまったのだ。
「んっ……! お母さんのおっぱい…もっと、飲んでちょうだい…!
そう、強く搾って……あ、出るっ!」
握り潰さんとばかりに強く握られた左乳房。
ピンと立った乳首の先端からビュッと白いミルクが飛び散り、青いシーツを汚す。
男性の射精ほどの快楽ではないだろうが、勢いのある射乳で私は軽く達してしまう。
その身の強張りが膣にも伝わり、男性器をより強く締めつけた。
すると夫は快楽に震える声で“もう出そう”と言った。
「ん、良いわよっ…! 今度は私たちに飲ませてちょうだい!
あなたの精液ミルク、私と赤ちゃんにっ……!」
旦那さまはギュッと私を抱きしめて胸に顔を埋める。
そしてブルブルッと身を震わせながら、私の膣内に射精した。
(ああ、今日もたっぷりっ! 素敵よ旦那さまっ!
赤ちゃんもたくさん魔力を吸って――――あっ!)
突如私を襲った懐かしい快感。腹の中が締め付けられるようなこの感覚。
これはアレだ―――と思った途端、夫との結合部から液体が漏れだした。
私は抱きしめられた腕を解いて素早く身を離し、ベッドに転がる。
精液混じりの羊水をシーツに染み込ませながら私は言った
「産まれるわよ、旦那さまっ……! 私たちの、子供っ…!」
産気づいたと聞かされた夫は、どうしたものかと困ったようにあたふた。
私は『落ち着きなさい』と言って聞かせ、股間を見せつけるように股を広げる。
「あなたが心配することなんて無いわ。それより、見ておきなさい。
あなたもこうやって……産まれたんだからっ…!」
そう言って私は子宮に意識を集中し力を込めた。
子宮口を押し広げ、強引に通ろうする胎児の頭。
それはやはり強烈な快感だったが、二度目の出産とあれば私の側も楽しめる。
「今…ね、赤ちゃんが子宮から顔を出したわ……。
見えて…る? まんこ、ギチギチに伸びてるでしょ……っ!」
胎児が通るにあたり、産道としてぽっかりと拡張された私の膣。
興奮して興味深そうに観察するこの子の瞳には、
膣奥から押し出される胎児の頭頂部が映っていることだろう。
「ぐぅっ! 進んでる…わっ! あなたの、赤ちゃんが…まんこ通ってるっ!」
ズッ…ズッ…と出口へ向けて移動する胎児。
男性器と違い、激しい摩擦による快感は生み出さないが、
頭部や胴体による膣拡張の快感は決してそれに劣らない。
「はひ…っ、あたま…が、でるっ! お、お…お……、抜け…るぅっ!」
膣口が限界まで引き伸ばされ、私の娘がついに顔を出す。
「もう……最後よっ! あなたの子が、産まれ落ちるわっ…!
よく…見てっ! お母さんが…胎児をひり出すのっ…、見てぇっ!」
力み過ぎたあまり、触れてさえいない両乳首から母乳が噴き出す。
私は顔にかかったそれを熱いと感じながら、胎児を吐き出した。
精液やら羊水やら汗やらでベチャベチャに濡れたシーツ。
肌触りが悪いことこの上ないが、すぐに体を動かせるほどの気力が無い。
快感にポーッとした頭のまま、私はベッドに横たわる。
別に産んだ子の様子を確認しようとは思わない。
死体が産むのは死体。人間の赤子のように容体を気にする必要などないのだ。
(そういえばこっちの子はへその緒があるんだっけ。
後で切らないと――――あっ……)
ちょうど今、思い当ったへその緒。
私の夫はそれを掴み、用済みの胎盤を引きずり出した。
そして娘の両脇を抱えて、その顔をジッと見る。
その目つきは本当にしっかりとしたもので、さっきまで胸にしゃぶりついていた甘えん坊とは思えなかった。
(父親の自覚でも出てきた? だとしたら母親離れに一歩前進かしらね)
もちろんマザコンの旦那さまが完全に脱却するのはまだまだ先だろう。
だがこれは良い傾向だ…と私は考えながら、赤子を抱える夫の姿をしばし眺めた。
普通の人間なら外傷を負わないためとか、体温を逃がさないためとか答えるだろう。
ならば痛覚が鈍く、傷を負っても容易く治癒し、
体温が低下しようが不調にならない肉体を持っているなら、服は不要なのではないだろうか。
もちろんそういった機能的な面を抜きにしても、裸で人前に姿を現わすのは非常識だと知ってはいる。
しかしそれも人里離れたところで一人暮らしをしていれば全く問題にならない。
私は人間を辞めて僻地に住むようになって以来、服を着ることを止めてしまった。
魔法使いの嗜みとして魔力製のローブは纏っているが、肌を隠すにはあまり役立たない。
といっても別に私は露出趣味があるわけではないが。
家の中で静かに過ごしても服は汚れ、洗濯の必要が出てくる。
何度もイスに座れば尻の部分が薄くなり、歩いていれば靴底だってすり減ってしまう。
一人で暮らしている私にとって、着衣することは無駄な浪費としか感じられないのだ。
雨が降ってきそうな曇り空の下、私は素足で小さな庭を歩く。
防草の魔法がかかったペンペン草一本生えていない土。
その上に薄い足跡を刻みながら、庭の中央に設置した石板へ向かう。
幾多の図形が重なり、複雑な文様が多数刻まれた、硬いベッドのように大きい石板。
これは召喚用の魔法陣。私はこの石板を使い研究に必要な物を呼び出す。
自身がアンデッドである事から分かるように、私の研究は生死に関するものが主だ。
実験には新鮮な死体がどうしても必要になる。
しかし薬品の類はともかく、新鮮な死体など金を積んでも買えるものではないだろう。
生きている人間を殺せば無料で手に入るが、流石にそこまではやりたくない。
なので私はこの石板を使い“世界のどこか”から出来たての死体を召喚する。
遺族の方は突然死体が消えて驚くかもしれないが、その程度の迷惑は気にしない。
自分で言うのもなんだが、私はマッドネクロマンサーなのだ。
石板と対になる魔道書をかざし呪文を一言。
刻まれた魔法陣が紫色の光を放ち、起動したことを知らせる。
いつものように召喚の呪文を唱えると、周囲に紫色の光が満ちた。
石板を直視出来ないほどの光。
たった今世界のどこかから死んだ直後の女性が引き寄せられている。
そして紫の光が収まった後には、石板に横たわる女性の死体が――――うっ。
今回召喚された死体。私はそれを目にした途端顔をしかめてしまった。
何故ならその死体が酷く痛めつけられていたからだ。
体のそこら中に見受けられるアザと傷。それは明らかに鈍器や刃物でついたもの。
両手足は変な方向へ曲がっていて、右足など皮膚を突き破って骨が露出している。
極めつけは首。ねじ切られたような醜い傷跡になっていて、頭部はどこにもない。
何があったのかは分からないが、この女性は明らかに玩ばれ嬲り殺されていた。
様々な死体を見てきた私だが、これほど惨い死に方をしたのは初めて見る。
(ずいぶん大変な目にあったのね……。いいわ、安らかに眠らせてあげる)
こんな悲惨な死に方をした女性を実験材料につかうのは私でも気が引ける。
……ついでに言うと頭が無いと使い物にならないし。
光が消えてただの板に戻った石板。
そこに転がっている無残な死体に私は手を触れる。灰一つ残らないよう焼却するためだ。
しかしまだぬくもりの残っている体に触れた時、私は生者の魔力を感じた。
(え? この人生きて……るはずないわよね)
胴と頭が別れて生きている人間などいるはずがない。
だが、ネクロマンサーである私が生者の魔力と死者の魔力を間違うはずもない。
私は呪文を唱えて魔力を分析する。すると生者の魔力を発している部位が分かった。
(腹だけ生きている? そんなわけ―――って、まさか!)
一つの可能性に思い当たり、死体の腹部を細かく解析する。
すると予想通り、生者の魔力は女性の子宮内部から発されていた。
(外見じゃ気付かなかったけど、この人妊娠してたんだ……。
まずいわね、このままだと……)
死体は刻一刻と冷えていくし、そもそも胎児に血液を送れない。
早く手を打たないと、胎児も母体と運命を共にしてしまうだろう。
(厄介ね……。せめて頭が残っていれば良かったのに)
彼女の頭部が付いていれば、すぐさまゾンビにして胎児を救うことができる。
肺に穴が空いてようが、内臓が破裂していようが、アンデッドになれば関係ないのだから。
しかし困ったことにこの死体には頭が無い。
ゾンビになれば肉体の損傷がある程度修復されるとはいえ、流石に頭は生えてこない。
ゴーストになれば完全に綺麗な体になるが、頭が無いと魂が定まらないのでそれも不可能。
胎児をアンデッド化するという手も、肉片サイズではまだ使えない。
(何かないの? 死ぬのを指くわえて見ているだけなんて―――)
私は普段止まっている心臓を鼓動させ、魔法の知識が収まった脳に血を巡らせる。
十数年ぶりに打つ脈拍。ドックンドックンという心臓の音に脳が活性化していく。
そして血管内を流れる液体で刺激を受けた脳は、一つの解決法を導き出した。
(今できるのはこれしかない……。この人には悪いけど、子供が生きられるなら良いわよね)
短距離の召喚魔法を使い、研究室から愛用のナイフを呼び出す。
すると一瞬でパッと右手にナイフが現れた。
私はそれを逆手に握り下腹部―――自分の子宮周辺にサクッと突き刺した。
この体は死体だが、心臓が動いている今は派手に出血する。
蒼白な肌を赤い血がサァッ…と染めていく。
生者なら痛みで呻くだろうが、私の痛覚は鈍いし鎮痛の魔法もかけてあるので何も感じない。
サク…サク…サク…と円を描くように刃を進め、そのままグルッと一周。
最後に刃を少し持ち上げて隙間を作ると、
左手の指を突っ込んで切れてない肉ごとベリッと引き剥がす。
すると赤い血に塗れた私の子宮が露出した。一度も男性を受け入れたことのない肉の袋。
私はそこにも大きい切れ込みを入れ、子宮の中が外気に触れるようにする。
これで私の方は準備完了だ。
次に私は転がっている死体の方にも同じことをして“フタ”を取った。
“フタ”を取られて真っ赤に染まっている彼女の子宮。
そこに刃物を近づけ中身を傷付けないよう慎重に切り開く。
サクサク、クパッ。そうやって開いた子宮の中には指先程度の胎児。
私はそれを取り上げて、そっと自分の子宮に移す。
そして切れ込みを指で押さえ、ボソッと呟き傷を塞いだ。
フゥ……これで一安心。私の中にいれば、私の魔力で生命が維持される。
最後の仕上げとして外しておいた“フタ”を拾い、腹にペタッとくっ付けた。
後は子宮と同じように塞げば、傷跡一つ無い綺麗な体に元通りだ。
血で汚れているから水浴びする必要はあるけど。
「この子はちゃんと責任を持って私が産んであげるわ。
だから心配しないで休みなさい」
私は物言わぬ死体にそう告げて、今度こそ完全に焼却した。
『借り腹とはいえ、私は胎児を身籠った。
よって本日より出産までの経過を記すことにする。
まず、胎児救出後の水浴びで問題点を発見。
川の水はかなり温度が低く、胎児に悪影響を与えかねない。
解決策として、今まで不使用だった浴室を開くこととした』
『身籠ってより三日が経過。特に身体に異常は感じられず。
どうやら胎児は私の子宮に馴染めたらしい。また、空腹になる速度が明らかに上がった。
胎児のために魔力を余分に消費しているからだろうか。
精補給薬の飲用回数を一日三回から五回に増やすことにした』
『目に見えて腹が膨らみだした。胎児は順調に成長している模様。
なお、子宮の中を改めて調べたところ、人間の魔力が感じられた。
現時点で魔物化していない以上、胎児は男性と考えられる。
……出産の時が非常に楽しみになった』
『最近朝晩の気温が下がり始めた。
今は問題ないが冬季のことも考え、温熱の石板を屋内に設置した。
衣服を着用する案は、突発的に起こる自慰の衝動に不便なので却下する』
『自慰の最中、乳房を握りしめたら母乳が噴き出た。
私の体はもう完全に母親になっているようだ。
自分で舐めてみた母乳はかなり甘く、子供が好みそうな味だった』
『朝目覚めてより腹が疼く。どうやら出産の時が間近に迫っているらしい。
出産時の体液流出を考慮し、浴室にて記録を「あっ…! あ、あ…破れ、たっ…!」
魔力製のローブも外し、全裸で筆を執っていた私。
その股間から突如薄く黄色がかった液体が零れ落ちた。
私は記録している場合ではないと判断し、筆と紙を放り投げ、石の床に四つん這いになる。
(破水したっ…! もうすぐ産まれるんだわ! 私の赤ちゃんがっ!)
床に接触しそうなほどに膨らんでいる腹。私はそこに力を込めて息む。
動かそうと意識していないのに、勝手に心臓も脈打ち始め血液を巡らせた。
子宮の壁が収縮し、胎児を押し出そうと部屋を狭める。
しかし部屋の出口でつっかえてなかなか出てこない。
(くっ…! 子宮口、硬くて出られないのっ? もっと、息まないとっ…!)
私は歯を食いしばって、さらに力を込める。
するとメリッ…という感触がして子宮口が開き、それと共に想像を絶する快感が襲ってきた。
「がっ……! 子宮口…通っ、ひぎっ!」
メチメチと膣内を押し広げて胎児の頭部が進んでいく。
その窮屈さは産道が裂けてしまうのではないかと思えるほどだ。
しかし私の体は死体であり魔物でもある。巨大な物が膣を通っても快感しか感じない。
(通ってる…! 私の赤ちゃんがまんこ広げて通ってるっ!)
私は駄犬のように舌を突き出して、ハッハッと快感に喘ぐ。
それは肉体の快感によるものだけではない。
この出産は精神的な快感も肉体に劣らないぐらい強い。
「早く…出てっ! 私の、赤ちゃん…! 私のっ、旦那さまぁっ!」
今私が産んでいるのは男の子。
それもただの人間ではなく、一年近く私の魔力を浴びてインキュバス化しているのだ。
自らの夫とするのにこれほど好条件の相手がいるだろうか?
息子であり夫でもある男を産み落とす。こんな経験をできる魔物などそうはいない。
肉体と精神の両方を快楽責めにされ、涙がポタポタと零れ落ちる。
(あぁっ…! 膜が破れるっ! 処女、奪われちゃうっ!)
普通なら最初の性交時に失われる処女膜。
しかし私は借り腹で妊娠したので、処女のままだったのだ。
出産で処女喪失というのは不思議な感覚だが、夫に奪ってもらえると考えればそれも喜ばしい。
「ん…ぐっ! あ、あ、出て…きたっ!」
胎児が出るのに邪魔になっていた処女膜。
それが失われると胎児はググッと進み、ついに頭が外へ出た。
(頭が、抜け…てっ! あ、出る…っ! 赤ちゃん、出ちゃうっ!)
ブチュッという液体のはじける音。それは胎児が羊水と共に排出された音だった。
ズルッと落ちた胴体の快感に腰が抜けそうになったが、私はそれをこらえる。
そして次の瞬間、家の外まで響くような泣き声が耳を襲った。
(産まれた……のね。出てきたばっかなのに、なんて泣き声……)
私は四つ足のまま後ろを向き、羊水で濡れている子供を胸に抱える。
赤子の泣き止ませ方など知らないが、とりあえず優しく揺さぶってみる。
「ほらほら、お母さんですよ……」
語りかけながら、赤子を揺さぶる。
それで正解だったのか、泣き声の勢いは弱まっていき、やがて静かに眠り始めた。
落ち着いてくれて一安心した私は胸から少し離して全身を見る。
うっすらと生えた頭髪。丸っこくてプニプニしている手足。
へそではないが、へそのような窪みのある腹。
そして何より大事な股間の男性器。
……うん、何もおかしい所はない。
この子は私の魔力で生きていたので、へその緒は付いていない。
まるで私たちに血の繋がりが無いことを示しているように。
だが十月十日腹の中で育てたのは私で、この世に産み落したのも私だ。
子供に対する愛と夫に対する愛。
それらの混ざり合った、言葉で形容できない愛情が胸の底から湧いてくる。
“んー……”という赤子の声に、私は微笑みを浮かべた。
『子育ては大変だ』『生半可な気持ちで子供なんて持つものじゃない』
そう話には聞いていたが、実際やってみると想像以上に大変だった。
赤子の生活サイクルは普通の人間とは全く違う。
空腹になれば即座に泣き喚き、粗相をすればこれまた泣き喚く。
朝も昼も夜も関係無い。何かあればとにかく騒ぐのだ。
もっとも私は魔物なので、人間の母親ほどには負担はかかっていない。
寝不足やら何やらで体調を崩すこともなく、精神が不安定になることもない。
大変は大変だが、この子に対する愛情が全てをカバーする。
残念なのは研究に割く時間が無くなってしまったことだが、
それも十年かそこらで再開する余裕が生まれるだろう。
この先、百年千年生きることを考えれば“たったの十年”。その程度は我慢。
朝の十時頃という朝食にも昼食にも微妙な時間。
泣き出した子供に、いつものように母乳を与える。
歯の無い口で乳首にしゃぶりつき、チューチュー吸い取る赤子。
この子にそんな意図は無いのだろうが、私は性的な快感を覚え毎回股間に手を伸ばしてしまう。
左腕に赤子を抱え母乳を与える私の上半身は母親。
右手で股間の女性器を弄り回す私の下半身は妻。
授乳と自慰を同時進行しながら私は考える。
(……この子になんて呼ばせようかしら)
母親を前面に出しお母さんと呼ばせるか、妻を前面に出し名前で呼ばせるか。
共にいることは変わらないが、呼称は私たちの関係にかなりの影響を与えるだろう。
ただ、母親を強調しすぎて性の対象と認識されなくなるのは困るし、
妻を強調しすぎて“自分は母無しなんだ”と心に重いものを背負わせたくもない。
(上手くバランスを取らないと……。まあ、まだ時間はあるけど)
私はひとまず問題を棚上げし、強まってきた快楽に意識を移した。
私の子供は本当にいい子だった。
変にワガママだったり、怒りっぽかったりすることはなく、
思想が偏っていたり、私に反抗したりすることもなかった。
それでも魔物から人間は生まれない事を知った時には少し塞ぎこみもし、
“自分を生んだのは誰?”と訊いてきたりもした。
幼い子に“実母は惨たらしく殺された”なんて言いたくはなかったので、
私はその質問に対し『あなたは私が産んだのよ』と答えてはぐらかした。
本の知識と真っ向から反する返答にあの子は不審がったけど、
『大きくなったら教えてあげる』と付け加えたら、それ以上質問はしなくなった。
人間は性に興味を持つ歳と性行為が可能になる歳にある程度の開きがある。
あの子が私の裸に興味を示し始めると、私は魔力のローブを少し伸ばし前面も覆えるようにした。
これはあの子が私の裸に慣れ、欲情できなくなってしまう事を防ぐためだ。
ローブの下は今も全裸だが、普通に歩く分には裾から足先が覗く程度。
もちろん物を取ろうと手を伸ばせば、前がはだけて素肌は見える。
最近のあの子は意識していないフリをして、私の体をチラ見している。
もうそろそろ……お母さんを辞めてもいいかな?
あの子の十四歳の誕生日。初めて出会った時と同じ、雨の降りそうな曇り空。
『本当のお母さんの事を教えてあげる』と私は告げて小さい庭に連れだした。
十数年前から変わらず不毛の地である庭。
その中心にある石板を背にして私は子供と向かい合う。
他人に“歳の近い弟です”と紹介できそうなぐらい育った子は神妙な顔。
その顔を見つめながら私は口を開く。
「最初に言っておくけど……落ち着いて聞きなさい。
あなたの“本当のお母さん”はこの世にいない。
ずっと昔に死んだの。あなたを遺してね」
はっきり“死んだ”と告げられて私の子は視線を落とすが、取り乱しはしなかった。
この子だって実験の手伝いで召喚の石板を使ったことはあるのだ。
ここに連れてこられた時点である程度は予想していたのだろう。
「あなたも知ってるように、この石板は世界中から新鮮な死体を集めてくる。
十年前、私は実験に使うために一つの死体を召喚した。
でも、その死体はご……損傷が酷すぎて実験にはとても使えない物だった。
それで処分しようとしたのだけど、私はその直前に気付いたの。
とても小さい胎児がまだ腹の中で生きているって」
不思議なことだ。ずいぶん昔のことなのに、口に出して語ると鮮明に思い出せる。
「もちろん私はその胎児を助けようとしたわ。
でも母体をアンデッドにしようにも、損傷の度合いが酷くてそれはできなかった。
だから私は最終手段を取ったの。“胎児を取り出して自分の子宮で育てる”っていうね」
私はバサッとローブの前をはだけて素肌を晒し、死体の白さをした腹に手を触れた。
「あなたは“ここ”で育ったの。確かに私とあなたは血が繋がっていない。
でも一年近くこの中にいて、私の股から外の世界へ出てきたのよ」
ただのはぐらかしと考えていたであろう『私が産んだ』という言葉。
それが事実だったと知った私の子は複雑な顔になる。
育ての親だと思っていたら、実際に産みの親でもあって、しかし血の繋がった親ではない。
考えてみれば、何ともややこしい親子関係だ。
私の子はしばしの間考え込んでいたが、やがて吹っ切った顔になると私に感謝した。
“救ってくれて、産んでくれてありがとう“と。
そして何故今になって明かしたのかと訊いてきた。
「あなたももういい歳だから、本当の事を教えようと思ったの。
それと―――あなたのお母さんを辞めたくなってね」
母親を辞める。私の子はその言葉に“えっ!?”と驚き、泣きそうな顔になった。
もしかして捨てられると思ったのかもしれない。
だが私にそんな気は毛頭ない。ここまで育てておいて放り出すなんてありえない。
私は子供が安心するよう微笑みを浮かべ“違うわよ”と手を横に振った。
そして魔力製のローブを完全に消し去る。
浴室ぐらいでしかならない全裸の姿。その姿で私は言葉を紡いだ。
「あなたを孕んで3ヶ月くらいしたころかしらね。
胎児が順調に育っているかどうか、一度詳しく調べてみたのよ。
そしてその結果を知った私はとても嬉しくなって、出産の時を待ち望むようになった。
どうしてか分かる? それはね――――お腹の子が男だって分かったからよ」
そう言ってクスッと私は笑う。
「一年近く子宮の中で過ごせば私の魔力がたっぷり染みつく。
そうなれば男の子は産まれた時からインキュバスよ。
夫にするとしたら、これほど適した相手はいないと思わない?」
魔物の基本的な生態はこの子だって知っている。
どうやら私の目的を察したようで、幼さの残る顔を赤くした。
「私はあなたが男だから助けたわけじゃない。
最初から女だと知っていてもそうしたわ。でも……あえて言わせてもらうわね」
一度言葉を切って、私は口にする。
「私はあなたを夫にするために産んだの。母親なんてそのオマケ。
本音を言うと親なんて辞めたいのよ。これからは夫婦として過ごしましょう?」
私たちの関係を変えるための決定的なセリフ。
それを口にして一歩、二歩と私は前に進み子供に近づく。
そして両頬を手で挟み、息の届く至近距離で顔を合わせた。
「分かっているわ。“お母さんとセックスするのはいけない事”なんて考えてるのよね?
でも私はちゃんと知っているのよ。前から気にしないフリして、私の体を見ていたのを」
本人は気付かれていないと思っていたのか、恥ずかしげに視線を這わせる。
私はその様を微笑ましく感じ、目を細めて言葉を続けた。
「それは恥ずかしいことじゃないし、悪いことでもないわ。
あなたは私の魔力を浴びたインキュバスなんだもの。
私の裸が気になって、セックスしたくなるのは当たり前のことよ」
“母親と息子なのだからダメ”という一般的な倫理観。
それを“魔物とインキュバスなのだから当然”という認識で上書きする。
「ねえ、良いでしょう? 私の旦那さまになってよインキュバスさん。
そうしたら遠慮なく私の体を見させてあげる。
おっぱいも、おしりも、まんこの中だって好きなだけ見ていいのよ?」
私は右手を頬から外し、この子の股間にそっと触れさせる。
そこは私の思った通り硬く膨れ上がって、交わりを望んでいることを確かに知らせてくれた。
「私とセックスしたいんでしょう? 我慢なんてしないで。
夫婦になるのに難しい事なんてない。ただ頷いてくれればいいのよ。
ねえ、私の旦那さまになって気持ち良いことしましょう?」
普通に人間社会で育ってきたなら、これでもダメだったかもしれない。
だがこの子の知識は専ら本から得たもので、実生活は私と二人きりだった。
薄っぺらい紙から教えられただけの“母子姦の禁忌”。
そんなもの、私たちの愛と魔力の繋がりに比べれば濁流を目前にした砂山だ。
私の子はコックリと頷いて了承すると、背中に手を回して抱きついてきた。
私は股間にやっていた手を頭の方へ戻し、よしよし…と髪を優しくなでる。
「うん、ありがとう……嬉しいわ旦那さま。じゃあ早速だけど、セックスしましょう?」
私は夫が回した手を解くとトットッと後ろへ下がり、尻餅をつくようにペタッと石板の上に座る。
「さ、服を脱いで。私たちの出会いの場所で結ばれましょう?」
初めて出会った場所で初めての交わり。なんてロマンチックだろう。
しかし私の旦那さまは“ここで!?”と言い、脱ぐのを渋る。
別に私は覗かれても気にしないが夫には厳しいのだろうか。
「別に問題なんてないでしょ? この辺りには私たちの他には誰も住んでないんだから。
どんなことをしたって、見られたり聞かれたりしないわ」
やるやらないで無駄な議論などしたくない。
私は尻餅をついた姿勢のまま膝を広げ夫に女性器を見せつける。
「ほら、私のまんこグチャグチャに濡れてるでしょ?
今からベッドに行くなんて、とても我慢できないの。
だから……ね。ここでセックスしましょう、旦那さま」
私は左手の指を使い、膣内まで見えるように開く。
すると夫の視線が中の肉に突き刺さるのを感じた。
膣内を目で犯されたことにゾクリとした快感を感じ、私は開いた穴から余計に粘液を滴らせる。
しかし愛しの旦那様は勃起こそしているものの、見るばかりでいっこうにアクションを起こさない。
「見ていても気持ち良くはなれないわよ。いい加減あなたも裸になりなさい。
それとも……あなたはお母さんの言うことが聞けないの?」
少し声を低くして威圧的に私は言った。すると“ごめんなさい”と謝って夫は服を脱ぎ出す。
幼い頃から変わらないその反応に、私は苦笑いを浮かべてしまった。
夫はめったに反抗しない良い子だったが、それでも稀に対立することはあった。
たいていの場合正しいのは私の方なので、そういう時は親の立場で強引に納得させた。
そして夫婦になったというのに私は“お母さんの力”で言うことを聞かせている。
(……いきなり切り替えるのがまずかったのかしら。
時間をかけて母親から妻にシフトしていった方がやりやすい?)
誕生日という記念的な日。
私はその日を境として全てを明かし、関係をカチッと切り替えるつもりだったのだが、
その目論見は上手くいかなかったようだ。
まあいい。それならばゆっくりと関係を変えていこう。
私の旦那さまは成長期なので体はまだまだ発展途上だ。
しかしインキュバスだけあって、男性器だけは二十年以上先取りしたかのように立派。
しっかり皮もむけて、赤黒い先端から汁をこぼしている。
私は石板の上に身を横たえ、その先端が女性器へ近づくのをじっと見る。
(十年…短いようで長かったわ。ああ、やっとこの子とセックスできるのね。
これだけ待ったんだから、しっかり種付けしてもらわないと……)
息子にして夫である男性との結合。
待ち望んだその時を前にして、私の心臓がまたもや動き始めた。
だが愛しの旦那さまはそんなこと知る故もない。
私に覆いかぶさるように体を傾け男性器を挿入してきた。
(あぁっ、入ってるっ! 旦那さまのちんぽ入ってるぅっ!)
ズブリと一気に膣内に差し込まれた男性器。
その太さと硬さに私は目を剥き、ビクン! と背を反らせてしまった。
今の動作で私が“感じてしまった”ことはこの子にも伝わっただろう。
だから私は素直に口に出す。
「おっきいわ…! あなたのちんぽ…おっきくて、良いっ…!
私はどう? 十年ぶりに入ったお母さんのまんこは…!」
十年ぶりといっても前回は性交したわけではない。出産の過程で入って出ただけだ。
しかしこう言った方が燃える気がするので私はそう言った。
すると旦那さまは蚊の鳴くような声で“気持ち良いです…“と答えてくれた。
「良かったわ、お母さんのまんこ気持ち良いのね。じゃあ動いてもっと気持ち良くなりましょう?
お母さんはあなたのちんぽをギュッて締めてあげるから、
あなたも負けないように射精して私を孕ませるのよ。良いわね?」
仰向けに寝転がっている私は腰が動かせない。この子に頑張ってもらうしかないのだ。
だからその分キツク締めて気持ち良くしてあげよう。
私は意識して膣に力を込め、体内の陰茎に圧力を加える。
私の夫は苦しそうに息を漏らしたが、グッと歯を噛んで腰を動かし始めた。
私の肉体は十代中盤の外見をしている。
その年頃の人間はまだ成長途上で、胸の大きさは個人差が非常に大きい。
人間時代から“並みより上”程度にあった私の乳房は、妊娠を経てさらに膨らんだ。
産んだ後も萎みはせず、巨乳というほどではないが、腰の動きに合わせて揺れるぐらいには大きい。
自分の体の下でフルフルと歪み揺れる二つの膨らみ。
それに惹かれたのか、夫は石板に当てていた両手を動かして私の胸をわしづかみにした。
そして柔らかい粘土を弄る様にフニフニと握り揉みしだく。
「あはっ! そんな、搾っちゃってっ、おっぱい飲みたいのかしらっ…!?」
そういえばこの子はなかなか乳離れできなかった。
間近で私の乳房を見たことで、乳児時代の感覚が甦ったのかもしれない。
「残念だけどっ…! もう、私も出せないわよっ!
飲みたいなら、私を妊娠させてごらんなさい!
そうしたら、出る限り、飲ませてあげるっ…!」
昔のように母乳を飲みたいなら孕ませろ。
その言葉に発奮されたのか、マザコン(確定)である私の旦那さまは一気に腰を加速した。
(ぐっ……早いっ! まさか、そんなにおっぱい飲みたかったなんて…!
これじゃあ、母親を辞めるには相当かかりそうねっ!)
私の子は夫になることを了承し、今現在交わっているが、
心の中ではまだまだ“お母さん”なのだろう。
お母さんのおっぱいを飲みたいから、必死に私を孕ませようとしているのだ。
そしてコツコツと何度も子宮口にぶつかる男性器の先端。
それは私を孕ませたいと言っているのと同時に、
私の子宮に帰りたいと言っているようにも感じられた。
(まったく、甘えんぼの旦那さまねっ!
おっぱいだけじゃなくて、子宮にまで戻りたいなんて!)
もし私が見上げるような大巨人だったら全身を入れさせてあげただろうが、
この体ではどうやっても不可能だ。体の一部を受け入れるのが精々。
でもこの子が喜ぶならそうしてあげよう。
「もうすぐ、射精するわよね…!
お母さんが…子宮口、開けてあげるから、その中で出していいわよ…!
ちんぽと精液で、ただいま…しましょうね……っ!」
そう言って出産の時と同じように私は息む。
すると行く手をふさいでいた壁がグパッ…と開き、剛直が子宮内まで侵入した。
直接男性器に突かれた子宮と、膣以上の強さで噛みついた子宮口。
その快感に私と夫はそろって絶頂に達した。
(くうっ、出てるっ! この量…まるで噴水だわっ!
妊娠……するっ! 今度こそ、お母さんと繋がりましょうねっ!)
子宮にドプドプと溜まっていく精液。
心の中でそれに“お帰りなさい”と告げた瞬間、
私と夫が混ざった新たな命(アンデッドだけど)が腹に宿ったことを確かに感じた。
私もこの子も交わるのは初めて。達した後はしばらく抱き合って余韻に浸った。
そして旦那さまがのそっ…と体を起こそうとした時、ポツンと顔に冷たい物が落ちた。
そのポツンは鳴る間隔が短くなっていき、やがてポツポツという音へ変わっていく。
「……雨が降ってきたわね。家に入りましょう?
今度はベッドの上で相手してあげるから」
雲の様子と降り具合からして、この雨は強く長く降るだろう。
交わりで汚れた石板も全て洗い流してくれるはずだ。
夫の下から抜け出した私は『よいしょ』と立ち上がり、再びフードを纏う。
その長さは一人暮らししていた時と同じ、常に前面を露出した物だ。
下着だけを身につけ、服を抱えた旦那さまは“何で短くするの?”と訊いてきた。
私は胎内から零れてくる精液を手に受けながらそれに答える。
「私の体、これならいつでも見られるでしょう?」
もう結ばれた以上、裸を隠す必要はない。
これからはこの子がいつでも欲情できるよう、肌を見せながら過ごすのだ。
私はそう考えながら、手に受けた精液をすすった。
番のいるインキュバスはそうでないインキュバスよりも性欲旺盛だ。
そして10代中盤の男子は、人間の中で最も性欲旺盛な時期。
さらに私は露出の多いローブだけで一つ屋根の下生活している。
これらの条件が合わさった結果、私の夫はいつでもどこでも私の体を求めるようになった。
一度の回数はそうでもないが、とにかく頻度が多い。
なにしろ寝る時を除き、2〜3時間に一度は私と交わるのだから。
もちろんそれが私にとって負担であるわけもなく、その全てにおいて喜んで相手を務めた。
研究に割ける時間はまたもや減ってしまったが、夫との交わり以上に優先すべきことなどない。
私の腹が膨れ、母乳が噴き出すようになるとその頻度はさらに上がり、
研究室の机にうっすらとホコリが積もるほどになってしまった。
ザアザアと雨が地上を打つ音。
それをBGMに聞きながら寝室の中、私は夫の上で腰を動かす。
大きくなった腹は微かに揺れるが、胸はそうならない。
何故かというと右乳房は口で吸われ、左乳房は右手に握られているから。
(この子ったら…ホント、おっぱい飲むのが上手くなったわねっ……!
それに、母乳出すだけで気持ち良くさせるなんてっ!)
一年前から比べて結構背丈が伸びたのに、この子の甘えぶりは全く変わっていない。
母乳が出るようになると、それこそ赤子のようにむしゃぶりつくようになった。
最初の頃は乳首への刺激で快感を感じていた私だが、
今となってはただ母乳を溢れさせるだけでも快感となる体になってしまったのだ。
「んっ……! お母さんのおっぱい…もっと、飲んでちょうだい…!
そう、強く搾って……あ、出るっ!」
握り潰さんとばかりに強く握られた左乳房。
ピンと立った乳首の先端からビュッと白いミルクが飛び散り、青いシーツを汚す。
男性の射精ほどの快楽ではないだろうが、勢いのある射乳で私は軽く達してしまう。
その身の強張りが膣にも伝わり、男性器をより強く締めつけた。
すると夫は快楽に震える声で“もう出そう”と言った。
「ん、良いわよっ…! 今度は私たちに飲ませてちょうだい!
あなたの精液ミルク、私と赤ちゃんにっ……!」
旦那さまはギュッと私を抱きしめて胸に顔を埋める。
そしてブルブルッと身を震わせながら、私の膣内に射精した。
(ああ、今日もたっぷりっ! 素敵よ旦那さまっ!
赤ちゃんもたくさん魔力を吸って――――あっ!)
突如私を襲った懐かしい快感。腹の中が締め付けられるようなこの感覚。
これはアレだ―――と思った途端、夫との結合部から液体が漏れだした。
私は抱きしめられた腕を解いて素早く身を離し、ベッドに転がる。
精液混じりの羊水をシーツに染み込ませながら私は言った
「産まれるわよ、旦那さまっ……! 私たちの、子供っ…!」
産気づいたと聞かされた夫は、どうしたものかと困ったようにあたふた。
私は『落ち着きなさい』と言って聞かせ、股間を見せつけるように股を広げる。
「あなたが心配することなんて無いわ。それより、見ておきなさい。
あなたもこうやって……産まれたんだからっ…!」
そう言って私は子宮に意識を集中し力を込めた。
子宮口を押し広げ、強引に通ろうする胎児の頭。
それはやはり強烈な快感だったが、二度目の出産とあれば私の側も楽しめる。
「今…ね、赤ちゃんが子宮から顔を出したわ……。
見えて…る? まんこ、ギチギチに伸びてるでしょ……っ!」
胎児が通るにあたり、産道としてぽっかりと拡張された私の膣。
興奮して興味深そうに観察するこの子の瞳には、
膣奥から押し出される胎児の頭頂部が映っていることだろう。
「ぐぅっ! 進んでる…わっ! あなたの、赤ちゃんが…まんこ通ってるっ!」
ズッ…ズッ…と出口へ向けて移動する胎児。
男性器と違い、激しい摩擦による快感は生み出さないが、
頭部や胴体による膣拡張の快感は決してそれに劣らない。
「はひ…っ、あたま…が、でるっ! お、お…お……、抜け…るぅっ!」
膣口が限界まで引き伸ばされ、私の娘がついに顔を出す。
「もう……最後よっ! あなたの子が、産まれ落ちるわっ…!
よく…見てっ! お母さんが…胎児をひり出すのっ…、見てぇっ!」
力み過ぎたあまり、触れてさえいない両乳首から母乳が噴き出す。
私は顔にかかったそれを熱いと感じながら、胎児を吐き出した。
精液やら羊水やら汗やらでベチャベチャに濡れたシーツ。
肌触りが悪いことこの上ないが、すぐに体を動かせるほどの気力が無い。
快感にポーッとした頭のまま、私はベッドに横たわる。
別に産んだ子の様子を確認しようとは思わない。
死体が産むのは死体。人間の赤子のように容体を気にする必要などないのだ。
(そういえばこっちの子はへその緒があるんだっけ。
後で切らないと――――あっ……)
ちょうど今、思い当ったへその緒。
私の夫はそれを掴み、用済みの胎盤を引きずり出した。
そして娘の両脇を抱えて、その顔をジッと見る。
その目つきは本当にしっかりとしたもので、さっきまで胸にしゃぶりついていた甘えん坊とは思えなかった。
(父親の自覚でも出てきた? だとしたら母親離れに一歩前進かしらね)
もちろんマザコンの旦那さまが完全に脱却するのはまだまだ先だろう。
だがこれは良い傾向だ…と私は考えながら、赤子を抱える夫の姿をしばし眺めた。
13/07/10 17:27更新 / 古い目覚まし