読切小説
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プライドは投げ捨てるもの。
昔々、自分の爺さんが生まれるよりずっと昔の時代。
その時代の魔物は人語を解さないほど知能が低く、その姿も嫌悪や恐れしか抱かない形だったという。
もし自分がその時代に生まれ、魔物と出会っていたらどうなっただろうか?
剣も魔法も使えない自分はあっさりと捕えられ、即座に食われていただろう。
では仮に、その時代の自分が剣や魔法の達人だったとしたらどうだろうか?
きっと容赦も慈悲もなくその命を奪っていただろう。

人間と魔物は殺すか殺されるか。
魔物は弱い人間を餌食にし、強い人間は迷うことなく魔物を殺す。
それが常識で、誰も何も悩むことは無かった。

しかし魔王が代わって以来、魔物はその性質を変えた。
それも人間にとって酷く厄介な方向に。

まずほぼ全ての魔物が人間と会話できるほどの知能を手に入れた。
これを『問答無用で食われず、交渉の余地があるだけマシじゃないか』と考えるのは浅慮なことだ。
確かに戦闘能力が無くても、手八丁口八丁で生き延びれる可能性はある。
しかし野生動物同様に何も考えず襲ってきていた魔物まで、策や罠を張り巡らすようになったのだ。
トータルとして見れば、巨大なマイナス以外の何物でもない。

そしてもう一つは、魔物の外見が美しい女性を模した物になったこと。
もちろん、本物の人間女性と比べれば異形であるが、
男性が慈悲を見せたり、欲情したりする程度には人間に似ている。
このおかげで、人類の敵である魔物と戦えない・殺せないという兵士が世界中で増加したそうで。
教団は思想教育を一層強めたらしいけど、現場で教育の成果を発揮するのは難しいようだ。
だって――――山奥の魔物集落を攻めに行った教団兵が、山賊になって帰ってくるぐらいだから。

『我々に任せてください。安心して山に入れるようにしてみせますよ』
そう言って山中へ出陣していった隊長さんは、剣の代わりに棍棒を振り回し叫ぶ。
「ヒャッハー! 今日からこの村はオガ山賊団のもんだぁー!
 オラ、村長出てきやがれ! 畑を荒らされたくなかったら種籾持ってきな!」
ブンブカ棍棒を振り回し畑の柵(腐ってて取り壊し予定だった)を破壊する隊長。
その背後には、愉快愉快といった顔の緑肌の美女。
他の部隊員も同じで、美しい姿の魔物と一緒に叫びまくりの暴れまくり。
魔物に敗れ手先となることで生き延びたのか、
それとも倒した魔物に懐柔され骨抜きにされたのか。
真相は分からないが、彼らは魔物と手を組み人類の敵と化したのだ。

騒ぎが村中に広がるにつれて、
あちこちから「キャー!」だの「うわー!」だのといった叫び声が響くようになる。
自分たちは細々と山中の村で生活していた一般人。
それに対し、暴れているのは鍛え上げた肉体を持つ専業兵士&魔物。
村を守るために戦おうなんて奴はいなかった。
とにかく生き延びようと、我先に村から逃げ出していく。
もちろん自分も逃げ出す一人。突然の襲撃に荷物を持ち出す暇もなく、着の身着のまま山中へ逃げた。

自分は山生まれの山育ち。だが、山中に詳しいかというとさほどでもない。
あまり奥へ行ってしまうと魔物と遭遇する危険性が高くなるため、
(平和な所と比べると)村の近辺しか散策したことがないのだ。
しかし、今の状況で村の近くにいたら、追ってくるモヒカンどもに捕まる可能性が非常に高い。
自分は遭難覚悟で、未知の領域へ逃げ込んだ。
そして―――覚悟した通りに遭難した。



人間の手なんて全く入っていない山林。
その中を空腹と喉の渇きを抱えてさまよう自分。
空を見上げると、生い茂った枝の間から少し傾いた太陽が見える。

ええと、モヒカンが襲撃してきたのが朝の八時かそこらだったから……一時か二時くらいか?
あの惨劇からまだ1/4日ぐらいしか経過していない。
だというのに無補給で動き続けた体は、栄養と水分をよこせと喚き散らす。
自分もできるならそうしてやりたいが、食糧は無く、水のありかも分からない。

なにより今の自分は完全な無手。
確かに山中には食糧になるものがあるだろうが、何の工夫もせず口にできるものなんてそうそうない。
山菜の群生地や獣の新鮮な死体を発見したとしても、食べることはできないのだ。

……頭の中で嫌なイメージが膨れ上がる。
このまま木々の中をさまよい、ついには動けなくなって死ぬのかと。
あの時抵抗して一思いに殺されていれば…と考えながら、ジワジワ苦しんで死ぬのかと。

自分はブンブンと頭を振って最悪の未来を振り払う。
諦めるな、まだまだ体は動くんだ。
そんな想像は本当に倒れてからでいい。

一歩ごとに“きっと助かる、きっと助かる”と言い聞かせながら自分は進む。
そうして歩き続け、さらに日が傾き夕方近くになったころ。
そこかしこに補修の跡が見られる山小屋を自分は発見した。

やった! 人がいる! 助かる!
自分はそう喜んで、ドンドンとドアを叩きに――――いかない。

ここは山のかなり深く。果たして住んでいるのが人間かどうか。
自分は木の陰に隠れ、山小屋をジーッ…と見る。

住んでいるのが人間なら助けを求めよう。
住んでいるのが魔物ならこっそりと離れよう。
そう考え、目を凝らし耳を澄ませて小屋を見張る自分。

後々考えてみれば、こんなことしてないで水や食料を探すべきだったと思う。
しかし山中をさまよい、疲れ果てた自分にとって“小屋の住人が人間だったら助かる”という希望は手放し難いものだった。

時刻はもう夕方。
中の人は薪割やら水汲みやらで、外へ出てくるだろう。
(疲れたので)自分は地面に膝をつき、その時を待って小屋を監視し続ける。

まだ出てこない、まだ出てこない、まだ出て「おまえさん、他人の住処をなに見てるんだい?」
ポンと肩を叩く感触。それと同時に背後からかけられる女の声。

いえ、迷ったので助けてもらおうかと……。
無礼なことだとは思うが、自分は振り向かずに答える。
「へえ、遭難者か。ここら辺は魔物がいるって知らなかったのかい?」
背後の女性は何気ない口調だが、口元がニヤケているような音が混じっている。

知ってはいたんですけどね。村が山賊に襲撃されて、山奥に逃げざるを得なかったんですよ。
自分の放った言葉に、今朝の惨劇が思い起こされる。
あの威圧的に髪を逆立てた隊長の顔をぶん殴ってやりたくなった。

「山賊の襲撃だって? おまえさん、ずいぶん大変な目にあったんだねえ」
実にわざとらしい同情の声。こんな大根役者じゃ、子供でさえ本心は別だと見抜くだろう。

ええ、本当に大変だったんですよ。
こんな悲惨な目にあったんだから、魔物だって同情して見逃してくれると思いません?
「うーん、どうだろうねえ。慈悲深い魔物だったら、そうするかもしれないねえ。
 でも、背を向けたまま話す礼儀知らずじゃ、慈悲深くても助けないんじゃないかねえ」
いかにも“楽しんでます”なオーラが背後から漂ってくる。
賭けてもいい。背後の存在は間違いなくニヤニヤと笑っているだろう。

どうする? 振り向くか?
でも振り向いてその姿を直視したら、そこで終わりな気がする。
かといってこのまま背を向けていても、状況は悪化していくだけだ。
振り向いて礼をしつつ、その姿を見ないですむ方法。
そんなのは…………あった!

今の自分は地面に膝をついた状態。
そこからさらに身をかがめ、両手まで土と落ち葉に触れさせる。
自分の視界に入るのは湿った枯れ葉と栄養豊富な黒土のみ。
その状態でグルッと180°回転し、額をつけんばかりに頭を下げる。

……先ほどは無礼をしてすみませんでした。心の底よりお詫び申し上げます。
土下座。人類が生み出した、究極の謝罪方法にして至高の礼。
これならば、相手の姿を目に入れずに礼をとることができる。

「プッ…クク……アハハハハッ!」
自分の姿がよほど滑稽なのか、声をかけた女性は噴き出して大笑い。
正直カチンとくるが、これで命が助かるなら安いものだ。

「ハア…ハア…ハァー…。いやー、どうするかと思ったら、まさかそんな手を使うなんてねえ!
 面白い! いや、全く面白いよおまえさんは!」
木々にこだましそうなほど笑い続けていた女性。
それが治まって一番に吐いた言葉は好意的な評価。
自分は心の中でグッとガッツポーズをとる。

よし、良い反応を引き出せたぞ。
後は機嫌を損ねないように会話して穏便に「ところでさあ」

思考に割り込むように言葉をかけてくる女性。
考えるのを邪魔すんな…と思うが、そんな態度を出すわけにもいかない。
“はい、何でしょうか”と土下座したまま自分は受け答える。

「あたしが魔物だっていつから思ってた?」
…………は?
「は? じゃないよ。あたしがしたのって肩叩いて声かけただけじゃない。
 そっからいきなり土下座して、一度も姿を見てないのに、どうして魔物だって思うのさ」
イタズラに成功した子供のように喋る女性。それでハッと気付く。
自分は彼女の姿を見てはいない。
魔物の潜む山奥で若い女(たぶん)に声をかけられたから、勝手にそう思っただけだ。
もしかして、もしかすると……人間?

「あたしは自分が魔物だなんて一言も言ってないんだけどねえ」
あの小屋に住んでいるのは普通の人間女性。
外へ出ていて、たまたま家の近くで見つけた相手をからかっただけ。
カチッと歯車が噛み合うように、自分は一連の状況を把握する。
そして危機的状況でないと理解した途端、精神の緊張がほぐれ、体が弛緩した。
こんな大変な時にからかってくれた彼女への憤りが湧いてくるが、より大きな安堵に塗り潰される。

……良かった、助かった。
いくらイジワルな人でも一晩くらいは泊めて、水と食料を与えてくれるだろう。
そして明日になったら、麓へ降りる道を教えてもらえばいい。
その後は……とりあえず教会に駆け込んで、村の奪還を依頼だ。
生活をどうするかとかは、その後で考えよう。

もう、からかわないでくださいよ。
襲撃に、遭難に、こっちは本当に命が危なかったんですから。
こちらを存分にからかって楽しんでくれたんだから、このくらいの文句は許されるだろう。
そう考えながら自分は土下座していた頭を上げ――――顔のみならず全身を強張らせた。

自分の救い主になる小屋の主人。それはとても美しい女性だった。
両手足が途中から獣のものになっていて、コウモリのような翼が背中から生えていて、
昆虫のように節くれだった尻尾が付いていることを除けば。

「あたしは自分が魔物だなんて一言も言ってない。
 ――――魔物じゃないとも言ってないけどね」
ニタニタ顔でクックックッ…と嫌な笑い声を漏らす魔物。
人間だと思ってすっかり油断していた自分は、ヒィッ…! と情けない声を出す。

「おーおー、それそれ。あたしが聞きたかったのはその声なんだよねえ。
 予想外の土下座は面白かったけど、想定通りに怯えるってのもやっぱ良いわー」
魔物は胸の下で腕を組み、うんうんと頷いて満足したように言う。
自分は“逃げないと!”と思うが、土下座の姿勢からじゃ遅すぎる。
立ち上がった所で捕まえられるだろう。
なので逃げるのは諦めて、ひたすら命乞いをすることにした。

お願いします! 何でもするから、命だけはっ!
額を完全に土につけ、先ほど以上の必死さで土下座する自分。
魔物の顔なんて見えないが、きっと見下した目で嫌な笑みを浮かべていることだろう。

「んー? 何でも? 何でもするって言ったのかい、おまえさん」
何でもする。考えてみればこれほど恐ろしい言葉もないだろう。
流石に無条件は危険すぎるので“命に関わること以外なら”と付け加える。

「命に関わること以外って……おまえさん、良い根性してるねえ。
 そんな条件を付けられる立場かい?」
命乞いで値切られたことを不快に思ったのか、魔物の声が少し低くなる。
しかしどうにかしてこの条件を飲んでもらわなければ、
『熊肉を食いたいから狩ってこい。道具? んなもんないよ』なんて言われたときに断れない。
魔物が直接命を奪わなくても、命を落としかねない命令は拒否できるようにしておきたいのだ。

命が無事なら何でもします! 
土下座して足も舐めますし、裸で逆立ちして小屋一周だってしますから!
プライドの大安売り。後者なんて人によっては『死んだ方がマシ』と言うかもしれない。
だが自分はまだ生きていたいのだ。恥を捨てて命が助かるならそうする。

「ほうほう、助かるなら裸踊りだってやるってのかい。良いねえ良いねえ。
 命のためにそこまでやれるなんて、ホント見上げた根性だねえ」
愉快極まりないといった感じの魔物の声。
どうやら先ほど損ねた機嫌は持ち直してくれたようだ。

「よしよし、おまえさんの根性に免じて命は助けてやろうじゃないか。
 ただし、あんま舐めた態度取ったら痛い目見せるから、そこは肝に命じておくんだよ」
『命は助けてやる』という言葉。それに心の中でホッと胸をなで下ろす。
すると、毛皮に覆われた手が襟の後ろを掴んで、自分の身を引っ張り上げた。

「ほら、いつまでもしゃがんでないで立ちな。一緒に小屋まで来るんだよ」
細い腕なのに軽々と男を持ち上げる腕力。一瞬うなじに触れた硬い爪の感触。
もしこの腕で思いっきり引っ掻かれたら、人間の体にはザックリと深い傷が刻まれるだろう。
目の前の美しい顔に油断するなよ…と、戒めるように自分自身に言い聞かせた。



魔物は自分を立たせると、無警戒に背を向けて小屋へと向かう。
まあ、逃げ出しても気配ですぐ分かるだろうし、
素手の人間に背後から不意打ちされても、倒されない自信があるんだろう。
自分はおとなしくその後に従うしかない。

魔物はトン、トンと木製の階段を数段上がり、獣の手で器用に扉を開けて中へ入る。
外見のボロさと裏腹にキィッと滑らかに開いた扉。そこから部屋へ差し込む赤い夕陽。
傾いた日に照らされた山小屋の内部は“魔物の住処”という単語からは想像できないほどに一般的なものだった。

玄関、炊事場、寝室兼居間が仕切りもなく一体化しているワンルーム。
台所で火を使った痕跡はないが、古ぼけた水がめとコップが置いてある。
足のついたベッドはどこにもないが、巨大な寝袋のようなクッションが壁際に転がっていた。
開いた戸棚からは、保存食らしき乾燥した魚が収納されているのが見える。
小さい頃聞かされた話みたく、真っ白な人骨がそこら中に転がっていたり、
屠殺された豚のように、人間の死体が天井からぶら下がっていたりはしなかった。

「ボケッと立ってないで中へ入りな。水と食い物ぐらいはくれてやるから」
そう言ってクイクイッと手招きする魔物。
自分は無礼にならないよう“おじゃまします…”と声をかけて足を踏み入れた。

コップ一杯の井戸水と、たいして味付けもされていない川魚の干物。
それがどれほどに美味なのか自分は初めて知った。
時間にしてみれば、たかだか半日ちょっと飲まず食わずで山の中をさまよっただけ。
しかし“もう二度と口にできないかも”とまで思った自分には、
何の変哲もない水と魚が、これ以上ないほどの高級料理のように感じられたのだ。
自分は干物をわしづかみにしてガツガツと食らい、ビールの一気飲みのようにゴクゴクと水を飲む。
その浅ましい姿に魔物が何か言うのではないかとも思ったが、
幸いなことに彼女は注意一つせずコップに水を汲み、干物を追加してくれた。

空っぽだった胃を水と干物で満たし、ようやく一息ついた頃。
黙って見ていた魔物が口を開いた。
「もう一杯になったかい? そんじゃそろそろ、あたしの命令を聞いてもらおうかねえ」
命令。ついにこの時が来たか…と食後で緩んでいた精神を引き締める。

はい、命に関わらないことなら何でもします。ただ、出来ればお手柔らかに……。
最後のセリフは愛想笑いを浮かべながら、冗談ぽく言う。
真顔で言ったら気分を害するかもしれないし。

「安心しなよ。お手柔らかかは分からないけど、痛くはないからさ。
 まず服を脱ぎな、おまえさん。風呂に入る時みたいに全部だよ」
ふ、服ですか? 風呂に入る時って……パンツまで!?
「そりゃあ当然さ。おまえさんは“裸で逆立ちでもする”って言ったんだ。
 あたしは約束通り命を助けてやってるんだから、
 おまえさんにも約束通り“何でも”やってもらわないとねえ……」
あくどい笑みを浮かべて言葉を発する魔物。その内容に愛想笑いが引きつる。
命が助かるなら裸踊りでもするが、自分は別に露出癖があるわけではない。
魔物の前でストリップさせられるのはやはり屈辱だ。
だが向こうが約束を守っている以上、命令に従わなければ酷く機嫌を損ねるだろう。
それこそ『口だけの嘘つきめ』なんて罵られて、すぐ殺されてしまうかもしれない。
自分はグッ…と奥歯を噛み締めて、上着のボタンに手をかけた。

本職のストリッパーは時間をかけて盛りあげながら脱いでいくと聞いたことがある。
しかし自分は本職ではなく、盛りあげるつもりもない。
さっと素早く脱いで一糸纏わぬ姿になると、股間と胸に手をやって魔物の視線から隠した。
自分は男なので上半身を隠す必要はないのだが、無防備な感じで嫌なのだ。

「よーし、ちゃんと約束通り服を脱いだね。じゃあ次は隠している手をどかしな。
 気をつけとまでは言わないけど、胸を張って立つんだよ。
 そしたら――――オナニーでもしてもらおうかねえ」
愉悦に細めた目で魔物はこちらを見る。それに対し自分は真っ赤になって抗議した。

ちょ、ちょっと待ってください! 何でそんなことするんですか!
裸踊りぐらいはまだ想像の範疇だが、痴態を公開するだなんて完全に想定外だ。
それにその行為に何の意味があるのか全く分からない。

「意味? おまえさんの恥ずかしい姿を見たいってだけで十分な理由さ。
 それと忘れるんじゃないよ? おまえさんの命はあたしのさじ加減だってことをね」
自分が反抗したことで、ムッとした顔つきになる魔物。
まずい、今ので確実に寿命が縮まった。

「さっさとやりな。五秒以内に手をどかして真っ直ぐ立つんだ。五、四、三―――」
魔物は幾分鋭くなった目でこちらを睨み、カウントダウンを始める。
もう考えている猶予は無い。“死にたくない”という思いで、ピシッと自分は立つ。

「二―――そうそう、それでいいんだよ。
 ちゃんとあたしの言う事を聞くなら、ちっとは優しくしてやるからさ」
ジロジロと舐め回すように体中を這う視線。
それが股間で止まり、ククッと笑われた時は涙が出そうになった。

「おいおい、そんな顔をするんじゃないよおまえさん。
 野良仕事でなかなかいい体してるじゃないか。
 ちんぽの方だってそれに見合っていい感じだよぉ?」
自分は他人と男性器を見比べたことは無いが、彼女からすると悪くないらしい。
「それじゃあ、ちんぽを立てて両手でシゴきな。
 あたしの目の前で、一人寂しく腰振って射精するんだよ」
出会ってから何度も見たニヤニヤ笑い。それを浮かべて魔物は言う。
自分としても、ここまで来たらもう恥なんて完全に捨ててしまえと思う。
指示された通り、自分は股間に手をやった。しかし―――。

「……立ってないじゃないかおまえさん。そんなんでできるのかい?」
恥辱、屈辱、恐怖、緊張。
自分の頭の中はそれらで占められている。勃起なんてさせられるはずがない。
指でいじってみても、全くの無反応だ。
早く立たせないと…という焦りに性的興奮はどんどん遠ざかる。

ま、待ってください…。すぐにやりますから……!
自分は数歩離れた場所で立っている魔物に言い訳をし、自己暗示のように繰り返す。
立て、立て、立て、立て――――!
しかしその思いはむなしく、股間の男性器は沈黙したまま。
自分は顔を上げて、慈悲を求めるように魔物を見る。
すると魔物は、はふぅ…と呆れたような息を吐いた。

「やれやれ、おまえさんは一人じゃオナニーもできないのかい。
 仕方ないねえ、あたしが一肌脱いでやるよ。感謝するんだよ? あたしの優しさにさ」
そう言うと魔物は獣の手を胸の下(見えないほどデカイ)にやり、プチッと音を立てた。
中央の留め具を外したのか、水着同然の布がハラリと外れ、巨大な胸が露出する。
魔物は日焼けしないのか、布下の肌は肩や太ももと全く同じ色。
そして何より目を引くのが、二つの乳房の先端についている綺麗な色をした乳首。
人間女性と全く変わらない胸を目にし、男性器がもぞっ…と動く。
それを見た魔物はにひひ…と笑い、胸を持ち上げるように腕を組んだ。

「まったく卑しいねえ、人間の男は。女に似てれば魔物の裸でも欲情するんだからさ。
 ほーら、どうだい? そこらの村娘よりずっと綺麗な胸だろう?」
魔物は右手を動かすと、見せつける様に右乳房を握る。
黒い獣毛と白肌に包まれた胸のコントラストが強烈だ。

はい、すごく……綺麗です。
機嫌を取るとかそういう意図はなく、ただ純粋に美しいと思う自分。
それを聞いた魔物は笑みを深くすると、こちらの背後へ回り込んだ。

あの、何を?
「いやあ、正直者のおまえさんに、ちょっとばかりサービスしてあげようと思ってねえ。
 どうせ、こんな風にされたことなんて無いだろう?」
そう言うと魔物は脇の下から両腕を回して抱きついてきた。
温かくて柔らかい二つの球体が、ブニャリと背中に当たり心拍数が一気に跳ね上がる。

「ほらほら、女のなまちちだよ。背中に当たってるだけでいい気持ちだろう?」
魔物は胸を押し当て、右手をこちらの股間へと下げていく。
そして毛皮に包まれた手で男性器に触れると、黒い爪でカリッと軽く引っかいた。

「あはっ、硬い硬い。んじゃそろそろオナニーしてもらうか。“こいつ”でねえ」
“こいつ”と魔物が口にすると同時に、右横からブンと尻尾が振られた。
昆虫のように節くれだった尻尾。これでどうするのか? と自分が思うと、
先端の膨らみがガパッと開き、
粘液で粘ついた内部からニュルッとピンク色の肉ビラが突き出た。
まるで巨大肉食イモムシのようなその器官に、自分はうっ…と息を飲む。
そして魔物はこちらの胸や下腹部をさわさわ撫でながら言った。

「さあ、ちんぽをここに入れてオナニーするんだよ。
 あたしの機嫌を損ねなければ、食いちぎらないから安心しな」
く、食いちぎるって……これ口なんですか?
「そうだよぉ。あたしは喋る口以外に、尻尾の口から獲物を食べることもできるのさあ。
 ああ、食いたいねえ。おまえさんを食いたくて食いたくて、ホントたまらないよ」
魔物はそう言うと、舌でベチャリと首筋を舐めた。
少しざらついた舌の感触に、ぶるっと身震いするような快感が走る。

や、約束は忘れてないですよね? その、命だけは……。
魔物が示した自分への食欲。
『気が変わった』と言って約束を反故にしないか心配になる。

「もちろんさあ。あたしも量のたっぷりある肉を食いたいけど、
 それじゃおまえさんが死んじまうからねえ。だから量より質で精液にしてやるんじゃないか」
精液飲むんですか!? というか精液って質がいいんですか!?
「当たり前じゃないかおまえさん。老人より若者。若者より子供。子供より赤ん坊。
 その理屈でいけば、赤ん坊より前の精液は最高の味だろう?」
言われてみると納得。魔物に襲われたけど犯されただけで解放された、
なんて噂話は、そういう理屈から生まれたのかもしれない。

「ほら、くっちゃべってないで早くしな。あんまりとろいなら、肉の方を食うよ?」
冗談半分本気半分といった口調で促し、カプッと首筋を軽く噛む魔物。
向こうにしてみれば軽い脅しなのかもしれないが、
彼女が少し力を込めれば首の血管など簡単に噛み切られてしまうだろう。
自分はゴクッとつばを飲んで、口を開いたままの尻尾を手に取る。

うじゅらうじゅらという擬音が似合いそうな尻尾の口。
粘液まみれの肉ヒダというグロテスクな器官へ、自分は男性器を近づける。
そしてはみ出た肉にグジュ…と先端を触れさせ一呼吸。
覚悟を決めて男性器を挿入すると、開いていた口がバクンと閉まり、内部が蠕動し始めた。
奥へ奥へと飲み込むような肉壁のうねり。
ヒダの一枚一枚に男性器をブラッシングされ“あっ…!”と女のような声をあげてしまう。

「あはっ! カワイイ声を出すねえおまえさん!
 あたしの尻尾まんこはそんなに良いかい?
 でも浸ってたらダメだよぉ? 両手でちゃんとゴシゴシしないとねえ」
魔物は硬い爪でこちらの乳首を弄り、ニタニタ声で言う。
自分はそれに答えず、尻尾の膨らみを両手で握ってグチュグチュと動かす。

自分だっていい歳した男なんだから、自慰したことは何度もある。
だがこの魔物の尻尾から与えられる快感は、かつてないほどの強さだ。
“見られている”という恥辱が意識から薄れ、気持ち良さにただ手を動かしてしまう。
だが、魔物はそんな没入を許すつもりはないのか、言葉で煽ってくる。

「ああ、いい顔だねえおまえさん。そんなに気持ち良いのかい? 
 あたしの尻尾まんこで、ちんぽシコシコするのがさ」
『おまえは魔物の肉体を使って自慰しているんだぞ』と後ろから囁く魔物。
自分はかすれた声でそれに答える。

き、気持ち良いです…。すごく……。
この快楽に対して嘘をつくなんてとてもできない。
今の自分はなんてみっともない姿なんだ…と考えながら、尻尾に噛みつかれた男性器を握る。

「そうかい、気持ち良いのかい。でもあたしは気持ち良くないんだよねえ。
 早く精液をご馳走してくれないと、ちんぽを噛みちぎって食いたくなっちまうよ」
ギュッと強まる尻尾の圧力。自分に恐怖と強い快感が襲いかかる。
前後させる手が早くなり、胸を押し付けられている背中や首筋がジトッと汗ばむ。
そして汗ばんだ首を魔物はザラついた舌でペロペロと舐めた。まるで飴を舐めるように。

「んー、おまえさんの汗はずいぶんしょっぱいねえ。
 熱湯に漬けたらいいダシが取れそうだよ」
魔物は汗で味のついた肌を舐め味わう。
その一舐め一舐めが背筋を走る快感となり、股間の快感と相まって射精を近づける。
呼吸はハアハアと荒くなり、足は震えて力が抜けそう。
そんな自分に魔物は頬ずりをして言う。

「そろそろ出るかい? 出すときは玉の中が空っぽになるまで出すんだよ?
 ちょっとでも惜しんだら、玉ちぎって直接吸ってやるからね?」
空恐ろしくなる魔物のセリフ。自分はコクコクと頷いて了解の意を示す。
「よしよし、いい子だおまえさんは。あたしの言う通りにすれば助けてやるからね。
 イクかい? イクかい? ほら、イキなっ!」
今まで自分の手で動かしていた尻尾。
それが彼女の意思でもってねじれるようにグルッと回る。
前後移動の刺激から回転の刺激。
突然の方向転換に不意を打たれ、自分は彼女の尻尾の中に精液を撒き散らす。

「おーおー、出てる出てる。うん、たっぷりだ。
 なかなか美味しいじゃないかおまえさん」
ゴキュゴキュという音がしそうなぐらいに、脈動する尻尾。
自分が放出した精液はその中を流れ、後ろから抱き締めている魔物の胃に収まる。
痛みは欠片も無いが、自分は魔物に食べられている。
そのことに複雑な思いを抱きながら、天井を仰いで熱い息を吐き出した。

射精が収まると、魔物はちゅぽんと尻尾から男性器を抜いた。
背から回していた腕も放し、自分から離れる。
そして前に回ると床に落としていた布を拾い、再び胸を隠す。

「ふぃー、食った食った。おまえさん、もう服着ていいよ。
 次にやるのは明日の朝だ。それまでちゃんと休んで、精液を貯めておくんだよ」
あ、はい、分かりました……。ところでですね。
「ん? ところでなんだい」
その……明日の朝が過ぎたら、麓へ降りる道とか教えてもらえないでしょうか。
「麓? どうして?」
いや、村に帰るわけにもいかないんで、とりあえず麓の町へ行こうかと……。

山賊の支配下となった村にはもう戻れない。
それに村の奪還を教団に依頼するためにも、町へ行かねばならない。
“命は助ける”という約束な以上、
山中で放り出して『どこへでも行け』というのは無いだろう、たぶん。

「あー、残念だけどそれは教えられないねえ」
えっ!? 何でですか!
「おまえさんは“命が助かるなら何でも言う事を聞く”って言っただろう?
 だから命令するよ。“逃げ出すな。ずっとあたしの食糧になれ”ってね」
ニヤニヤ顔で『いつか死ぬ時まで食われ続けろ』と命令する魔物。
その言葉を理解した途端、顔から血の気が引いた。
自分は命の条件は付けていたが、回数や時間は何も決めていなかったのだ。
このままでは魔物に弄ばれ“命が無事なだけ”の生活になりかねない。
いや、それ以前に魔物が『もう飽きた』と言って、約束を破る可能性もある。

待ってください! いくらなんでも「嫌かい? なら別にいいよ」
そう言うと魔物は口の前に左手をやって黒い爪をペロリと舐めた。
唾液に濡れて凶悪そうに光を反射する爪。
それを前にして、遮られた言葉を続ける度胸はなかった。

「まあ、安心しなよおまえさん。あたしに逆らわなけりゃ水も食い物も充分やるし、
 たまには良い目も見せてやるからさ。それより服を着な。体冷やしたら面倒だよ」
床にポイ捨てした自分の衣服。
魔物はつま先にそれを引っ掛けると、ボールを蹴るようにこちらへ寄こした。



山小屋の魔物に捕えられてから二週間。
それだけの時間で自分は魔物との生活に適応してしまった。
というのも、生活自体は以前よりも楽だったから。

村が平和だった頃は毎日仕事があった。
晴れていれば朝から夕まで畑を耕し、雨の日でも屋内で何かの作業。
週一日の安息日が潰れることも多々あった。

しかしこの小屋では畑仕事なんて微塵もない。
労働なんて魔物が狩ってきた獣や魚の加工ぐらいだ。
それにしたって彼女が手際良く進めてしまうので、自分は1/10もせずに終わってしまう。
あくせく働いていた今までの日々は何だったんだろう…と思うようなゆったりっぷり。

また、魔物はイジワルな性格ではあるが“約束は守る”という点で誠実だった。
逆らいさえしなければ、彼女はこちらのことも気にかけてくれる。悪くない同居人だ。
(自分が居候や奴隷という風には考えたくない)

そして彼女の食事―――人食いという意味での食事だが、これが何よりすごい。
彼女としては人間の一番美味い所を食べているだけなのだろうが、これが自分にとって凄まじい快楽なのだ。
この尻尾さえあるなら、一生女を知らないままでもいい。そう思えるほどに。

もし絵に描いたような悲惨な奴隷生活を送らされていたら、いくら自分でも逃げ出しただろう。
死ぬまでの長い間労苦を負わされるなら、命を賭けてでも脱出してやると考えただろう。
だが、この山小屋の生活は“命懸けの脱出”を決意させるにはぬるすぎた。
何しろ彼女に対して素直に欲情できてしまうほどなのだから。

魔物が自分を食べるときは必ず上半身を脱ぐ。
それはこちらの性欲を煽り、より精液を搾り取るためだ。
しかしこんな美女に肌を密着させられて、できることが自慰だけなんて正直辛い。
身の程知らずと言われようが、本番をしてみたい。
自分はそう思い“食事時”に上を脱いだ魔物に頼む。“下も脱いでもらえないか“と。

「下もかい? 別に構いやしないけど……ああ、そういうことかい」
魔物は察したようにニヤリ笑いをすると、股間を覆う黒い布を引っ張った。
「おまえさん、あたしと交尾したいんだね? いやー、よくそんな恥知らずな事が言えるねえ。
 あたしみたいな人食いの魔物に“子作りさせてくれ”だなんてさあ」
チクチクと言葉で嬲る魔物。自分は黙ってそれを聞く。
「今のはちゃんと意味が分かって言ったのかい?
 あたしと交尾するってことは、魔物が増えるってことだよ?
 おまえさんのせいでどこかの誰かが、食い殺されるかもしれない。
 いや、もしかするとおまえさん自身がそうなるかもねえ。
 おまえさんは自分の娘に食われてもいいってのかい?」
白い歯をむいて“魔物は人食いである”ということを強調する彼女。
出会って数日なら“すいません! 調子こいてました!”と土下座しただろうが、
今の自分はそこまで彼女に恐怖を抱いてはいない。

そこは信用してますから。自分の父親を食うようには教育しないでしょう?
この魔物は逆らわない限り命を保証してくれる。
きっと娘に対しても『命令に従う限りは手を出すな』と教えるだろう。
そんな自分の考えを伝えると、彼女はクスクスと笑みをこぼした。

「ああ、正解だ。その通りだよおまえさん。
 いくらあたしでも、おやつがわりに父親を食うようには育てないさ。
 でも、その考えだと自分以外の人間は食われてもいいってことになるんだけどねえ?」
人食いの魔物である以上、いつかは誰かを殺して食う。
彼女と子供を作れば、死なないはずだった人間が何人も死ぬことになるだろう。
だが自分は――――。

……別にいいですよ。顔も名前も知らない人が死んだって。
魔物が人間を食うのは自然の摂理。出会ったなら運が悪かったと思え。
死にたくなければ、自分のように恥を捨てて命乞いでも何でもしろ。
今の自分はそんな風に考える。

「……酷いねえ。おまえさんは本当に酷い、最低の人間だよ」
凶暴な笑みを浮かべて『最低だ』と魔物は言う。
「同属を死なせてでも、あたしと交尾したいっていうんだからねえ。
 まったく最低すぎて――――素敵じゃないか」
そう言って魔物はスルリと黒いパンツを脱ぎ捨てる。
人間女性と変わらない(はず)の女性器がさらされ、勃起している男性器がピクリと動いた。

「ホント素敵だよおまえさんは。人間よりも魔物のあたしを選ぶんだからねえ。
 いいよ、やってやろうじゃないか。おまえさんの子供を産んであげるよ」
そう言うと魔物は四つん這いになった。それこそメスの獣のように。
大きな胸が重力に引かれて下がり、編まれた髪の先端が床に接触する。
クイクイと昆虫じみた尻尾を振って“後ろへ回れ”という身振りをする魔物。
それに従って尻の方へ回り込み、真っ先に目についたのはつるりとした尻たぶ。
赤ん坊のように綺麗な肌で、自分はつい撫で回してしまう。

「ん…あたしの尻は良い触り心地かい? でも、目的を忘れちゃいけないよ?
 おまえさんが欲しいのはその下だろう?」
彼女の尻よりも下。そこにあるのはパックリ割れて粘液を滴らせる女性器。
いくら女性経験のない自分だって分かる。彼女も欲情しているのだと。

「そりゃ、欲情もできない相手じゃ交尾なんて許してやんないよ。
 おまえさんは面白くて素敵な人間だから、種付けさせてやるのさ」
首を振り向かせてニヤッと笑う魔物。その言葉に皮肉な色は薄く、どこか優しい感じ。
自分は彼女の穴に男性器の先端をあてがい、尻たぶをしっかりと両手で掴んだ。

じゃあ、入れます……。
「いいよー、あたしも準備できてるから。ん―――っ! あ…! ん、ぐぅっ…!」
初めて挿入した魔物の膣内。それは精液を搾り取る尻尾よりもずっと気持ち良かった。
こちらの快感のツボを知り尽くしているように、肉壁が男性器を揉みくちゃにする。
まるで自分のためにあるかのような女性器だ。腰を進めるだけで呻きを漏らしてしまう。
しかしそれは彼女の側も同じらしい。

「あ、が……! はひっ、ちんぽっ…! ちんぽが、入ってくるぅっ!」
いつもの余裕ぶった態度はどこへやら。魔物はすすり泣くように快感に呻く。
「もっと…入れてっ! メスまんこに、ちんぽを…食わせてぇっ!」
彼女のいう“尻尾まんこ”に入れた時とはまるで違う反応。
上半身を支えていた腕が脱力し、魔物はガクッと地面に肘をつく。
尻が持ち上がり、男性器がズブッと深く侵入する。
すると翼と尻尾がピンと伸びて硬直し、彼女の肉体が小刻みに震えた。

「うう…おまえさんのちんぽ、良すぎるよぉ……。
 こんなにスゴイんじゃ…もう、本気で好きになっちまうじゃないか……」
凄まじい交尾の快感。それを受けて魔物は『好きになりそうだ』とこぼす。
彼女は人食いの魔物で異形だ。でも美しい姿で、自分の事も気にかけてくれる。
自分は快感の中で苦笑いを浮かべた。村を襲撃した教団兵を蔑むことなんてもうできない。
以前からはとても考えられないことだが、自分もこの魔物が好きなのだと自覚する。
自分は白い背中に“好きだよ”と言った。 そして行動で表すため腰を動かす。

「んぁっ! そう、かい……あたしが、好きなのかいっ! ああ、嬉しいねぇ!
 あたしも…おまえさんが、好きだよっ! もう、死んでも…逃がさないからねっ!」
『死ぬまで食料になれ』から『死んでも逃がさない』へ。
その言葉の変化に彼女の愛情を感じる。
あまりに可愛くて愛しくて、自分は腰の動きが早くなってしまう。
「あっあっ、早い、よっ…おまえ、さん…! そんな、されたら、イっちゃうよ…っ!」
バシンバシンとぶつかり合う腰と尻。
自分も彼女も獣のように―――いや、獣のオスとメスとしてハッハッと喘ぐ。
高まる射精感と反比例するかのように思考力は低下。
自分はもう交尾相手のメスを孕ませることしか考えられない。

「あ、あ、もう…出すんだねっ!? あたしを、孕ませるんだねっ!
 いい…よっ! あたしの…腹、パンパンに膨らませてっ……!」
カリカリと木の床を引っかいていた魔物が、ガリッと爪を食い込ませる。
自分も彼女の柔らかい尻に指を食い込ませ、男性器を根元まで押し入れて射精した。

「く…あぁっ! ちんぽっ! ちんぽから精液出てるぅっ!
 たっ、種付けされんのっ、気持ち良いっ! もっと…出してっ!
 人間のちんぽ汁であたしを孕ませてぇっ!」
狭い膣内に放出され、ビチビチと壁ではじける精液。
一回はじけるたびにギュッギュッと締まる膣に、自分はいつも以上の量を吐き出してしまう。
そして今まで感じたことが無いほどの脱力感で、彼女の背中に被さるように倒れてしまった。
熱を持ち、じっとりと湿った彼女の背中。
肌に滲み出た汗からは微かに良い香りが漂い、つい自分は彼女の背中を舐めてしまう。

「ひゃっ…! ちょっとおまえさん、あんまり舐めないでおくれよ。
 そこは結構敏感なんだからね? もっとそっと―――」
向こうは精液を飲むたびに散々こちらを舐め回しておいてこの言い草。
自分は今までの仕返しだとばかりに、ペロペロ舐め回す。
「あ、ちょっ、ダメだって! くすぐったいよおまえさん! 止め、止めてって――――」
魔物は止めろと口にするが、口調も顔も笑っている。
その反応に自分にも笑みが浮かび、しばらくの間裸でじゃれ合った。



初めて結ばれて以来、彼女への恐れは自分の中から完全に消えた。
自分は“気を損ねないように…”という負の気使いをしなくなり、
彼女の側も『食い殺すぞ』なんて脅しは全く口にしなくなった。
まあ、その代わりに『好き』というセリフをやたら言うようになったが。

自分は麓の町へ降りる気を完全になくし、村へ戻りたいとも思わなくなった。
こんな美しい女性が愛してくれるなら他に望む物なんてない。
この山小屋で静かな日々を過ごし、ひっそりと生きていくのが今の人生の目的だ。

「おーい。獲ってきたよー、おまえさん」
よく晴れた昼過ぎ。
日陰になる小屋の北側で魚を吊るしていた自分に声がかけられる。
朝から狩りに出ていた彼女が帰って来たのだ。

はーい、すぐ行くよー。
自分も声を返すと、ちょうど最後の一匹を吊るして表側へと回る。
何を獲ってきたのかな…と考えながら小屋の角を曲る自分。
玄関前のちょっとした庭に転がっていたのは、ずいぶん大きなイノシシだった。

うわ、これはまた……。
彼女がとってきた獲物を前に、自分はちょっと面倒臭さを感じる。
確かに獲物が大きいとたくさん食べられるのだが、処理も大変なのだ。
血抜きをして、内臓を抜いて、毛皮を剥いで…と色々。
自分のそんな雰囲気を感じたのか、魔物はフゥ…と息をもらす。

「別に無理にやんなくたって良いんだよ?
 面倒なとこはあたしがやったっていいんだからさあ」
『小さく肉を切り分けるぐらいでいいよ』と言う魔物。
実際、今まではそうしていた。
大雑把な処理は彼女がして、自分が細かい作業という分担。
しかし、最近の自分はそれではいけないと思うのだ。
男たる者、一人で獲物を捌く位できなくてはと。

「そう言ったって、狩りしてるのはあたしじゃないか」
う……それは言わないで。
本来なら狩るのが男で捌くのが女。
役割が逆転してる時点で、男の威厳は半減以下だ。
今から狩りを学ぼうにも、彼女のやり方は人間の自分にはとても真似できない。
(逃げる獲物に上から襲いかかり、向かってくる獲物は黒い爪で返り討ち)
せめて獲物の処理ぐらい一人でこなせなくては、半分の威厳がゼロになってしまう。
これから生まれる子供に『おとーさん、一人じゃ何もできないんだね』なんて言われたら穴に埋まりたくなる。

「……やれやれ、そんなの気にすること無いってのにねえ」
魔物は苦笑いすると玄関前の階段に腰掛けて、ポッコリ膨らんだ腹をなでる。
「ま、やるってのなら頑張りなよおまえさん。一部始終をあたしが見ててやるからさ」
巨大イノシシ相手に難儀する自分の姿を想像したのか、彼女はニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。
13/06/26 20:42更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
最近性欲が減退して、エロシーンが書けません。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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