ご主人大好きムカデちゃん
月も高くなり村の人間がほとんど眠りにつく頃。
わたしは物置小屋に隣接する蟲カゴを抜け出します。
蟲カゴは頑丈な竹で組まれていますが、ムカデのアゴで齧ってしまえば簡単に壊せるのです。
ボリボリ、ガリガリ、ペッ。
わたしはカゴに穴を開けると口にした竹を吐き出しました。
ムカデは竹なんて食べませんから。
わたしは足音を殺しながらサササ…と家へ近寄り壁を登ります。
入口はしっかりと戸締りがされているからこれは仕方ありません。
わたしは屋根の隙間からそーっと屋根裏へ侵入し、ご主人様の部屋へ行きます。
そしてご主人様の部屋の上へ辿り着くと、天井板を外してその中へ潜入。
畳の上へ降りると、白い布団に包まれて静かに眠っているご主人様が複眼に映りました。
（ご主人様、今日は寒いです。温めてください……）
魔物とはいえムカデのわたしは変温動物。寒いより温かい方が良いのです。
わたしはご主人様の布団に潜り込み、その体温を感じながら眠りにつきました。
―――ゴロン、と体をひっくり返された衝撃でわたしは目が覚めました。
またカゴを抜け出して……と呟くのはご主人様。
わたしはワサワサワサ…と足を蠢かせながら体をくねらせ起き上がります。
（おはようございます、ご主人様）
わたしはギチギチとアゴを軋ませて挨拶をしますが、ご主人様は何も反応してくれません。
人間の言葉を喋れないのだから仕方ないのですが、わたしはとても残念です。
ご主人様は起き上がると乱れた服を正し、寝室を出ます。
木張りの廊下を進んでとあるふすまを開くと、ちゃぶ台を前に座るお父さま。
ご主人様は“おはよう、父さん”とあくびを噛み殺しながら挨拶をします。
箸でおかずをつまもうとしていたお父さまは、ご主人様の挨拶でちゃぶ台から視線を上げました。
そしてその目にわたし達を捉えるとまたか…といった顔になります。
「おまえまた蟲と同衾したのか。懐いてるといってもそいつはれっきとした魔物なんだ。
ちゃんと管理しておかないと、痛い目に遭いかねないぞ？」
蟲使いとしてまだまだ半人前だなと、お父さまの厳しい言葉。
ご主人様は“やりたくてやってるんじゃない”とこぼして、自分もちゃぶ台の前に座ります。
そうすると台所にいたお母さまが、おぼんで朝食をもってきました。
それが目の前に置かれるとご主人様は“いただきます”とちゃんと手を合わせて食べ始めます。
わたし達の住んでいる村はいわゆる山中の隠れ里なので、おかずは専ら山の幸。
山菜やキノコがほとんどです。
ムカデのわたしは肉食性なので、ご主人様と同じものは食べられません。
いえ、無理に食べようとすれば食べられるのですが、消化不良は確実なので。
ご主人様がもしゃもしゃと植物どもを口に運ぶのを、わたしはしばし眺めます。
そして箸を置いて“ご馳走様でした”といったところで、食後のお茶の時間。
お母さまが熱々の緑茶を湯のみに入れて持ってきました。
気を付けなさいよとお母さまが一声かけて、ご主人様に手渡します。
フーフーと息を吹きかけて、お茶を冷まそうとするご主人様。
わたしはその背後から首を突き出し、毒牙からポタポタッと毒液をお茶に混入します。
大百足の毒は傷口から入れば命を奪う猛毒ですが、
胃から取り込めば強力な滋養強壮の薬にもなります。
ご主人様にはぜひとも健康でいて欲しいとわたしは願うので、
こういう機会があれば毎回しているのですが……。
“またやりやがったコイツ”とご主人様はこぼして、ペシンとわたしの頭を叩きます。
そして立ち上がると、台所へお茶を流しにいってしまいました。
（……また飲んでもらえなかった）
味も香りもあまり変わらないはずなのに、ご主人様は毒液を入れると毎回捨てにいきます。
一度くらいは飲んでくれてもいいと思うのですが……。
毎度のこととはいえ、わたしはガックリ。
いつか飲んでくれたらいいなあ……と未来に希望を託し涙を飲み込みます。
まあ、節足動物のわたしに涙腺なんてありませんけど。
朝食が終わった後は畑仕事。
色々な事情でこの村はそれなりに裕福なのですが場所が場所。
店なんてないので、食料ぐらい自給自足しなくてはならないのです。
野良着に着替えたご主人様は水筒を持ち、物置へ農作業具を取りに行きます。
そして大穴のあいた蟲カゴを見て、はぁ……とため息をつきました。
なんでお前はカゴでじっとしていられないんだろうなあ、と語りかけるご主人様。
ご主人様はこのあと暇を見てこの穴を修繕しなければならないので、
そう愚痴りたくなるのは仕方ないかもしれません。
別にわたしもご主人様を困らせるのは本意ではありません。
畑仕事を終えた後、疲れた体にムチ打って修繕する姿を見ると罪悪感も湧いてきます。
新しい竹で塞がれた穴の痕を見るたび、迷惑掛けるからもう止めようと思います。
ですがどうにも抑えられないのです。ご主人様への愛が。
他の蟲達は“ご飯くれるから”とか“育ててくれたから”とか、
そんな理由で村人に従っていますが、わたしはご主人様を愛しています。
その愛が蟲カゴをぶち破り、建物へ侵入し、布団へと潜り込ませるのです。
むちろん結ばれることなんて無いというのは理解しています。
ご主人様は人間で、わたしはムカデ。
わたしはご主人様が望むなら、喜んで肉奴隷でも何にでもなる所存ですが、
突然ご主人様が蟲姦趣味に目覚めない限り、その可能性は零でしょう。
今のわたしには妄想の中で愛し合うのが精々です。
カゴの大穴をしばらく見ていたご主人様ですが、気を取り直すと、
物置に入ってクワなどを取り出します。
それらを肩に担いでさあ行こうかという時、村人がやってきました。
彼は長の側近で、伝令役を務めることが多い人物です。
「おーう、おはよう。今から畑行くとこか？
悪りぃがお前の向きの“仕事”が来たから、先に長の家に行ってくれや」
彼はそう言い、さっさと立ち去ります。
ご主人様は顔を固くすると道具を物置に戻し、畑とは逆方向にある長の家の方へ歩み去っていきました。
山中にある特産品も何も無い村。
そんな村がそれなりに裕福であるのは、たくさんお金をもらえる“仕事”があるからです。
“仕事”の内容は様々ですが、“ニンジャ”という人がやることとよく似ています。
“ニンジャ”と違うのは、村人は自分でやらず蟲にやらせるということでしょうかね。
まあ、金があるのにこんな山奥に暮らしているのはそういう理由なのです。
ご主人様に仕事が与えられた夜のこと。
わたしは開いたままの大穴から、カゴを抜け出します。
そしていつものようにご主人様の寝室へ。
寝相がいいご主人さまは普段はスヤスヤと静かに寝ているのですが、
今日はうなされながら寝返りを打っています。
ご主人様はいつもそうです。
“仕事”をもらった日と終えた日は必ず悪夢にうなされます。
そして悪夢の内容は決まって同じ。
．
．
．
．
．
数年前。
快晴で風も無いとても天気のいい日のこと。
ご主人様は蟲使いの最終試験のため、わたしを連れて長の家を訪れていました。
試験場としても使われる長の家の庭はとても広いです。
ちょっとした広場くらいはあるでしょうか。
その広場の中心には地面に突き立った丸太があり、
そこには一人の男が縄で縛り付けられていました。
男は“許してくれ”だの“一生かけてでも償うから”だのと散々喚きます。
しかし長はその懇願に耳も貸さず、低い声でご主人様に言いました。
“そいつを殺せ”と。
蟲使いの仕事は色々ですが、殺人は誰でも行います。
そのため長は最終試験として蟲を使った殺しをさせるのです。
その練習台には、たいてい奴隷や死刑囚がなります。
ご主人様のアゴを緊張の汗がつたいます。
固く握った拳が震え、つばを飲み込む音が聞こえました。
しかしご主人様は命令を出そうとはしません。
叫び疲れた男を前に、ただ立っているだけです。
そうして固まってしまったご主人様に、長が声をかけました。
“そいつは死罪になるほどの罪を犯している。
お前がやらなくてもどのみち死んでいた人間だ。
何も気にすることは無い。さあ、やるんだ”
死んで当たり前の人間だと長はご主人様に語りかけます。
それに応え、ご主人様は口を開き命令を……下しません。
痛いような苦しいような顔で歯を噛み締めます。
長はその姿にため息をつくと、縛られた男に近寄りました。
そして腰にさした刀を一閃。ハラリと縄が解け、男は自由の身になります。
長は刀を納めると、今度は脇差を抜いて男の前に放り投げました。
“そこにいる子供を殺せ。できればお前を放してやる”
本当に死んでもいいと思っているのか、ただの発破かけか。
長の真意はわたしには分かりません。
男はその言葉を理解するのに少し時間をかけたようですが、
生き延びる光明があると知ると、脇差を拾ってご主人様に突貫してきました。
遠目に分かるほどに震えていたご主人様も、命の危機とあって反射的に命令を出します。
そして命令通りにわたしは“きっちりと”やりました。
服を除き、全て平らげた後。
長はご主人様に合格だと告げ、脇差を回収し家の中へ戻って行きました。
広場に残ったのはわたしとご主人様の二人だけ。
長の姿が消えるや否やご主人様は、へたっ…と地に膝をつきました。
そして土下座するように丸くなると、唸るように泣き始めます。
見ず知らずの人間が予定通りに死んだだけなのになぜそんなに苦しそうなのか。
わたしは心配になり触覚でペタペタ頭に触れましたが、ご主人様はこちらを見てもくれません。
当時のわたしは同属殺しは人間の間で禁忌だということを知らなかったので、
ご主人様が泣き止むまで、ただオロオロすることしかできませんでした。
．
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．
ときおり涙を零しながら、ごめんなさい…と呟くご主人様。
人間の女だったら、きっと涙を拭ったり抱きしめたりするのでしょう。
ですがわたしには指も腕もありません。ただ傍にいることしかできないのです。
ああ神様、魔王様。
一晩だけでいいですから、わたしを人間の姿にしてくれないでしょうか。
せめて涙を拭うくらいのことはさせてもらえないでしょうか。
（……そんなことあるわけないですよね。馬鹿馬鹿しい）
所詮叶わぬ願いだと自嘲しながら、わたしは布団へ潜り込んで意識を閉じました。
眠りについてどれだけの時間が経ったのか。
わたしはふと目が覚めました。
障子ごしに外から入る光はとても弱く、時刻はまだ薄明のころでしょう。
うなされていたご主人様も、今はもうすっかり熟睡中。
もう一度眠ろうかと、少し身をよじったとき変な感覚がしました。
（なんでしょう？ 前方の足がおかしな……え？）
感覚というのは言葉では説明できません。
あえて言葉で形容するなら、指一本動かせなかった寝たきりの人間が、
突然五体満足になるようなものでしょうか。
わたしが動かした前方の足。
それは肌色で柔らかくて五本の指を備えていました。
「え？ え？ なにこれ……あれ？ あ、あ、あー。あいうえおー」
キチキチと軋む音しか発さないはずの口から、聞いたことも無い女の声が飛び出ました。
一体何が起きたというのでしょうか？
わたしはご主人様を起こさないようそっと布団を抜け出します。
そして部屋の隅にある姿見の前に立ち―――驚きました。
目の前の鏡に映っていたのは一級の美女。
どこか陰鬱な雰囲気がありますが、普通の男なら百人中九十八人が振り返るであろう美貌。
魔鏡か何かではないかと、後ろを振り向いてみますが誰もいません。
実は夢の中ではないかと頬をつねって―――痛い。
えーと、痛いから現実で、他に誰もいなくて………やっぱりわたし？
現実について行けず困惑していたわたしでしたが、救いはすぐに訪れました。
魔物なら誰でも持っている魔王との繋がり。そこから意思が伝わってきたのです。
魔王が代替わりしたこと。全ての魔物が女の姿になったこと。
人間を愛し大事にすること。その他色々。
わたしは全てを理解すると同時に狂喜しました。
サキュバスの魔力により変化したこの体。
これならばご主人様と―――。
わたしはご主人様の元へ戻ると掛け布団を剥ぎました。
そして覆い被さり、唇を重ねます。
まずは試しにチュッチュッと軽く。その次に息を止めて深く。
すると息苦しくなったご主人様が眠りから目覚めます。
目蓋を開いたご主人様は目の前にある女の顔に驚いた様子。
その隙に舌を侵入させ、毒液を口の中へ流し込みます。
わたしを押し退けようとしたご主人様は媚薬と化した毒にやられ、たちまちのうちに体が弛緩。
力無く腕を投げだし、熱くなった呼吸と共に言葉を吐き出しました。
お前は何者か。
どうやってここへ入ったのか。
何が目的か。
わたしはそれを一つずつ答えていきます。
「わたしはムカデですよ。ご主人様の可愛いムカデです」
そう言って笑みを浮かべて見せましたが、ご主人様は疑いの眼差し。
まあ、わたし自身もそうだったのですから仕方ありません。
「色々省きますけど、夜の間に魔王が代替わりしてこんな姿になったんです。
ほら、触角や下半身は前と同じでしょう？」
わたしはこれが証明だとユラユラ触角を揺らし、顎肢をカチカチ鳴らしました。
ご主人様はイマイチ釈然としない顔ですが、とりあえず納得はしてくれたようです。
こんな格好で盗みに入る泥棒なんていませんからね。
「どうやって入ったかですが、それはいつもと同じように天井裏から入りました」
わたしは一部の板が外れている天井を指差します。
正確に言うと入ったのは姿が変わる前なのですが、細かいことはいいでしょう。
「それで目的はですね……」
わたしは羽織っている暗色の着物を肩から崩し、耳元に口を寄せ囁きます。
「……ご主人様との交尾です」
完全に予想外だったのかご主人様は“ハァ？”という顔。
「新しい魔王はサキュバスだそうで、わたしにもその魔力が流れているんです。
だから人間男性との交わりが必要なんですよ」
そう言い放ち、わたしはするりと着物を下ろします。
あまり大きく無い胸が露出し、ふるりと揺れました。
「見ての通り、上半身は人間の女とほとんど同じですよ。
いえ、サキュバス分でもっとすごいかもしれませんね。
どうです？ 交尾したくなりませんか？」
わたしはご主人様のはだけた寝巻の隙間から手を入れ、胸板をそっと撫でます。
普段ならどうということもないでしょうが、毒が効いているご主人様には、これでもかなりの快感のはず。
「撫でられただけでも気持ち良いですよね？
このまま交尾したらどんなことになるか……知りたくありません？」
わたしはそう言って、ご主人様の胸をさわさわと撫で続けます。
やがてご主人様は積もり重なっていく快感に耐えられなくなったのか、
躊躇いを含ませつつも“知りたい”と言ってくれました。
わたしはご主人様の了承を得て、その服を脱がします。
まだ暗い部屋の中で布団の上に横たわるご主人様の裸。
弛緩している体の中、唯一元気な男性器。
わたしはその上に新しくできた人間の女性器を位置させます。
「ではご主人様、入れますね……」
パックリ割れた肉の穴。
わたしはそこにご主人様の男性器を受け入れます。
「ん…ぐっ…！ こっ、これが…ご主人様の……っ！？」
人間の体器官を受け入れる感覚。そんなの言葉では説明できません。
オスのムカデ相手では決して味わえなかったであろう、快感と充足感がするばかりです。
「あ…あ…どんどん、入って……来ます…っ！」
ご主人様の性器がずぶずぶとわたしの体の中に沈んでいきます。
夢にまで見たご主人様との交わり。
それを現実に行っている感動に涙がポロポロと零れ落ちました。
そしてその様子を不思議に思ったのか、何故泣いているのかとご主人様が質問してきます。
「わたし…ずっと、こうしたかったんです……。
ご主人様と交尾して、子供が欲しいって…。
でもわたしは蟲だからって、人間じゃないからって思ってて……」
これは喜びの涙だと、わたしは心中を告白します。
しかしそれを聞いたご主人様は複雑な顔。
ムカデに好意を寄せられていたとあれば、そんな顔になるのも当然でしょうね。
「ご主人様が蟲姦趣味にならないかって、昔から願ってました…。
産卵孔に生殖器をねじ込んで、卵に精をかけて欲しいって…。
そうです、わたしは人姦趣味の変態ムカデだったんです……」
こんなことを聞かされて、ご主人様は引いてしまうのではないか。
そう考えてもわたしの口は止まりませんでした。
いままでの思いを全て吐き出そうと、勝手に動いて言葉を発します。
「ご主人様ぁ…好きです、本当に大好きです……愛してます…」
何よりも伝えたかった言葉。それを最後にわたしの口は閉じました。
言葉で思いを伝えるのはこれが限界。これ以上は体で伝えるしかないでしょう。
わたしは腰を動かし、柔らかい肉の筒でご主人様の性器を刺激します。
ムカデの産卵孔よりずっと具合が良いであろう人間の女性器。
難しい顔をしていたご主人様もその快感に蕩けていきます。
「んっ……ご主人、様っ…！ もう、出ますかっ……！？」
弛緩して動かないはずのご主人様の体。
それがわずかとはいえ、下から突き上げてきています。
きっと絶頂が近づいたせいで、性欲が毒の効果を上回ったのでしょう。
「いつでも…出して、いいですよ…っ！ ご主人様の、好きな時に―――っ！」
ビクンと跳ねて、呻きを漏らすご主人様。
それと同時に、わたしの腹の中に熱い塊がべちゃべちゃと叩きつけられました。
「あっ…ご主人様の、精っ……！ もっと…ください…っ！」
他人の体液を注ぎ込まれるなんて、本来不快極まりないはずです。
ですが今のわたしは凄まじい快感に襲われ、もっと欲しいとねだりました。
ご主人様はそれに応えてくれたのか、精を放ちながら性器を押し付けてきます。
「んぎ……っ！ 奥まで…べとべとっ……！」
うまい具合にハマったのか、精が子宮の中まで入り込んできました。
ご主人様には言っていませんが、今のわたしは人間との間に子供を作れます。
以前は妄想の中でしかありえなかった人間とムカデの混血児。
それがデキたらいいなあと思いながら、わたしは快感に浸りました。
新魔王の影響で魔物は変わりました。
一番大きいのは外見ですが、精神の変化もそれに劣るものではありません。
新しくなった魔物は人間を愛しその命を大事に扱います。
これはつまり、村人の主要な収入元であった“仕事”ができなくなるということです。
最初は“この村もお終いだ”と村人たちは嘆きました。
ですが蟲たちが傍で愛を囁き、快楽に満ちた交わりを行ううちにそれも消えました。
別に“仕事”ができなくなっても死ぬわけではないですからね。
さらにいうと蟲には毒を持つ者が多いです。
魔物の毒はやり方次第で強力な魔法薬の材料になるので、
これからはそういう方面で稼ごうかという気風にもなりつつあります。
もちろんムカデであるわたしも毒があるので協力しています。
魔法薬というほどではありませんが、効果のある物も一つできました。
緑茶にムカデ毒を混ぜた百足茶。効能は滋養強壮と不老長寿、そして強力な回春。
ただ、ハチ毒やサソリ毒でも似た物ができるので、ムカデならではの売りはありません。
それなので今のご主人様は毒の違いが強く発揮されるようになる配合を研究しています。
毒と茶葉の比率を変えてみたり、別の薬草を混ぜてみたり。
今のところ目立った成果は出ていませんが、わたしはそれでもいいかなと思います。
だって、実験と称してわたしの毒入り茶を何杯も飲んでくれるんですからね。
わたしは物置小屋に隣接する蟲カゴを抜け出します。
蟲カゴは頑丈な竹で組まれていますが、ムカデのアゴで齧ってしまえば簡単に壊せるのです。
ボリボリ、ガリガリ、ペッ。
わたしはカゴに穴を開けると口にした竹を吐き出しました。
ムカデは竹なんて食べませんから。
わたしは足音を殺しながらサササ…と家へ近寄り壁を登ります。
入口はしっかりと戸締りがされているからこれは仕方ありません。
わたしは屋根の隙間からそーっと屋根裏へ侵入し、ご主人様の部屋へ行きます。
そしてご主人様の部屋の上へ辿り着くと、天井板を外してその中へ潜入。
畳の上へ降りると、白い布団に包まれて静かに眠っているご主人様が複眼に映りました。
（ご主人様、今日は寒いです。温めてください……）
魔物とはいえムカデのわたしは変温動物。寒いより温かい方が良いのです。
わたしはご主人様の布団に潜り込み、その体温を感じながら眠りにつきました。
―――ゴロン、と体をひっくり返された衝撃でわたしは目が覚めました。
またカゴを抜け出して……と呟くのはご主人様。
わたしはワサワサワサ…と足を蠢かせながら体をくねらせ起き上がります。
（おはようございます、ご主人様）
わたしはギチギチとアゴを軋ませて挨拶をしますが、ご主人様は何も反応してくれません。
人間の言葉を喋れないのだから仕方ないのですが、わたしはとても残念です。
ご主人様は起き上がると乱れた服を正し、寝室を出ます。
木張りの廊下を進んでとあるふすまを開くと、ちゃぶ台を前に座るお父さま。
ご主人様は“おはよう、父さん”とあくびを噛み殺しながら挨拶をします。
箸でおかずをつまもうとしていたお父さまは、ご主人様の挨拶でちゃぶ台から視線を上げました。
そしてその目にわたし達を捉えるとまたか…といった顔になります。
「おまえまた蟲と同衾したのか。懐いてるといってもそいつはれっきとした魔物なんだ。
ちゃんと管理しておかないと、痛い目に遭いかねないぞ？」
蟲使いとしてまだまだ半人前だなと、お父さまの厳しい言葉。
ご主人様は“やりたくてやってるんじゃない”とこぼして、自分もちゃぶ台の前に座ります。
そうすると台所にいたお母さまが、おぼんで朝食をもってきました。
それが目の前に置かれるとご主人様は“いただきます”とちゃんと手を合わせて食べ始めます。
わたし達の住んでいる村はいわゆる山中の隠れ里なので、おかずは専ら山の幸。
山菜やキノコがほとんどです。
ムカデのわたしは肉食性なので、ご主人様と同じものは食べられません。
いえ、無理に食べようとすれば食べられるのですが、消化不良は確実なので。
ご主人様がもしゃもしゃと植物どもを口に運ぶのを、わたしはしばし眺めます。
そして箸を置いて“ご馳走様でした”といったところで、食後のお茶の時間。
お母さまが熱々の緑茶を湯のみに入れて持ってきました。
気を付けなさいよとお母さまが一声かけて、ご主人様に手渡します。
フーフーと息を吹きかけて、お茶を冷まそうとするご主人様。
わたしはその背後から首を突き出し、毒牙からポタポタッと毒液をお茶に混入します。
大百足の毒は傷口から入れば命を奪う猛毒ですが、
胃から取り込めば強力な滋養強壮の薬にもなります。
ご主人様にはぜひとも健康でいて欲しいとわたしは願うので、
こういう機会があれば毎回しているのですが……。
“またやりやがったコイツ”とご主人様はこぼして、ペシンとわたしの頭を叩きます。
そして立ち上がると、台所へお茶を流しにいってしまいました。
（……また飲んでもらえなかった）
味も香りもあまり変わらないはずなのに、ご主人様は毒液を入れると毎回捨てにいきます。
一度くらいは飲んでくれてもいいと思うのですが……。
毎度のこととはいえ、わたしはガックリ。
いつか飲んでくれたらいいなあ……と未来に希望を託し涙を飲み込みます。
まあ、節足動物のわたしに涙腺なんてありませんけど。
朝食が終わった後は畑仕事。
色々な事情でこの村はそれなりに裕福なのですが場所が場所。
店なんてないので、食料ぐらい自給自足しなくてはならないのです。
野良着に着替えたご主人様は水筒を持ち、物置へ農作業具を取りに行きます。
そして大穴のあいた蟲カゴを見て、はぁ……とため息をつきました。
なんでお前はカゴでじっとしていられないんだろうなあ、と語りかけるご主人様。
ご主人様はこのあと暇を見てこの穴を修繕しなければならないので、
そう愚痴りたくなるのは仕方ないかもしれません。
別にわたしもご主人様を困らせるのは本意ではありません。
畑仕事を終えた後、疲れた体にムチ打って修繕する姿を見ると罪悪感も湧いてきます。
新しい竹で塞がれた穴の痕を見るたび、迷惑掛けるからもう止めようと思います。
ですがどうにも抑えられないのです。ご主人様への愛が。
他の蟲達は“ご飯くれるから”とか“育ててくれたから”とか、
そんな理由で村人に従っていますが、わたしはご主人様を愛しています。
その愛が蟲カゴをぶち破り、建物へ侵入し、布団へと潜り込ませるのです。
むちろん結ばれることなんて無いというのは理解しています。
ご主人様は人間で、わたしはムカデ。
わたしはご主人様が望むなら、喜んで肉奴隷でも何にでもなる所存ですが、
突然ご主人様が蟲姦趣味に目覚めない限り、その可能性は零でしょう。
今のわたしには妄想の中で愛し合うのが精々です。
カゴの大穴をしばらく見ていたご主人様ですが、気を取り直すと、
物置に入ってクワなどを取り出します。
それらを肩に担いでさあ行こうかという時、村人がやってきました。
彼は長の側近で、伝令役を務めることが多い人物です。
「おーう、おはよう。今から畑行くとこか？
悪りぃがお前の向きの“仕事”が来たから、先に長の家に行ってくれや」
彼はそう言い、さっさと立ち去ります。
ご主人様は顔を固くすると道具を物置に戻し、畑とは逆方向にある長の家の方へ歩み去っていきました。
山中にある特産品も何も無い村。
そんな村がそれなりに裕福であるのは、たくさんお金をもらえる“仕事”があるからです。
“仕事”の内容は様々ですが、“ニンジャ”という人がやることとよく似ています。
“ニンジャ”と違うのは、村人は自分でやらず蟲にやらせるということでしょうかね。
まあ、金があるのにこんな山奥に暮らしているのはそういう理由なのです。
ご主人様に仕事が与えられた夜のこと。
わたしは開いたままの大穴から、カゴを抜け出します。
そしていつものようにご主人様の寝室へ。
寝相がいいご主人さまは普段はスヤスヤと静かに寝ているのですが、
今日はうなされながら寝返りを打っています。
ご主人様はいつもそうです。
“仕事”をもらった日と終えた日は必ず悪夢にうなされます。
そして悪夢の内容は決まって同じ。
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数年前。
快晴で風も無いとても天気のいい日のこと。
ご主人様は蟲使いの最終試験のため、わたしを連れて長の家を訪れていました。
試験場としても使われる長の家の庭はとても広いです。
ちょっとした広場くらいはあるでしょうか。
その広場の中心には地面に突き立った丸太があり、
そこには一人の男が縄で縛り付けられていました。
男は“許してくれ”だの“一生かけてでも償うから”だのと散々喚きます。
しかし長はその懇願に耳も貸さず、低い声でご主人様に言いました。
“そいつを殺せ”と。
蟲使いの仕事は色々ですが、殺人は誰でも行います。
そのため長は最終試験として蟲を使った殺しをさせるのです。
その練習台には、たいてい奴隷や死刑囚がなります。
ご主人様のアゴを緊張の汗がつたいます。
固く握った拳が震え、つばを飲み込む音が聞こえました。
しかしご主人様は命令を出そうとはしません。
叫び疲れた男を前に、ただ立っているだけです。
そうして固まってしまったご主人様に、長が声をかけました。
“そいつは死罪になるほどの罪を犯している。
お前がやらなくてもどのみち死んでいた人間だ。
何も気にすることは無い。さあ、やるんだ”
死んで当たり前の人間だと長はご主人様に語りかけます。
それに応え、ご主人様は口を開き命令を……下しません。
痛いような苦しいような顔で歯を噛み締めます。
長はその姿にため息をつくと、縛られた男に近寄りました。
そして腰にさした刀を一閃。ハラリと縄が解け、男は自由の身になります。
長は刀を納めると、今度は脇差を抜いて男の前に放り投げました。
“そこにいる子供を殺せ。できればお前を放してやる”
本当に死んでもいいと思っているのか、ただの発破かけか。
長の真意はわたしには分かりません。
男はその言葉を理解するのに少し時間をかけたようですが、
生き延びる光明があると知ると、脇差を拾ってご主人様に突貫してきました。
遠目に分かるほどに震えていたご主人様も、命の危機とあって反射的に命令を出します。
そして命令通りにわたしは“きっちりと”やりました。
服を除き、全て平らげた後。
長はご主人様に合格だと告げ、脇差を回収し家の中へ戻って行きました。
広場に残ったのはわたしとご主人様の二人だけ。
長の姿が消えるや否やご主人様は、へたっ…と地に膝をつきました。
そして土下座するように丸くなると、唸るように泣き始めます。
見ず知らずの人間が予定通りに死んだだけなのになぜそんなに苦しそうなのか。
わたしは心配になり触覚でペタペタ頭に触れましたが、ご主人様はこちらを見てもくれません。
当時のわたしは同属殺しは人間の間で禁忌だということを知らなかったので、
ご主人様が泣き止むまで、ただオロオロすることしかできませんでした。
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ときおり涙を零しながら、ごめんなさい…と呟くご主人様。
人間の女だったら、きっと涙を拭ったり抱きしめたりするのでしょう。
ですがわたしには指も腕もありません。ただ傍にいることしかできないのです。
ああ神様、魔王様。
一晩だけでいいですから、わたしを人間の姿にしてくれないでしょうか。
せめて涙を拭うくらいのことはさせてもらえないでしょうか。
（……そんなことあるわけないですよね。馬鹿馬鹿しい）
所詮叶わぬ願いだと自嘲しながら、わたしは布団へ潜り込んで意識を閉じました。
眠りについてどれだけの時間が経ったのか。
わたしはふと目が覚めました。
障子ごしに外から入る光はとても弱く、時刻はまだ薄明のころでしょう。
うなされていたご主人様も、今はもうすっかり熟睡中。
もう一度眠ろうかと、少し身をよじったとき変な感覚がしました。
（なんでしょう？ 前方の足がおかしな……え？）
感覚というのは言葉では説明できません。
あえて言葉で形容するなら、指一本動かせなかった寝たきりの人間が、
突然五体満足になるようなものでしょうか。
わたしが動かした前方の足。
それは肌色で柔らかくて五本の指を備えていました。
「え？ え？ なにこれ……あれ？ あ、あ、あー。あいうえおー」
キチキチと軋む音しか発さないはずの口から、聞いたことも無い女の声が飛び出ました。
一体何が起きたというのでしょうか？
わたしはご主人様を起こさないようそっと布団を抜け出します。
そして部屋の隅にある姿見の前に立ち―――驚きました。
目の前の鏡に映っていたのは一級の美女。
どこか陰鬱な雰囲気がありますが、普通の男なら百人中九十八人が振り返るであろう美貌。
魔鏡か何かではないかと、後ろを振り向いてみますが誰もいません。
実は夢の中ではないかと頬をつねって―――痛い。
えーと、痛いから現実で、他に誰もいなくて………やっぱりわたし？
現実について行けず困惑していたわたしでしたが、救いはすぐに訪れました。
魔物なら誰でも持っている魔王との繋がり。そこから意思が伝わってきたのです。
魔王が代替わりしたこと。全ての魔物が女の姿になったこと。
人間を愛し大事にすること。その他色々。
わたしは全てを理解すると同時に狂喜しました。
サキュバスの魔力により変化したこの体。
これならばご主人様と―――。
わたしはご主人様の元へ戻ると掛け布団を剥ぎました。
そして覆い被さり、唇を重ねます。
まずは試しにチュッチュッと軽く。その次に息を止めて深く。
すると息苦しくなったご主人様が眠りから目覚めます。
目蓋を開いたご主人様は目の前にある女の顔に驚いた様子。
その隙に舌を侵入させ、毒液を口の中へ流し込みます。
わたしを押し退けようとしたご主人様は媚薬と化した毒にやられ、たちまちのうちに体が弛緩。
力無く腕を投げだし、熱くなった呼吸と共に言葉を吐き出しました。
お前は何者か。
どうやってここへ入ったのか。
何が目的か。
わたしはそれを一つずつ答えていきます。
「わたしはムカデですよ。ご主人様の可愛いムカデです」
そう言って笑みを浮かべて見せましたが、ご主人様は疑いの眼差し。
まあ、わたし自身もそうだったのですから仕方ありません。
「色々省きますけど、夜の間に魔王が代替わりしてこんな姿になったんです。
ほら、触角や下半身は前と同じでしょう？」
わたしはこれが証明だとユラユラ触角を揺らし、顎肢をカチカチ鳴らしました。
ご主人様はイマイチ釈然としない顔ですが、とりあえず納得はしてくれたようです。
こんな格好で盗みに入る泥棒なんていませんからね。
「どうやって入ったかですが、それはいつもと同じように天井裏から入りました」
わたしは一部の板が外れている天井を指差します。
正確に言うと入ったのは姿が変わる前なのですが、細かいことはいいでしょう。
「それで目的はですね……」
わたしは羽織っている暗色の着物を肩から崩し、耳元に口を寄せ囁きます。
「……ご主人様との交尾です」
完全に予想外だったのかご主人様は“ハァ？”という顔。
「新しい魔王はサキュバスだそうで、わたしにもその魔力が流れているんです。
だから人間男性との交わりが必要なんですよ」
そう言い放ち、わたしはするりと着物を下ろします。
あまり大きく無い胸が露出し、ふるりと揺れました。
「見ての通り、上半身は人間の女とほとんど同じですよ。
いえ、サキュバス分でもっとすごいかもしれませんね。
どうです？ 交尾したくなりませんか？」
わたしはご主人様のはだけた寝巻の隙間から手を入れ、胸板をそっと撫でます。
普段ならどうということもないでしょうが、毒が効いているご主人様には、これでもかなりの快感のはず。
「撫でられただけでも気持ち良いですよね？
このまま交尾したらどんなことになるか……知りたくありません？」
わたしはそう言って、ご主人様の胸をさわさわと撫で続けます。
やがてご主人様は積もり重なっていく快感に耐えられなくなったのか、
躊躇いを含ませつつも“知りたい”と言ってくれました。
わたしはご主人様の了承を得て、その服を脱がします。
まだ暗い部屋の中で布団の上に横たわるご主人様の裸。
弛緩している体の中、唯一元気な男性器。
わたしはその上に新しくできた人間の女性器を位置させます。
「ではご主人様、入れますね……」
パックリ割れた肉の穴。
わたしはそこにご主人様の男性器を受け入れます。
「ん…ぐっ…！ こっ、これが…ご主人様の……っ！？」
人間の体器官を受け入れる感覚。そんなの言葉では説明できません。
オスのムカデ相手では決して味わえなかったであろう、快感と充足感がするばかりです。
「あ…あ…どんどん、入って……来ます…っ！」
ご主人様の性器がずぶずぶとわたしの体の中に沈んでいきます。
夢にまで見たご主人様との交わり。
それを現実に行っている感動に涙がポロポロと零れ落ちました。
そしてその様子を不思議に思ったのか、何故泣いているのかとご主人様が質問してきます。
「わたし…ずっと、こうしたかったんです……。
ご主人様と交尾して、子供が欲しいって…。
でもわたしは蟲だからって、人間じゃないからって思ってて……」
これは喜びの涙だと、わたしは心中を告白します。
しかしそれを聞いたご主人様は複雑な顔。
ムカデに好意を寄せられていたとあれば、そんな顔になるのも当然でしょうね。
「ご主人様が蟲姦趣味にならないかって、昔から願ってました…。
産卵孔に生殖器をねじ込んで、卵に精をかけて欲しいって…。
そうです、わたしは人姦趣味の変態ムカデだったんです……」
こんなことを聞かされて、ご主人様は引いてしまうのではないか。
そう考えてもわたしの口は止まりませんでした。
いままでの思いを全て吐き出そうと、勝手に動いて言葉を発します。
「ご主人様ぁ…好きです、本当に大好きです……愛してます…」
何よりも伝えたかった言葉。それを最後にわたしの口は閉じました。
言葉で思いを伝えるのはこれが限界。これ以上は体で伝えるしかないでしょう。
わたしは腰を動かし、柔らかい肉の筒でご主人様の性器を刺激します。
ムカデの産卵孔よりずっと具合が良いであろう人間の女性器。
難しい顔をしていたご主人様もその快感に蕩けていきます。
「んっ……ご主人、様っ…！ もう、出ますかっ……！？」
弛緩して動かないはずのご主人様の体。
それがわずかとはいえ、下から突き上げてきています。
きっと絶頂が近づいたせいで、性欲が毒の効果を上回ったのでしょう。
「いつでも…出して、いいですよ…っ！ ご主人様の、好きな時に―――っ！」
ビクンと跳ねて、呻きを漏らすご主人様。
それと同時に、わたしの腹の中に熱い塊がべちゃべちゃと叩きつけられました。
「あっ…ご主人様の、精っ……！ もっと…ください…っ！」
他人の体液を注ぎ込まれるなんて、本来不快極まりないはずです。
ですが今のわたしは凄まじい快感に襲われ、もっと欲しいとねだりました。
ご主人様はそれに応えてくれたのか、精を放ちながら性器を押し付けてきます。
「んぎ……っ！ 奥まで…べとべとっ……！」
うまい具合にハマったのか、精が子宮の中まで入り込んできました。
ご主人様には言っていませんが、今のわたしは人間との間に子供を作れます。
以前は妄想の中でしかありえなかった人間とムカデの混血児。
それがデキたらいいなあと思いながら、わたしは快感に浸りました。
新魔王の影響で魔物は変わりました。
一番大きいのは外見ですが、精神の変化もそれに劣るものではありません。
新しくなった魔物は人間を愛しその命を大事に扱います。
これはつまり、村人の主要な収入元であった“仕事”ができなくなるということです。
最初は“この村もお終いだ”と村人たちは嘆きました。
ですが蟲たちが傍で愛を囁き、快楽に満ちた交わりを行ううちにそれも消えました。
別に“仕事”ができなくなっても死ぬわけではないですからね。
さらにいうと蟲には毒を持つ者が多いです。
魔物の毒はやり方次第で強力な魔法薬の材料になるので、
これからはそういう方面で稼ごうかという気風にもなりつつあります。
もちろんムカデであるわたしも毒があるので協力しています。
魔法薬というほどではありませんが、効果のある物も一つできました。
緑茶にムカデ毒を混ぜた百足茶。効能は滋養強壮と不老長寿、そして強力な回春。
ただ、ハチ毒やサソリ毒でも似た物ができるので、ムカデならではの売りはありません。
それなので今のご主人様は毒の違いが強く発揮されるようになる配合を研究しています。
毒と茶葉の比率を変えてみたり、別の薬草を混ぜてみたり。
今のところ目立った成果は出ていませんが、わたしはそれでもいいかなと思います。
だって、実験と称してわたしの毒入り茶を何杯も飲んでくれるんですからね。
13/01/24 18:27更新 / 古い目覚まし