保健室の魔物
一日の授業が終わり、放課後。
部活のある奴は部室へ向かい、それ以外の奴は下校する。
しかし自分はどちらでもない。
人気のない保健室のドアをコンコン。
「いるわよー」
中からくぐもった女の声が聞こえる。
……やっぱり、今日もいるんだな。
嫌悪と期待を胸に、建て付けの悪いドアを開く。
するとカーテンに仕切られたベッドの向こうに人の影。
いつものようにカーテンを除けて、声の主へ近づく。
「今日は遅かったじゃない。何やってたのよ」
美しい顔に、可愛らしい声。胸も並程度にはある女生徒。
何も知らなければぜひお付き合いして頂きたい相手だろう。
だが、その下半身はヘビそのもの。
掃除中に面倒事が起きて先生呼びに行ってたんだよ。
後処理に手間取って時間がかかったんだ。
「不可抗力ってわけね。なら特別に許してあげる。
じゃあ脱いで。アタシに精をよこしなさい」
精というのは男性が持つ魔力で、文字通り精液に大量に含まれているらしい。
この女はセックスで男から魔力を奪い取るのだ。
そして下半身がアレである通り、彼女は人間ではない。
本人は異世界から来た魔物……と自称している。
まあ、地球産だろうが異世界産だろうが、人外のバケモノに変わりはない。
なぜ自分がそんなバケモノと密会しているのかというと、
不幸な偶然で彼女の正体を知ってしまったから。
口封じに殺されはしなかったが、このことを秘密にし、魔力を捧げろと脅してきた。
断ったらどうなるかは頭の悪い自分でも見当がつく。
それで自分は身の安全と引き換えに、バケモノとまぐわうはめになったのだ。
学ランを脱いで床に落とす。Yシャツのボタンをプチプチ外して肌着を脱ぐ。
「ほらほら、まだ下が残ってるわよ」
わかってるよ。いちいち言わないでくれ。
彼女は立場が上なのをいいことに、目の前でストリップさせてくるのだ。
もう何度もやっているけど、露出趣味なんて無い自分はいまだに恥ずかしい。
ベルトを外しズボンを下ろす。残りはパンツ一枚。
そのパンツは見事にテントが立っていた。
「最後の一枚、早く脱ぎなさいよ」
そう言って笑いを浮かべる彼女はとっくに裸。
彼女は確かにバケモノだが、ヘビの部分を除くと、これ以上ないってぐらいの女の子だ。
視界にその姿を収める自分が勃起してしまっても責められはしない……と思う。
バケモノに促され最後の一枚を脱ぎ捨てる自分。
普通の人間ならそのまま二人でベッドに倒れこむのだろうが、彼女はそんなことはしない。
「じゃあ今日もたっぷり貰うわよ」
上半身の数倍の長さがある下半身。彼女は自分を中心にトグロを巻いてくる。
ちゃんとした方法があるのか、彼女は巻き終わると必ず自分の正面に会い向かう。
すぐ目の前にある顔。
人間にはあり得ない金色の瞳を見ていると吸いこまれそうになる。
これが人外の魅力ってものなのか。
好きでもないのに自然と顔が引き寄せられ、口づけをしてしまう。
「むっ……ん、ぷ…ぁ……っ」
こちらは軽く触れただけだが、向こうは舌を深く差し込んで唾液溢れるキスをしてくる。
髪が融合してできた蛇がこちらの頭に絡み付いているので、彼女の気が済むまで離れることはできない。
しばらく舌を絡めあい、顎がベトベトになった頃、ようやく頭を解放してくれた。
「ふぅ……アンタはよだれも美味しいわね」
精液のみならず、汗や唾液にも魔力は含まれているらしい。
魔力を糧にしている彼女には、ただの唾液も美味に感じられるのだろうか?
「でも、やっぱりメインはこっちよね」
そう言って彼女は男性器を片手で撫でてきた。
「さっきからペタペタお腹に当たってるわよ。……アンタ、そんなにアタシが好きなんだ?」
そう言って彼女はニヒヒと笑うが、自分は首を横に振る。
快楽は嫌いじゃないけど、彼女自体はあまり……。
だって人外だし。半分ヘビだし。脅してくるし。
その行動に気分を害したのか、女生徒は急に不機嫌になる。
「そうよねぇ……、アタシはバケモノだものねぇ……。
じゃあ、そのバケモノのまんこでヒイヒイ言わせてあげるわっ…!」
人肌とウロコの境界にある女性器。
彼女はドロドロと体液を零すその穴でいきなりモノを咥えこんだ。
ぐっ…! 熱い……っ!
人間女性との性体験はない自分だが、それでもこの快楽が人外の物だとは認識できる。
なにしろ肉壁のひだひだが、髪の蛇のようにまとわりつき快感を与えてくるから。
そして彼女が体をうねらせ精を搾りとろうと、昔テレビで見た踊るコブラのように動く。
できるならば自分も激しく動き、腰をぶつけ合いたい。
だが、蛇体で全身を巻かれている今の自分は自由に動くことができない。
せいぜい腰が少し動く程度。
快楽の全ては彼女が生み出し、そして叩きつけてくるのだ。
「ほらっ、どうしたのっ……! アタシが嫌いなんでしょ…!?
なに情けない顔で、舌だしてるのよっ!」
動けない動けない動けない。
一方的に与えられる快感に舌を出して喘いでしまう。
「所詮は性欲に抗えない、ダメ男のくせに…! アタシを断るだなんてっ!」
さっきの返答がよっぽど気にくわなかったのか、彼女は半分涙目で動き続ける。
これほど激しいのは初めて。まるで快楽で自分を殺そうとしているかのようだ。
あががが……まずい、このままでは、壊れてしまう…。
脳が、脳が快感で破裂して―――。
「なんで腰動かしてんのよっ! 大嫌いな女でもまんこだけは別ってワケ!?」
故障している自分の頭ではよく分からないけれど、彼女は怒っているらしい。
何か自分が傷付けるような事を言ったのだろうか。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。好きです、好きです、大好き。
何を口にしているのか、どういう意味なのか、壊れかけの自分には分からない。
「そんなんじゃ足りないわよっ! あと100回は言わないと許してあげないからねっ!」
好きです、好きです、好き好き好き―――。
射精が近づくにつれ早口言葉のように加速していく。
「ああそう、アンタはアタシが好きなのね! 全部の精を捧げられるぐらい愛してるのねっ!?
きっちり言葉にして言ってみせなさいっ!」
好き好き好き―――愛してる。
「アタシもアンタが大好きよっ! 孕みたいぐらいにね!
っていうかアタシを愛してるなら子供の一人ぐらい身籠らせなさいっ!」
声は荒いけどトゲトゲした雰囲気は消えた。
上半身に巻き付いていた蛇の尾が外れ、女生徒が両腕で抱きしめてくる。
そして自由になった腕で自分も彼女を抱き返す。
胸の柔らかさと人肌の熱さを感じながら自分は彼女の中に射精した。
射精後の虚脱感を抜けると、今さっきの交わりのヤバさが思い起こされる。
ブツ切りにしか憶えていないけど、廃人になりそうなほどの快楽とか、本気で殺すつもりだったんじゃ……。
「んふふ……今さっき、自分で言ったこと忘れてないわよねぇ?」
抱き合ったままの彼女が笑みを浮かべて話しかけてきた。
そういえば好きとか言ったような気もする。曖昧だけど。
「アタシははっきり聞いたわよ。愛してるってね」
あの時は心身喪失していたから無効じゃ……というかそっちも色々口走ってなかったか。
「言ったわよ、アタシはアンタが好きって」
どういう心境の変化なんだ? ただの食糧だって言ってたくせに。
「最初は精だけ貰おうと思ってたんだけどね。ずーっとヤってるうちに好きになっちゃった」
そんな理由で好きになるのか?
「そんな理由って言うけど、アタシみたいなのはそれで十分な理由になるのよ」
そういうものなのか。しかしヘビ女に好きって言われても……。
人外からの告白に渋い顔になってしまう自分。
「不満なの? だったらさっきみたいにして何度も好きって言わせちゃおうかな。
アタシは別にアンタがエロいことしか考えられないようになってもいいし」
やっぱりこの女はバケモノだ。
好きな相手が性のことしか頭にない廃人になっても構わないとは。
別に不満なんてないよ。
ただ自分としては好きな相手とはセックス以外のこともしたいなー、と思ってさ。
「あー、手作り弁当とか、一緒に下校とかそういうことしたいワケ?
いいわよー、好きな相手ならそのぐらいはやってあげなくちゃね」
彼女は本当に好かれたと思ったのか、楽しそうに笑った。
……まさか保身のために、好きだという態度を取らないといけなくなるとは。
翌日。
午前の授業が終わり、パンでも買いに行くかと腰を上げたとき友人に声をかけられた。
「おーい、なんかオマエさんにお客が来てるぞ」
お客? 一体誰……あ。
ドアの方に目を向けると散々見知った顔の女生徒が手を振っていた。
「ずいぶん綺麗な子だけど……あんな上玉がウチの学年にいたっけかな?」
あれだけの美人、忘れるとは思えないんだけど……と友人は首をひねる。
友人の記憶は間違っていない。
彼女は魔法で色々誤魔化して、学校に通っているんだから。
女生徒に連れられ中庭へ。
多数あるテーブルでは寂しい一人飯から、複数の女に囲まれているモテ野郎まで様々な連中が食事を取っている。
そんな風景を横目に眺めながら、隅にある小さめのテーブルに二人でつく。
自分たちは彼らからすれば、普通のカップルに見えるんだろうな。
「アンタがセックス以外もしたいっていうから、作ってあげたわよ。味は保証しないけど」
そう言って彼女は弁当箱のフタを外す。
その中身は意外なことに見た目も品物もごく普通だった。
「ほら、口開けなさい口。アタシが入れてあげるから」
彼女は箸を取り出し、唐揚げを挟むとそれを近づけてくる。
これは“あーん”しろということか?
「あーんして、あーん」
断るわけにはいかないよな……。
仕方ないので口を開ける。そこに彼女がヒョイっと唐揚げを放り込んだ。
そしてモシャモシャと咀嚼して―――あ、美味しい。
保証しないなんて言ってた割に、なかなかの味だった。
揚げ立ての熱い物を味わってみたくなるぐらい。
その感想が顔に出てたのか、彼女は機嫌良さそうに笑う。
「気に入った? じゃあこっちも食べてみて」
そう言って今度は卵焼きを近づけてくる女生徒。
それに口を開きながら自分は思う。
ずっとこのままの姿でいてくれたらなあ……。
今の彼女は人間の姿に化けている。
金色の瞳は誰も気に留めない普通の色。
蛇髪はサラサラの美しい髪に。
あれだけ長かった下半身も、細くて色白の二本足だ。
現金だけど、もっと人間に近い形をしていれば、人外のバケモノでも嫌悪感を持たなかったと思う。
だが、彼女にそれを伝えたら怒るだろう。
そして今度こそ廃人にしてくるに違いない。
なのでそんな考えは卵焼きとともに飲み込んだ。
女生徒が恋人っぽく振る舞うようになって、しばらくした日のこと。
いつも通りに保健室へ行くと、扉の向こうから声が聞こえた。
「―――でね、それを使えば……」
「……うん、ありがと! お返しは必ず―――」
よく聞こえないが誰かと話しているようだ。
入っていいのかな……?
しばらく扉の前で迷っていた自分だが、話が終わったのか内側から扉が開かれた。
「あら、あなたが彼氏さん? さっそく来たわよー!」
扉を開けた女性は来訪を伝えると、すぐ横をすり抜けて何処かへ行ってしまった。
……親しげに話していたということは、いまの女も魔物なんだろうな。
そう思い自分は中へ入って扉を閉める。
今日の彼女はカーテンに隠れていないのに正体を現していた。
「いらっしゃーい。今日はいい物もらったから早速使うわよー」
なんか機嫌がいいけど……何をもらったって?
訊ねると彼女は錠剤の入ったビンを振って見せた。
「排卵剤……っていうの? 子供ができる薬を友達からもらったのよ。
こっちの世界はこんな物があって便利よねー」
じょ、冗談じゃ……。
自分は彼女とのセックスで避妊なんてしたことは一度もない。
なぜなら避妊なんて許してくれなかったから。
最初の頃は子供ができたらどうしようと心配だったが、
魔物の妊娠確率はとても低いと本人から聞くことでなんとか安心できた。
もちろん運が悪ければデキるのだろうが、その時はその時と投げやりに考え、あえて頭から追い出していたのだ。
しかし目の前の物を使われれば話は別。
確実に妊娠すると分かっていてセックスなんてできるわけない。
「嬉しくないの? アタシと子供を作れるのよ?」
自分の態度が面白くないのか、女生徒は口をとがらせる。
バケモノとの子供なんて欲しくない……なんて言えない。
もし言ったら即廃人コースだ。
この状況を打開するには、子供は欲しいけど今はダメと納得させるしかない。
別に今じゃなくてもいいんじゃないか?
「なんでよ。アタシは今すぐにも欲しいんだけど」
えーと、ほら、自分はまだ未成年だし。
「アタシだって20歳いってないわよ」
学校! 二人とも学校があるんだから子育てする時間がないよ!
「アンタは学校通ってていいわよ。アタシはしばらく登校しないけど」
か、金もないんだ…。赤ん坊抱えて三人で路頭に迷うなんて―――。
「ご両親をバカにするわけじゃないけど、アタシはアンタの家よりお金持ってるわよ」
その後も苦し紛れに問題点を挙げてみたが、彼女はその全てをクリアしていく。
もう問題が思い浮かばない……。
「アンタも心配性ねぇ……。そこまで気にする必要なんてないのに」
彼女は子供を気にして訊いていると受け取っているのか、苦笑い。
……ダメだ、詰んでいる。
自分にできるのは諦めて子供を作るか、拒否して廃人にされた上で子供を作らされるか。
選択肢があるようで結果はほとんど同じ。
……わかったよ。じゃあ作ろう、子供。
「ええ、作りましょう。薬飲んでから効果出るまでちょっとかかるから待っててね」
ビンのフタを外し、手のひらにザラザラと錠剤を落とす女生徒。
どのぐらい飲む気なんだ。
「だいたい2錠でデキるって言ってたけど、10倍も飲めば確実よね。ちょっと水くんない?」
保健室備品のコップに水を入れ彼女に渡す。
すると彼女は20錠をバリボリと噛み砕いて一気に水で流しこんだ。
「苦いわね……薬ってなんで甘いのがないんだろ」
知らないよそんなの。
その後服を脱いで、薬が効果を表すまで二人して待った。
そしてついに効果を発揮したのか、女生徒の顔色が目に見えて青くなる。
「う……気持ち悪い…」
そりゃ10倍も飲めばな。調子悪いなら今日はやめないか?
もしかして逃れられるかもと期待し提案してみる自分。
「だめよ……今日作るって、決めたんだもの………ぅぅっ」
呻きながらベッドに仰向けに寝る彼女。
蛇の下半身は寝床をはみ出し、ぐてっと力なく床に垂れている。
「ちょっと…動けそうにないから、アンタがシテくんない……?」
え……自分で孕ませるのか?
「お願いよぉ……アンタも欲しいんでしょぉ……」
欲しくない欲しくない。でもいまさら逃げ出すわけにもいかない。
もう諦めながら、無防備に寝ている彼女にのしかかる。
「こうするのは…初めてよね……」
そうだな、いつもこっちが巻き付かれていたから。
「今回は、アンタの好きにしていいよ……」
好きにしていいというなら、自分はさっさと終わらせる。
なのでキスなどはせずに、すぐ挿入する。
「んっ……もう入れるなんて…早く、欲しいの?」
早く終わらせたい=早く射精したい=早く孕ませたい。
彼女の頭の中では右項に変換されているのだろうか。
薬の飲みすぎで不調なのか、今の彼女の中は普段と比べて快楽が弱め。
なので射精するまでの時間が少し長く、その分多く動くことになる。
「あっ…あっ…好き…っ! ぎゅって、して……!」
腕を広げ、抱き締めて欲しいとねだってくる。
応えて背中に手を回してやると、彼女は顔をほころばせた。
「好きっ…! 大好きよっ…! 何人でも、産んであげるっ…!」
自分はあまり好きじゃない。何人ものヘビ女と生活するのはお断りしたい。
そう心の中で思いながら、受精の準備を終えた彼女の子宮に精を放出した。
「あ、あ、出て…るっ! 赤ちゃん、できてるっ……!」
妊娠の喜びがよほど強いのか、蛇の尾がびったんびったんと床に叩きつけられ、音を立てた。
「あー……、これで完璧――――う!」
女生徒は突然目を見開くと自分を突き飛ばした。
細腕からは考えられない力でベッドの足もとへ転がされる自分。
そして彼女は手を付いて身を起こすと、下を向く。
「お、お…お……お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ゛っ゛!」
人外のバケモノでも10倍はきつかったのか、胃の中身を全て吐き戻す彼女。
薬の溶け込んだ消化液がビチャビチャと口から排出される。
吐瀉物が白いシーツの上に広がり、じわじわとベッドに染み込んでいく。
汚いな……と思うけど、何もしなかったら後で言われそうなんで背中をさすってやった。
「ハァ、ハァ…ハァ……っ。あ、ありがとう…楽になったわ……」
吐く位ならあんなに飲むなよ。
「だって、どうしても子供欲しかったんだもん…」
そうかい。それで、できたのか?
「それはバッチリよ。アタシたちの血が混じったのはしっかり感じたわ」
そ、そうなのか……。
ここまできっぱり言うなら本当にデキてしまったのだろう。
この歳で父親の上に、相手は人外とか……はぁ。
子供ができた後も、やることは変わらない。
毎日毎日セックスして精を捧げている。
最近の自分は少しづつ膨らんでいく腹にやや鬱気味だ。
そんなある日。精を捧げた後のピロートーク。
「もうそろそろ、産まれるわね」
少しばかり膨らんだ腹を撫でながら少女が言った。
え、まだ10ヶ月経ってないぞ。
「アタシみたいなタマゴを産む魔物は妊娠期間が短いのよ」
そうなのか? っていうかタマゴを産むの!?
「そうよ。下半身を見て分からなかったの?」
分かるわけない。
セックスに使っている部分は人間と同じなんだから、胎生妊娠すると思うのが普通じゃないのか?
「とにかくもうすぐ―――あっ!」
彼女が突然言葉を切る。
どうした―――なんて聞くまでもないな。
「うんっ…産まれ、る……よっ!」
臨月の妊婦に比べてずいぶん小さい腹の膨らみ。
それがゆっくり移動しているのが見える。
「あ…ぁっ…! たっ、タマゴが……! 通って…るっ!」
彼女の女性器が広がり、奥から白い物を押し出そうとする。
色的にどう見ても胎児には思えない。
「あぅぅ…、見え、てるっ…?」
ウミガメの様に涙をこぼしながら彼女は訊いてくる。
ああ見えてるよ。もうすぐ外へ出るぞ。
そう言った所で、体液に濡れたタマゴがヌルリと穴から顔を出した。
アレが自分の子供か。
自分は人間なのにその子供はタマゴで産まれてくるとは。
あまり愛情持てそうにないなぁ……。
「あ、あ、あ、出ちゃうっ……! アタシ…ママになっちゃうよ……っ!」
どこか冷めた自分の頭とは反対に、彼女は出産の熱にうなされている。
全然苦しそうに見えないけど、もしかして気持ち良いのだろうか?
やがて彼女がブルリと全身を波打たせると、穴からボトリとタマゴが落ちた。
様々な体液でべた付いているそれを拾って眺めてみる。
自分はタマゴと聞いて鶏のような物を想像したけど、表面は柔らかく、分厚い膜といった感じだ。
指で押してみると、ふにふにと凹む。
蛍光灯の光にかざしてみると、うっすらと中にいる子供のシルエットが透けて見えた。
一通り観察したので、力が抜けてベッドに伏せている少女の横にタマゴを置く。
すると彼女は大事そうにタマゴを持ちあげてキスをした。
「んー、アタシの赤ちゃん、早く孵化してねー」
……孵化、ね。
一体どのくらいで孵化するんだ?
「だいたい5ヶ月くらい。妊娠期間が短いだけで、結局外に出るには10ヶ月ほどかかるのよ」
5ヶ月か。
その間に、子供を可愛がる練習もしておかないとなぁ……。
面倒な事が増えたと、頭の中で思う自分。
少しでも鬱を吐き出そうとため息一つき、タマゴを撫でてやった。
部活のある奴は部室へ向かい、それ以外の奴は下校する。
しかし自分はどちらでもない。
人気のない保健室のドアをコンコン。
「いるわよー」
中からくぐもった女の声が聞こえる。
……やっぱり、今日もいるんだな。
嫌悪と期待を胸に、建て付けの悪いドアを開く。
するとカーテンに仕切られたベッドの向こうに人の影。
いつものようにカーテンを除けて、声の主へ近づく。
「今日は遅かったじゃない。何やってたのよ」
美しい顔に、可愛らしい声。胸も並程度にはある女生徒。
何も知らなければぜひお付き合いして頂きたい相手だろう。
だが、その下半身はヘビそのもの。
掃除中に面倒事が起きて先生呼びに行ってたんだよ。
後処理に手間取って時間がかかったんだ。
「不可抗力ってわけね。なら特別に許してあげる。
じゃあ脱いで。アタシに精をよこしなさい」
精というのは男性が持つ魔力で、文字通り精液に大量に含まれているらしい。
この女はセックスで男から魔力を奪い取るのだ。
そして下半身がアレである通り、彼女は人間ではない。
本人は異世界から来た魔物……と自称している。
まあ、地球産だろうが異世界産だろうが、人外のバケモノに変わりはない。
なぜ自分がそんなバケモノと密会しているのかというと、
不幸な偶然で彼女の正体を知ってしまったから。
口封じに殺されはしなかったが、このことを秘密にし、魔力を捧げろと脅してきた。
断ったらどうなるかは頭の悪い自分でも見当がつく。
それで自分は身の安全と引き換えに、バケモノとまぐわうはめになったのだ。
学ランを脱いで床に落とす。Yシャツのボタンをプチプチ外して肌着を脱ぐ。
「ほらほら、まだ下が残ってるわよ」
わかってるよ。いちいち言わないでくれ。
彼女は立場が上なのをいいことに、目の前でストリップさせてくるのだ。
もう何度もやっているけど、露出趣味なんて無い自分はいまだに恥ずかしい。
ベルトを外しズボンを下ろす。残りはパンツ一枚。
そのパンツは見事にテントが立っていた。
「最後の一枚、早く脱ぎなさいよ」
そう言って笑いを浮かべる彼女はとっくに裸。
彼女は確かにバケモノだが、ヘビの部分を除くと、これ以上ないってぐらいの女の子だ。
視界にその姿を収める自分が勃起してしまっても責められはしない……と思う。
バケモノに促され最後の一枚を脱ぎ捨てる自分。
普通の人間ならそのまま二人でベッドに倒れこむのだろうが、彼女はそんなことはしない。
「じゃあ今日もたっぷり貰うわよ」
上半身の数倍の長さがある下半身。彼女は自分を中心にトグロを巻いてくる。
ちゃんとした方法があるのか、彼女は巻き終わると必ず自分の正面に会い向かう。
すぐ目の前にある顔。
人間にはあり得ない金色の瞳を見ていると吸いこまれそうになる。
これが人外の魅力ってものなのか。
好きでもないのに自然と顔が引き寄せられ、口づけをしてしまう。
「むっ……ん、ぷ…ぁ……っ」
こちらは軽く触れただけだが、向こうは舌を深く差し込んで唾液溢れるキスをしてくる。
髪が融合してできた蛇がこちらの頭に絡み付いているので、彼女の気が済むまで離れることはできない。
しばらく舌を絡めあい、顎がベトベトになった頃、ようやく頭を解放してくれた。
「ふぅ……アンタはよだれも美味しいわね」
精液のみならず、汗や唾液にも魔力は含まれているらしい。
魔力を糧にしている彼女には、ただの唾液も美味に感じられるのだろうか?
「でも、やっぱりメインはこっちよね」
そう言って彼女は男性器を片手で撫でてきた。
「さっきからペタペタお腹に当たってるわよ。……アンタ、そんなにアタシが好きなんだ?」
そう言って彼女はニヒヒと笑うが、自分は首を横に振る。
快楽は嫌いじゃないけど、彼女自体はあまり……。
だって人外だし。半分ヘビだし。脅してくるし。
その行動に気分を害したのか、女生徒は急に不機嫌になる。
「そうよねぇ……、アタシはバケモノだものねぇ……。
じゃあ、そのバケモノのまんこでヒイヒイ言わせてあげるわっ…!」
人肌とウロコの境界にある女性器。
彼女はドロドロと体液を零すその穴でいきなりモノを咥えこんだ。
ぐっ…! 熱い……っ!
人間女性との性体験はない自分だが、それでもこの快楽が人外の物だとは認識できる。
なにしろ肉壁のひだひだが、髪の蛇のようにまとわりつき快感を与えてくるから。
そして彼女が体をうねらせ精を搾りとろうと、昔テレビで見た踊るコブラのように動く。
できるならば自分も激しく動き、腰をぶつけ合いたい。
だが、蛇体で全身を巻かれている今の自分は自由に動くことができない。
せいぜい腰が少し動く程度。
快楽の全ては彼女が生み出し、そして叩きつけてくるのだ。
「ほらっ、どうしたのっ……! アタシが嫌いなんでしょ…!?
なに情けない顔で、舌だしてるのよっ!」
動けない動けない動けない。
一方的に与えられる快感に舌を出して喘いでしまう。
「所詮は性欲に抗えない、ダメ男のくせに…! アタシを断るだなんてっ!」
さっきの返答がよっぽど気にくわなかったのか、彼女は半分涙目で動き続ける。
これほど激しいのは初めて。まるで快楽で自分を殺そうとしているかのようだ。
あががが……まずい、このままでは、壊れてしまう…。
脳が、脳が快感で破裂して―――。
「なんで腰動かしてんのよっ! 大嫌いな女でもまんこだけは別ってワケ!?」
故障している自分の頭ではよく分からないけれど、彼女は怒っているらしい。
何か自分が傷付けるような事を言ったのだろうか。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。好きです、好きです、大好き。
何を口にしているのか、どういう意味なのか、壊れかけの自分には分からない。
「そんなんじゃ足りないわよっ! あと100回は言わないと許してあげないからねっ!」
好きです、好きです、好き好き好き―――。
射精が近づくにつれ早口言葉のように加速していく。
「ああそう、アンタはアタシが好きなのね! 全部の精を捧げられるぐらい愛してるのねっ!?
きっちり言葉にして言ってみせなさいっ!」
好き好き好き―――愛してる。
「アタシもアンタが大好きよっ! 孕みたいぐらいにね!
っていうかアタシを愛してるなら子供の一人ぐらい身籠らせなさいっ!」
声は荒いけどトゲトゲした雰囲気は消えた。
上半身に巻き付いていた蛇の尾が外れ、女生徒が両腕で抱きしめてくる。
そして自由になった腕で自分も彼女を抱き返す。
胸の柔らかさと人肌の熱さを感じながら自分は彼女の中に射精した。
射精後の虚脱感を抜けると、今さっきの交わりのヤバさが思い起こされる。
ブツ切りにしか憶えていないけど、廃人になりそうなほどの快楽とか、本気で殺すつもりだったんじゃ……。
「んふふ……今さっき、自分で言ったこと忘れてないわよねぇ?」
抱き合ったままの彼女が笑みを浮かべて話しかけてきた。
そういえば好きとか言ったような気もする。曖昧だけど。
「アタシははっきり聞いたわよ。愛してるってね」
あの時は心身喪失していたから無効じゃ……というかそっちも色々口走ってなかったか。
「言ったわよ、アタシはアンタが好きって」
どういう心境の変化なんだ? ただの食糧だって言ってたくせに。
「最初は精だけ貰おうと思ってたんだけどね。ずーっとヤってるうちに好きになっちゃった」
そんな理由で好きになるのか?
「そんな理由って言うけど、アタシみたいなのはそれで十分な理由になるのよ」
そういうものなのか。しかしヘビ女に好きって言われても……。
人外からの告白に渋い顔になってしまう自分。
「不満なの? だったらさっきみたいにして何度も好きって言わせちゃおうかな。
アタシは別にアンタがエロいことしか考えられないようになってもいいし」
やっぱりこの女はバケモノだ。
好きな相手が性のことしか頭にない廃人になっても構わないとは。
別に不満なんてないよ。
ただ自分としては好きな相手とはセックス以外のこともしたいなー、と思ってさ。
「あー、手作り弁当とか、一緒に下校とかそういうことしたいワケ?
いいわよー、好きな相手ならそのぐらいはやってあげなくちゃね」
彼女は本当に好かれたと思ったのか、楽しそうに笑った。
……まさか保身のために、好きだという態度を取らないといけなくなるとは。
翌日。
午前の授業が終わり、パンでも買いに行くかと腰を上げたとき友人に声をかけられた。
「おーい、なんかオマエさんにお客が来てるぞ」
お客? 一体誰……あ。
ドアの方に目を向けると散々見知った顔の女生徒が手を振っていた。
「ずいぶん綺麗な子だけど……あんな上玉がウチの学年にいたっけかな?」
あれだけの美人、忘れるとは思えないんだけど……と友人は首をひねる。
友人の記憶は間違っていない。
彼女は魔法で色々誤魔化して、学校に通っているんだから。
女生徒に連れられ中庭へ。
多数あるテーブルでは寂しい一人飯から、複数の女に囲まれているモテ野郎まで様々な連中が食事を取っている。
そんな風景を横目に眺めながら、隅にある小さめのテーブルに二人でつく。
自分たちは彼らからすれば、普通のカップルに見えるんだろうな。
「アンタがセックス以外もしたいっていうから、作ってあげたわよ。味は保証しないけど」
そう言って彼女は弁当箱のフタを外す。
その中身は意外なことに見た目も品物もごく普通だった。
「ほら、口開けなさい口。アタシが入れてあげるから」
彼女は箸を取り出し、唐揚げを挟むとそれを近づけてくる。
これは“あーん”しろということか?
「あーんして、あーん」
断るわけにはいかないよな……。
仕方ないので口を開ける。そこに彼女がヒョイっと唐揚げを放り込んだ。
そしてモシャモシャと咀嚼して―――あ、美味しい。
保証しないなんて言ってた割に、なかなかの味だった。
揚げ立ての熱い物を味わってみたくなるぐらい。
その感想が顔に出てたのか、彼女は機嫌良さそうに笑う。
「気に入った? じゃあこっちも食べてみて」
そう言って今度は卵焼きを近づけてくる女生徒。
それに口を開きながら自分は思う。
ずっとこのままの姿でいてくれたらなあ……。
今の彼女は人間の姿に化けている。
金色の瞳は誰も気に留めない普通の色。
蛇髪はサラサラの美しい髪に。
あれだけ長かった下半身も、細くて色白の二本足だ。
現金だけど、もっと人間に近い形をしていれば、人外のバケモノでも嫌悪感を持たなかったと思う。
だが、彼女にそれを伝えたら怒るだろう。
そして今度こそ廃人にしてくるに違いない。
なのでそんな考えは卵焼きとともに飲み込んだ。
女生徒が恋人っぽく振る舞うようになって、しばらくした日のこと。
いつも通りに保健室へ行くと、扉の向こうから声が聞こえた。
「―――でね、それを使えば……」
「……うん、ありがと! お返しは必ず―――」
よく聞こえないが誰かと話しているようだ。
入っていいのかな……?
しばらく扉の前で迷っていた自分だが、話が終わったのか内側から扉が開かれた。
「あら、あなたが彼氏さん? さっそく来たわよー!」
扉を開けた女性は来訪を伝えると、すぐ横をすり抜けて何処かへ行ってしまった。
……親しげに話していたということは、いまの女も魔物なんだろうな。
そう思い自分は中へ入って扉を閉める。
今日の彼女はカーテンに隠れていないのに正体を現していた。
「いらっしゃーい。今日はいい物もらったから早速使うわよー」
なんか機嫌がいいけど……何をもらったって?
訊ねると彼女は錠剤の入ったビンを振って見せた。
「排卵剤……っていうの? 子供ができる薬を友達からもらったのよ。
こっちの世界はこんな物があって便利よねー」
じょ、冗談じゃ……。
自分は彼女とのセックスで避妊なんてしたことは一度もない。
なぜなら避妊なんて許してくれなかったから。
最初の頃は子供ができたらどうしようと心配だったが、
魔物の妊娠確率はとても低いと本人から聞くことでなんとか安心できた。
もちろん運が悪ければデキるのだろうが、その時はその時と投げやりに考え、あえて頭から追い出していたのだ。
しかし目の前の物を使われれば話は別。
確実に妊娠すると分かっていてセックスなんてできるわけない。
「嬉しくないの? アタシと子供を作れるのよ?」
自分の態度が面白くないのか、女生徒は口をとがらせる。
バケモノとの子供なんて欲しくない……なんて言えない。
もし言ったら即廃人コースだ。
この状況を打開するには、子供は欲しいけど今はダメと納得させるしかない。
別に今じゃなくてもいいんじゃないか?
「なんでよ。アタシは今すぐにも欲しいんだけど」
えーと、ほら、自分はまだ未成年だし。
「アタシだって20歳いってないわよ」
学校! 二人とも学校があるんだから子育てする時間がないよ!
「アンタは学校通ってていいわよ。アタシはしばらく登校しないけど」
か、金もないんだ…。赤ん坊抱えて三人で路頭に迷うなんて―――。
「ご両親をバカにするわけじゃないけど、アタシはアンタの家よりお金持ってるわよ」
その後も苦し紛れに問題点を挙げてみたが、彼女はその全てをクリアしていく。
もう問題が思い浮かばない……。
「アンタも心配性ねぇ……。そこまで気にする必要なんてないのに」
彼女は子供を気にして訊いていると受け取っているのか、苦笑い。
……ダメだ、詰んでいる。
自分にできるのは諦めて子供を作るか、拒否して廃人にされた上で子供を作らされるか。
選択肢があるようで結果はほとんど同じ。
……わかったよ。じゃあ作ろう、子供。
「ええ、作りましょう。薬飲んでから効果出るまでちょっとかかるから待っててね」
ビンのフタを外し、手のひらにザラザラと錠剤を落とす女生徒。
どのぐらい飲む気なんだ。
「だいたい2錠でデキるって言ってたけど、10倍も飲めば確実よね。ちょっと水くんない?」
保健室備品のコップに水を入れ彼女に渡す。
すると彼女は20錠をバリボリと噛み砕いて一気に水で流しこんだ。
「苦いわね……薬ってなんで甘いのがないんだろ」
知らないよそんなの。
その後服を脱いで、薬が効果を表すまで二人して待った。
そしてついに効果を発揮したのか、女生徒の顔色が目に見えて青くなる。
「う……気持ち悪い…」
そりゃ10倍も飲めばな。調子悪いなら今日はやめないか?
もしかして逃れられるかもと期待し提案してみる自分。
「だめよ……今日作るって、決めたんだもの………ぅぅっ」
呻きながらベッドに仰向けに寝る彼女。
蛇の下半身は寝床をはみ出し、ぐてっと力なく床に垂れている。
「ちょっと…動けそうにないから、アンタがシテくんない……?」
え……自分で孕ませるのか?
「お願いよぉ……アンタも欲しいんでしょぉ……」
欲しくない欲しくない。でもいまさら逃げ出すわけにもいかない。
もう諦めながら、無防備に寝ている彼女にのしかかる。
「こうするのは…初めてよね……」
そうだな、いつもこっちが巻き付かれていたから。
「今回は、アンタの好きにしていいよ……」
好きにしていいというなら、自分はさっさと終わらせる。
なのでキスなどはせずに、すぐ挿入する。
「んっ……もう入れるなんて…早く、欲しいの?」
早く終わらせたい=早く射精したい=早く孕ませたい。
彼女の頭の中では右項に変換されているのだろうか。
薬の飲みすぎで不調なのか、今の彼女の中は普段と比べて快楽が弱め。
なので射精するまでの時間が少し長く、その分多く動くことになる。
「あっ…あっ…好き…っ! ぎゅって、して……!」
腕を広げ、抱き締めて欲しいとねだってくる。
応えて背中に手を回してやると、彼女は顔をほころばせた。
「好きっ…! 大好きよっ…! 何人でも、産んであげるっ…!」
自分はあまり好きじゃない。何人ものヘビ女と生活するのはお断りしたい。
そう心の中で思いながら、受精の準備を終えた彼女の子宮に精を放出した。
「あ、あ、出て…るっ! 赤ちゃん、できてるっ……!」
妊娠の喜びがよほど強いのか、蛇の尾がびったんびったんと床に叩きつけられ、音を立てた。
「あー……、これで完璧――――う!」
女生徒は突然目を見開くと自分を突き飛ばした。
細腕からは考えられない力でベッドの足もとへ転がされる自分。
そして彼女は手を付いて身を起こすと、下を向く。
「お、お…お……お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ゛っ゛!」
人外のバケモノでも10倍はきつかったのか、胃の中身を全て吐き戻す彼女。
薬の溶け込んだ消化液がビチャビチャと口から排出される。
吐瀉物が白いシーツの上に広がり、じわじわとベッドに染み込んでいく。
汚いな……と思うけど、何もしなかったら後で言われそうなんで背中をさすってやった。
「ハァ、ハァ…ハァ……っ。あ、ありがとう…楽になったわ……」
吐く位ならあんなに飲むなよ。
「だって、どうしても子供欲しかったんだもん…」
そうかい。それで、できたのか?
「それはバッチリよ。アタシたちの血が混じったのはしっかり感じたわ」
そ、そうなのか……。
ここまできっぱり言うなら本当にデキてしまったのだろう。
この歳で父親の上に、相手は人外とか……はぁ。
子供ができた後も、やることは変わらない。
毎日毎日セックスして精を捧げている。
最近の自分は少しづつ膨らんでいく腹にやや鬱気味だ。
そんなある日。精を捧げた後のピロートーク。
「もうそろそろ、産まれるわね」
少しばかり膨らんだ腹を撫でながら少女が言った。
え、まだ10ヶ月経ってないぞ。
「アタシみたいなタマゴを産む魔物は妊娠期間が短いのよ」
そうなのか? っていうかタマゴを産むの!?
「そうよ。下半身を見て分からなかったの?」
分かるわけない。
セックスに使っている部分は人間と同じなんだから、胎生妊娠すると思うのが普通じゃないのか?
「とにかくもうすぐ―――あっ!」
彼女が突然言葉を切る。
どうした―――なんて聞くまでもないな。
「うんっ…産まれ、る……よっ!」
臨月の妊婦に比べてずいぶん小さい腹の膨らみ。
それがゆっくり移動しているのが見える。
「あ…ぁっ…! たっ、タマゴが……! 通って…るっ!」
彼女の女性器が広がり、奥から白い物を押し出そうとする。
色的にどう見ても胎児には思えない。
「あぅぅ…、見え、てるっ…?」
ウミガメの様に涙をこぼしながら彼女は訊いてくる。
ああ見えてるよ。もうすぐ外へ出るぞ。
そう言った所で、体液に濡れたタマゴがヌルリと穴から顔を出した。
アレが自分の子供か。
自分は人間なのにその子供はタマゴで産まれてくるとは。
あまり愛情持てそうにないなぁ……。
「あ、あ、あ、出ちゃうっ……! アタシ…ママになっちゃうよ……っ!」
どこか冷めた自分の頭とは反対に、彼女は出産の熱にうなされている。
全然苦しそうに見えないけど、もしかして気持ち良いのだろうか?
やがて彼女がブルリと全身を波打たせると、穴からボトリとタマゴが落ちた。
様々な体液でべた付いているそれを拾って眺めてみる。
自分はタマゴと聞いて鶏のような物を想像したけど、表面は柔らかく、分厚い膜といった感じだ。
指で押してみると、ふにふにと凹む。
蛍光灯の光にかざしてみると、うっすらと中にいる子供のシルエットが透けて見えた。
一通り観察したので、力が抜けてベッドに伏せている少女の横にタマゴを置く。
すると彼女は大事そうにタマゴを持ちあげてキスをした。
「んー、アタシの赤ちゃん、早く孵化してねー」
……孵化、ね。
一体どのくらいで孵化するんだ?
「だいたい5ヶ月くらい。妊娠期間が短いだけで、結局外に出るには10ヶ月ほどかかるのよ」
5ヶ月か。
その間に、子供を可愛がる練習もしておかないとなぁ……。
面倒な事が増えたと、頭の中で思う自分。
少しでも鬱を吐き出そうとため息一つき、タマゴを撫でてやった。
12/07/31 17:37更新 / 古い目覚まし