モォーゲル昆虫記
『はい、夏休みの課題は全部もらいましたか? ウゲーなんて顔をするんじゃありません。
あれ? どうしたんだい。頭抱えるにはまだ早いよ。読書感想文の題材に困る?
うーん、そうだなあ。じゃあ先生オススメの本の話をしてあげよう。
モォーゲル昆虫記って知ってるかい?』
砂漠の朝は突発的に風が吹く。
生まれたときから砂漠で暮らしている私の目にも飛ばされた砂が入る。
少しまばたきをすればすぐ落ちるがな。それにしても最近は本当に男日照りだ。
ラクダの商隊はルートを変えたのか?
だとしたらこちらも河岸を変えないと……む。男の気配。
『モォーゲルって言うのは昔の有名な昆虫学者で様々な昆虫を調べ記録を残しているんだ。
しかもその方法が現地まで行って昆虫を捕まえ、元の環境を模した部屋で観察するという手間と金のかかるもの』
カバンを持ってなにかを探すようにキョロキョロする男。
仲間とはぐれでもしたのか? 人間が砂漠で迷ったら枯死するぞ。
…人間が死ぬのは好ましくない。助けてやるか。代償は頂くが命に比べれば安いものだろう。
岩の陰から近づいて……今っ!
『モォーゲルは昆虫の習性をよく研究していたからね。
凶暴な種でもそれを逆手にとって捕まえるなんてのは難しい事じゃなかった』
避けた!? 完璧に不意を突いたのに!?
男は私の毒針を逃れたというのに逃走しない。すこし離れた場所に立ってジッと見つめている。
『憶えている範囲だけど引用するね。【わたしは彼女に呼び掛けた。どうか研究に付き合ってくれないかと。
ところが砂漠の暗殺者は必殺の毒針を避けられたことに憤慨して、聞く耳もたず襲ってきた』
くそっ! この男っ!
どう見ても戦士のような体つきではないのに、的確に尻尾やハサミの死角に入り込んで攻撃をかわす。
私は頭に血が上っていた。簡単に捕まえられると思っていた獲物が、こんなにも逃げ回ることに。
『ダメだ、話が通じない。そう思ったわたしは万が一の時に備えておいた捕獲用トラップを使うことにした』
男がやっと動きを止めた。
汗をダラダラ流し、ゼーゼー息をしているのを見るに体力の限界なのだろう。
……本当にてこずらせてくれた。最初は味見程度で返してやろうと思ったがもう許さん。
この毒をたっぷり注入して何度もごめんなさいと泣き叫ぶまで犯してやる。
男を驚かせてやるために一旦身を隠す。そして音を立てずにソロソロと背後から近づく。
もう少しだ。飛びかかって一気に体を押さえつけてやる。
子宮が疼く。もうすぐで久しぶりの男の精。
バカめ、後ろだ――!
『背後から獲物に近づくのはギルタブリルの常套手段。
飛びかかる寸前に落とし穴を発動させたらあっさり落ちてくれて捕まえられた』
痛っ! なんだ!? 突然暗く…!?
四方は砂の壁。空を見上げたら縁から男が顔を出していた。
「やあ、乱暴な真似をしてすまないね。僕は君が気に入ったんだ。一緒に家まで来てもらうよ」
ふざけるな! 私を拉致するだと!? それはこちらのセリフだ!
張り合うように叫ぶが言葉の代わりに返ってきたのは何かの粉だった。
『わたしは眠りの粉薬でギルタブリルを大人しくさせ、袋に詰めて持ち帰った。
家にはギルタブリルのために用意しておいた砂漠部屋があったのでそこに連れ込んだ』
ん……? ここは……?
見慣れない部屋で目が覚めた。どうも変だと思ったら仰向けに寝ているようだ。
とりあえずうつ伏せに―――動かない?
下半身を見たらロープと杭で地面に縛り付けられていた。そして腕もバンザイのように地に縛られている。
何なのかと疑問に思っていたら、扉を開けてあの男が入ってきた。
「目が覚めたかい。ここは僕の家だよ。砂漠の洞窟に似せて作った部屋だけど居心地はどうだい?」
最悪だ。人間なんかに捕まえられるとは。
「うーん、気に入らなかったのか。それはすまない」
どこかネジが抜けているのか男はズレた謝罪をする。
「謝罪ついでに一つ頼まれてもらえないだろうか?」
断る。と言ったら?
「その時は無理矢理かな。まあ痛くはないと思うけど」
……一体何の頼みだというんだ?
「僕は昆虫の研究家でね。いまの研究対象は君のような上半身が人間そっくりのクモ…アラクネ属って呼ばれる種なんだ。
だから君を色々調べさせてもらいたい。ちゃんと食事は用意するし、事が終わったら元の場所に帰してあげるから」
気にいらないが今の状態では頷く以外の選択肢がない。
わかった、できる範囲で協力してやる。
「ああよかった! 君が協力的で。じゃあさっそく……」
男はいきなり服を脱ぎ出した。おい! そんな格好で何を調べるというんだ!
「これは調査というより実験なんだけどね。交配実験。
君たちアラクネ属は繁殖に人間の男性を必要とし、卵から生まれるのは同族のメスだけ。
他の研究者……世間じゃ変人って言われてるけど、そういう人間がいろいろ試しても、
アラクネのオスや人間が産まれた事例が一度もない。
そして僕が知る限り今現在ギルタブリルを研究している人間は他にはいない。
だからギルタブリルもメスしか生まれないのか実際に試してみようと思ってね」
つまり私とセックスしたいということか。わかった、受けて立ってやるからロープを解け。
「なんで? 僕は君と勝負をしたいわけじゃないんだけど」
男が私の性器を指で開く。そしてすぐ閉じた。何のマネだ?
「性器の形は人間女性と変わりなし。他のアラクネ属との差異も認められない、と。
こんな風に観察して研究するのが僕の趣味だ。本当は仕事と言いたいんだけど、金になるわけじゃないからね。
まあ、こういう感じで君を調べていくわけ。だからセックスの時は自由になって逃げたり反撃したりできると思わない方がいい」
やっぱりこんな手にはかからないか。
「じゃあさっそく、お邪魔させてもらおうかな」
男は大きめのちんぽを取り出すと私の穴にあてがった。
私はこれから犯されるのか。今まで散々男どもを犯し貪ってきた自分が。
皮肉な物だと笑みが零れる。
「はい、入るよー」
特に興奮もない男の声。本当に私はただの研究対象…いや、実験動物なのか。
犯されるのは初めての体験だが、逞しい男性器に私の中のメスが反応してしまう。
んっ……ああ、気持ちいい。男日照りだった私の膣に男の太いモノは砂漠のオアシスのようだ。
「どうだい? 気持ちいいかな? 他と比べて敏感なのか鈍感なのか知りたいんだけど」
私は正直に気持ちいいと答えた。
……しかし他と比べてということは、やっぱり他の魔物にも似たような事をしているのか。
自分と似たような魔物の魔力を感じるし、別種のアラクネか?
「もうすぐ出すよー。出来れば一発で妊娠してほしいなー」
私を孕ませるというのか。いいだろう、やってみろ。
いままで相当膣内射精を受けてきたのに孕んだことなど一度もない。
こんな一度の交わりで妊娠させたなら褒めてやるよ。
膣の中で弾ける感触。熱くてドロドロ……。
腹の中に精が染みこんでくる。美味しい…
…射精したのか、この男は。ろくな反応がないから分かり辛い。
種付けは済んだと、竿をズルリと引き抜く男。
その気持ち良さに私はブルリと身を震わせてしまう。
「とりあえず初日だから一回だけ。あとは妊娠するまで毎日やるからよろしくねー」
そう言って服を身につけ始める男。
……ところで私はこのままなのか。
「悪いけど君を解放したら危なそうだし、しばらくそのままね」
なんてひどい奴だ。寝返りさえうてないのか私は。
部屋のどこかに窓があるのか、日が沈み暗くなってきた頃。
一人のアラクネが食事を持ってきた。
「お疲れさま。あなたがモゲルの新しい研究対象?」
モゲル? あの男の名前か。
「正しくはモォーゲルと言うのだけれどね。発音しずらいから皆モゲルって呼んでるの」
モゲルから漂ってきたアラクネの魔力。あれはお前のものか?
「わたしと他のアラクネね。モゲルってばしょっちゅう興味の矛先が変わって、そのたびに違う魔物を連れ込むのよ」
なんて移り気な奴だ。そんなでよく研究ができるな。
次の日もその次の日も交配実験と称してモゲルは私を犯した。
最初のころは単純に精を味わっていた自分だが、やがて種族本能とでもいうのか一つの衝動が私の精神を覆い始めた。
モゲル、私を上にしてみたらどうだ?
マグロのような私を犯すよりずっと気持ち良くしてやるぞ。
「別に興味無いから」
本当にどうでもよさげな一言に口元を歪めギリッと歯を鳴らす。
犯したい。私は男を犯したいのだ。
ただのセックスでは物足りなくて死んでしまう。
怯える男をハサミで押さえつけ、毒針を突き立てながら、膨張したちんぽをしごき立ててやりたい。
情けないが毎度食事を運んでくるアラクネにロープを緩めてくれと頼んだりもした。
しかしその返答はつれないもの。
「ダメよ。わたしはモゲルの味方だから。
同じアラクネ属として気持ちは分からなくもないけど、我慢してね」
そして私は隠しもせずモゲルに叫ぶようになった。
杭を抜け! お前を犯してやる! そんな言葉を毎日繰り返す。
「元気がいいねえ。アラクネ属は攻撃性が強いけど、ギルタブリルは特にそうなのかな?」
そう言ってモゲルは私の胸を露出させる。自慢ではないがそれなりに大きいと思う。
「じゃ、今回は胸ね。しゃぶってくれるならありがたいけど、嫌なら胸だけでするよ」
胸だけ!? そんなのは嫌だ! 私にしゃぶらせろ! お前のちんぽを口で犯して全部吸い取ってやる!
「あ、やる気なのね。それじゃあ頼むわ」
モゲルは私の胸の谷間に物を挟み、そこから出た先端を口に含ませた。
あ、久しぶりに口で味わう男のちんぽ……。よし、舌でたっぷり舐めまわしてやる…!
以前毒で動けなくなった男にフェラをしてやったことを思い出しながら、口を動かす。
「んー、これは結構いいかも。ちょっと胸借りるよ」
モゲルは私の胸を両手で動かし男性器をしごき始めた。
……ダメだ。これじゃ全然満たされない。私の胸は今のモゲルにとってただのオナニー道具。
モゲルのちんぽをしゃぶる私の口は自慰行為後の吐き出し先。ただの精液便所だ。
どちらが犯しているのかと訊かれれば、100人中99人がモゲルが私の口を犯していると答えるだろう。
涙がこぼれる。誰かの前で泣いたのなんていつ以来だろう。
「もう出るよー。拭うの面倒だから全部飲んじゃってねー」
そんな私の心中などまったく興味を示さずモゲルは射精した。
口の中に広がる精液の味。屈辱を感じながらそれを飲み込む。
相変わらず量も質も上級品。……悔しくてもしっかり味は感じるんだな私の舌は。
一週間か二週間か。
私は毎日犯しつつけるモゲルに暴言を吐く気力は無くなっていった。
「ふぅ…。これで何十回目だっけなあ。妊娠の気配はまだないかい?」
妊娠。別にモゲルの子を孕むことに不服はない。しかし男に犯されて孕むのは嫌だ。
デキないのは私がそう思っているせいもあるのだろうか?
その後もずっと犯され続けたせいか私の頭はおかしくなってしまったらしい。
モゲルが来るのを心待ちにし、人形のように犯されることを不快に思わなくなった。
私の精神は諦めの段階に入ってしまったのだろうか?
あまり反応を返さなくなった私に対しモゲルも喋らなくなった。
それでも毎日何度も犯しにやってくる。
今のモゲルは本当に私を研究対象として見ているのだろうか?
ただの精液便所として、もよおしたときにやって来ているだけじゃないのか?
……もう、それでもいいや。モゲルに犯してもらえるなら便所でも何にでもなってやる。
「君もずいぶんおとなしくなったねえ。そろそろロープといてあげようか?」
モゲルが拘束を解く。ここ来たばかりの私ならモゲルへの逆襲に走っただろうが、今はそんな気はない。
杭を抜かれ下半身が動くようになる。動かしてみるとギチギチという甲殻の擦れる音。
よかった、足は萎えていないようだ。
モゲルは下半身の次に両腕を縛っていたロープを切った。
手首をさする。当然だがアザにはなっていない。
腕のロープを切ったところでモゲルは立ったまま。私をじっと見て観察している。
しばらく見つめ合っていたが、私は彼を迎えるように手足を広げる。
来て……いつもみたいに私を犯して。
モゲルは納得がいったように頷き、仰向けのままの私に覆い被さる。
「自由にしてあげたら、君はどんな風に交尾するのかな」
あくまでも研究者の目で私を見るモゲル。別にいい。愛してほしいなんて言わない。
ただメスとして孕ませてくださいと懇願するだけだ。
モゲルの男性器が私の穴にあてがわれる。毎日のことだが、今日は違う感覚。
「はい、入れるよー」
いつもと同じ抜けた声。だが少しだけ何かを期待するような響きが混じっていた。
今日もたくましいモゲルのちんぽが入ってくる。
普段ならこのあと人形のように腰を振られるだけだが、今の私は手足が使える。
彼に両腕で抱きつき胸を密着。サソリの足を彼の足に絡めて離れないようにする。
保護は大丈夫。モゲルの足が私の甲殻で傷つくなんてことは無い。
自由に動ける私はモゲルに何度もキスをする。
もっと犯して! あなたの便所虫を妊娠させてっ!
「便所虫、ね。そこまで自分を卑下するようになるとはねえ。やっぱアラクネ属は心が折れるとみんな被虐嗜好になるのか」
モゲルが一人でブツブツ言っているけど私の耳には入らない。
「まあいいや。便所を自称するぐらいなら乱暴にやってもいいよね」
そう言ったモゲルは密着している腰をさらに押し込む。
ぐぅっ! しっ、子宮!? モゲルのちんぽが子宮に入ってる!
妊娠を期待して受け入れやすくなっているのだろうか。私の体は最奥まで彼を受けいれた。
「やっぱ、妊娠させるなら一番奥で出さないとね。…有意義なデータはないけど」
モゲルは精液を排出するために遠慮せず私の子宮を蹂躙する。
ゴリゴリと子宮口を往復する彼の男性器。その快感に私は意味のある言葉を出せない。
しかしこれはモゲルが私を気持ち良くさせようとしているのではない。
ただ勝手に私が快楽を感じているだけだ。私の子宮はモゲルの自慰道具。
女の一番大事な所をオナニーに使われるということに、私はもうイってしまいそうになる。
「じゃ、出すよー。今度こそ孕んでねー」
モゲルが射精を始めた。
あはっ! すごい量! いつもより多いっ!? これなら絶対孕むわ!
双子、いや三つ子以上になるかもっ!
子宮を満たして、さらに膣まで溢れるモゲルの精液。便所虫の私がモゲルの子を孕めるという喜び。
精神と肉体を襲う快楽に私は失禁してしまった。
かつてない交尾で私の体は弛緩してしまい、絡めていた手足はモゲルの体を離してしまった。
解放されたモゲルは立ちあがり服を身につける。……ああ、もっと犯してほしいのに。
「今日はこれでおしまい。もう鍵はかけないから部屋から出て自由に過ごしていいよ。
他のアラクネ達もいるから、細かいことは彼女たちに聞いてね」
バタンとドアを閉める音とともに彼の姿は消えた。
…事も終わり、いつまでも寝ているわけにはいかない。
私は本当に久しぶりに地面に立ち、服を身につけた。
扉を開くとそこは石造りの通路。窓からは緑の木々が見える。
オアシスの木々などではありえない。きっと故郷から遠く離れた場所だろう。
本当にあの部屋は砂漠を再現していただけなんだなと私は思う。
そんな風に思いを馳せていたら、世話をしてくれていたアラクネがやってきた。
「こんにちは。あなたも自由になったのね。お友達を紹介するからいらっしゃい」
お友達。そういえば彼女以外の魔力の気配もしたな。
女郎蜘蛛。私には読めない字で書かれたプレートがその扉にあった。
「この部屋の子はね、東の果ての島国からやってきた子なのよ。ちょっと変わってるけど仲良くね」
アラクネが扉を開けて中へ入る。
まず最初に感じたのは湿気。砂漠ではありえないような水の気配。
そこら中のインテリアらしき石にも何かの植物が生えていて緑色が目に刺さる。
「あらー。貴女が新入りさんー?」
私とはまた違う布を纏っているアラクネ属の魔物はのんびりとした口調で話しかけてきた。
「この子はジョロウグモ。のんびりゆったりした性格だからあまり急かさないようにね」
どうも、と挨拶をする私。アラクネには悪いがあまり仲良くされそうにはないな。
素早さ命の暗殺者とおっとり女房では性格が合わなすぎる。
その次に向かった部屋のプレートにはアントアラクネ。
「んー、もうご飯の時間?」
ベッドに寝ている女がアラクネに声をかける。
ジャイアントアントに似た魔物。しかし近い種である私には分かる。こいつはアラクネ属だ。
「ままー、ごはんじゃないみたい。おともだちだって」
小さいけどベッドの女そっくりのアラクネ。きっと母娘だろう。
父親はたぶんモゲルだろうな。ああ羨ましい。私も早く子供を産みたい。
「彼女たちはアントアラクネ。別の魔物に擬態する生態なのね。
普通なら擬態先が世話をしてくれるんだけど、ここには居ないから私が面倒を見ているの」
だらっとした空気がこの部屋に漂っている。……怠け者親子か。
砂漠で怠け者は許されざる者。こいつらは好きになれそうにない。
「まあ、こんな感じよ。あとは――」
天井から声が聞こえてきた。
「はーい! 私でーす! よろしくね、お姉ちゃん!」
小さいアラクネが糸をつたって下がってきた。
「こらっ! そういうことしちゃダメって何度も言ってるでしょう!」
叱るアラクネ。やっぱりあんたの子供か。
自由になった後もやることは変わらない。モゲルとの交尾……いや性処理だ。
私はあの時に妊娠していたようで、やがて腹が出て、胸からは母乳が滲むようになった。
モゲルは栄養補給といって私を犯す頻度が上がった。
嬉しい。彼に使ってもらわなければ精液便所としての私の価値は無くなるのだから。
砂の上に寝そべるモゲル。私がその上に乗り動く。
騎乗位は女性主体というが、私にとってそんなことはあり得ない。
私は下からモゲルに犯されているのだ。
「ふむ。下から交わるギルタブリルはこういう感じなのか。ちょっとミルクもらうよ」
モゲルが手を伸ばし、やや大きくなった私の胸を握りしめる。
乳首がムズムズする感触。やがてピュッと白い液体が噴き出した。
母乳。ついに私はそこまでの体になった。
毒液を注入するのとはまた違う感覚に体が震える。
モゲルは手のひらに私の母乳を受けて舐めて味わう。
「うーん…他のと比べて味が強いかな? 砂漠は水がないから濃い目なのかも」
そんなことは知らない。もっと飲んでほしいと私は自分で胸を揉みしだく。
「別にそんなに要らないんだけどねえ。まあ、せっかくだからもらっとこ」
―――っ! モゲルが私の胸にしゃぶりついた。あ、そんなにチュウチュウ吸われると…っ!
モゲルは片方の乳首から私の母乳を吸い、もう片方を手で刺激し両胸から同量の母乳を搾り取る。
胸を弄られるだけでこの快感。腰まで動かされた私はだらしない声を上げる。
あっ! ミルクっ! そんなに吸われたら赤ちゃんの分がっ…!
ひぃっ! ち、ちんぽまで動いたら私っ…! くぅっ!
せ、精液っ! 私の赤ちゃんにくださいっ! 孕んだ便所虫のまんこにミルクくださいっっ!
モゲルが射精した。子宮のタマゴに遮られて直接打ち付ける感覚は無いけどじんわりと温かさが広がる。
頻繁な栄養補給のおかげかタマゴの成長が早い…らしい。
砂漠の住人から聞いた話と比べて、かなりのスピードで腹が膨らんでいるそうだ。
たしかにそろそろ産まれてもおかしくないと思う。今日はどことなく体調がおかしいし、もしかして…。
そのことをモゲルに伝えたら今日は裸で過ごせと言われ、服を脱がされた。
普段なら裸になれば彼にオネダリするところだけれど、そんな気が起きない。
そしてモゲルも朝からずっと一緒に部屋にいる。
ここまでそろったら、その気がなくても産まれてしましそうだ。
そんなことを考えたとき腹に違和感。そして私の穴から液体が零れ落ちる。
「む、始まったか。ギルタブリルの産卵は初めてだからよーく見ないと…」
モゲルはノート片手に私を見つめる。
はぁ、はぁ…。体が熱い。そして腹の奥で疼くのは快感。
やがて引きつるような感覚がして、子宮口を何かが通りぬけようとした。
あっ! た、タマゴッ! タマゴが出てきてるっ!
私の膣は産道として機能しているにも係わらず、かつてない快楽を与える。
うぐっ…! 私の中を、ズルズルって…、降りてる…!
早く出てくれないと…っ! 母さん、おかしくなっちゃうっ……!
繁殖行為の一歩目であるセックスには快感が伴う。私はそれを熟知していた。
しかし繁殖の最終段階とも言える産卵時の快感は想像を遥かに超えるものだった。
気が狂いそうな快感。早く産まれてほしい。
もし死んでしまうとしても、この快楽を味わっていたい。
二つの思いに板挟みになる私。
快楽に身をよじっていたら、モゲルが目にとまった。
彼は私とノートを交互に見ながらペンを動かしている。
そうだ。私は実験対象なんだ。彼に見てもらわないとっ…!
なるべく体を動かさないようにする。モゲルが観察しやすいように……!
ああ、見られている。私が裸で産卵している姿を。
私はすっかりマゾになってしまったようだ。この姿を目に焼き付けてくれと、身を突き出す。
タマゴはもう出る寸前なのか、穴の入口が広がっている感覚がする。
あっ、もう出るっ……!
今の私は涙もよだれもたらして酷い顔だろう。
見てモゲル! もうすぐあなたの赤ちゃんが出てくるわ! ノートなんてダメ!
ちゃんと観察して、私が産卵するところっ…! 便所虫があなたの子供産むところ見てぇぇっっ!
ゴポッという腹の中に空気が入る音。ベチャリと砂の上に落ちたのは半透明の柔らかい殻に覆われた私の娘。
殻を破るのは先だけど、ちゃんと中は見える。私そっくりのギルタブリルだ。
産み落としたタマゴを確認した後、モゲルに目を移す。
「……やっぱりギルタブリルのメスか。アラクネ属から人間は産まれないのかな……?」
ブツブツ言いながら彼は部屋を出ていく。私へは一言もない。
便所虫の私が思ったらいけないけど、少しぐらいは温かいことを言って欲しかった。
そうでなくても娘ぐらいは抱き上げてもらいたかったのに……。
その日の夜、モゲルは私の部屋へ来て言った。
「ギルタブリルの研究飽きちゃった。近いうちに元の砂漠へ帰してあげるよ。
僕の研究に付き合ってくれてありがとうね。じゃ、おやすみー」
ショックを受けて固まっている私をそのままにさっさと彼は出ていく。
え? 飽きた? 私のことが?
現実感の無さにふわふわした頭で考える。
モゲルが飽きた? 私捨てられるの? 何がいけなかったの?
今までのことを思い出す。交配実験、妊娠した、人間は生まれないのかあ。
……もしかして彼は私に人間の娘を産んでほしかったのだろうか?
下半身がサソリじゃない私そっくりの人間の女。
モゲルはその娘を育て、可愛がり、やがて―――。
私は自分の下半身を見下ろす。
甲殻に覆われたハサミが自分の意思どおりにキチキチと動く。
……これが無くなればモゲルは私を見直してくれるだろうか。
「おはよう……って何してるのあなたっ!」
私たちのリーダー格のアラクネが叫び声を上げる。
何っていらないものを切り離してるのよ。邪魔しないで。
「足が三本も落ちちゃって…早く手当てしないと!」
アラクネの言葉を無視して私は四本目の足関節を挟む。ギルタブリルのハサミは切れ味が悪い。
三本落とすだけで一晩かかった。
最後のハサミは上の手で落とさないとなると終わるまでどれだけ時間がかかるやら。
「やめなさいっ!」
シュルシュルと白い糸が体に巻きつく。アラクネの糸?
出血しすぎたせいか頭がボケている私は拘束されることを防げなかった。
糸でグルグル巻きにされた私はアラクネが足を治しているのをボーッと見ることしかできない。
外骨格の足は傷口を合わせて固定しておけばすぐくっ付いてしまう。ああ、また一からやり直しか。
早くしないと本当に砂漠に捨てられてしまう。
アラクネに解いてくれと何度も言うが彼女は聞く耳を持ってくれない。
ここに来た頃のように、縛られた体で窓から空を見る。
今はもう夜。満月に近い月を眺めていたら涙が零れた。
元の砂漠に捨てられたら私はどうすればいいのだろう。
以前のように通りすがりの男を襲っては犯す生活に戻るのか?
ダメだ、そんなことはできそうにない。私はもうモゲル以外の男とは交わりたくないのだ。
嫌だよ、私を捨てないで。どうにかして必ず人間を産むから。
産卵するだけの奴隷でいいからそばに居させてよ。
顔を拭うこともできずしゃくりあげながら私は泣いた。
涙も枯れた頃。月もずいぶん傾いてきた。もうすぐ東の空が白み陽が昇るだろう。
私は空っぽになった心で空を見上げる。
……そういえば狩りの時間はいつものこのぐらいだったなあ。
人間にとって砂漠の昼は辛いから、まだ涼しい早朝に多くの人が動くのだ。
そして薄暗いから私にとっても身を隠しやすい。
ラクダに乗った旅人に後ろから飛びかかり、傷付けないように落馬させる。
そして止めてくれと叫ぶ男に尾の毒針を―――。
ハッと気付いた。
そういえば私はモゲルに一度も毒針を使っていない。
ギルタブリルの毒針は逃げる男を捕え、無理矢理勃起させて犯すためのもの。
犯されることに慣れてしまった私はそんなこと思いつきもしなかった。
虚ろだった私の心に小さな火種が点る。
そしてそれはスカスカになった私の心を燃料にして一気に燃え上がった。
そうだ。何故思いつかなかったんだ。私はとんだ腑抜けになっていた。
何故モゲルに捨てないでと泣きつかねばならないのか。
逆だ。男を犯しつくして、放さないでくれと言わせるようにするのが正しいギルタブリルの姿。
あは。あはっ! あはははっ! 私はなんてバカだったんだ!
するべきことは下半身の無い人間モドキになることじゃない。
モゲルを地に押し付けて、最後の一滴まで精液を搾り取ってやることだ!
実に爽快な気分だ。問題が解決するということがこれほどの解放感を与えるとは。
そうとなれば早速体調の確認。体が不十分ではろくに犯すこともできない。
上半身…は何の問題も無い。当然だが。
問題は下半身。切り離してしまった3つの足だ。
もう痛みは無いが感覚は全くない。動かせるにはしばらくかかるだろう。
なるべく多く食事をとって、極力安静にする。そうすれば少しは早く治るだろうか。
出来るだけ早く実行に移したいが、失敗しては元も子もない。
静かにしている間、頭の中でシミュレーションしておこう。
動けない私に食事を持ってきたアラクネは、きちんと受け答えする姿を見て正気に戻ったとホッとしていた。
そして二度とあんな事するなとお説教。
たしかに彼女には心配をかけただろう。悪かった、ごめんなさい。
正気に戻ったということで、アラクネは足の固定以外の糸は解いて自由にしてくれた。
負担をかけたくないから歩かないけど。
ほんの数日。
私の足は感覚も戻り動くようになった。しかしまだ完治とはいかない。
「ねえ、あなた本当に砂漠に帰っちゃうの?」
部屋へやってきたアラクネが寂しげに言う。
まさか。万が一帰るとしたらモゲルが一緒に来てくれるときだけだ。
しかしそんなことを言うわけにはいかない。彼女はモゲルの味方だから。
日は進み私を帰す準備は着々と進んでいるらしい。
旅の日程やら道具の手配やらでモゲルは少し忙しいそうだ。
……もうそろそろいいだろうか。
あまりゆっくりしていると不意打ちで眠らされ、気が付いたら砂の海なんて可能性もある。
陽が落ちるのが待ち遠しい。決行は今日の深夜。みんなが寝静まった頃だ。
窓から見える月が南中になった。よし、行くぞ。
音をたてないようにそっと扉を開き廊下へ出る。
床は石造りだが、足音の殺し方は知っている。
私の部屋はアラクネ属だけが住んでいる離れにある。
渡り廊下を通り、モゲルの本宅へ侵入。
モゲルの部屋へ行ったのは一度だけ。えーと、たしか……。
あった、ここだ。私は扉に耳を当てて中を探る。……音はしない。すっかり寝ているな。
ノブを回す。…鍵がかかっていた。しかたない、破ろう。
ハサミを振りかぶって扉に叩きつける。ギルタブリルのハサミは切断力は低いが打撃力は高い。
一撃で蝶つがいは破れ、木の板がバタンと床に倒れる。
モゲルは目を覚ましたが、何が起きたのか理解できずきょろきょろしている。
全くの無防備状態。――チャンス!
私は一気にベッドの上に乗ると毛布をはぎ取り、足とハサミでモゲルを押さえつける。
そして待ちに待った毒針を――突き刺す!
……ああ気持ちいい。今まで散々犯してくれた相手に毒液を注ぎ込むのがこれほどとは。
私たちの毒液注入は男の射精と似たようなものなんだろうか?
あまりに良すぎてブスブスと何度も刺してしまう。
やがて毒が回ったのか、抵抗する力が弱くなった。
「……なんなんだい、こんな時間に」
決まっている。お前を犯しに来てやったんだ。
「僕を犯す? ……うーむ、ギルタブリルは従順になっても突発的に凶暴性が戻るのかなあ」
お前が私を飼い殺しにしていたらそのままだったろうさ。
だが捨てようとしてくれたおかげで、私は本当の自分を取り戻せたんだよ!
「捨てる? そんなこと一度も言ったおぼえは―――」
黙れ。凌辱対象が喋るな。
舌を絡めるキスをしてお喋りな口を封じる。
んっ…モゲルの舌…あったかい…。
ハッ。私は今何を思っていた?
「ん……まあいいや。これも貴重な事例の一つだろうし」
モゲルはまったくおびえた様子を見せない。
……泣き叫ぶなどとは思っていなかったが、反応がなさ過ぎて少し萎える。
逃げ出しはしないだろうから、腕は自由にする。
その代わり、ハサミでパジャマのズボンを引き裂いてやる。
露出したモゲルの男性器はいつも以上に大きく固そうだ。
ちゃんと毒は効いているんだな。耐性があるんじゃないかと一瞬心配したぞ。
腰と胸の布を解き私も裸になる。
乳首と女性器からそれぞれ液体が染み出し体が濡れた。
……ああ、久しぶりの強姦に体も期待しているんだな。
そう考えながら下の口でモゲルを咥えこむ。
あ…っ、モゲルのちんぽが入ってるっ…! このまま突き上げてもらって―――
頭をふって変な考えを払う。いまは私がモゲルを犯す方だ。
グチュグチュと音を立てながら、私は上下に動く。
どうだモゲル? 私に犯される気分は?
言葉の代わりに返ってきたのは弱い突き上げだった。
ひっ! 今の、感覚っ…! まさかっ……!
そのまさかだった。
ずっと犯され続けてきた私は、モゲルの些細な抵抗も犯されていると感じる体になってしまったのだ。
ダメだっ! はっきり意識を持てっ! モゲルを犯しつくして私から離れられないようにするんだろっ!
この快楽に流されてしまっては待っているのは破滅だ。
私は歯を食いしばって、モゲルの抵抗を耐えながら犯す。
何度も腰を打ちつけ合う。モゲルの抵抗は少なくて弱いが私に耐えがたい快感を与える。
犯しているのか犯されているのか。
サドとマゾの両嗜好を持つようになった私の精神は、二つの快楽の狭間で押しつぶされそうだ。
母乳を撒き散らしながらブルンブルンと揺れる私の胸にモゲルが手を伸ばす。
「君のミルクをまた貰うよ」
そして乳首に吸い付くモゲル。
あ、いま吸われたらっ!
体がガクガク震えて腰に力が入らなくなる。
動け! 動いて犯さないとっ!
チュっと音を立ててモゲルは口を離す。
「なんか味が変わったかな? ……調べてみるか。悪いけどもう一人産んでもらえないかな?」
え? もう一人…?
「もうすぐ帰れるところでごめんねー。ちょっと気になったから、もう少しここにいて欲しいんだ」
ここにいて欲しい? 確かに望む言葉だけど意味合いが違うような…。
「できれば君も他の子みたいにここに居てくれたらいいんだけどねー。
故郷に帰れるのにガッカリさせちゃって悪いねえ」
……待って。私はいらなくなったんじゃないの?
「研究は飽きたから止めるけど、いらなくはないよ」
頭がグラリと揺れた。なにか、前提から違っているような。
「自然破壊は良くないからねー。実験が終わったらなるべく返してあげないと。
人工繁殖させた子供は野生には返さないけど」
えーと、つまり、最初からここに住みたいって言ってたらそうしてくれたってこと?
モゲルは当然のように頷く。
……恥ずかしさで顔が赤い。
私は一方的な思い込みで捨てられると考え、勝手に自傷して泣いて襲いに来たのか。
「まあいいや、君が協力的になってくれるならそれに越したことはない。
そういうわけでまた僕の子供産んでね」
はぁ…と私はため息を吐く。悩むことなんて何もなかった。
「あのー、続けてくれないの?」
あ、そうだ。私と彼は交尾中なんだった。
モゲルに促されて私は再度動き始めた。
何の憂いも無くなった私は純粋に快楽を受け止める。
犯すのでも犯されるのでもどちらでもいい。
彼と交われることはただひたすらに幸福なのだから。
.
.
.
.
.
パリッという軽い音を立てて半透明の殻が割れる。
私の娘がタマゴから孵ったのだ。
「んー……おかあさん?」
目の前の私を見て最初の言葉を発する娘。そっと抱きしめて頬ずりをする。
ええ、私がお母さんよ。そして向こうがあなたのお父さん。
離れた場所でノートを書きながら私たちを見るモゲル。
彼は変人だが愛情がないわけではないと知っているのでその行為に別段腹も立たない。
「あら、孵化したの! おめでとう!」
アラクネが娘を抱えた私に祝福の言葉をかける。
「本当にあなたに似て綺麗な子ねー。じゃあ孵化祝いということで…」
彼女が取り出したのはアラクネ糸の幼児服。これはとてもありがたい。
それからしばらく。モゲルが慌ただしく旅の用意を始めた。いったいどうしたのかと聞いてみれば。
「ジョロウグモの故郷で新種のアラクネが見つかったらしいんだ!
研究に付き合ってくれるように交渉に行って来るよ!」
交渉……どうせ、私と同じように無理やり連れてくるんだろうな。
まだ見ぬ同属に私は同情した。
『モォーゲル博士はアラクネ研究についてこう結んでいます。
【アラクネ属は総じて凶暴性が高いが、先手を取って犯してしまえば被虐傾向が芽生え従順になる。
中には自分を精液便所と自称するほど卑下する者もいる。
わたしはいくつものアラクネを研究したが最も気に入っているのは便所と言った個体だ。
あまりに好きすぎてその個体の孫娘までわたしの便所にしてしまった。
交配実験では目立った結果は得られなかったが、彼女には感謝している】
……ああ、ちょっと話しすぎたね。時間が伸びちゃった。
まあこういう話が他にもあるから、読んでみるといいよ昆虫記。
ただし素人が真似しないようにね。君たちが真似すると寿退学になりかねないから。
じゃあ、お終い。2学期に全員そろって会えることを期待しているよ』
あれ? どうしたんだい。頭抱えるにはまだ早いよ。読書感想文の題材に困る?
うーん、そうだなあ。じゃあ先生オススメの本の話をしてあげよう。
モォーゲル昆虫記って知ってるかい?』
砂漠の朝は突発的に風が吹く。
生まれたときから砂漠で暮らしている私の目にも飛ばされた砂が入る。
少しまばたきをすればすぐ落ちるがな。それにしても最近は本当に男日照りだ。
ラクダの商隊はルートを変えたのか?
だとしたらこちらも河岸を変えないと……む。男の気配。
『モォーゲルって言うのは昔の有名な昆虫学者で様々な昆虫を調べ記録を残しているんだ。
しかもその方法が現地まで行って昆虫を捕まえ、元の環境を模した部屋で観察するという手間と金のかかるもの』
カバンを持ってなにかを探すようにキョロキョロする男。
仲間とはぐれでもしたのか? 人間が砂漠で迷ったら枯死するぞ。
…人間が死ぬのは好ましくない。助けてやるか。代償は頂くが命に比べれば安いものだろう。
岩の陰から近づいて……今っ!
『モォーゲルは昆虫の習性をよく研究していたからね。
凶暴な種でもそれを逆手にとって捕まえるなんてのは難しい事じゃなかった』
避けた!? 完璧に不意を突いたのに!?
男は私の毒針を逃れたというのに逃走しない。すこし離れた場所に立ってジッと見つめている。
『憶えている範囲だけど引用するね。【わたしは彼女に呼び掛けた。どうか研究に付き合ってくれないかと。
ところが砂漠の暗殺者は必殺の毒針を避けられたことに憤慨して、聞く耳もたず襲ってきた』
くそっ! この男っ!
どう見ても戦士のような体つきではないのに、的確に尻尾やハサミの死角に入り込んで攻撃をかわす。
私は頭に血が上っていた。簡単に捕まえられると思っていた獲物が、こんなにも逃げ回ることに。
『ダメだ、話が通じない。そう思ったわたしは万が一の時に備えておいた捕獲用トラップを使うことにした』
男がやっと動きを止めた。
汗をダラダラ流し、ゼーゼー息をしているのを見るに体力の限界なのだろう。
……本当にてこずらせてくれた。最初は味見程度で返してやろうと思ったがもう許さん。
この毒をたっぷり注入して何度もごめんなさいと泣き叫ぶまで犯してやる。
男を驚かせてやるために一旦身を隠す。そして音を立てずにソロソロと背後から近づく。
もう少しだ。飛びかかって一気に体を押さえつけてやる。
子宮が疼く。もうすぐで久しぶりの男の精。
バカめ、後ろだ――!
『背後から獲物に近づくのはギルタブリルの常套手段。
飛びかかる寸前に落とし穴を発動させたらあっさり落ちてくれて捕まえられた』
痛っ! なんだ!? 突然暗く…!?
四方は砂の壁。空を見上げたら縁から男が顔を出していた。
「やあ、乱暴な真似をしてすまないね。僕は君が気に入ったんだ。一緒に家まで来てもらうよ」
ふざけるな! 私を拉致するだと!? それはこちらのセリフだ!
張り合うように叫ぶが言葉の代わりに返ってきたのは何かの粉だった。
『わたしは眠りの粉薬でギルタブリルを大人しくさせ、袋に詰めて持ち帰った。
家にはギルタブリルのために用意しておいた砂漠部屋があったのでそこに連れ込んだ』
ん……? ここは……?
見慣れない部屋で目が覚めた。どうも変だと思ったら仰向けに寝ているようだ。
とりあえずうつ伏せに―――動かない?
下半身を見たらロープと杭で地面に縛り付けられていた。そして腕もバンザイのように地に縛られている。
何なのかと疑問に思っていたら、扉を開けてあの男が入ってきた。
「目が覚めたかい。ここは僕の家だよ。砂漠の洞窟に似せて作った部屋だけど居心地はどうだい?」
最悪だ。人間なんかに捕まえられるとは。
「うーん、気に入らなかったのか。それはすまない」
どこかネジが抜けているのか男はズレた謝罪をする。
「謝罪ついでに一つ頼まれてもらえないだろうか?」
断る。と言ったら?
「その時は無理矢理かな。まあ痛くはないと思うけど」
……一体何の頼みだというんだ?
「僕は昆虫の研究家でね。いまの研究対象は君のような上半身が人間そっくりのクモ…アラクネ属って呼ばれる種なんだ。
だから君を色々調べさせてもらいたい。ちゃんと食事は用意するし、事が終わったら元の場所に帰してあげるから」
気にいらないが今の状態では頷く以外の選択肢がない。
わかった、できる範囲で協力してやる。
「ああよかった! 君が協力的で。じゃあさっそく……」
男はいきなり服を脱ぎ出した。おい! そんな格好で何を調べるというんだ!
「これは調査というより実験なんだけどね。交配実験。
君たちアラクネ属は繁殖に人間の男性を必要とし、卵から生まれるのは同族のメスだけ。
他の研究者……世間じゃ変人って言われてるけど、そういう人間がいろいろ試しても、
アラクネのオスや人間が産まれた事例が一度もない。
そして僕が知る限り今現在ギルタブリルを研究している人間は他にはいない。
だからギルタブリルもメスしか生まれないのか実際に試してみようと思ってね」
つまり私とセックスしたいということか。わかった、受けて立ってやるからロープを解け。
「なんで? 僕は君と勝負をしたいわけじゃないんだけど」
男が私の性器を指で開く。そしてすぐ閉じた。何のマネだ?
「性器の形は人間女性と変わりなし。他のアラクネ属との差異も認められない、と。
こんな風に観察して研究するのが僕の趣味だ。本当は仕事と言いたいんだけど、金になるわけじゃないからね。
まあ、こういう感じで君を調べていくわけ。だからセックスの時は自由になって逃げたり反撃したりできると思わない方がいい」
やっぱりこんな手にはかからないか。
「じゃあさっそく、お邪魔させてもらおうかな」
男は大きめのちんぽを取り出すと私の穴にあてがった。
私はこれから犯されるのか。今まで散々男どもを犯し貪ってきた自分が。
皮肉な物だと笑みが零れる。
「はい、入るよー」
特に興奮もない男の声。本当に私はただの研究対象…いや、実験動物なのか。
犯されるのは初めての体験だが、逞しい男性器に私の中のメスが反応してしまう。
んっ……ああ、気持ちいい。男日照りだった私の膣に男の太いモノは砂漠のオアシスのようだ。
「どうだい? 気持ちいいかな? 他と比べて敏感なのか鈍感なのか知りたいんだけど」
私は正直に気持ちいいと答えた。
……しかし他と比べてということは、やっぱり他の魔物にも似たような事をしているのか。
自分と似たような魔物の魔力を感じるし、別種のアラクネか?
「もうすぐ出すよー。出来れば一発で妊娠してほしいなー」
私を孕ませるというのか。いいだろう、やってみろ。
いままで相当膣内射精を受けてきたのに孕んだことなど一度もない。
こんな一度の交わりで妊娠させたなら褒めてやるよ。
膣の中で弾ける感触。熱くてドロドロ……。
腹の中に精が染みこんでくる。美味しい…
…射精したのか、この男は。ろくな反応がないから分かり辛い。
種付けは済んだと、竿をズルリと引き抜く男。
その気持ち良さに私はブルリと身を震わせてしまう。
「とりあえず初日だから一回だけ。あとは妊娠するまで毎日やるからよろしくねー」
そう言って服を身につけ始める男。
……ところで私はこのままなのか。
「悪いけど君を解放したら危なそうだし、しばらくそのままね」
なんてひどい奴だ。寝返りさえうてないのか私は。
部屋のどこかに窓があるのか、日が沈み暗くなってきた頃。
一人のアラクネが食事を持ってきた。
「お疲れさま。あなたがモゲルの新しい研究対象?」
モゲル? あの男の名前か。
「正しくはモォーゲルと言うのだけれどね。発音しずらいから皆モゲルって呼んでるの」
モゲルから漂ってきたアラクネの魔力。あれはお前のものか?
「わたしと他のアラクネね。モゲルってばしょっちゅう興味の矛先が変わって、そのたびに違う魔物を連れ込むのよ」
なんて移り気な奴だ。そんなでよく研究ができるな。
次の日もその次の日も交配実験と称してモゲルは私を犯した。
最初のころは単純に精を味わっていた自分だが、やがて種族本能とでもいうのか一つの衝動が私の精神を覆い始めた。
モゲル、私を上にしてみたらどうだ?
マグロのような私を犯すよりずっと気持ち良くしてやるぞ。
「別に興味無いから」
本当にどうでもよさげな一言に口元を歪めギリッと歯を鳴らす。
犯したい。私は男を犯したいのだ。
ただのセックスでは物足りなくて死んでしまう。
怯える男をハサミで押さえつけ、毒針を突き立てながら、膨張したちんぽをしごき立ててやりたい。
情けないが毎度食事を運んでくるアラクネにロープを緩めてくれと頼んだりもした。
しかしその返答はつれないもの。
「ダメよ。わたしはモゲルの味方だから。
同じアラクネ属として気持ちは分からなくもないけど、我慢してね」
そして私は隠しもせずモゲルに叫ぶようになった。
杭を抜け! お前を犯してやる! そんな言葉を毎日繰り返す。
「元気がいいねえ。アラクネ属は攻撃性が強いけど、ギルタブリルは特にそうなのかな?」
そう言ってモゲルは私の胸を露出させる。自慢ではないがそれなりに大きいと思う。
「じゃ、今回は胸ね。しゃぶってくれるならありがたいけど、嫌なら胸だけでするよ」
胸だけ!? そんなのは嫌だ! 私にしゃぶらせろ! お前のちんぽを口で犯して全部吸い取ってやる!
「あ、やる気なのね。それじゃあ頼むわ」
モゲルは私の胸の谷間に物を挟み、そこから出た先端を口に含ませた。
あ、久しぶりに口で味わう男のちんぽ……。よし、舌でたっぷり舐めまわしてやる…!
以前毒で動けなくなった男にフェラをしてやったことを思い出しながら、口を動かす。
「んー、これは結構いいかも。ちょっと胸借りるよ」
モゲルは私の胸を両手で動かし男性器をしごき始めた。
……ダメだ。これじゃ全然満たされない。私の胸は今のモゲルにとってただのオナニー道具。
モゲルのちんぽをしゃぶる私の口は自慰行為後の吐き出し先。ただの精液便所だ。
どちらが犯しているのかと訊かれれば、100人中99人がモゲルが私の口を犯していると答えるだろう。
涙がこぼれる。誰かの前で泣いたのなんていつ以来だろう。
「もう出るよー。拭うの面倒だから全部飲んじゃってねー」
そんな私の心中などまったく興味を示さずモゲルは射精した。
口の中に広がる精液の味。屈辱を感じながらそれを飲み込む。
相変わらず量も質も上級品。……悔しくてもしっかり味は感じるんだな私の舌は。
一週間か二週間か。
私は毎日犯しつつけるモゲルに暴言を吐く気力は無くなっていった。
「ふぅ…。これで何十回目だっけなあ。妊娠の気配はまだないかい?」
妊娠。別にモゲルの子を孕むことに不服はない。しかし男に犯されて孕むのは嫌だ。
デキないのは私がそう思っているせいもあるのだろうか?
その後もずっと犯され続けたせいか私の頭はおかしくなってしまったらしい。
モゲルが来るのを心待ちにし、人形のように犯されることを不快に思わなくなった。
私の精神は諦めの段階に入ってしまったのだろうか?
あまり反応を返さなくなった私に対しモゲルも喋らなくなった。
それでも毎日何度も犯しにやってくる。
今のモゲルは本当に私を研究対象として見ているのだろうか?
ただの精液便所として、もよおしたときにやって来ているだけじゃないのか?
……もう、それでもいいや。モゲルに犯してもらえるなら便所でも何にでもなってやる。
「君もずいぶんおとなしくなったねえ。そろそろロープといてあげようか?」
モゲルが拘束を解く。ここ来たばかりの私ならモゲルへの逆襲に走っただろうが、今はそんな気はない。
杭を抜かれ下半身が動くようになる。動かしてみるとギチギチという甲殻の擦れる音。
よかった、足は萎えていないようだ。
モゲルは下半身の次に両腕を縛っていたロープを切った。
手首をさする。当然だがアザにはなっていない。
腕のロープを切ったところでモゲルは立ったまま。私をじっと見て観察している。
しばらく見つめ合っていたが、私は彼を迎えるように手足を広げる。
来て……いつもみたいに私を犯して。
モゲルは納得がいったように頷き、仰向けのままの私に覆い被さる。
「自由にしてあげたら、君はどんな風に交尾するのかな」
あくまでも研究者の目で私を見るモゲル。別にいい。愛してほしいなんて言わない。
ただメスとして孕ませてくださいと懇願するだけだ。
モゲルの男性器が私の穴にあてがわれる。毎日のことだが、今日は違う感覚。
「はい、入れるよー」
いつもと同じ抜けた声。だが少しだけ何かを期待するような響きが混じっていた。
今日もたくましいモゲルのちんぽが入ってくる。
普段ならこのあと人形のように腰を振られるだけだが、今の私は手足が使える。
彼に両腕で抱きつき胸を密着。サソリの足を彼の足に絡めて離れないようにする。
保護は大丈夫。モゲルの足が私の甲殻で傷つくなんてことは無い。
自由に動ける私はモゲルに何度もキスをする。
もっと犯して! あなたの便所虫を妊娠させてっ!
「便所虫、ね。そこまで自分を卑下するようになるとはねえ。やっぱアラクネ属は心が折れるとみんな被虐嗜好になるのか」
モゲルが一人でブツブツ言っているけど私の耳には入らない。
「まあいいや。便所を自称するぐらいなら乱暴にやってもいいよね」
そう言ったモゲルは密着している腰をさらに押し込む。
ぐぅっ! しっ、子宮!? モゲルのちんぽが子宮に入ってる!
妊娠を期待して受け入れやすくなっているのだろうか。私の体は最奥まで彼を受けいれた。
「やっぱ、妊娠させるなら一番奥で出さないとね。…有意義なデータはないけど」
モゲルは精液を排出するために遠慮せず私の子宮を蹂躙する。
ゴリゴリと子宮口を往復する彼の男性器。その快感に私は意味のある言葉を出せない。
しかしこれはモゲルが私を気持ち良くさせようとしているのではない。
ただ勝手に私が快楽を感じているだけだ。私の子宮はモゲルの自慰道具。
女の一番大事な所をオナニーに使われるということに、私はもうイってしまいそうになる。
「じゃ、出すよー。今度こそ孕んでねー」
モゲルが射精を始めた。
あはっ! すごい量! いつもより多いっ!? これなら絶対孕むわ!
双子、いや三つ子以上になるかもっ!
子宮を満たして、さらに膣まで溢れるモゲルの精液。便所虫の私がモゲルの子を孕めるという喜び。
精神と肉体を襲う快楽に私は失禁してしまった。
かつてない交尾で私の体は弛緩してしまい、絡めていた手足はモゲルの体を離してしまった。
解放されたモゲルは立ちあがり服を身につける。……ああ、もっと犯してほしいのに。
「今日はこれでおしまい。もう鍵はかけないから部屋から出て自由に過ごしていいよ。
他のアラクネ達もいるから、細かいことは彼女たちに聞いてね」
バタンとドアを閉める音とともに彼の姿は消えた。
…事も終わり、いつまでも寝ているわけにはいかない。
私は本当に久しぶりに地面に立ち、服を身につけた。
扉を開くとそこは石造りの通路。窓からは緑の木々が見える。
オアシスの木々などではありえない。きっと故郷から遠く離れた場所だろう。
本当にあの部屋は砂漠を再現していただけなんだなと私は思う。
そんな風に思いを馳せていたら、世話をしてくれていたアラクネがやってきた。
「こんにちは。あなたも自由になったのね。お友達を紹介するからいらっしゃい」
お友達。そういえば彼女以外の魔力の気配もしたな。
女郎蜘蛛。私には読めない字で書かれたプレートがその扉にあった。
「この部屋の子はね、東の果ての島国からやってきた子なのよ。ちょっと変わってるけど仲良くね」
アラクネが扉を開けて中へ入る。
まず最初に感じたのは湿気。砂漠ではありえないような水の気配。
そこら中のインテリアらしき石にも何かの植物が生えていて緑色が目に刺さる。
「あらー。貴女が新入りさんー?」
私とはまた違う布を纏っているアラクネ属の魔物はのんびりとした口調で話しかけてきた。
「この子はジョロウグモ。のんびりゆったりした性格だからあまり急かさないようにね」
どうも、と挨拶をする私。アラクネには悪いがあまり仲良くされそうにはないな。
素早さ命の暗殺者とおっとり女房では性格が合わなすぎる。
その次に向かった部屋のプレートにはアントアラクネ。
「んー、もうご飯の時間?」
ベッドに寝ている女がアラクネに声をかける。
ジャイアントアントに似た魔物。しかし近い種である私には分かる。こいつはアラクネ属だ。
「ままー、ごはんじゃないみたい。おともだちだって」
小さいけどベッドの女そっくりのアラクネ。きっと母娘だろう。
父親はたぶんモゲルだろうな。ああ羨ましい。私も早く子供を産みたい。
「彼女たちはアントアラクネ。別の魔物に擬態する生態なのね。
普通なら擬態先が世話をしてくれるんだけど、ここには居ないから私が面倒を見ているの」
だらっとした空気がこの部屋に漂っている。……怠け者親子か。
砂漠で怠け者は許されざる者。こいつらは好きになれそうにない。
「まあ、こんな感じよ。あとは――」
天井から声が聞こえてきた。
「はーい! 私でーす! よろしくね、お姉ちゃん!」
小さいアラクネが糸をつたって下がってきた。
「こらっ! そういうことしちゃダメって何度も言ってるでしょう!」
叱るアラクネ。やっぱりあんたの子供か。
自由になった後もやることは変わらない。モゲルとの交尾……いや性処理だ。
私はあの時に妊娠していたようで、やがて腹が出て、胸からは母乳が滲むようになった。
モゲルは栄養補給といって私を犯す頻度が上がった。
嬉しい。彼に使ってもらわなければ精液便所としての私の価値は無くなるのだから。
砂の上に寝そべるモゲル。私がその上に乗り動く。
騎乗位は女性主体というが、私にとってそんなことはあり得ない。
私は下からモゲルに犯されているのだ。
「ふむ。下から交わるギルタブリルはこういう感じなのか。ちょっとミルクもらうよ」
モゲルが手を伸ばし、やや大きくなった私の胸を握りしめる。
乳首がムズムズする感触。やがてピュッと白い液体が噴き出した。
母乳。ついに私はそこまでの体になった。
毒液を注入するのとはまた違う感覚に体が震える。
モゲルは手のひらに私の母乳を受けて舐めて味わう。
「うーん…他のと比べて味が強いかな? 砂漠は水がないから濃い目なのかも」
そんなことは知らない。もっと飲んでほしいと私は自分で胸を揉みしだく。
「別にそんなに要らないんだけどねえ。まあ、せっかくだからもらっとこ」
―――っ! モゲルが私の胸にしゃぶりついた。あ、そんなにチュウチュウ吸われると…っ!
モゲルは片方の乳首から私の母乳を吸い、もう片方を手で刺激し両胸から同量の母乳を搾り取る。
胸を弄られるだけでこの快感。腰まで動かされた私はだらしない声を上げる。
あっ! ミルクっ! そんなに吸われたら赤ちゃんの分がっ…!
ひぃっ! ち、ちんぽまで動いたら私っ…! くぅっ!
せ、精液っ! 私の赤ちゃんにくださいっ! 孕んだ便所虫のまんこにミルクくださいっっ!
モゲルが射精した。子宮のタマゴに遮られて直接打ち付ける感覚は無いけどじんわりと温かさが広がる。
頻繁な栄養補給のおかげかタマゴの成長が早い…らしい。
砂漠の住人から聞いた話と比べて、かなりのスピードで腹が膨らんでいるそうだ。
たしかにそろそろ産まれてもおかしくないと思う。今日はどことなく体調がおかしいし、もしかして…。
そのことをモゲルに伝えたら今日は裸で過ごせと言われ、服を脱がされた。
普段なら裸になれば彼にオネダリするところだけれど、そんな気が起きない。
そしてモゲルも朝からずっと一緒に部屋にいる。
ここまでそろったら、その気がなくても産まれてしましそうだ。
そんなことを考えたとき腹に違和感。そして私の穴から液体が零れ落ちる。
「む、始まったか。ギルタブリルの産卵は初めてだからよーく見ないと…」
モゲルはノート片手に私を見つめる。
はぁ、はぁ…。体が熱い。そして腹の奥で疼くのは快感。
やがて引きつるような感覚がして、子宮口を何かが通りぬけようとした。
あっ! た、タマゴッ! タマゴが出てきてるっ!
私の膣は産道として機能しているにも係わらず、かつてない快楽を与える。
うぐっ…! 私の中を、ズルズルって…、降りてる…!
早く出てくれないと…っ! 母さん、おかしくなっちゃうっ……!
繁殖行為の一歩目であるセックスには快感が伴う。私はそれを熟知していた。
しかし繁殖の最終段階とも言える産卵時の快感は想像を遥かに超えるものだった。
気が狂いそうな快感。早く産まれてほしい。
もし死んでしまうとしても、この快楽を味わっていたい。
二つの思いに板挟みになる私。
快楽に身をよじっていたら、モゲルが目にとまった。
彼は私とノートを交互に見ながらペンを動かしている。
そうだ。私は実験対象なんだ。彼に見てもらわないとっ…!
なるべく体を動かさないようにする。モゲルが観察しやすいように……!
ああ、見られている。私が裸で産卵している姿を。
私はすっかりマゾになってしまったようだ。この姿を目に焼き付けてくれと、身を突き出す。
タマゴはもう出る寸前なのか、穴の入口が広がっている感覚がする。
あっ、もう出るっ……!
今の私は涙もよだれもたらして酷い顔だろう。
見てモゲル! もうすぐあなたの赤ちゃんが出てくるわ! ノートなんてダメ!
ちゃんと観察して、私が産卵するところっ…! 便所虫があなたの子供産むところ見てぇぇっっ!
ゴポッという腹の中に空気が入る音。ベチャリと砂の上に落ちたのは半透明の柔らかい殻に覆われた私の娘。
殻を破るのは先だけど、ちゃんと中は見える。私そっくりのギルタブリルだ。
産み落としたタマゴを確認した後、モゲルに目を移す。
「……やっぱりギルタブリルのメスか。アラクネ属から人間は産まれないのかな……?」
ブツブツ言いながら彼は部屋を出ていく。私へは一言もない。
便所虫の私が思ったらいけないけど、少しぐらいは温かいことを言って欲しかった。
そうでなくても娘ぐらいは抱き上げてもらいたかったのに……。
その日の夜、モゲルは私の部屋へ来て言った。
「ギルタブリルの研究飽きちゃった。近いうちに元の砂漠へ帰してあげるよ。
僕の研究に付き合ってくれてありがとうね。じゃ、おやすみー」
ショックを受けて固まっている私をそのままにさっさと彼は出ていく。
え? 飽きた? 私のことが?
現実感の無さにふわふわした頭で考える。
モゲルが飽きた? 私捨てられるの? 何がいけなかったの?
今までのことを思い出す。交配実験、妊娠した、人間は生まれないのかあ。
……もしかして彼は私に人間の娘を産んでほしかったのだろうか?
下半身がサソリじゃない私そっくりの人間の女。
モゲルはその娘を育て、可愛がり、やがて―――。
私は自分の下半身を見下ろす。
甲殻に覆われたハサミが自分の意思どおりにキチキチと動く。
……これが無くなればモゲルは私を見直してくれるだろうか。
「おはよう……って何してるのあなたっ!」
私たちのリーダー格のアラクネが叫び声を上げる。
何っていらないものを切り離してるのよ。邪魔しないで。
「足が三本も落ちちゃって…早く手当てしないと!」
アラクネの言葉を無視して私は四本目の足関節を挟む。ギルタブリルのハサミは切れ味が悪い。
三本落とすだけで一晩かかった。
最後のハサミは上の手で落とさないとなると終わるまでどれだけ時間がかかるやら。
「やめなさいっ!」
シュルシュルと白い糸が体に巻きつく。アラクネの糸?
出血しすぎたせいか頭がボケている私は拘束されることを防げなかった。
糸でグルグル巻きにされた私はアラクネが足を治しているのをボーッと見ることしかできない。
外骨格の足は傷口を合わせて固定しておけばすぐくっ付いてしまう。ああ、また一からやり直しか。
早くしないと本当に砂漠に捨てられてしまう。
アラクネに解いてくれと何度も言うが彼女は聞く耳を持ってくれない。
ここに来た頃のように、縛られた体で窓から空を見る。
今はもう夜。満月に近い月を眺めていたら涙が零れた。
元の砂漠に捨てられたら私はどうすればいいのだろう。
以前のように通りすがりの男を襲っては犯す生活に戻るのか?
ダメだ、そんなことはできそうにない。私はもうモゲル以外の男とは交わりたくないのだ。
嫌だよ、私を捨てないで。どうにかして必ず人間を産むから。
産卵するだけの奴隷でいいからそばに居させてよ。
顔を拭うこともできずしゃくりあげながら私は泣いた。
涙も枯れた頃。月もずいぶん傾いてきた。もうすぐ東の空が白み陽が昇るだろう。
私は空っぽになった心で空を見上げる。
……そういえば狩りの時間はいつものこのぐらいだったなあ。
人間にとって砂漠の昼は辛いから、まだ涼しい早朝に多くの人が動くのだ。
そして薄暗いから私にとっても身を隠しやすい。
ラクダに乗った旅人に後ろから飛びかかり、傷付けないように落馬させる。
そして止めてくれと叫ぶ男に尾の毒針を―――。
ハッと気付いた。
そういえば私はモゲルに一度も毒針を使っていない。
ギルタブリルの毒針は逃げる男を捕え、無理矢理勃起させて犯すためのもの。
犯されることに慣れてしまった私はそんなこと思いつきもしなかった。
虚ろだった私の心に小さな火種が点る。
そしてそれはスカスカになった私の心を燃料にして一気に燃え上がった。
そうだ。何故思いつかなかったんだ。私はとんだ腑抜けになっていた。
何故モゲルに捨てないでと泣きつかねばならないのか。
逆だ。男を犯しつくして、放さないでくれと言わせるようにするのが正しいギルタブリルの姿。
あは。あはっ! あはははっ! 私はなんてバカだったんだ!
するべきことは下半身の無い人間モドキになることじゃない。
モゲルを地に押し付けて、最後の一滴まで精液を搾り取ってやることだ!
実に爽快な気分だ。問題が解決するということがこれほどの解放感を与えるとは。
そうとなれば早速体調の確認。体が不十分ではろくに犯すこともできない。
上半身…は何の問題も無い。当然だが。
問題は下半身。切り離してしまった3つの足だ。
もう痛みは無いが感覚は全くない。動かせるにはしばらくかかるだろう。
なるべく多く食事をとって、極力安静にする。そうすれば少しは早く治るだろうか。
出来るだけ早く実行に移したいが、失敗しては元も子もない。
静かにしている間、頭の中でシミュレーションしておこう。
動けない私に食事を持ってきたアラクネは、きちんと受け答えする姿を見て正気に戻ったとホッとしていた。
そして二度とあんな事するなとお説教。
たしかに彼女には心配をかけただろう。悪かった、ごめんなさい。
正気に戻ったということで、アラクネは足の固定以外の糸は解いて自由にしてくれた。
負担をかけたくないから歩かないけど。
ほんの数日。
私の足は感覚も戻り動くようになった。しかしまだ完治とはいかない。
「ねえ、あなた本当に砂漠に帰っちゃうの?」
部屋へやってきたアラクネが寂しげに言う。
まさか。万が一帰るとしたらモゲルが一緒に来てくれるときだけだ。
しかしそんなことを言うわけにはいかない。彼女はモゲルの味方だから。
日は進み私を帰す準備は着々と進んでいるらしい。
旅の日程やら道具の手配やらでモゲルは少し忙しいそうだ。
……もうそろそろいいだろうか。
あまりゆっくりしていると不意打ちで眠らされ、気が付いたら砂の海なんて可能性もある。
陽が落ちるのが待ち遠しい。決行は今日の深夜。みんなが寝静まった頃だ。
窓から見える月が南中になった。よし、行くぞ。
音をたてないようにそっと扉を開き廊下へ出る。
床は石造りだが、足音の殺し方は知っている。
私の部屋はアラクネ属だけが住んでいる離れにある。
渡り廊下を通り、モゲルの本宅へ侵入。
モゲルの部屋へ行ったのは一度だけ。えーと、たしか……。
あった、ここだ。私は扉に耳を当てて中を探る。……音はしない。すっかり寝ているな。
ノブを回す。…鍵がかかっていた。しかたない、破ろう。
ハサミを振りかぶって扉に叩きつける。ギルタブリルのハサミは切断力は低いが打撃力は高い。
一撃で蝶つがいは破れ、木の板がバタンと床に倒れる。
モゲルは目を覚ましたが、何が起きたのか理解できずきょろきょろしている。
全くの無防備状態。――チャンス!
私は一気にベッドの上に乗ると毛布をはぎ取り、足とハサミでモゲルを押さえつける。
そして待ちに待った毒針を――突き刺す!
……ああ気持ちいい。今まで散々犯してくれた相手に毒液を注ぎ込むのがこれほどとは。
私たちの毒液注入は男の射精と似たようなものなんだろうか?
あまりに良すぎてブスブスと何度も刺してしまう。
やがて毒が回ったのか、抵抗する力が弱くなった。
「……なんなんだい、こんな時間に」
決まっている。お前を犯しに来てやったんだ。
「僕を犯す? ……うーむ、ギルタブリルは従順になっても突発的に凶暴性が戻るのかなあ」
お前が私を飼い殺しにしていたらそのままだったろうさ。
だが捨てようとしてくれたおかげで、私は本当の自分を取り戻せたんだよ!
「捨てる? そんなこと一度も言ったおぼえは―――」
黙れ。凌辱対象が喋るな。
舌を絡めるキスをしてお喋りな口を封じる。
んっ…モゲルの舌…あったかい…。
ハッ。私は今何を思っていた?
「ん……まあいいや。これも貴重な事例の一つだろうし」
モゲルはまったくおびえた様子を見せない。
……泣き叫ぶなどとは思っていなかったが、反応がなさ過ぎて少し萎える。
逃げ出しはしないだろうから、腕は自由にする。
その代わり、ハサミでパジャマのズボンを引き裂いてやる。
露出したモゲルの男性器はいつも以上に大きく固そうだ。
ちゃんと毒は効いているんだな。耐性があるんじゃないかと一瞬心配したぞ。
腰と胸の布を解き私も裸になる。
乳首と女性器からそれぞれ液体が染み出し体が濡れた。
……ああ、久しぶりの強姦に体も期待しているんだな。
そう考えながら下の口でモゲルを咥えこむ。
あ…っ、モゲルのちんぽが入ってるっ…! このまま突き上げてもらって―――
頭をふって変な考えを払う。いまは私がモゲルを犯す方だ。
グチュグチュと音を立てながら、私は上下に動く。
どうだモゲル? 私に犯される気分は?
言葉の代わりに返ってきたのは弱い突き上げだった。
ひっ! 今の、感覚っ…! まさかっ……!
そのまさかだった。
ずっと犯され続けてきた私は、モゲルの些細な抵抗も犯されていると感じる体になってしまったのだ。
ダメだっ! はっきり意識を持てっ! モゲルを犯しつくして私から離れられないようにするんだろっ!
この快楽に流されてしまっては待っているのは破滅だ。
私は歯を食いしばって、モゲルの抵抗を耐えながら犯す。
何度も腰を打ちつけ合う。モゲルの抵抗は少なくて弱いが私に耐えがたい快感を与える。
犯しているのか犯されているのか。
サドとマゾの両嗜好を持つようになった私の精神は、二つの快楽の狭間で押しつぶされそうだ。
母乳を撒き散らしながらブルンブルンと揺れる私の胸にモゲルが手を伸ばす。
「君のミルクをまた貰うよ」
そして乳首に吸い付くモゲル。
あ、いま吸われたらっ!
体がガクガク震えて腰に力が入らなくなる。
動け! 動いて犯さないとっ!
チュっと音を立ててモゲルは口を離す。
「なんか味が変わったかな? ……調べてみるか。悪いけどもう一人産んでもらえないかな?」
え? もう一人…?
「もうすぐ帰れるところでごめんねー。ちょっと気になったから、もう少しここにいて欲しいんだ」
ここにいて欲しい? 確かに望む言葉だけど意味合いが違うような…。
「できれば君も他の子みたいにここに居てくれたらいいんだけどねー。
故郷に帰れるのにガッカリさせちゃって悪いねえ」
……待って。私はいらなくなったんじゃないの?
「研究は飽きたから止めるけど、いらなくはないよ」
頭がグラリと揺れた。なにか、前提から違っているような。
「自然破壊は良くないからねー。実験が終わったらなるべく返してあげないと。
人工繁殖させた子供は野生には返さないけど」
えーと、つまり、最初からここに住みたいって言ってたらそうしてくれたってこと?
モゲルは当然のように頷く。
……恥ずかしさで顔が赤い。
私は一方的な思い込みで捨てられると考え、勝手に自傷して泣いて襲いに来たのか。
「まあいいや、君が協力的になってくれるならそれに越したことはない。
そういうわけでまた僕の子供産んでね」
はぁ…と私はため息を吐く。悩むことなんて何もなかった。
「あのー、続けてくれないの?」
あ、そうだ。私と彼は交尾中なんだった。
モゲルに促されて私は再度動き始めた。
何の憂いも無くなった私は純粋に快楽を受け止める。
犯すのでも犯されるのでもどちらでもいい。
彼と交われることはただひたすらに幸福なのだから。
.
.
.
.
.
パリッという軽い音を立てて半透明の殻が割れる。
私の娘がタマゴから孵ったのだ。
「んー……おかあさん?」
目の前の私を見て最初の言葉を発する娘。そっと抱きしめて頬ずりをする。
ええ、私がお母さんよ。そして向こうがあなたのお父さん。
離れた場所でノートを書きながら私たちを見るモゲル。
彼は変人だが愛情がないわけではないと知っているのでその行為に別段腹も立たない。
「あら、孵化したの! おめでとう!」
アラクネが娘を抱えた私に祝福の言葉をかける。
「本当にあなたに似て綺麗な子ねー。じゃあ孵化祝いということで…」
彼女が取り出したのはアラクネ糸の幼児服。これはとてもありがたい。
それからしばらく。モゲルが慌ただしく旅の用意を始めた。いったいどうしたのかと聞いてみれば。
「ジョロウグモの故郷で新種のアラクネが見つかったらしいんだ!
研究に付き合ってくれるように交渉に行って来るよ!」
交渉……どうせ、私と同じように無理やり連れてくるんだろうな。
まだ見ぬ同属に私は同情した。
『モォーゲル博士はアラクネ研究についてこう結んでいます。
【アラクネ属は総じて凶暴性が高いが、先手を取って犯してしまえば被虐傾向が芽生え従順になる。
中には自分を精液便所と自称するほど卑下する者もいる。
わたしはいくつものアラクネを研究したが最も気に入っているのは便所と言った個体だ。
あまりに好きすぎてその個体の孫娘までわたしの便所にしてしまった。
交配実験では目立った結果は得られなかったが、彼女には感謝している】
……ああ、ちょっと話しすぎたね。時間が伸びちゃった。
まあこういう話が他にもあるから、読んでみるといいよ昆虫記。
ただし素人が真似しないようにね。君たちが真似すると寿退学になりかねないから。
じゃあ、お終い。2学期に全員そろって会えることを期待しているよ』
11/11/19 12:43更新 / 古い目覚まし