死人の館
数年前、母が死んだ。
元から体が弱く、父と一緒に寿命を迎えることはできないだろうと言われていた。
それを反対を押し切り自分を産んでしまったことで、短い命をさらに縮めてしまったらしい。
覚悟はしていたので涙は流さなかったが、とても悲しかったのは憶えている。
父は葬儀が終わって以来、書斎に閉じこもるようになった。
そしてある夜、墓へ行くからお前も来いと自分を連れ出した。
命日でもないのにこんな時間にどうしたのか? そう思ったが疑問はそれだけではなかった。
父の服装は死者の冥福を祈りに行くような姿ではなかった。
スコップと分厚い本。一輪の花さえ持っていない。
やがて墓までたどり着いた父は言った。
母の墓を掘り返せ。
何の説明もなく言われて当然断ったが、いいからやれの一点張り。
墓を暴くことに罪悪感を感じながらスコップで土を掘り返す。
その間父は本を読みながら何かの呪文を唱え続けていた。
土を掘り返して棺桶が出てきた。きっとこの中には母の腐った死体が……。
そう思い気分が悪くなった瞬間、父が蓋に手をかけ一気に開け放った。
何をするんだ!
行動の早さに目をそらす間もなく、そう思うのが精いっぱいだった。
そして開いてしまった中身が自分の目に飛び込んでくる。
母の死体。しかしほとんど腐っていない。
肌は死者の色だがいまにも動き出しそうな―――いや、動いている!?
母の死体が目を開け、棺桶の中でゆっくりと身を起こす。
それを目にした父親が母の死体を抱きしめた。
「う、あ……。あな、た……?」
久しぶりに聞いた母の声。父は自分の前で初めて涙を流し、母の髪をなでる。
父が行ったこと。
それはいわゆるネクロマンシーというものだった。
死者を動かす魔術があると以前耳にしたことがある父は、
母を蘇らせようと葬儀の日以来、書斎でずっと研究を続けていたのだという。
母と再び言葉を交わすことができて、父は実に嬉しそうだ。
…しかし自分は喜べない。薄情なようだが母の死は自分の中では決着がついていた。
目の前に居るのは生き返った母ではない。ただのゾンビ、動く死体だ。
こんなこと神が許すわけがない。
ゾンビを連れ屋敷へ戻ると、一台の馬車が停まっていた。
自分なんかの下級貴族とは違う、庶民がイメージするお貴族さまが乗っていそうな豪華な馬車だ。
いったいうちに何の用なのかと思っていたら扉が開き美しい女性が降りてきた。
「無事成功したようだな」
彼女は父と母を見てそう言った。
父はそれに対し、どうもおかげさまでとか、このご恩は決して忘れませんだのと頭を何度も下げながら感謝の言葉を繰り返す。
「別に感謝の言葉はいい。代償を支払うのだからな」
事情がよく分からず、突っ立っている自分にお前も頭を下げろと父が言う。
本当によくわからないがとりあえず下げておこう。
そして頭を下げた自分に近づいてくる、コツコツという足音。
地面へ向かった視界に彼女の足が入る。
「頭を上げろ、モゲロ」
自分の名を知っているのか。そう思いながら顔を上げる。すると目の前に彼女の顔があった。
赤い瞳に唇からのぞく牙。
……どう見ても人間じゃない。
後で聞いた話によると、母を蘇らせようとするものの全く進展がない父に彼女が手を貸してくれたらしい。
魔術の基礎も知らない人間が独学で蘇生させるなどどれほどの時間がいるものか。
そんな父にネクロマンシーの手引き書を与えてくれたのがこのヴァンパイアだったそうだ。
もちろんタダでそんなことをしてくれるわけはない。
代償として若い人間……つまり自分を捧げることにしたらしい。
生きている息子と死んだ妻のどちらが大事なのか。
そう怒りたくなったが答えは決まっているので飲み込んだ。
ヴァンパイアは屋敷に客人として逗留することになった。護衛と称する女騎士と一緒にだ。
その程度かと思うかもしれないが、ここは一応反魔物国家。
きっとここを拠点にして、この街、ひいては国全体を落とそうというのだろう。
妻一人のために息子のみならず大勢の人間を危機に陥れようというのか父は。
しかし憤ったところで自分には何もできない。
堕落したとはいえ血の繋がった親を死刑台に送るなんてこともしたくない。
そんなことを考えながら、包丁を振るっていたら指を切った。痛い。
夕食時になっても父と母は姿を見せない。
料理を並べたテーブルについているのは、自分と護衛の女騎士、あとはヴァンパイアだけだ。
「うわー! 美味しそうですねー!」
騎士は涎を垂らしていただきますを待っている。
「ふむ……いい香りだ」
ヴァンパイアも気にいったのか、お褒めの言葉をいただいた。
どーも。我が家は使用人を使わない家風だから料理も何も自分でやるし。
しかし死体のくせに食事をとるとか不経済ではないのか。
夕食が終って。
「モゲロ、後でわたしの部屋に来い」
ヴァンパイアからのお呼び出しだ。何があるのやら。
まあ、先に食事の後片付けをしないと……父とゾンビの分はどうしようか。
テーブルにのったままの二人分の料理を見ながら考える。
結局フタをしてテーブルに置いておくことにした。部屋から出てきたら食べるだろう。
ノックをして客人の部屋に入る。一応失礼しますと声をかける。
「来たか」
ヴァンパイアはバスローブ一枚でくつろいでいた。
…吸血鬼というのは水に触れてはいけないのではないのだろうか。何故こんな姿に?
「寝るときは裸だ。簡単に脱ぎ着できるから着ている」
なるほど。しかし寝る前に自分を呼んでどうするというのか。
「オナニーしろモゲロ。私の目の前でだ」
……これはアレか。貴様に人間の尊厳なんてものはないと言いたいのか。
父が勝手に譲り渡し、自分はヴァンパイアの所有物になった。
納得などしていないが、家を出ても行くあてなどない。精々野たれ死ぬのが関の山だろう。
別に血を吸われるわけでもない。ただ羞恥心を殺せはいいだけだ。
そう思っても体は動かない。
「どうした、早くしろ。それともオカズがないとできないのか?」
ヤレヤレと息を一つついて、ヴァンパイアは奇妙な形をした鈴を鳴らした。
タッタッタと走る音がして、扉が開く。
「お呼びですかー! 主さまー!」
頭を出したのは一緒についてきた女騎士。あんな音がよく外まで聞こえたな。
「服を脱げ、全部だ。そしてモゲロの前に立て」
いきなりの命令に女騎士は固まる。
「え? ど、どういうことですか主さまっ!?」
硬直が解けた女騎士は主に説明を求める。
「モゲロがオナニーをする。おまえがオカズになれ。以上」
短い言葉で済ませるヴァンパイア。
女騎士は渋っていたが、オシオキするぞの一言で諦めて脱ぎ始めた。
「はぁい…では脱ぎますぅ……」
ずいぶん弱気な騎士だ。これでは敵が現れたときに役に立つのか疑問だな。
まあ自分が気にすることではないが。
「よいしょ…っ」
女騎士が頭を掴んで引っ張ったら取れた。
「こいつはデュラハンという種族だ。見てのとおり頭が取れる」
ありがたくもない説明をありがとう。要するにこいつもアンデッドか。
これで我が家には動く死体が三体。どこの呪われた館だ。
「は、はい。脱ぎましたよぉ……」
両手で支えた頭で胸元を隠すデュラハン。
美しいと言っていい女が裸で立っているが、頭の場所がこれでは……。
頭でそう思ったが自分の体は勝手に勃起する。
まて、あれは死体だ。美しい姿をしていてもゾンビの同類なんだ。
そんなものに反応するな。自分が父親以上の異常者だと認めるのか?
しかし手はかってにズボンを下ろしてしまう。
そうか。最近自慰してないから女の形をしているというだけで立ってしまうのか。
そうだ、きっとそうに違いない。
「なかなかの大きさだな。…続けろ、手を使え」
自分の男性器を見て頷き、先を促すヴァンパイア。
彼女の言う通り早く済ませよう。首無し死体に欲情するなどどうかしている。
もう完全に勃起しているから手で刺激を与えるだけで射精はできる。
目を瞑る。さっさとシゴいて終わりにしよう。
「ちゃんと見ろ。機械的に済まされたのではつまらん」
自分の考えなどお見通しというわけか。仕方ない、あまり頭は見ないようにして……。
デュラハンの胸元は頭があるので下半身を中心に見る。
すらっと引き締まった足腰。見えづらいが柔らかそうな尻。
そして茂った股間。ん、よく見たらなにか垂れている。
彼女も自分をオカズにされていることに興奮しているのだろうか。
ああ、もしデュラハンがまっとうな人間だったなら、自分はとっくに飛び付いていただろうに。
そう思いつつ、手を動かす。
「モゲロさん……」
デュラハンの呟く声。見下しているのか哀れんでいるのか。
さて、そろそろ限界だ。一体どうすればいいんだ?
「あ、モゲロさん、わたしの口に…!」
デュラハンが抱えていた頭を差し出して、男性器を口に含む。
突然の感触に射精する自分。
……射精の快感などどこへやら。
生首にしゃぶられて射精するなど、悪夢にしか思えない。
自分の射精が終わると、デュラハンはグラスを用意しその中に精液を吐き出した。
「はい、主さま。モゲロさんの精ですよー」
どうやら主のヴァンパイアはああやって飲むらしい。
「用は済んだ。もういいぞモゲロ」
お前の役目は終わりだ、出ていけと、手を振るヴァンパイア。
こっちだって出ていきたいさ、こんな部屋。
最速でパンツを穿いて、ズボンは抱えたまま外に出る。
最後に扉の隙間から見えたのは、グラスを傾けて自分の精液を飲み下すヴァンパイアだった。
自分の部屋に戻る前にテーブルを見ていったら、食事はそのままだった。
少し気になる。様子を見てこよう。
父の部屋へ行きノックをする。
……出てこない。こっそり扉を開けて覗いてみる。
「ん…あなた…っ。もっと、して……」
盛り上がったベッドの中で何かが動いている。
何が起きているかは分かった。考えたくないが。
たしかにゾンビになった母は、どことなく若返り美しくなった。
蘇生のために魔術を学ぶほどだから、その思いも強いだろう。
しかし動く死体とまぐわいまでするとは……。
人間の尊厳なんて全て捨ててしまったというのだろうか、あの父は。
救いが見当たらない二人は放ってそっと扉を閉める。
空が暗い。原因は分からないが数日前から晴れの昼間だというのに薄暗いのだ。
視界が悪くなるほどの暗さではないので、明りなど不要で歩けるのが幸いか。
そんな薄暗い廊下を歩いていたら、珍しく部屋に籠っていない母…のゾンビに出くわした。
「おはよう…もげろ……」
おはようございますと自分も挨拶をする。会釈すると目に入る膨らんだ腹。
信じ難いがゾンビでも子供が作れるらしい。
死体が死体を産む。
きっとゾンビの子宮の中では自分の妹の腐った肉体が育っているのだろう。
自分は初めから死んでいる妹を愛することができるのだろうか?
頭を振る。そんなことできそうにない。
その日の夜。
ヴァンパイアに呼び出されたのは自分一人だった。
いつもならデュラハンもオカズと称して裸にされるのだが。
「モゲロ、そこに寝なさい。裸になって」
ベッドを指差すヴァンパイア。……まさか、な。
指示どおりに裸になって自分は横たわる。
一体何をするのか…と思っていたら、ローブを脱ぎ捨ててヴァンパイアも裸になった。
そして自分に馬乗りになる。
「もう立ってるのね。条件反射を躾けたかいがあったわ」
条件反射。たしかに自分がこの部屋に入る時は決まった用事だけなので、
入ると自然に勃起してしまうようになっていた。
「モゲロ。人間の身で私と交われることを光栄に思いなさい」
そう言って彼女は女性器を指で開く。
え、待ってくれ? 本当に自分とセックスする気なのか!?
冗談じゃない! 自分は死体とまぐわう趣味はない!
そのとおりの言葉を口にしたわけではないが、拒否や許しの言葉を口にした。
しかしヴァンパイアは逆にサディストのような笑みを浮かべる。
「ダメよ。あなたは私の物だから。私を満足させる義務があるのよ」
そう言って腰を下ろすヴァンパイア。
「ほうら、もう入ったわよ…」
自分のモノが女の膣に埋まる感覚。ぬめった肉の筒が自分の男性器を搾る。
たしかに締まり具合は人間の女よりいいかもしれない。
しかし真っ当なセックスと違い心臓の鼓動を感じない。
湯船に浸けて温まった死体に挿入すればこんな感じになるのではないだろうか。
「どうかしら。貴族たる私の体は」
貴族もなにも関係ない。セックスなら普通の人間の女とさせてくれ。
そう思うがとても口には出せない。
「あなたも少しは動きなさい」
ヴァンパイアが自分の上で動く。何度も腰がぶつかり合い、体やシーツに液体を飛び散らせる。
自分の精神は嫌だと思っている。しかし肉体の方はそうではないらしい。
性器が擦れ合う快感に反応して腰を突き上げてしまう。
「ほらっ…! モゲロ、どうなの…!? 答えなさいっ…!」
向こうの方はかなりテンションが上がって来たのか、声がかすれている。
とても気持ち良いです、もう出そう。肉体の言葉を精神が代弁する。
その言葉にヴァンパイアは微笑む。自分が何も知らなければ見惚れただろう。
「いいわ、出しなさい…! 私に種付けすることを許してあげるっ…! く…んんっ!」
ヴァンパイアはイッたのか大きく身をのけぞらせる。
それと同時に彼女の中もきつく締まり、耐えられず膣内射精してしまった。
…出してしまった。死体の中に。自分がとても情けなく思える。
自分はこれでゾンビとまぐわう父と同じ場所に堕ちてしまったのだ。
視界が滲む。涙が一筋零れ落ちた。
あの日以来、ヴァンパイアは頻繁に自分を求めるようになった。
言葉づかいも柔らかくなり、態度も少しは優しさが滲み出るようになった。
しかし嬉しくなどない。堅い態度のままでいてくれたならただの義務として機械の様になれた。
まるで生きている女性のように、自分への気遣いを見せたりするから変に辛いのだ。
ある日のこと。
珍しく屋敷の者全員がそろった昼食をとった。
父はゾンビといちゃつきながらパンを口へ運び、ヴァンパイアはデュラハンにトマトジュースを注がせて飲む。
そんな光景を冷めた目で見ていたら。
「あ……! あなた…っ!」
母のゾンビが突然腹を抱えて床にしゃがみこんだ。
どうしたのかと慌てる父にゾンビは。
「あかちゃん、あかちゃんうまれる…!」
それからのことは断片的にしか憶えていない。
ゾンビが大股開きになった。そこから腐った肉の塊が出てきた。
死体を抱き上げる父。デュラハンが笑顔を浮かべ、ヴァンパイアも温かい目で見ている。
そして父が腐った死体を差し出した。ほら、お前の妹だ―――。
自分はそこで気絶したらしい。
目を覚ましたら自分のベッド。懐中時計を見たら朝になっていた。
外の空気を吸うために広さだけはある庭を歩く。
小さい頃は良く駆け回った庭が、最近得体のしれない植物に侵食されている。
昔へ戻りたいと思いながら散歩していたら、見回りしているデュラハンに出会った。
「あ! おはようございます、モゲロさん。体大丈夫ですか? 昨日はいきなり倒れちゃって…」
別にお前に心配される筋合いはない。しかし今日も相変わらず無意味な警護をしているのか。
「無意味って何ですか! わたしは主さまの忠実な護衛として――」
デュラハンが何か言っているが聞き流す。
実際にここを襲撃してくるような敵はいないのだ。無駄な仕事ご苦労様。
「無駄だなんて酷いです! わたしだって一生懸命働いているのにっ!」
ああ、たしかに剣の訓練と称して伸びすぎた枝やツタを切っていたな。
悪かった、お前は立派な庭師だ。
「庭師って何です!? わたしはデュラハンですよ!? 騎士なんですよ!」
この程度で半泣きになる騎士が何処にいる。
人間相手だったら自分も罪悪感を感じただろうが、頭も座らない死体相手にそんなものは湧かない。
やがてデュラハンは地面に座り込んで本格的に泣きだした。
「ひどい…ひどいですよモゲロさんっ……あなた本当に人間なんですかぁ…?」
人間だよ。おまえらみたいな動く死体じゃない。
「動く死体だなんて……。わたしは生まれたときからこうだったんですよ…?」
それについては何も言えない。だが頭をわきに抱えた姿を見て生きているというやつはいないだろう。
魔物や野獣だって首が離れれば死ぬんだから。
「もう、ホントに酷いですモゲロさん…。こうなったら主さまにあることないこと言いつけてやりますっ!」
デュラハンをいたぶって少し気を晴らしていたが、その言葉で口が止まる。
あのヴァンパイアでも部下が精神的虐待を受けたとなれば、何か行動を起こすかもしれない。
暴力を振るわれるということはないだろうが、何か罰を与えられる可能性は否定しきれない。
「……モゲロさん?」
自分の沈黙に立場が逆転したと思ったのか、デュラハンの顔に嫌な笑みが浮かぶ。
屋敷の窓から死角になる場所。
木が密集して生えている一角へ連れて行かれた。
「もう、本当に傷ついたんですからね、モゲロさんっ!」
プンプンという音が似合いそうに怒りを表現するデュラハン。
ごめんなさい、反省してますと口先だけの謝罪をしておく。
「口だけじゃ許しませんよ。身を張って謝罪してもらいますからねっ!」
デュラハンは頭を持ち上げると180度回してはめこんだ。
そして手頃な木に抱きつく。何の真似だ?
「主さまとしている事、わたしにもしてください。それで許してあげます」
どうやらこいつはあのストリップが条件反射になっていたらしい。
自分とヴァンパイアが二人だけでまぐわうようになって、体を持て余しているのか。
…しかし護衛が主の持ち物に手を出していいのか?
自分がこのことを密告すれば立場が悪くなるのはそちらの方だぞ?
「わたしはさっきの事を黙っていて、モゲロさんはこれからのことを喋らない。これでおあいこです」
なるほど、互いに秘密を握り合って密告を防ごうというわけか。
フェアなつもりかもしれないがバカな奴だ。
まあ、それはそれとして何故頭を回転させるのか。
「こうすれば後ろ向きでしながら、キスできるじゃないですか」
合理的かもしれないが気持ちが悪い。やはりアンデッド、人間とは感覚が違う。
後ろを向いた頭が気持ち悪いので、なるべく下を見よう。
スカートをめくり下着を下ろす。すると布と女性器の間に透明な糸が通った。
ずいぶん濡れているようだ。これなら前戯など必要ないだろう。
死体とのセックスなどさっさと終わらせるに限る。
デュラハンの腰を掴んで一気に挿入する。
「あっ! モゲロさんいきなりっ…!?」
デュラハンの中はヴァンパイアと同じように締まっており、熱かった。
もちろん心臓の鼓動も感じない。
…何を期待していたんだ自分は。頭が外れるような奴の心臓が動いていると思ったのか?
こいつだって動く死体だ。自分はこれからこいつ相手に腰を振って出してやらねばならない。
ヴァンパイア相手と違い自分の方から積極的に死体を犯すという事に、さらに一段卑しくなったように思える。
「キスっ、キスしてくださいモゲロさんっ…!」
このまま頭突きしてやれば、こいつの頭は簡単に落ちるだろうか。
その誘惑を振り切って口づけする。ぶっ、舌を入れてきやがった。
自分の舌が死人と絡み合い口腔をまさぐられる。吐き気が喉元まで込み上げてきたが飲み込む。
「もっ、モゲロさん、わたしもうそろそろっ!」
毎日のようにヴァンパイアに搾られているせいか、自分の耐久力は高くなっている。
彼女のほうが先に達してしまうのもしかたないだろう。
それで自分は中と外どちらに出せばいいんだ?
「え、そ、それは……」
デュラハンは迷っている。
感情的には中に出して欲しいが、理性的に考えると膣内射精はマズイといったところだろうか。
どちらでもいいが早く選んでもらいたい。こちらにもタイムリミットがある。
「な、中っ! モゲロさんの精液わたしの中に下さいっ!」
欲望に流されたか。しょせん腐った脳髄はその程度。
忠実な騎士が聞いて笑わせる。まあいいこれでやっと終わる。
……そう思ったとき、一つの考えがよぎった。
「んんっ…! 出てますっ…! モゲロさんの精液、熱いっ……!」
今の自分はどうかしているのだろう。デュラハンを孕ませてやろうと奥深くに大量に出す。
腰を深く押し付け子宮口に合わせ、その中に入るように注ぐ。
冷静な自分が、お前はどこまで堕ちるんだと嘆きの言葉を発する。
…別に性交中にデュラハンを好きになったというわけではない。
妊娠してヴァンパイアに隠せないぐらい腹が膨らんだとき、こいつはどうするか?
忠実な騎士は主の物に手を出したことをどう言い訳するのか?
それを見てみたいと思っただけだ。
一時の嗜虐的な感情で死人と子を作ろうなどと、その時に戻れるなら自分を殴りつけてやりたい。
その日の夜もヴァンパイアに呼び出された。
部屋の中には裸のままベッドに腰掛けているヴァンパイア。
「来たわねモゲロ。早速今日も……ん?」
何かを感じ取ったのか、彼女はベッドから立ち上がり自分に近づく。
そして抱きつき鼻をスンスンいわせ匂いを嗅ぐ。
「…………他の女の匂いがする」
自分を迎えた時と一転、一気に声が冷たくなる。
「話しなさい、正直に」
まさかその日のうちにばれるとはな。これはこれでデュラハンは大目玉だろうからいいが。
ヴァンパイアに問い詰められて自分は話した。
デュラハンに犯された。自分はヴァンパイアの所有物だと言ったが無理矢理やられた。
「そう。今まで良くしてやったと思ったのにねえ……」
気が変わったのかその日はそのまま帰された。
その次の日。
いつも通り庭をブラブラしているデュラハンを見たが特に変わった様子はなかった。
何か罰を与えられたんじゃないのか?
時間は流れる。
デュラハンの腹は明らかに大きくなっているが、ヴァンパイアは何も言わない。
それを主の黙認と受け取ったのかデュラハンも自分を頻繁に求めるようになった。
自分はなんて間抜けだ。気晴らしのための嫌がらせが自身に返って来たのだから。
「あっ、モゲロ……さんっ…!」
ヴァンパイアの部屋。主の前で臨月のデュラハンとまぐわう。
デュラハンは嬌声を上げているが、ベッドの横に置かれている顔は固い。
「どう? そんなに気持ちいいかしら? 私のモゲロとセックスするのは」
デュラハンを冷たい目で眺めているのはヴァンパイア。彼女の腹はポッコリ膨れている程度。
主の物を勝手に使った上に、自分より先に妊娠したというのが気にくわないのだろうか。
「あっ、主さまっ! なんで今になって…! 許してくれたんじゃ…!」
何も言わないから許してくれた。そんなわけがない。
「私がいつ許すなんて言ったの? 主の物に手を出した罪は重いのよ……!」
怒気どころか殺意を込めた瞳でデュラハンの頭を睨む。
……半泣きになったデュラハンを見ても大してスッとしない。ガッカリだ。
「も、モゲロさぁん…。なにか言ってくださいよぉ……」
背面座位でデュラハンの体を犯す自分。腹とともに大きくなった胸が揺れ母乳が飛び散る。
顔に濡れた感触。甘い匂い。死体のくせにこんなものを撒き散らして。
第三者にはこの光景はどう見えているのだろうか。
妊婦の首無し死体を犯す男。どう見ても狂人だ。
そして自分の目に映っているのは死んでいるのに妊娠した女二人。
本当にこの屋敷は狂っている。
「んぐっ! そこっ、そこ良いですっ! モゲロさんっ!」
やがてヴァンパイアが見ていることも意識の外へ出たのか、オネダリをするデュラハン。
ここまで欲ボケとは本当にこいつの頭の中は腐っているんだろうな。
「あなたが楽しんでどうするの。さっさとモゲロをイかせなさい。
一分以内にできなかったなら、穴から手を突っ込んで胎児引きずり出すわよ」
その言葉にデュラハンはひぃっと泣く。アンデッドでも乱暴な出産は嫌なのか。
「モゲロさん早くイって! 早く、早く、早くぅぅっ!」
必死で膣を締めるデュラハン。
別にこいつや胎児がどうなろうと構わないが、我慢しようとも思わないのでそのまま出してやる。
「あ…出てます…っ! モゲロさんがちゃんとイってくれましたよ主さまっ…」
ホッとした顔のデュラハンに、ヴァンパイアの一言。
「1分3秒。遅かったわね」
顔が固まるデュラハン。とばっちりを受けないように自分は離れる。
こいつはやると言ったらやる女だ。
「う、嘘ですよね主さま…。いくらなんでもそんなこと……」
そう言いつつも腹を庇うように丸くなるデュラハン。
「股を開きなさい。抵抗するようなら腹に穴開けて内臓ごと引きずり出すわ」
抜き手にしてデュラハンを見下ろすヴァンパイア。
「も、モゲロさん助けて…! あなたの赤ちゃんがピンチなんですよっ…!」
自分にすがる手をピシリとはらう。別に胎児に愛なんてない。
死産になってくれるのが一番良いが、そもそも初めから死んでいる。期待はできない。
「3秒でいくわ。3,2,1―――」
カウントダウンを始めたヴァンパイア。
腹に大穴を空けられるのは嫌なのか、デュラハンは覚悟を決めて股を開く。
「ぎぃっ! あっ、あ…あるじ、さまっ……!」
ヴァンパイアは腕をふりかぶり一気に突っ込んだ。
デュラハンの腹がボコッと膨らんでいる。そのあたりに手があるのだろう。
「ひぐ…っ! かきま、わさな…い、で……!」
胎児を探しているのかヴァンパイアは乱暴に子宮を引っかき回す。
「…捕まえた。これがあなたの欲望と背徳の結晶というわけね」
ヴァンパイアは胎児を掴んだらしい。そのまま握り潰してくれるとありがたいのだが。
「お…おね、おねがい、で…すっ。あか、ちゃん…はっ…!」
涙も鼻水も垂らして汚い顔だ。この頭を生ゴミと一緒に土への中へ埋めてやりたい。
「……なにか引っかかってるのかしら」
引っ張っても胎児が出てこないので、ヴァンパイアはもう片方の手も押し込んだ。
「あっ、あっ、さけるっ! さけちゃいます…あるじ、さま…っ!」
そう言うが裂けてはいない。産道というものはここまで広がるものなのか。
「この程度で裂けないわよ、安心なさい。ただしガバガバに拡げてあげるわ。
二度とモゲロがあなたを抱きたくならないようにねっ……!」
それは杞憂だ。自分は元から抱きたくなんかない、こいつもおまえも。
「あ、あ…あかちゃん! あかちゃん! あかちゃんんっ!」
狭い中を引きずり出されている胎児が気になるのか、同じ言葉を繰り返す。
やがて足が見えてきた。
逆子か? そう思ったところでヴァンパイアが一気に引き抜く。
「あっ――――――」
ヴァンパイアはデュラハンの娘の両足を持って逆さ吊りにしている。
……頭は落ちてこない。どうやらデュラハンでも産まれたては首がくっ付いているようだ。
ポタポタと羊水を垂れ流す子供をデュラハンの胴体の上に放り投げるヴァンパイア。
「この子は私に逆らわないように育てなさい。いいわね?」
もはや意識があるのかも分からないデュラハンに言い捨てヴァンパイアは自分に向き直る。
「さあモゲロ、私と愛し合いましょう。この子もお腹を空かせているみたいよ」
寝たままのデュラハンなどもう眼中にないのか、少し膨らんだ腹を撫でるヴァンパイア。
午前。
廊下を歩いていたら、小さいゾンビがズボンのすそを掴んできた。
「おにいちゃん…おなかすいた……」
死体のくせに大きく育った妹が食事をねだる。12時まで待てと言うが、腹が減ったと繰り返すばかり。
脳が腐っているから学習能力が低いのだろうか? 毎日毎日何か作ってくれと自分にすがりつく。
腐臭も何もないが、皮膚の剥げた手で服を掴まれるのは不快なので食堂で待っていろと伝える。
「うん……はやくね」
食欲第一なのか走って行く妹ゾンビ。
そのまま昼食時まで待ちぼうけしてろと思うが、放りっぱなしだと父が怒鳴りこんでくるので仕方ない。
「あ! おはようございます、モゲロさん!」
頭ををわきに抱えた小さいデュラハンが敬礼してくる。
こいつはあの夜デュラハンから引きずり出された娘だ。
自分の子供ということになるのだろうが、育っても全く愛情は湧いてこない。
首が繋がったままなら少しは愛情も持てるかもと一瞬錯覚したが、あの後目覚めた母親によって斬首された。
なんでもデュラハンはへその緒の代わりに首を切るらしい。
ちなみに実の父親である自分をモゲロさんと呼ぶのはヴァンパイアの教育方針だ。
お父さんなどと呼ばれるのはひどく不愉快なのでそこだけは感謝している。
「お母さんからのことづてです。例の場所に来てほしいそうです」
はきはきとした口調が耳障りだ。頭を奪って2階の窓からボールのように投げてやりたくなる。
その衝動を抑え頭を撫でてやる。さらさらとした髪だけはいい触り心地だ。
「ん…うふふ……」
気持ち良さそうに目を細めて笑うデュラハンの娘。
その顔をいますぐ床に叩きつけてやりたくなったので、実行に移す前にその場を離れた。
「モゲロさんやっと来てくれましたか。もう待ちくたびれましたよー」
自分とデュラハンが初めてまぐわった忌まわしい場所。
こいつがここに呼び出すときはいつも用件は決まっている。
「ね、今日もお願いします……」
スカートをめくるデュラハン。もう面倒なのか下着も着けていない。
あんな目に会わされたというのに、ほとぼりが冷めたらまた自分とセックスするようになりやがったこの死体は。
もう脳が腐りすぎて液化してるんじゃないだろうか?
「んぁ……っ! モゲロさん…っ! また、デキたんですよ、モゲロさんの赤ちゃんっ…!」
木にしがみ付くデュラハンを後ろから犯す。だからなんだというんだ。
自分が喜んで優しくしてくれるとでも思っているのか?
まあ、出産するときにどんな目に会わされるのかは楽しみだが。
今度こそ子宮ごと胎児を引きずり出されるかな?
脳がとろけた死体に射精するという、人として最悪な行為をした後。
屋敷へ戻り厨房へ向かう。昼食の準備をしなければ。
「おにーちゃん、おなかすいたー。すいたー。すいたー」
同じ単語をリピートするゾンビ。
これでも食ってろと東の国から伝わった豆菓子を渡してやる。
この豆は甘い上に腐っているから、ゾンビにはピッタリだろう。
12時。
ヴァンパイアを除く全員が食堂に集合。
ずいぶん若々しくなった父と腹がふっくらとした母のゾンビは互いのスプーンで食べさせ合いをしている。
……あの二人を救うことはとっくに諦めた。奈落の底まで勝手に落ちろ。
だだっ広い庭で食後の運動をしていたら嫌な声をかけられた。
「お父さま、おはようございます」
振り向くとヴァンパイアが産んだ娘。
…こいつも自分の子供だ。しかもやたらお父さんお父さん言ってくるから極力会いたくない。
一体何の用なのか。今は勉強の時間じゃないのか? 母親と部屋に引き籠ってろ。
「お母さまからの伝言です。夕食が終わったら来るようにと」
午前中も似たような言葉を聞いた。ああ嫌だ。
頭痛がする頭を押さえながら、さっさと行けと手を振る。
「お父さま……」
チビヴァンパイアがじっと見てくる。寂しいから構って欲しいとかそういう視線じゃない。
もちろんそうだったとしても構ってやりなどしないが。
「………食べたい」
一瞬母親が来たのかと思った。声までそっくり似やがって。
夕食も終わり、呼びつけ通りヴァンパイアとその娘の部屋を訪ねる。
「来たわねモゲロ」
「こんばんわ、お父さま」
二人揃ってお出迎えか。今すぐ扉を閉めて逃げ出したい。
「よく見なさい。この穴がまんこ。ここからあなたは産まれたのよ」
自分とのセックスを実際に見せながら、娘に教育するヴァンパイア。
「うわぁ、お母さまのまんこトロトロ…。ここにお父さまのちんぽが入るのよね?」
男女がまぐわう所を見せるとか何考えているんだこの女は。
「ええそうよ。こうやって……っ!」
騎乗位で自分の穴に男性器を受け入れるヴァンパイア。
何度やっても慣れない死体の温かさに包まれる。
「こうやって、ちんぽを入れたあと腰を動かすの。他にも色々あるけど基本はこれよ」
ヴァンパイアの娘は真剣に見つめている。早く自分もそうしたいと考えているのだろうか。
こんな歳で男とのセックスを夢見る死体か。背徳の極みだな。
「お、お母さま! 私もお父さまとしたいですっ!」
そうか。自分はしたくない。デュラハンにあれだけのことをしたんだ、さっさと娘をたしなめろ。
「ダメよ。あなたはまだ小さいもの。もっと育ったらモゲロを貸してあげるわ」
まて、認めたくないが自分の娘とまぐわえというのか。
死体性愛の上に近親相姦とか地獄にもいけないんじゃないのか?
「ほら…っ! もうすぐモゲロが射精するわ…。しっかり見ておきなさい…っ!」
何度も動いて息が上がってきたヴァンパイア。
「ああ、お母さま…。こうやって私もできたんですねっ……! もう感動ですっ…!」
たしかに性交は子供を作る神聖な行為だ。感動してもおかしくはない。
しかし死体相手に行うのはただの異常者であり、神への冒涜だ。
「お母さま、妹が欲しいですっ! 作ってくださいよぉっ!」
妹ならもういるぞ。腹違いだがな。
「私もっ、欲しいけど…なかなかできないのよ……っ! もし、デキたらっ…!
産むところ、見せてあげるわっ…!」
そのときは自分も見せられるんだろう。死体が出産するところなんてもう見たくない。
デュラハンのだって、あいつの酷い目が見られるから耐えることができるんだ。
「ほら、もうモゲロがイクわ…! 見なさい、男は射精するときこうなるのよ…!
あ、あっ! 私もっ……! 女が種付けされるところも見てっ…!」
子宮に精を受けながらヴァンパイアが解説する。しかし種付けというが付く確率の方が低い。
もう妹ができたと目を輝かせている娘は後でガッカリするだろうな。自分はそれでいいんだが。
事が終わったあと。
ヴァンパイアとその娘に挟まれて川の字で眠る。
二人は寝息を立てているが、自分は不快感になかなか寝つけない。
一体いつまでこんな日が続くのだろう。この屋敷で生きている人間は自分と父の二人だけ。
他の住人は母ゾンビと妹ゾンビ、デュラハンとその娘と胎児、すぐ横のヴァンパイアと子供。
八割近くが動く死体なのだ。
……どれだけ昔のことか、父と母と自分の三人で暮らしていたころをふと思い出した。
過去の思い出に逃避したことで少しは精神が安らいだのか、やっと眠気がくる。
出来るだけ長く眠ろう。寝ている間は現実を忘れられるから。
元から体が弱く、父と一緒に寿命を迎えることはできないだろうと言われていた。
それを反対を押し切り自分を産んでしまったことで、短い命をさらに縮めてしまったらしい。
覚悟はしていたので涙は流さなかったが、とても悲しかったのは憶えている。
父は葬儀が終わって以来、書斎に閉じこもるようになった。
そしてある夜、墓へ行くからお前も来いと自分を連れ出した。
命日でもないのにこんな時間にどうしたのか? そう思ったが疑問はそれだけではなかった。
父の服装は死者の冥福を祈りに行くような姿ではなかった。
スコップと分厚い本。一輪の花さえ持っていない。
やがて墓までたどり着いた父は言った。
母の墓を掘り返せ。
何の説明もなく言われて当然断ったが、いいからやれの一点張り。
墓を暴くことに罪悪感を感じながらスコップで土を掘り返す。
その間父は本を読みながら何かの呪文を唱え続けていた。
土を掘り返して棺桶が出てきた。きっとこの中には母の腐った死体が……。
そう思い気分が悪くなった瞬間、父が蓋に手をかけ一気に開け放った。
何をするんだ!
行動の早さに目をそらす間もなく、そう思うのが精いっぱいだった。
そして開いてしまった中身が自分の目に飛び込んでくる。
母の死体。しかしほとんど腐っていない。
肌は死者の色だがいまにも動き出しそうな―――いや、動いている!?
母の死体が目を開け、棺桶の中でゆっくりと身を起こす。
それを目にした父親が母の死体を抱きしめた。
「う、あ……。あな、た……?」
久しぶりに聞いた母の声。父は自分の前で初めて涙を流し、母の髪をなでる。
父が行ったこと。
それはいわゆるネクロマンシーというものだった。
死者を動かす魔術があると以前耳にしたことがある父は、
母を蘇らせようと葬儀の日以来、書斎でずっと研究を続けていたのだという。
母と再び言葉を交わすことができて、父は実に嬉しそうだ。
…しかし自分は喜べない。薄情なようだが母の死は自分の中では決着がついていた。
目の前に居るのは生き返った母ではない。ただのゾンビ、動く死体だ。
こんなこと神が許すわけがない。
ゾンビを連れ屋敷へ戻ると、一台の馬車が停まっていた。
自分なんかの下級貴族とは違う、庶民がイメージするお貴族さまが乗っていそうな豪華な馬車だ。
いったいうちに何の用なのかと思っていたら扉が開き美しい女性が降りてきた。
「無事成功したようだな」
彼女は父と母を見てそう言った。
父はそれに対し、どうもおかげさまでとか、このご恩は決して忘れませんだのと頭を何度も下げながら感謝の言葉を繰り返す。
「別に感謝の言葉はいい。代償を支払うのだからな」
事情がよく分からず、突っ立っている自分にお前も頭を下げろと父が言う。
本当によくわからないがとりあえず下げておこう。
そして頭を下げた自分に近づいてくる、コツコツという足音。
地面へ向かった視界に彼女の足が入る。
「頭を上げろ、モゲロ」
自分の名を知っているのか。そう思いながら顔を上げる。すると目の前に彼女の顔があった。
赤い瞳に唇からのぞく牙。
……どう見ても人間じゃない。
後で聞いた話によると、母を蘇らせようとするものの全く進展がない父に彼女が手を貸してくれたらしい。
魔術の基礎も知らない人間が独学で蘇生させるなどどれほどの時間がいるものか。
そんな父にネクロマンシーの手引き書を与えてくれたのがこのヴァンパイアだったそうだ。
もちろんタダでそんなことをしてくれるわけはない。
代償として若い人間……つまり自分を捧げることにしたらしい。
生きている息子と死んだ妻のどちらが大事なのか。
そう怒りたくなったが答えは決まっているので飲み込んだ。
ヴァンパイアは屋敷に客人として逗留することになった。護衛と称する女騎士と一緒にだ。
その程度かと思うかもしれないが、ここは一応反魔物国家。
きっとここを拠点にして、この街、ひいては国全体を落とそうというのだろう。
妻一人のために息子のみならず大勢の人間を危機に陥れようというのか父は。
しかし憤ったところで自分には何もできない。
堕落したとはいえ血の繋がった親を死刑台に送るなんてこともしたくない。
そんなことを考えながら、包丁を振るっていたら指を切った。痛い。
夕食時になっても父と母は姿を見せない。
料理を並べたテーブルについているのは、自分と護衛の女騎士、あとはヴァンパイアだけだ。
「うわー! 美味しそうですねー!」
騎士は涎を垂らしていただきますを待っている。
「ふむ……いい香りだ」
ヴァンパイアも気にいったのか、お褒めの言葉をいただいた。
どーも。我が家は使用人を使わない家風だから料理も何も自分でやるし。
しかし死体のくせに食事をとるとか不経済ではないのか。
夕食が終って。
「モゲロ、後でわたしの部屋に来い」
ヴァンパイアからのお呼び出しだ。何があるのやら。
まあ、先に食事の後片付けをしないと……父とゾンビの分はどうしようか。
テーブルにのったままの二人分の料理を見ながら考える。
結局フタをしてテーブルに置いておくことにした。部屋から出てきたら食べるだろう。
ノックをして客人の部屋に入る。一応失礼しますと声をかける。
「来たか」
ヴァンパイアはバスローブ一枚でくつろいでいた。
…吸血鬼というのは水に触れてはいけないのではないのだろうか。何故こんな姿に?
「寝るときは裸だ。簡単に脱ぎ着できるから着ている」
なるほど。しかし寝る前に自分を呼んでどうするというのか。
「オナニーしろモゲロ。私の目の前でだ」
……これはアレか。貴様に人間の尊厳なんてものはないと言いたいのか。
父が勝手に譲り渡し、自分はヴァンパイアの所有物になった。
納得などしていないが、家を出ても行くあてなどない。精々野たれ死ぬのが関の山だろう。
別に血を吸われるわけでもない。ただ羞恥心を殺せはいいだけだ。
そう思っても体は動かない。
「どうした、早くしろ。それともオカズがないとできないのか?」
ヤレヤレと息を一つついて、ヴァンパイアは奇妙な形をした鈴を鳴らした。
タッタッタと走る音がして、扉が開く。
「お呼びですかー! 主さまー!」
頭を出したのは一緒についてきた女騎士。あんな音がよく外まで聞こえたな。
「服を脱げ、全部だ。そしてモゲロの前に立て」
いきなりの命令に女騎士は固まる。
「え? ど、どういうことですか主さまっ!?」
硬直が解けた女騎士は主に説明を求める。
「モゲロがオナニーをする。おまえがオカズになれ。以上」
短い言葉で済ませるヴァンパイア。
女騎士は渋っていたが、オシオキするぞの一言で諦めて脱ぎ始めた。
「はぁい…では脱ぎますぅ……」
ずいぶん弱気な騎士だ。これでは敵が現れたときに役に立つのか疑問だな。
まあ自分が気にすることではないが。
「よいしょ…っ」
女騎士が頭を掴んで引っ張ったら取れた。
「こいつはデュラハンという種族だ。見てのとおり頭が取れる」
ありがたくもない説明をありがとう。要するにこいつもアンデッドか。
これで我が家には動く死体が三体。どこの呪われた館だ。
「は、はい。脱ぎましたよぉ……」
両手で支えた頭で胸元を隠すデュラハン。
美しいと言っていい女が裸で立っているが、頭の場所がこれでは……。
頭でそう思ったが自分の体は勝手に勃起する。
まて、あれは死体だ。美しい姿をしていてもゾンビの同類なんだ。
そんなものに反応するな。自分が父親以上の異常者だと認めるのか?
しかし手はかってにズボンを下ろしてしまう。
そうか。最近自慰してないから女の形をしているというだけで立ってしまうのか。
そうだ、きっとそうに違いない。
「なかなかの大きさだな。…続けろ、手を使え」
自分の男性器を見て頷き、先を促すヴァンパイア。
彼女の言う通り早く済ませよう。首無し死体に欲情するなどどうかしている。
もう完全に勃起しているから手で刺激を与えるだけで射精はできる。
目を瞑る。さっさとシゴいて終わりにしよう。
「ちゃんと見ろ。機械的に済まされたのではつまらん」
自分の考えなどお見通しというわけか。仕方ない、あまり頭は見ないようにして……。
デュラハンの胸元は頭があるので下半身を中心に見る。
すらっと引き締まった足腰。見えづらいが柔らかそうな尻。
そして茂った股間。ん、よく見たらなにか垂れている。
彼女も自分をオカズにされていることに興奮しているのだろうか。
ああ、もしデュラハンがまっとうな人間だったなら、自分はとっくに飛び付いていただろうに。
そう思いつつ、手を動かす。
「モゲロさん……」
デュラハンの呟く声。見下しているのか哀れんでいるのか。
さて、そろそろ限界だ。一体どうすればいいんだ?
「あ、モゲロさん、わたしの口に…!」
デュラハンが抱えていた頭を差し出して、男性器を口に含む。
突然の感触に射精する自分。
……射精の快感などどこへやら。
生首にしゃぶられて射精するなど、悪夢にしか思えない。
自分の射精が終わると、デュラハンはグラスを用意しその中に精液を吐き出した。
「はい、主さま。モゲロさんの精ですよー」
どうやら主のヴァンパイアはああやって飲むらしい。
「用は済んだ。もういいぞモゲロ」
お前の役目は終わりだ、出ていけと、手を振るヴァンパイア。
こっちだって出ていきたいさ、こんな部屋。
最速でパンツを穿いて、ズボンは抱えたまま外に出る。
最後に扉の隙間から見えたのは、グラスを傾けて自分の精液を飲み下すヴァンパイアだった。
自分の部屋に戻る前にテーブルを見ていったら、食事はそのままだった。
少し気になる。様子を見てこよう。
父の部屋へ行きノックをする。
……出てこない。こっそり扉を開けて覗いてみる。
「ん…あなた…っ。もっと、して……」
盛り上がったベッドの中で何かが動いている。
何が起きているかは分かった。考えたくないが。
たしかにゾンビになった母は、どことなく若返り美しくなった。
蘇生のために魔術を学ぶほどだから、その思いも強いだろう。
しかし動く死体とまぐわいまでするとは……。
人間の尊厳なんて全て捨ててしまったというのだろうか、あの父は。
救いが見当たらない二人は放ってそっと扉を閉める。
空が暗い。原因は分からないが数日前から晴れの昼間だというのに薄暗いのだ。
視界が悪くなるほどの暗さではないので、明りなど不要で歩けるのが幸いか。
そんな薄暗い廊下を歩いていたら、珍しく部屋に籠っていない母…のゾンビに出くわした。
「おはよう…もげろ……」
おはようございますと自分も挨拶をする。会釈すると目に入る膨らんだ腹。
信じ難いがゾンビでも子供が作れるらしい。
死体が死体を産む。
きっとゾンビの子宮の中では自分の妹の腐った肉体が育っているのだろう。
自分は初めから死んでいる妹を愛することができるのだろうか?
頭を振る。そんなことできそうにない。
その日の夜。
ヴァンパイアに呼び出されたのは自分一人だった。
いつもならデュラハンもオカズと称して裸にされるのだが。
「モゲロ、そこに寝なさい。裸になって」
ベッドを指差すヴァンパイア。……まさか、な。
指示どおりに裸になって自分は横たわる。
一体何をするのか…と思っていたら、ローブを脱ぎ捨ててヴァンパイアも裸になった。
そして自分に馬乗りになる。
「もう立ってるのね。条件反射を躾けたかいがあったわ」
条件反射。たしかに自分がこの部屋に入る時は決まった用事だけなので、
入ると自然に勃起してしまうようになっていた。
「モゲロ。人間の身で私と交われることを光栄に思いなさい」
そう言って彼女は女性器を指で開く。
え、待ってくれ? 本当に自分とセックスする気なのか!?
冗談じゃない! 自分は死体とまぐわう趣味はない!
そのとおりの言葉を口にしたわけではないが、拒否や許しの言葉を口にした。
しかしヴァンパイアは逆にサディストのような笑みを浮かべる。
「ダメよ。あなたは私の物だから。私を満足させる義務があるのよ」
そう言って腰を下ろすヴァンパイア。
「ほうら、もう入ったわよ…」
自分のモノが女の膣に埋まる感覚。ぬめった肉の筒が自分の男性器を搾る。
たしかに締まり具合は人間の女よりいいかもしれない。
しかし真っ当なセックスと違い心臓の鼓動を感じない。
湯船に浸けて温まった死体に挿入すればこんな感じになるのではないだろうか。
「どうかしら。貴族たる私の体は」
貴族もなにも関係ない。セックスなら普通の人間の女とさせてくれ。
そう思うがとても口には出せない。
「あなたも少しは動きなさい」
ヴァンパイアが自分の上で動く。何度も腰がぶつかり合い、体やシーツに液体を飛び散らせる。
自分の精神は嫌だと思っている。しかし肉体の方はそうではないらしい。
性器が擦れ合う快感に反応して腰を突き上げてしまう。
「ほらっ…! モゲロ、どうなの…!? 答えなさいっ…!」
向こうの方はかなりテンションが上がって来たのか、声がかすれている。
とても気持ち良いです、もう出そう。肉体の言葉を精神が代弁する。
その言葉にヴァンパイアは微笑む。自分が何も知らなければ見惚れただろう。
「いいわ、出しなさい…! 私に種付けすることを許してあげるっ…! く…んんっ!」
ヴァンパイアはイッたのか大きく身をのけぞらせる。
それと同時に彼女の中もきつく締まり、耐えられず膣内射精してしまった。
…出してしまった。死体の中に。自分がとても情けなく思える。
自分はこれでゾンビとまぐわう父と同じ場所に堕ちてしまったのだ。
視界が滲む。涙が一筋零れ落ちた。
あの日以来、ヴァンパイアは頻繁に自分を求めるようになった。
言葉づかいも柔らかくなり、態度も少しは優しさが滲み出るようになった。
しかし嬉しくなどない。堅い態度のままでいてくれたならただの義務として機械の様になれた。
まるで生きている女性のように、自分への気遣いを見せたりするから変に辛いのだ。
ある日のこと。
珍しく屋敷の者全員がそろった昼食をとった。
父はゾンビといちゃつきながらパンを口へ運び、ヴァンパイアはデュラハンにトマトジュースを注がせて飲む。
そんな光景を冷めた目で見ていたら。
「あ……! あなた…っ!」
母のゾンビが突然腹を抱えて床にしゃがみこんだ。
どうしたのかと慌てる父にゾンビは。
「あかちゃん、あかちゃんうまれる…!」
それからのことは断片的にしか憶えていない。
ゾンビが大股開きになった。そこから腐った肉の塊が出てきた。
死体を抱き上げる父。デュラハンが笑顔を浮かべ、ヴァンパイアも温かい目で見ている。
そして父が腐った死体を差し出した。ほら、お前の妹だ―――。
自分はそこで気絶したらしい。
目を覚ましたら自分のベッド。懐中時計を見たら朝になっていた。
外の空気を吸うために広さだけはある庭を歩く。
小さい頃は良く駆け回った庭が、最近得体のしれない植物に侵食されている。
昔へ戻りたいと思いながら散歩していたら、見回りしているデュラハンに出会った。
「あ! おはようございます、モゲロさん。体大丈夫ですか? 昨日はいきなり倒れちゃって…」
別にお前に心配される筋合いはない。しかし今日も相変わらず無意味な警護をしているのか。
「無意味って何ですか! わたしは主さまの忠実な護衛として――」
デュラハンが何か言っているが聞き流す。
実際にここを襲撃してくるような敵はいないのだ。無駄な仕事ご苦労様。
「無駄だなんて酷いです! わたしだって一生懸命働いているのにっ!」
ああ、たしかに剣の訓練と称して伸びすぎた枝やツタを切っていたな。
悪かった、お前は立派な庭師だ。
「庭師って何です!? わたしはデュラハンですよ!? 騎士なんですよ!」
この程度で半泣きになる騎士が何処にいる。
人間相手だったら自分も罪悪感を感じただろうが、頭も座らない死体相手にそんなものは湧かない。
やがてデュラハンは地面に座り込んで本格的に泣きだした。
「ひどい…ひどいですよモゲロさんっ……あなた本当に人間なんですかぁ…?」
人間だよ。おまえらみたいな動く死体じゃない。
「動く死体だなんて……。わたしは生まれたときからこうだったんですよ…?」
それについては何も言えない。だが頭をわきに抱えた姿を見て生きているというやつはいないだろう。
魔物や野獣だって首が離れれば死ぬんだから。
「もう、ホントに酷いですモゲロさん…。こうなったら主さまにあることないこと言いつけてやりますっ!」
デュラハンをいたぶって少し気を晴らしていたが、その言葉で口が止まる。
あのヴァンパイアでも部下が精神的虐待を受けたとなれば、何か行動を起こすかもしれない。
暴力を振るわれるということはないだろうが、何か罰を与えられる可能性は否定しきれない。
「……モゲロさん?」
自分の沈黙に立場が逆転したと思ったのか、デュラハンの顔に嫌な笑みが浮かぶ。
屋敷の窓から死角になる場所。
木が密集して生えている一角へ連れて行かれた。
「もう、本当に傷ついたんですからね、モゲロさんっ!」
プンプンという音が似合いそうに怒りを表現するデュラハン。
ごめんなさい、反省してますと口先だけの謝罪をしておく。
「口だけじゃ許しませんよ。身を張って謝罪してもらいますからねっ!」
デュラハンは頭を持ち上げると180度回してはめこんだ。
そして手頃な木に抱きつく。何の真似だ?
「主さまとしている事、わたしにもしてください。それで許してあげます」
どうやらこいつはあのストリップが条件反射になっていたらしい。
自分とヴァンパイアが二人だけでまぐわうようになって、体を持て余しているのか。
…しかし護衛が主の持ち物に手を出していいのか?
自分がこのことを密告すれば立場が悪くなるのはそちらの方だぞ?
「わたしはさっきの事を黙っていて、モゲロさんはこれからのことを喋らない。これでおあいこです」
なるほど、互いに秘密を握り合って密告を防ごうというわけか。
フェアなつもりかもしれないがバカな奴だ。
まあ、それはそれとして何故頭を回転させるのか。
「こうすれば後ろ向きでしながら、キスできるじゃないですか」
合理的かもしれないが気持ちが悪い。やはりアンデッド、人間とは感覚が違う。
後ろを向いた頭が気持ち悪いので、なるべく下を見よう。
スカートをめくり下着を下ろす。すると布と女性器の間に透明な糸が通った。
ずいぶん濡れているようだ。これなら前戯など必要ないだろう。
死体とのセックスなどさっさと終わらせるに限る。
デュラハンの腰を掴んで一気に挿入する。
「あっ! モゲロさんいきなりっ…!?」
デュラハンの中はヴァンパイアと同じように締まっており、熱かった。
もちろん心臓の鼓動も感じない。
…何を期待していたんだ自分は。頭が外れるような奴の心臓が動いていると思ったのか?
こいつだって動く死体だ。自分はこれからこいつ相手に腰を振って出してやらねばならない。
ヴァンパイア相手と違い自分の方から積極的に死体を犯すという事に、さらに一段卑しくなったように思える。
「キスっ、キスしてくださいモゲロさんっ…!」
このまま頭突きしてやれば、こいつの頭は簡単に落ちるだろうか。
その誘惑を振り切って口づけする。ぶっ、舌を入れてきやがった。
自分の舌が死人と絡み合い口腔をまさぐられる。吐き気が喉元まで込み上げてきたが飲み込む。
「もっ、モゲロさん、わたしもうそろそろっ!」
毎日のようにヴァンパイアに搾られているせいか、自分の耐久力は高くなっている。
彼女のほうが先に達してしまうのもしかたないだろう。
それで自分は中と外どちらに出せばいいんだ?
「え、そ、それは……」
デュラハンは迷っている。
感情的には中に出して欲しいが、理性的に考えると膣内射精はマズイといったところだろうか。
どちらでもいいが早く選んでもらいたい。こちらにもタイムリミットがある。
「な、中っ! モゲロさんの精液わたしの中に下さいっ!」
欲望に流されたか。しょせん腐った脳髄はその程度。
忠実な騎士が聞いて笑わせる。まあいいこれでやっと終わる。
……そう思ったとき、一つの考えがよぎった。
「んんっ…! 出てますっ…! モゲロさんの精液、熱いっ……!」
今の自分はどうかしているのだろう。デュラハンを孕ませてやろうと奥深くに大量に出す。
腰を深く押し付け子宮口に合わせ、その中に入るように注ぐ。
冷静な自分が、お前はどこまで堕ちるんだと嘆きの言葉を発する。
…別に性交中にデュラハンを好きになったというわけではない。
妊娠してヴァンパイアに隠せないぐらい腹が膨らんだとき、こいつはどうするか?
忠実な騎士は主の物に手を出したことをどう言い訳するのか?
それを見てみたいと思っただけだ。
一時の嗜虐的な感情で死人と子を作ろうなどと、その時に戻れるなら自分を殴りつけてやりたい。
その日の夜もヴァンパイアに呼び出された。
部屋の中には裸のままベッドに腰掛けているヴァンパイア。
「来たわねモゲロ。早速今日も……ん?」
何かを感じ取ったのか、彼女はベッドから立ち上がり自分に近づく。
そして抱きつき鼻をスンスンいわせ匂いを嗅ぐ。
「…………他の女の匂いがする」
自分を迎えた時と一転、一気に声が冷たくなる。
「話しなさい、正直に」
まさかその日のうちにばれるとはな。これはこれでデュラハンは大目玉だろうからいいが。
ヴァンパイアに問い詰められて自分は話した。
デュラハンに犯された。自分はヴァンパイアの所有物だと言ったが無理矢理やられた。
「そう。今まで良くしてやったと思ったのにねえ……」
気が変わったのかその日はそのまま帰された。
その次の日。
いつも通り庭をブラブラしているデュラハンを見たが特に変わった様子はなかった。
何か罰を与えられたんじゃないのか?
時間は流れる。
デュラハンの腹は明らかに大きくなっているが、ヴァンパイアは何も言わない。
それを主の黙認と受け取ったのかデュラハンも自分を頻繁に求めるようになった。
自分はなんて間抜けだ。気晴らしのための嫌がらせが自身に返って来たのだから。
「あっ、モゲロ……さんっ…!」
ヴァンパイアの部屋。主の前で臨月のデュラハンとまぐわう。
デュラハンは嬌声を上げているが、ベッドの横に置かれている顔は固い。
「どう? そんなに気持ちいいかしら? 私のモゲロとセックスするのは」
デュラハンを冷たい目で眺めているのはヴァンパイア。彼女の腹はポッコリ膨れている程度。
主の物を勝手に使った上に、自分より先に妊娠したというのが気にくわないのだろうか。
「あっ、主さまっ! なんで今になって…! 許してくれたんじゃ…!」
何も言わないから許してくれた。そんなわけがない。
「私がいつ許すなんて言ったの? 主の物に手を出した罪は重いのよ……!」
怒気どころか殺意を込めた瞳でデュラハンの頭を睨む。
……半泣きになったデュラハンを見ても大してスッとしない。ガッカリだ。
「も、モゲロさぁん…。なにか言ってくださいよぉ……」
背面座位でデュラハンの体を犯す自分。腹とともに大きくなった胸が揺れ母乳が飛び散る。
顔に濡れた感触。甘い匂い。死体のくせにこんなものを撒き散らして。
第三者にはこの光景はどう見えているのだろうか。
妊婦の首無し死体を犯す男。どう見ても狂人だ。
そして自分の目に映っているのは死んでいるのに妊娠した女二人。
本当にこの屋敷は狂っている。
「んぐっ! そこっ、そこ良いですっ! モゲロさんっ!」
やがてヴァンパイアが見ていることも意識の外へ出たのか、オネダリをするデュラハン。
ここまで欲ボケとは本当にこいつの頭の中は腐っているんだろうな。
「あなたが楽しんでどうするの。さっさとモゲロをイかせなさい。
一分以内にできなかったなら、穴から手を突っ込んで胎児引きずり出すわよ」
その言葉にデュラハンはひぃっと泣く。アンデッドでも乱暴な出産は嫌なのか。
「モゲロさん早くイって! 早く、早く、早くぅぅっ!」
必死で膣を締めるデュラハン。
別にこいつや胎児がどうなろうと構わないが、我慢しようとも思わないのでそのまま出してやる。
「あ…出てます…っ! モゲロさんがちゃんとイってくれましたよ主さまっ…」
ホッとした顔のデュラハンに、ヴァンパイアの一言。
「1分3秒。遅かったわね」
顔が固まるデュラハン。とばっちりを受けないように自分は離れる。
こいつはやると言ったらやる女だ。
「う、嘘ですよね主さま…。いくらなんでもそんなこと……」
そう言いつつも腹を庇うように丸くなるデュラハン。
「股を開きなさい。抵抗するようなら腹に穴開けて内臓ごと引きずり出すわ」
抜き手にしてデュラハンを見下ろすヴァンパイア。
「も、モゲロさん助けて…! あなたの赤ちゃんがピンチなんですよっ…!」
自分にすがる手をピシリとはらう。別に胎児に愛なんてない。
死産になってくれるのが一番良いが、そもそも初めから死んでいる。期待はできない。
「3秒でいくわ。3,2,1―――」
カウントダウンを始めたヴァンパイア。
腹に大穴を空けられるのは嫌なのか、デュラハンは覚悟を決めて股を開く。
「ぎぃっ! あっ、あ…あるじ、さまっ……!」
ヴァンパイアは腕をふりかぶり一気に突っ込んだ。
デュラハンの腹がボコッと膨らんでいる。そのあたりに手があるのだろう。
「ひぐ…っ! かきま、わさな…い、で……!」
胎児を探しているのかヴァンパイアは乱暴に子宮を引っかき回す。
「…捕まえた。これがあなたの欲望と背徳の結晶というわけね」
ヴァンパイアは胎児を掴んだらしい。そのまま握り潰してくれるとありがたいのだが。
「お…おね、おねがい、で…すっ。あか、ちゃん…はっ…!」
涙も鼻水も垂らして汚い顔だ。この頭を生ゴミと一緒に土への中へ埋めてやりたい。
「……なにか引っかかってるのかしら」
引っ張っても胎児が出てこないので、ヴァンパイアはもう片方の手も押し込んだ。
「あっ、あっ、さけるっ! さけちゃいます…あるじ、さま…っ!」
そう言うが裂けてはいない。産道というものはここまで広がるものなのか。
「この程度で裂けないわよ、安心なさい。ただしガバガバに拡げてあげるわ。
二度とモゲロがあなたを抱きたくならないようにねっ……!」
それは杞憂だ。自分は元から抱きたくなんかない、こいつもおまえも。
「あ、あ…あかちゃん! あかちゃん! あかちゃんんっ!」
狭い中を引きずり出されている胎児が気になるのか、同じ言葉を繰り返す。
やがて足が見えてきた。
逆子か? そう思ったところでヴァンパイアが一気に引き抜く。
「あっ――――――」
ヴァンパイアはデュラハンの娘の両足を持って逆さ吊りにしている。
……頭は落ちてこない。どうやらデュラハンでも産まれたては首がくっ付いているようだ。
ポタポタと羊水を垂れ流す子供をデュラハンの胴体の上に放り投げるヴァンパイア。
「この子は私に逆らわないように育てなさい。いいわね?」
もはや意識があるのかも分からないデュラハンに言い捨てヴァンパイアは自分に向き直る。
「さあモゲロ、私と愛し合いましょう。この子もお腹を空かせているみたいよ」
寝たままのデュラハンなどもう眼中にないのか、少し膨らんだ腹を撫でるヴァンパイア。
午前。
廊下を歩いていたら、小さいゾンビがズボンのすそを掴んできた。
「おにいちゃん…おなかすいた……」
死体のくせに大きく育った妹が食事をねだる。12時まで待てと言うが、腹が減ったと繰り返すばかり。
脳が腐っているから学習能力が低いのだろうか? 毎日毎日何か作ってくれと自分にすがりつく。
腐臭も何もないが、皮膚の剥げた手で服を掴まれるのは不快なので食堂で待っていろと伝える。
「うん……はやくね」
食欲第一なのか走って行く妹ゾンビ。
そのまま昼食時まで待ちぼうけしてろと思うが、放りっぱなしだと父が怒鳴りこんでくるので仕方ない。
「あ! おはようございます、モゲロさん!」
頭ををわきに抱えた小さいデュラハンが敬礼してくる。
こいつはあの夜デュラハンから引きずり出された娘だ。
自分の子供ということになるのだろうが、育っても全く愛情は湧いてこない。
首が繋がったままなら少しは愛情も持てるかもと一瞬錯覚したが、あの後目覚めた母親によって斬首された。
なんでもデュラハンはへその緒の代わりに首を切るらしい。
ちなみに実の父親である自分をモゲロさんと呼ぶのはヴァンパイアの教育方針だ。
お父さんなどと呼ばれるのはひどく不愉快なのでそこだけは感謝している。
「お母さんからのことづてです。例の場所に来てほしいそうです」
はきはきとした口調が耳障りだ。頭を奪って2階の窓からボールのように投げてやりたくなる。
その衝動を抑え頭を撫でてやる。さらさらとした髪だけはいい触り心地だ。
「ん…うふふ……」
気持ち良さそうに目を細めて笑うデュラハンの娘。
その顔をいますぐ床に叩きつけてやりたくなったので、実行に移す前にその場を離れた。
「モゲロさんやっと来てくれましたか。もう待ちくたびれましたよー」
自分とデュラハンが初めてまぐわった忌まわしい場所。
こいつがここに呼び出すときはいつも用件は決まっている。
「ね、今日もお願いします……」
スカートをめくるデュラハン。もう面倒なのか下着も着けていない。
あんな目に会わされたというのに、ほとぼりが冷めたらまた自分とセックスするようになりやがったこの死体は。
もう脳が腐りすぎて液化してるんじゃないだろうか?
「んぁ……っ! モゲロさん…っ! また、デキたんですよ、モゲロさんの赤ちゃんっ…!」
木にしがみ付くデュラハンを後ろから犯す。だからなんだというんだ。
自分が喜んで優しくしてくれるとでも思っているのか?
まあ、出産するときにどんな目に会わされるのかは楽しみだが。
今度こそ子宮ごと胎児を引きずり出されるかな?
脳がとろけた死体に射精するという、人として最悪な行為をした後。
屋敷へ戻り厨房へ向かう。昼食の準備をしなければ。
「おにーちゃん、おなかすいたー。すいたー。すいたー」
同じ単語をリピートするゾンビ。
これでも食ってろと東の国から伝わった豆菓子を渡してやる。
この豆は甘い上に腐っているから、ゾンビにはピッタリだろう。
12時。
ヴァンパイアを除く全員が食堂に集合。
ずいぶん若々しくなった父と腹がふっくらとした母のゾンビは互いのスプーンで食べさせ合いをしている。
……あの二人を救うことはとっくに諦めた。奈落の底まで勝手に落ちろ。
だだっ広い庭で食後の運動をしていたら嫌な声をかけられた。
「お父さま、おはようございます」
振り向くとヴァンパイアが産んだ娘。
…こいつも自分の子供だ。しかもやたらお父さんお父さん言ってくるから極力会いたくない。
一体何の用なのか。今は勉強の時間じゃないのか? 母親と部屋に引き籠ってろ。
「お母さまからの伝言です。夕食が終わったら来るようにと」
午前中も似たような言葉を聞いた。ああ嫌だ。
頭痛がする頭を押さえながら、さっさと行けと手を振る。
「お父さま……」
チビヴァンパイアがじっと見てくる。寂しいから構って欲しいとかそういう視線じゃない。
もちろんそうだったとしても構ってやりなどしないが。
「………食べたい」
一瞬母親が来たのかと思った。声までそっくり似やがって。
夕食も終わり、呼びつけ通りヴァンパイアとその娘の部屋を訪ねる。
「来たわねモゲロ」
「こんばんわ、お父さま」
二人揃ってお出迎えか。今すぐ扉を閉めて逃げ出したい。
「よく見なさい。この穴がまんこ。ここからあなたは産まれたのよ」
自分とのセックスを実際に見せながら、娘に教育するヴァンパイア。
「うわぁ、お母さまのまんこトロトロ…。ここにお父さまのちんぽが入るのよね?」
男女がまぐわう所を見せるとか何考えているんだこの女は。
「ええそうよ。こうやって……っ!」
騎乗位で自分の穴に男性器を受け入れるヴァンパイア。
何度やっても慣れない死体の温かさに包まれる。
「こうやって、ちんぽを入れたあと腰を動かすの。他にも色々あるけど基本はこれよ」
ヴァンパイアの娘は真剣に見つめている。早く自分もそうしたいと考えているのだろうか。
こんな歳で男とのセックスを夢見る死体か。背徳の極みだな。
「お、お母さま! 私もお父さまとしたいですっ!」
そうか。自分はしたくない。デュラハンにあれだけのことをしたんだ、さっさと娘をたしなめろ。
「ダメよ。あなたはまだ小さいもの。もっと育ったらモゲロを貸してあげるわ」
まて、認めたくないが自分の娘とまぐわえというのか。
死体性愛の上に近親相姦とか地獄にもいけないんじゃないのか?
「ほら…っ! もうすぐモゲロが射精するわ…。しっかり見ておきなさい…っ!」
何度も動いて息が上がってきたヴァンパイア。
「ああ、お母さま…。こうやって私もできたんですねっ……! もう感動ですっ…!」
たしかに性交は子供を作る神聖な行為だ。感動してもおかしくはない。
しかし死体相手に行うのはただの異常者であり、神への冒涜だ。
「お母さま、妹が欲しいですっ! 作ってくださいよぉっ!」
妹ならもういるぞ。腹違いだがな。
「私もっ、欲しいけど…なかなかできないのよ……っ! もし、デキたらっ…!
産むところ、見せてあげるわっ…!」
そのときは自分も見せられるんだろう。死体が出産するところなんてもう見たくない。
デュラハンのだって、あいつの酷い目が見られるから耐えることができるんだ。
「ほら、もうモゲロがイクわ…! 見なさい、男は射精するときこうなるのよ…!
あ、あっ! 私もっ……! 女が種付けされるところも見てっ…!」
子宮に精を受けながらヴァンパイアが解説する。しかし種付けというが付く確率の方が低い。
もう妹ができたと目を輝かせている娘は後でガッカリするだろうな。自分はそれでいいんだが。
事が終わったあと。
ヴァンパイアとその娘に挟まれて川の字で眠る。
二人は寝息を立てているが、自分は不快感になかなか寝つけない。
一体いつまでこんな日が続くのだろう。この屋敷で生きている人間は自分と父の二人だけ。
他の住人は母ゾンビと妹ゾンビ、デュラハンとその娘と胎児、すぐ横のヴァンパイアと子供。
八割近くが動く死体なのだ。
……どれだけ昔のことか、父と母と自分の三人で暮らしていたころをふと思い出した。
過去の思い出に逃避したことで少しは精神が安らいだのか、やっと眠気がくる。
出来るだけ長く眠ろう。寝ている間は現実を忘れられるから。
11/11/05 17:16更新 / 古い目覚まし