火鼠
強くなりたい。
強く、強く、強く。
この辺りで俺に敵うヤツなんてもういなくなっちまった。
猛者がいると聞けば西へ東へ巡った。
負ける事があっても勝つまで挑んだ。
それを繰り返して、今では俺も名の知れた男だ、ここ一帯で最強の男。
そんな風に呼ばれているうちに良い気になっていたのが敗因だろう。
所詮は片田舎のお山の大将。
手にした力に浮かれていただけの世間知らずだった。
地元をシメ終わった俺は次の強者を探した。
噂で聞いた火山に住う格闘を好む「火鼠」っつう魔物をぶっ倒す事に決めた。
そんで、挑んで、ボッコボコにされた。
「挑戦?いいだろう。私も対戦相手を探していた所だ。受けてたつ。」
炎を纏った魔物だ。小柄な女みたいな見た目で、ツンとした目をして生意気そうだ。腕と足を覆う様に煌々と炎が燃えている。
それなりに引き締まって戦えそうな体はしているが、俺とはガタイが違う。
炎を味方に武器にするなんてのは驚きだがそれ程大した脅威でもない。
1発良いのを入れちまえばこっちのモンだ。
「ハッ、何が出て来るかと思えば小娘かよ。
拍子抜けだな。まぁここまで来たんだお手合わせ願おうか。手加減はしてやるよ」
数手ほど拳を交わして、組み敷いて正拳突きを寸止めしてやって
「俺の勝ちだな、お嬢ちゃん」
なんてやるつもりでいたが、違った。
この魔物娘の拳のキレが、重さが。
女が一瞬で距離を詰めてきた。
疾い踏み込みに、対処しようと体勢を崩した俺の隙を見逃す事無く「突き」のお手本みたいな拳が放たれ、俺の腹に突き刺さった。
滑らかな軌跡を描き、流星の様に速く、鉄の塊みたいに重い一撃を喰らって、俺はぶっ飛ばされた。
何とか立ち上がったがそこに上段蹴りが飛んでくる。
頭に喰らって再度地に転がされた。
その後も酷いモンだった。
根性で何とか闘志を燃やし奮い立って戦ったんだが、完璧にいなされボコされた。
「フン、大した事ないな。
根性はあるみたいだけど。所詮、喧嘩自慢って所だな。
その怪我なら、自力で山を降りられるだろう。じゃあな。」
地に大の字に転がされて、女が去るのを見送る事しか出来ない。
悔しいが、口も動かせない。
何だって女の癖にあんなに強えんだよ!!
悔しさと恥ずかしさが込み上げてくる。
少しばかり強くなって、イキって、調子に乗っていた俺に。
魔物とは言え、あんなに華奢な体で俺に勝ったあの小娘は、俺よりも、強くなる努力を重ねたんだろう。
俺は何をしてるんだ。
このまま引き下がれない。
絶対に、こんな情けない俺のままではいられない。
必ず勝つ。
次は、必ず。
何とか下山した俺はたらふく食って、たらふく寝た。
次の戦いに挑む為に。
「またお前か…。懲りなかったのか?あの体たらくで、もう一度やれば私に勝てるとでも思ってるのか?」
「この間はすまなかったな。お前を侮った。悪かった。
次はまけない。
頼む、挑戦させてくれ。」
「…まぁ、良いよ。かかってきな。」
負けた。
慢心も油断も無かった。自分に持てる物培ってきた物全て出した。
出し惜しみも勝敗の見切りを付け諦めるのも無しだ、100%勝つつもりで戦った。
それでも倒された。
「フー…前よりは良いけど、私には敵わないよ。諦めな。もう来るなよな。」
負けた。
だが、負けない。
俺は下山して体を癒し、万全の状態でまた戦いを挑んだ。
「…また来たの?何度やっても結果は同じだよ。ちょっとだけ良くなってるかも知れないけど、そもそもアナタ弱いもの」
また挑んだ
「ッ…!また来たんだ!性懲りも無く!
言ったよね、もう来るなって。…しつこい!」
また
「また?アンタにはムリだってば、私を倒そうなんて。どうしたってムリな物はムリ。
人間にしちゃ良い線いってるんだからそれで満足したら?」
また
「何で?
何で、何度も何度も挑んでくるの?
私を倒す事がそんなに大事?出来ない事に本気になったって無駄だって分からない?
もう諦めろよ!」
また
「…何で?何でそんなに私に拘るのよ…。
私を倒してそれで?それで何になるの?
アナタは何がしたいの?」
「いい加減迷惑なのよ!何で…?どうして何度も何度も立ち向かってくるのよ!」
何で、か。
「そうだな、何でだろうな…。
俺はお前を尊敬してる。その強さを、武を、その境地に至るまでの全てを。お前自身を。
そんなお前を超えたいんだ。
それでやっと矮小な自分自身も超える事が出来る。
自分よりも、凄い、強い、だから腰を折って拝んで羨望して憧れて、そんな風に諦めたく無いんだ。
自分の惨めさを噛み締めて生きて行く、そんなのはごめんだ。
自分には無い物を持ってるヤツに心が屈伏しちまったら、ずっと憧れるだけの小さな存在になっちまう。
だから、負けたく無い、自分に無い物を手に入れたい。
お前を俺の物にしたいんだ。…これはちょっと違うか、お前の強さをって事だ。」
「…ッ!そうか。只考え無しに意地になってるって訳じゃ無い様だな。
分かった!受けて立ってやる!だけど!これが最後だ!金輪際!二度と!挑戦は受けない!これが本当に最後だ!」
「あぁ、分かった」
そして、俺は勝った。
片腕が折れた、足も力が入らない、満身創痍だ。
だが、勝った。
「俺の勝ちだな。お嬢ちゃん。」
フラフラとして、意識が途切れ、ぶっ倒れた。
「…ッ!ちょっと…!重いんだけど!…気を失ってる…。…ま、全く!もう!仕方ないんだから!」
…何だ?おぶられてる?ダメだ何も考えられねえ…
今は成し遂げた達成感の中で安堵に包まれ、まどろむ事しかできない。
小さくも頼もしい背中で。
気が付くと俺はベッドで寝ていた。
「な、ここは何処だ?」
洞穴というか洞窟に穴を掘って家を作っている様な居所だ。穴ぐらってやつか。
「目が覚めた?
全く本当に大変だったんだから!アンタすっごく重いし。まぁ普段の修行でもっと重い物持ってるから別に全然平気だけど。
ここは私の家よ、ぶっ倒れたアンタを運んできてあげたの。放っとく訳にもいかないし…」
「…そうか、俺は倒れたのか、ありがとうな。助かった。
優しいんだな。」
「そ、そういうんじゃ無いっての!…まぁ私に初めて勝った男だし?無碍に扱う訳にもいかなかったというか…///(ボソボソ)」
「今まで無敗だったのか、そりゃそうかあの強さだ。(何で照れてるんだ?)」
「体は大丈夫?アンタの戦い方激し過ぎ。凄かったけど、体への負荷は相当だった筈。怪我は無い?」
「そうだな、…ッ!腕が折れてるなやっぱ。
それ以外は大丈夫そうだ。
もう少し体力が戻ったら帰るよ。
ありがとう。」
「…え!?もう帰っちゃうの?
じゃなくて!凄い戦い振りだったのよ?腕も折れてるんでしょ。
もう少しゆっくりしていきなさいよ…!」
「そ、そうか?長居は悪いかと思ってな。
アンタ…すまない、お互い名乗るのがまだだったな、俺の名はキョウだ。
アンタの名前を教えてくれ。」
「ア、明日火(アスカ)よ!」
「アスカか、何と呼べば良い?アスカちゃん?アスカさんか?」
「別にアスカで良いわよ!ちゃんなんて呼ばれるキャラじゃ無いし!」
「そうか、じゃあアスカ。
改めて礼を言う。
介抱してくれた事だけじゃ無い、俺と全力で戦ってくれて、イキがってたチンケなチンピラの俺にチャンスをくれて。
今回の勝ちは本当の実力での勝ちじゃねえ、培った「武」は圧倒的にアスカが上だった、俺がムキになって自分の身を度外視に暴走したから虚をつけただけだ。
それでも、俺はアスカと会えて成長出来た、以前の俺から変わる事が出来た。
ありがとう。」
「そ、そう。
よ、良かったわね。
ま、まぁ勝負は勝負、私を倒す実力がアンタの…キ、キョウ!の中にあったって事よ!
自信持ちなさい!」
「…やっぱりお前は優しく強い…ぶち当たった壁がアスカで良かった。
お前のお陰だ。お前と会えて俺は幸運だった。
俺はこの勝利に恥じない男になる。
…スマンがまだ体が完全に癒えて無い様だ、お言葉に甘えて少し休ませて貰う。」
俺はベッドに横たわる。
俺はこれからもっと強くなる。もっともっと強くなりたい。
それには今は休息しなければならない。
俺は眠りに落ちた。
ZZZ…
物音にふと目が覚めると、アスカが目の前に立っていた。
顔を真っ赤にして。
「私は一応アンタに倒された身だし、その務めとして?アンタの事、い、癒してあげる!
言っとくけどアンタに、キ、キョウに拒否権無いから!」
俺に拒否権は無いのか。
というかこれは何なんだ。
「癒すって、何をするんだ?」
な、何故脱ぐ?
アスカは裸になると、ベッドに上がり俺に跨る。
引き締まってスレンダーな綺麗な体だ、白い肌も白銀の雪原を思わせる、彼女の体を纏っている紅蓮の炎と相まって、とても美しい。
思わず見惚れてしまう。
…じゃなくて、
「どうした!?何故脱いだんだ?何をする気なんだ!?」
「うるさい!ピーピー言うな!」
もの凄い力で俺の衣服が剥がされる。
顔が近づいてくる。
ツンと澄ましたツリ目で、整った目鼻立ち、顔というか頭が俺に比べて二回りも小さい、強過ぎて忘れそうになっていたがコイツ女だったなと思い出す。
意識しだすと途端にドキドキして来た、こんなに可愛かったのか。
抱き付かれる。
そのまま唇を奪われる。
…???!!??!?何故??
そのまま離れない。唇と唇が密着したまま時が流れる。
動揺と酸欠で目の前がくらくらしてきて、ようやく向こうから離れた。
アスカは顔を真っ赤にして、ゆるゆるの口元がニンマリと幸せそうに横に広がる。とても良い笑顔だ。
そして、甘える様に俺の体に絡み付いて俺の体の至る所に愛おしそうにキスをする。
顔が完全に蕩けている。
これが魔物流の治療の仕方なのか?
いや、そんな事あるか?もうこれは殆どセックスじゃないか?
肩に、胸に、腕に、腹に、段々と下に向かってチュッチュッとキスされていく。
よく分からない状況だが、こんな事をされていて、俺の下半身も反応してしまう。
アスカのキス行脚が太腿に差し掛かった時点で、完全にイチモツが勃起してしまった。
「…すまない…たっちまった…」
アスカはソレを見ると、とても嬉しそうな顔でソコにもキスをする。
より丹念に何度もキスをされて、その度にゾクゾクと快感が走る。
「お、おい、そこは汚いしやめろよ…。というかこれは何なんだ?癒すって言ってたが…」
「いーから!」
アスカはガバッと体を起こすと俺の腰の辺りに跨がる。
「キョウは黙って私がする事を受け入れていれば良いの!治療なんだから!これは!」
「お、おい!それは流石にマズイだろう!?
お互いの名前もついさっき知った様な男女がそんな事するのは!?
俺は良いが、女の子がそんな事をするのは良くないんじゃないか!?」
「…キョウは良いの?こうして」
腰がゆっくり降りて来る。
「俺は良いが、寧ろ嬉し…いやいや、そういう問題じゃない!
女の子が初めて部屋に入れた男とそういう事をするのはいけない事なんじゃないか?
俺なんかとで本当に良いのか!?」
「私はキョウと初めて会った時から、ずっとこうしたかったよ」
そのまま腰が降りて、俺とアスカの体はつながった。
アスカの体も中も燃える様に熱い、彼女の情熱が表れているかの様に。
昂り盛って激しく身を揺らす。
俺の体をむさぼる様に腰を打ち付け、上の口を俺の唇に何度も何度も重ねた。
それでも足りないのか、アスカの舌が俺の口内に入ってくる。
互いの舌を絡め合い求め合う。
甘く、甘く。熱く、熱く。
もう理性はドロドロに溶けていた。
我慢が出来ない。
上下を逆転させる。
上半身を起こし、腰を捻り、性器は繋がったままで丸め込む様に優しくベッドにアスカを寝かせ、正常位の形にする。
それからは己が求める儘に、激しく目の前の女を求めた。
彼女の熱が俺にも移った様だった。
アスカは俺が上になるとさっきまでの威勢は鳴りを潜め、途端にしおらしくなった。
俺のなすがままにされて可愛い声をあげている。
細い腰も、大きくは無いが形の良い胸も、綺麗な白い肌も、可愛らしい反応も、全てが俺を刺激する。
熱く激しく彼女を求めた。
何度も何度も求めて、絶頂に達しそうになる。
アスカはおずおずと腕を伸ばし、俺の体を強く抱き締め、熱烈なキスをした。
それが合図になって俺は果て、達した。
ドクドクと、終わらないのでは思う程幾度にも渡って大量の精液をアスカの中に射精した。
俺が果てたタイミングと同時に、アスカも絶頂に至り、体をビクっと震わせ、ぐったりとベッドに横たわる。
俺も一緒にベッドに横たわる。
えも言えぬ充足感が体を心を満たす。
求めていたピースが不意にカチリとハマる感覚。
欲望と結果を繋ぐ歯車がハマった様に、したい事、するべき事、が一致した。
根幹を満たされ、多幸感が溢れて、ある気持ちが実る。
ふと、この女は俺にとって大事な存在なのだと、有り難く、掛け替えの無いものだと。
手離してはいけない、手離したく無い、と思った。
この世の全ての事から、この手で彼女を守りたい。
無意識にアスカの手をとり握りしめた。
アスカは嬉しそうにして、自身の指と俺の指を絡ませる。
そして、俺の腕に抱き付き甘える様に俺の肩に顔を擦り付ける。
幸せそうに、甘く蕩ける表情を浮かべる。
暫く静かで甘い時間が過ぎて、ふとアスカが語り出す。
「ねぇ、聞いて。ずっと怖かった。
いつ貴方が私から離れて行くのかって。
初めて会った時に一目見て、「あっ良いな」って確信して、だけどいつか貴方は私から離れて行くんだと思うと怖くて、好きな気持ちを認めず強がって突っぱねてしまって、それでも貴方はめげずに私に立ち向かって、その度にもっと貴方を好きになって、でも、もし私が貴方を好きだって認めてしまったら、その分貴方がいなくなった時の痛みも大きくなりそうで、どうせいつか離れるなら自分から遠ざけてしまおうって、でも本当は離れたく無くて貴方の事が大好きだったの。
だからね、貴方は私の事を強いって言ってくれるけど、私は、本当は自分の気持ちにも立ち向かえない臆病者なの。」
「お前は強いよ。それは、お前の拳が、お前に纏う炎が、お前が培った日々が、その重さが証明してる。本当の臆病者だったらそれらは決して宿らない。
それに、今こうして俺に胸の内を打ち明ける勇気を見せたじゃ無いか。」
「あのさ、鼠ってどんな生き物か知ってる?
体も小さくて、自分よりも強い捕食者も多くて、臆病にコソコソ穴ぐらとかに隠れて生きる生き物なの。
私はその鼠系の魔物の一種なんだけど、私達の種族は、武道を身に付けて体を鍛えて、その鼠特有の臆病さ弱さを隠そうとてしてるだけの、強がりな臆病者なの。
その強がりが、私を覆っているこの炎。
私を奮い立たせるこの炎も結局は只の強がりなの。
自分は強い、勝てるって臆病で弱い自分に言い聞かせて、本来戦い向きな種族じゃないのに意地を張って戦う為に身につけた物。
本当に強い訳じゃ無い」
「恐れない事が強さなのか?生まれ持った牙が、大きな体が、他者を狩る為の機能だけが、本当の強さなのか?
確かに鼠は小さく弱い、臆病ゆえに陰でコソコソ生きている。
なら、より見つかりにくく隠密性を獲得する、或いは、素早さだったり逃げる為の術を手にする様特化して進化した方が合理的だ。
だってのによ、お前の種族は、よりにもよって自身の種族の弱さを克服する様に進化してる。
強者に見つからない為の隠密性も、逃げ延びる為の素早さをも獲得せずに、闘争心って武器を手に入れた。
ハッキリ言って無茶でバカだ、どう考えたって自分の特性にあった進化をした方が賢い。
だけど、だからこそ、俺はお前を、お前達「火鼠」って種族を強いと思う。」
「そう…かな…」
「ああ。自分の弱さを受け入れて、その上で自分に合う武器を手に入れる道だってあったってのに、自分の弱さを克服して相手の強さと真っ向から立ち向かって超えようなんて、臆病な癖になんて勇敢なんだよ。
臆病なのに、弱いのに、負けず嫌いで、強がりで、勇敢な闘争心を持っている。
その己の弱さと立ち向かい克服しようとする勇敢さを、俺は本当に強いと思う。
その強がりの闘争心で培ったお前の拳は、武力は、本当は弱いモノなのか?
その強がりで強者をぶっ飛ばしに行こうぜ。俺も付き合うぜ。立ち会ってやる。
大きな牙を持つ虎にするか?鋭い爪を持つ鷹にするか?
そいつらもお前の拳にはビビっちまうだろうよ。強者なんか目じゃねぇ。
その燃える闘争心は、敵が強くたって、怖くて怯えていても、消えやしなかったじゃ無いか。
臆病者だって、虚勢張ってたって、強くなれない訳じゃ無い。
お前は強いよ。」
「そんな風に考えた事無かった。
いつも自分は臆病者なんだって弱いんだって思ってた、だから強がって、強い自分を演じてた。
仮初めだったの。自分の中にあるモノを信じられなかった。
でもキョウがそう言ってくれて、絶対に諦めない姿を見せてくれて、自分の事を信じられるかもって思った。
私、キョウといたらもっと強くなれる、「本当」に強く成れそうだって思う。
自分を信じていられる。
一緒にいて欲しい。」
「……………不思議なんだ、どうして俺は途中で折れなかったんだろうかって、な。
俺はお前に何度も敗れ、その度に何度も諦めそうになった。
高すぎる壁の前に、お前に挑む以前のチンケな俺なら多分立っていられなかった。
でも、お前と拳を交わしてお前の燃える炎に触れる度に闘志を、勇気を貰った。
だから、折れずに立っていられた。
俺を強くしてくれたのはお前だ。
俺が俺のなりたい自分でいられたのは、アスカがいたからだ。
俺の方こそ、お前と一緒にいさせて欲しい」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
顔を真っ赤にして照れて、とても幸せそうな満面の笑顔でアスカは答えた。
そして、俺達は寄り添って一緒に眠った。
目が覚めると、何か美味そうな良い匂いがした。
「目、覚めた?食べるでしょ?」
エプロンを付けたアスカがテーブルに料理を並べていた。
「ああ、腹ペコだ。良いのか?ありがとよ。
料理出来るんだな」
「料理位出来るから!食べないなら下げちゃうけど?」
「くう、くう。」
折れた腕を使わずに片腕で料理を平らげた。
食いづらかったが、アスカが手助けしてくれたし、何より本当に美味くって即食い終わっちまった。
「ごちそーさま。本当に美味かった。」
「別にフツーだけどね。。まぁ、気に入ったんなら?また作ってあげても良いけど…」
「おう!また食わしてくれよ!」
「べ、別に良いけど。…そういえばアンタいつまで此処にいるつもり?
私はまぁアンタがこのまま此処でケガの治療していっても大丈夫だけど?
魔物だけど、医者もいるし」
「一晩寝て下山出来るくらいの体力は戻ったし一旦町に戻ろうと思う。」
「…そ、そう…。」
「その後、また此処に来たいんだが、良いか?」
「良いわよ!別に…!今まで挑戦とか言って勝手に来てたじゃない!今度も勝手にしなさいよ!」
「ハハハ、確かにそうだな。それじゃあ、待っててくれ」
別れ際
「世話になったな。じゃあな。」
「…………アンタが…また来るって言ったんだから。絶対また来て………待ってるから(超小声)」
「おう!」
それから俺は町へ降りて、医者に行って、ケガの治療の合間に知り合いに挨拶をしたり、宝石屋で買い物をしたりした。
すっかり腕も完治して、準備万端でアスカの所へ向かう。
「あっ…!き、来たんだ…。本当に。
何?リップサービスをまにうけてまた来ちゃったの?社交辞令って知らない?」
「アスカ!結婚してくれ!頼む!」
指輪を差し出す。
「は?はぁ??何言ってんの!?いきなり!
何?責任とか感じてるの?私とセ、セックスした事。
そんな事で結婚とか言われても困るんだけど!」
「……………」
「何黙ってんのよ!?私の事良くも知らない癖にいきなりそんな事いって良い訳?
アンタの気の迷いに振り回されるなんてゴメンなんだけど!?」
「……………」
「本気じゃないんでしょ!?取り消すなら今だけど!?」
「本気だよ」
「……本当に良いの?」
「結婚してくれ。頼む」
「……………………はい。こちらこそよろしくお願いします」
指輪を薬指に嵌める。
なんて幸せそうな顔なのだろうか。
泣き出しそうな笑顔とはこの事だろう。
この日、俺とアスカは結ばれた。
後日談の後日談の後日談
「オギャー オギャー」
「ねぇ見て。アナタの子供だよ。女の子。」
なんて、なんて可愛らしさだ!
愛おしい。
目一杯の産声をあげる、尊い命。
なんて可愛いいんだ。
しわくちゃの赤ん坊なのに絶対に母親似の美人に育つのがハッキリと分かる。
この子以上に可愛い者は存在しない。
決めた
絶対にこの子は嫁には出さん
そんじょそこらの軟弱なオトコ共には近寄れ無い位に強く育てる。
この子の母親の様に!
強く、強く、強く。
この辺りで俺に敵うヤツなんてもういなくなっちまった。
猛者がいると聞けば西へ東へ巡った。
負ける事があっても勝つまで挑んだ。
それを繰り返して、今では俺も名の知れた男だ、ここ一帯で最強の男。
そんな風に呼ばれているうちに良い気になっていたのが敗因だろう。
所詮は片田舎のお山の大将。
手にした力に浮かれていただけの世間知らずだった。
地元をシメ終わった俺は次の強者を探した。
噂で聞いた火山に住う格闘を好む「火鼠」っつう魔物をぶっ倒す事に決めた。
そんで、挑んで、ボッコボコにされた。
「挑戦?いいだろう。私も対戦相手を探していた所だ。受けてたつ。」
炎を纏った魔物だ。小柄な女みたいな見た目で、ツンとした目をして生意気そうだ。腕と足を覆う様に煌々と炎が燃えている。
それなりに引き締まって戦えそうな体はしているが、俺とはガタイが違う。
炎を味方に武器にするなんてのは驚きだがそれ程大した脅威でもない。
1発良いのを入れちまえばこっちのモンだ。
「ハッ、何が出て来るかと思えば小娘かよ。
拍子抜けだな。まぁここまで来たんだお手合わせ願おうか。手加減はしてやるよ」
数手ほど拳を交わして、組み敷いて正拳突きを寸止めしてやって
「俺の勝ちだな、お嬢ちゃん」
なんてやるつもりでいたが、違った。
この魔物娘の拳のキレが、重さが。
女が一瞬で距離を詰めてきた。
疾い踏み込みに、対処しようと体勢を崩した俺の隙を見逃す事無く「突き」のお手本みたいな拳が放たれ、俺の腹に突き刺さった。
滑らかな軌跡を描き、流星の様に速く、鉄の塊みたいに重い一撃を喰らって、俺はぶっ飛ばされた。
何とか立ち上がったがそこに上段蹴りが飛んでくる。
頭に喰らって再度地に転がされた。
その後も酷いモンだった。
根性で何とか闘志を燃やし奮い立って戦ったんだが、完璧にいなされボコされた。
「フン、大した事ないな。
根性はあるみたいだけど。所詮、喧嘩自慢って所だな。
その怪我なら、自力で山を降りられるだろう。じゃあな。」
地に大の字に転がされて、女が去るのを見送る事しか出来ない。
悔しいが、口も動かせない。
何だって女の癖にあんなに強えんだよ!!
悔しさと恥ずかしさが込み上げてくる。
少しばかり強くなって、イキって、調子に乗っていた俺に。
魔物とは言え、あんなに華奢な体で俺に勝ったあの小娘は、俺よりも、強くなる努力を重ねたんだろう。
俺は何をしてるんだ。
このまま引き下がれない。
絶対に、こんな情けない俺のままではいられない。
必ず勝つ。
次は、必ず。
何とか下山した俺はたらふく食って、たらふく寝た。
次の戦いに挑む為に。
「またお前か…。懲りなかったのか?あの体たらくで、もう一度やれば私に勝てるとでも思ってるのか?」
「この間はすまなかったな。お前を侮った。悪かった。
次はまけない。
頼む、挑戦させてくれ。」
「…まぁ、良いよ。かかってきな。」
負けた。
慢心も油断も無かった。自分に持てる物培ってきた物全て出した。
出し惜しみも勝敗の見切りを付け諦めるのも無しだ、100%勝つつもりで戦った。
それでも倒された。
「フー…前よりは良いけど、私には敵わないよ。諦めな。もう来るなよな。」
負けた。
だが、負けない。
俺は下山して体を癒し、万全の状態でまた戦いを挑んだ。
「…また来たの?何度やっても結果は同じだよ。ちょっとだけ良くなってるかも知れないけど、そもそもアナタ弱いもの」
また挑んだ
「ッ…!また来たんだ!性懲りも無く!
言ったよね、もう来るなって。…しつこい!」
また
「また?アンタにはムリだってば、私を倒そうなんて。どうしたってムリな物はムリ。
人間にしちゃ良い線いってるんだからそれで満足したら?」
また
「何で?
何で、何度も何度も挑んでくるの?
私を倒す事がそんなに大事?出来ない事に本気になったって無駄だって分からない?
もう諦めろよ!」
また
「…何で?何でそんなに私に拘るのよ…。
私を倒してそれで?それで何になるの?
アナタは何がしたいの?」
「いい加減迷惑なのよ!何で…?どうして何度も何度も立ち向かってくるのよ!」
何で、か。
「そうだな、何でだろうな…。
俺はお前を尊敬してる。その強さを、武を、その境地に至るまでの全てを。お前自身を。
そんなお前を超えたいんだ。
それでやっと矮小な自分自身も超える事が出来る。
自分よりも、凄い、強い、だから腰を折って拝んで羨望して憧れて、そんな風に諦めたく無いんだ。
自分の惨めさを噛み締めて生きて行く、そんなのはごめんだ。
自分には無い物を持ってるヤツに心が屈伏しちまったら、ずっと憧れるだけの小さな存在になっちまう。
だから、負けたく無い、自分に無い物を手に入れたい。
お前を俺の物にしたいんだ。…これはちょっと違うか、お前の強さをって事だ。」
「…ッ!そうか。只考え無しに意地になってるって訳じゃ無い様だな。
分かった!受けて立ってやる!だけど!これが最後だ!金輪際!二度と!挑戦は受けない!これが本当に最後だ!」
「あぁ、分かった」
そして、俺は勝った。
片腕が折れた、足も力が入らない、満身創痍だ。
だが、勝った。
「俺の勝ちだな。お嬢ちゃん。」
フラフラとして、意識が途切れ、ぶっ倒れた。
「…ッ!ちょっと…!重いんだけど!…気を失ってる…。…ま、全く!もう!仕方ないんだから!」
…何だ?おぶられてる?ダメだ何も考えられねえ…
今は成し遂げた達成感の中で安堵に包まれ、まどろむ事しかできない。
小さくも頼もしい背中で。
気が付くと俺はベッドで寝ていた。
「な、ここは何処だ?」
洞穴というか洞窟に穴を掘って家を作っている様な居所だ。穴ぐらってやつか。
「目が覚めた?
全く本当に大変だったんだから!アンタすっごく重いし。まぁ普段の修行でもっと重い物持ってるから別に全然平気だけど。
ここは私の家よ、ぶっ倒れたアンタを運んできてあげたの。放っとく訳にもいかないし…」
「…そうか、俺は倒れたのか、ありがとうな。助かった。
優しいんだな。」
「そ、そういうんじゃ無いっての!…まぁ私に初めて勝った男だし?無碍に扱う訳にもいかなかったというか…///(ボソボソ)」
「今まで無敗だったのか、そりゃそうかあの強さだ。(何で照れてるんだ?)」
「体は大丈夫?アンタの戦い方激し過ぎ。凄かったけど、体への負荷は相当だった筈。怪我は無い?」
「そうだな、…ッ!腕が折れてるなやっぱ。
それ以外は大丈夫そうだ。
もう少し体力が戻ったら帰るよ。
ありがとう。」
「…え!?もう帰っちゃうの?
じゃなくて!凄い戦い振りだったのよ?腕も折れてるんでしょ。
もう少しゆっくりしていきなさいよ…!」
「そ、そうか?長居は悪いかと思ってな。
アンタ…すまない、お互い名乗るのがまだだったな、俺の名はキョウだ。
アンタの名前を教えてくれ。」
「ア、明日火(アスカ)よ!」
「アスカか、何と呼べば良い?アスカちゃん?アスカさんか?」
「別にアスカで良いわよ!ちゃんなんて呼ばれるキャラじゃ無いし!」
「そうか、じゃあアスカ。
改めて礼を言う。
介抱してくれた事だけじゃ無い、俺と全力で戦ってくれて、イキがってたチンケなチンピラの俺にチャンスをくれて。
今回の勝ちは本当の実力での勝ちじゃねえ、培った「武」は圧倒的にアスカが上だった、俺がムキになって自分の身を度外視に暴走したから虚をつけただけだ。
それでも、俺はアスカと会えて成長出来た、以前の俺から変わる事が出来た。
ありがとう。」
「そ、そう。
よ、良かったわね。
ま、まぁ勝負は勝負、私を倒す実力がアンタの…キ、キョウ!の中にあったって事よ!
自信持ちなさい!」
「…やっぱりお前は優しく強い…ぶち当たった壁がアスカで良かった。
お前のお陰だ。お前と会えて俺は幸運だった。
俺はこの勝利に恥じない男になる。
…スマンがまだ体が完全に癒えて無い様だ、お言葉に甘えて少し休ませて貰う。」
俺はベッドに横たわる。
俺はこれからもっと強くなる。もっともっと強くなりたい。
それには今は休息しなければならない。
俺は眠りに落ちた。
ZZZ…
物音にふと目が覚めると、アスカが目の前に立っていた。
顔を真っ赤にして。
「私は一応アンタに倒された身だし、その務めとして?アンタの事、い、癒してあげる!
言っとくけどアンタに、キ、キョウに拒否権無いから!」
俺に拒否権は無いのか。
というかこれは何なんだ。
「癒すって、何をするんだ?」
な、何故脱ぐ?
アスカは裸になると、ベッドに上がり俺に跨る。
引き締まってスレンダーな綺麗な体だ、白い肌も白銀の雪原を思わせる、彼女の体を纏っている紅蓮の炎と相まって、とても美しい。
思わず見惚れてしまう。
…じゃなくて、
「どうした!?何故脱いだんだ?何をする気なんだ!?」
「うるさい!ピーピー言うな!」
もの凄い力で俺の衣服が剥がされる。
顔が近づいてくる。
ツンと澄ましたツリ目で、整った目鼻立ち、顔というか頭が俺に比べて二回りも小さい、強過ぎて忘れそうになっていたがコイツ女だったなと思い出す。
意識しだすと途端にドキドキして来た、こんなに可愛かったのか。
抱き付かれる。
そのまま唇を奪われる。
…???!!??!?何故??
そのまま離れない。唇と唇が密着したまま時が流れる。
動揺と酸欠で目の前がくらくらしてきて、ようやく向こうから離れた。
アスカは顔を真っ赤にして、ゆるゆるの口元がニンマリと幸せそうに横に広がる。とても良い笑顔だ。
そして、甘える様に俺の体に絡み付いて俺の体の至る所に愛おしそうにキスをする。
顔が完全に蕩けている。
これが魔物流の治療の仕方なのか?
いや、そんな事あるか?もうこれは殆どセックスじゃないか?
肩に、胸に、腕に、腹に、段々と下に向かってチュッチュッとキスされていく。
よく分からない状況だが、こんな事をされていて、俺の下半身も反応してしまう。
アスカのキス行脚が太腿に差し掛かった時点で、完全にイチモツが勃起してしまった。
「…すまない…たっちまった…」
アスカはソレを見ると、とても嬉しそうな顔でソコにもキスをする。
より丹念に何度もキスをされて、その度にゾクゾクと快感が走る。
「お、おい、そこは汚いしやめろよ…。というかこれは何なんだ?癒すって言ってたが…」
「いーから!」
アスカはガバッと体を起こすと俺の腰の辺りに跨がる。
「キョウは黙って私がする事を受け入れていれば良いの!治療なんだから!これは!」
「お、おい!それは流石にマズイだろう!?
お互いの名前もついさっき知った様な男女がそんな事するのは!?
俺は良いが、女の子がそんな事をするのは良くないんじゃないか!?」
「…キョウは良いの?こうして」
腰がゆっくり降りて来る。
「俺は良いが、寧ろ嬉し…いやいや、そういう問題じゃない!
女の子が初めて部屋に入れた男とそういう事をするのはいけない事なんじゃないか?
俺なんかとで本当に良いのか!?」
「私はキョウと初めて会った時から、ずっとこうしたかったよ」
そのまま腰が降りて、俺とアスカの体はつながった。
アスカの体も中も燃える様に熱い、彼女の情熱が表れているかの様に。
昂り盛って激しく身を揺らす。
俺の体をむさぼる様に腰を打ち付け、上の口を俺の唇に何度も何度も重ねた。
それでも足りないのか、アスカの舌が俺の口内に入ってくる。
互いの舌を絡め合い求め合う。
甘く、甘く。熱く、熱く。
もう理性はドロドロに溶けていた。
我慢が出来ない。
上下を逆転させる。
上半身を起こし、腰を捻り、性器は繋がったままで丸め込む様に優しくベッドにアスカを寝かせ、正常位の形にする。
それからは己が求める儘に、激しく目の前の女を求めた。
彼女の熱が俺にも移った様だった。
アスカは俺が上になるとさっきまでの威勢は鳴りを潜め、途端にしおらしくなった。
俺のなすがままにされて可愛い声をあげている。
細い腰も、大きくは無いが形の良い胸も、綺麗な白い肌も、可愛らしい反応も、全てが俺を刺激する。
熱く激しく彼女を求めた。
何度も何度も求めて、絶頂に達しそうになる。
アスカはおずおずと腕を伸ばし、俺の体を強く抱き締め、熱烈なキスをした。
それが合図になって俺は果て、達した。
ドクドクと、終わらないのでは思う程幾度にも渡って大量の精液をアスカの中に射精した。
俺が果てたタイミングと同時に、アスカも絶頂に至り、体をビクっと震わせ、ぐったりとベッドに横たわる。
俺も一緒にベッドに横たわる。
えも言えぬ充足感が体を心を満たす。
求めていたピースが不意にカチリとハマる感覚。
欲望と結果を繋ぐ歯車がハマった様に、したい事、するべき事、が一致した。
根幹を満たされ、多幸感が溢れて、ある気持ちが実る。
ふと、この女は俺にとって大事な存在なのだと、有り難く、掛け替えの無いものだと。
手離してはいけない、手離したく無い、と思った。
この世の全ての事から、この手で彼女を守りたい。
無意識にアスカの手をとり握りしめた。
アスカは嬉しそうにして、自身の指と俺の指を絡ませる。
そして、俺の腕に抱き付き甘える様に俺の肩に顔を擦り付ける。
幸せそうに、甘く蕩ける表情を浮かべる。
暫く静かで甘い時間が過ぎて、ふとアスカが語り出す。
「ねぇ、聞いて。ずっと怖かった。
いつ貴方が私から離れて行くのかって。
初めて会った時に一目見て、「あっ良いな」って確信して、だけどいつか貴方は私から離れて行くんだと思うと怖くて、好きな気持ちを認めず強がって突っぱねてしまって、それでも貴方はめげずに私に立ち向かって、その度にもっと貴方を好きになって、でも、もし私が貴方を好きだって認めてしまったら、その分貴方がいなくなった時の痛みも大きくなりそうで、どうせいつか離れるなら自分から遠ざけてしまおうって、でも本当は離れたく無くて貴方の事が大好きだったの。
だからね、貴方は私の事を強いって言ってくれるけど、私は、本当は自分の気持ちにも立ち向かえない臆病者なの。」
「お前は強いよ。それは、お前の拳が、お前に纏う炎が、お前が培った日々が、その重さが証明してる。本当の臆病者だったらそれらは決して宿らない。
それに、今こうして俺に胸の内を打ち明ける勇気を見せたじゃ無いか。」
「あのさ、鼠ってどんな生き物か知ってる?
体も小さくて、自分よりも強い捕食者も多くて、臆病にコソコソ穴ぐらとかに隠れて生きる生き物なの。
私はその鼠系の魔物の一種なんだけど、私達の種族は、武道を身に付けて体を鍛えて、その鼠特有の臆病さ弱さを隠そうとてしてるだけの、強がりな臆病者なの。
その強がりが、私を覆っているこの炎。
私を奮い立たせるこの炎も結局は只の強がりなの。
自分は強い、勝てるって臆病で弱い自分に言い聞かせて、本来戦い向きな種族じゃないのに意地を張って戦う為に身につけた物。
本当に強い訳じゃ無い」
「恐れない事が強さなのか?生まれ持った牙が、大きな体が、他者を狩る為の機能だけが、本当の強さなのか?
確かに鼠は小さく弱い、臆病ゆえに陰でコソコソ生きている。
なら、より見つかりにくく隠密性を獲得する、或いは、素早さだったり逃げる為の術を手にする様特化して進化した方が合理的だ。
だってのによ、お前の種族は、よりにもよって自身の種族の弱さを克服する様に進化してる。
強者に見つからない為の隠密性も、逃げ延びる為の素早さをも獲得せずに、闘争心って武器を手に入れた。
ハッキリ言って無茶でバカだ、どう考えたって自分の特性にあった進化をした方が賢い。
だけど、だからこそ、俺はお前を、お前達「火鼠」って種族を強いと思う。」
「そう…かな…」
「ああ。自分の弱さを受け入れて、その上で自分に合う武器を手に入れる道だってあったってのに、自分の弱さを克服して相手の強さと真っ向から立ち向かって超えようなんて、臆病な癖になんて勇敢なんだよ。
臆病なのに、弱いのに、負けず嫌いで、強がりで、勇敢な闘争心を持っている。
その己の弱さと立ち向かい克服しようとする勇敢さを、俺は本当に強いと思う。
その強がりの闘争心で培ったお前の拳は、武力は、本当は弱いモノなのか?
その強がりで強者をぶっ飛ばしに行こうぜ。俺も付き合うぜ。立ち会ってやる。
大きな牙を持つ虎にするか?鋭い爪を持つ鷹にするか?
そいつらもお前の拳にはビビっちまうだろうよ。強者なんか目じゃねぇ。
その燃える闘争心は、敵が強くたって、怖くて怯えていても、消えやしなかったじゃ無いか。
臆病者だって、虚勢張ってたって、強くなれない訳じゃ無い。
お前は強いよ。」
「そんな風に考えた事無かった。
いつも自分は臆病者なんだって弱いんだって思ってた、だから強がって、強い自分を演じてた。
仮初めだったの。自分の中にあるモノを信じられなかった。
でもキョウがそう言ってくれて、絶対に諦めない姿を見せてくれて、自分の事を信じられるかもって思った。
私、キョウといたらもっと強くなれる、「本当」に強く成れそうだって思う。
自分を信じていられる。
一緒にいて欲しい。」
「……………不思議なんだ、どうして俺は途中で折れなかったんだろうかって、な。
俺はお前に何度も敗れ、その度に何度も諦めそうになった。
高すぎる壁の前に、お前に挑む以前のチンケな俺なら多分立っていられなかった。
でも、お前と拳を交わしてお前の燃える炎に触れる度に闘志を、勇気を貰った。
だから、折れずに立っていられた。
俺を強くしてくれたのはお前だ。
俺が俺のなりたい自分でいられたのは、アスカがいたからだ。
俺の方こそ、お前と一緒にいさせて欲しい」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
顔を真っ赤にして照れて、とても幸せそうな満面の笑顔でアスカは答えた。
そして、俺達は寄り添って一緒に眠った。
目が覚めると、何か美味そうな良い匂いがした。
「目、覚めた?食べるでしょ?」
エプロンを付けたアスカがテーブルに料理を並べていた。
「ああ、腹ペコだ。良いのか?ありがとよ。
料理出来るんだな」
「料理位出来るから!食べないなら下げちゃうけど?」
「くう、くう。」
折れた腕を使わずに片腕で料理を平らげた。
食いづらかったが、アスカが手助けしてくれたし、何より本当に美味くって即食い終わっちまった。
「ごちそーさま。本当に美味かった。」
「別にフツーだけどね。。まぁ、気に入ったんなら?また作ってあげても良いけど…」
「おう!また食わしてくれよ!」
「べ、別に良いけど。…そういえばアンタいつまで此処にいるつもり?
私はまぁアンタがこのまま此処でケガの治療していっても大丈夫だけど?
魔物だけど、医者もいるし」
「一晩寝て下山出来るくらいの体力は戻ったし一旦町に戻ろうと思う。」
「…そ、そう…。」
「その後、また此処に来たいんだが、良いか?」
「良いわよ!別に…!今まで挑戦とか言って勝手に来てたじゃない!今度も勝手にしなさいよ!」
「ハハハ、確かにそうだな。それじゃあ、待っててくれ」
別れ際
「世話になったな。じゃあな。」
「…………アンタが…また来るって言ったんだから。絶対また来て………待ってるから(超小声)」
「おう!」
それから俺は町へ降りて、医者に行って、ケガの治療の合間に知り合いに挨拶をしたり、宝石屋で買い物をしたりした。
すっかり腕も完治して、準備万端でアスカの所へ向かう。
「あっ…!き、来たんだ…。本当に。
何?リップサービスをまにうけてまた来ちゃったの?社交辞令って知らない?」
「アスカ!結婚してくれ!頼む!」
指輪を差し出す。
「は?はぁ??何言ってんの!?いきなり!
何?責任とか感じてるの?私とセ、セックスした事。
そんな事で結婚とか言われても困るんだけど!」
「……………」
「何黙ってんのよ!?私の事良くも知らない癖にいきなりそんな事いって良い訳?
アンタの気の迷いに振り回されるなんてゴメンなんだけど!?」
「……………」
「本気じゃないんでしょ!?取り消すなら今だけど!?」
「本気だよ」
「……本当に良いの?」
「結婚してくれ。頼む」
「……………………はい。こちらこそよろしくお願いします」
指輪を薬指に嵌める。
なんて幸せそうな顔なのだろうか。
泣き出しそうな笑顔とはこの事だろう。
この日、俺とアスカは結ばれた。
後日談の後日談の後日談
「オギャー オギャー」
「ねぇ見て。アナタの子供だよ。女の子。」
なんて、なんて可愛らしさだ!
愛おしい。
目一杯の産声をあげる、尊い命。
なんて可愛いいんだ。
しわくちゃの赤ん坊なのに絶対に母親似の美人に育つのがハッキリと分かる。
この子以上に可愛い者は存在しない。
決めた
絶対にこの子は嫁には出さん
そんじょそこらの軟弱なオトコ共には近寄れ無い位に強く育てる。
この子の母親の様に!
20/12/28 23:42更新 / 七虎