連載小説
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その2
「…ふふ、人間の男なんて何百年ぶりでしょう」

その女は乱れた髪を耳の方にかきあげながら、独り言のようにつぶやいた。伏せがちな目は吸い込まれるように黒く、中で蜷局を巻いていた。どうしてこんなところにおなごが。そんな清の疑問はすぐに答えが出ることとなった。艶やかな着物から伸びる筈の下半身。よく見ると、それは人間のものではなかった。まるで蛇のようなそれは、うねりを帯びて草の中に消えていた。そして、その先を辿っていくと、彼を囲う何重もの甲冑のような紅の蜷局があった。それはさながら大蛇のようでもあり、龍のようでもあった。彼女が動くたびに、その黒光りする甲冑はずずずと音を立てた。すぐに、清の中で一つの答えが導きだされた。これは噂に聞く、人外。彼は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「…あ、あの、安心してくださいね。な、何もとって食べようとはしていないんですから」

彼女は細々しい声でそう言った。そして、その胴体を引きずりながら清との距離を縮めた。なるほど、間近で見ると確かに美人である。流れるような黒髪、ほっそりとした首筋。目鼻立ちもきりっとしている。ただ、眉を顰めてこちらを伺うその眼はどこか卑屈さを感じさせた。とはいえ、やはり下半身を見ると、どうみても、人外。その姿はまるで百足のようだった。

「まさか、この森に、あなたのような人間がくるなんて。と、とっても珍しい事でしたので、私、興奮してしまって」

頬を染めて照れる女の表情を見る限り悪意はないようだ。とすればこの女の目的はなんなのか。その真意を測りかねていると、彼女の手が、清の胸に伸びた。…な!清は突然の彼女の行為が理解できなかった。だが、その細い指は、彼の服の上から明らかに清の体を触ってくる。撫でまわすように、愛おしむように。清は、意志とは関係なく体だけが反応してしまっていた。

「…あん。結構逞しいんですね。」

嬉しそうにそう話す女に対して、清は緊張と痙攣で声さえでなかった。額から汗が滴る。先ほど刺されてから、体がじんじんと熱く、頭も朦朧としてまっている。しかも、彼女の匂いが、鼻につき、それが清から考えることを奪い始めていた。その匂いはまるで香水の原液のように濃厚だった。それだけでうっとりと夢見心地になってしまう。

すると。…ぴちゃ、ぴちゃ。耳元で音がした。女が清の耳たぶをなめる。舌先を出して、まるで弄ぶかのように。清の耳たぶを口に含んで吸い出す。また、彼女の指先は服の中に入り込み、清の乳首をいじり始めていた。乳首の先を指の腹で押し込まれ、そのままぐりぐりとこねくり回される。清は女の官能的な声と指に翻弄されながら、どんどんと彼女に引き込まれてしまっていた。びくんびくんと体が脈打つ。

「…あ…あぁ。…あんた、何をするだ。は、はなせ」
「ねぇ、お願いだから、そんなこと言わないで。悪いことはしませんから」

女が体を密着させる。服の上からでも彼女の乳房の感覚が伝わった。ふっくらとした女の胸。清には初めての感触だった。はぁと息が漏れてしまう。そして、自然と女の手が清の下半身に伸びる。服の上から、形を確かめるように清のものを触る。清はびくんと体をうねらす。女はそんな事お構いなしに、愛でるようになでるまわす。手のひら全体で包み込むように、何度もすりあげる。清は、羞恥のあまり、顔を真っ赤にし、女の漏らした声に一層モノを固くした。

「…はぁん…すごい」



百足とは、多足亜門 ムカデ綱に属する節足動物の総称である。オオムカデ類の油漬けや乾物は火傷や切り傷に効果があるとされ、民間薬として知られているが、一般的には害虫として認識されている。それは彼らの高い攻撃性と、毒性に由来する。それはそうと、この百足は大きすぎる。というか、淫らすぎる。清はそんな事を思った。

「あ、あの、直に触っちゃいますね」

一瞬躊躇うような表情を見せた彼女は、清の着ていた服を丁寧に脱がせる。まるで梱包された贈り物の包みを解くように。褌姿になった清は、恥ずかしさのあまり、眉を寄せる。…ああ、やっぱり私好みの体。百足女が呆けた声で呟く。女の無数にある足が蠢き、その体躯を清の座っていた石に巻きつかせる。

「すみません、私もなんだか、熱くなってしまいました」

彼女は着ていた着物の帯を解く。白く張りのある肌が露わになる。それは青白くどこか不健康さを感じさせる。それとコントラストをなすかのように、臍から脇腹にかけて、刺青のように紫の文様が刻まれている。彼女が動くと、形のよい二つの乳房が揺れた。その先には薄桃色の乳首がつんと立っていた。美しい曲線美と、服を脱いだことで生身の肌から発せられる怪しげな芳香。清は女の体の美しさに舌を巻いた。

「…おめ、ほ、本当におらをくったりしねぇが?」
「だから、さっきから言ってるだけじゃないですか。私はセイが欲しいだけなんです。最近真面な栄養を取ってないから」
「…や、やっぱり食う気でないが」
「え、だから。違いますって」

彼女が清の口を黙らせる為に、彼の首筋にかみつく。清はあぁと声を漏らす。女は、そのまま歯を立てて、毒を注入する。噛まれた痛みは確かにあったものの、清はどこか快楽を感じていた。特に女に撫でられている下半身に血液が流れ込んでいるのが分かる。百足の足が蠢き、石を取り囲むように蜷局を巻く。女は自分の乳房を片手でもみしだきながら、清の体をなめ始める。

「はぁ、汗の匂い。嗅いだだけでおかしくなる」

女が清の乳首を舌先でなめる。乳輪から先端にかけて転がすように舌を動かす。そのねっとりとした舌使いに清の感覚は麻痺していった。びりびりと胸の先が痺れる。ふと、彼女が褌の紐を解き、直に手で清の物を触りだした。清はもう見られてしまっているという意識も飛んでしまうほど、彼女の手さばきに魅了されていた。どこかでどうにでもなれと思っていたのかもしれない。

「うふふ、もうあなたの運命は決まってしまっているのですよ」

女は笑みを零すと、彼女は清の固くなったモノに唾液を垂らす。それはしっとりととろみがあり、清の固くなったそれに絡みつく。それを細い指先でなじませるように絡ませると。上下に動かしていく。時に早く。時にゆっくりと。手のひらを先端に押し付ける。根もとから先端にかけて円を描くように。女が手を動かすたび、ぐちゅっ、ぐちゅっと卑猥な音がした。



清は自分でも抑えきれないほどの興奮に見舞われていた。百足女の愛撫は的確で、清の一物は普段ではありえないほど硬直していた。すると、百足女はその体躯を清の体にぐるぐると巻きつけ始めた。どうやらそれは彼女にとっての愛情表現らしい。数えきれないほどの足が清の体の上を移動する。と同時に百足の腹部が体を拘束する。脇の下から入り込んだ体躯は、清の体を一周し、股の下を通り、足元までしっかりと円を描く。彼女が螺旋を描くたびに、体の自由が奪われていく。彼女が動くと足がそれぞれ意志を持ったかのように動き、体にひし、としがみついてきた。得も言われぬ感触に、背筋がぞくぞくする。いつの間にか清の体は百足女の体でがんじがらめにされていた。

「ねぇ、私の体も触って?」

明らかに異常なシチュエーションではあったが、清は女の乳房にそっと触り、中指でピンとそり立った彼女の可愛らしい乳首をつまんだ。女がひゃんと短い声を上げる。清は、そのまま、その乳首の固さを指先で楽しんだ。女とこういった関係になることが初めてだった彼は、徐々に彼女のその体に興味を持ち始めていた。

「おなごの体ってこうなってんだな」
「…あ…あ…もっと、強く。しつこいくらいがいいの」

言われるままに掌全体で乳房を包み込んだ。彼女の乳房はとても肉付きがよく、手になじんだ。まるでつき立ての餅を触っているようだなと清は思った。女は眉を八の字にしてうっとりとした表情を浮かべている。下半身の百足の部分とは違い、上半身は女の子そのものだった。そのまま、円を描くようにもみしだく。指を食い込ませると、女の乳房はその形に変形した。

「…あん。…か、感じちゃう」

密着しながら、お互いの体を貪りあう。百足女はしっとりと濡れた女陰を、激しく清の一物にこすり付けた。女が腰を押し付けると、割れ目に清の陰茎がひしゃげて食い込む。濡れた女の性器は暖かく湿っていた。清は今さらながら、この女の身体構造はどうなっているのかと疑問を持った。女は、そのまま腰をくねらせ、陰核を執拗に摩り付けてくる。お互いの性器からは粘着質の液体が滴り、こすりあう度に、透明な糸が引いていた。女が声を漏らすと、百足の足が清の体に食い込んだ。清は頭が真っ白になった。下半身が熱くなり、理性が飛びそうになる。お互いの息が荒くなる。しだいに興奮が高まる。そして、たまらず、清は、揉んでいた女の乳首に口をつけた。と、その時である。

「…あ…ダメっ!!」

女が突然悲鳴を上げた。そして、痙攣するように彼女の体が激しく脈打った。



昔ジパングのどこかに俵藤太(たわらのとうた)という人物がいたという。彼はひょんなことから、湖に住む竜神に山を七巻するほどの大百足の成敗を依頼された。百足は普通の矢じりではびくともしなかったが、彼が矢じりの先に唾を吹き付け、南無八幡大菩薩と唱えると、退治できたという。清は昔里の長が教えてくれたそんな昔話を思い出していた。

「おめ、もしがして、唾さ、よわいのが?」
「は、はい。そ…そうなんです。す、すっかりこの感覚を忘れていましたが」

清はその答えを聞くと、再び百足女の乳首を吸い始めた。唾液で舌をしっかりと濡らし、乳首をちゅうと吸い出す。女は、ひぃと声を上げて、背筋が反りかえる。清は女の体の虜になっていた。きめ細かく滑らかな肌は、まるで白磁のようだった。手でその感触を楽しみながら、彼女の体に美しく浮き上がった青の文様を舌で舐めとる。すると女は諤諤と体を震わせてしまうのだった。

「あ、ああ。…そ…それ、舐めないでぇ」

顔を真っ赤にした女は毒腺を舐められると、激しく痙攣した。清に絡みついた尻尾の先が左右に揺れている。体を舐められるたび、膣からは暖かい愛液が零れた。開き切った襞は、清の陰茎に絡みつき、くちゅくちゅと卑猥な音を立てた。卑猥な腰使いに、清のそれは爆発寸前だった。どくんどくんと脈を打っているのが自分でも分かる。と、百足女が清の一物を手に取り、自分の襞の中に誘導する。

「そんなに意地悪されたら、私だって」

女は自らその肉襞を指で広げ、肉棒を中に迎え入れた。清にとって初めての挿入だった。清はあまりの気持ちよさに我を忘れそうになった。愛液で濡れに濡れた穴は、清が思っていたよりもきつく締め付けてきた。襞の一枚一枚が清のものを離すまいと絡みついてくる。それはまるで、何百もの百足が肉棒に絡みついたかのようだった。清も思わず息を漏らす。すると、百足女はその細い腕に似合わぬ力で清を抱きしめた。そして、顔を撫でまわすと、見つめあい、その唇を清の唇に重ねた。百足の足が清に再びきつく絡みつく。

「…んちゅっ、れろれろ」

唾液を交換しあうようなねっとりとしたディープキス。おそらく彼女はその唾液による化学反応で、痺れるような快楽に溺れているのだろう。その証拠に、彼女は理性を失っているかのように見えた。しかし、それでも激しく清の体を求めてくる。まるで獣のように。清はそんな彼女をいつしか愛おしく感じている自分に気が付いた。そして、彼女の背中に手を回し、喉の渇きを潤すような彼女の激しい舌に自分の舌を絡め始めた。



何百年という長い間この森で一人暮らすという事はどういうことなのだろうと清はふと考えた。確かに彼女は人外かもしれない。人よりも寿命が長く、人の考え付かない思考の持ち主かもしれない。ただ、清にはこの眼の前にいる異形の女が人間とさほど違う生き物だとも思えなかった。


清が彼女を抱きしめると、その体温が伝わってきた。なんのことはなく、汗ばんだ体も、揺れるような感情も人間と変わりなかった。二人の息遣いが荒くなってくる。清は、彼女の舌をついばみ、唾液を絡めた。彼女は顔を上気させて、気持ちいいような、困ったような顔をした。そして、求めるようにキスをする。清は思いついたように唾液を結合部に垂らす。彼女は瞬時にキスをしていた顔を離し、唇を噛んでその快感に耐えた。巻き付いた尻尾の先端が、ふるふると震える。百足の爪が肉に食い込む。清にはそれが心地よくさえあった。

「…あ…は…あん」
「ごめん、もう無理だ。気持ち良すぎる」
「……きて」

百足女は黒々とした底のない眼でじっと清の事を見つめた。清は思わず奥から欲望が駆け上がっていくのを感じた。女の膣はそれに合わせるようにキュッキュッと締まり催促した。彼女の顔を見ると、汗ばんだ髪の毛が額に張り付いていた。清は、それを指でかきあげる。そして、眉を八の字にした彼女の濡れた唇に三度キスをする。女の体がびくっと震える。体を密着させ、腰を女の中深くに沈め、入り口手前まで引き抜く。そして、また、深くに入り込む。それを繰り返した。百足女はその体で螺旋を描き、清を拘束する。百はあろうかという足が清の体に食い込む。その心地のよい束縛に彼の一物は限界を迎えていた。激しくピストン運動を繰り返し、彼女の中を味わい尽くす。同じく、百足女の愛液でぬるぬるになった膣は、清を求めていた。きてっ、私の中にきてっ、と百足女は清の耳元で叫んだ。清は歯を食いしばると、全身で女を抱きしめた。


そして、清は、百足女の体を包みこみ、果てた。


静かな森。清と百足女の吐息だけが聞こえる。男の上に重なるように身をもたせかけた女は満足そうな笑みを浮かべていた。男は百足女の体をぎゅっと抱きしめた。




後日、里では、清の探索願いが出された。村で期待の医者である。村は大騒ぎとなった。無論、探索は村の男総出で行われた。男たちは三日三晩里山を隈なく探したが、必死の探索もむなしく、ついに清は見つからなかった。清の家では大事な一人息子が神隠しにあったと家族全員が悲しみにくれた。ただ、一人、里の長だけは、この失踪を大百足の祟りと言って恐れた。
12/04/18 19:43更新 / やまなし
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■作者メッセージ
少し編集してみました。つたない文章に、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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