読切小説
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歪な純愛
ああ旦那様、私は幸せ者です。

こうして毎晩、激しく求め合い、愛を確かめることが出来て。

旦那様が私にだけ見せてくださる夜の表情。

普段は好青年としてせっせと仕事に勤しんでいる旦那様も、二人きりの時はこんなに荒々しくなるのですね。



ああ旦那様、私は幸せ者です。

朝目覚めると隣には旦那様がいて、静かに寝息を立てて眠っている姿を見ることが出来て。

その姿を見ると少しいたずらしたくなります。

けれど、寝起きの悪い旦那様はそれを嫌がります。

旦那様の望まぬことは、私は決していたしません。



ああ旦那様、私は少し心配です。

最近、朝食を取らずに家を出て行かれるときがあることが。

お仕事がお忙しいのは分かります。

しかし、朝からしっかり食べないと「夜」まで持ちませんよ?



ああ旦那様、私は気が気ではありません。

人付き合いと言うことで仕方の無いのかもしれませんが。

村の女共と会話なんてしたら旦那様が汚されてしまいます。

あの薄汚い女共は旦那様を好いております。少なくとも私はそう確信しております。

旦那様は昨日もある女と話しておられました。

茶屋の看板娘。

愛想が良く、何事にも一生懸命というのがその女の評判。

旦那様が店に行く度に嬉しそうに駆け寄るあの姿、忌々しい。汚らわしい。

旦那様に指一本でも触れてみなさい。

私の自慢のこの体で、じわりじわりと絞めあげて、旦那様があなたを見た目を、あなたのにおいを嗅いだ鼻を、あなたの声を聴いた耳を汚したことを後悔させてさしあげますわ。

旦那様も旦那様です。

笑顔で会話なんかして。

あれではあの小娘が、旦那様が自分に気があると勘違いしてしまいます。



ああ旦那様、その笑顔は私だけのものです。

あの日、廃れた神社で誰からも信仰されなくなり、必要とされなくなってただ時の流れに身を任せ、老いていくだけの私に、あなたは気遣いの言葉をかけ、微笑んでくださりました。

私のような存在を「怪物」と呼び伝説上の存在とし、怪談話として恐怖するこの時代。
  
私を見つけたあなたは恐れる様子などいっさい無く、それどころか死んでいるかのような私に自分から語りかけてくださいました。



だから旦那様、私はあなたに尽くします。

あの日、ただ死までの長い道のりを歩むのみだった私の運命を、旦那様は変えてくださいました。

そのときから、かつて人に信仰され、あがめられていた神としての私は死に、旦那様のために生きる一人の女となりました。



ああ旦那様、夜の帳が下りてきます。

そろそろ旦那様もご帰宅される頃。

旦那様の大好きなお味噌汁を用意しております。

玄関の戸を開ける音、私は急いでそこへ向かいます。

そしていつものように、妻である私だけが言うことができる、この言葉を旦那様にかけるのです。


「お帰りなさいませ、旦那様」
13/03/16 02:02更新 / 早苗月まつろ

■作者メッセージ
いろいろあって長引いて、深夜に更新となりました。
 ヤンデレちっくな白蛇さんの魅力が少しでも伝われば幸いです。

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