読切小説
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創作する者たち
「うーん……」
かれこれ二時間は唸っているだろうか。
俺はディスプレイとにらめっこしながら腕組みをしていた。
アイディアが浮かばない。致命的なまでに……
真っ白な頭の中を揺らしていると、コーヒーの香りが漂ってきた。
「マスター、コーヒー持って来ましたよ。……って、マスター大丈夫ですか?」
振り向くと、リャナンシーのイズミがカップをトレイに載せたまま、心配そうな表情をしていた。
「大丈夫、大丈夫だからそこに置いといて……」
「目が虚ろですよ、マスター……」
カップがパソコンデスクの上に置かれる。
「ハハハ、キノセイダヨー」
「片言じゃないですか。それにさっきのところから一文字も進んでませんよ?」
「うっ……」
一番言われたくないことを突っ込まれてしまった。
わかっている。わかっているけれど……
「どうしても書けないんだよぉ……」
「あー、これはもしかしてスランプにでも突入しましたか?」
「かもな……無力感と重圧が同時に圧し掛かってくるんだ」
「……完璧にスランプですね。とりあえず筆を置きましょう。休憩です」
「だけど次のイベントまでに書き上げないと……」
「どうせコピー本なんですからギリギリまで粘れば何とかなりますよ!」
今回イベントに出すのは確かにコピー本だ。しかし、文章担当の俺が進まないと、挿絵担当であるイズミに支障が出る。
「それじゃイズミに負担が……」
思わずイズミの方に身体を向ける。
「何を言ってるんですか? 私は『たまたま』マスターの作品をネットで読んで、『たまたま』一目惚れしてしまった勢いでマスターの家に押しかけてきた面倒臭いリャナンシーですよ? 私がマスターと見込んだ人のためならどんな苦行にでも耐えられます。デスマーチでも何でもどんとこい! ですよ」
「イズミ……」
「そ、そのかわり、作品が出来上がったら、マスターの初めてを私に――」
「それは却下」
頬を赤く染めながらクネクネしているイズミに真顔で言い渡す。
それとこれとは話が別だ。
「何でですかー! 今まで誰にも身体を開かず運命のマスターを待ち続けてたのに……」
「その、俺のことを想ってくれてるのは本当に嬉しいんだ。ただ……」
「ただ?」
「……踏み込む決心がつかないっていうか」
「今さらヘタレ童貞を気取るようでしたら、アマゾネスさんにでも無理矢理犯されればいいんじゃないですか?」
「いや、これ本音だから!」
イズミの冷酷な提案に断固として抗議する。
「俺はイズミのリャナンシーとしての力を借りずにどこまでいけるか試してみたいんだ」
「と言いますと?」
イズミが不思議そうに首を傾げる。
「たしか、リャナンシーと交わると創作の才能とか実力が手に入るんだよな?」
「そうですよ。それがどうかしましたか?」
「何かさ、そういうので才能とか手に入れてもつまらないじゃん。俺は俺の読みたい話を書くために小説を書いてる。イズミは『たまたま』それを読んで面白いって思ってくれたんだろ?」
「もちろんです!」
イズミはブンブンと首を縦に振って肯定する。
「俺さ、それを最初に言われた時、すっごく嬉しかったんだ。だから、自分の力だけでどこまでイズミを喜ばせることができて、他の人も面白いって思えるようなものを書けるか。唸りながらそれを試行錯誤する時間を、まだ手放したくないんだ。できるところまでいって、行き詰って、また動き出すっていうのを繰り返して、最後の最後までやりきってから、イズミに身を委ねたい」
「……」
言いたいだけ言って思いの丈をぶつけ終わった後、しばらくイズミはぼうっと俺の顔を見ていた。
つられて俺もイズミの顔を見つめていると、少しずつ顔が赤くなってきた。
「まるでプロポーズじゃないですか、マスター」
不意にそう言われて、じわじわ耳が熱くなる。
「えっ、そ、そうかな?」
「そうですよ。それにしてはずいぶん花嫁を待たせるプロポーズですけどねっ」
照れ隠しのつもりなのか、そっぽを向くイズミ。
「あー、ごめん」
「まったく悪びれてないのが癪に障りますが、許します。そのかわり、私を満足させるものが書けなくなったら問答無用で押し倒しますからね!」
「はいはい、その時はよろしく」
軽い調子で流したけれど、イズミが俺のところに押しかけてきて約一か月、もしかしたら魔物娘の本能が爆発して、ある日突然押し倒されるかもしれない。
その時はきっと俺は抵抗できないだろう。
イズミのことだ、きっと俺が今まで我慢させていたことを槍玉に挙げられる。
そうなったら俺に弁解する余地なんてあるはずもない。
「ところで、イベントっていつあるんでしたっけ?」
「えーと、たしか四月の終わりくらいだったから……二週間もないな」
「マスター、可能な限り支援するので原稿頑張ってください」
「お、おう」
もしかしたら、押し倒される前にデスマーチで倒れてしまうかもしれない。
13/04/14 05:13更新 / ノリー

■作者メッセージ
SS初投稿です。
某リャナンシーbotに触発されて書いてみました。
もっとリャナンシーちゃんのSS欲しいです!

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