竜乗りとドラゴンと変わる世界
これは魔王がサキュバスとなる、少し前のお話。
龍騎士を輩出する、ある小国がありました。
その姿は高潔にして雄々しく、誇り高く―――
それは子供達の永遠の憧れ―――
そこに住む人々の最終到達点―――
それがこの国の最高の武の象徴、龍騎士の姿なのです。
象徴であるからには外敵を退け、民を守り慈しむ心、そして何よりもドラゴンとの交流が出来る者でなりません。
そう言った事から、龍騎士になるのは厳しいものである事は想像に難くない事だったでしょう。
ドラゴン―――
それは魔物の中でも最高峰の強さを持つ魔物の一つにして
「地上の王者」と称される強大な生き物。
数の少ないこの生き物が人間と言う格下の存在を認める事例は数えるほどで、相応の武を持っていても、交流できる者自体が殆どいませんでした。
更にこの国には12人の龍騎士と12匹のドラゴンがいましたが、現在は11人と11匹。
と言うのも龍騎士の一人が天寿を全うしてしまったからです。
パートナーだったドラゴンも彼以外の者に背を許す事を良しとせず、
制止を振り切りって人を寄せ付けぬ山の奥へ亡骸と共に飛び去り、
墓守となって喪に服してしまいました。
騎士ばかりか、ドラゴンをも失って困り果てた時の王は、12人目を探すべく国内に触れを出し、新たな龍騎士を探しますが、そうそう簡単に見つかるはずもありません。
けれど…、灯台下暗し、とはよく言います。
可能性を秘めているかも知れない、原石と言うべき一組が近隣に住んでいたからです。
*****
そこは王都から少し離れた洞窟。
原石になるかもしれない人間の青年と一匹のドラゴンがそこに住んでいました。
「ウグァル〜〜〜♪」
「んあ、んん…。あ…、おはよう、シンシア」
「ガウ!」
目覚ましに顔舐めをして青年を起こす、シンシアと言う女の子の名前を付けられた、このドラゴン。ドラゴンにしては異形の姿でした。
その姿を端的に言えば、青い鱗を持ち、角を生やしたライオン、と言えてしまうのです。
しかし、異形でありながらも流麗でしなやかな…、そう、人間で例えるなら王女のような風格がありました。
あまりにも異端な姿をしているが故に同じドラゴンからも仲間外れにされ、傷を負って洞窟に逃げ込んだ所にこの青年と出会い、以来共に過ごす様になっていました。
一方の青年、名をリューガと言います。
野性的な髪形をしながらも艶やかな黒髪を持ち、身体つきもそこいらの騎士と遜色の無いものでした。
しかし彼には普通の人と違う特徴がありました。右目だけが赤い色なのです。
その為、周囲の心無い偏見に晒され、彼を産んだ両親の死をきっかけに村八分にされ、遂には王都を追われていた過去がありました。
青年とドラゴンの出会いは今から数年を遡った、一つの出来事でした。
亡き両親から教わった狩りと薬草の知識があったのが幸いし、山での生活に多少の苦労をしつつも馴染み始めた頃にそれは起きました。
リューガはふとしたことから近くの洞窟に飛来した傷負いのドラゴンに出会ったのです。
彼が見たものはあまりにも酷い傷を負った異形のドラゴンでした。
心配して近づこうとしますが、ドラゴンは手負い。殺気をみなぎらせて我が身を守る事に懸命です。
けれど彼はその姿に何故か放っておく事が出来ず、恐れこそすれども、持ち得る限りの薬草の知識を駆使し、懸命に治療を重ねて行きました。
「グルルル…」
「これでもう、怪我は大丈夫だから」
「グルゥ…、ゥルル…」
恐れずに接する青年の姿に心打たれたのか、日を追うごとに彼を少しずつ許し、彼の治療を受け入れていきました。
その甲斐あって数ヶ月の日々を経てドラゴンの傷は癒えていき、完治する頃には自由に飛ぶ事も出来るようにまで回復する事が出来たのです。
傷が完治して調子を取り戻した頃、ドラゴンはお礼にとリューガを背に乗せる事を許し、共に空を駆けました。
心地よい風―――
小さく見える王都や街並み―――
限りなく広い大地の彼方―――
自分が空の上にいる事実―――
迫害された青年にとって全てが感動に満ち溢れる体験でした。子供に戻ったかのように心が躍動していたのです。
今までの事が空から見下ろす町並みのように何もかもが小さく見えてしまうくらいに。
ドラゴンもまた、この青年の事を慕い、彼以外にこの背を許す事はしないと誓いました。
「綺麗な姿…、うん!きみはシンシア…、シンシアだよ!」
「ガウオオオオオ!」
咄嗟だったとはいえ、あろうことかリューガは女の子の名前をドラゴンに付けてしまうではありませんか!
けれどドラゴンからは嫌がる気配が感じられませんでした。それどころか、すんなり受け入れるかのように高らかな咆哮を上げていました。
ドラゴンの雌雄の区別というのは人間には分かりづらいものです。
しかしそれを見分ける事が出来る者こそ、国が抱える龍騎士であり、それを支える調教師(テイマー)だけでした。
シンシアと名付けたドラゴンは実は本当に雌なのです。リューガも無意識的にそう感じていたのかも知れません。
本能の成せる業か、はたまた適当な思いつきなのか…?
とはいえ、これが奇妙な共同生活のきっかけでした。
この出来事を境に彼らは互いにその身と心を許し、絆を深めていきました。
彼らはその足掛かりとして狩猟で生計を立てつつ、王都近郊の町や村で灯りや狩りの為の道具、自分達の身を守る為の武具を揃えました。
武具を揃い終えた頃の彼らの姿は最早、単なる狩人とは言えなくなっていました。
王が待ち望んでいたであろう「龍騎士」そのものとなっていたのですから―――
迫害された者同士、心を許せる相手はお互いの他にはいませんでした。
彼らにとって、人間社会での出来事など瑣末事であり、俗事にしか映りません。
世間に見捨てられた者にとって、国や町の興亡はそれこそ俗事に過ぎず、進んで助けるほどの恩義などあろうはずがないのです。
それに狩猟生活もひと所に留まって狩り続けていると、次第に獲物自体の数が減ってしまいます。
冬になれば冬眠に入る生き物もいる訳ですから、山だけではなく海に出る必要にも迫られるのは当然の成り行きでもあります。
狩猟という厳しい世界にしか生きる場所が無い彼らにとって、食料を得るための狩りは生きる為の行為であり、死活問題。
だからこそ、この生活を通して、彼らは健やかなる時も病める時も互いに守り守られ、支え合って生きる事が出来ました。
季節が一巡りしたある日の事、シンシアは自分の鱗を一枚剥がし、これをリューガに与えました。
彼の手には青々としていながらも虹色の輝きを放つ鱗…。
けれど、シンシアのこの行いの意味をリューガは知るはずもありません。
己の鱗を剥がして渡すと言う事。それはドラゴンが共に生き、一生をかけて守るに値するパートナーである事を示す証。
実はこれは龍騎士においても事例が少なすぎる為、彼らと言えども真偽を確かめる術がありませんでした。
その身近な例が天寿を全うした件の龍騎士とその愛龍でした。
ですが、騎士が故人となった事でドラゴンはその亡骸を守る為に人々の前から姿を消してしまっています。
因みにこのドラゴンは雄ですが、パートナーである騎士とは決して砕けぬ固い友情で結ばれた唯一無二の戦友同士だったのです。
鱗を渡す相手が同性であれば堅い友情を、逆に異性であれば永遠の愛を、その相手に誓う―――
ドラゴンが自分の鱗を自らの手で剥がして渡す、それはその者を運命の相手に選ぶ、という意味なのです。
人間同士の立場で言うなら、約束の証もしくはプロポーズの意味を持っているという事になるのでしょう。
リューガは渡された鱗を首飾りに仕立て、どんな時でも肌身から絶対に離さないほど大切にするほどの宝物としました。
シンシアもそんなリューガをいつしか愛おしい存在と見るようになっていました。
けれども当然ともいえる壁が二人の間にそびえていました。
それは言わずもがな、互いが根本から違う種族であると言う、超えるのはおろか、壊す事も叶わぬ壁でした。
更にはシンシアがまだ若いドラゴンであり、人間の言葉を理解出来ても、自分から話すには人間に変じる必要があったのが追い打ちとなりました。
ドラゴンが人間に変じる手段、それは「人化の術」と呼ばれる類の魔法を使う事。
この術を使いこなすには他のドラゴンから教わる事に加え、ドラゴンが長い時を生きる生物であるが故に習得を焦らない姿勢がありました。人間からしてみれば、そんな事をしようものなら習得する以前にあっという間に老いさらばえ、そのまま黄泉路を直行させられてしまう事は自明です。
人間の一生とはドラゴンからしてみれば、あまりにも短すぎるのです。それこそ、瞬きをした次の瞬間には次の世代の人間が老いていたというほどに。
それでもシンシアはリューガという命の恩人に種族を超えた恋をしてしまいました。
彼には女性との縁が全くなかったのですが、シンシアは原因を知ろうとは毛ほども思いませんでした。
それは愛する人が自分だけを信じ、傍を離れないからです。
彼女自身もリューガを手放すつもりは考えもしませんでしたし、互いに寄り添い、どんな事も一緒にやってきた間柄です。
ゆえにシンシアは眠る時にはリューガをそれはそれは愛おしく包み込んで逃がしません。
もっとも彼も彼で、シンシアの傍で無ければ安心出来ない身に染まっていたのが、彼女にとって何よりの幸いでした。
「シンシア…、大好きだよ…。……すー…すー…」
まるで自分を恋人として嬉しそうに受け入れ、子供のように眠る…。そんなリューガの存在はシンシアにとって、金銀財宝が塵芥に過ぎなくなるほどの、最高の宝に変わっていきました。
『(この人間に甘えてみたい。人間の女性のように…。けれど人間はすぐに死んでしまう…)』
言葉の話せぬシンシアは、そんな唯一つの歯がゆい思いを抱きつつも、自分だけを見てくれるパートナーを命に代えてでも守り抜く事を心に誓っていました。
互いの思いが交錯しながらの生活はそれからも変わることなく、お互いだけを信じ、月日は流れ行くのです―――
*****
リューガとシンシアが共同生活を始めてから、実に10年もの月日が経過していました。
青年はより逞しくなり、ドラゴンも更に流麗な姿へと育っていました。
互いを支え合う事で得た信頼、友情、愛情…。
それは互いに無くてはならない存在、人間で表すなら伴侶であるとも言えるでしょう。
しかし、そんな悠々自適な生活に終止符を打たされてしまう事態が起こってしまいました。
彼らの姿を偶然見かけた流れの狩人が流したある噂が、国中に広がっていたからです。
―――近くの山にドラゴンと暮らしている人間がいる―――
10年の歳月をかけたのも空しく、未だに最後の12人目が見つからずに悩み苦しんでいた王は、その噂に一縷の望みを賭けました。
国の誇る武の象徴が欠けたままだったこの国は10年の捜索活動で軍費が膨れ上がり、周辺国からの攻撃による小競り合いが散発するようになっていた事もあって、領民に重税を課すまでになってしまいました。
侵攻する敵を食い止める為に傭兵や冒険者を戦力として雇い入れた事も追い打ちとなって、治安はますます乱れ、人心は次第に離れて行きました。
そんな悪循環を断ち切ろうと王が下した苦渋の決断…。仮にそれが眉唾物であっても、賭けるしか無かったのです…。
王は命じます。
―――その者達を探し出し、如何なる手を用いても龍騎士にせよ。
精鋭の龍騎士二名を伴い、騎士団は大軍を持って動き出しました。
大軍で動かすのには訳があります。王命に従わない、飼い慣らせないドラゴンは国にとっても、人間にとっても危険な存在でしかありません。
それ故に万が一の事態に対しての抑止力として大軍にする必要があったのです。
付け加えるならば、王と言う絶対権力者の威光と命令に逆らう事は死を意味するという脅しの意味が込められていました。
騎士団の出陣から数日後、その身に迫る事態を知る由もないリューガは、灯りを得る為の蝋燭や狩りの道具を仕入れる為に山を下りようとしていました。
シンシアも一緒について洞窟を出ますが、これが彼らの運命を大きく変えてしまいます。
彼らを見ていた狩人を案内人にして、王都の騎士団が洞窟前を取り囲んでいたのです。
一人と一頭は身構えますが、程なく上空から、現れる二騎のドラゴン―――龍騎士が彼らの前に現れます。
龍騎士は愛騎の背から降りると、青年の前に来てこう言いました。
「君のような者を我々はこの10年、探し続けていた!我らが王の下に来るのだ、新たな龍騎士よ!」
頭ごなしに王の下に来いと言う龍騎士の言葉にリューガは困惑と疑念を隠せません。
いきなり騎士達に囲まれ、不躾に有無を言わさない事を言われれば、戸惑って当然でしょう。
「何故? 龍騎士といきなり言われても…!」
「君にはその資格があるのだよ。ほら、変わった姿と言えどもドラゴンが共にいるじゃないか。ドラゴンと言うのは人に心を許さん生き物だ」
「そう…な、のか?」
「むぅ…、礼儀がなって無いのには目をつぶろう。つまりはそういうものなのだ。どうやら長い間、寄り添って生きたのだな。お前達こそ12人目の龍騎士に相応しいのだ!」
「急にそう言ってもね…。これも相当警戒してるんだけど…」
唸り声を上げ、今にも飛びかからんとするドラゴンの姿に、龍騎士の一人が騎士達に戦闘態勢を解くよう命令します。
それを見たドラゴンは多少なりとも警戒は解くものの、それでも完全とまでは行きません。
しかも狩人は憎々しげにリューガを見ているではありませんか。実の所、シンシアはその狩人の邪気に反応していたのです。
「…気にいらねぇ」
狩人はボソリと本音を漏らしました。兵士達は何事かと狩人の方を振り返ります。
「俺様が目を付けてた狩り場を横取りしやがって!化けモンの分際でのうのうと生きてんじゃねぇ!」
邪気を露わにした狩人は言いたい事をまくし立てると、クロスボウを構えてリューガを狙いました。
兵士や龍騎士達が制止しますが、巧みに逃げ回って聞く耳を持ちません。
「狩り場を横取りしたお詫びとしてテメェらの命、俺様に寄越しな!そしたら許してやらねぇでもねぇ…ぜっ!」
欲望に狂った狩人は言うが早いかリューガに向けてクロスボウの矢を放ちました。
その矢は眉間に向けて正確な軌道を描いていました。狩人は熟練の腕を持っていたのです。
ですが、矢はリューガの頭を射抜く事はありませんでした。
シンシアが即座に反応し、自分の角で矢を弾いてパートナーを守っていたからです。
「シンシア!大…丈夫?」
「グアゥ!」
リューガの心配は杞憂でした。そう、ドラゴンの身体は並みの武器では傷付ける事も出来ないのですから。
けれどリューガの心に失望と絶望が襲いかかってきました。
「結局…かよ…。人間は何時もこうだ…!違う者を持ってる奴を差別して…それを正しい行いなどと抜かしやがって…っ!もう嫌だ!人間なんかに従うか!俺を脅して殺そうとする、王冠被っただけの木偶人形に!従ってたまるかあぁっ!あああああああああああああ!」
彼の心を覆う失望と絶望、そして怒りが、慟哭となって周囲に、それこそ山を揺るがす勢いで響き渡ります。
リューガの拒絶に騎士団長の顔が怒りに染まりました。王命に反発し、王を侮辱したリューガに対し、あからさまな殺意を向けてきたのです。
「下賤の分際で王に逆らい、あまつさえ侮辱するとは!大逆の罪にてこの場で八つ裂きにしてくれる!抜剣!弓、構えーい!」
龍騎士達の制止も聞かず、騎士団長が怒声を張り上げて処刑命令を下すと騎士や兵士達は一斉に抜剣し、弓兵は矢をつがえて臨戦態勢に入りました。
騎士達にとって王への侮辱は許し難いものでしかありません。そして何より最高権力者たる王の命令は絶対であり、臣民が如何なる状況や立場にあろうともこれを覆す事は決して許されません。王命に逆らう事は王に対する反逆行為だったからです。
それが騎士団長であれば尚更、不届き極まりない行為と映っていました。
王への忠義厚き彼にとって王への侮辱は「神に唾するも同じであり、死を持って償わせるべき」という持論さえ持っているのですから。
ですがリューガのように心無い者達の偏見に振り回され、生きる場所を奪われた者の立場からしてみれば、どうなるでしょうか?
王という存在がただ玉座でふんぞり返るだけの木偶人形にしか映らない事でしょう…。
いいえ、それどころかリューガの心には人間に対する不信と恨み、同時に自分が人と違う特徴を持ってしまった事に対する悲しみが渦巻いているのですから…。
そんな彼の底の見えぬ悲しみを瞬時に察したのは誰であろうシンシアだけでした。
「ガァウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
あらん限りの怒りをぶちまけるように咆哮を上げたシンシアの身体には咆哮に呼応するかのように炎が噴き上がり、踊り狂っていました。
怒りを体現した炎をその身に纏う壮麗たる姿は、相対した者に絶対の敗北を約束する事でしょう…。
ドラゴンを怒らせる事がどれほど愚かな行為であるか、死を持って後悔する事でしょう…。
ドラゴンが地上の王者と呼ばれる所以の片鱗が今、軍隊の目の前にそびえ立っています。
それでも騎士達は王命に逆らった罪人を成敗すべく、じりじりと包囲を固めていました。
彼らの姿にシンシアの目は怒りに染まり、愛するパートナーを殺そうとした者に対する憎しみが更なる炎の渦を呼び起こしてしまいました。
その炎はやがて周囲の草木に着火し、足元の草は消し炭と化したのを発端に見る見るうちに森が炎の海へと変わっていきます。
草や木々は成す術もなく燃やされ、動物達は逃げ惑い、折悪く吹き始めた風が炎を渦と成し、辺りは熱風が息吹となって吹き荒れていました。
愚かにもドラゴンを討伐しようと企む矮小たる者達は燃え広がる炎と巻き起こる熱風に煽られ、前進する事もままならなくなりました。
狩人と弓兵達がひるまずに矢を放ちますが、熱風が矢の軌道を逸らす上に失速させてしまう為、くすぐる程度にまで矢の威力を殺されてしまいます。
二人の龍騎士はたまらずドラゴンに乗り、空へ飛びあがって様子をうかがう事しか出来ない有様でした。
炎はますます強くなり、山火事となって更に木々を飲み込んで燃え広がるばかりです。
ところがリューガだけはこの状況にいながら、何の影響も受けていません。それは彼がシンシアから貰った鱗の力によるものでした。
実は鱗を与えられた者はその龍の属性を与えられるのです。この場合、リューガはシンシアが持つ炎の属性を身にまとっているという事になります。
通常の龍騎士達はドラゴンの持つ属性に長くは耐えられず、体内のバランスを崩してしまう弱点を抱えていました。
火であれば激しい熱病に侵され、水や氷であれば低体温症…と言った具合にです。その為に鱗を与えられない普通の龍騎士は属性バランスの乱れが無いかを、任務を終える度に診なければならなかったのです。そうして事前に属性バランスを整えないと待っているのは引退と死しかないのです。
龍騎士とはその輝ける栄光の裏に、このような代償を支払わなければならないのです。
属性による悪影響を受けさせないする事は、リューガが鱗を与えられた意味の一つでもあるのです。
燃え盛る森はまるで炎の国を現出させ、その主はまるで姫君。傍に控える人間は召使いか、はたまた姫君の婿か…。
やがて何かを感じたのか、シンシアは急に翼を広げ、直後には赤く輝く塵が目の前の敵に向けて、散りばめていきます。
塵はまるで桜の花びらのようであり、炎の中で舞い散る幻想的な光景に騎士達は思わず感嘆してしまうほどです。ですがその刹那に絶望が訪れます。
シンシアが牙を打ち鳴らすと、生じた火花が塵に着火して次々と破裂、それが連鎖して爆発となり、爆弾と同じ威力を引き起こしたのです。
荒れ狂う怒りは爆発となって地上の軍隊に襲いかかります。
上空にいた龍騎士達もその爆風に煽られて、落下を防ぐのがやっとの状態。
爆発が止んだ先に龍騎士達が見たものは、人も木々が平等になぎ倒され、炎が更に山を喰らうべく広がっていく光景でした。
幸か不幸か木々が地上の騎士や兵士達から爆発の衝撃を防いでくれていたようです。
ほっと胸を撫で下ろす二人の龍騎士でしたが、それが大きな油断となり、惨事の主である異形のドラゴンの動きを見落としてしまいました。
シンシアはこれを好機と捉え、リューガを尻尾で巻きつけるや否や、凄まじい勢いを付けて即座に空へ駆け上がっていきました。
龍騎士達も突然の行動に呆気に取られ、その僅かな隙が更に互いの差を開いてしまいます。
彼らは大慌てで追いかけようとしましたが、地上戦力の惨状を見過ごす事が出来ず、追跡を断念せざるを得ませんでした。
幸い、重傷者こそいれども死者が出ていなかった事で、救助活動は成功しました。
ですが、この惨憺たる結果を知らされた王は烈火の如く怒り狂い、リューガとシンシアの確保に失敗した者達全てに須らく処罰を下してしまいます。
龍騎士達は任務の放棄を咎められ、向こう数年、通常の騎士身分として騎士団への出向―――
騎士団は任務における失態を咎められ、これを理由に参加した者全員に爵位の降格や剥奪―――
兵士達は、末端であるが故に退職金も無しの即時解雇もしくは国外追放刑―――
騎士団長と戦端を開いた愚かな狩人は、結果的に独断専行で全てを台無しにした事が王の逆鱗に触れ、二人揃って石打ち刑にされてしまいました。
しかし、処分はそれだけに終わりませんでした。両家断絶と一族の身分を即日剥奪、財産も残らず没収した上で彼の親族を奴隷に落としたのです。騎士団長は領地までも没収されたのです。
決して軽からぬ処罰を全員に下しても、王の怒りは三日三晩鎮まる事は無かったそうです。
王の治める国はその綻びから滅亡への歩みを速めて行ってしまう事になるのです。
*****
さて、話はシンシアがリューガを連れて空へ逃げた時にまで遡ります。
彼女は尻尾を器用に操ってリューガを背に乗せ、更に遠くへと飛翔を続けていました。
「シンシア…、びっくりしたよ。けど…」
言いかけて、言葉を止めるパートナーにシンシアは唸り声を上げます。それに合わせるように…
「…ありがとう。誰も…、誰も知らない何処か遠い所で、今度こそ一緒に暮らそう!それまではちょっとした冒険者気分だね」
「グワァウッ!」
人間の悪意と殺意を二度もその身に受けたリューガには、もう人間を二度と信じる事は無いでしょう。
シンシアと言う愛するドラゴンと一緒なら、これからも生きていけると彼は信じていました。たった数十年という、ドラゴンにとっては溜息の一瞬ともいえる、短すぎる生涯であったとしても…。
それほどまでに人間の青年は、自分と共に生き、そして今、自分を助けてくれたドラゴンを真に愛していました。
例え種別や性別を超えてでも、死ぬまで共にいようと、シンシアを守れるくらい強くなろうと、心に決めていました。
シンシアも自分を本当に必要としてくれている事を改めて聞かされ、喜びの咆哮を上げて、彼に応えました。
やがて彼らは地の果てを行くかのように飛び続けた先にあった、剣の様にそびえ立つ山の洞窟に腰を落ち着ける事になりました。
その数日後の事です。
シンシアの体を不思議な霧が包み込んだ後、彼女は突如高熱を放ち、動く事すら出来なくなっていました。
リューガは悪い予感がする、とシンシアの傍に寄り添い、持てる限りの薬草を試しますが効き目は無く、シンシアの熱はますます上がるばかり。
万策尽きてしまったリューガはシンシアの顔にその身を近付け、己の身が焼けるような高熱であるにも厭わず、その額に口づけをしました。
「愛してる…、シンシア」
その一言と共に涙がシンシアの顔に流れ落ちた時、目を疑うような奇跡が起こります。
涙が落ちた場所をから光が出始め、それは全身をくまなく覆っていくではありませんか。
「ゴ…ゴオオオオオオオオオオ!」
鈍くも激しい意志を秘めた咆哮が洞窟に響き渡ります。
やがてそれが収まると、卵の殻を破るかのように光が砕け散り、塵の様に消えて行きました。
ですが―――ドラゴンの姿はありませんでした。
そこには別の…、青い鱗、翼、尻尾を持った少女の姿があったのです。
リューガは困惑します。
シンシアの名を叫び、失ったものを求めて外に出ようとした、その時でした。
「わたしはここよ…」
意識を取り戻した少女が起き上がり、声を上げたのです。
少女は驚いた顔をするリューガに微笑むと、涙を流して彼に抱きつき、言いました。
「わたし…、シンシア。あなたが付けてくれた名前だよ」
そう、その姿こそ少女ですが、角・翼・尻尾、そして青く美しい鱗は紛れも無い、あのシンシアでした。
「人間になれたら…、人間の言葉を話せたら…、ずっと願ってた。不思議だけど、今こうして叶った…!わたし…、わたし嬉しい!!」
茫然自失になりかけるリューガでしたが、首飾りにしていた鱗が淡く煌めいた事で確信を持ち、彼女を抱きしめて再び言葉を紡ぐのです。
「愛してる…、愛してる!」
涙を流す彼にはそれだけを告げるのが精一杯でした。
シンシアも思いの丈をぶつけるように強く、強く抱き返していました。
二人は崩れ落ちるように座り込み、互いの瞳を見つめあいました。
ゆっくりと閉じられる目とゆっくりと近づく唇…。
互いの唇が触れた時、二人にはもう何も耳に入らないほどの静寂が包むようでした。
最早、二人の間には何人たりとも立ち入る事は出来ません。
終生を共にと決めた二人にもう、怖いものはありません。
それから間もなく二人は夫婦となり、互いに労わり合い、愛し合い、定住の地を求めて旅立つのでした―――。
・・・・・・・・・・
「おかあさーん!続きはー?」
「続きは無いわよ」
「えー!どうしてぇー?」
「うふふ、それはね…」
日記帳の様なものを閉じて、子供に言い聞かせていた、その女性こそ―――
「シンシア、帰ったよ」
「あ。あなた、お帰りなさい」
「おとうさん、お帰りなさーい」
そう、あのドラゴンであったシンシアその人である。
リューガとシンシアはあれから幾年月を経て、定住の地を見つけ、小さな家を建てて暮らしていたのだ。
娘もドラゴンとして生まれ、8歳になっている。
更に今、シンシアのお腹には新たな命が宿っていた。
安楽椅子に揺られながら、娘にせがまれて読み聞かせた、取っておきのお話。
それは夫との出会いと今までの想いを綴ったシンシアの手記を基にした物語だったのである。
国のその後も描かれていたのは、二人がその国を訪れて事の次第を聞いていたからだ。
「おかあさん。今のお話って、おとうさんとおかあさんの?」
「そうよ。このお話はわたしとお父さんの出会い。お母さんはお父さんの事をいっぱい愛していたし、お父さんもお母さんの事をとても愛していたの」
「そうなんだぁー。じゃあ私もお父さんみたいな人と会えるのかな?」
「きっと会えるわ。貴女はわたしの子。そしてお父さんの子だから…」
「うん!じゃあ、今度また、今のお話聞かせて!」
「ええ、妹になるこの子にも…聞かせていかなきゃね」
大きくなったお腹をさすりながら、シンシアは夫であるリューガに微笑み、彼もシンシアの手に自分の手を重ねると告げた。
「無事に産まれて来ますように…」
「あなた、ありがとう…」
子供にも自分にも等しく愛情を注ぐ夫に、シンシアは涙を流さずにはいられなかった。
娘もそんな父母を見て、いつか自分も父の様な人と結婚する事を早くも夢見ていた。
今までも、これからも、二人は互いを愛し続け、
生まれてくる子供達に読み聞かせ続ける事だろう―――
・
・
・
・
・
これは魔王歴に変わる瞬間に立ち会った、
一人の人間と一頭のドラゴンの物語である―――
龍騎士を輩出する、ある小国がありました。
その姿は高潔にして雄々しく、誇り高く―――
それは子供達の永遠の憧れ―――
そこに住む人々の最終到達点―――
それがこの国の最高の武の象徴、龍騎士の姿なのです。
象徴であるからには外敵を退け、民を守り慈しむ心、そして何よりもドラゴンとの交流が出来る者でなりません。
そう言った事から、龍騎士になるのは厳しいものである事は想像に難くない事だったでしょう。
ドラゴン―――
それは魔物の中でも最高峰の強さを持つ魔物の一つにして
「地上の王者」と称される強大な生き物。
数の少ないこの生き物が人間と言う格下の存在を認める事例は数えるほどで、相応の武を持っていても、交流できる者自体が殆どいませんでした。
更にこの国には12人の龍騎士と12匹のドラゴンがいましたが、現在は11人と11匹。
と言うのも龍騎士の一人が天寿を全うしてしまったからです。
パートナーだったドラゴンも彼以外の者に背を許す事を良しとせず、
制止を振り切りって人を寄せ付けぬ山の奥へ亡骸と共に飛び去り、
墓守となって喪に服してしまいました。
騎士ばかりか、ドラゴンをも失って困り果てた時の王は、12人目を探すべく国内に触れを出し、新たな龍騎士を探しますが、そうそう簡単に見つかるはずもありません。
けれど…、灯台下暗し、とはよく言います。
可能性を秘めているかも知れない、原石と言うべき一組が近隣に住んでいたからです。
*****
そこは王都から少し離れた洞窟。
原石になるかもしれない人間の青年と一匹のドラゴンがそこに住んでいました。
「ウグァル〜〜〜♪」
「んあ、んん…。あ…、おはよう、シンシア」
「ガウ!」
目覚ましに顔舐めをして青年を起こす、シンシアと言う女の子の名前を付けられた、このドラゴン。ドラゴンにしては異形の姿でした。
その姿を端的に言えば、青い鱗を持ち、角を生やしたライオン、と言えてしまうのです。
しかし、異形でありながらも流麗でしなやかな…、そう、人間で例えるなら王女のような風格がありました。
あまりにも異端な姿をしているが故に同じドラゴンからも仲間外れにされ、傷を負って洞窟に逃げ込んだ所にこの青年と出会い、以来共に過ごす様になっていました。
一方の青年、名をリューガと言います。
野性的な髪形をしながらも艶やかな黒髪を持ち、身体つきもそこいらの騎士と遜色の無いものでした。
しかし彼には普通の人と違う特徴がありました。右目だけが赤い色なのです。
その為、周囲の心無い偏見に晒され、彼を産んだ両親の死をきっかけに村八分にされ、遂には王都を追われていた過去がありました。
青年とドラゴンの出会いは今から数年を遡った、一つの出来事でした。
亡き両親から教わった狩りと薬草の知識があったのが幸いし、山での生活に多少の苦労をしつつも馴染み始めた頃にそれは起きました。
リューガはふとしたことから近くの洞窟に飛来した傷負いのドラゴンに出会ったのです。
彼が見たものはあまりにも酷い傷を負った異形のドラゴンでした。
心配して近づこうとしますが、ドラゴンは手負い。殺気をみなぎらせて我が身を守る事に懸命です。
けれど彼はその姿に何故か放っておく事が出来ず、恐れこそすれども、持ち得る限りの薬草の知識を駆使し、懸命に治療を重ねて行きました。
「グルルル…」
「これでもう、怪我は大丈夫だから」
「グルゥ…、ゥルル…」
恐れずに接する青年の姿に心打たれたのか、日を追うごとに彼を少しずつ許し、彼の治療を受け入れていきました。
その甲斐あって数ヶ月の日々を経てドラゴンの傷は癒えていき、完治する頃には自由に飛ぶ事も出来るようにまで回復する事が出来たのです。
傷が完治して調子を取り戻した頃、ドラゴンはお礼にとリューガを背に乗せる事を許し、共に空を駆けました。
心地よい風―――
小さく見える王都や街並み―――
限りなく広い大地の彼方―――
自分が空の上にいる事実―――
迫害された青年にとって全てが感動に満ち溢れる体験でした。子供に戻ったかのように心が躍動していたのです。
今までの事が空から見下ろす町並みのように何もかもが小さく見えてしまうくらいに。
ドラゴンもまた、この青年の事を慕い、彼以外にこの背を許す事はしないと誓いました。
「綺麗な姿…、うん!きみはシンシア…、シンシアだよ!」
「ガウオオオオオ!」
咄嗟だったとはいえ、あろうことかリューガは女の子の名前をドラゴンに付けてしまうではありませんか!
けれどドラゴンからは嫌がる気配が感じられませんでした。それどころか、すんなり受け入れるかのように高らかな咆哮を上げていました。
ドラゴンの雌雄の区別というのは人間には分かりづらいものです。
しかしそれを見分ける事が出来る者こそ、国が抱える龍騎士であり、それを支える調教師(テイマー)だけでした。
シンシアと名付けたドラゴンは実は本当に雌なのです。リューガも無意識的にそう感じていたのかも知れません。
本能の成せる業か、はたまた適当な思いつきなのか…?
とはいえ、これが奇妙な共同生活のきっかけでした。
この出来事を境に彼らは互いにその身と心を許し、絆を深めていきました。
彼らはその足掛かりとして狩猟で生計を立てつつ、王都近郊の町や村で灯りや狩りの為の道具、自分達の身を守る為の武具を揃えました。
武具を揃い終えた頃の彼らの姿は最早、単なる狩人とは言えなくなっていました。
王が待ち望んでいたであろう「龍騎士」そのものとなっていたのですから―――
迫害された者同士、心を許せる相手はお互いの他にはいませんでした。
彼らにとって、人間社会での出来事など瑣末事であり、俗事にしか映りません。
世間に見捨てられた者にとって、国や町の興亡はそれこそ俗事に過ぎず、進んで助けるほどの恩義などあろうはずがないのです。
それに狩猟生活もひと所に留まって狩り続けていると、次第に獲物自体の数が減ってしまいます。
冬になれば冬眠に入る生き物もいる訳ですから、山だけではなく海に出る必要にも迫られるのは当然の成り行きでもあります。
狩猟という厳しい世界にしか生きる場所が無い彼らにとって、食料を得るための狩りは生きる為の行為であり、死活問題。
だからこそ、この生活を通して、彼らは健やかなる時も病める時も互いに守り守られ、支え合って生きる事が出来ました。
季節が一巡りしたある日の事、シンシアは自分の鱗を一枚剥がし、これをリューガに与えました。
彼の手には青々としていながらも虹色の輝きを放つ鱗…。
けれど、シンシアのこの行いの意味をリューガは知るはずもありません。
己の鱗を剥がして渡すと言う事。それはドラゴンが共に生き、一生をかけて守るに値するパートナーである事を示す証。
実はこれは龍騎士においても事例が少なすぎる為、彼らと言えども真偽を確かめる術がありませんでした。
その身近な例が天寿を全うした件の龍騎士とその愛龍でした。
ですが、騎士が故人となった事でドラゴンはその亡骸を守る為に人々の前から姿を消してしまっています。
因みにこのドラゴンは雄ですが、パートナーである騎士とは決して砕けぬ固い友情で結ばれた唯一無二の戦友同士だったのです。
鱗を渡す相手が同性であれば堅い友情を、逆に異性であれば永遠の愛を、その相手に誓う―――
ドラゴンが自分の鱗を自らの手で剥がして渡す、それはその者を運命の相手に選ぶ、という意味なのです。
人間同士の立場で言うなら、約束の証もしくはプロポーズの意味を持っているという事になるのでしょう。
リューガは渡された鱗を首飾りに仕立て、どんな時でも肌身から絶対に離さないほど大切にするほどの宝物としました。
シンシアもそんなリューガをいつしか愛おしい存在と見るようになっていました。
けれども当然ともいえる壁が二人の間にそびえていました。
それは言わずもがな、互いが根本から違う種族であると言う、超えるのはおろか、壊す事も叶わぬ壁でした。
更にはシンシアがまだ若いドラゴンであり、人間の言葉を理解出来ても、自分から話すには人間に変じる必要があったのが追い打ちとなりました。
ドラゴンが人間に変じる手段、それは「人化の術」と呼ばれる類の魔法を使う事。
この術を使いこなすには他のドラゴンから教わる事に加え、ドラゴンが長い時を生きる生物であるが故に習得を焦らない姿勢がありました。人間からしてみれば、そんな事をしようものなら習得する以前にあっという間に老いさらばえ、そのまま黄泉路を直行させられてしまう事は自明です。
人間の一生とはドラゴンからしてみれば、あまりにも短すぎるのです。それこそ、瞬きをした次の瞬間には次の世代の人間が老いていたというほどに。
それでもシンシアはリューガという命の恩人に種族を超えた恋をしてしまいました。
彼には女性との縁が全くなかったのですが、シンシアは原因を知ろうとは毛ほども思いませんでした。
それは愛する人が自分だけを信じ、傍を離れないからです。
彼女自身もリューガを手放すつもりは考えもしませんでしたし、互いに寄り添い、どんな事も一緒にやってきた間柄です。
ゆえにシンシアは眠る時にはリューガをそれはそれは愛おしく包み込んで逃がしません。
もっとも彼も彼で、シンシアの傍で無ければ安心出来ない身に染まっていたのが、彼女にとって何よりの幸いでした。
「シンシア…、大好きだよ…。……すー…すー…」
まるで自分を恋人として嬉しそうに受け入れ、子供のように眠る…。そんなリューガの存在はシンシアにとって、金銀財宝が塵芥に過ぎなくなるほどの、最高の宝に変わっていきました。
『(この人間に甘えてみたい。人間の女性のように…。けれど人間はすぐに死んでしまう…)』
言葉の話せぬシンシアは、そんな唯一つの歯がゆい思いを抱きつつも、自分だけを見てくれるパートナーを命に代えてでも守り抜く事を心に誓っていました。
互いの思いが交錯しながらの生活はそれからも変わることなく、お互いだけを信じ、月日は流れ行くのです―――
*****
リューガとシンシアが共同生活を始めてから、実に10年もの月日が経過していました。
青年はより逞しくなり、ドラゴンも更に流麗な姿へと育っていました。
互いを支え合う事で得た信頼、友情、愛情…。
それは互いに無くてはならない存在、人間で表すなら伴侶であるとも言えるでしょう。
しかし、そんな悠々自適な生活に終止符を打たされてしまう事態が起こってしまいました。
彼らの姿を偶然見かけた流れの狩人が流したある噂が、国中に広がっていたからです。
―――近くの山にドラゴンと暮らしている人間がいる―――
10年の歳月をかけたのも空しく、未だに最後の12人目が見つからずに悩み苦しんでいた王は、その噂に一縷の望みを賭けました。
国の誇る武の象徴が欠けたままだったこの国は10年の捜索活動で軍費が膨れ上がり、周辺国からの攻撃による小競り合いが散発するようになっていた事もあって、領民に重税を課すまでになってしまいました。
侵攻する敵を食い止める為に傭兵や冒険者を戦力として雇い入れた事も追い打ちとなって、治安はますます乱れ、人心は次第に離れて行きました。
そんな悪循環を断ち切ろうと王が下した苦渋の決断…。仮にそれが眉唾物であっても、賭けるしか無かったのです…。
王は命じます。
―――その者達を探し出し、如何なる手を用いても龍騎士にせよ。
精鋭の龍騎士二名を伴い、騎士団は大軍を持って動き出しました。
大軍で動かすのには訳があります。王命に従わない、飼い慣らせないドラゴンは国にとっても、人間にとっても危険な存在でしかありません。
それ故に万が一の事態に対しての抑止力として大軍にする必要があったのです。
付け加えるならば、王と言う絶対権力者の威光と命令に逆らう事は死を意味するという脅しの意味が込められていました。
騎士団の出陣から数日後、その身に迫る事態を知る由もないリューガは、灯りを得る為の蝋燭や狩りの道具を仕入れる為に山を下りようとしていました。
シンシアも一緒について洞窟を出ますが、これが彼らの運命を大きく変えてしまいます。
彼らを見ていた狩人を案内人にして、王都の騎士団が洞窟前を取り囲んでいたのです。
一人と一頭は身構えますが、程なく上空から、現れる二騎のドラゴン―――龍騎士が彼らの前に現れます。
龍騎士は愛騎の背から降りると、青年の前に来てこう言いました。
「君のような者を我々はこの10年、探し続けていた!我らが王の下に来るのだ、新たな龍騎士よ!」
頭ごなしに王の下に来いと言う龍騎士の言葉にリューガは困惑と疑念を隠せません。
いきなり騎士達に囲まれ、不躾に有無を言わさない事を言われれば、戸惑って当然でしょう。
「何故? 龍騎士といきなり言われても…!」
「君にはその資格があるのだよ。ほら、変わった姿と言えどもドラゴンが共にいるじゃないか。ドラゴンと言うのは人に心を許さん生き物だ」
「そう…な、のか?」
「むぅ…、礼儀がなって無いのには目をつぶろう。つまりはそういうものなのだ。どうやら長い間、寄り添って生きたのだな。お前達こそ12人目の龍騎士に相応しいのだ!」
「急にそう言ってもね…。これも相当警戒してるんだけど…」
唸り声を上げ、今にも飛びかからんとするドラゴンの姿に、龍騎士の一人が騎士達に戦闘態勢を解くよう命令します。
それを見たドラゴンは多少なりとも警戒は解くものの、それでも完全とまでは行きません。
しかも狩人は憎々しげにリューガを見ているではありませんか。実の所、シンシアはその狩人の邪気に反応していたのです。
「…気にいらねぇ」
狩人はボソリと本音を漏らしました。兵士達は何事かと狩人の方を振り返ります。
「俺様が目を付けてた狩り場を横取りしやがって!化けモンの分際でのうのうと生きてんじゃねぇ!」
邪気を露わにした狩人は言いたい事をまくし立てると、クロスボウを構えてリューガを狙いました。
兵士や龍騎士達が制止しますが、巧みに逃げ回って聞く耳を持ちません。
「狩り場を横取りしたお詫びとしてテメェらの命、俺様に寄越しな!そしたら許してやらねぇでもねぇ…ぜっ!」
欲望に狂った狩人は言うが早いかリューガに向けてクロスボウの矢を放ちました。
その矢は眉間に向けて正確な軌道を描いていました。狩人は熟練の腕を持っていたのです。
ですが、矢はリューガの頭を射抜く事はありませんでした。
シンシアが即座に反応し、自分の角で矢を弾いてパートナーを守っていたからです。
「シンシア!大…丈夫?」
「グアゥ!」
リューガの心配は杞憂でした。そう、ドラゴンの身体は並みの武器では傷付ける事も出来ないのですから。
けれどリューガの心に失望と絶望が襲いかかってきました。
「結局…かよ…。人間は何時もこうだ…!違う者を持ってる奴を差別して…それを正しい行いなどと抜かしやがって…っ!もう嫌だ!人間なんかに従うか!俺を脅して殺そうとする、王冠被っただけの木偶人形に!従ってたまるかあぁっ!あああああああああああああ!」
彼の心を覆う失望と絶望、そして怒りが、慟哭となって周囲に、それこそ山を揺るがす勢いで響き渡ります。
リューガの拒絶に騎士団長の顔が怒りに染まりました。王命に反発し、王を侮辱したリューガに対し、あからさまな殺意を向けてきたのです。
「下賤の分際で王に逆らい、あまつさえ侮辱するとは!大逆の罪にてこの場で八つ裂きにしてくれる!抜剣!弓、構えーい!」
龍騎士達の制止も聞かず、騎士団長が怒声を張り上げて処刑命令を下すと騎士や兵士達は一斉に抜剣し、弓兵は矢をつがえて臨戦態勢に入りました。
騎士達にとって王への侮辱は許し難いものでしかありません。そして何より最高権力者たる王の命令は絶対であり、臣民が如何なる状況や立場にあろうともこれを覆す事は決して許されません。王命に逆らう事は王に対する反逆行為だったからです。
それが騎士団長であれば尚更、不届き極まりない行為と映っていました。
王への忠義厚き彼にとって王への侮辱は「神に唾するも同じであり、死を持って償わせるべき」という持論さえ持っているのですから。
ですがリューガのように心無い者達の偏見に振り回され、生きる場所を奪われた者の立場からしてみれば、どうなるでしょうか?
王という存在がただ玉座でふんぞり返るだけの木偶人形にしか映らない事でしょう…。
いいえ、それどころかリューガの心には人間に対する不信と恨み、同時に自分が人と違う特徴を持ってしまった事に対する悲しみが渦巻いているのですから…。
そんな彼の底の見えぬ悲しみを瞬時に察したのは誰であろうシンシアだけでした。
「ガァウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
あらん限りの怒りをぶちまけるように咆哮を上げたシンシアの身体には咆哮に呼応するかのように炎が噴き上がり、踊り狂っていました。
怒りを体現した炎をその身に纏う壮麗たる姿は、相対した者に絶対の敗北を約束する事でしょう…。
ドラゴンを怒らせる事がどれほど愚かな行為であるか、死を持って後悔する事でしょう…。
ドラゴンが地上の王者と呼ばれる所以の片鱗が今、軍隊の目の前にそびえ立っています。
それでも騎士達は王命に逆らった罪人を成敗すべく、じりじりと包囲を固めていました。
彼らの姿にシンシアの目は怒りに染まり、愛するパートナーを殺そうとした者に対する憎しみが更なる炎の渦を呼び起こしてしまいました。
その炎はやがて周囲の草木に着火し、足元の草は消し炭と化したのを発端に見る見るうちに森が炎の海へと変わっていきます。
草や木々は成す術もなく燃やされ、動物達は逃げ惑い、折悪く吹き始めた風が炎を渦と成し、辺りは熱風が息吹となって吹き荒れていました。
愚かにもドラゴンを討伐しようと企む矮小たる者達は燃え広がる炎と巻き起こる熱風に煽られ、前進する事もままならなくなりました。
狩人と弓兵達がひるまずに矢を放ちますが、熱風が矢の軌道を逸らす上に失速させてしまう為、くすぐる程度にまで矢の威力を殺されてしまいます。
二人の龍騎士はたまらずドラゴンに乗り、空へ飛びあがって様子をうかがう事しか出来ない有様でした。
炎はますます強くなり、山火事となって更に木々を飲み込んで燃え広がるばかりです。
ところがリューガだけはこの状況にいながら、何の影響も受けていません。それは彼がシンシアから貰った鱗の力によるものでした。
実は鱗を与えられた者はその龍の属性を与えられるのです。この場合、リューガはシンシアが持つ炎の属性を身にまとっているという事になります。
通常の龍騎士達はドラゴンの持つ属性に長くは耐えられず、体内のバランスを崩してしまう弱点を抱えていました。
火であれば激しい熱病に侵され、水や氷であれば低体温症…と言った具合にです。その為に鱗を与えられない普通の龍騎士は属性バランスの乱れが無いかを、任務を終える度に診なければならなかったのです。そうして事前に属性バランスを整えないと待っているのは引退と死しかないのです。
龍騎士とはその輝ける栄光の裏に、このような代償を支払わなければならないのです。
属性による悪影響を受けさせないする事は、リューガが鱗を与えられた意味の一つでもあるのです。
燃え盛る森はまるで炎の国を現出させ、その主はまるで姫君。傍に控える人間は召使いか、はたまた姫君の婿か…。
やがて何かを感じたのか、シンシアは急に翼を広げ、直後には赤く輝く塵が目の前の敵に向けて、散りばめていきます。
塵はまるで桜の花びらのようであり、炎の中で舞い散る幻想的な光景に騎士達は思わず感嘆してしまうほどです。ですがその刹那に絶望が訪れます。
シンシアが牙を打ち鳴らすと、生じた火花が塵に着火して次々と破裂、それが連鎖して爆発となり、爆弾と同じ威力を引き起こしたのです。
荒れ狂う怒りは爆発となって地上の軍隊に襲いかかります。
上空にいた龍騎士達もその爆風に煽られて、落下を防ぐのがやっとの状態。
爆発が止んだ先に龍騎士達が見たものは、人も木々が平等になぎ倒され、炎が更に山を喰らうべく広がっていく光景でした。
幸か不幸か木々が地上の騎士や兵士達から爆発の衝撃を防いでくれていたようです。
ほっと胸を撫で下ろす二人の龍騎士でしたが、それが大きな油断となり、惨事の主である異形のドラゴンの動きを見落としてしまいました。
シンシアはこれを好機と捉え、リューガを尻尾で巻きつけるや否や、凄まじい勢いを付けて即座に空へ駆け上がっていきました。
龍騎士達も突然の行動に呆気に取られ、その僅かな隙が更に互いの差を開いてしまいます。
彼らは大慌てで追いかけようとしましたが、地上戦力の惨状を見過ごす事が出来ず、追跡を断念せざるを得ませんでした。
幸い、重傷者こそいれども死者が出ていなかった事で、救助活動は成功しました。
ですが、この惨憺たる結果を知らされた王は烈火の如く怒り狂い、リューガとシンシアの確保に失敗した者達全てに須らく処罰を下してしまいます。
龍騎士達は任務の放棄を咎められ、向こう数年、通常の騎士身分として騎士団への出向―――
騎士団は任務における失態を咎められ、これを理由に参加した者全員に爵位の降格や剥奪―――
兵士達は、末端であるが故に退職金も無しの即時解雇もしくは国外追放刑―――
騎士団長と戦端を開いた愚かな狩人は、結果的に独断専行で全てを台無しにした事が王の逆鱗に触れ、二人揃って石打ち刑にされてしまいました。
しかし、処分はそれだけに終わりませんでした。両家断絶と一族の身分を即日剥奪、財産も残らず没収した上で彼の親族を奴隷に落としたのです。騎士団長は領地までも没収されたのです。
決して軽からぬ処罰を全員に下しても、王の怒りは三日三晩鎮まる事は無かったそうです。
王の治める国はその綻びから滅亡への歩みを速めて行ってしまう事になるのです。
*****
さて、話はシンシアがリューガを連れて空へ逃げた時にまで遡ります。
彼女は尻尾を器用に操ってリューガを背に乗せ、更に遠くへと飛翔を続けていました。
「シンシア…、びっくりしたよ。けど…」
言いかけて、言葉を止めるパートナーにシンシアは唸り声を上げます。それに合わせるように…
「…ありがとう。誰も…、誰も知らない何処か遠い所で、今度こそ一緒に暮らそう!それまではちょっとした冒険者気分だね」
「グワァウッ!」
人間の悪意と殺意を二度もその身に受けたリューガには、もう人間を二度と信じる事は無いでしょう。
シンシアと言う愛するドラゴンと一緒なら、これからも生きていけると彼は信じていました。たった数十年という、ドラゴンにとっては溜息の一瞬ともいえる、短すぎる生涯であったとしても…。
それほどまでに人間の青年は、自分と共に生き、そして今、自分を助けてくれたドラゴンを真に愛していました。
例え種別や性別を超えてでも、死ぬまで共にいようと、シンシアを守れるくらい強くなろうと、心に決めていました。
シンシアも自分を本当に必要としてくれている事を改めて聞かされ、喜びの咆哮を上げて、彼に応えました。
やがて彼らは地の果てを行くかのように飛び続けた先にあった、剣の様にそびえ立つ山の洞窟に腰を落ち着ける事になりました。
その数日後の事です。
シンシアの体を不思議な霧が包み込んだ後、彼女は突如高熱を放ち、動く事すら出来なくなっていました。
リューガは悪い予感がする、とシンシアの傍に寄り添い、持てる限りの薬草を試しますが効き目は無く、シンシアの熱はますます上がるばかり。
万策尽きてしまったリューガはシンシアの顔にその身を近付け、己の身が焼けるような高熱であるにも厭わず、その額に口づけをしました。
「愛してる…、シンシア」
その一言と共に涙がシンシアの顔に流れ落ちた時、目を疑うような奇跡が起こります。
涙が落ちた場所をから光が出始め、それは全身をくまなく覆っていくではありませんか。
「ゴ…ゴオオオオオオオオオオ!」
鈍くも激しい意志を秘めた咆哮が洞窟に響き渡ります。
やがてそれが収まると、卵の殻を破るかのように光が砕け散り、塵の様に消えて行きました。
ですが―――ドラゴンの姿はありませんでした。
そこには別の…、青い鱗、翼、尻尾を持った少女の姿があったのです。
リューガは困惑します。
シンシアの名を叫び、失ったものを求めて外に出ようとした、その時でした。
「わたしはここよ…」
意識を取り戻した少女が起き上がり、声を上げたのです。
少女は驚いた顔をするリューガに微笑むと、涙を流して彼に抱きつき、言いました。
「わたし…、シンシア。あなたが付けてくれた名前だよ」
そう、その姿こそ少女ですが、角・翼・尻尾、そして青く美しい鱗は紛れも無い、あのシンシアでした。
「人間になれたら…、人間の言葉を話せたら…、ずっと願ってた。不思議だけど、今こうして叶った…!わたし…、わたし嬉しい!!」
茫然自失になりかけるリューガでしたが、首飾りにしていた鱗が淡く煌めいた事で確信を持ち、彼女を抱きしめて再び言葉を紡ぐのです。
「愛してる…、愛してる!」
涙を流す彼にはそれだけを告げるのが精一杯でした。
シンシアも思いの丈をぶつけるように強く、強く抱き返していました。
二人は崩れ落ちるように座り込み、互いの瞳を見つめあいました。
ゆっくりと閉じられる目とゆっくりと近づく唇…。
互いの唇が触れた時、二人にはもう何も耳に入らないほどの静寂が包むようでした。
最早、二人の間には何人たりとも立ち入る事は出来ません。
終生を共にと決めた二人にもう、怖いものはありません。
それから間もなく二人は夫婦となり、互いに労わり合い、愛し合い、定住の地を求めて旅立つのでした―――。
・・・・・・・・・・
「おかあさーん!続きはー?」
「続きは無いわよ」
「えー!どうしてぇー?」
「うふふ、それはね…」
日記帳の様なものを閉じて、子供に言い聞かせていた、その女性こそ―――
「シンシア、帰ったよ」
「あ。あなた、お帰りなさい」
「おとうさん、お帰りなさーい」
そう、あのドラゴンであったシンシアその人である。
リューガとシンシアはあれから幾年月を経て、定住の地を見つけ、小さな家を建てて暮らしていたのだ。
娘もドラゴンとして生まれ、8歳になっている。
更に今、シンシアのお腹には新たな命が宿っていた。
安楽椅子に揺られながら、娘にせがまれて読み聞かせた、取っておきのお話。
それは夫との出会いと今までの想いを綴ったシンシアの手記を基にした物語だったのである。
国のその後も描かれていたのは、二人がその国を訪れて事の次第を聞いていたからだ。
「おかあさん。今のお話って、おとうさんとおかあさんの?」
「そうよ。このお話はわたしとお父さんの出会い。お母さんはお父さんの事をいっぱい愛していたし、お父さんもお母さんの事をとても愛していたの」
「そうなんだぁー。じゃあ私もお父さんみたいな人と会えるのかな?」
「きっと会えるわ。貴女はわたしの子。そしてお父さんの子だから…」
「うん!じゃあ、今度また、今のお話聞かせて!」
「ええ、妹になるこの子にも…聞かせていかなきゃね」
大きくなったお腹をさすりながら、シンシアは夫であるリューガに微笑み、彼もシンシアの手に自分の手を重ねると告げた。
「無事に産まれて来ますように…」
「あなた、ありがとう…」
子供にも自分にも等しく愛情を注ぐ夫に、シンシアは涙を流さずにはいられなかった。
娘もそんな父母を見て、いつか自分も父の様な人と結婚する事を早くも夢見ていた。
今までも、これからも、二人は互いを愛し続け、
生まれてくる子供達に読み聞かせ続ける事だろう―――
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これは魔王歴に変わる瞬間に立ち会った、
一人の人間と一頭のドラゴンの物語である―――
22/07/08 01:11更新 / rakshasa