結:濡れ場と策士と幸せな結末。
目を開けると、世界は、赤い色をしていた。
息が、苦しい。
頭の上に、光が見える。
それが、だんだん近寄ってきて、
「ぶはあ!」
僕は、床に投げ出されるように、イライザの中から離脱した。
「イライザ!?急に何、をっ!?」
倒れている僕に、イライザが覆いかぶさるように乗っかっている。
「ここは?」
「…。トイレの、個室です。」
「ということは、女子トイレか。」
わずかに見える天井は男子トイレと違いほのかなピンク色。こんなこまやかな区別がなされているとは知らなかった。
「それで、何で僕の上に?」
「ドリンクは、代用品として作られたものです。」
ああ、知っている。都市生活を営む魔物が、忙しいときに、代わりに…。
代わり?
まさか。
「ごめんなさい。やっていいって、いわれたら…。」
彼女がくるりときびすを返す。
「もう、我慢できません…。」
彼女はすばやく僕のズボンのジッパーを引き下げると、中から僕のモノを引きずり出した。
「なっ!?ちょ、待て!」
「はああぁぁぁぁ…。」
彼女が恍惚とした声を上げる。
「おい、待て、待って。」
あまりの突然の事態に、脳の処理が追いつかない。
「い、いただきま…、」
「やめろ!」
そう、言った途端。彼女の体が硬直する。
「は、あ、あ、え、ご、ごめんなさい!」
彼女の顔は、泣き出しそうに歪んでいる。
「またやっちゃいました。いきなり襲ったりして。嫌ですよね。当たり前じゃないですか。ねえ。だって、恋人でも、なんでもないんですよ。」
そこで、はっと自分の犯した過ちに気づく。
「Bさん優しいからって、調子に乗ってました。勘違いするなって、思ってますよね。だってそうですよ、私なんか…。」
バン!
彼女が言い切る前に、僕は渾身の力で自分の頬を打ちぬいた。
イライザが、はっと息を飲む。
「な、何して…。」
「ごめん。謝るのは僕のほうだ。気が動転してたんだ。今のは僕じゃない。どこかの悪魔が言わせた妄言だ。」
顔の右側に、張り詰めた空気がつんと沁みる。
「い、いいんですよ。気なんか使わなくて…んむっ!?」
言い終わるより前に、彼女の口を塞ぐ。僕の両手は床においたまま。
舌を絡め、そっと離す。つ、と唇のあいだに糸がかかる。
「な、な、何を!?」
彼女は慌てふためく。
その様子は、とても可愛くて、とっても愛おしくて、ああ、そうだ。
「僕は、イライザ。君がね。」
笑ってごまかすことも、虚勢を張ることもない、本当の僕が、笑う。
「君が、大好きだ。」
空気が、音を立てて静止する。
「…さん。Bさん、Bさん!」
彼女は叫ぶ。
「私は魔物です!好色で、恥知らずの!現にさっきも、まるでアナタを獲物扱いしたんですよ!それでも、それでも私が好きですか!?」
「好きだよ。」
僕は脊髄反射の如く即答する。
「君に食べられるなら、本望さ。」
僕は両手を広げ、大の字になるように倒れこむ。
「どうかお気に召すままに。お嬢さん。」
「び、」
彼女の唇が震える。
「Bさ―――ん!」
まるで千年の渇きを癒すように、イライザは僕の下半身に絡みつくと、僕のモノを深く咥えた。
「うおっ!?」
その途端、にわかには信じがたいほどの快感が僕を襲う。
彼女の口内は温かく、吸い付くような感触で僕のモノを包み込む。
意識する間も無く、モノは臨界点まで膨れ上がった。
「ぷはぁ、」
彼女は口から大きくなったモノを取り出し、うっとりと眺めた。
「う、おっ…。」
イライザはぺろりと、モノの背を舐めあげる。
その舌は、跳ね返すような弾力を持ちながら、ぴたりとモノに張り付いてくる。
舐められた所から、痺れるように全身へと快楽が伝わっていく。
そのまま、彼女は先っぽをしゃぶりだした。
先ほど交わしたあの柔らかな唇が、僕のカリに触れ、激しく吸い上げる。
かと思えば舌で弄るように先っぽの割れ目を湿し、舐めとる。
繰り返される小さな刺激に、快感がみるみる高まっていく。思わず腰がはねる。
と、
「Bさんって…、こーゆーの、好きですか…?」
モノから口を離し、上体を寄せる。そして、
ぷるん。
彼女が、その弾けそうなバストの狭間に、僕のモノを迎え入れたのだ。
みずみずしい感触が伝わってくる。またがられているため、見ることはできないが、それでも分かる。二つの温度。
ふっ。
彼女はおもむろに谷間から突き出た先端に暑い息を吹きかけた。
うっかり絶頂に達してしまいそうになる。
息を止め、ぐっと堪える。
「あは。こんなに固くなってる。」
彼女が指でぐにぐにとモノをつつく。
「私の胸で、気持ちよくなってくれてるんですね。」
彼女の熱を帯びた声が、僕の脳を麻痺させる。
彼女のことしか、考えられないほどに。
「それじゃあ、もっともっと、気持ちよくなってください。」
イライザはそのまま僕のモノをぱくりと咥える。
今度はさっきと違い、荒々しく、僕を攻め立てる彼女の舌。
舌が触れるたび、モノが燃えるように熱くなる。
甘い刺激が突き刺すように僕の脳内を蹂躙する。
「くあっ!?」
突然の、鋭い異質な刺激に、溶けかかった意識が覚醒させられた。
カリの部分を、甘噛みされたのだ。
彼女の歯は、不思議に柔らかく、それでいてしっかりと、モノに食い込み、過去に感じたことの無い独特の快感を伝えてくる。
ぴりぴりと、電気のように体をかける衝動に、僕の意識は押し流されていく。
「うふふ、よかったですかぁ?じゃあ、こんなのは?」
イライザは口づけをするように僕のモノに唇を当てると、すするような音を立てて、勢いよく吸い込んだ。
「うあああああっ!?」
思わず声を上げてしまう。
吸い出されるように、体の芯から何かが湧き上がってくる。
「いいこえ…。もっと、もっと…。」
彼女は恍惚と呟き、またしっかりと咥えなおす。
しゃぶり、舐め、吸い込み、噛み、彼女の快楽は確実に僕を征服していく。
それは執拗に、僕の頭の中にじんじんと鈍いショックを与えてくる。
体の奥から、外に向かって、熱いものが駆け上がる。
「はむ、ぴちゃ、ぺろ。」
もみくちゃにされたモノにはすでに血管が浮き、限界の近いことを伝えている。
「ひもひ、いい、れふか?」
声の振動さえも、絶頂を誘う武器となり、僕の局所に襲い掛かる。
と、突然、彼女が身を翻した。
いままで隠れていた、僕と彼女との接点が視界の中心に入った。
「はふぅ…。どうれすか?」
モノを頬張って膨らんだ頬、吸い込む唇、そして、レンズ越しにこちらを見つめる、上目遣いの、赤い瞳。
視覚イメージの追加により、最終ラインが一気に打ち破られる。
「…!!」
絶頂を伝えようにも、あまりの快感に言葉を発することも出来ない。
頭からつま先まで、衝撃が走る。
「んぶっ!?」
突然の放出だったために、噴出した白濁は飛び散るように口内から溢れ出す。
彼女の口からは白い筋。
雫が眼鏡のレンズを伝い、ぽとりと胸に出来た池へと落ちる。
イライザはそれを丁寧に掬い取ると、ゆっくり、大事そうに飲み干していく。
「はあああああああぁぁ…。おいしいですぅ…。」
夢見るような表情を浮かべる彼女。
たった今一仕事終え、地に伏していたモノが、その表情だけで再び奮い起こされる。
「あは、まだまだ元気ですね。」
とろんとした目で笑みを浮かべる彼女。
「じゃあ、こんどはこっちです。」
体を持ち上げ、ゆっくりと下腹部を開く彼女。そこには、赤く、テラテラと淫靡な輝きを放つ、人間の女性と同じものが、あった。
「Bさんから、入れてください。」
「いいのか?」
「はい。はやく…。もう、がまんできない…!」
彼女のすがる様な顔が、僕を追い立てる。
「…。分かった。行くよ。」
僕はそっと割れ目にモノをあてがうと、間髪を入れずに根元まで貫いた。
「ふっ、ふあああああああああああん!」
イライザは大きく喘ぎ、体を震わす。
どうやら、軽くイってしまったようだ。
とろとろに溶けた肉壁が僕を締め付け、形を変え、包み込む。
まるで、最初から僕のモノが収まるために開いた空間であるかのように。
動かしていないのにも関わらず、熱されるように高められていく。
「はぁ…!はぁ…!いい!いいのぉ!」
彼女が小刻みに腰を前後させる。
その動きは緩慢ではあるものの、確実に快感を伝えてくる。
「はあ、はあ、」
イライザは探るように、ゆっくり、じっくりとさまざまな角度からモノをしごく。
痺れるような感覚が、下半身に染み渡る。
ずるりと差し入れては、またゆっくりと引き抜く。
まるで快楽を出し渋るかのように、じっくりと。
モノが、脳が、体が、彼女を欲する。もっと、もっと激しく。
「おい、いくぞ。」
「はひ?」
彼女が慎重に招きいれようとしていたモノを、隙を突いて一気に突き上げる。
「はぁぁぁぁぁぁん!?」
彼女が上体をのけぞらせる。
そのまま僕は、貪るように彼女の大きな赤球に顔をうずめる。
「はっ、ちょっ、びー、さんっ、はげし、すぎっ…!」
そのまま、僕は彼女と腰を激しく打ち付けあう。
腰を突き出すたびに、その振動が伝わり、彼女の全身が振動した。
「はああっ、あんっ、ちょ、まっ…!あああああん!」
ぴんと張った彼女の胸を、まるでアイスクリームのように満遍なく嘗め回す。
「やっ、やめ、そこは、らめぇぇぇ!」
あまったもう一つをもぎ取るように揉む。掴んだ指の形に胸が凹み、僕の手のひらを受け止める。
「ああっ、はあ、やっ!ふあぁん!」
彼女の体が融けだす。胸を揉む手が、厚い粘液に覆われる。
ふと悪戯を思いつき、腰を止め、手を離す。
「はふぅ…。やぁ、やめないでぇ…。」
「大丈夫、もっと気持ちよくなるから。」
僕は腰の部分、接続部の上あたりを手探りで探す。
あったあった。
「なに、するんですかぁ…、きゃううう!?」
一瞬、何が起きたのか分からないというような顔をするイライザ。
そう、クリトリスをつまみ、思い切り引っ張ったのだ。
そのままコリコリと愛撫を続ける。
「はぁんっ!ひっ!はふっ!いいっ!そこぉ!もっと、いじっへぇ!」
彼女は見目麗しい顔を上気させながら身もだえする。
下腹部の突起への刺激に彼女の意識が集中する。
よし、今だ!
僕は素早く胸に舌を押し付ける。
ずぷ。
短い音と共に、僕の舌が彼女の胸の中に埋没する。
「ひ、ひやあああああぁぁぁ!?」
彼女の胸に忍び込ませた舌を、上下左右に動かす。
ゼリーの海を泳ぐような、不思議な感覚。
「い、いや、中から、なんて、はあぁん!」
片手でクリトリスを弄び、それに気をとられたところで、また胸の内部を舐める。
彼女の体が、ぴくり、ぴくりと小刻みに跳ねだす。
「は、はあ、だめ、また、また、」
仕上げだ。
空いた手を使って、彼女のしなやかなボディーラインを撫でる。
と同時に、クリトリスを思い切りひねり上げる。
「また、イっひゃううぅぅぅぅ!」
イライザの体が大きく飛び跳ね、中の締め付けはさらに激しくなった。
溢れた愛液が、突き刺さったままのモノを濡らす。
「び、びぃ、さん、ずるい、れすよぉ…。」
うつろな目で彼女は言う。
「わたし、ばっかり、イかせへぇ、ずるい…。」
鼻先までずり落ちた眼鏡が、彼女の荒い息に乗って小さく揺れる。
「おかえし、です。」
彼女は再び腰を振り出した。ただしさっきとは違う。明らかに、絶頂させることを目的とした、激しく、荒々しい動きだ。
「くぅ…、はっ、はぁ、きもちいいれすか?」
「うっ、く、ああ、気持ち、いいっ、な!」
負けじと応戦するも、劣勢気味だ。
武器も、技も、彼女に敵わない。みるみるうちにゴールがちらつき始める。
「はあ、はあ、かたくなって、ぴくぴくして、もうすぐれすね!」
見破られている。完璧な負け戦だ。
「おもいっきり、イかせて、きもちよく、させて、あげますからね…!」
彼女が淫靡ににっこりと笑う。
今すぐにでも放出したい衝動に、これでもかというほどに苛まれる。
ここまでか…?
その途端、また悪知恵が働きだす。
このままイかされるにしても、せめて一矢報いてやろうか。
僕は湧き上がる衝動に耐えつつ、彼女の耳元に口を当てる。
そして、そっと言う。
「この前の、イライザの寝顔、とっても、可愛かったよ。」
攻め立てる運動が、ピタッと静止する。
「そ、そ、そそそ、そ。」
彼女の顔が、元々の色を差し引いても明らかに分かるほどに真っ赤になっている。
「そういうの、反則じゃないですかぁぁぁ!」
その隙に、こっちからもう一発突き上げてやる。
「は、は、はああぁぁん!!」
彼女がまた腰を激しく前後させる。
「あっ、はっ、もうっ、びー、さんっ、たらっ!」
彼女の秘所から、とめどなく愛液が滴り落ちる。
「またっ、きもちよく、なっちゃったじゃ、ないれすかぁ!!」
彼女と僕の腰がぶつかり、不思議な水音が辺りに轟く。
辛抱の、限界だ。
「イライザっ、イくぞ!」
「きて!ぜんぶきて!B!」
その瞬間、目の前が、真っ白になる。
僕の全てが、イライザへと注ぎ込まれてゆく。
「きゃううううううううううううん!!」
彼女の体が、雷に打たれたように縮こまり、激しく痙攣する。
その赤く透き通った体が、放出された白濁によって徐々に染められていく。
僕のモノはなおも止まらず、何度も、何度も、彼女の中に溜まったものを吐き出し続けた。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…。」
お互いに、口が利けるようになるまで数分を要した。
「B、さん…。」
彼女がこっちを向いて微笑む。
「ありがとう、ございます…。」
「おいおい、お礼はおかしいだろ。むしろこっちが言うべきじゃないか?」
僕はいつもの調子で言う。
「いえ、お陰で体力も戻りましたし、本当にBさんがいなかったらどうなってた事か…。」
そういえば心なしか事前よりも肌、肌?肌が、つやつやしているような気がする。
表情も明らかにはつらつとした様子に戻っている。
「それに、その、び、Bさんの、その、それが、」
ぷいと恥ずかしそうに目をそらす。
「その、思ったより、大きくて、あの、昔見たのと違って、気持ちよくて…、」
そりゃな、小学生と比べて競り負けてたら、僕は泣くよ。
「あの、だから、ありがとうございます…。」
もじもじと上目づかいでこっちを見てくる。
それを見ているとどうにも、ね。
「じゃあ、お礼に、一つお願いを聞いてもらえないか?」
「おねがい?なんですか?」
僕はぴんと人差し指を立てる。
「す、」
「す?」
好きって言って、と言おうとして、止める。
こっちの方が、面白い。
「イライザが、僕を、どう思ってるか、教えて?」
ぴくっ、と反応する彼女。
「あ、あの、えーと、そのっ、それはっ!」
彼女の目が盛大に泳ぐ。
一瞬のうちに汗だく、というか融けだしている。
「そ、その…!」
「その?」
「…。言えません。」
ありゃ、逃げられた。
まあ、いいや。この慌てっぷりを見れただけで十分だ。
「あの!Bさんっ!」
「ん?」
イライザのほうに顔を向けた瞬間、息が苦しくなる。
口が、柔らかな何かで、塞がれていた。
つ、と、白い光の糸が渡り、切れる。
「な、何を!?」
突然の事態に、柄でもなくうろたえる僕。
「言えないので、答えの、代わりです。」
彼女が唇をぺろりと舐める。
「一回もらって、一回上げたので、これでチャラですよ。」
彼女が、ずれた眼鏡を直した。
「また、下さいね。」
可愛い。あまりにも。過剰なほどに。
今すぐにでも、上げたい。
僕はイライザにゆっくり顔を寄せる。
彼女は目を閉じて、それを受け入れようとする。
徐々に差がつまり、そして…。
と、こういうときに限って気付いちゃうんだよな。
「あ、時間。」
僕は時計を見る。
「やばい!あと三分しかない!」
「えええ!大変じゃないですか!」
「走るぞ!イライザ!」
「ま、待ってくださいよぉ!」
手をつないで、僕とイライザは勢いよく教室へと駆け戻る。
願わくば、僕が女子トイレから飛び出す様を、誰かに目撃されていませんように。
いやはや、知らなかったよ。
いや、確かにそう名前はついているのだが。
それでも、思いもよらなかった。
賢者タイムに、人がこんなにも賢者になれるとは。
頭の中の靄が取り払われ、詰め込んだ知識が注文に応じ、整然と運び出され、みるみる空欄が埋め立てられていく。
え?何?ブラ紐はどうなったって?
何を馬鹿な。
あんなものただの布ではないか。
かつて無い達成感と共に、午後の試験が幕を閉じる。
これが夢だったら、ショック死できるね。僕は。
「うーん。貴族の家の椅子に座ってしまうと、もう研究室の椅子など座れたものではないね。」
ウィギンス教授が、大きく背伸びをする。
「だからって、研究室で貴族様の椅子に座るわけにいかないでしょう。」
「え?」
教授がゆっくり立ち上がる。その後ろには、ニスでピカピカに磨かれ、今にも、どうです、クッションが効いているでしょう、と自慢をしてきそうな椅子があった。
「ああ、これ、貰ってきちゃった。」
厚顔無恥という言葉は教授にこそ相応しい。
「失礼な。」
だから、何者なんだよ。アナタは。心を読むな。
僕は今、教授の研究室に来ている。
見たことも無い言葉で彩られた背表紙が並ぶかと思えば、謎の模型や、奇妙な実験器具が転がっていたりする。それでも何度もここを訪れる僕にとっては居心地のいい場所だ。
「で、どうだったんですか?結果は。」
「ああ、」
教授は机の上から書類の束を取り上げ、ぱらぱらとめくる。
「まず、イライザ君の件だが、」
ごくり、
息を呑む。
「…。惜しかったよ。」
「え!?」
嘘だろ、おい。僕が、無理に家庭教師なんかさせたから、そんな。
「学年2位だ。」
うぉい!!死ぬかとおもったわ!
狙って言ったのか、ニヤニヤとしている。
いつか目の前のコイツの寝首を掻いてやろうと思う。
「彼女の就学は全く心配はいらないよ。資金繰りも何とかなった。」
「まさか子爵を脅してないですよね?」
「馬鹿な、そんな訳…、」
教授が天を仰ぐ。
「…無いじゃないか。」
「なんだ今の間は!?」
「それより君の話だ。」
逃げるように教授が再び手元の紙束を繰る。
再び空気が凍りつく。
「B…。」
教授がゆっくりと口を開く。
「やったぞB。喜べB。Bは一つも無かったぞB。おい聞いてるかB。」
ややこしいわ!わざとだろ!
「え、てことは…。」
「ああ、その通り。」
あれ、まさか、これは、
「やった、のか!?」
徐々に実感が湧いてくる。やった、僕はやったのだ。
教授がぱちぱちと手を叩いた。
「午後の教科に至ってはSがあったよ。一体何を吸った?」
「あいにくとシラフですよ。まあ、若干ステータス異常アイコンが出てたかもしれませんけどね。」
僕はにやりと笑う。
「と、いうことで、僕も晴れて進級です。またお会いしましょう。よい夏休みを!」
僕は軽快なステップで部屋を後にする。
はずだったが。
「教授…?何故襟元を掴むのですか?」
教授は返礼のようににやりと笑った。
「進級、できないのだよ。」
「はい!?」
僕の顔から全ての血液が引いていく。
「それは、まさか、Bは無かったけど、CやDはあったとかいう、アレですか…?」
「おいおい、僕をそんな子供じみたレトリックを言う男だと思うのか?」
言うでしょう。頻繁に。
「…。残念ながら、君の評価は最低でもAマイナスだった。」
「じゃあ、何で、」
というか、残念ながらって言った!?
「聞くが、B、君は、」
教授の目が、僕を見据える。
「僕の授業、出たことがあるか?」
心臓が口から飛び出そうになる。
やばい!動揺するな、平常心だ、平常心。
「な、な、な、な、何を、と、と、突然。」
ああ、もうダメだ僕は。
「…、何で分かったんですか?」
「代返でほかの教授は騙せても、僕はダメさ。僕は全ての生徒の声を暗記しているからね。」
だからアナタは何者なんだよ。
「と、いうことで、僕の授業分、単位が丸々無いんだな。」
「つまり…。」
僕の額を冷たい汗が伝う。
「落ち着け、B。なんにせよ落ち着くことだ。自分で落ちると思ったが最後、必ず墜落するからな。」
「嘘だろ!?」
「頑張れ、B二等兵!」
僕は床に崩れ落ちる。
「と、言いたいところだけどね。」
教授は僕を覗き込んで、言った。
「B、君は『特別指定学生補助士制度』って知ってるかい?」
聞きなれない単語に、僕はかぶりを振る。
「例えば、視力に問題がある子の代わりに、板書を書き写す、聴力に問題がある子の為に、先生の話をメモする、なんていう手伝いを学生にやってもらう訳なんだけど。」
教授の指がピンと跳ねる。
「それをイライザ君について申請するから、君がやってよ。」
「へ?」
話が掴めない。
「それで、その負担の代価として発生する単位を今年に前借りしてあげる。それで僕の授業分の単位が埋まるから、君は今度こそ、晴れて進級、ということだ。」
え、マジで!?
「どうかな?」
「あ、はい。分かりました。」
「じゃ、ここにサインして。」
言われたとおり、突き出された書類にサインをする。
狐につままれたような気分だ。
「はい、オッケー!」
ん?あれ?待てよ?
「何故イライザが申請を?彼女はどこも障害はないと思いますが。」
「うん、さっき彼女に来年度の計画表を見せてもらったんだけどね、どう考えても頑張りすぎだよ。止めたんだけど、聞かなくてね。アレじゃ体力が持たない。」
「まあ、イライザはちょっと無茶するところが…、ん?」
嫌な予感が全身を駆け巡る。
「まさか…。」
「まあ、ドリンクって高いからね。」
やっぱり―――!
教授が笑う、あの悪魔の笑みで、いや、悪魔もきっと恐れて近寄らないだろう。
「行け!B!BはBentoubakoのBだ!」
「弁当箱・ルーデンスですか僕は!?」
「安心したまえ、LはLunchboxのLさ。」
何を安心しろと!?
「ま、せいぜい、夏のうちにしっかり精を付けておきたまえ!」
教授が高らかに笑う。
もしかして、初めから全部計画の上だったのか!?
あながち違うとも思い切れない。
背中に何か冷たいものを感じつつ、僕は研究室を出た。
「どうでした!?」
「え?教授から聞いたんじゃないのか、2位だったって…。」
「そっちじゃないですよ!Bさん!」
「へ?ああ、うん。大丈夫。残れるよ。」
イライザがほっと肩を撫で下ろす。
「よかったぁぁ…。」
「え、そんなに心配かけるほどだったか!?僕は!?」
そんなにダメだったろうか。
「そうじゃないですけど、すっごい青い顔して部屋から出てきたんですもん。心配しますよ。」
ああ、納得。
「大丈夫、それは教授のせいだから。」
「へ?」
いや、分かんなくていいよ、まだね…。
「でも、良かったです!」
彼女がクルリと僕のほうを向く。
雲の隙間から、太陽が顔を出し、窓に日が差し込む。
「また、一緒に勉強できますね!」
彼女の笑顔が、ちょうど入ってきた日差しに照らされ、キラキラと輝く。
それを見ていると、なんだか妙な気分になる。
勉強のしすぎで少しおかしくなったのかもしれない。
新学期が、楽しみだなんてね。
「なあ、イライザ。」
僕は、彼女を見つめて言う。
「お祝いに、飲みに行こうか。また君の歌声が聞きたい。」
「う…、それは…。」
彼女が口をへの字に曲げる。
「頼むよ。『ご褒美』、あげるからさ。」
「あ、あの、その。」
彼女は、ちょっと慌てた後、僕に腕を絡めてきた。
「い、一曲だけですよ!」
本当に、可愛いな。
「び、Bさん、何を?」
僕は彼女の頭を撫でる。
「あのときみたいにさ、B。って呼んでよ。」
ああ。
「ちょっ!やめてくださいよ!もう。」
僕は、幸せ者だ。
今まで色々なことがあって、
これからも、あるだろう。
だけど、今は、君といるだけで、
途方もなく、幸せだ。
愛してるよ、マイ・フェア・レディ。
息が、苦しい。
頭の上に、光が見える。
それが、だんだん近寄ってきて、
「ぶはあ!」
僕は、床に投げ出されるように、イライザの中から離脱した。
「イライザ!?急に何、をっ!?」
倒れている僕に、イライザが覆いかぶさるように乗っかっている。
「ここは?」
「…。トイレの、個室です。」
「ということは、女子トイレか。」
わずかに見える天井は男子トイレと違いほのかなピンク色。こんなこまやかな区別がなされているとは知らなかった。
「それで、何で僕の上に?」
「ドリンクは、代用品として作られたものです。」
ああ、知っている。都市生活を営む魔物が、忙しいときに、代わりに…。
代わり?
まさか。
「ごめんなさい。やっていいって、いわれたら…。」
彼女がくるりときびすを返す。
「もう、我慢できません…。」
彼女はすばやく僕のズボンのジッパーを引き下げると、中から僕のモノを引きずり出した。
「なっ!?ちょ、待て!」
「はああぁぁぁぁ…。」
彼女が恍惚とした声を上げる。
「おい、待て、待って。」
あまりの突然の事態に、脳の処理が追いつかない。
「い、いただきま…、」
「やめろ!」
そう、言った途端。彼女の体が硬直する。
「は、あ、あ、え、ご、ごめんなさい!」
彼女の顔は、泣き出しそうに歪んでいる。
「またやっちゃいました。いきなり襲ったりして。嫌ですよね。当たり前じゃないですか。ねえ。だって、恋人でも、なんでもないんですよ。」
そこで、はっと自分の犯した過ちに気づく。
「Bさん優しいからって、調子に乗ってました。勘違いするなって、思ってますよね。だってそうですよ、私なんか…。」
バン!
彼女が言い切る前に、僕は渾身の力で自分の頬を打ちぬいた。
イライザが、はっと息を飲む。
「な、何して…。」
「ごめん。謝るのは僕のほうだ。気が動転してたんだ。今のは僕じゃない。どこかの悪魔が言わせた妄言だ。」
顔の右側に、張り詰めた空気がつんと沁みる。
「い、いいんですよ。気なんか使わなくて…んむっ!?」
言い終わるより前に、彼女の口を塞ぐ。僕の両手は床においたまま。
舌を絡め、そっと離す。つ、と唇のあいだに糸がかかる。
「な、な、何を!?」
彼女は慌てふためく。
その様子は、とても可愛くて、とっても愛おしくて、ああ、そうだ。
「僕は、イライザ。君がね。」
笑ってごまかすことも、虚勢を張ることもない、本当の僕が、笑う。
「君が、大好きだ。」
空気が、音を立てて静止する。
「…さん。Bさん、Bさん!」
彼女は叫ぶ。
「私は魔物です!好色で、恥知らずの!現にさっきも、まるでアナタを獲物扱いしたんですよ!それでも、それでも私が好きですか!?」
「好きだよ。」
僕は脊髄反射の如く即答する。
「君に食べられるなら、本望さ。」
僕は両手を広げ、大の字になるように倒れこむ。
「どうかお気に召すままに。お嬢さん。」
「び、」
彼女の唇が震える。
「Bさ―――ん!」
まるで千年の渇きを癒すように、イライザは僕の下半身に絡みつくと、僕のモノを深く咥えた。
「うおっ!?」
その途端、にわかには信じがたいほどの快感が僕を襲う。
彼女の口内は温かく、吸い付くような感触で僕のモノを包み込む。
意識する間も無く、モノは臨界点まで膨れ上がった。
「ぷはぁ、」
彼女は口から大きくなったモノを取り出し、うっとりと眺めた。
「う、おっ…。」
イライザはぺろりと、モノの背を舐めあげる。
その舌は、跳ね返すような弾力を持ちながら、ぴたりとモノに張り付いてくる。
舐められた所から、痺れるように全身へと快楽が伝わっていく。
そのまま、彼女は先っぽをしゃぶりだした。
先ほど交わしたあの柔らかな唇が、僕のカリに触れ、激しく吸い上げる。
かと思えば舌で弄るように先っぽの割れ目を湿し、舐めとる。
繰り返される小さな刺激に、快感がみるみる高まっていく。思わず腰がはねる。
と、
「Bさんって…、こーゆーの、好きですか…?」
モノから口を離し、上体を寄せる。そして、
ぷるん。
彼女が、その弾けそうなバストの狭間に、僕のモノを迎え入れたのだ。
みずみずしい感触が伝わってくる。またがられているため、見ることはできないが、それでも分かる。二つの温度。
ふっ。
彼女はおもむろに谷間から突き出た先端に暑い息を吹きかけた。
うっかり絶頂に達してしまいそうになる。
息を止め、ぐっと堪える。
「あは。こんなに固くなってる。」
彼女が指でぐにぐにとモノをつつく。
「私の胸で、気持ちよくなってくれてるんですね。」
彼女の熱を帯びた声が、僕の脳を麻痺させる。
彼女のことしか、考えられないほどに。
「それじゃあ、もっともっと、気持ちよくなってください。」
イライザはそのまま僕のモノをぱくりと咥える。
今度はさっきと違い、荒々しく、僕を攻め立てる彼女の舌。
舌が触れるたび、モノが燃えるように熱くなる。
甘い刺激が突き刺すように僕の脳内を蹂躙する。
「くあっ!?」
突然の、鋭い異質な刺激に、溶けかかった意識が覚醒させられた。
カリの部分を、甘噛みされたのだ。
彼女の歯は、不思議に柔らかく、それでいてしっかりと、モノに食い込み、過去に感じたことの無い独特の快感を伝えてくる。
ぴりぴりと、電気のように体をかける衝動に、僕の意識は押し流されていく。
「うふふ、よかったですかぁ?じゃあ、こんなのは?」
イライザは口づけをするように僕のモノに唇を当てると、すするような音を立てて、勢いよく吸い込んだ。
「うあああああっ!?」
思わず声を上げてしまう。
吸い出されるように、体の芯から何かが湧き上がってくる。
「いいこえ…。もっと、もっと…。」
彼女は恍惚と呟き、またしっかりと咥えなおす。
しゃぶり、舐め、吸い込み、噛み、彼女の快楽は確実に僕を征服していく。
それは執拗に、僕の頭の中にじんじんと鈍いショックを与えてくる。
体の奥から、外に向かって、熱いものが駆け上がる。
「はむ、ぴちゃ、ぺろ。」
もみくちゃにされたモノにはすでに血管が浮き、限界の近いことを伝えている。
「ひもひ、いい、れふか?」
声の振動さえも、絶頂を誘う武器となり、僕の局所に襲い掛かる。
と、突然、彼女が身を翻した。
いままで隠れていた、僕と彼女との接点が視界の中心に入った。
「はふぅ…。どうれすか?」
モノを頬張って膨らんだ頬、吸い込む唇、そして、レンズ越しにこちらを見つめる、上目遣いの、赤い瞳。
視覚イメージの追加により、最終ラインが一気に打ち破られる。
「…!!」
絶頂を伝えようにも、あまりの快感に言葉を発することも出来ない。
頭からつま先まで、衝撃が走る。
「んぶっ!?」
突然の放出だったために、噴出した白濁は飛び散るように口内から溢れ出す。
彼女の口からは白い筋。
雫が眼鏡のレンズを伝い、ぽとりと胸に出来た池へと落ちる。
イライザはそれを丁寧に掬い取ると、ゆっくり、大事そうに飲み干していく。
「はあああああああぁぁ…。おいしいですぅ…。」
夢見るような表情を浮かべる彼女。
たった今一仕事終え、地に伏していたモノが、その表情だけで再び奮い起こされる。
「あは、まだまだ元気ですね。」
とろんとした目で笑みを浮かべる彼女。
「じゃあ、こんどはこっちです。」
体を持ち上げ、ゆっくりと下腹部を開く彼女。そこには、赤く、テラテラと淫靡な輝きを放つ、人間の女性と同じものが、あった。
「Bさんから、入れてください。」
「いいのか?」
「はい。はやく…。もう、がまんできない…!」
彼女のすがる様な顔が、僕を追い立てる。
「…。分かった。行くよ。」
僕はそっと割れ目にモノをあてがうと、間髪を入れずに根元まで貫いた。
「ふっ、ふあああああああああああん!」
イライザは大きく喘ぎ、体を震わす。
どうやら、軽くイってしまったようだ。
とろとろに溶けた肉壁が僕を締め付け、形を変え、包み込む。
まるで、最初から僕のモノが収まるために開いた空間であるかのように。
動かしていないのにも関わらず、熱されるように高められていく。
「はぁ…!はぁ…!いい!いいのぉ!」
彼女が小刻みに腰を前後させる。
その動きは緩慢ではあるものの、確実に快感を伝えてくる。
「はあ、はあ、」
イライザは探るように、ゆっくり、じっくりとさまざまな角度からモノをしごく。
痺れるような感覚が、下半身に染み渡る。
ずるりと差し入れては、またゆっくりと引き抜く。
まるで快楽を出し渋るかのように、じっくりと。
モノが、脳が、体が、彼女を欲する。もっと、もっと激しく。
「おい、いくぞ。」
「はひ?」
彼女が慎重に招きいれようとしていたモノを、隙を突いて一気に突き上げる。
「はぁぁぁぁぁぁん!?」
彼女が上体をのけぞらせる。
そのまま僕は、貪るように彼女の大きな赤球に顔をうずめる。
「はっ、ちょっ、びー、さんっ、はげし、すぎっ…!」
そのまま、僕は彼女と腰を激しく打ち付けあう。
腰を突き出すたびに、その振動が伝わり、彼女の全身が振動した。
「はああっ、あんっ、ちょ、まっ…!あああああん!」
ぴんと張った彼女の胸を、まるでアイスクリームのように満遍なく嘗め回す。
「やっ、やめ、そこは、らめぇぇぇ!」
あまったもう一つをもぎ取るように揉む。掴んだ指の形に胸が凹み、僕の手のひらを受け止める。
「ああっ、はあ、やっ!ふあぁん!」
彼女の体が融けだす。胸を揉む手が、厚い粘液に覆われる。
ふと悪戯を思いつき、腰を止め、手を離す。
「はふぅ…。やぁ、やめないでぇ…。」
「大丈夫、もっと気持ちよくなるから。」
僕は腰の部分、接続部の上あたりを手探りで探す。
あったあった。
「なに、するんですかぁ…、きゃううう!?」
一瞬、何が起きたのか分からないというような顔をするイライザ。
そう、クリトリスをつまみ、思い切り引っ張ったのだ。
そのままコリコリと愛撫を続ける。
「はぁんっ!ひっ!はふっ!いいっ!そこぉ!もっと、いじっへぇ!」
彼女は見目麗しい顔を上気させながら身もだえする。
下腹部の突起への刺激に彼女の意識が集中する。
よし、今だ!
僕は素早く胸に舌を押し付ける。
ずぷ。
短い音と共に、僕の舌が彼女の胸の中に埋没する。
「ひ、ひやあああああぁぁぁ!?」
彼女の胸に忍び込ませた舌を、上下左右に動かす。
ゼリーの海を泳ぐような、不思議な感覚。
「い、いや、中から、なんて、はあぁん!」
片手でクリトリスを弄び、それに気をとられたところで、また胸の内部を舐める。
彼女の体が、ぴくり、ぴくりと小刻みに跳ねだす。
「は、はあ、だめ、また、また、」
仕上げだ。
空いた手を使って、彼女のしなやかなボディーラインを撫でる。
と同時に、クリトリスを思い切りひねり上げる。
「また、イっひゃううぅぅぅぅ!」
イライザの体が大きく飛び跳ね、中の締め付けはさらに激しくなった。
溢れた愛液が、突き刺さったままのモノを濡らす。
「び、びぃ、さん、ずるい、れすよぉ…。」
うつろな目で彼女は言う。
「わたし、ばっかり、イかせへぇ、ずるい…。」
鼻先までずり落ちた眼鏡が、彼女の荒い息に乗って小さく揺れる。
「おかえし、です。」
彼女は再び腰を振り出した。ただしさっきとは違う。明らかに、絶頂させることを目的とした、激しく、荒々しい動きだ。
「くぅ…、はっ、はぁ、きもちいいれすか?」
「うっ、く、ああ、気持ち、いいっ、な!」
負けじと応戦するも、劣勢気味だ。
武器も、技も、彼女に敵わない。みるみるうちにゴールがちらつき始める。
「はあ、はあ、かたくなって、ぴくぴくして、もうすぐれすね!」
見破られている。完璧な負け戦だ。
「おもいっきり、イかせて、きもちよく、させて、あげますからね…!」
彼女が淫靡ににっこりと笑う。
今すぐにでも放出したい衝動に、これでもかというほどに苛まれる。
ここまでか…?
その途端、また悪知恵が働きだす。
このままイかされるにしても、せめて一矢報いてやろうか。
僕は湧き上がる衝動に耐えつつ、彼女の耳元に口を当てる。
そして、そっと言う。
「この前の、イライザの寝顔、とっても、可愛かったよ。」
攻め立てる運動が、ピタッと静止する。
「そ、そ、そそそ、そ。」
彼女の顔が、元々の色を差し引いても明らかに分かるほどに真っ赤になっている。
「そういうの、反則じゃないですかぁぁぁ!」
その隙に、こっちからもう一発突き上げてやる。
「は、は、はああぁぁん!!」
彼女がまた腰を激しく前後させる。
「あっ、はっ、もうっ、びー、さんっ、たらっ!」
彼女の秘所から、とめどなく愛液が滴り落ちる。
「またっ、きもちよく、なっちゃったじゃ、ないれすかぁ!!」
彼女と僕の腰がぶつかり、不思議な水音が辺りに轟く。
辛抱の、限界だ。
「イライザっ、イくぞ!」
「きて!ぜんぶきて!B!」
その瞬間、目の前が、真っ白になる。
僕の全てが、イライザへと注ぎ込まれてゆく。
「きゃううううううううううううん!!」
彼女の体が、雷に打たれたように縮こまり、激しく痙攣する。
その赤く透き通った体が、放出された白濁によって徐々に染められていく。
僕のモノはなおも止まらず、何度も、何度も、彼女の中に溜まったものを吐き出し続けた。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…。」
お互いに、口が利けるようになるまで数分を要した。
「B、さん…。」
彼女がこっちを向いて微笑む。
「ありがとう、ございます…。」
「おいおい、お礼はおかしいだろ。むしろこっちが言うべきじゃないか?」
僕はいつもの調子で言う。
「いえ、お陰で体力も戻りましたし、本当にBさんがいなかったらどうなってた事か…。」
そういえば心なしか事前よりも肌、肌?肌が、つやつやしているような気がする。
表情も明らかにはつらつとした様子に戻っている。
「それに、その、び、Bさんの、その、それが、」
ぷいと恥ずかしそうに目をそらす。
「その、思ったより、大きくて、あの、昔見たのと違って、気持ちよくて…、」
そりゃな、小学生と比べて競り負けてたら、僕は泣くよ。
「あの、だから、ありがとうございます…。」
もじもじと上目づかいでこっちを見てくる。
それを見ているとどうにも、ね。
「じゃあ、お礼に、一つお願いを聞いてもらえないか?」
「おねがい?なんですか?」
僕はぴんと人差し指を立てる。
「す、」
「す?」
好きって言って、と言おうとして、止める。
こっちの方が、面白い。
「イライザが、僕を、どう思ってるか、教えて?」
ぴくっ、と反応する彼女。
「あ、あの、えーと、そのっ、それはっ!」
彼女の目が盛大に泳ぐ。
一瞬のうちに汗だく、というか融けだしている。
「そ、その…!」
「その?」
「…。言えません。」
ありゃ、逃げられた。
まあ、いいや。この慌てっぷりを見れただけで十分だ。
「あの!Bさんっ!」
「ん?」
イライザのほうに顔を向けた瞬間、息が苦しくなる。
口が、柔らかな何かで、塞がれていた。
つ、と、白い光の糸が渡り、切れる。
「な、何を!?」
突然の事態に、柄でもなくうろたえる僕。
「言えないので、答えの、代わりです。」
彼女が唇をぺろりと舐める。
「一回もらって、一回上げたので、これでチャラですよ。」
彼女が、ずれた眼鏡を直した。
「また、下さいね。」
可愛い。あまりにも。過剰なほどに。
今すぐにでも、上げたい。
僕はイライザにゆっくり顔を寄せる。
彼女は目を閉じて、それを受け入れようとする。
徐々に差がつまり、そして…。
と、こういうときに限って気付いちゃうんだよな。
「あ、時間。」
僕は時計を見る。
「やばい!あと三分しかない!」
「えええ!大変じゃないですか!」
「走るぞ!イライザ!」
「ま、待ってくださいよぉ!」
手をつないで、僕とイライザは勢いよく教室へと駆け戻る。
願わくば、僕が女子トイレから飛び出す様を、誰かに目撃されていませんように。
いやはや、知らなかったよ。
いや、確かにそう名前はついているのだが。
それでも、思いもよらなかった。
賢者タイムに、人がこんなにも賢者になれるとは。
頭の中の靄が取り払われ、詰め込んだ知識が注文に応じ、整然と運び出され、みるみる空欄が埋め立てられていく。
え?何?ブラ紐はどうなったって?
何を馬鹿な。
あんなものただの布ではないか。
かつて無い達成感と共に、午後の試験が幕を閉じる。
これが夢だったら、ショック死できるね。僕は。
「うーん。貴族の家の椅子に座ってしまうと、もう研究室の椅子など座れたものではないね。」
ウィギンス教授が、大きく背伸びをする。
「だからって、研究室で貴族様の椅子に座るわけにいかないでしょう。」
「え?」
教授がゆっくり立ち上がる。その後ろには、ニスでピカピカに磨かれ、今にも、どうです、クッションが効いているでしょう、と自慢をしてきそうな椅子があった。
「ああ、これ、貰ってきちゃった。」
厚顔無恥という言葉は教授にこそ相応しい。
「失礼な。」
だから、何者なんだよ。アナタは。心を読むな。
僕は今、教授の研究室に来ている。
見たことも無い言葉で彩られた背表紙が並ぶかと思えば、謎の模型や、奇妙な実験器具が転がっていたりする。それでも何度もここを訪れる僕にとっては居心地のいい場所だ。
「で、どうだったんですか?結果は。」
「ああ、」
教授は机の上から書類の束を取り上げ、ぱらぱらとめくる。
「まず、イライザ君の件だが、」
ごくり、
息を呑む。
「…。惜しかったよ。」
「え!?」
嘘だろ、おい。僕が、無理に家庭教師なんかさせたから、そんな。
「学年2位だ。」
うぉい!!死ぬかとおもったわ!
狙って言ったのか、ニヤニヤとしている。
いつか目の前のコイツの寝首を掻いてやろうと思う。
「彼女の就学は全く心配はいらないよ。資金繰りも何とかなった。」
「まさか子爵を脅してないですよね?」
「馬鹿な、そんな訳…、」
教授が天を仰ぐ。
「…無いじゃないか。」
「なんだ今の間は!?」
「それより君の話だ。」
逃げるように教授が再び手元の紙束を繰る。
再び空気が凍りつく。
「B…。」
教授がゆっくりと口を開く。
「やったぞB。喜べB。Bは一つも無かったぞB。おい聞いてるかB。」
ややこしいわ!わざとだろ!
「え、てことは…。」
「ああ、その通り。」
あれ、まさか、これは、
「やった、のか!?」
徐々に実感が湧いてくる。やった、僕はやったのだ。
教授がぱちぱちと手を叩いた。
「午後の教科に至ってはSがあったよ。一体何を吸った?」
「あいにくとシラフですよ。まあ、若干ステータス異常アイコンが出てたかもしれませんけどね。」
僕はにやりと笑う。
「と、いうことで、僕も晴れて進級です。またお会いしましょう。よい夏休みを!」
僕は軽快なステップで部屋を後にする。
はずだったが。
「教授…?何故襟元を掴むのですか?」
教授は返礼のようににやりと笑った。
「進級、できないのだよ。」
「はい!?」
僕の顔から全ての血液が引いていく。
「それは、まさか、Bは無かったけど、CやDはあったとかいう、アレですか…?」
「おいおい、僕をそんな子供じみたレトリックを言う男だと思うのか?」
言うでしょう。頻繁に。
「…。残念ながら、君の評価は最低でもAマイナスだった。」
「じゃあ、何で、」
というか、残念ながらって言った!?
「聞くが、B、君は、」
教授の目が、僕を見据える。
「僕の授業、出たことがあるか?」
心臓が口から飛び出そうになる。
やばい!動揺するな、平常心だ、平常心。
「な、な、な、な、何を、と、と、突然。」
ああ、もうダメだ僕は。
「…、何で分かったんですか?」
「代返でほかの教授は騙せても、僕はダメさ。僕は全ての生徒の声を暗記しているからね。」
だからアナタは何者なんだよ。
「と、いうことで、僕の授業分、単位が丸々無いんだな。」
「つまり…。」
僕の額を冷たい汗が伝う。
「落ち着け、B。なんにせよ落ち着くことだ。自分で落ちると思ったが最後、必ず墜落するからな。」
「嘘だろ!?」
「頑張れ、B二等兵!」
僕は床に崩れ落ちる。
「と、言いたいところだけどね。」
教授は僕を覗き込んで、言った。
「B、君は『特別指定学生補助士制度』って知ってるかい?」
聞きなれない単語に、僕はかぶりを振る。
「例えば、視力に問題がある子の代わりに、板書を書き写す、聴力に問題がある子の為に、先生の話をメモする、なんていう手伝いを学生にやってもらう訳なんだけど。」
教授の指がピンと跳ねる。
「それをイライザ君について申請するから、君がやってよ。」
「へ?」
話が掴めない。
「それで、その負担の代価として発生する単位を今年に前借りしてあげる。それで僕の授業分の単位が埋まるから、君は今度こそ、晴れて進級、ということだ。」
え、マジで!?
「どうかな?」
「あ、はい。分かりました。」
「じゃ、ここにサインして。」
言われたとおり、突き出された書類にサインをする。
狐につままれたような気分だ。
「はい、オッケー!」
ん?あれ?待てよ?
「何故イライザが申請を?彼女はどこも障害はないと思いますが。」
「うん、さっき彼女に来年度の計画表を見せてもらったんだけどね、どう考えても頑張りすぎだよ。止めたんだけど、聞かなくてね。アレじゃ体力が持たない。」
「まあ、イライザはちょっと無茶するところが…、ん?」
嫌な予感が全身を駆け巡る。
「まさか…。」
「まあ、ドリンクって高いからね。」
やっぱり―――!
教授が笑う、あの悪魔の笑みで、いや、悪魔もきっと恐れて近寄らないだろう。
「行け!B!BはBentoubakoのBだ!」
「弁当箱・ルーデンスですか僕は!?」
「安心したまえ、LはLunchboxのLさ。」
何を安心しろと!?
「ま、せいぜい、夏のうちにしっかり精を付けておきたまえ!」
教授が高らかに笑う。
もしかして、初めから全部計画の上だったのか!?
あながち違うとも思い切れない。
背中に何か冷たいものを感じつつ、僕は研究室を出た。
「どうでした!?」
「え?教授から聞いたんじゃないのか、2位だったって…。」
「そっちじゃないですよ!Bさん!」
「へ?ああ、うん。大丈夫。残れるよ。」
イライザがほっと肩を撫で下ろす。
「よかったぁぁ…。」
「え、そんなに心配かけるほどだったか!?僕は!?」
そんなにダメだったろうか。
「そうじゃないですけど、すっごい青い顔して部屋から出てきたんですもん。心配しますよ。」
ああ、納得。
「大丈夫、それは教授のせいだから。」
「へ?」
いや、分かんなくていいよ、まだね…。
「でも、良かったです!」
彼女がクルリと僕のほうを向く。
雲の隙間から、太陽が顔を出し、窓に日が差し込む。
「また、一緒に勉強できますね!」
彼女の笑顔が、ちょうど入ってきた日差しに照らされ、キラキラと輝く。
それを見ていると、なんだか妙な気分になる。
勉強のしすぎで少しおかしくなったのかもしれない。
新学期が、楽しみだなんてね。
「なあ、イライザ。」
僕は、彼女を見つめて言う。
「お祝いに、飲みに行こうか。また君の歌声が聞きたい。」
「う…、それは…。」
彼女が口をへの字に曲げる。
「頼むよ。『ご褒美』、あげるからさ。」
「あ、あの、その。」
彼女は、ちょっと慌てた後、僕に腕を絡めてきた。
「い、一曲だけですよ!」
本当に、可愛いな。
「び、Bさん、何を?」
僕は彼女の頭を撫でる。
「あのときみたいにさ、B。って呼んでよ。」
ああ。
「ちょっ!やめてくださいよ!もう。」
僕は、幸せ者だ。
今まで色々なことがあって、
これからも、あるだろう。
だけど、今は、君といるだけで、
途方もなく、幸せだ。
愛してるよ、マイ・フェア・レディ。
11/11/20 20:28更新 / 好事家
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