第七章 ナガレグモ
流れ者、変わり者、好き者。
人間だろうと獣だろうと妖だろうと、普通とズレた者 ズレてしまった者はいる。
もしくはズラされてしまった者。
自然に溶け込めるならいいのだが。
そう、猫に小判、鬼に金棒、刑部狸にそろばん。
何か違うか。
ともかく異物は排除されやすい。
でも、異物じゃない誰かが異物を先に受け入れてしまえば、異物は溶け込めるんじゃないか。
だからこそ、異物が排除されない事があるのだろう。
ある意味、そうしてできたのが、この町なんだ。
〜〜〜〜〜
私はその後事の顛末を松と毛娼妓殿に話していた。
「それで君は三人がかりで介護されて運ばれてきた訳だ。」
「賑やかですね。」
「うっせ。」
あの後無理した所為で腰を更に痛めて、もはや動ける状態ではなくなった。
その為三人がかりで運ばれている
「それで、その天使の方が・・・なんでここにいるんだ？」
「お構いなく。」
お前、茶菓子全部食い切った後に言うかよ。
なんだかんだで天使野郎がここにいる。
理由は二つ。
「力使い果たしたんで帰れなくなったんだと。」
「あらそれは・・・お茶を淹れてきますね。」
もう一つの理由は、こいつらには言えないな。
「お構いなく。」
空の茶器を置いて、言う。
茶、何杯飲むんだよ。
数えた限りでは5、6杯飲んでるぞ。
「はぁ・・・そうか、ならどうする？」
「巫女の嬢ちゃんの所にねじり込んだ、こいつはあいつしか扱えそうになさそうだし。」
じとっと見つめる、が。
「お構いなく。」
さっきから天使の嬢ちゃんは同じ事しか言わなくなっている。
「どうぞ、ふふ。」
天使の嬢ちゃんは運ばれてきた茶を、また飲み干した。
〜〜〜〜〜
いてて、あいててて、いて。
「もうちょっとゆっくり運んでくれ、頼むから。」
「うるさい。」
私は長い距離を歩けない、その為私が椅子に座ってそれを持ってもらっているが、揺れる。
この三人、相性悪いな、どう言う人選だ。
「なんで私がこんな事しなきゃなんないのよ・・・。」
「終盤気絶してたからってこんなのあんまりだよ・・・。」
「ところで・・・何故私も？」
琴理とリスの嬢ちゃんと天使の嬢ちゃん。
三人とも身長が違う、特に天使の嬢ちゃん、身長が違うから動く度にがったんがったんと激しく揺れる。
その度に腰から悲鳴が上がる。
しかし上から見ても全員包帯だらけだな。
「リスの嬢ちゃん、お前やっぱ気絶してたんだな、最後の方いなかったもんな。」
「体重軽いから思い切り吹き飛んで・・・頭打ったの。」
リスの嬢ちゃんは頭が包帯でぐるぐるに巻かれている、隙間から窮屈そうに耳が飛び出ていた。
「答えろ、何故私が貴様を運んでいるのだ。」
「お前の所為で色々と面倒起きたからだよ、本当に反省してんのか？」
あの変な兵士、どうやらこの天使の嬢ちゃんが作り出した幻影だったらしい。
質量を持つ幻影だとかなんとか。
天使の嬢ちゃんを巫女の嬢ちゃんが吹っ飛ばした辺りから兵士の方は消えたそうな。
「んで、何で私がこんな事してんのよ。」
「知らん。」
本当に何でだろうな、よく分からん。
なんか知らんが周囲が全力で琴理の事を推していた。
「青助の所寄ってくか、寝込んでるし。」
「何故貴様が指揮を執る？」
「いいから、まったく。」
なんでこんな事になったかね。
〜〜〜〜〜
青助の家にずかずか入り込む、私とリスの嬢ちゃん以外が。
つまり置いていかれた。
「お前ら、介護する気あんのか？」
私は杖を突いてその後を歩く、おーいていて。
「はる 悪い・・・約束・・・守れなかった。」
「赤尾・・・さん、赤尾さん！」
家の中で布団に寝る青助とその布団に泣きつく魚の嬢ちゃんがいた。
おい、私より程度軽いだろうが、何ぬかしてくれてんだ。
こっちは日常生活もままならないっての。
「うわ！？藤太郎さん！？と・・・は！？なんすかその面子は！？」
「俺が聞きてぇ、なんでだろうな。」
腰痛めて介護されてるってのだけで大分屈辱だってのに、なんで敵の御大将に介護されないといけないんだろうな。
「青助殿、この度は迷惑をかけた、すまん。」
「えーと・・・赤尾だよ、もう藤太郎さん！あんたの所為で誤解されてるじゃないですか！」
知らんわ。
「まー色々あったけど、別にいいっすよ楽しかったし、嫁もできたし。」
また魚の嬢ちゃんが顔を真っ赤にする、いい加減慣れろよ。
「そうか。」
そしてそれをさらりと流す天使の嬢ちゃん。
しかし一応謝って回ってるんだな、何か変なのは態度がでかいだけか。
「無事・・・か、行くぞお前ら。」
「ちょっとは心配してくれてもいいでしょ！？」
だって私よりはよっぽど平気そうだし、別に心配する必要もないだろ、他に回る所もあるし。
「うわ！？本当に行ったし！」
「赤尾・・・さん、うごけたんだ。」
あ、なんか魚の嬢ちゃん怒ってるな、あれは嘘ついてたなあいつ。
〜〜〜〜〜
次はアオオニの嬢ちゃんのいる詰所に来ていた。
全員集まってるみたいだな。
「この度は迷惑をかけた、すまん。」
ちょっとはひねれよ、さっきと言ってる事同じじゃねぇか。
なんつーか、いい意味でも悪い意味でも度を越した真面目なのか、こいつは。
「今回の件、人の被害だけだ、それも兵士もほぼ怪我はしていない、ほとんど決戦隊のみの負傷だ。」
「だからもう構わないよ、結局あたしはあんたと戦えなかったのが心残りだけどね。」
「めちゃくちゃ強いですぜこいつ、姉御でもキツいかもな。」
「えー？そう言えばサワギ戦ってる姿見れなかったんなよね！聞かせて聞かせて！」
アカオニ達がわいのわいのと騒ぎ出してしまった、しかし誰一人天使の嬢ちゃんを責めなかった。
皆気のいい奴らなんだよ。
「私を責めないのか？」
「責めないさ、だってもうあんたこの町の仲間だろ？」
その言葉に天使の嬢ちゃんは少し驚いた表情を浮かべて、微笑んだ。
その表情に私は色々と勘ぐったが、その内考えるのが面倒になった。
「何よその気持ち悪い笑顔。」
「いーや？馴染んだな、と思ってな。」
琴理の事も、リスの嬢ちゃんの事も、天使の嬢ちゃんの事も、誰も嫌がってはいなかった。
唯それが、嬉しかっただけだ。
「なぁおい、あんた酒はいける口かい？」
「接待もあるからな、嗜む程度には飲む。」
「おぉー！いいねー！どうだいその内一杯！」
おいおい大丈夫か、種族からこいつらの酒宴は参加するの大変だぜ。
アオオニとして特徴の所為で後片付けしかやった事ないけどな。
「おーら、出前だぞ。」
「お待たせしましたー！」
帰ろうとしたら茶屋のオヤジが丁度来たらしい、何やってんだ。
「出前始めたんだよ、わけぇもんには負けねぇ。」
「本当あんたはいつまでも元気だな。」
やれやれ、腰曲がってるってのに、今だけはその活力には尊敬するぜ。
「あ、そうだ、お前ら頑張ったんだってな、今度ウチこいよ、おまけしてやる。」
「言われなくても行くっつーの、あんたの茶屋には誰かしらいるしな。」
〜〜〜〜〜
「やぁ藤太郎君。」
「どうも〜。」
通りを歩いていると、話しかけられた。
医者殿が鰻の嬢ちゃんを抱えていた、半魚は大変だな。
小旅行か何かだろうか。
「邪魔させてもらってるよ。」
「いやはや、何と言うか・・・。」
私は今、複数人で持ち上げられて櫓の様になっている、恥ずかしいやら何やら。
「すまんなこんな状態で。」
「いや、構わんが・・・何故サワギまで？」
「たっけてー！色々あったのー！」
いや、これは私の趣味とかでなく今動けないから仕方なくだな。
「楽しそうでいいですね〜お祭りですか〜？」
「いやいや、御神体扱いとか嫌だわ、別に祭りとかじゃねぇよ、唯私が腰痛めてるから運んでもらってるだけだ。」
医者殿はなんだか呆れた様な表情を浮かべた。
「傷ではなく腰か・・・。」
「大分悪化しててな、いい加減引退するかね・・・。」
流石に今回の件で色々と経験した。
後を継いでこの町を守ってくれる奴は青助やら巫女の嬢ちゃんやら色々いる、だから。
「だとしたら後は隠居かね。」
医者殿は鰻の嬢ちゃんと目を合わせて、笑った。
「そう言う時は妖を嫁に貰うといい、文字通り全盛期に戻るぞ。」
「妖？そんな当て・・・。」
ある、下を見る。
何と言うかか、その。
リスの癖に野獣の瞳をしているのが一人、蜘蛛なのにめちゃくちゃ睨んでくるのが一人。
後なんか呆れているのが一人。
「どうやら〜脈あり〜みたいですね〜。」
「妖の嫁、か。」
割と洒落にならんかもな。
結構いい歳だしな、教え子も結婚した事だし。
そろそろ真面目に考えるか。
〜〜〜〜〜
最後に巫女の嬢ちゃんの所へ寄る、最後の締めだ。
「なぁ、藤た。」
「嫌だ。」
「まだ何も言ってないだろう！」
だって、言いたい事大概分かるし。
巫女の嬢ちゃんは立ち上がって暴れ出した。
「気まずいんだよぉ〜！何で相当大人しくなっているけれど、自分を殺した相手とまた暮らさなくちゃならないんだよぉ〜！」
「私は別に構わんが・・・。」
「いいだろ別に、前も一緒にいたんだろ？」
巫女の嬢ちゃんと天使の嬢ちゃんは師弟関係の頃に一緒に暮らしてたらしい、妥当な人選だと思うがな。
そしてこれが天使の嬢ちゃんを返さないもう一つの理由だ、これは私の勝手なのだがな、この二人は話し合うべきだ。
しかし巫女の嬢ちゃんは涙目の顔を近づけてきた。
「いつの話さ・・・もう随分前だよ・・・半世紀くらい。」
「懐かしいな、貴様が小さかった頃か。」
「よく分からんけど、他に天使の嬢ちゃんを置ける場所なんてあるか？私の所は琴理で手一杯だっての。」
巫女の嬢ちゃんは手を力一杯に叩く。
「そこを何とか！なんかサナに後ろに立たれると恐怖と言うか何と言うか・・・一瞬ぞくってするのぉ〜！」
本当にこいつ、あの時天使の嬢ちゃん相手に啖呵切った奴なのか、別人じゃないのか。
と言うか琴理の事を抜いても、まだ問題はある。
「お前らはもう一度、ちゃんと話し合うべきだろ、別の所移す前にしっかり話し合えよ。」
「そうか？」
ぐぬぬ、と言わんばかりに巫女の嬢ちゃんは頬を膨らまし始めた。
そんな顔したって、私は折れないぞ。
「しばらく、色々と整理できるまで・・・できるだけ顔を合わせたくないの。」
「お前なぁ・・・はぁ・・・。」
「まぁ別の所に行けと言われれば行くが・・・。」
それだけ嫌か、確かに私も死んで生き返ったと仮定しても殺した相手が家に居座るのは嫌だな。
「しょうがない・・・のか？どう思う琴理。」
「はぁ？知らない・・・って言いたいけど、私もこいつに家にいられるの嫌よ。」
「何でだ？」
あ、そう言えばそうだ、琴理もこいつに殺された様なものだ。
だったら。
「耐えろ山々山々山田。」
「何だいそのすごく険しそうな山田は、耐えろったってね！唯殺された相手じゃなくて！信じてたのに決別して！その後殺しにきた奴だよ！無理無理無理無理！ぜぇーったい無理！」
「なぁ、なんで皆私を無視するのだ？聞こえているか？私の声が。」
どんだけ嫌なんだよ、こいつ。
でも、話し合わなくてはお互いの事は分からないだろうが。
「わ、私も、藤ちゃんの所がいいかなーなんて・・・むぎゅ。」
「確かに、藤氏の元でなら退屈はしないだろうな。」
リスの嬢ちゃんの頬をまた琴理は突いていた。
だから二人ですら狭いのに三人とか無理だっての。
「じゃあ私は帰るから、後は頑張れ。」
「待って、待って待って、お願い、待って！」
がっしりと肩を掴まれた、私も全力で帰ろうとする。
「ふ、ふふ！掴んだ！掴んだよ！このままサナを連れて行かなかったら・・・藤太郎さんの精を全て吸い取ってやる・・・。」
「おい！マリ！？」
私の肩を掴んだ手が青く光り出した、これあの時の。
「てめぇ！？裏切るのか！？」
「そうだぞ！またこの私を裏切るか！？」
「ふははは！拒否した場合私の魔力を藤太郎さんに流し込んで強制的に僕の夫にしてくれるわ！」
「あんた・・・この！」
琴理が刀を抜こうとした、しかしそれを巫女の嬢ちゃんが片手を止めた。
「いくら魔物とはいえ琴理、君が刀を振る速度と僕の吸精、どちらが早いかな？むしろ藤太郎さんが干からびるかもよ？」
「馬鹿者！すぐ藤氏を離せ！」
「ぐっ・・・あんたなんでそんな悪役ヅラ似合うのよ・・・。」
「え？えー・・・。」
なんでそこで凹むんだよ、こんな事しておいて凹むなよ。
「とーにーかーく！サナを引き取ってくださいお願いします！」
「脅迫じゃねぇか！強制的に夫って！お前はそれでいいのかよ！？」
「マリ！私の話を聞け！」
そしたら何故か巫女の嬢ちゃんは顔を赤らめた。
長い付き合いだが初めて見たぞそんな顔。
「えーと・・・それ女の子に言わせるの？藤太郎さん。」
「気持ち悪！？女の子って歳じゃねぇだろ、うわぁぁあ！おまっ！？ちょっと吸ったろ、今！？」
「藤太郎さんが失礼な事を言う・・・か、ら。」
巫女の嬢ちゃんの勢いは急激に下がっていった。
それは琴理の泣き顔が、巫女の嬢ちゃんの目に映ったからだ。
「離して・・・。」
ぽろぽろと琴理は泣いている、そして巫女の嬢ちゃんを睨みつけた。
「離してよぉ！そいつは・・・そいつには！自分で選ばせて、ぐずっ、あげたいの！」
「琴理・・・。」
琴理はそんな事を考えていたのか、私は。
「なぁ君・・・我が愛弟子がしばらく会わない内に師匠を無視してかつ人質を取るような下衆になっていた・・・。」
「まーまーそんな事もあるって、私も完全にこの空気の中だと邪魔者だし。」
台無しだ、せっかく深刻な空気だったのに。
巫女の嬢ちゃんは光を消して肩から手を離した。
「・・・ごめん。」
「ぐずっ、もうすんな。」
そして琴理は私の手をとって、巫女の嬢ちゃんから離した。
「帰るわよ、もう夕ご飯の時間じゃない。」
「あ、あぁ。」
進んでいく琴理に引っ張られていく、巫女の嬢ちゃんは自分の手をじっと見ていた。
そして琴理が戸を閉めた。
〜〜〜〜〜
いつも通りの道を歩く。
いつも通りじゃないのは、私が杖を突いている事と、隣に琴理がいる事。
「おお、見ろ羊雲だ。」
「羊雲？」
「空のあの雲、羊がたくさんいる様に見えるだろ？」
雲は変わらずに流れる、群れている様でそうでなくて、同じ方向に向かっている。
「この町みたいね、皆バラバラに見えて、皆同じ、馬鹿みたいにまっすぐ走ってる。」
「はは、そうだな。」
笑った拍子に腰に少し負担が、いてて。
「あの雲、流れてく先に何があるかしらね。」
「何もないって事はないだろう、何かあるから流れてるんじゃなくて、何かあると信じてるから流れてんだ。」
知ってる道はつまらない、だから違う道を行く。
そして皆が同じ事を考えていて、結果同じ方向に流れる。
「馬鹿みたい、本当。」
「お前ももう、その馬鹿の一人なんだよ、この町の住民は皆そうだ、お前は闇蜘蛛なんかじゃなく、流木の町の琴理だからな。」
琴理は笑った、いつもみたいに。
大衆の中で大声で。
「あはは！あっはっは！そうね！私も同じ馬鹿よ！」
流れる人達も琴理を見て笑っている。
あざ笑っているのではなく、釣られて笑っているのだ。
「はっー・・・それじゃあ私はあの雲と同じなの？」
「そう、ナガレグモ。」
にやりと上手い事をいったつもりでしたたかに笑う、しかし私の隣を琴理は通り過ぎて行った。
「上手くないわよ、全然。」
「そうか？」
私も急いで琴理の後を追う、その後ろ姿はとても、とても楽しそうだった。
釣られて私も少し気分が良くなる、貶されたのにな。
「ねぇ、藤。」
「なんだ。」
「私に、刀の使い方教えて。」
意外も意外、琴理は振り向いた。
そんな真剣な顔されれば、断れないだろうが。
「分かった、どうせ私は隠居まっしぐら人生だもんな。」
目線を下げて頭を掻く、そして視線を上げると。
「約束、ね？」
琴理の顔があった。
否応なしに琴理の顔を直視する事になる。
どきりと心臓が鼓動を頭に伝えた。
「ちけぇよ、あぁ約束だ。」
「ふふ、破んないでよ！」
そう言って琴理は離れて行った。
小僧じゃないんだから、あれくらいで動揺してどうする、私。
いや、あれは反則だ。
〜〜〜〜〜
次の日、隣で寝ている琴理を起こさない様に起きる。
そして適当な場所に手を突いたら。
やたら柔らかい物に指が沈み込んだ。
「ん・・・藤氏？何をしている。」
それは、何故か隣で寝ていた天使の嬢ちゃんの、胸だった。
「な！？にをしている？天使の嬢ちゃんよ。」
「昨日色々とマリと話した後追い出された、しばらくよろしく頼む。」
どうやら、まだ騒動は続くらしい。
人間だろうと獣だろうと妖だろうと、普通とズレた者 ズレてしまった者はいる。
もしくはズラされてしまった者。
自然に溶け込めるならいいのだが。
そう、猫に小判、鬼に金棒、刑部狸にそろばん。
何か違うか。
ともかく異物は排除されやすい。
でも、異物じゃない誰かが異物を先に受け入れてしまえば、異物は溶け込めるんじゃないか。
だからこそ、異物が排除されない事があるのだろう。
ある意味、そうしてできたのが、この町なんだ。
〜〜〜〜〜
私はその後事の顛末を松と毛娼妓殿に話していた。
「それで君は三人がかりで介護されて運ばれてきた訳だ。」
「賑やかですね。」
「うっせ。」
あの後無理した所為で腰を更に痛めて、もはや動ける状態ではなくなった。
その為三人がかりで運ばれている
「それで、その天使の方が・・・なんでここにいるんだ？」
「お構いなく。」
お前、茶菓子全部食い切った後に言うかよ。
なんだかんだで天使野郎がここにいる。
理由は二つ。
「力使い果たしたんで帰れなくなったんだと。」
「あらそれは・・・お茶を淹れてきますね。」
もう一つの理由は、こいつらには言えないな。
「お構いなく。」
空の茶器を置いて、言う。
茶、何杯飲むんだよ。
数えた限りでは5、6杯飲んでるぞ。
「はぁ・・・そうか、ならどうする？」
「巫女の嬢ちゃんの所にねじり込んだ、こいつはあいつしか扱えそうになさそうだし。」
じとっと見つめる、が。
「お構いなく。」
さっきから天使の嬢ちゃんは同じ事しか言わなくなっている。
「どうぞ、ふふ。」
天使の嬢ちゃんは運ばれてきた茶を、また飲み干した。
〜〜〜〜〜
いてて、あいててて、いて。
「もうちょっとゆっくり運んでくれ、頼むから。」
「うるさい。」
私は長い距離を歩けない、その為私が椅子に座ってそれを持ってもらっているが、揺れる。
この三人、相性悪いな、どう言う人選だ。
「なんで私がこんな事しなきゃなんないのよ・・・。」
「終盤気絶してたからってこんなのあんまりだよ・・・。」
「ところで・・・何故私も？」
琴理とリスの嬢ちゃんと天使の嬢ちゃん。
三人とも身長が違う、特に天使の嬢ちゃん、身長が違うから動く度にがったんがったんと激しく揺れる。
その度に腰から悲鳴が上がる。
しかし上から見ても全員包帯だらけだな。
「リスの嬢ちゃん、お前やっぱ気絶してたんだな、最後の方いなかったもんな。」
「体重軽いから思い切り吹き飛んで・・・頭打ったの。」
リスの嬢ちゃんは頭が包帯でぐるぐるに巻かれている、隙間から窮屈そうに耳が飛び出ていた。
「答えろ、何故私が貴様を運んでいるのだ。」
「お前の所為で色々と面倒起きたからだよ、本当に反省してんのか？」
あの変な兵士、どうやらこの天使の嬢ちゃんが作り出した幻影だったらしい。
質量を持つ幻影だとかなんとか。
天使の嬢ちゃんを巫女の嬢ちゃんが吹っ飛ばした辺りから兵士の方は消えたそうな。
「んで、何で私がこんな事してんのよ。」
「知らん。」
本当に何でだろうな、よく分からん。
なんか知らんが周囲が全力で琴理の事を推していた。
「青助の所寄ってくか、寝込んでるし。」
「何故貴様が指揮を執る？」
「いいから、まったく。」
なんでこんな事になったかね。
〜〜〜〜〜
青助の家にずかずか入り込む、私とリスの嬢ちゃん以外が。
つまり置いていかれた。
「お前ら、介護する気あんのか？」
私は杖を突いてその後を歩く、おーいていて。
「はる 悪い・・・約束・・・守れなかった。」
「赤尾・・・さん、赤尾さん！」
家の中で布団に寝る青助とその布団に泣きつく魚の嬢ちゃんがいた。
おい、私より程度軽いだろうが、何ぬかしてくれてんだ。
こっちは日常生活もままならないっての。
「うわ！？藤太郎さん！？と・・・は！？なんすかその面子は！？」
「俺が聞きてぇ、なんでだろうな。」
腰痛めて介護されてるってのだけで大分屈辱だってのに、なんで敵の御大将に介護されないといけないんだろうな。
「青助殿、この度は迷惑をかけた、すまん。」
「えーと・・・赤尾だよ、もう藤太郎さん！あんたの所為で誤解されてるじゃないですか！」
知らんわ。
「まー色々あったけど、別にいいっすよ楽しかったし、嫁もできたし。」
また魚の嬢ちゃんが顔を真っ赤にする、いい加減慣れろよ。
「そうか。」
そしてそれをさらりと流す天使の嬢ちゃん。
しかし一応謝って回ってるんだな、何か変なのは態度がでかいだけか。
「無事・・・か、行くぞお前ら。」
「ちょっとは心配してくれてもいいでしょ！？」
だって私よりはよっぽど平気そうだし、別に心配する必要もないだろ、他に回る所もあるし。
「うわ！？本当に行ったし！」
「赤尾・・・さん、うごけたんだ。」
あ、なんか魚の嬢ちゃん怒ってるな、あれは嘘ついてたなあいつ。
〜〜〜〜〜
次はアオオニの嬢ちゃんのいる詰所に来ていた。
全員集まってるみたいだな。
「この度は迷惑をかけた、すまん。」
ちょっとはひねれよ、さっきと言ってる事同じじゃねぇか。
なんつーか、いい意味でも悪い意味でも度を越した真面目なのか、こいつは。
「今回の件、人の被害だけだ、それも兵士もほぼ怪我はしていない、ほとんど決戦隊のみの負傷だ。」
「だからもう構わないよ、結局あたしはあんたと戦えなかったのが心残りだけどね。」
「めちゃくちゃ強いですぜこいつ、姉御でもキツいかもな。」
「えー？そう言えばサワギ戦ってる姿見れなかったんなよね！聞かせて聞かせて！」
アカオニ達がわいのわいのと騒ぎ出してしまった、しかし誰一人天使の嬢ちゃんを責めなかった。
皆気のいい奴らなんだよ。
「私を責めないのか？」
「責めないさ、だってもうあんたこの町の仲間だろ？」
その言葉に天使の嬢ちゃんは少し驚いた表情を浮かべて、微笑んだ。
その表情に私は色々と勘ぐったが、その内考えるのが面倒になった。
「何よその気持ち悪い笑顔。」
「いーや？馴染んだな、と思ってな。」
琴理の事も、リスの嬢ちゃんの事も、天使の嬢ちゃんの事も、誰も嫌がってはいなかった。
唯それが、嬉しかっただけだ。
「なぁおい、あんた酒はいける口かい？」
「接待もあるからな、嗜む程度には飲む。」
「おぉー！いいねー！どうだいその内一杯！」
おいおい大丈夫か、種族からこいつらの酒宴は参加するの大変だぜ。
アオオニとして特徴の所為で後片付けしかやった事ないけどな。
「おーら、出前だぞ。」
「お待たせしましたー！」
帰ろうとしたら茶屋のオヤジが丁度来たらしい、何やってんだ。
「出前始めたんだよ、わけぇもんには負けねぇ。」
「本当あんたはいつまでも元気だな。」
やれやれ、腰曲がってるってのに、今だけはその活力には尊敬するぜ。
「あ、そうだ、お前ら頑張ったんだってな、今度ウチこいよ、おまけしてやる。」
「言われなくても行くっつーの、あんたの茶屋には誰かしらいるしな。」
〜〜〜〜〜
「やぁ藤太郎君。」
「どうも〜。」
通りを歩いていると、話しかけられた。
医者殿が鰻の嬢ちゃんを抱えていた、半魚は大変だな。
小旅行か何かだろうか。
「邪魔させてもらってるよ。」
「いやはや、何と言うか・・・。」
私は今、複数人で持ち上げられて櫓の様になっている、恥ずかしいやら何やら。
「すまんなこんな状態で。」
「いや、構わんが・・・何故サワギまで？」
「たっけてー！色々あったのー！」
いや、これは私の趣味とかでなく今動けないから仕方なくだな。
「楽しそうでいいですね〜お祭りですか〜？」
「いやいや、御神体扱いとか嫌だわ、別に祭りとかじゃねぇよ、唯私が腰痛めてるから運んでもらってるだけだ。」
医者殿はなんだか呆れた様な表情を浮かべた。
「傷ではなく腰か・・・。」
「大分悪化しててな、いい加減引退するかね・・・。」
流石に今回の件で色々と経験した。
後を継いでこの町を守ってくれる奴は青助やら巫女の嬢ちゃんやら色々いる、だから。
「だとしたら後は隠居かね。」
医者殿は鰻の嬢ちゃんと目を合わせて、笑った。
「そう言う時は妖を嫁に貰うといい、文字通り全盛期に戻るぞ。」
「妖？そんな当て・・・。」
ある、下を見る。
何と言うかか、その。
リスの癖に野獣の瞳をしているのが一人、蜘蛛なのにめちゃくちゃ睨んでくるのが一人。
後なんか呆れているのが一人。
「どうやら〜脈あり〜みたいですね〜。」
「妖の嫁、か。」
割と洒落にならんかもな。
結構いい歳だしな、教え子も結婚した事だし。
そろそろ真面目に考えるか。
〜〜〜〜〜
最後に巫女の嬢ちゃんの所へ寄る、最後の締めだ。
「なぁ、藤た。」
「嫌だ。」
「まだ何も言ってないだろう！」
だって、言いたい事大概分かるし。
巫女の嬢ちゃんは立ち上がって暴れ出した。
「気まずいんだよぉ〜！何で相当大人しくなっているけれど、自分を殺した相手とまた暮らさなくちゃならないんだよぉ〜！」
「私は別に構わんが・・・。」
「いいだろ別に、前も一緒にいたんだろ？」
巫女の嬢ちゃんと天使の嬢ちゃんは師弟関係の頃に一緒に暮らしてたらしい、妥当な人選だと思うがな。
そしてこれが天使の嬢ちゃんを返さないもう一つの理由だ、これは私の勝手なのだがな、この二人は話し合うべきだ。
しかし巫女の嬢ちゃんは涙目の顔を近づけてきた。
「いつの話さ・・・もう随分前だよ・・・半世紀くらい。」
「懐かしいな、貴様が小さかった頃か。」
「よく分からんけど、他に天使の嬢ちゃんを置ける場所なんてあるか？私の所は琴理で手一杯だっての。」
巫女の嬢ちゃんは手を力一杯に叩く。
「そこを何とか！なんかサナに後ろに立たれると恐怖と言うか何と言うか・・・一瞬ぞくってするのぉ〜！」
本当にこいつ、あの時天使の嬢ちゃん相手に啖呵切った奴なのか、別人じゃないのか。
と言うか琴理の事を抜いても、まだ問題はある。
「お前らはもう一度、ちゃんと話し合うべきだろ、別の所移す前にしっかり話し合えよ。」
「そうか？」
ぐぬぬ、と言わんばかりに巫女の嬢ちゃんは頬を膨らまし始めた。
そんな顔したって、私は折れないぞ。
「しばらく、色々と整理できるまで・・・できるだけ顔を合わせたくないの。」
「お前なぁ・・・はぁ・・・。」
「まぁ別の所に行けと言われれば行くが・・・。」
それだけ嫌か、確かに私も死んで生き返ったと仮定しても殺した相手が家に居座るのは嫌だな。
「しょうがない・・・のか？どう思う琴理。」
「はぁ？知らない・・・って言いたいけど、私もこいつに家にいられるの嫌よ。」
「何でだ？」
あ、そう言えばそうだ、琴理もこいつに殺された様なものだ。
だったら。
「耐えろ山々山々山田。」
「何だいそのすごく険しそうな山田は、耐えろったってね！唯殺された相手じゃなくて！信じてたのに決別して！その後殺しにきた奴だよ！無理無理無理無理！ぜぇーったい無理！」
「なぁ、なんで皆私を無視するのだ？聞こえているか？私の声が。」
どんだけ嫌なんだよ、こいつ。
でも、話し合わなくてはお互いの事は分からないだろうが。
「わ、私も、藤ちゃんの所がいいかなーなんて・・・むぎゅ。」
「確かに、藤氏の元でなら退屈はしないだろうな。」
リスの嬢ちゃんの頬をまた琴理は突いていた。
だから二人ですら狭いのに三人とか無理だっての。
「じゃあ私は帰るから、後は頑張れ。」
「待って、待って待って、お願い、待って！」
がっしりと肩を掴まれた、私も全力で帰ろうとする。
「ふ、ふふ！掴んだ！掴んだよ！このままサナを連れて行かなかったら・・・藤太郎さんの精を全て吸い取ってやる・・・。」
「おい！マリ！？」
私の肩を掴んだ手が青く光り出した、これあの時の。
「てめぇ！？裏切るのか！？」
「そうだぞ！またこの私を裏切るか！？」
「ふははは！拒否した場合私の魔力を藤太郎さんに流し込んで強制的に僕の夫にしてくれるわ！」
「あんた・・・この！」
琴理が刀を抜こうとした、しかしそれを巫女の嬢ちゃんが片手を止めた。
「いくら魔物とはいえ琴理、君が刀を振る速度と僕の吸精、どちらが早いかな？むしろ藤太郎さんが干からびるかもよ？」
「馬鹿者！すぐ藤氏を離せ！」
「ぐっ・・・あんたなんでそんな悪役ヅラ似合うのよ・・・。」
「え？えー・・・。」
なんでそこで凹むんだよ、こんな事しておいて凹むなよ。
「とーにーかーく！サナを引き取ってくださいお願いします！」
「脅迫じゃねぇか！強制的に夫って！お前はそれでいいのかよ！？」
「マリ！私の話を聞け！」
そしたら何故か巫女の嬢ちゃんは顔を赤らめた。
長い付き合いだが初めて見たぞそんな顔。
「えーと・・・それ女の子に言わせるの？藤太郎さん。」
「気持ち悪！？女の子って歳じゃねぇだろ、うわぁぁあ！おまっ！？ちょっと吸ったろ、今！？」
「藤太郎さんが失礼な事を言う・・・か、ら。」
巫女の嬢ちゃんの勢いは急激に下がっていった。
それは琴理の泣き顔が、巫女の嬢ちゃんの目に映ったからだ。
「離して・・・。」
ぽろぽろと琴理は泣いている、そして巫女の嬢ちゃんを睨みつけた。
「離してよぉ！そいつは・・・そいつには！自分で選ばせて、ぐずっ、あげたいの！」
「琴理・・・。」
琴理はそんな事を考えていたのか、私は。
「なぁ君・・・我が愛弟子がしばらく会わない内に師匠を無視してかつ人質を取るような下衆になっていた・・・。」
「まーまーそんな事もあるって、私も完全にこの空気の中だと邪魔者だし。」
台無しだ、せっかく深刻な空気だったのに。
巫女の嬢ちゃんは光を消して肩から手を離した。
「・・・ごめん。」
「ぐずっ、もうすんな。」
そして琴理は私の手をとって、巫女の嬢ちゃんから離した。
「帰るわよ、もう夕ご飯の時間じゃない。」
「あ、あぁ。」
進んでいく琴理に引っ張られていく、巫女の嬢ちゃんは自分の手をじっと見ていた。
そして琴理が戸を閉めた。
〜〜〜〜〜
いつも通りの道を歩く。
いつも通りじゃないのは、私が杖を突いている事と、隣に琴理がいる事。
「おお、見ろ羊雲だ。」
「羊雲？」
「空のあの雲、羊がたくさんいる様に見えるだろ？」
雲は変わらずに流れる、群れている様でそうでなくて、同じ方向に向かっている。
「この町みたいね、皆バラバラに見えて、皆同じ、馬鹿みたいにまっすぐ走ってる。」
「はは、そうだな。」
笑った拍子に腰に少し負担が、いてて。
「あの雲、流れてく先に何があるかしらね。」
「何もないって事はないだろう、何かあるから流れてるんじゃなくて、何かあると信じてるから流れてんだ。」
知ってる道はつまらない、だから違う道を行く。
そして皆が同じ事を考えていて、結果同じ方向に流れる。
「馬鹿みたい、本当。」
「お前ももう、その馬鹿の一人なんだよ、この町の住民は皆そうだ、お前は闇蜘蛛なんかじゃなく、流木の町の琴理だからな。」
琴理は笑った、いつもみたいに。
大衆の中で大声で。
「あはは！あっはっは！そうね！私も同じ馬鹿よ！」
流れる人達も琴理を見て笑っている。
あざ笑っているのではなく、釣られて笑っているのだ。
「はっー・・・それじゃあ私はあの雲と同じなの？」
「そう、ナガレグモ。」
にやりと上手い事をいったつもりでしたたかに笑う、しかし私の隣を琴理は通り過ぎて行った。
「上手くないわよ、全然。」
「そうか？」
私も急いで琴理の後を追う、その後ろ姿はとても、とても楽しそうだった。
釣られて私も少し気分が良くなる、貶されたのにな。
「ねぇ、藤。」
「なんだ。」
「私に、刀の使い方教えて。」
意外も意外、琴理は振り向いた。
そんな真剣な顔されれば、断れないだろうが。
「分かった、どうせ私は隠居まっしぐら人生だもんな。」
目線を下げて頭を掻く、そして視線を上げると。
「約束、ね？」
琴理の顔があった。
否応なしに琴理の顔を直視する事になる。
どきりと心臓が鼓動を頭に伝えた。
「ちけぇよ、あぁ約束だ。」
「ふふ、破んないでよ！」
そう言って琴理は離れて行った。
小僧じゃないんだから、あれくらいで動揺してどうする、私。
いや、あれは反則だ。
〜〜〜〜〜
次の日、隣で寝ている琴理を起こさない様に起きる。
そして適当な場所に手を突いたら。
やたら柔らかい物に指が沈み込んだ。
「ん・・・藤氏？何をしている。」
それは、何故か隣で寝ていた天使の嬢ちゃんの、胸だった。
「な！？にをしている？天使の嬢ちゃんよ。」
「昨日色々とマリと話した後追い出された、しばらくよろしく頼む。」
どうやら、まだ騒動は続くらしい。
17/04/18 21:40更新 / ノエル=ローヒツ
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