読切小説
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エルフと核戦争後の世界

銃を撃ち合う音が聞こえる。
パン、パンと響く。撃鉄、引き金、落ちる薬莢、倒れる人と人でないモノ。
やがて、人でないモノはまだ生きていた人を気絶させると何処かへ持って行った。
銃跡が刻まれた家。息を無くした人、人でないモノ。そして、風に吹かれる薬莢。
血が大地を濡らす。
ただそれだけが残った。








エルフ。人間の敵対種族である。
彼女たちはこの大地に自然を取り戻し、それを永遠のものとしようとしている。
復活した自然を改めて管理し、その恵みを全て平等に配分。それこそが、唯一の道であると信じているのだ。
だが、その全ての中に人間は入っていない。
全ての「新生物」に平等に配分。
体躯の大きい者や輝かしい経歴を持つ者には多く。
そうでない者には少なく。
飽食、贅沢、その他恵みを無駄にするような「人間」の悪しき習慣を全て排除して、「新生物」の楽園を築く。
彼女たちエルフの理想とはそういうものでしかない。

故に、人間との激突は必至と言えよう。
エルフは人間という「種族」を見下し、人間の多くはエルフを「野蛮」だと言い放つ。
曰く、人間は自らのことしか考えず旧世界を壊した。存在する価値無し、と。
曰く、エルフは他の種族を認めず自分たちが新世界の支配者であるかのように振舞っている。これを傲慢であり野蛮であると言わずして何と言おうか。
こうしてエルフと人間の戦争は始まり、このようにして今もなお続いている。








エルフの集落は森、別名「ドリアードの集落」のすぐ傍にある。
森の中ではない。それには二つ理由があり、一つは自然に対して失礼であると考えているから。
もう一つは、自然の中に人間を入れてはならないという使命感から。
そして彼女たちは木を、ドリアードを切らない。
人間が旧世界で作った家の残骸も使わない。
そのため、彼女たちの「家」は岩を積み上げたものとなっている。
比較的大きくて平べったい岩を何個も積み重ねていく、ただそれだけの家。
彼女たちの集落は分かりやすい。森の傍に何やら岩の塊が大量にあったら、それだ。

この集落は、各地に点在しているエルフの集落の中でも中々に大きなものだ。
いまやエルフの数は数百にも昇り、銃や弾丸といった武器も豊富に揃えられている。
惜しむらくは、集落の急激の巨大化によって防壁の用意ができていないことだが防戦となる心配はほぼ無いだろう。
何故なら、このエルフの集落は近辺に存在する様々な集落の中でも際立って大きく、他の集落の攻撃力ではたとえ防壁が無くともどうしようも無いからだ。
人間も、人間に味方するような種族も。
どの集落にもここを攻撃するような力は無い。
エルフ達はまさしく、この近辺の王となっていた。












そして、その集落に大量の人間が運び入れられた。
エルフの狩りによって得られた、「獲物」だ。
彼らは一人の例外も無く牢に入れられる。
通常のエルフの家より大きめで、扉の代わりとなる大岩が用意されただけの形だけの牢ではあるが、少なくとも脱走の危険性は無い。
そして、牢に入れられた人間は毎日休むことなくその精を絞られることになる。



「ひぎいいああああぁぁぁ!!やめっ!あああああがあやああああああ!!」
「黙れ。さっさとイけ」

すでに二回も射精した男のアレを、エルフが嫌悪感を顕にした表情で激しく扱く。
男を気持ちよくするための技巧など一切無く、男に対する気遣いが一片も見られない、ただ射精させるためだけの手淫。
手袋をはめ、竿を強く握り、前後に素早く動かす。ただそれだけ。
情を交わしたとか、そういったものではなく、エルフにとってはただの作業。
故に、男の苦痛や叫びも関係ない。ただ決められた回数だけ射精させればそれでいい。

「いいいあいっがああがああああ!!いだい!やべ、やああああああああべてえええええええええ!!」
「………」
「やべてえええええええ!!うぎいいいいいいあいいあいあいあいあああああ!!」

そして射精がようやく訪れる。
真っ直ぐに精が飛び出し、エルフの持っていた器の中に入る。
射精が終り一滴も精が出なくなったら、ようやくエルフの搾精は終わりを告げる。
股間を握りながら涙を流し続ける男を尻目に、エルフは器にフタをして牢からでていった。








彼女は集落を出て、森にまで足を運んだ。
そして、その中にいるドリアードの一匹に器を差し出しながら声をかける。

「ドリアード「エルフィネ」。さあ、食事を持ってきたぞ」
「あらあら、ありがとうございますわ、エルフさん。
 ところで………」
「人間から直接食べたい………と言うのは駄目だぞ」
「でも、直接頂いたほうが美味………なの、です、が。そのぉ………」
「駄目だ。人間はお前たちから奪うことしか考えてない。
 私たちはお前たちのことを考えて言っているんだ」
「………はい、そうですか」

このような会話はここ以外でも、森の中各地で見られていた。
人間に会いたい、果実を人間に食べてもらいたい、種を人間に埋めてもらいたい。そのように主張するドリアード。
対してエルフはこう言う。「人間は駄目だ。全て私たちがする。お前たちは種を作ることに専念してくれ」と。
ドリアードにとっては果実と種は、人間と共に作るモノ。
ただ精だけ与えられてもたしかに作ることはできるが、満足には程遠い。
一方エルフはドリアードのことを、人間の醜さを知らない世間知らずと考えている。
そんなドリアードを自分たちが守らなければと、使命感も持っている。
結局、この二種族間の会話は常に平行線であった。

「では、私はもう行くよ。「エルフィネ」、またな」
「………「エルフィネ」ではなく、ドリアードですわ」








そのように日々を過ごしていたエルフ達であったが、ある日この生活が崩壊することになる。
その日もいつものように、強い日が照りつける昼が訪れていた。
今日もこのまま一日が過ぎていくのだろうと、エルフの誰もが思っていた。
しかし、そうはならなかった。
突然であった。集落の円周部分にいた者は何が起きたのかすら分からず、死んだことだろう。

「急げ!奴らが武器を用意する前にできるだけ殺すんだ!」
「どんどん殺せ!見つけ次第だ!」
「撃て撃てええええ!全部撃ちつくしてもかまわん!」

人間が攻めてきた。
人間と一緒に住んでいた、ゴブリンが攻めてきた。
人間に飼われている、ホルスタウロスが攻めてきた。
かつてドリアードの森に住んでいた、ワーキャットが攻めてきた。
理想を理解しようともしなかった、ダークエルフが攻めてきた。
森を守る仲間だと思っていた、フェアリーが攻めてきた。
攻めてきた。攻めてきた。攻めてきた。攻めてきた。攻めてきた。

エルフの集落を除いた全ての集落が、一致団結し攻めてきた。



エルフの集落は程なくして落ちた。








かつてエルフの集落と呼ばれていた場所があった。
いまやそこは市場と、そう呼ばれている。
エルフを滅ぼすために団結した者達が、互いに手に入れた獲物を持ち合い交換する。
協定を結ぶときも、問題が発生したときも、代表者がここに集まり協議を行う。
ここは、全ての集落が共存するための場所となった。



そして、牢も残されていた。
生き残ったエルフ達は、全てこの牢に閉じ込められた。
そしてそれから、何もされていない。

「だ、れ、か………」

何もされていない。
何者もやってこない。
食事も与えられない。

「こん、なの………いやぁ………」

だれも関心を持たない。
話題にも上げない。
どうでもいい、と思っている。

「せめ、て………誇りある、死をぉ………」



ただ時間だけが、彼女達を滅ぼしていった。
その日、最後に残った王が死んだ。
10/07/14 22:33更新 / 斬島

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