連載小説
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祭りの終わり
拗ねるノイシェを宥め賺して、レイノルズ亭へと向かう。
レイノルズおじさんが暇そうだったら、今回の話をして、そうでなければとりあえずの解決祝い、ということで一杯呑もう、ということになったのだ。

たどり着いたレイノルズ亭がやけに静かだな、と思いながら戸をあけると、
そこでは飲んだくれ共が眠りこけていた。
ただひとり、店主たる男、ソロン・レイノルズを除いて。

「おぉ!ルベルの小僧じゃねぇか!
 今回の祭りにはずいぶんと遅い参加だなぁ。」

どうやら、情報収集に訪れていたことは気づかれてなかったらしい。

「えぇ…ちょっと、いろいろありまして。
 今は、お時間大丈夫ですか?ちょっと、お話ししたいことがあるのですが。」
「あぁ。何の問題もねぇよ。
 そこの連中はあと数時間は蹴られたって目を覚まさねぇだろうからな。」
「それじゃあ、お邪魔しますね。
 じゃあ、皆、順番に入っt」
「レイノルズおじさーん!久しぶりー!」
「お、ノイシェの嬢ちゃんか。久しぶりだな。相変わらず元気そうで何よりだ。」
「おはようございます。レイノルズおじさん。」
「あぁ、おはよう。イルファちゃん。相変わらずお袋さん譲りの別嬪だねぇ」
「お久しぶりです。ソロン卿。」
「あんたは…ソフィアか?久しぶりだなぁ!
 あんたが来る、ってことはもしかして…あの馬鹿がまたなんかやらかしたか?」
「えぇ。まぁ。ですが、それは、また後ほどじっくりと。」
「おう。任せとけ。」

ひと通り、紹介が終わる。
そして、最後の一人はもちろん

「…おはようございます。レイノルズさん」
「んん?あれ、イルファちゃんはさっき…あれ、二人いる?
 どういう事だ?」
「えっと…私は、その…」
「あの、レイノルズおじさん」
「どういう事だ、ルベル。説明してくれるんだよな?」
「詳しくは、中で。
 ただ、先に言っておきますと、彼女は…その…ドッペルゲンガー…なんです」
「ドッペルゲンガー…ってぇと、アレか。全く同じ姿形をしたもう一人の自分で、出会うと死んじまう、とかいう?」
「まぁ、それに近い何かです。もっとも、危害を加えたりとかはないので安心してください。」
「あー…うん…そう、なのか。
 ま、そのあたりも含めてじっくりと説明してもらうからな、ルベル。」
「私もまだちゃんと説明してもらってないんだからね!ちゃんと教えてよ、ルベルお兄ちゃん!」

事情を知らない二人に突っつかれる。
今回の事件の内容が話されるのは、これで三度目。そして、きっと、最後となるだろう。
なら、今回は、俺が語ることにしよう。
話が急転した理由は、俺の失恋によるものだったのだから。




………………………終わった。
話も、俺の精神力も。
俺が失恋した件や、ドッペルと暮らしていた件では、笑い転げられるだけならまだしも、いろいろと心に突き刺されるセリフを言われるし、イーヴル伯による脅迫やら、何やかやの件になると、不出来な甥を殺処分しようとするレイノルズおじさんを抑えるのに四苦八苦することになるし。
一番大変だったんじゃないかと思う。

すべての話が終わってから、

「本当に、申し訳ない!うちの馬鹿のせいで、皆には大変な思いをさせちまって…!」

漢、レイノルズの土下座である。
気持ちはわかるが、されたほうが恐縮してしまう。

「いいですよ、レイノルズおじさん。
 幸い、誰も大きな怪我は結果として追ってないんですから。
 お願いですから頭を上げてください。こっちが恐縮してしまいます。
 そのかわり、イーヴル伯をこってりと叱ってやってください。それと、今日の宴会の代金も持ってくださると嬉しいです。」

さりげにちゃっかりしているイルファだった。

「おうよ!もちろんだ!あの馬鹿には、生きてることを後悔するくらい、こってりと罰を加えてやるともさ!
 さ、じゃああんなヤツのことは忘れ…ることは、出来ないだろうが、じゃんじゃん、飲み食いしてくれ」

などとおじさんも言っている。
きっと、おじさんの中には大きな罪悪感が巣食っているんだろう。俺達と同じように。
ただ、それを赦してくれたイルファに見せるわけにはいかない。だから…

「それはそうと、イルファちゃんは、もう傷は大丈夫なのかい?」
「ええ。大丈夫です。ドッペルさんが何とかしてくれたそうなのですが…」
「へぇ。じゃあ、ドッペルゲンガーの嬢ちゃんは、イルファちゃんの命の恩人、ってわけか。ありがとな。」
「いえ、イルファさんに怪我をさせてしまった責任の一部は、私にもあるんですから気にしないで下さい。」
「あぁ…そう、だったな。まぁ、俺なんぞが言えたセリフじゃあ無いんだが、あんまり気にしすぎないほうがいいと思うぜ?
 そもそも悪いのはあの豚だからな。
 ところでよぉ、なんでドッペルの嬢ちゃんにイルファちゃんの傷が治せたんだ?
 ドッペルゲンガー、ってのはさっき聞いた限りじゃ、高度な回復魔術を使えるような種族じゃねぇんだろ?」

…?そういえば、たしかに気にしたことはなかった。
これまでの説明によれば、あくまで対象となった人物の能力が基礎であって、そんなに高度な魔術を有しているような話は聞いていない。

「それは、私たちの特殊能力、のようなもので…叉の機会に、お話ししますね。」
「へーえ…確かに、そんな能力があってもおかしくはないか。記憶を読み取って変身できるくらいだしな。
 まぁ、気が向いたら話してくれや。」

「じゃあ、宴会といきますか!」
「では、私は、これで。」
「え、ソフィアさん、帰ってしまわれるんですか?」
「ああ。帝都に報告にもいかないといけないしな。」
「ソフィアよ。ちったあ付きあってけって。
 お前も、活躍してくれたみたいじゃねぇか。だからお礼だと思って、な?」
「ですが…ソロン卿、」
「今は、ただのソロン・レイノルズだ。
 若隠居でも何でもねぇよ。
 で、ただの酒場の主が、個人としてのお前、ソフィアを酒に誘ってるんだ。ダメか?」
「そんなことを言ってると、奥さんに叱られますよ?」
「おまえさんのことならアイツだって許してくれるさ。
 で、ダメか?」
「分かりました…いえ、こういうべき、なのでしょうね。
 わかった。付きあわせてもらうよ、レイノルズ。」
「おうさ!」

それからの記憶はあまり確かなものじゃない。
ただ、飲んで、喋って、笑って、食べた。
歌も歌ったかもしれないし、踊りも踊ったんだろう。

やがて、眠りこけていた酔っ払いたちも一人、また一人と宴会に加わる。
同じ人物が二人いようが関係ない。
共に歌い、共に笑い、そして、共に飲むのならそれだけで十分。
そうして彼らは本当に楽しい、降臨祭の最終日を、過ごしたのだった。
11/04/25 22:12更新 / 榊の樹
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■作者メッセージ
かくして、祭りは終焉を迎えた。

人々は日常へと帰り

鏡像による幻想は、終幕を迎える。

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