連載小説
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降臨祭の日
降臨祭初日、朝一番にイルファを送り出す。当然、ノイシェへのお土産を渡すことも忘れない。
ローゼンベルトのおじさん…つまりは、イルファとノイシェのお父さん直伝のレシピで作ったクッキーだ。
なんでも、ローゼンベルトの男にしか伝えられない秘伝のレシピなんだそうだ。
なんでそんなレシピを俺が、って問題はあるんだが、まぁ、おじさんに先見の明があった、ということにしておこう。

家へと戻り、ベッドに身を投げ出す。
友人から、飲み会の誘いは来ていたのだが、今日は行く気分になれなかった。
どうせ降臨祭期間中はずっと飲んだくれているのだろうから、いつ行っても変わらないだろうし。

そんなこんなで、一人ぼっちの降臨祭初日は終わろうとしていた。
現に、日はもう沈み、遠いところから酔っ払いたちの喧騒が聞こえてくる。

ところが、そんな中、我が家の戸を叩く音が聞こえた。
どうせ、引きこもってる俺を引きずり出しに来た友人だろう、と思ってドアを開けると、そこには…

「帰ってきちゃいました。」

イルファが、居た。

「あれ、お前…ノイシェのところに行ったんじゃ…?」
「ええ。行ってきたわ。
 ただ、ノイシェにあなたの話をしていたら顔色を変えて、
【ルベルお兄ちゃんのところに行ってあげてー!】
 なんて、言われちゃって…」

なるほど。ノイシェならあり得る話だ。
こんな天然で、人に心配させまいと隠し事をする姉の妹なのだ。
自然と鋭くもなろうというもの。そんなよく出来た妹に感謝しつつ。俺はある提案をすることにした。

「なぁ、もう一回、飲みに行かないか…?」
「ええ。喜んで。
 …と、言いたいところだけど、今日は酒場にいる人も多いでしょうし、ルベルの家で飲まない?」
「ん?別に俺達は幼馴染でもあるんだし、一緒に顔出すくらい、なんてことないだろ?」
「うん。でも……何か、嫌な予感がするの。」
「そう…なのか?」
「うん…あまり、はっきりとは、しないんだけど。」

イルファの嫌な予感はよく当たる。
俺の親父が死んだ時も、イルファの父さんが死んだ時も、イルファのその予感の御蔭で、最期に立ち会えたのだ。
だから俺は、信じることにした。

「あぁ、わかったよ。お前がそういうなら、今日の酒場は鬼門みたいだ。
 おとなしく、家で飲むことにしようか」
「ごめんなさい…せっかくの、降臨祭なのに。」
「構うもんか。そのお陰で、まだ来てない不幸を未然に防げるものなら安いものさ」

そう言ってから、俺はイルファを連れて露天へと向かう。
こんな期間だから、つまみや酒なんかの露天は当然のごとく終日営業だし、丁度いい。
もちろん、つまみなら自分で作ることもできるが、プロの作ったものにはかなわない。
そして、たっぷりと酒とつまみ、そして食材の購入を終え、さて、家に帰ろうか、といった、その時、
イルファが急に立ち止まった。

「おい、急にどうしたんだ?」

イルファの視線を追う。
するとそこには…この辺り一帯の領主、イーヴル伯が、お供を連れて歩いていた。

「いえ、なんでもないわ。
 ただ、ちょっと気になっただけ。」
「気になった、って、伯爵様のことか?」
「ええ、そう…そういう事に、なるわね。
 なんでこんなところに居たのかしら。」
「んー…まぁ、降臨祭だしなぁ。
 伯爵様といえども、羽を伸ばしたかったのかも知らん。」
「そう…よね。」

いまいちイルファは納得がいってない様子だが、きっとそんなところだろう。
こっそりお忍びで、城下の祭りに参加する王や、貴族の話はよく聞くし。
こんな時間にいる、ってのもお忍びだからかも、なんて思うと納得がいった。

買出しを終えて、家に帰った後は、当然のごとく飲めや歌えやの大騒ぎ。
もちろん二人っきりなので、皆で集まった時ほどの騒がしさはないものの、楽しさは同じぐらいか、それ以上だった。
なにより、酒によってほんのりと赤くなったイルファの顔を見ているだけで、俺は幸せだったのだ。

降臨祭二日目の深夜。
さすがにふたりとも、騒ぎ疲れたので、一旦休んで、日が出たらまた飲み直そう、ということにした。
実に駄目人間まっしぐらな状態だが、今は降臨祭。何でもありなのだ。

明日はどんな風にして、イルファをからかおうか考えながら、ウトウトしていると、ドアを乱暴に叩く音が聞こえた。
こんどこそ、友人の酔っぱらいの襲撃だろう、と思いながら迷惑な訪問者を出迎えに出る。
するとそこに倒れていた姿は見間違えようもない。

「イル……ファ……?」

その端正な顔の半分が焼け爛れ、胸には大きな穴の開いた
イルファ・ローゼンベルトその人だった。
11/04/24 14:32更新 / 榊の樹
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■作者メッセージ
一体なにが、その運命を招いたのか。
好意と好意と好意と悪意。

輪から外れているのは誰?

あたかも輪の中に入っているかのようにしているのは、誰?

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