連載小説
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「彼女」の正体
それから後は、自然と体が動いた。
外に倒れていたイルファを中へと運び、ベッドに身を横たえ、出来る限りの応急処置を施す。
とは言っても、出来ることなんて限られている。
一刻も早く、教会へとつれていくことが先決だった。
二人のイルファが一体なんなのか、なんて話はその後のことだ。
と思っていた。思っていたのだが。

「……それ、一体どういうこと?」

俺の家に泊まっていた方のイルファに見つかってしまった。

「俺にも分かんねぇよ!ただ、どっちのイルファが本物か、なんてことよりも、助けることが先決だとおも」
「そうじゃなくて!いったいどういう流れで、ここに本物のイルファが来たわけ?」
「本物…?ってことは、お前が…?」
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「あぁ、そうだったな。
 急にドアが叩かれて、外に出てみたら、イルファがその状態で、」
「わかったわ。より詳細な事情は本物が起きてからにするとして…」
「あぁ、そのとおりだ。だから一刻も早く教会に…!」
「もう一つだけ、あなたに聞いておきたい、とても重要なことがあるわ。
 イルファの、命に関わる問題よ。」
「なんだよ。手短に頼む。今は一秒一秒が惜しいんだからな。」
「ええ。わかってるわ。
 いい?落ち着いて聞いてね。
 イルファは、きっと、その傷だと教会へ行っても無駄だと思う。」
「な!
 お前、よくもそんな…!」
「いいから聞きなさい!
 私は、ひとつだけ、彼女を助ける方法を持っているわ。
 ただ…その前に、聞いておきたいの。あなたは、イルファがどう変わってしまったとしても、愛すことができるかしら?」

イルファが、どうなっても愛せるか…?
そんなことは、決まってる。考えるまでもない。

「あぁ。もちろんだ。イルファがイルファである限り、俺は愛す。
 だから…だから、彼女を助ける手立てがあるなら…っ!」
「……わかったわ。驚くかもしれないけど、手は出さないでね…!
我は命ず。
我が命に従いて、微睡みの中より目覚めよ…


彼女がそう唱えた瞬間、苦しそうにしているイルファが、そのまま、起き上がった。
そして、目を、俺へ向け、目の前のイルファに向けた。
しばし、二人のイルファが見つめ合う。

「あな…たは…?」
「今は、考えなくていいわ。ただ、ありのままを、受け入れなさい。」
「」

元気な方のイルファがそういった瞬間、ベッドの上のイルファは、安心したように、倒れた。

「何とかなった、わね。まだ起き上がれる程度には体力が残ってたのが幸いしたわね。」
「何とかなった、って、どういう事だよ!」
「どういう事、と言われても困るわ。本物のイルファを、見てもらえるかしら?」

その声に従って、ベッドの上のイルファの方を見てみると…
火傷の痕が、みるみるうちに治っていった。

「これは、一体…」
「はぁ…はぁ…」
「お前が、やったのか…?
 いや、それよりも、お前まで息苦しそうにして、どうしたんだよ?」
「ちょっと…ね。
 思った…よりも、傷がひどくて…予想以上に、魔力が持ってかれてる、ってところかしら…」
「そう、か…何か、なにか俺にできることはないのか?」

魔力とは、ある種の生命力のようなものである。
それ故、あまり一度に使い過ぎると、命を失ってしまうこともあるのだ。

「そう…ね。出来ることは、あるけど…
 その前に、私の正体を知らないと、駄目、でしょうね…」
「いや、そんなモノは後で構わない。だから…」
「聞いて。多分、私の話を聞いてからでないと納得しないでしょうから。
 私は…そう。ドッペルゲンガーよ。」
「ドッペル…ゲンガー…?」

っていうとアレだろうか。この世の何処かにいて、自分のドッペルゲンガーを見ると死んでしまう、とかいう。

「あなたが思ってるイメージは、きっと教会が流布した物、だと思うわ…
 いい?私はたしかに魔物よ。でも、人に危害を加えたりはしないわ…
 そして、今の魔物の性質として、男性の精子を、魔力に変えることができるの」
「はぁ…まぁ、いまいちわからないが、細かいことはあとで聞くとして、結局俺は何をすればいいんだ?」
「その…精子を、飲ませてほしいの……」
「な!?…えーーと…本気、なんだよな…?」
「こんな時に、冗談を言っている余裕なんてないわ。」
「本当にそれで、二人が助かるんだな?」
「ええ。そうよ。
 魔力さえ補充出来れば、後はレイライン…魔力線を伝って、彼女に魔力を送ることで救える。」
「そっか…なら、気は進まないが仕方ない。っていうのも失礼かもしれないが、もっとちゃんとしたシチュエーションでしたかったからなぁ。」
「信じて…くれるの?」
「もちろんだ。」
「そう…ありがとう。
 じゃあ、いただきます。」
「へっ?」

途端、押し倒される。
どうやら彼女には、もう俺の息子しか視界に入っていないらしい。

「え!ちょっとまっ…」
「大丈夫よ。あなたの童貞と、私の処女はちゃんと守るから。」

いや。そういう問題じゃなくって…!

抗議も虚しく、息子は彼女の胸で挟み込まれる。
柔らかくて、とても気持ちいい。
何時までも味わっていたくなるような、優しく、包みこむような甘い快楽。
だがそれは、新たなる刺激でいとも簡単に決壊することとなった。

ちゅぷっ…ちゅむ…
れろれろっ…

俗に言う、フェラである。
ここ2週間ほど、ずっと溜め込んでいた俺が、その暴力的なまでの快楽に耐えられるはずもなく……

じつにあっけなく、彼女の口の中へと、白濁を吐き出したのだった。

ゆっくりと、喉を鳴らしながら嚥下し終わった彼女から、一言。

「凄い量と濃度、そして速度だったわね。」
「仕方ないだろ。ここしばらく、満足に自慰も出来なかったんだから。」
「あぁ、そっか。私がいたから、出来なかったのね。」

……墓穴をほったようだ。
それはともかくとして。

「もう、調子はいいのか。」
「え、もっとしたいの?」

何を言ってるのか。この魔物は。
アレか。実際、淫魔みたいなものなのか。

「そうじゃなくてだな。色々、聞いておきたいことがあるんだよ」
「そっか…まぁ、そうよね。ルベルは知らなかったことばっかりだもんね。
 いいわ。私が全部話してあげる…」
11/04/24 14:32更新 / 榊の樹
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■作者メッセージ
偽物の存在によって本物が傷つき
偽物の存在によって本物が救われる。

ならば、一体誰が、その偽物を救うのだろうか

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