連載小説
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第一譚・『ゴースト + 青年 =出会いの日』


「魔銃幻想譚」


独立小国家「エスパニゲート」
多くの観光客と,多くの商店が立ち並ぶ,世界有数の繁栄を見せる国。
その多くの文化が顔を見せる多様性と,それでいての治安の安定,独立した国としての在り方は,他国を圧倒するものであった。
だが,これは人のみで作られているものではない。
ここは,魔物たちが人と共に生計をたて,共に暮らすこの世界では珍しい,本当の意味での異種共存を果たす国である。
この国で守る掟はただ一つ。
種族の差は,無いということ。
「来るもの拒まず,去るもの追わず。この中では生きとし生けるものすべてが同等。種族の差は,ここにもって皆無である。」
中立国家を築くこの国では,「教団」も「魔王」もない,平和と栄華だけが時を刻むところだった。
・・・だが,そんな幸せは一夜にして奪われた。
「幻想教団」の者たちが,世界からこの国を消した。
太陽が完全に隠れ闇がその国を覆う中,そこは火の海になった。
「教団による偉大な制裁」・・・後に,━カルト・マグナ━と呼ばれる出来事がこれである。
国の住民は,その圧倒的な力の前に,ただただ逃げるしかなかった。
人も,魔物も,そこに住む多くの人々が,住む場所を失った。
夢のような世界は,そこで闇へと散ったのだった・・・。


それから一月後のことである。
ある青年が,その地を踏んだ。



第一譚『ゴースト+青年=出会いの日』



「・・・あじぃ〜。」

草木も無い道なき道を,ただひたすら歩いていた。
水が尽きた,喉が乾いた。
食料が尽きた,腹が減った。
眠い,ここ何日かは空腹とこの気候による暑さで寝ていない。
身体を預けられるそれなりの木の棒を片手に,ヨロヨロした足つきで前へ進む。
腰にぶら下がっている黒い塊が,無性に重く感じた。

「一体,いつまで歩けば次の街に着くんだ・・・」

半分意識が朦朧としながら,俺ことレイン・エリッシュは,さらさらした砂を踏みしめていた。

ことの始まりは約一ヶ月前に遡る。
俺はある小さな村の狩人で、自慢の腕と小さな家で慎ましく暮らしていた。
両親は小さいときに無くし、それからはずっと一人。だが村の人々は皆やさしく、なんとか生活していくことが出来た。
物心付くときからずっと,朝起きたら森へ入り狩をする,日が沈めば帰ってくる,といった生活が当たり前だった。
その日暮らしな生活が,決して楽な訳ではなかったが,皆で肩を寄せ合い,それぞれに平和な日々が訪れていた。
だが、ある夜。
村に火が放たれた。教団-カルト-の手によって…。
一瞬で、火の海になった。
俺も、村人も、一心不乱に逃げた。
家も、財産も、平和も。一夜にしてすべて焼き尽くされた。
残された俺たちは、ただその炎が燃え盛る様を、見ていることしかできなかった。
そして今に至る。
そういうワケで、すべてを失くした俺は偶々腰に下げていた狩猟兼護身用の愛銃,それだけを持って旅をするハメになった。
行く当ても無い俺は,とりあえず町を目指そうと歩いている訳なのだが…。

「・・・水飲みてぇ」

どこまで行っても町も村もなく、こうして飢えている。
まずい。
そろそろ体力すら限界だ。
歩こうにも,足に力が入らない。

「うがっ」

そのまま足がもつれて,俺はドサッとその場に倒れこんだ。

「・・・あー!俺の最期がこんな終わり方だなんてやだ・・・!」

と,力なき声で叫んでみたものの,喉がカラカラで音にならない。
太陽はそれでも動かなくなった俺の体から水分を奪う。
死ねこのやろう。空気読め。

「・・ス・・t」

・・・ん?
・・・あぁ,やばい。
エンジェルが迎えに来ちまったか・・・?
魔物のお世話になんかなりたくはないが…幻聴が聞こえるよ・・・。
あぁ,まるで小川のせせらぎのようだ・・・。
せめて死ぬ前に水が飲みたかったぁ・・・。

・・・水?

「みずっ!?」

俺復活。火事場の糞力って奴だ。
した。水の・・・川の,流れる音。
今ある全力で走る。
だがない。
ないない,どこにもない!?
嘘,夢!?

「ふざけんなぁぁぁ!!」

こうなったときの俺はどうにも止められない!
ドサッまたこけた。
そして今ので使い切った。
・・・ゴメンナサイ,モウウゴケマセン。
おとーさん,おかーさん,今そっちに行くからね・・・

「・・・ンッ・・ッ・・」

あぁ,おかーさま,迎えに来てくれたのですね・・・。
と,力を抜いた瞬間(とき)・・・
ブシャァァッァァァァ。

「ぬおっ!?」

顔が全力で濡れた。
コレは・・・

「水だ!」

頭の重さで地面に穴が開いたのだろう。
そこから次々に水が溢れてきた。

「いっただき!!!」

マジで地獄に仏だ。
手で丁寧にすくって,一口ずつ口に運ぶが,面倒になって結局水に頭つけて飲んだ。

「っぷはぁ!生き返る!!」

ゆうに三日ぶりの水。
俺、今更だがよく死ななかったな。

「あー、生き返った!」

その場にごろんっと横になる。
水を飲んで少しは体力が戻ってきた。
と同時に体の疲れを一気に感じるようにもなった。
少し休もう。

「しっかしまぁ…」

寝転んだまま首を回す。
どこを見ても砂、砂、砂。

「おっかしいな…こっちに来れば町があるって聞いてたんだけどな…。

幼いころ、村の老人たちが話してくれた。
西に三週間も歩けば、大きな町がある…。

「一ヶ月以上歩いても、町どころか人のカケラさえねぇ…」

村の森を囲んでた高い崖越えたら砂漠だなんて、こうして村を出るまで知らなかった。
井の中の蛙、大海を知らず…。
ん?
今,何か見えた・・・?

「っ!」

起き上がって目を凝らす。
砂の先、ポツンと黒い点のようなものが見える。

「なんかあるぞこりゃ!」

旅立ってようやく、街に着けそうな気がした。


そしてたどり着いた先にあったものは,俺の希望を一気にどん底まで落とした。

「そういうことか…」

まぁあることにはあったのだ。
これでは見つかるはずがない。
街なんて物は、跡形もなく燃やし尽くされていた…。
信じられなかった。
目の前の光景が。

「ここにも・・・カルト・マグナの影響が・・・。」

俺はその残骸の中を歩いた。
良く見れば、それらしい物も見つけられた。
家のレンガ,屋根,壊された石造の手や足。辛うじて燃やされなかった屍を、俺は踏みしめていく。
人の死骸が一個も無かっただけマシであろう。
そんなものがあったら俺はビビッて小便漏らしちまう。

「無残だね・・・」

落胆を感じた,それでも俺は前に進んだ。

やがて,ふと視界にぽつんと佇む二本の建造物が入った。
近づいてみると,それはこの国の末路を象ったものだった。
小高い丘の前に,聳え立つ石造りの門。
唯一焼け残った,王宮の面影。

(これ,だけか。)

そっと,柱に手を添える。
たったそれだけのことなのに,それは欠けた。
手には,黒くススが付く。
こいつももうじき限界だ。
さっさとこんな場所はおさらばしよう。
これ以上いても良いことなんか無い。
まったく,とんだ無駄骨だ・・・



・・・だから引き返そうと身を翻したのに,

「・・・ッ・・スン・・・お母様・・・お父様ぁ・・・」

・・・本当に良い事なんて無い。
やばいよ。
夕日に照らされて,目の前でなんか女の子が泣いていますよ。
来た時は居なかったのに…
なんかすごく綺麗な服着てるし。
半透明だけど。
めっちゃ向こうが透けてるけど。

「スン・・ズ・・・・」

あ。
目が合った。
顔立ちも綺麗な子だった。
ずっと泣いていたからか,目は真っ赤だけど。

「・・・ ・・・」

俺は少女の横を,出来るだけ自然にすり抜けた。
見ることが出来るのばれると厄介だから。
少女はまだ泣いている。
選択肢は三つ。

一,逃げる
二,ほっとく
三,見なかったことにする。

・・・ん?
泣いてる女の子は見捨てるもんじゃない?
・・・臨機応変だよ少年。
相手が悪い,相手が。
見るから、明らかに人じゃない。魔物だ。それも関わっちゃいけないタイプの。
運よく,彼女はまだ幼生…つまり魔物に成りたてみたいで,自分の事も良くわかってないだろう。
ならさっさと逃げてしまえばいいのさ。
・・・悪く思うな少年。

ザッザッザッ。
シクシクシク。

「・・・ ・・・」

ザザザザ。
シクシクシクシク。

・・・なんでだろ。
泣き声が一向に遠くならないんですが。
てかむしろ近くなっているような!?

「シクシク・・・」

ぴとっ

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うわぁ!」

逃げる,走る,俺全力ダッシュ。
嫌だ。
嫌だ嫌だ。
『ゴースト』になんか憑かれたくねぇ!
てかぴとってなんだ!?
走る走る。

気がつけば,あの川まで戻ってきていた。
ばしゃばしゃとオアシスを蹴っ飛ばして、その場にへたり込む。

「はぁはぁ,なんとか・・・まいたか?」

気配は消え、振り向いてもその姿は無い。
ほっと息をついたその時━

(無駄ですよ、もう憑いちゃいましたから。)

「うぎゃぁぁぁぁ!?」

自分の中から声がした。


***********************************


みんなみんな,奪われた。
あたし達は何も悪くないのに。
みんなみんな、逃げていった。
愛するこの国を捨てて…。

「待って!」

叫びも、助けも、届かない。
業火の海の中、私一人を置いて・・・。

気がつくと,私は一人ぼっちだった。
どれくらい気がつかなかったのかはわからない。
ただ,体が妙に軽くて,生きている実感が湧かなかったのを覚えている。
だから,私が自分を「ゴースト」だと認識するのに,そんなに時間はかからなかった。
けれど,変わり果ててしまった「エスパニゲート」だけは,今でも現実味が無い。

そこはいつでも賑やかだった。
私は,毎日がお祭りなんじゃないかと思った。
たくさんの魔物と人間と,彼等の絶え間ない笑顔。
それを見ているだけで,私は幸せだった。
いつまでも,いつまでも,こんな平和が続くと思った。

真っ先に殺されたのは父だった。
矢で,心臓を一突き。
即死だった。
次は母だった。
私を庇い,必死で逃げる母をしつこく追いまわし,切り捨てた。
最後に私だった。
私も逃げた。
全力で,誰にも負けないように。
そして,私は逃げ切った。
だけど,助かりはしなかった。
お屋敷に火が付けられた。
本来ありえないほどの火を,魔術が灯した。
もう,どこにも逃げられない。
迫り来る炎の中,私は静かに息を引き取った・・・。

いま思えば,きっと未練なんて無かった。
だけれど,私はゴーストとなってここにいる。
悲しかった。
誰もいないことが。私の居場所がなくなったことが。
悔しかった。
姿違えど,今生きていることが。何も出来ないことが。
憎かった。
私から,すべてを奪っていったアイツ等が・・・。
だから泣いた。
昼も夜も,涙が乾いても,泣き続けた。
結局,何も変わらなかった。
泣き疲れもした。
でも,悲しさは涙をぬぐってはくれなかった。
それでも,泣きながら考えて,変わったことがある。
私はゴーストとして今を生きている。
本来死ぬべきだった私が,今こうして生きているのは,きっとなにかやるべきことがあるからだろう。
ひょっとしたら,それは命を奪うことなのかもしれないが・・・。
わたしはとりあえず,前を向いて歩くことに決めた。
まだ,全然涙が止まってくれないけど・・・。
そんなときだった。
私の前に,ある男が現れた・・・


***********************************


そういうわけで,俺はゴーストに憑かれた。
なにがどういう訳なのか俺自身わけわかんねーので,聞き返すのはタブーであるコンチクショウ。
やはりぴとっか、ぴとっなのか!?
疲れきった俺はその場で倒れた。
そのときは,もしかしたら夢の中かとも思ったが,頭からひょっこり顔が現れて,

(大丈夫ですか?)

と半透明の少女が問いかけてくるので(しかも声は自分の中から),俺は夢の中に帰りたかった。
現実は時としてとても残酷である。
どうやら,ゴーストの女の子に憑かれたことは真実であるらしい。

(…さっきからそう言ってますが…。)

そしてその彼女と,今は向かい合わせで座っている。
逃げたい。
ものすごく逃げたい。

(ダメですよ、もう逃げられませんし、逃しません。)

…いったいなんなんだこの娘は。

(はい、私はゴーストの…)

「なんで俺の考えがわかるんだ!」

ビクッと震えて,彼女が答える。

(ご,ゴメンなさいっ…でも、ゴーストの能力の一種のようなんです。)

さっきからずっとこの調子である。
よく分からないが、彼女は俺の考えてることがわかるらしい。
えぇ、聞いたことはありますよ、ありますとも!
でもさ、俺だけ読まれるってのどうよ!
気分悪くない!?

(すいません…私が未熟なのか、うまく繋がることが出来なくて…)

いいえ、結構です。
これっぽちも知りたくありませんし。
大体…

(こんなことになってしまって…本当にごめんなさい・・・)

「話聞けよ(泣)」

とりあえず、そのさっきから下がったままの頭を上げてもらいたい。
いくら魔物とはいえ、女の子…しかもイイトコのお嬢様(みたいな人)に土下座をさせるのは、男としてもどうかと…

(でも…私、すごく迷惑を…)

「うん、迷惑」

はっきりと、大きな声で断言する。
途端、ぶわっと彼女の目頭が…

(うぅ…やっぱり私は…)

そっぽ向いて、いじけてのの字の書き取り開始。
まわりを黒いオーラがまとい出してます。
…まさかこのまま悪霊なんかにならないよね?

「まぁ,お前は悪くなくもないから…」

もはやフォローでもなんでもない。

(グス…本当?)

うおっ
そんなうるうるした瞳で見つめられたら…

「あぁ、心の底から自分の運命を呪うから。」

特になんの感情も沸いてこない…俺はもの凄く冷たい人。
それを聞いた彼女は,

(うわーん!やっぱり私はいけない子なんだぁ!!)

もの凄く泣き虫だ。



「・・・で,少しは落ち着いたか?」

コクンとうなずく。
あれから数時間。
日が暮れるまでずっと泣き続けた。
泣きつかれた目をそれ以上に真っ赤にしながら,今度は街の燃えカスを寄せ集めた薪を囲んで,向かい合って座っている。ナンマンダブ。
まったく,泣きたいのはこっちだっつーの。
まぁ,俺に引け目を感じてのことなのだろうが・・・
てかゴーストがそんなんでいいのか?

(・・・本当に・・・ゴメンナサイ・・・迷惑をかけるつもりはなかったんです・・・)

泣き疲れて,声が枯れている。
それもあってか,ものすごく申し訳ないという気持ちが伝わってくる。
さっきから謝ってばかりだ。

(でも・・・あぁしないと・・・私,魔力が尽きて消えてしまうから・・・)

消える・・・つまりは死んでしまうということだ。

(私・・・怖くてっ・・・二度も・・・死ぬのがっ・・・・!)

ぶわっ。
あぁ,また目頭が・・・

(だから・・・だからっ!)

「あーあーはいはい!わかったから!もう泣くなって!!」

溜まった悲しみは,今にもその瞳から溢れんばかり。
きっとこいつは,後半年泣けるに違いない。
だが,これまでにないほどの”死”の恐怖を味わってきたのだ。
それも,どうやら二回も・・・
それを,涙一つ流さずに堪えろ,というのはいくらなんでも無理がありすぎる。
ここまで必死になって訴えれるだけ,心が生きている証拠である。

「別にあんたが悪いわけじゃない。仕方なかったんだろ?ならしょうがないさ。」

出来るだけ明るく言ってやる。
まぁ,彼女が俺に憑いている以上,どんな取り繕いをしたところで無駄なのだけれど・・・。
人並み以下の人生をまだかじった程度しか生きていない俺だが,人が見れない世界を見てきた,少し余計な経験がある。
ここにこうして,まだとり憑いた人間ともまともに繋がれないような不完全な状態・・・幼生のゴーストと,対話をしていることがそれの何よりの証・・・。

「それに,本当はお互い何も分からないままで終わる可能性もあったのに,”この力”が邪魔しちまったんだ。それは俺に非がある。」

そう,彼女にとっても運が悪かった。
一時的な燃料補給(食事)のつもりが,こんなことになってしまったのだから。

(その・・・さっきからおっしゃっている"レイガン"というものですか?)

「そう,それ。」

霊眼。
すなわち幽霊が見える眼。もっと詳しくいうと、魂を直接映し出す水晶体を指す。
人も動植物も、物も、この世にある物にはすべて魂が宿る。
俺はそれを、視覚的感覚でとらえられる。幼いときからの常識だった。
それが特別なものだと知ったのは、つい最近な気がする。

(だから,私ですら見えるんですね・・・)

「あぁ,大体魂の宿っているものならなんでも見える。」

例えどんな形をしていても。
っとそこまで聞いて、とても不審そうな表情のゴーストさん。
・・・あれ,変なこと言った?
それを感じ取って,

(…私、昔から幽霊とか信じないので…)

こいつは自分の立場を分かっていないのだろうか?
どの口がそんな事を言うんだ,どの口が。

「・・・別に魔物でゴーストがいるんだから、幽霊だって不思議じゃないだろ。」

(それはそうなのかもしれませんが・・・)

まぁ確かに,同じ魂の欠片でも,魔力が関わって『魔物』となっているものと,現実にほぼ存在しない『幽霊』とでは,根本的に大きく違う。
信じられないのもわけない。
とは言っても,幼生であるこいつはもっとも幽霊に近い存在なのだけれど・・・。

「・・・ところで,いったいお前はなんなんだよ?」

(ほぇ?)

考えてみれば,さっきからこいつ自身ことは何も聞いていない。
ゴーストだってことは見て分かっただけだし。
なんか器用に砂のお城とか作ってるし。
誰だこいつ。

(えーっと,私は・・・)

彼女が言うにはこうだった。

彼女はゴーストで,名前はリーサ。
生きていた時の名前だそうだ。
ここエスパニゲートの出身で,生前の-カルト・マグナ-で両親共々死に,自分だけゴーストとして今居るのだという。

「・・・悪い,嫌なこと聞いた。」

(いえ・・・もう落ち着きましたから・・・。)

事件勃発から一ヶ月ちょい。
ここで一人,彼女はただ何かを見つめ,何かを考えるしかなかった。
きっとたくさん泣いただろう。きっとたくさん憎んだだろう。
けれど彼女はさっき,二度も死ぬのは嫌だ,といった。
親を,友達を,町を,生きる場所を失ってもなお,悪戯に与えられた命で生きたいと願った。
それは・・・いったいどれほどの未練(イキルチカラ)だっただろうか。
今の彼女の形は,人が心の底に持っている力そのものなのかもしれない・・・。

「さっきも泣いてたくせに」

半分馬鹿にして言ってやる。
とりあえず。
今の俺には何もしてやれない。
むしろ勝手にエネルギー持ってかれる俺の身にも・・・

(それは・・・そんな言い方って・・・)

・・・ってあれ,なんか頭がくらくらする・・・

(ちょっと・・・聞いてます?)

・・・今,すっげー重要なこと思い出した。
俺は・・・空腹で死にそうだったんだ・・・。

(ちょ,ちょっと大丈夫ですか!?)

何か言っているが,もう何言ってるかわからない。
俺も,ひょっとしてこのままゴーストになるんじゃなかろうか・・・。

と思って,俺の精神もそこで尽きた。
10/10/11 10:22更新 / 小雨川佑助
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下手ですみません。感想待ってます!
不定期連載なので,そこのところよろしくお願いします!

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